地下へ行くには
地図の次のページに書かれていたのは、複雑で膨大な魔術式。
「うわっ、これは…………一体何の魔術でしょう…………?」
「これは」
私は、見覚えのあるその魔術式に目を見開いていた。
これは―――――百年前、私とオーヴィット・シュヴァーベル…………あの天才魔術オタクが創った、儀式【魔術昇降機】の術式だった。
なんで、これが………奪われた?いえ、原本はたしかに燃やしたわ。じゃあ私たちの死後、誰かがこの術式を創り上げたっていうの?それか、オーヴィットが自ら王家側に渡した?
………………いえ、考えてもしょうがないわ。
この【魔術昇降機】は、大人数で行う儀式魔術である上に術式も難解。しかも必要な魔力量が尋常じゃないし、儀式に参加する人間の魔力を事前に専用の魔道具に記録しておかなくてはいけない。
手間もコストも滅茶苦茶かかる、非常にめんどくさい魔術だ。
しかし、儀式によって生み出された【昇降機】は、自らの望む場所まで上でも下でも右でも左でも、建造物、結界、聖域、全てを無視して移動する……………いわば、人間版【転移】みたいなものだ。
なるほど。物理的手段で入れない完全な密室になっていたのは、これがあったからなのね。
でも、この術式でしか入れないってことは、【転移】の使える『神の愛し子』なら楽勝ってことじゃない?
「なーんだ。意外と簡単だったわね」
「えっ!?どこがですか!?」
あ。素直な感想だったんだけど、事情がわからないミアは当然混乱するか。
「えーっとねミア。これはかくかくしかじかで…………………」
「えっ?そんなことが……………なるほど……………というか、改めてすごいですねエレノア様とオーヴィット様………………」
『面白いことになってきたのう。ほっほっほ』
〜事情を説明中です〜
「……………………ええと、つまり、【書庫】の攻略、案外簡単だったね、と………………?」
「うん、まぁ………要約するとそう、ね?」
「そうだったんですか……………」
ミアが拍子抜けしたように言う。どこか安心しているようにも見えた。
うぅ、心配かけてごめんね、ミア。
『侵入の方法は分かったんじゃろう?では、さくっと行ってはどうじゃ。ほれ、ここは……………ちと視線が気になるでな』
「確かに…………見えていないとはいえいつまでもいるのは、ちょっと忍びないです」
二人の言うことにうなずく。
この【認識阻害】には人除けの効果もあるし……………この本棚を使う職員さんの業務が滞ってしまってもいけないわね。
「じゃあ、とりあえず元の場所へ戻りましょうか………………【転移】」
ぱちん、と指を鳴らした音が空気に吸い込まれるまでには、私たちは既に北棟の入口前まで戻ってきていた。
「さて…………ここから地下室の真上、中央棟の広場まで行きましょう」
「普通に歩いていっていいんですか?」
「ええ。【転移】の発動を誰かに見られると厄介だから、『奇跡』の発動は続けるけどね」
話しながら、中央へ向かって歩き出す。
さてさて、地下には一体、何があるのかしら。




