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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部5章 帝国首都ローゼンシュタット 燃えよヒヨコ
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5章9話 ヒヨコ・キッド

「ピヨピヨ(ヒヨコは修行をしたいのだが何かいい方法はないのか?)」

「おい、何でヒヨコがここに?」

「さ、さあ」

 玉座に座る山賊皇帝さんは若干困り顔でそこにおり、家臣に訊ねるが家臣も不思議そうだった。


 逆に聞きたい。ヒヨコは何でここにいるのだろう?


 山賊皇帝さんは困って周りのものに聞くが、彼らも分かっていないようだった。ヒヨコは探検しながら初めて見かけた部屋にこっそり入ってみただけなのだが。確かに山賊皇帝の部屋を探してはいたんだけどね。


「何しに来たんだ?」

「ピヨッ!」

 ヒヨコは身振り手振りで自分のやりたいことを伝えてみる。

 自分を差してから、両手羽で殴り合いの格好をして、殴られて倒れた感じを見せてから両手羽で十字を作って首を横に振る。再び両手羽で殴り合いの格好をして、最後に両手羽を上に持ち上げて勝利のポーズ。これでどうだろう?


「えーと武闘大会か?武闘大会に負ける、ダメ。武闘大会に勝利」

「ピーヨピーヨ(いーよいーよ、その通り!)」

 ヒヨコはタスキをほどいてはちまき風にしてせっせと走ったり腹筋みたいなことをしてみたりする。

「ああ、なるほど、武闘大会に優勝したいから何かトレーニングをすると」

「ピヨピヨ」

 ヒヨコは両手羽を頭に当てて、首を傾げ、そして山賊皇帝さんに何かよこせと手羽でカモンカモンと仰ぐ。

「つまり武闘大会に勝つ為に良い修行方法を教えろと?」

「ピヨピヨッピヨ~」

 ヒヨコはビシッと正解だと山賊皇帝さんを差す。

「あの、取りえず政務と関係ないので追い出しますか?」

「さっきから面倒くさい来客ばかりでな。別に構わん。とはいえそろそろ次の来客予定だし、取り敢えずヒヨコはラカトシュに押し付けておけば大丈夫だろ」

「ピヨピヨ(おいこら、真面目にやれ!)」

 ヒヨコはプンスカとジャンプして抗議するが、衛兵さんに引っ張られてヒヨコは宮廷の裏庭に連れていかれるのだった。



***



「ふむ、陛下がこのヒヨコも武闘大会に出るから何かトレーニング方法を教えてやれと?」

 40代半ばくらいの黒い肌をした小父さんがニコニコとヒヨコから与えられた書状を呼んで訊ねる。

「ピヨピヨ(その通り!)」

 ヒヨコはコクコクと頷く。

「あいにく私も武闘大会前には仕事が立て込んでいてな。親衛隊と言っても暇ではないのだ。テーブルにワックスを塗るのを手伝ってくれた後なら構わないぞ」

「ピヨピヨ(その程度の事ならお任せあれ)」

 ヒヨコは上機嫌で黒人の小父さんに付いていく。


 連れられた場所にはずらりとテーブルが並べられていた。200台ほどはあるように見えるが。


 いやちょっと待て。この数は多すぎないか?

 小父さんはヒヨコの両手羽先に雑巾のような手袋を嵌められる。ワックスの入った瓶を足元に置かれる


「既にやすりで十分にバリを取ってあるから、右手の雑巾で木のごみを拭きとる。ついで木のバリをなめす」

「ピヨピヨ(ピヨちゃん、テーブルを拭く)」

 右手羽で回す様にテーブルを拭く。グリングリンと右手羽を回してテーブルを拭く。

「十分に拭いたら左手の雑巾でワックスを塗る」

「ピヨピヨ(ピヨちゃん、ワックスを塗る)」

 左手羽の雑巾にワックスを付けて、グリングリンと左手羽を回してテーブルにワックスを塗り込む。しっかりテーブルになじむまで拭く。

「これをこの数やるんだ」

「ピヨピヨ(分かったぞ!ヒヨコの本気を見せてやろう。そうしたらトレーニングだ!)」


 黒人の小父さんが去っていき、ヒヨコは一生懸命テーブルにワックスを塗っていく。


 結局、この日の午前がそれだけで終わってしまった。

 ヒヨコが兵隊さん達と合流して一緒にお昼ご飯を食べ、午後になると黒人の小父さんにテーブルにしっかりとワックスを塗っているのを見せる。

「おお、もう全部終わったか。さすが陛下が認めた鳥だな」

「ピヨピヨ(ヒヨコの凄さに驚くが良いのよね。………おっと、トルテみたいな喋りになってしまったのだ)」

「じゃ、次に行こうか」

「ピヨピヨ(ついに修行か。腹が鳴るぜ)」


※鳴るのは腕です。昼食後のセリフではありません。


 連れてこられた場所は武闘場だった。4つある舞台の内、一つだけが真新しい木の色をしていた。作り立てなのかな?

