5章閑話 堕ちた勇者と傀儡の皇子
前書き担当の女神です。
今話はグロ&エロシーンがあるので苦手な方は避けてください。
R15に収まるよう作者は頑張っているようですが、どうでしょう?
作者がかなり時間を掛けて書き、いつもお気楽ピヨちゃんを書いている作者が気持ち悪くなって辛かったそうなので。まあ、苦手なのに頑張って書くからなおさら時間がかかり出来てきたストックが全部食われるのですけどね。
それはそうと、気付けば500ポイントを突破。ヒヨコが最近よく頑張っています。筆が止まりがちな作者ももうちょっと頑張ってもらいたいですね。
ぼやけた頭が覚醒しようとしている。今、俺は何をしているのだろうか?
ここはどこだ?……俺は誰だったか………?
そうだ、俺は勇者だ。勇者アーベル・ヘルゲソンだ。
ここはアルブム王国の首都レオネスだった。勇者としてここに呼ばれてきていたのだ。次期に獣王国と戦争が起こるからと呼ばれていた
だが、何でこんな重要な事を忘れていたんだろう。
そうだ、今、俺は我らが聖女であるレイア様の為に尽くさねばならないのだ。
規則的に軋むベッドの上で俺はレイア様に尽くしていた。
その美しく真っ白な肢体は艶やかで、世界中の全てが色褪せる程、彼女は美しく素晴らしかった。彼女を悦ばせる事が俺の幸福なのだ。
学園にいた頃から、レイア様は特別で周りは一線を引いていた。俺もまた違った意味で一線を引かれて蔑まれており、その共通点から彼女と仲良くなれた。
今、こうして彼女と結ばれるのを夢見ていた。その為に俺は勇者になったんだ。
やがて、俺は全てを果たし、脱力と共にレイア様の体に身を預ける。
「はあはあはあ……」
「あら、もう終わりなのかしら?」
「え?」
「全く仕方ないわね」
レイア様は机についているベルを鳴らす。すると女の使用人が部屋に入ってくる。
「ケビンを呼んでくれる。アーベルが早すぎて物足りないから」
「はっ、承りました」
精気のない様子の使用人はそう言って去っていく。
「れ、レイア様。お、俺はまだ…」
「もう良いわ。休んでいなさい。またその内、気が向いたら呼んであげるから」
「で、ですが…」
俺はレイア様を他の男に奪われると思い必死に呼び止めようとする。するとスッとレイア様は冷たい視線を俺へ向ける。寒気が走る。
「しつこい男は捨てるわよ?」
「も、申し訳ございません!」
俺は土下座をして必死に許しを請う。
「ふふふ、冗談よ。もう疲れているでしょう?早く休むと良いわ」
レイア様はそう言って俺を気遣ってください、部屋の外へ促す。部屋から出よとすると背の高い美しい男がガウン姿で立っていた。俺と入れ替わりに部屋へ入って行く。
俺の背後の部屋から愛しいレイア様の喘ぎ声が漏れる中、俺は一人で自分の部屋へと戻るのだった。
そうだ、レイア様程の方だ。俺如きが彼女を繋ぎとめる等恐れ多い事なのだ。
己の汚い独占欲を思い知り、首を横に振って己の意地汚さを戒める。
一人で歩いているとどこか昔に戻りたいとも思うようになる。以前は俺一人が独占できていたはずなのだ。なのにどうして…………。
そうだ、こういう時はイェルダとマルタに相談しよう。
いつだってレイア様の事は彼女たちと相談していた。ヘレーナは我々と身分が違うからこそ難しい事が有るが、女性側としての視点は俺にはない視点だから必要だとして相談に乗って貰っていた。
イェルダとマルタはどこに行ったのだろうか?
俺が歩いて行くとそこには玉座の間だった。頭がどうもぼんやりしている。最近、こんなことが多すぎる。
ガリガリと何かを齧る音が聞こえる。俺は何かと思い玉座の方を見上げるとそこにはレオナルド殿下が何かを齧りながら俺を見下ろしていた。
「おや、アーベルじゃないか。どうしたのか?」
「レオナルド殿下。どうも最近調子がおかしいようで。イェルダとマルタを探しているのですが」
俺は頭を抑えながら苦笑気味にレオナルド殿下の問いに答える。
「はははは。何をバカな事を言っているんだ、アーベルよ。イェルダとマルタはこれであろう?」
レオナルド殿下は齧っているモノを俺に見せるようブラブラと振って見せる。
それは人の腕だった。
体が切り刻まれて肢体のように見えるが首はまだ生きているようで、体のない人の頭がレオナルド様へ懇願の声を漏らす。
「殺して……」
「お助けを………勇者様…」
イェルダとマルタだっただろう肉片は苦しむように呻き声をあげる。
そうだ、レイア様の寵愛を頂き、他は何もいらないからと先日レオナルド殿下にイェルダとマルタを差し出したばかりだった。
俺は何という失礼な事を。
自分の失態に首を横に振る。
「申し訳ございません。そう言えばそうでした」
そうだ、俺にはもうヘレーナしかいなかったではないか。とっくにイェルダとマルタはレオナルド様に捧げたのだ。私はレイア様しかいらないのだと決めた筈ではないか。
ヘレーナは………レイア様?
