序章 王の剣
お祭りの日にふさわしい晴れ渡った青空。
マリーは頭上に運ばれていく黒い箱を眺めながら、組んだ両手をぎゅっと握りしめた。
(どうか……たくさんの花が入っていますように……!)
今日は年に一度、王都で開かれる『感謝祭』だ。
中央広場は旅芸人や吟遊詩人の出し物で賑わっており、王宮へ続く大通りには様々な屋台が軒を連ねている。
だがいちばん盛り上がるのはやはり、今年もっとも活躍した騎士団を決めるイベントだろう。
騎士団に冠する色と同じ白、赤、青、黒の箱に、自身の名札を付けた白い花を投げ込む。投じられたその総量で『王の剣』と呼ばれる最優秀騎士団を決定するというものだ。
緊張のあまり身震いしているマリーに気づいたのか、隣にいた赤い髪の少年――ミシェルがにこっと微笑んだ。
「大丈夫だよマリー。きっといっぱい入ってる」
「ミ、ミシェル……。そ、そうだと思うけど、でも」
すると反対側に立っていた水色の髪の青年が、呆れたような顔つきでふんっと腕を組む。
「そんなに気にしなくても、どうせ今年も『ヴェルナー票』だろ」
「な、なんてこというんですかユリウスさん! そんなことありません、だって一年間、あんなにみんなで頑張ったんですから……」
ちらりと後ろを振り返ると、フードをかぶった小柄な少年やステージ下にいる女性たちに手を振る青年がおり、彼らはマリーの視線に気づくとそれぞれ口角を上げた。
その確かな応援を受けたマリーは再び前を向き、自分たちの上空に配置された箱の底面を見つめる。
(大丈夫……きっと私たちの騎士団がいちばんに……!)
やがてステージ脇の司会者が、結果を待つ騎士たちに向けて叫んだ。
『今年もいよいよこの時がやってまいりました! 今年も絶対的正義、白騎士団が勝利するのか!はたまた情熱の赤騎士団、叡智の青騎士団、いや、まさかの大穴・黒騎士団という可能性もあるか⁉ さあ、今年の名誉ある『王の剣』は――』
(お願い――!)
司会者が紐を引くと、それぞれの箱がゆっくりと口を開き始める。
うっすらと覗く白い花弁を見つめながら、マリーは彼らと出会った日のことを思い出していた。
新連載はじめました。
落ちこぼれ騎士団を一生懸命応援する女の子のお話です。
よろしくお願いします!