魔宝石と入り口の結界
「ようこそお越しくださいました、ファウナ・ノア・シュヴァーベル様、ミア・テュシアー様」
そう言って頭を下げたのは、【書庫】職員の青い制服を着た男性だ。
「早速ですが本人確認のため、【鑑定】させて頂いてもよろしいでしょうか」
「ええ、構いません」
「失礼いたします」
言葉と同時に男性の目がキラリと光り、『何か』が私の体を通り抜けるような感覚がした。
【鑑定】。文字通り、正確な相手の情報を読み取る魔術。
しかし、常人には習得の難しい【無属性】のため行使できる人材は限られる…………なのに、こうもあっさり使うとは。
…………………それほど【書庫】が重要になった、ということでしょうね。
「ふむ、ご本人ですね。ではこちらをお持ちください」
渡されたのは、ぼんやりと発光する青色の魔宝石がはめ込まれたブローチだった。
魔宝石とは鉱物の一種で、魔力を溜め込める性質を持った特殊な石だ。
天然のものは溜めた魔力でぼんやりと光るくらいだが、魔術師が加工――――――つまり術式を組み込んだものは、溜め込んだ魔力を使い切るまで魔術を展開するようになる。
まぁ、最近では研究が進んで、魔術を条件発動にしたり魔力を自動補給したり出来るようになったらしいけど。
このブローチの魔宝石に組み込まれているのは『特定の結界が使用者に作用しなくなる』術式……………おそらくこれは来客用で、通れる結界と通れない結界があるのね。
当たり前だけど、このブローチじゃ地下へは行けないか……………………
「万が一、魔宝石の魔力が切れそうな場合は職員にお申し付けください。では、こちらへ」
男性の案内で城壁の門をくぐると、外から見た時の印象とは異なり、目と鼻の先にはすでに【書庫】があった。
外から見た時の印象とは異なり―――――――――――――――?
いや、違うわね。
今の、短距離だったけれど転移術式だわ。ブローチを持っていない人がくぐれば、一生出られない空間回廊に閉じ込められる仕組み………………!
やっぱり、正面から入って正解だったようね。
「この先が【書庫】になります。それではごゆっくり」
「ありがとうございます」
男性が一礼して去っていき、私は後ろにいたミアに向かって言った。
「さて、ミア。さっそく行きましょうか」
「は、はい……………ですがあの、どちらに?それに、先ほど仰っていた『案内人』というのは………………」
「こういうのはね、年上の人に話を聞くのが一番なのよ」
「………………はい?」