ん?
ちがうっ!俺は何を………?
そうだ、俺と学園にいたのはヘレーナじゃないか。ヘレーナは………どうしたんだ?イェルダは!?マルタは!?
「!」
俺は慌ててハッとしたようにレオナルドを見上げる。
ぼんやりしていた頭が鮮明になって行き、自分の言動を思い出す。
それは自分でも信じられない愚考の数々だ。俺は自分の頭を掻き乱し、おぞましさに全てを吐いてしまう。
「ぐえっ、うあ、うああっおえええええっ………あ、あ、あ………ああああああああああああああああああああああああああああっ!」
俺はヘレーナが突如死んだ事も気にせず、聖女レイアとの逢瀬を重ね、イェルダとマルタをレオナルド王太子への供物としてささげたのだ。
何故!?どうして!?
「おやおや、さすがは三流と言えど勇者のプライドか。魅了が解けかけているな。レイアももう少し丁寧に扱えば良いというものを。いくら私の恩恵があろうと、三流神官なのだからな」
レオナルドは歩いて俺の方へと近づいてくる。
違う!
そうだ、これはレオナルドじゃない!悪魔だ!
決して人が触れてはいけない……存在の………
悪魔は血の滴るマルタの腕を咥えながらゆっくりと立ち上がり俺に近づいてくる。
「ひっ………ち、近づくな!」
「何、怯える事は無い。俺をよく見ろ」
レオナルドの姿をした悪魔は闇よりも昏く深い瞳を俺に向ける。それは何もかも吸い込むような漆黒の瞳で………
………俺は何を考えていたんだ?
レオナルド様が悪魔だなんてとんでもない事だ。彼は我がベルグスラントを飲み込みアルブム王国の王になられるお方だ。
そう、いらなくなったゴミ貴族共を片付けて頂き感謝してもしきれないというのに、なんという不遜な。まったく、俺はどうかしていた。
「も、申し訳ございません。なんという不遜を」
「よい。お前は聖剣の使い手だ。失うには惜しいからな。レイアにももっと大事に扱うよう進言しておいてやろう」
「は、ありがたき幸せ」
俺はレオナルド様に感謝をして自室へと戻るのだった。
「そろそろ、いらなくなってきたな。信仰の力は枢機卿に集まってきているし、そろそろあれも食って、バカ女の遊びに付き合うのも限界が来たかもしれぬな…」
***
俺は破滅へと向かっている。
どうしてこんな場所にいるのだろうか?
決まっている。恐ろしいからだ。死ぬよりも怖いものが存在する。それに従うしか俺には選択肢はないからだ。
ここはローゼンブルク帝国リューネブルク公領、父の従兄に当たるリューネブルク公爵スヴェン殿の土地だった。そして俺の目の前にいるのが当のスヴェン殿だった。
「まさかアルブム王国に身を潜めていたとは驚きましたよ、エリアス殿下」
「え、ええ、まあ」
「今、帝都はひどい状況でしてね」
「酷いとは?」
「ああ、アルトゥル陛下は帝国を何も分かっていない。せめてエリアス殿下のように耳を持てくださる方であれば良かったのだが」
「そうなのですか?兄上らしくはないですが」
俺の知るアルトゥルという男とは全く別の印象を抱く。
アルトゥル兄上はかなり豪放で寛容な人だ。幼い頃、姉や父に怒られたりしたら兄上に相談に行くものだった。早々に兄上は辺境伯代行となって領地経営を始めたせいで会えなくなったが、兄妹の中で唯一頼れる人だった。
アルトゥル兄上はエレオノーラ姉上、ヴィンフリート兄上、ラファエラ姉上のような才能はないが、どこか人を惹きつける人で、好き勝手しているが不思議と父たちに怒られないギリギリのラインで無茶をする人なのだ。あの恐ろしい乱暴なエレオノーラ姉上でさえ、アルトゥル兄上には頭が上がらなかった。
捨て犬でも拾ってくる感じで人間を拾ってきたり、困った人でもあるが、俺にとっては母が異なるが最も優しい家族だったと認識している。
「代々、皇帝陛下の周りには信用できる貴族を置くことで身を守り、また相談役として政治を回していくのです。親衛隊はご存じでしょう?」
「ええ。父の周りを守っていた方々でしょう?」
「伯爵や侯爵、方伯といった大貴族の次男や三男などを周りに置くことで安定した政権を保つのが皇帝の在り方です。なのに、どこぞの馬の骨とも知らない連中を連れて来て身の回りのことをやらせるなどありえない事です。多くの貴族達も困惑しているのです」
「な、なるほど」
兄上の事だからまたいろんな人間を拾ってきた可能性が高い。まさか身の回りのことをそいつらに任せているのか?
