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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部4章 帝国北部領メルシュタイン ヒヨコの慰安旅行
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4章19話 ヒヨコの大脱出

「ピヨッ!」

 世界がひっくり返った。

 そして次の瞬間地面が頭上から押し寄せてくる。

 ヒヨコは戦慄した。自分でも説明していてよく分からない。よく分からないがクシャッと潰されるような感じがする。

「ピヨヨーッ!(<爆炎吐息(ボンバーブレス)>!)

「きゅうきゅう(もしかして、これ、食われたのよね!?)」

「ピヨピヨ(上から土が迫ってくる!潰れる!)」

「きゅう~、きゅう!(<雷光吐息(ライトニングブレス)>!)」

 凄まじい轟音と閃光を放てど、全く土には効かない。効くはずもない。電気は土の中に吸収されて行くからだ。

「ピヨピヨピヨ(ヒヨコ達のスペースを確保しないと!)」

 恐らくヒヨコ達は今、あの巨大蚯蚓に下から食われて、それから地面に再び潜ろうとしているのだろうと想像する。

 地面に戻る、つまり再び地面に戻ろうとすることで、ヒヨコ達は蚯蚓の食った地面を足場に、潜る事で地面と地面でサンドイッチされてしまう。

「きゅうきゅう(不味いのよね!)」

 トルテは頭を抱えて丸くなる。

「ピヨッ!(<聖結界(セイクリッドシールド)>!)」

 球体がヒヨコとトルテを包み込み防御膜となり土と土でサンドイッチされるギリギリを守る。


「きゅ、きゅう?(……た、助かったのよね)」

「ピ、ピヨピヨ(神聖魔法で結界を張ってどうにか我々の生存スペースを確保した)」

「きゅう!?(ヒヨコのくせにそんな素敵スキルが!?)」

「ピヨピヨ(とっさに出たわけだが、何でヒヨコが使えるのかは分からない。だが、これからどうする?)」

「きゅう~(手も足も出ないのよね。おのれ、蚯蚓の分際で)」

 トルテは悔し紛れに地面をゲシゲシと蹴る。すると再び世界がぐにゃりと曲がりヒヨコ達はゴロゴロと転がってしまう。

 お腹の中というよりは土の中という感じである。球体の結界で守っているのだが、蚯蚓の体内というよりも、ヒヨコ達が見渡す限り一面が土砂に覆われていた。


「ピヨピヨ(そんなトルテ君にヒヨコから悲しいお知らせです)」

「きゅうきゅう?(何か問題でも?)」

「ピヨッ(なんと、このまま待つのは良いのだが、やがてう●ことして排出されるのです!)」

 ヒヨコの言葉にトルテは己が電撃を受けたかのようなショックそうな表情をする。


「きゅきゅきゅー」

「ピヨピヨピ~ヨ~」

「きゅきゅきゅー」

「ピヨピヨ~」

 二人で愕然として音楽(※バッハ作『トッカータとフーガニ短調』)を流しつつ跪く。栄光のヒヨコとドラゴンがまさか蚯蚓のう●こになってしまうなんて信じたくない事実だった。


「きゅうきゅう(ヒヨコ!ドラゴンから蚯蚓のう●こに種族進化なんてしたくないのよね!どうにか、どうにか脱出法はないのよね!?)」

 確かに女神様の事だ。きっと種族を蚯蚓のう●ことか書き換えかねん。

 ヒヨコにいじめをするに決まっている。どうにかせねばなるまい。


※さすがに変更する予定はありません


「ピヨピヨ(この結界は外からの衝撃からは守るけど、中から外へ干渉可能な筈。さらに、ワームは長いからヒヨコ達が出て行くには時間が掛かる筈)」

「きゅうきゅう(つまり?)」

「ピヨッ!(つまり、結界の中から蚯蚓君に圧をかけて、ケツから出るのではなく横から体を突き破って出て行けば良いのよね!)」

「……」

 ピヨピヨリ。トルテの口癖が移ってしまった。

 だがトルテは真似すんなという感じの冷たい視線を送ってくるが、う●こに進化しない方法に気付き仕方なしと考えたようで、


「きゅうきゅう!(やってやるのよね!)」

 と拳を握る。


「ピヨピヨッピヨ~」

 ヒヨコはくるくる踊ってからトルテと共に頷く。


 トルテはカパッと口を開けて<雷光吐息(ライトニングブレス)>を吐く。

 すさまじい轟音と光と熱が走るが……

 周りは岩ばかりなので全然ダメージが入ったかどうかも分からない。電撃が走りピリピリと震えるがヒヨコの結界を越えて雷光がこちらに迫る事は無かった。

 結界は完璧に機能している。

 が、トルテの<雷光吐息(ライトニングブレス)>は蚯蚓のお腹とはどうも相性が悪いようだ。


「ピヨピヨーッ(<爆炎吐息(ボンバーブレス)>!)

