4章21話 ヒヨコのお休みがエンディング
元町長さんと剣聖皇女さんの結婚式がメルシュタイン領ヴァッサラントの大聖堂にて盛大に行われる。
多くの偉い人達がたくさんいた。
何でヒヨコがそんな事を知ってるのかって?
なんとヒヨコ用の席があるからなのだ、ピヨピヨ。
今まで常にこのようなときは雑に扱われていたのに、ピヨ様と書いてある場所に座る事が出来た。分かっているな元町長さん。結婚式万歳。
お嫁さんはとってもきれいだった。
8~9年も想い続けた末の大恋愛というんだから恐るべき執念である。
結婚式で花嫁のブーケを取ったのは行き遅れ神官さんだった。ブーケが空を舞った時、婦女子達がワーッと手を伸ばす中、そのブーケを手にしたのだ。
両肘を張り、相手を後ろに押し出して素晴らしいタイミングでジャンプ。そして右手で巻き込むようにしてブーケを奪い取る。
奴の跳躍ならば湘●の赤頭にも勝てるやもしれぬ。
……ピヨピヨリ。湘●の赤頭ってなんぞや?
……ピヨッ!?
空飛ぶ赤!?まさかヒヨコの兄ちゃんか!?
いやいや、ヒヨコにはそんな記憶はない。ヒヨコには関係ない事だ。
***
披露宴では豪華メンバーが参加している。
出し物としてトルテと共にフルシュドルフダンスを踊る事で仕事を果たしたのだ。豪華なオーケストラをバックに踊るのは爽快だった。
マスターとイグッちゃんは仲良しの様でエルフのお兄さんと3人で一緒に話していた。トルテはヒヨコとステちゃんと一緒だ。フォークとナイフを出されてもヒヨコは嘴でしか食えないのだが。
「きゅうきゅう(ヒヨコはフォークもナイフも使えないとかイケてないのよね)」
そう言ってフォークとナイフを持って食事をするトルテ。
まさか、トルテに後れを取るとはなんという屈辱。
だがトルテよ。フォークで肉を差して食べているだけで全くナイフが役に立ってないぞ?
「ピヨピヨ(そう言えば剣聖皇女さんの親族からの呪いの祝辞は置いておいて、内輪でやる披露宴にどうしてヒヨコ達が呼ばれているのだろう?)
「そうね、祝辞は置いておいて、その件だけど、結婚の立役者だからよ?披露宴への参加はご褒美的な?」
なるほど、そう言えば元町長さんの呪いを解いたのはヒヨコで、剣聖皇女さんが元町長さんを確保できたのはステちゃんの占いだった。
トルテは何でいるの?まあ、独りぼっちだと寂しいだろうから仲間に入れてやろうって感じだな。
それにしても、元皇帝陛下たちからの祝辞の内容は酷いものだった。
剣聖皇女さんを祝っているように聞こえるが、お前の家の子が問題を起こしたから退位するのに、何でそっちは勝手に結婚式してるの?遠慮とか無いの?皇子の人数がそっちの方が多いんだけどどういう事?そりゃ剣聖皇女さんは行き遅れていたし、元町長さんを囲えるから嬉しいけど、空気読んでよ?
そんな皮肉が効いている祝辞、否、呪辞であった。
気持ちは分からんでもない。皇帝の交代があるというのに当の帝位を引き継ぐ皇太子以外の皇子は全員いないのだ。種馬皇子と残念皇女さんは平民上がりの妾姫の子なのでいなくても問題はない。
残念皇女さんはむしろ問題を起こすから種馬皇子に依頼して外に連れ出したというのが正しい。
だが、ここに剣聖皇女さんの結婚式に参加となると、話は変わってくる。皇子達が全員で退位式と即位式をボイコットして剣聖皇女さんの結婚式を優先したような感じになってしまう。
新しい皇帝陛下はどんな人なのだろうか?
