第7話 ダールLV647
目が合うと、巨大な生き物は立ち止まる。
30メートルほどの距離。
漆黒のヒョウだ。
毛並に光沢がある。
10トン貨物トラックを2まわり大きくしたくらい大きい。
金色の目に見つめられている。
口からはよだれが垂れている。お腹すいてる感じ?
これほど巨大な魔物にこんなに接近されるまで気付かなかった。
全く音がせず、気配が感じられなかった。
タイタロスより強いんじゃないか。
鑑定する。
ダール LV647
MP 17900
まずい。
レベルが俺の倍だ。しかも魔力が多い。何をしてくるかわからない。
魔法で攻撃されたら防ぎようがないぞ。
「グルルルル…」
ようやく唸り声をあげた。お腹すいていらっしゃいますか…。
食べる気まんまんですね。美味しくないと思うよ? また今度にしませんか?
…だめ?
ダールは立ち止まったまま視線を外さない。
こちらも外さない。
ガンの付けあい。負けないよ。
目に魔力を集める。光ってるかも。光らせてみようか。意味ないけど。とにかく負けない。
とびかかられたら一瞬で食われる。この距離は一歩の距離だろう。
だから隙をみせたら終わる。目をそらさない。
策もなく逃げても無駄だろう。追いつかれる。
今は自分もLV322まで上がったんだ。だからなんとか戦えるはずだ。
でも道具も魔法も準備してないから、爆裂球で勝負するしかない。
ただ、あの毛並では投げつけたところで爆発しないだろう。
何とか爆裂球で勝負できる状況を作らねば。
目を合わせたまま、そうっと湯船から出る。
すっぽんぽんだ。
ダールさん、服着ていい?
…その時、突然ダールがわずかにかがむ。
「来る!」
とっさに横に飛ぶ。
立っていたところをダールが猛烈なスピードで通り抜けた。
一瞬だった。危うく食われるところだった。
湯船は猛スピードの大型トラックにひかれたみたいに吹っ飛んでいった。
ダールは30メートルくらい先で着地し、身体を翻した。
また襲ってくるだろう。
とにかくこの状況を覆す必要がある。
ここでダッシュで逃げる。
LV322の身体能力で最大限の加速をする。
「おりゃりゃりゃりゃあああああ!」
叫びながら走る。全裸で。フリ〇ンで。
俺は今、スプリンターだ。
風になる。風を超える。
鼻の穴が全開だ。
猛烈な速度になる。
木があっという間に迫る。
危ない!
「うおおおっ!」
驚異的な反射神経で避ける。
避けたところにまた木が迫る。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
次々に避ける。
動体視力が恐ろしく上がっている。
さっき魔力を込めたからか。
脳の反応速度が、信じられないほど速い。
LV322の全能感に浸る。
それでも。
「グオオオオ!」
後ろからドスドスという足音が離れないでついてくる。
これだけの反射神経で大木の間をギリギリ走り抜けているのに、ダールはあの巨体でついてくる。
まずい。
何かないか。
「おりゃ!」
創造スキルで身長くらいの岩を作りだし後ろに落としてみる。
ダメだ。
簡単に避けたようだ。
いくつか落とす。
すべて避けられた。
何か手はないか。
全力で走りながら必死に考える。
昨日と違って体力は持つ。
やがて突然、木が生えていない広場に出た。かなりの広さだ。
木が生えていない場所は初めてだ。
そうだ。
ここだ。
ここで勝負だ。
ダールの機動力を封じる。
とっさに、創造スキルで大量の泥をつくりぶちまける。
狙い通りダールは足をとられ、滑る。
落ち葉が積もった森の中に泥はあまりないだろうから、慣れていないようだ。
俺は素早く方向転換する。
ダールは滑って踏ん張りがきかないまま、方向転換した俺を通り過ぎた。
ダールはいくら泥に慣れていないといっても、LV600以上なら、すぐに対応してくるだろう。
その前に決着をつける。
間髪いれず、俺はあえてダールに向かっていく。
ダールは食いつこうと、無理に反転する。スピードを落としきれないまま。
だから転倒した。
だが、ダールはすぐに起き上がろうとしている。
状況は整った。
機動力は封じた。
さあ勝負だ。
俺は背後に岩を創造する。
その岩を足場に踏ん張り、全身の力をフルに使い、ダールに矢のように飛び込んでいく。
収納から爆裂球を取り出す。
狙いは牙だ。
脳の反応速度の速さが、目に映る世界の時間の進みをゆっくりに感じさせる。
互いの距離はもう10メートルを切っている。
「グアアア!」
起き上がろうとしながら、ダールが食いつこうと、口を開ける。
「俺の勝ちだ」
大きく剝き出しになった牙に、爆裂球を投げつける。
同時に岩をありったけ創造し、ダールとの間に埋め尽くす。
爆発の衝撃に備え、身体全体に力を込める。
ズガアアアーーーーン!!!
また吹き飛ばされた。