ファウナの『奇跡』 その2
「我の内に眠りし力よ……………」
私の祈りに呼応するように、淡く輝く白金色の光が現れる。
「神に等しき力をもって、我らの姿を……………」
その光は、守るように、覆うように、包み込むように、私たちの周りに漂う。
「我らの声を、我らの存在の全てを隠せ。【認識阻害】」
光が弾けて、私たちは何か『膜』のような物に包まれた。
「さ、これでいいわね。私たちの姿は誰にも見えないし、存在も認識できないようにしたわ」
「これが『奇跡』……………すごいですね、こんな魔法見たことないです」
『さすが、『神の愛し子』様じゃのう。ほっほっほっ』
「そんなに褒められたものじゃないわよ。『力』自体は借り物だし………ま、とにかく行きましょう。準備はいいわね?」
「は、はいっ」
『どうなるのか楽しみじゃ』
ミアが緊張したように、古書さんは鷹揚に応える。
………………………………古書さんって意外と図太……………いえ、おおらか!おおらか、なのね。ええ、ちょっと意外だったわ。
言い換えの重要性を頭の隅で考えつつ、脳裏に風景を思い浮かべる。
描き出すのは、先ほど視た最上階の光景。具体的にイメージして………
「【転移】」
パチン、と指を鳴らすと同時に、景色が真っ白になり、次の瞬間――――
私たちは既に北棟の最上階、警備の管理室にいた。
「わ、あ…………」
突然変わった景色にミアが声をもらす。
部屋の中には先ほども視た通り、たくさんの魔術液晶画面や記録書類、そして職員。
しかし、その誰も私たちには気が付かない。
「声を出しても大丈夫よ、ミア。どんな魔道具でも私たちを認識できないわ」
「そ、そうなんですか?……………私、まるで透明人間になったみたいですね」
「ふふっ、そうかもね」
ミアの可愛らしい反応についつい笑みがこぼれる。
「さてさて、資料を探さないと」
「資料……………と言いましても、かなりたくさんありますよね?」
確かに、本棚らしきものに並べられたもの、職員のデスクの上にあるもの、掲示板に張り出されたもの…………………『資料』でありそうなものはたくさんある。
「そうねぇ……………まぁ、これとかどうかしら」
すぐ近くの、地味な造りをした本棚から一冊、簡素に纏められた紙の束を取り出してみる。
中には―――――――――【書庫】の地図。
「ビンゴ」
「えぇ!?」
慌ててミアも私の手元をのぞき込む。
地上階の結界・警備について記されていたその紙をぺらりとめくれば、見覚えのある―――――建設当時から何も変わっていない―――――【書庫】の地下の見取り図があった。
「う、うわぁこれ、本物じゃないですか。ものすごい偶然……………」
「ね。でも私、昔から運だけはいいのよねぇ…………『神の愛し子』効果なのかしら」
『何にせよ、幸運じゃったのう』
改めて地図を見る。書いてあるのは警備面についてのみのようだけど…………うーん、そこまででもないわね。
てっきり、かなり卓越した【光】の魔術や結界でもあるのかと思っていたのだけど。
「こ、こんなの、無理じゃないですか」
隣で、ミアが小さく呟く。
「どうしたの、ミア」
「ファ、ファウナ様、だって、これ、こんなの…………どうやって下まで降りるんですか?」
ミアの絶望の理由が分かった。【書庫】の地下には―――――地上とつながる出入り口がないのだ。
なるほど、これは確かに無理ね……………
でも、保管する場所なのだから降りるのは何か必ず方法があるはず。
私は再び資料をめくり、次のページに視線をすべらせた。