「ここで武闘大会の予選が行われる予定なんだが、この舞台が古かったので新しく作ったんだよ。だが、どうにも木のバリが出ていかん。取り敢えず床を磨いてバリを取ってもらえんかな。俺も武闘大会にでるのだが雑用が多くて大変なんだ」

「ピヨピヨ(またか?またなのか?まあ、良いだろう。ヒヨコもライバルに雑用をやらせて勝とうとは思わないからな。ヒヨコにお任せあれ)」

 両手に紙やすりを付けられて再び闘技場の床をこする。

「ピヨピヨ(ピヨちゃん、床を擦る。床を擦る、擦る。)」

 闘技場の床を擦り終えた頃、既に日は暮れていた。


「ピヨッ!?(ヒヨコは何をしてたんだろう?)」

 それは誰にも分らない。

 こうしてヒヨコの修行1日目は終わる。




***




 帝暦508年2月29日、獣王国が来賓としてやって来てから4日目。

 この世界では1年12か月、1月30日で出来ており、1年360日で出来ているらしい。

 勇者シュンスケが、1年360日周期で、2つある月の小さい方の満ち欠けが約30日周期だった事から360日12月と勝手に決めたからである。それまで1週間8日で休みが1日しかなかったのだが、1週間を7日に変えてもいる。

 まあ、異世界からやって来た勇者が好き勝手やったのだろうと、ヒヨコも何となく察している。

 帝暦というのはスキルが世界に反映された年を0としており、それ以前を有史以前と呼んでいる。

 イグッちゃんは有史以前に生まれたらしく、全く別の文化があったらしい。前に飲み会でそんな事をぼやいていた。トルテの母ちゃんは別の大陸にある竜の居住区に住んでいる竜の女王らしく、強い子を成す為に強い相手を求めていたとか。トルテのお兄ちゃんもその類で異なるドラゴンとの間から生まれたらしい。


 そして、その日はヒヨコが修行を始めてから2日目になる。武闘大会予選は3月の5日からで、ヒヨコは既に予選出場が決まっているのであと6日と差し迫っていた。


 ヒヨコは自分の家で寝てから、町でフルシュドルフダンスを踊って、再びお城にやってきていた。


「ピヨピヨ(今度こそ修行に来たぞ)」

「おや、今日も悪いねぇ。昨日の闘技場なんだけど壁を張り替えるんでニスを塗ってくれないか?」

 迎えてくれたのは昨日と同じく40代半ばの帝都には珍しい黒い肌をした小父さんだ。彼も武闘大会に出るらしいがあまり強そうではない。

「ピヨピヨ(また修行ではなくお手伝いか)」

「闘技場の方はお陰で処理が済んだよ。今度は壁のニス塗りを頼みたいのだけどね。こう、縦にニスを木の目に合わせてぬるんだ。できるよね?」

「ピヨピヨ(ヒヨコは会場準備のお手伝いではなく修行に来たんだが?)」

 人のよさそうな顔をして人使いの荒い小父さんである。

 だが有無を言わさずヒヨコの手羽先にニスを塗る為の刷毛を括り付け、首にニスの入った缶を紐で垂らしていくらでも濡れるような状況にする。

「ピヨピヨ(仕方ない。手伝ってやるか)」

 ヒヨコは諦めて両手の刷毛をニスの入った缶に入れて上下にニスを塗っていく。

「ピヨピヨ(ピヨちゃん、アップダウン!アップダウン!)」

 上下に刷毛を動かして壁にニスを塗っていく。


 いい加減に疲れてきた。ヒヨコは労働力ではありません。

 皆に笑顔を振りまくマスコットなのにどうしてこんなことに。

 折角朝早くやって来たのに、この日の午前はニス塗りで終えてしまった。


 ヒヨコは昼ご飯を帝都の兵隊さん達と一緒に取る。ヒヨコの隣に獣人の小父さんが座っていた。猫耳が生えてるから猫人族だろうか?

