【書庫】の地下には……………
眼前に広がるのは白亜の城壁。
「大きいでしょう?ミアは確か、初めて来るわよね」
書庫の入口を見て、ぽかんとした表情になったミアは、思わずといった様子で呟く。
「大きすぎませんか、これ」
壁の向こうには、貴族の屋敷3つ分くらいならすっぽり収まってしまいそうな――――――宮殿が、建っていた。
「ファ、ファウナ様、こんな中から探すんですか?全てのエリアを回るだけでも半日はかかりそうですよ?…………それに、この壁に施された結界、解除どころか干渉さえできそうにないんですけど」
「あら、初見でそこまで見抜いたの?腕を上げたわね、ミア」
「ありがとうございます……………って、そういうことじゃないです!」
「ふふっ、ごめんごめん。………結論から言えば、特に問題ないわ。さっきも言ったでしょう?入り口が一番厳重だって」
「そうかも知れませんが……………でも、記録を探すのはどうなさるんですか?地下の保管室への入り口も、巧妙に隠されていると思うのですが」
ミアが不安そうな顔のまま食い下がる。
まぁ確かに、ミアの言う通りだ。
『【書庫】の地下にはヒミツの保管室があり、そこには王国のありとあらゆる情報が保管されている』―――――――というのは昔からある有名な都市伝説である。
あくまでも『都市伝説』であって、『事実』として扱われているわけではない。
入り口を誰も知らない、ヒミツの地下室。それらしい話ではあるだろう。…………そのウワサを聞きつけた間抜けな泥棒がのこのこやってくるくらいには。
しかし、前にも言ったが誰も侵入に成功していない。よって、この話はただの都市伝説となっている。
だけど―――――――他でもない私自身が、その建設の様子を見ていたからこそ断言できる。
この『地下の保管室』は実在する。
闇に葬られた王国の歴史や、各国に入り込ませている密偵の情報、国が有する魔術師の長所・短所…………公の場に保存できない最高機密を保管する場所。
実在しながらも虚構として語り継がれる『都市伝説』。
当たり前の話だが、【書庫】の中でも警備は入り口と並びトップクラス。
部外者が検知されれば誰であろうと即・死亡、あるいは無力化されて拷問室へGOだ。
でも、そのへんもしっかり対策済みである。
「大丈夫よ。記録探しにはとっておきの案内人がいるもの」
「案内人?それって、どういう――――――」
「それは、中に入ってのお楽しみ♪…………ほら、職員の方がいらしたわよ」
私の言葉と同時に、入口の方から コツ、コツ、と足音が聞こえてきた。