新皇帝陛下さんとやらの祝辞はとっても喜びに満ちていた。可愛い妹に夫が出来た。早く俺の部下として出仕させよ、人手が足らんといった感じだった。新皇帝陛下さんとは元町長さんは知り合いっぽい雰囲気があった。
だが、家族のいない即位式、さぞや寂しい思いをしているだろう。
***
結婚披露宴が終わり、解散となる。ヒヨコはステちゃんと一緒に式場を後にする。
エルフのお兄さんやイケメンオークさん、残念神官さんと一緒である。
皇族連中は残って何かあるらしい。まあ、王侯貴族は貴族付き合いがあるのだろう。ヒヨコ達には関係ない話だ。
「ピヨピヨ(ステちゃん、ステちゃん。そう言えば次の皇帝陛下ってどんな人なの?)」
「さあ、私も帝国民ではあるけど貴族とかじゃないし、その手の話は全く知らないけど」
ヒヨコの問いにステちゃんは首を捻る。
「ピヨピヨ(家族に祝福されず戴冠するのはさぞ心苦しかろう)」
「先帝陛下の皮肉交じりの祝辞は凄かったな」
そんなヒヨコお声を聞いて苦笑するのはエルフのお兄さん。
「ピヨヨ?(エルフのお兄さんは次の皇帝がどんな人か知ってるのか?)」
「無論知っている。というか皇帝は帝位争い時にメルシュタイン家へ多大の恩義が出来ているからな。だからエリアスが帝位継承権1位だった訳だが、実力で選ぶならば長男のアルトゥル一択だっただろう。ただ、本人はそこまで帝位に拘りがないからなぁ」
次の皇帝評価は意外に高い評価のようだ。
「ピヨピヨ(つまり良い人なのか?)」
「良い人かどうかは………分からんが。基本的に皇帝陛下というよりは山賊の親分みたいな感じだしな。武力があった訳ではないが、エレオノーラ殿下が唯一頭の上がらない人間でもあった。見た目に反して最も器が大きい皇帝向きな皇族だな。ラファエラやヴィンには常にアルトゥルを見習えと教えていたし」
エルフのお兄さんは腕を組みうんうん唸りながら褒めているようで、さりげなく酷い事を言う。
「ピヨピヨ(見た目、全否定か!?)」
「先帝陛下の奥方は3人いて、アルトゥル様はケンプフェルト辺境伯令嬢で歌姫とも呼ばれていたアデーレ様の息子でな。アデーレ様は姉御肌で気が強い人なんだが、性格だけは母親似、顔立ちは陛下をワイルドにしたような感じで、なんていうか全て悪い方向に受け継いだというのが正しいんだが」
「きゅうきゅう(姉御肌、まさにアタシの為にある言葉なのよね!)」
「ピヨピヨ(ワイルドというとヒヨコのような感じか)」
「いや、そんなファンシーな感じではない」
エルフのお兄さんはヒヨコ達をバッサリ斬り落とす。おかしいな、野生のヒヨコなのだが、いつの間にかシティボーイになってしまったのだろうか?
だが、思えばヒヨコは鳥生の半分以上を帝都で過ごしていた。これはもしかしなくても、ヒヨコはシティボーイだったのか!?
しかしどんな新しい皇帝さんなのだろう。剣聖皇女さんの頭が上がらない山賊みたいなおっかない人?……世紀末辺りでヒャッハーとか言っちゃうのだろうか?
そんなのを皇帝にしてこの国は大丈夫なのだろうか?いや、ダメだろう。
この国の未来はどっちだ?
***
「へーっくしゅ」
ここはローゼンブルク帝国ローゼンブルク城にある皇帝執務室。
「大丈夫ですか、陛下?」
くしゃみをした新しい皇帝アルトゥルを気遣うのは引き続き宰相を務めるクラウスである。
「誰か噂でもしてるのかもしれないな」
「は?」
「異世界ではそういう迷信があるらしい。勇者語録に書いてあった」
「まーた、そういうつまらない本を読んでばかり。相変わらず本の虫ですね、見た目に反して」
クラウスは呆れたようにぼやく。
目の前の皇帝アルトゥルは幼い頃から一つに拘らず色々と手を出しており、見た目は山賊の親分風なのだが、いろんなジャンルの本を好んで読む乱読家である。本だけでないのがこの皇帝の変わり者と呼ばれる所以ではあるが。
「見た目は関係ないと思うが。そもそも俺は本だけじゃない」
「昔から何でもある程度収めるまでやっていましたからね」
「その点で言えばヒューゲルは羨ましいぐらいにセンスがあるよな。アイツは俺と違ってそれなりに出来るというレベルで満足しないで、何でも一流になるまで極めるからなぁ。才能がある奴がうらやましいぜ」
「全くですな」