「ピヨピヨ(アジフライは絶品だな。パンにはさむととってもうまい)」

「分かるかヒヨコ。中々の食通だな」

 念話が分かるのかピヨピヨ語が分かるのか、ヒヨコの言葉に反応する。

「ピヨピヨ(だけどヒヨコははっぱは嫌いです)」

「レタスは入れたくないって?これだからお子様は。そんなんじゃいつまでもピヨピヨのヒヨコのままだぞ」

「ピヨッ(そうか、いつまでもヒヨコのままなのは大人になれないからか!)」

 しかし大人になれないからヒヨコなのか、ヒヨコだから大人になれないのか?鶏が先か卵が先かのジレンマである。どっちも鳥であることには間違いない筈だが。

 ヒヨコはシュタッと立ち上がりお弁当の箱をゴミ箱に入れてから再び黒人の小父さんの所へ向かう。

「ラカトシュさんの仕事の手伝い頑張れよー」

「あの人、人遣いが荒いから気を付けるっすよ」

「ピヨピヨ(いや、だからヒヨコは手伝いではなく修行に来ているのだが)」

 ヒヨコは取り敢えず手を振って兵隊さん達と別れる。




 ヒヨコは再び黒人の小父さん所に辿り着く。

「おお、終わったか。仕事が早いなヒヨコは」

「ピヨピヨ(もっと褒めてもバチは当たらないぞ?)」

「さて、次の仕事だが」

「ピヨピヨ(待て待て、親父。ヒヨコは修行に来たのであって武闘大会の準備のお手伝いに来たわけではないのだが)」

「ん?何か不満でもあるのか?」

「ピヨピヨ」

「いや、むしろこれが修行だよ!」

「ピヨ!(むしろご飯がおかずだよ、みたいなことを言われても困る!)」


※本物語はH●Tではなく()()()の物語です。


「まあ、取り敢えず今日はこの建物にペンキを塗って終わりだ。ニスと違って上下に塗るのではなく左右に塗るんだ」

「ピヨピヨ(ヒヨコの修行はいつ始まるのだろうか?てっきりヒヨコの呼吸二の型ヒヨコ乱舞とかそんな感じの技を身に着けてさせて貰えると思ったのに!ヒヨコ伝説はやがてヒヨコの刃にタイトルが…)」


※変わりません。


「ピヨピヨ(誰かに突っ込まれたような?………気のせいだな。さあ、取り敢えずペンキでも塗るか)」

 ヒヨコは再び刷毛を二つ手羽先に括りつけられ、今度はペンキの入った缶に紐をつけてヒヨコの首に吊るされる。


「ピヨピヨピヨピヨ(ピヨちゃん、ひだりみぎ。ひだりみぎ。ひだりみぎ。)」

 長い闘技場の左右にペンキを塗る。


 ……………………

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …


「ピヨピヨーッ!(終了~!ヒヨコは遂にやり遂げました!)」

「おお、全部終わったか」

「ピヨピヨ」

「ご苦労さん。明日からは来なくても大丈夫だぞ」

「ピヨヨーッ(って、こら!修行はどうなった!ヒヨコは断じてお手伝いに来ていたわけじゃないぞ!)」

「おや、何か問題があったっけ?」

「ピヨピヨ(忘れるな!ヒヨコは修行に来たのだ)」

 ヒヨコはシュシュッとボクシングをするように翼を振りかざす。

「……おおっ!そういえば修行に来ていたんだっけ?」

「ピヨヨ!(それだ!)」

 ヒヨコは小父さんに翼を差して正答であると訴える。

「はっはっはっ。そう言えば修行になりそうな仕事を押し付けておけば良いと陛下から言われていたからな。うっかりそっちがメインになっておったわ」

「ピヨピヨ(なんて酷い男だ。己、山賊皇帝さんめ、ヒヨコをたばかったな!)」

「では修行の成果を見てもらおう」

「ぴよぴよ~(いや、修行の成果ってアンタ)」

 ヒヨコは目を細めて小父さんを見る。小父さんは拳を打ち出して来ると、ヒヨコはとっさにニスを塗る時の動きで手羽先でピヨリと受け流す。

「!?」

「そうだ。いくぞ」

 小父さんはさらに拳を打ち出して来るが、ヒヨコは手をくるくる回して攻撃を受けながし、ニス塗り、ペンキ塗り、ワックスがけ、やすり掛けのフォームで攻撃を受け流す。

『ピヨは流水のスキルレベルが上がった。レベルが2になった』

 何と!

