#03 石鹸の匂い
夜になり用心棒のお使いの仕事を終えると、一度ウチに帰る。
かーちゃんが作ったメシを食べて、洗い物を手伝ってから、かーちゃんに『ちょっと出てくる』と一声かける。
「ラナのところかい?」
『うん』
「優しくしてあげるんだよ」
『うん、わかってる』
娼館の裏手にある娼婦が住んでいる住居を訪ねる。
『ラナ、迎えにきたぞ』
「カカ、来てくれてありがとう」
『気にするな』
二人で街中を歩く。
すれ違う酔っ払いたちを避けながら、城壁まで歩いた。
夜になると、城壁の近くには人が居なくて静かになる。
転がってた木箱を持って来て二人で座る。
隣に座るラナから石鹸の良い匂いがする。
石鹸は高級品だ。娼婦はみんな石鹸で体を洗う。
きっと、明日客を取るラナも石鹸で体を洗うように言われているんだろう。
座ってしばらくしてもラナは何も喋らない。
俺も黙ってラナが話し始めるのを待つ。
「あの・・・カカ?」
『なんだ?』
「わたし、明日、初めて男の人を相手にするの」
『うん』
「・・・・」
『怖いのか?』
「そうじゃない・・・」
『じゃあなんだ?』
「わたしが娼婦になっても、カカはわたしと会ってくれる?」
『ああ、いいよ』
「カカ・・・」
『なんだ?』
「・・・わたしの初めての相手になってくれない?」
『それは無理だ』
「そう・・・」
『お前の初物は高く売れる。 そんなお前に俺が手を出したら、俺はここで生きていけなくなる』
「わかった・・・」
『この町で生まれた俺たちは、夢を持つだけ辛くなる。 美味い物食べたい。良い服着たい。好きな女を自分の物にしたい。 どれも叶うことが無い夢だ』
「そうだね・・・」
それから二人とも黙ったまましばらく過ごしたあと、何もせずに帰った。