 ヒヨコの爆炎が炸裂する。

 結界の外にある岩が爆発して吹き飛ぶ。しかし、無くなった場所にヒヨコによる球体の結界がコロリと転がるだけだった。


 今の状態を例えるならば、土砂の詰まったダクト内に埋まったボールの中という状態である。

 ヒヨコ達はそんな渦中にあり、つまり土砂を壊せば次の土砂が埋まる。横には動いてもどう考えても土砂の流れには逆らえそうにない。


「きゅうきゅう(ヒヨコ、アタシにはもはや何も出来ないのよね。)」

「ピヨピヨッ!?(諦めるの、はやくない!)」

「きゅ~(だって、電気が効かないのよね。物理で殴れないんじゃもうトニトルテさんはただの可愛いドラゴンなのよね。なのに、もはや蚯蚓のう●こ、略して可愛いう●こ、待ったなしなのよね。涙で視界がにじみそうなのよね)」

 トルテは奥の手だと思っていた<雷光吐息(ライトニングブレス)>が全く効かないことに諦めた様子だった。

「ピヨピヨ(諦めたらヒヨコ達はう●こ扱いだよ)」

「きゅう……。きゅうきゅう(ヒヨコ………。でも、もはや手も足も出ないのよね)」

 手も足も出せないのは結界のせいではあるが。結界があるから潰れずに済んでいる。なくなれば潰れて死ぬだろう。

 トルテは両手を地面について悲し気にぼやく。

「ピヨヨ?」

 だが、両手を付いたその先に、ヒヨコの足元が何やらヌメッとした感触が感じる。土砂に覆われている中でなぜか生き物のヒダが出る壁が足元にあった。

「きゅうっ!?」

 柔らかい感触にトルテは慌てて空を飛んでにげる。

「ピヨピヨッ!?(結界ボールが転がって壁にくっついた?つまり蚯蚓の本体!)」

 ボールが転がった先、蚯蚓の本体とも言うべき消化器官?胃袋?腸?だかよく分からないけど、蚯蚓の体に接触したようだ。


「きゅうきゅう(フーハーハーハーハー。蚯蚓め!ここであったが100年目!くたばりやがれなのよね、<雷光吐息(ライトニングブレス)>)」

 敵が見えた瞬間、急に元気になったトルテは雷光を口から放つ。


 ドドーンと耳をつんざくような轟音を立てて蚯蚓の腸を抉る。


 するとごっそりと焼けた体は灰になって大穴を作る。そこにヒヨコの作った結界のボールがコロリと転がり、スポッとはまるのだった。

「ピヨピヨ(おー、やったぞ、トルテ。体に引っ掛かってう●こになる未来から逃げられた!)」

「きゅうきゅう(このトルテ様に任せるのよね!)」

 トルテはエヘンと腰に手を当てて無駄に偉ぶる。

「ピヨ(でも、こっからどうしよう)」

「きゅうきゅう(………確かに、どうしよう?)」

 トルテもそこまで考えていなかったようだ。体を貫けると思って吐いたブレスが大穴を開けても体に穴をあける程のダメージを与えてはいない。そして体は予想を超えて分厚そうだ。透明感ある体なのに全く外が見えないのだから。

 ブレス一発で貫けるとは思えない。


 あまりにも巨大すぎる蚯蚓と戦うには、ヒヨコ達は無力だった。

 ヒヨコ達は土砂がずるずると一定方向に流れるのを眺めながら、本当にどうしようかと考える。

「きゅうきゅう(そうだ、ヒヨコ!ヒヨコのブレスで蚯蚓の中を流れる土砂を水にするのよね。水になった所をトニトルテ様が雷光吐息(ライトニングブレス)で一網打尽なのよね)」

「ピヨ?(ヒヨコにそんなよく分からない謎ブレスがあるとでも)」

 固体を水にするとか女神様でも無理なんじゃね?