 今までの修練の結果がまさか流水のスキルレベルアップにつながるとは!このおじさん、半端じゃない!

「ピヨピヨ(まさかこのペンキ塗りの動きがヒヨコの血肉になるとは……)」

「何だ、別に教えなくても流水使いだったのか。別にこの仕事させなくても良かったな。ここまでできるならもっと良い訓練があったわ」

「ピヨッ!(おい、成長させてもらったと思ったヒヨコの感動を返せ!)」


 その翌日からヒヨコのトレーニングは実践的なものに変わってくる。


 水路の船に乗って荷物を運ぶついでに片足で立ってバランス訓練をしたりした。

「いやー、凄いっすね。危なくないっすか?」

 荷物を一緒に運んでいる下っ端Aと思しき青年、つまり下っ端君がヒヨコと一緒に荷物を運ぶ。

 ちなみに彼は船漕ぎ係である。

『ピヨは運送のスキルレベルが上がった。レベルが2になった』


 大きな紙に油性絵の具で『武闘大会予選会場』という文字を書いたり、そのバックに花の絵をかいてみたりした。

「嘴でしっかりと咥えて書けるのは分かるが、字が下手だな。書き順はこうしてこうだ」

 青い犬耳の褐色お姉さんがヒヨコに文字のレクチャーをする。

「絵は色を塗るだけだ。指定通りに入れろよ」

 ヒヨコは嘴でしっかりと筆を持つと絵の具を使って色塗りをしていく。

『ピヨは絵画LV1のスキルを獲得した』


 ヒヨコよりもはるかに大きい巨大な鉄のレールを運んでは地面に置いてみたりした。

 南の城壁にに空いた巨大な穴がある。イグッちゃんが以前ぶち明けた大穴だが、帝都の壁の外には東の方へとレールは続いていた。地平の奥まで続き、人や魔物が入り込まないように敷居が出来ている。新しい街道でも作ってるのだろうか?

 帝都のコロシアム前まで続いていて通行禁止区画となっていた。祭りに向けて何やら催しがある模様。ちょっと楽しみだ。。

『ピヨは運送のスキルレベルが上がった。レベルが3になった』


 兵隊さん達の新兵親善かくれんぼ大会に参加してみたりもした。ヒヨコの後に入ってきた新兵の歓迎である。ヒヨコの潜伏スキルは何物にも見つかる事はないのだ。

「ヒヨコ発見っす!」

「ピヨヨーッ!?」

 何故に!?くう、下っ端君なんかに見つかるとは!もっとうまく気配を消さねばならぬのか!

『ピヨは気配消去のスキルレベルが上がった。レベルが3になった』


 兵隊さん達の夜の飲み会に参加し、一気飲みを強要され、手を人間の形に変えてジョッキを掴み一気飲みしてみたりもした。

「ピヨちゃんのちょっといいとこ見てみたい」

「ピヨヨーッ(ヒヨコハーンド!)」

「そーれ、いっき!いっき!いっき!いっき!いっき!」

『ピヨは人化の法のスキルレベルが上がった。レベルが2になった』



 壊れている棚を手に括りつけたハンマーとバールを使って修理してみたりしてみた。

「何か悪いですね。私の仕事まで手伝ってもらって」

 理知的な感じの下っ端Bと認識しているお兄さんはとっても親切だった。名をギュンター君というらしい。ヒヨコはハンマーをもって一生懸命釘を叩く。

『ピヨは大工LV1のスキルを獲得した』


 兵士たちの服を洗濯したり、兵士たちの部屋を片っ端から掃除したり

『ピヨは家事LV1のスキルを獲得した』


 それはもう実践的な修練を……実践的な……修練……実践的な…………


 修練???


「ピヨッ!(だから雑用しにきたんじゃねえよ!)」

 ヒヨコは思わず付けていたエプロンと三角巾、そして両手羽で挟み込むようにして持っていた箒を地面に叩きつける。


※気付くのが遅いと思います。


 武闘大会は明日だというのに、どういう事だ!?

「ピヨヨーッ」

 ヒヨコの嘆きの声が帝都に響き渡った。ヒヨコの明日はどっちだ!?

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