「伝統というものを理解していない。長く続いた帝国が終わりになってしまうのではないかと皆が言っております。このままでは多くの貴族達も立ち行かなくなってしまうのではないかと不安なのです」
「そ、それは………」
「さらに極めつけの問題は獣王国と同盟を組むという話が出ています」
「じゅ、獣王国と同盟?」
ちょうど、あの悪魔と魔女が攻め込もうとしている場所と同盟?
帝国は滅びようとしているのか?
何を考えているんだ、あの兄は!?
元はケンプフェルト辺境伯代行、アルブムの危険な状況なのは耳に入っている筈だ。まさかそんな事も分かってないのか!?
「殿下もご存じでしょう。獣王国は今、アルブムによって攻め込まれる恐れが発生しています。殿下はどこまで話を聞いていますか」
「ああ。まずはアルブムの信仰を変える事で揉めている為にてこずっているが、近々戦争を起こすという話が進んでいる。その為にベルグスランドと同盟を組んだが、実質は併合だ」
実際にはしっかりと信仰を集めた状況であの悪魔が枢機卿のルベン・アレグリアを食う事でより力が戻るからと敢えて信仰集める準備をしている。
勿論、戦争の準備も並行して行われている。
恐らく、枢機卿を食った時点で我らには手に負えまい。だが、口には出来ない。俺にはイポスという影がついてきていて、イポスの耳に入れば殺されてしまう。
「そんな国と同盟を組むなんてとんでもない事だ。陛下は全く情勢が分かっていない。アルブムはオロールをあっという間に滅ぼしてる。それほどの戦力を相手に、帝国が戦争をするとは狂気の沙汰だ!」
「確かに兄上らしくはない。何かあったのか?」
俺はアルトゥル兄上の性格を知っているだけに不思議に感じる。周りの声に耳を傾ける人だった。そりゃ、無茶ばかりこっそりやらかす人だが……公でやんちゃなんてしなかった。皇帝になってくるってしまったのだろうか?
「さらにもう一つある。これは……内密にしてほしいのだが…」
「内密も何も私には話す相手もいませんよ…」
「獣王国の主要派閥は同盟に反対のようでな」
「反対?」
「獣王国は帝国を見下している部分がありまして、弱い皇帝などと組む同盟などないと」
獣王国の戦闘力主義ここに極まれりという言葉に俺も納得してしまう。
獣王国はそういう部分がある。
「私は皇帝陛下を御諫めしているのですが聞き入れてもらえない。獣王国は同盟の為に多くの幹部が帝国に来るようですが、皇帝陛下を殺そうとする者達も多く来るようです。あのような信頼できない親衛隊を率いてはその身さえ危ない」
「リューネブルク公爵とアルブム王国は私に次の皇帝として立ってほしいという話はつまり…」
「ええ、万一に備え我々の側に立っていただきたいのです」
「ですが私は父に廃嫡されています。帝位継承権を持っていません」
「公爵家への後押しとしてですよ。陛下が降りれば、最右翼だったエレオノーラ様ですが、そのエレオノーラ様が元男爵と婚姻し臣下に降りる予定です。そうなると次は我が公爵家です。ラファエラ殿下はアルブムとの戦争推進派、ヴィンフリート殿下は後継者問題に難があり勢力は少ないですからね。元より母親はどことも知れない身の上。最後の一押しとして殿下が我が娘と婚姻する事でより帝位に相応しい家であると示せればと考えております」
その言葉にエリアスは理解を示す。
確かにもしもアルトゥル兄上が倒れれば、次は7歳あたりの子供になるが、さすがにそれは不可能だ。公爵家が後見になるか、そのまま公爵家が継ぐという話になるのが当然だろう。
現存する公爵家はレーベンブルクとリューネブルクだが、レーベンブルクよりはリューネブルクの方が皇帝の血縁としては近い。
「無論、皇帝陛下の個人所有の親衛隊如きが次期獣王を相手に守れれば何も問題ない話ですが」
帝国は帝国で危うさを感じるエリアスであった。
そして厄介な状況を感じて頭が痛くなるのだ。
どちらも泥船だ。……これがあのレオナルドの皮をかぶった男の策という事なのか?
自分も乗っている泥船である事を感じながらそんな事を想うのだった。