 そういう錬金術は使えないのだ、ヒヨコは。


「きゅ~う?(父ちゃんとか吐くと大地とか山とかが水になるのよね)」

 トルテさんや、それは水ではなくて高熱で溶けた大地、つまりマグマだ。マグマになったらヒヨコ達はとっても危険な状況になってしまうのです。

 いくら結界があったとしても足元が熱くてたまらんだろ。砂浜でさえアチチアチチ言ってたトルテが何を………


 いや、待てよ、トルテは空を飛べるし、ヒヨコは熱いのには強い。というか現状トルテはヒヨコの頭に乗ったり空を飛んだりと地面に降りていないのだ。

 何より結界が守ってくれるだろう。この結界は火魔法からも守ってくれたはずだ。


 案外、トルテの案は妙案なのでは?

 先ほどからグネグネ動いてはいるが、足元は意外と安定している。恐らく蚯蚓にも上と下の感覚はあり、丁度体の腹側を足場に出来ているのだろう。

 さっきから重力方向がグネグネと変わってバランス感覚を取るのが大変だけども。

「ピヨピヨ(なるほど、ならばヒヨコもそれに乗ろうじゃないか)」

「きゅうきゅう(話が早いのよね!)」


 ヒヨコの火吐息のレベルは7に達している。


 レベル1で<火吐息(ファイアブレス)>、レベル2で<火炎吐息(フレイムブレス)>、レベル4の時に<火炎弾吐息(バレットブレス)>、そしてレベル5でその連射バージョンである<火炎連弾(ラピッドファイア)吐息(ブレス)>、そしてレベル7になって<爆炎吐息(ボンバーブレス)>となった訳であるが、ヒヨコは実用性が低いブレスは使ってこなかった。

 レベル6の<溶融吐息(メルトブレス)>だ。まあ、レベル6のブレス使ったことが無いから効果のほどは分からないけど、その一歩手前の高熱にする吐息であろう事が予測される。


 <溶融吐息(メルトブレス)>はモヤッと超高温の息を吐きだすのである。

 通常熱い息は吐くと空へと昇るものだが、吐けば霧のように炎の靄が地面を覆い尽くすような感じで広がる。

 火山で言う所の火砕流みたいな感じの吐息(ブレス)だ。

 包まれたモノは焼死体となって発見されるだけで、狩りには全く向かない。森で使えばボヤと言わず山火事決定。

 自然災害以外の何物でもない意味のないブレス、それが<溶融吐息(メルトブレス)>である。

 ぶっちゃけ、相手に飛んでいくわけでもないので当たる敵も皆無。実用性もゼロである。


 恐らくだが空を飛ぶ魔物が使うと非常に効果的なブレスなのだと思われる。

 だが、残念、ピヨピヨのヒヨコちゃんは空を飛べないのである。


 威力だけなら<爆炎吐息(ボンバーブレス)>といい勝負できるのだが。というかマグマにするほど高温な吐息が可能なのがレベル6からで、<爆炎吐息(ボンバーブレス)>はこの<溶融吐息(メルトブレス)>を魔力でくるんでポイして爆発させるものなのだ。この場合ポイするよりは垂れ流し続けるイメージで<溶融吐息(メルトブレス)>を吐く方が有利である。ポイしてもポイするスペースがないからだ。

 蚯蚓のお腹はマグマになるだろう。


 ちなみに


 ヒヨコは一度深呼吸して翼を広げて吸って、翼を閉じて吐くを2~3度繰り返してから、流れる土砂を睨む。

「ピヨピヨ~ピヨ~(<溶融吐息(メルトブレス)>!)」

 渾身の息を吸い込んで、魔力を腹の中で溜めて、熱したガスを一気に垂れ流す。ヒヨコの吐いたブレスが結界の外をゆっくりと流れる土砂をマグマへと変えていく。


「きゅきゅきゅっきゅきゅーっ(<雷光吐息(ライトニングブレス)>!)」

 マグマを伝って雷が走る。轟音が響き、雷が蚯蚓に響く。


「きゅうきゅう(ヒヨコ、もう一丁なのよね!)」

「ピヨピーヨ(はいよー)」


 ヒヨコの<溶融吐息(メルトブレス)>とトルテの<雷光吐息(ライトニングブレス)>が次々と放たれていく。


 5分ほど続けるヒヨコとトルテ。根気強い作業を向かない二人にしては頑張ったのだが………。


「ピヨピヨ(もう疲れた。ヒヨコが過呼吸で死にそうです……)」

「きゅうきゅう(アタシももう疲れたのよね。どうせ流されてないんだしここは休むのよね)」

 ヒヨコの頭の上にとまって息切れをするトルテであるが、ヒヨコも蚯蚓の体の中に座る。


 ヒヨコ達はたくさん頑張ったが、結局蚯蚓を倒すのは無理だった。ダメージはそこそこ与えたような気はするけど、ここからではどうなっているか分からない。

 ただ、流動していた土砂が見えなくなっていた。ヒヨコのブレスで土砂がマグマ化するが、やがて元の土、というか石化して固まり、ヒヨコ達の見える範囲の土砂はすべて石となっていた。動かなくなってしまった。