ヒューゲルは非常に技能が高い。大体、物事を覚え始めればスキルレベル3~5くらいまで身に着ける。スキルレベル3まで行けば一流レベル。レベル5は国でも極めるレベルだ。何かに手を出せばプロも真っ青になる所までやれてしまうのだ。アルトゥルの場合はレベル1~2に留まる。市井で商売程度は出来るだろうが、一流というレベルには達しない。
いろんな分野に手を出すという意味では似た者同士でもある。
「ああ、でもエレオノーラが上手く捕まえたし、クラウスも少しはゆっくりした時間が取れるぞ」
「後継者不在は厳しかったですし、私ももう良い歳です。ギュンター殿もいますし、ついにあのヒューゲルも年貢の納め時ですから。ありがたい事です」
呪いの問題があり結婚なんてとんでもないとヒューゲルは徹底して避けていた。エレオノーラは8年以上も追いかけつつも呪いを解く方法を探していたのだから恐ろしい執念でもある。
その執念がついに実ったとも言えるだろう。まったく関係ない所でだが。
「あの脳筋妹には手を焼かされて来たが、最高の仕事をしてくれた。皇族になった以上、奴には馬車馬のように働いてもらう。くくくくくく」
新しい皇帝陛下は山賊の親分が悪だくみでもしているような、悪い顔して笑うのだった。
クラウスはどこか遠くを見ながら溜息を吐く。
ヒューゲルとは何度となく共に仕事をしており、フットワークが軽く、争いなどがあれば現場でも活躍できるため非常に有用な存在であるのは認識している。
が、今度の皇帝は人使いが非常に荒く、そして無茶も多い。先帝は当人が自覚しているように能がないので現行政権を維持し基盤を整える事に腐心していたが、今回は発展させるだろう名君である。ヒューゲルは自分以上に苦労するだろうなと感じるのだった。
***
結婚式から2日が立った。帰りの前日、ヒヨコはこの常夏の土地でマスターの下、人化の法を学んでいた。
海岸沿いの人のいない海辺でヒヨコ、トルテ、マスター、ステちゃんの4人が集まっている。
ステちゃんは白いワンピースに日傘を差して、どこかのお嬢様風にヒヨコ達の訓練を眺めていた。トルテは冷たそうな岩肌の上に座っている。やはり常夏の街の岩肌は熱いようで日影が良いらしい。
マスターは亀の姿でヒヨコを見上げていた。
「ピヨピヨピヨ~!」
魔力を体に集める。今ならヒヨコはスーパーヒヨコ人にもなれる位の魔力が溜まっている。頭の上に生えているアホ毛が金色に輝きふわふわと起きている、ような気がした。
「そうです。魔力を体の変換に集中させるのです。そこから体に血が流れるように動かします。人間と同じような体をイメージして。魔力は全て内側に留めて循環させるのです」
マスターはヒヨコへアドバイスをする。
「ピヨッ」
「以前も教えたように第一段階は人間と同じ頭の大きさになる事です。そこから徐々に体を人間化させていくのです。私と違いヒヨコ君は体形が人間に近いので私よりも上手くできるでしょう」
「ピヨピヨ~」
「きゅうきゅう(カメはどのくらい時間かかったのよね?)」
「私はまず体が大きすぎるのでレベル5~6までは延々と縮小してました。恐らく10ステップがある内で、体のサイズを人間に近づけるのが一番大きかったのでしょうね。例えば猿とかならもう少し簡単で早かったかもしれませんが……」
「ピヨッ(取り敢えず分かったぞ。物は試し、もう一度チャレンジだ)」
ヒヨコは体に力を集めて頑張っているのに、トルテとマスターは勝手に雑談を始めようとしていた。もっとヒヨコをかまって欲しい。
「そうですね。伝えるべきことは伝えました。後は魔力で体を作り替えるのです。」
「ピヨピヨ(これはもっと変則的な変身の方が良いのだろうか?)」
「変則的?」
「ピヨッ(これまでヒヨコはヒーローになるつもりで人間に変身しようとしていた)」
「ほうほう」
「ピヨピヨ(その方向性そのものが誤っていたのではないだろうか?もっと、こう、可愛い系で攻めるべきだったかもしれぬ。ピヨちゃんも可愛いし)」
「まあ、亀的には小さくなる事第一だったので、ヒヨコ君にはヒヨコらしい変身方法があるのかもしれませんね」
マスターは考えるようにして腕を組む。
ヒヨコのイメージは、こう誰にもばれずに人間になる、ひみつのピヨちゃんをイメージした。
よし、何となく固まって来たぞ。
それはヒヨコ、ヒヨコヒヨコ、ヒヨコのピヨちゃん!
