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楠木

作者: 夏世 柊樹

1話の短編です。読後、少し悲しくなるかも知れません。


 これは、私の友人から聞いた話しです。


 友人と私は、田舎の同じ小学校、中学校に通っていた仲です。もう卒業してから何十年も経ちますが、過疎化にも何とか耐え小学校、中学校は今も存続しています。


小学校と中学校は、ほとんど隣同士に有り、その近くに家4、5軒分位でしょうか、林があります。その林には、大きな樹齢何百年?かの楠木が有ります。


小学生の市内の名所巡りなどにもコースに入る様な立派な木です。どうやら楠木のちょっとした祭りも有るみたいです。




 友人が甥っ子の少年野球の迎えに小学校に行く事が有り、時間まで懐かしさから周りを見ていた時の出来事だそうです。久しぶりに小学校、中学校を見ながら、


【在校時とほとんど変わらないな。】


と少し驚きながら見ていたそうです。そして、近くの名所の楠木の有る林にも入ったそうです。小学生の時には、私達もその林の中で缶蹴りなどをして遊んだ記憶があります。


林の真ん中位に、楠木の近くに小屋位の建物が建っています。高床式の建物で、今思えば神道系の物であった様に思います。当時は、その建物に入って遊んでいると近所の大人に怒られた記憶が残っています。


その建物も、友人が見た時はかなり古くなっている様子でしたが残っていたと言っていました。その林は、当時でも天気の良い日でも中は上まで覆う樹々の枝で薄暗かったです。


友人が入ったのは、秋の夕方頃で林の中はかなり暗かった様です。楠木を見て友人は、


【変わらないな。】


と思い、当時ミミズクが居たぞと思い楠木の上を見て探していたそうです。すると、


『M君』


と突然、名前を呼ばれたそうです。びっくりして友人は、周りを見回すと楠木の近くの小屋に小学生か中学生か分からない痩せた、ヒョロッとした子供が居たそうです。


友人は、子供に君づけで呼ばれた事に少し驚きながらもその子を良く見ると、白い帽子を被り上は白い半袖シャツ、下は黒の短パンでした。友人はハッと、


【体操着だ!】

【中学の体操着だよ。】


と思い至り、懐かしかったそうです。


【帽子は、裏側は赤地のやつだ。】

【運動会では、紅白に分かれて被ったものだ。】


と思いながら、その子に


『誰だっけ?』

『何で、俺の事知ってるの?』


と聞くとその子は、少し悲しげな表情になったそうです。友人は、その子の顔をじっと見て見覚えが有る気がします。まさかと思いながらも


『もしかして、O君?』


と聞くとその子は嬉しそうに頷いたそうです。友人は、固まり動けなくなったそうです。そして恐る恐る、その子を良く見たそうです。


【やっぱり、そうだ!】

【O君だ!】


と驚きが隠せません。何故ならO君は、中学生の時に亡くなっていたからです。母親が再婚した相手、継父による虐待死でした。日頃から虐待を受けていた様で、食事も満足に与えられなかったそうで痩せていたのです。


O君も継父には反抗していた様で、亡くなったのは継父による暴行死でした。継父は、反社関係の人で母親にも辛く当たっていたそうです。O君は、母親を守ろうとしたのでしょうか。


ただ、当時のクラスメイトにはそんな事を話す事も無く、どちらかと言えば明るい方だった様に記憶しています。


その子、O君がお腹辺りをさする様にして


『気を付けて。』


と言ったそうです。友人は、自分のお腹を見て触り、


【どういう意味だろう?】


と思い、O君を見ると姿が有りません。友人は、驚き小屋の反対側に周ります。その高床式の小屋は上の建物の周りが板張りになっています。友人は、反対側にO君が回ったのだと思ったそうですが、反対側にも姿は無かったそうです。


何度かO君の名前を呼んだそうですが、O君は現れ無かったそうです。近くから次々に車のエンジンの掛かる音が聞こえて、少年野球の練習が終わり迎えに来た人達が帰ろうとしてるのだ気付きます。


友人は、名残惜しかったそうですが駐車場に戻ったそうです。それから数日後にその林に行き、O君の名前を呼んだそうですが現れ無かったそうです。


友人は、O君の言葉が気になり近くの病院に行き腹部の違和感を訴え、レントゲンとエコー検査をした結果、医師は、県病院への紹介状書いて精密検査をする様に勧めてきます。


県病院での検査の結果、初期の胃癌が見つかりましたが部位も小さく腹腔鏡手術で切除出来、思いの他短期間で退院出来たそうです。


友人は、


『思い出したよ、O君は良く俺には頭を小突いたりしてチョッカイを掛けて来たんだ。』

『当時俺は、他の奴にはしないのに何で俺だけって思っていた。』

『俺の事、嫌いなのかなと思ったよ。』

『俺と仲良くなりたかったのかな?』


と言っていました。そして、中学校の掃除の時間の事を話し出しました。掃除の時間は、持ち回りで楠木の林の掃除をやっていました。汚れるので体操着に着替えて掃除していたのです。


友人とO君は良く、ペアでみんなが集めたゴミを回収する係をやっていた事を思い出したそうです。私は、O君にとって林の掃除の時間は楽しい時間だったのかも知れないと思いました。だから体操着の格好で友人に病気を知らせたのだろうと。


        (終わり)

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