 するといきなり巨大蚯蚓が暴れだしたのか、ヒヨコとトルテの天井がひっくり返る。

「きゅうっ!?(何事なのよね!?)」

「ピヨッ?」


 ズドンズドンと大きい音を立ててヒヨコ達はシャッフルされる。ヒヨコもトルテも丸くなって身を守る。


 外からの攻撃があったのだろうか?蚯蚓が大暴れしているようだ。


 とはいえヒヨコ達は何もできそうにないので丸まって身を守るしかない。トルテはヒヨコに捕まって丸くなっている為、爪が食い込んでとても痛い。

 暫くすると大暴れしていた蚯蚓が動きを止めたのか、ヒヨコ達は蚯蚓がうんともすんとも言わなくなった。だが、まだバッタンバッタンと激しい音を立てて遠くで暴れている何かを感じる。


 何が起こったのだろうか?

 ヒヨコ達にはさっぱり分からない。


「きゅうきゅう(ヒヨコ、何か動かなくなったのよね)」

「ピヨ(もしかして死んだか?)」

「きゅう?(ヒヨコが?)」

「ピヨッ!?(誰がヒヨコゾンビだ!)」

「きゅう(ま、まさか、う●ことして排出されたのでは!?)」

「ピヨヨーッ(そんなまさか!?)」

 俺とトルテは戦慄する。お腹に良い感じに引っ掛かっていたのだ。ヒヨコ達が外に出れるはずがない。

 結界に強い圧力がギシギシかかっていたが、現在は結界に圧力は無さそうでもある。確かに外に排出されたような感じだ。

 足元に蚯蚓の体があった筈だが、蚯蚓の体が上になっておりヒヨコ達は天地がさかさまになっている。


 ヒヨコは結界を解いてみるとゴロンと足元が転がり、空が目の前に広がり太陽が見える。


「きゅうううううっ!(外に、外に出たのよね!はっ、まさかう●ことして排出されたのでは!?)」

「ピヨピヨ(やばいよやばいよ…ヒヨコ達エンガチョされちゃう)」


 トルテはピョインと空を飛びだすが、慌てて周りを見渡す。ヒヨコはエンガチョじゃないかと辺りを見渡す。


 するとヒヨコ達の近くには蚯蚓の頭が存在していた。

 ヒヨコ達はお腹から出てきたようで、どうも蚯蚓は頭が千切れて死んでいた。だが巨大蚯蚓君は遠くで頭を失ってもジタバタしている。そのうちぐったりするのだろうか?


「きゅうきゅう(どうやら死因は便秘みたいなのよね)」

「ピヨッ!?(便秘!?)」

 言われてみるとヒヨコたちの前で朽ちている蚯蚓の頭はヒヨコのいた辺りで膨れていた。

 もしかしなくてもヒヨコのブレスで瓦礫がマグマ化した。だが、それに蚯蚓の体は耐えていた。だが、マグマが固まって、腹の中の土砂が動かなくなった。

 そんな状況でも関係なく大地を食っていった為に、パンクしたというのが正しいだろう。

 確かにトルテが言うように便秘である。


「ピヨピヨ(ちょっと待つんだ、トルテさんや。これは便秘ではない。お腹を痛めただけなのだ)」

「きゅう?(どっちも同じなのね)」

「ピヨッ!(ちがーう!お前、便秘って事はヒヨコ達はう●こだったって事だろうが!)」


 ピシャッ

 トルテに電気が走ったように驚きの表情を見せる。

「きゅ、きゅう(ヒヨコ、アタシが間違っていたのよね!蚯蚓はお腹壊しただけなのよね!便秘なんかじゃなかったのよね!)」

 トルテとヒヨコはたがいに視線を交わし合い、何かを納得したかのように頷き合う。


「ピヨピヨ(ふっ……こうしてヒヨコは大人になるのか)」

「きゅうきゅう(そうなのね。大人ってこうなるものなのよね)」

 嘘ではないが本当の事を言わない。こうしてまるっと誤魔化す。これこそが大人になると言う事なのだろう。

 ヒヨコとトルテは一つ大人になったという話である。


 やがて遠くで意味もなく暴れている蚯蚓の足の部分が動かなくなるのだった。


『ピヨはレベルが上がった。レベルが41になった』


 ………は?