「ピヨピヨピヨヨ、ピヨピヨピヨヨ、ピヨピヨヨピーヨ(テクマクピヨヨンテクマクピヨヨン人間にな~れ)」
シーン
残念何も起こらなかった。
※起こる訳ないでしょう
「ピヨピヨ(ちょっと違ったかな?何かが足りないような気がする)」
「きゅうきゅう(狙いは悪くないような気がするのよね)」
トルテはよさげだと感じたようで励ましてくれる。
「ピヨッ(トルテもそう思うか!)」
ヒヨコはちょっと考える。
「ピヨピヨ(変身力が足りないのかもしれない。ならば……こう、ヒヨコパワーをあげてみよう)」
ヒヨコはぐぐぐっと魔力を体に込めて
「ピヨーピヨピヨピヨー(ピヨー、ヒヨコパワー、メイクアーップ!)」
シーン
ピヨピヨどうやらこれでもないらしい。これではヒヨコに代わってお仕置きが出来ないぞ。
やはりアイテムが必要のようだ。
※変身アイテムが必要な人化の法はありません
「きゅうきゅう(もっとお姫様のような感じが良いのよね)」
「ピヨ~(それはトルテの話であるが、ちょっと参考にしてみよう)」
「きゅうきゅう(ステラ、何かいいアイテムはないの?)」
ステちゃんは欠伸をしている所をトルテに振られて、私?みたいな感じで首を捻る。
ステちゃんはハンドバックから何かごそごそ探して一本のリボンを取り出す。
「うーん、じゃあ、これをアホ毛に付けよう」
ステちゃんはヒヨコの頭にリボンを結ぶ。
「ピヨッ!(それは何かイケそうな気がする!)」
「きゅうきゅう(キーアイテムはリボンなのよね!)」
ヒヨコはむんと力を込めて庭にある池を眺めつつ両翼で顔を隠し
「ピヨピヨピヨピヨ(ピヨレルピヨレル、人間になーれ)」
シーン
「ピヨピヨ(違ったか。良い線いっていたと思うけどなぁ)」
「きゅうきゅう(あと一歩って感じがするのよね)」
※それはお姫様な感じはなく姫ちゃんです。元気すぎるヒヨコは嫌いです。
「人化の法って、呪文とか無いの?」
ステちゃんは首を捻ってマスターに問う。
「うーん、そう言えば人化の法を学ぶ際に勇者様から呪文のようなものを習いましたが、何も役に立ちませんでしたね。勇者様といた頃は実は賢さが低かったのであまり記憶にもありませんし。そもそもステラさんも人化の法で呪文なんて使ってないでしょう?」
マスターは考えながら口にして、ステちゃんはその言葉を肯定するようにうなずく。
「ピヨピヨ(勇者ってロクでもない事ばかりしていたから、ヒヨコは信用できないな。奴は魂から腐ってやがるとみている)」
マスターの言葉にヒヨコは首を横に振る。
「そ、そうですか。……いや、まあ良いんですけど」
マスターは何故か憐れむようにヒヨコを見ていた。
なんだろう、何か変な事を言ったのだろうか?
※その腐った魂、今は貴方ですよ?
「さあ、体に魔力を循環させてください」
「ピヨッ」
ヒヨコは体に魔力を循環させる。
「そう言えば昔お母さんに聞いた事が有る。頭の上にはっぱを乗せてドロンと変身するのが良いとか。そうお母さんが聞いたって」
ステちゃんは手を打ち、ヒヨコのリボンを外して、代わりにそこらに落ちていた落ち葉をヒヨコの頭に乗せる。
「ピヨッ!(何か変身できそうな気がするってばよ!)」
「きゅうきゅう(何が方向性が決定的に間違っているのような気がするのよね)」
トルテはしきりに首を傾げていた。
ヒヨコは翼と翼を合わせて印を組む。いや、印っぽい何かだが。
「ピヨヨ!(変化!)」
シーン
「ピヨピヨ(どうしてだ!ヒヨコは人になれないのか!?)」
「やっぱり無理か―。お母さんは勇者様から聞いた方法だって聞いたけど」
「ピヨピヨ(それはダメな奴だ!)」
何故、勇者のよく分からないネタをつかわせるのだ。
アイツは大体ロクでもない事ばかり残している。きっと人間のクズに違いない。魂が腐ってやがる。女に生まれたら腐女子一直線だ。ヒヨコはそう確信しているのだ!
