第6話 エルフの姿
目が覚めた。
真っ暗だ。
ごちっ!
いてっ!
肘を壁にぶつけた。
あ、そっか。
シェルターの中だっけ。
創造スキルで入り口を開け、外に出る。
まだ暗い。
木の隙間から見える様子では、薄明かりがさしている。
どうやら夜明けが近いようだ。
寝ている間は襲われなかったようだな。
まずは自分を鑑定する。
カイ エルフ 20歳 LV322
MP 32200
MPが回復している。寝れば完全回復するみたいだ。
これで創造スキルがかなり使えるようになった。
このMPはおにぎり何個分だ?
タイタロスを倒してレベルアップしてなかったらかなり苦労しただろう。
MPに余裕ができたので創造スキルで洗面器と水を出し、顔を洗う。
タオルも出し、顔を拭く。
歯ブラシと歯磨き粉を出して、歯を磨く。
シャコシャコシャコ。
ぼけーっとしながらのんびり磨いて、コップと水を出して口をすすぐ。
ブクブクブク。
うがいもガラガラガラ。
ペッ!
朝食は何にするかな。
ドーナツとオレンジジュースにしよう。ドーナツはハードなやつね。
創造スキルさん、よろしく。
夜が明けたようだ。随分明るくなった。
薄暗いのは相変わらずだが。
もぐもぐ。
うまいなー。
大木の根本に腰掛けながらのどかに食べる。
ごちそうさま。
健康な朝でございますね。
落ち着いたところで身体をよく見ると、服は血や葉っぱ、土がついて随分ボロボロだ。
風呂に入って洗濯するか。朝風呂だ。
創造スキルさん、よろ。
服を全て脱いで、洗剤を投げ込んだタライでザブザブ洗う。
よくゆすいで、ぎゅーっと絞る。
乾燥しなくても、着ながら乾かせばいいか。
とりあえず地面に広げておく。
収納から木を出して、西洋風の大きな湯船を創造する。この木、とても目が詰まっていて、重くて頑丈。これを圧縮してつかう。光沢がでて水をはじく。
完成した湯船にお湯をたっぷり張って、石鹸の粉をだばっと入れ、ざぶんと入る。
頭からつま先まで、わしゃわしゃ髪も洗う。
あわあわだ。
一回湯船を倒して湯を捨て、また湯をたっぷり張って入る。
何度か繰り返すとすっかりきれいになった。
石鹸は自然分解されるから無問題。
ふう。いい湯だ。
森は相変わらず静かだ。
湯船に背を預け、ぼーっとする。
ふと鏡を創造してみる。
自分の顔を初めて観察する。
驚くほど美形だ。どこの貴族の方でしょうか。
切れ長の青い目は銀色がかっている。
目つきは鋭さと柔らかさを兼ね備え、見ようによって変わる。
白銀の眉と、同じく白銀の髪。
まっすぐ通った鼻筋。
薄桃色の唇。
耳の形は人間と変わらない。
顔の輪郭はスマートだ。
透き通った白い肌。
細い首に白い肩。
身体は華奢というより、しっかりとした体格で何かエネルギーを感じさせる。筋肉マッチョじゃないのに力がみなぎっているような。
ちなみに股間は普通ね。男の子。みなぎってはいません。
この整いすぎた美貌。男とか女とか関係ない。
端正というものを絵に描いたような、絵画に描かれたような姿だ。
エルフは魔力が多いんだろう。
姿にうっすらと魔力のベールががかっているようだ。
声さえ、魔術がかったような不思議な響きを持っている。
このごく薄いベールのような魔力が、まるで真珠のような、ダイヤモンドのような、不思議な微かな光沢と色艶、透明感を与えている。じっとみていると、まるで宝石のようだ。
実物を見て実感する。エルフのエルフたるゆえんは、まさにこの美貌と魔力のベールにあるんだろう。
誰が見ても、この外見でエルフだとわかるんじゃないか。
…はあ。
異世界にはこんな生き物がいるんだね。
自分の姿だと受け入れるのは時間がかかりそう。こんな美麗な外見は荷が重い。
俺はバ〇ボンのパパみたいので良かったんだけど。鼻毛飛び出していていいんだが。
まるですごく高級な服を着ているようで落ち着かない。
ジャージとサンダルでいいんだよ。しかも1000円くらいのやつ。
神様に言わなかったしなー。
あきらめるか。
意外とこの世界基準だと不細工なのかもだし。
創造スキルは魔力を食うから、魔力が多くて長生きっていうとエルフになっちゃうんだろうなー。
そんなため息をついて、湯船の中でアシカのようにぐるんと回転して、後ろをみる。
「えっ」
息を吞む。
巨大な生き物が近づいてきていた。