 ………聞き違いかと思ったが確かに神眼で見てみるとレベルが41になっていた。レベル16から41だぞ?おかしいだろ。おかしいよな?おかしすぎない?

 何か物凄いレベルが上ったよー。

 トルテもレベルが上ったのだろうか?


 神眼でトルテのレベルを確認。トルテのレベルは20台後半だった筈。いくつになってるかなぁっと見てみたら……


 65!?


 とんでもないレベルになっていた。幼竜のレベルアップ半端ない。ドラゴンは100おきに進化するという。20年以上は幼竜だから、その間は竜王も幼竜を守らねばならないのだと言っていた。トニトルテさん既にレベル65である。幼竜は毎月複数回レベルアップする。狩りによってレベルが上っているのでこの子ってばもう1年もしないで成竜化してしまうのでは?


「きゅうきゅう(な、何か変な感じなのよね?)」

 トルテは体の皮がパキパキと音を立てて崩れていく。鱗が砕けてまるで脱皮するかのように新しい体が現れる。

「ピヨピヨ(急激なレベルアップで脱皮したっぽいな)」


 普段であれば徐々に皮が生え変わる様に変わるものだが、一度に40近くレベルアップしている。

 トルテ自身も驚いているようだが、向けた皮が一気にずるーんと言った感じで剥けていく。

 急なレベルアップのせいでどうやら脱皮したようだ。ヒヨコから見ても体が一回り大きくなっているのを感じる。

 脱皮後のトルテはヒヨコの足位の大きさだったが首元まで大きくなっていた。

 なのに、ヒヨコはなんだか全然背が伸びてない気がする。気のせいだろうか?

「きゅう~(ヒヨコが小さくなっているのよね)」

「ピヨピヨ(お前が大きくなっただけなのよね)」

 ヒヨコの返しにトルテは「真似するんじゃないのよね」と言わんばかりのしかめっ面を返して来る。


「きゅう?(………はっ!?何だって?アタシ、大きくなったのよね?ついに父ちゃんみたいな巨大なドラゴンに!?)」

 わなわなとトルテは歓喜に震えるが

「ピヨピヨ(1.5倍くらいの大きさだな)」

 ヒヨコは見たままの評価を下す。それでも十分常識を超えたサイズアップをしているのだが。


「……きゅう~(それ父ちゃんの小指の爪が親指の爪になったくらいのスケール感なのよね)」

 トルテはとてもガッカリしていた。残念な感じがとっても分かりやすい。

 だがな、普通に考えていきなりあんな巨大生物になる訳がないだろう。どこまで自分を高い評価しているのだろうか?ヒヨコより大きくもなっていないのにどうしてそんなに大きくなったと思ったのか?ヒヨコまでそんなに大きくなったとでも思ったか?


 大体、いきなりヒヨコが竜王スケールに進化したら大変だぞ。

 

 ズシンズシンと街をあるくヒヨコ。背後に流れる音楽はヒヨコのテーマ。


 ピヨヨピヨヨピヨヨピヨヨピヨヨ(※ゴ●ラのテーマ風)


 ヒヨコVSジャイアントモス、ヒヨコVSキラーゴリラ、ヒヨコVSヒドラ、ヒヨコVSメカピヨヨとのマッチメイクを経て人気者になってしまう。

 シン・ヒヨコというタイトルでアニメ化。残酷なヒヨコのテーゼが世界中で響き渡るだろう。


※色々混ざって変な方向になっています。ヒヨコ、ステイ。


 ピヨピヨ、恐ろしい。ヒヨコは巨大になってはならぬのだ。

 え?今でも十分に巨大だって?言われてみればそんな気もする。

 ピヨピヨリ、ところでアニメ化って何ぞや?