マスターはうーんと考えながらヒヨコを見る。
「魔力の練り方は十分、魔力量も十分、ヒヨコ君は人間のイメージが足りないのでしょう」
そして、アドバイスを送ってくれる。
「ピヨピヨ(イメージ……。そうなのか?)」
「はい、ヒヨコ君が人間に至るに9段階ほどで人間になっていく姿を想像してください」
「ピヨピヨ?(9段階?)」
「そうです。まずは人化の法はレベル10まであって、レベル9に達すると完全に人間の姿になります。そしてレベル10になると人間そのものになるのです。同時に帰化の法を覚えつつ神眼でも人間種族になれるのが人化の法LV10なのです。いきなり人間になろうとするから上手くいかないのかもしれません。ステップ1を意識するのです」
マスターが言うにはかなり段階を踏まないと慣れないからまずはファーストステップに向けるべきだという。
ヒヨコから人間に至る9段階?
難しいので逆算的に考えてみよう。
LV9 人間
LV8 人間だけど翼とか生えてる人
LV7 ヒヨコの特徴を持った人
LV6 主要ポイントがヒヨコな人
LV5 人間と同じ体形のヒヨコ亜人
LV4 哺乳類化したヒヨコ
LV3 鳥足を脱却したヒヨコ
LV2 翼が手っぽくなったヒヨコ
LV1 人間と同じ頭の大きさのヒヨコ
猿が原始人経由で人間になるようなイメージだろうか?ヒヨコ的にはこんな感じでOK?
若干気持ち悪いが………。
「ピヨヨ~?」
なんだろう、人間になりたいのに、人間でもヒヨコでもない何かを想像するのは難しいぞ。
するとボムッとヒヨコのイメージが魔力に干渉し骨格が変わっていくような感じがする。
『ピヨは人化の法LV1のスキルを獲得した』
何故かヒヨコの視線が非常に低い場所に移動していた。はて、どういう事だ。
「ピヨッ?」
「おお、できましたね」
「っていうか何で人に代わる方向性なのに、ヒヨコが小型化しているの?」
「きゅうきゅう(ヒヨコがアタシと似たサイズになったのよね)」
「ピヨヨ?」
ヒヨコは不思議に思い周りを見渡す。視線が低くなり妙にトルテが大きい。ヒヨコは人化の法を成功させたようだ。
しかし、口内を舌で舐めてみるが歯が生えたわけでもないし、足を見てもヒヨコ足のままだ。近場の池に行ってみてみる。
池の水面に映ったヒヨコはそれはもうヒヨコちゃんだった。隣にトルテが並ぶとトルテよりも若干小柄なヒヨコちゃんだった。
「ピヨピヨーッ!(小さくなってるー!)」
「なるほど、ファーストステップは人間と同じくらいの頭蓋骨のサイズになると言う事でしたか。そう言えば頭の大きさだけならヒヨコ君は人間の倍以上の直径がありましたね」
「ピヨピヨ(まさか人間になるのに一度小さくなるとはこれ如何に?)」
「とはいえ、これで人化の法LV1になりましたね。後は日々訓練して覚えてください」
「ピヨピヨ(おお、姿は釈然としないがついにヒヨコは人化の法を習得しました。ありがとうございます)」
「いえいえ」
ヒヨコは小さい姿のまま翼で胸を叩き。
「ピヨピヨ(困ったらいつでもヒヨコを呼んでください。ヒヨコは駆け付けますぞ!)」
「まあ、ヒヨコ君がいつか鳥になったら頼みますか」
鳥か………ヒヨコの鳥への道程は長いな。
次の進化までレベル59である。アホ毛期間はレベル100までのようだし、長い戦いが続きそうだ。だが、さすがにそれを越えれば今度こそ鳥になるんじゃないだろうか?
※さて、それはどうでしょう?
「それでは私はまた流浪の旅に出ますか」
「ピヨピヨ(師匠よ、どこかに出かけるのか?)」
「ええ。他の大陸にでも遊びに行こうかな、と」
「ピヨ?(ホカノタイリク?)」
「この大陸は魔神が降りて以来色々と動いてますが、他所の大陸も他所の大陸で大変なので」
「ピヨピヨ(じゃあ、いつかマスターの所に遊びに行くよ)」
「そうですね。楽しみにしています」
マスターはそう言うとその場を去ろうとする。
「…………それでは、また」
マスターはそう言ってウミガメフォームとなり海へと帰っていく。次に会うのは何年後だろうか?だが、今度出会った時は、ヒヨコは鳥となって鹵獲して見せる!
海へ帰るマスター。プカプカと浮かびながら姿が見えなくなっていく。
「きゅうきゅう(しまった!カメを行かしちゃダメなのよね!)」
トルテはマスターに声をかける。が、既にマスターは見えなくなっていた。
一体何事だろうとヒヨコとステちゃんが首を捻る。
「きゅう(預かってもらっていた1体のヒドラ肉は亀のアイテムボックスの中!持ち逃げされたのよね!)」
ガーンッ!
「きゅうきゅう!(持ち逃げされた今すぐ追うのよね!)」
「ピヨヨーッ(マスター!)」
「きゅう(うかつだったのよね!)」
がっくりとするヒヨコとトルテ。それはもうがっくりだ。
「明日で帰るからどちらにしても諦めなさいな」
「ピヨピヨ(なんてこった)」
「でも、このスタイルの方が可愛いわね。最初に出会った頃からこの位のサイズだったら快く飼ったのに」
「ピヨヨーッ(そんなーっ!)」
ヒヨコはこっちの方が可愛いサイズなのか!?確かにでっかかったけど。
「きゅうきゅう(ヒヨコより大きくなって嬉しいのよね)」
「ピヨピヨ(ヒヨコより大きくなったのではなく、ヒヨコがトルテより小さくなったのだが)」
「きゅうきゅう(今日からお姉さまと呼ぶが良いのよね!)」
「ピヨヨー(ないわー)」
ヒヨコ肩を竦めて息を付くとトルテが角でヒヨコを狙ってくる。だがヒヨコはその攻撃を流水でかわしつつ嘴で反撃を狙う。
カツンカツンと互いの嘴と角が交差する。
「はいはい、喧嘩しないの。明日帰るんだからね。喧嘩する子は船に乗せないからね」
「…ピヨピヨ(な、何を仰る狐さん。こんなに仲良しなのに)」
「きゅうきゅう(そうなのよね。ピヨドラバスターズは永遠に不滅なのよね)」
ヒヨコとトルテは肩を組んで仲良しアピールをする。
「今日は皆に挨拶して明日には帰るからねー」
「ピヨピヨ~」
「きゅきゅ~」
ヒヨコは捨てられないように従順に生きて行かねばならぬのだ。
少なくともこの常夏の街では。
こうしてヒヨコ達のバカンスは人化の法を習得するという事で幕を閉じたのだった。
あとがき担当の女神です。
一応、今回はネタ回、という事で。ヒヨコの変身シーン、最初の三つは可愛い方向性、という事でどうやら変身少女アニメ系で攻めているようです。
『ひ●つの●ッコちゃん』、『セー●ー●ーン』、そして『●ちゃんのリ●ン』という事で。そして頭の上にはっぱを乗せたのは方向性を一気に変えて少年漫画から『ナ●ト』です。
ちなみにシュンスケが亀に教えた呪文は
『亀、使命を受けし者なり。魔法のもと、その姿を解き放て。風は空に、星は天に、そして、不屈の心はこの甲羅に。この手に魔法を』
という明らかに何かの魔法少女をパクっていた為、割愛しております。ええ、覚えているでしょうか?私が第2話で作者に言わされた次回予告での一節のアレと同じです。
しかし、ついに勇者の残したネタはヒヨコ達には却下されるところまで来てしまいました。本当にシュンスケはダメダメですね。
とはいえ紆余曲折有りましたがついにヒヨコは人化の法LV1を獲得。おめでとうございました。まあ、まだ小さくなるだけですが。これがいつかの布石になると良いですね。
さて、ついに5章へと突入します。と言いたいですが閑話やキャラクタープロフィールが入ります。
キャラクタープロフィール、一応、主要キャラは全員作っているんですけど、面倒なので一々公表してなかったというのがあります。あと、プロットなしで進めた為、前後のつじつまが微妙に合わなくなるので落ち着くまでは積極的に公開する予定はありません。
が、作者が全然描けていないので5章からはスローペースになると思います。
そう、奴はつまりここに来て時間稼ぎです!
身も蓋もないですが……土日にはあげると思いますので少々お待ちください。