「きゅうきゅう(取り敢えずう●こにならなかったことを喜ぶべきなのよね!)」

「ピヨピヨ(それな)」


 ヒヨコ達は喜び合ってから、町の方へと走って戻る。町の方もスタンピードは収まっていたようだ。

 勝鬨を挙げてスタンピードへの勝利を祝っていた。人間達は泣いて無事を祝っているようだ。怪我した人も少なくないが死亡者はいない様子だ。


 街の外にステちゃんも出ていた。町長さんと剣聖皇女さんが一緒にいる。

 何やらステちゃんは都市城塞の片隅に山を盛って小さな石を二つ置く。

「ピヨ、トニトルテ、ここに眠るっと。あっちに行っても仲良くするのよ、ヒヨコ。トニトルテ」

「竜王様にはどう説明するかなぁ。アンタが寝てる間に蚯蚓に食べられてう●ことして発見されたとでも言えば良いのか」

 3人で何やら話をしていた。まるで死者を悼むような発言である。


「ピヨヨーッ(死んだと思われてる!?)」

「きゅきゅーっ(誰がう●こなのよね!う●こに排出される前に出てきたのよね!)


「おや、生きてた」

 ステちゃんはきょとんとした表情でヒヨコとトルテを見る。

「きゅうきゅう(勝手に殺すなんて酷いのよね!)」

「ピヨピヨ(ヒヨコがどんな思いで蚯蚓のお腹の中にいたと思ってる!)」

 トルテとヒヨコはステちゃんにピヨピヨきゅうきゅうと必死に抗議をする。

「ええと、蚯蚓の腹の中にいたという事は、どんな思いって……う●この気持ちにでもなって頑張ってたの?」


「きゅきゅきゅーっ」

「ピヨピヨピ~ヨ~」

 ヒヨコとトルテは愕然としていつものテーマ(※バッハ作『トッカータとフーガニ短調』)を流しつつ地面にうずくまる。

 蚯蚓のう●こにならないよう頑張って腹の途中から出てきたというのに、結局、う●こ扱いかよ!


「冗談よ。ヒヨコとトニトルテが食べられたときに予知があってね、ヒヨコ達が腹の中で暴れて蚯蚓がここまでたどり着けずに死ぬと察したから町長さんとヒドラを倒して戻ってきていたエレオノーラ殿下に頼んで門前の戦線を崩さないようにお願いしたのよ」


「ピヨッ!(冗談でもやってはいけない冗談があると思うのだ!)」

「きゅうきゅう(そうなのよね!アタシとヒヨコがどれだけ大変だったか)」


「まあまあ、二人のおかげで誰一人として死亡者も出ずに終わったわ。ありがとう」

 ステちゃんはヒヨコとトルテの頭を撫でてて活躍を評価してくれた。


「きゅきゅきゅきゅっきゅきゅ~(アタシに掛かればこんなもんなのよ)」

「ピーヨピヨピヨ(ヒヨコのブレスが大活躍だったな)」

「きゅうきゅう(でも、疲れたのよね)」

「ピヨピヨ(疲れたなぁ)」

 ぐったりという感じでしりもちをつく俺とトルテであった。


「ところでトニトルテ、大きくなってない?」

「きゅう?(ヒヨコも言ってたのよね成長期みたいなのよね)」

「ピヨピヨ(ピヨドラバスターズだけであの蚯蚓を倒したからヒヨコもトルテもなんだか物凄いレベルアップしてるみたい。トルテのレベルが20台から60台に)」

 ヒヨコの説明にステちゃんは目を細めてトニトルテの事を見る。


「本当だ。あの蚯蚓そんなに厄介な魔物だったの?」

 神眼で確認して膨大なレベルアップがなされていた事に気付いたのだろう。

 すると背後からウミガメサイズのマスターがズリズリと体を引き摺って現れる。


「ワームキング、100年に1度くらい発生するジャイアントワームの進化種ですね。人のいない砂漠の片隅にいるので知らない内に成長して大問題になったりするんですよ。アレは人類の脅威でもありますから。ぶっちゃけもう少しレベルが高くなっていたら魔王をも飲み込みかねません」

「そ、そんなにですか?」

「はい、竜王陛下と私で共闘して倒したのがギレネ砂漠の最強レベルのワームキングです。竜王陛下もブレス連発して砂漠の面積を広げたほどですからね。250年前ほどでしたか。恐ろしいワームでした。アレはそう言うのに進化する可能性のある危険生物です。私と違って知能が無いのでかなりやばいです。ランドタートルに並ぶ丘の害獣です」

「そんなに恐ろしいワームだったんですか?」

「はい。私の知る最悪のワームはギレネ砂漠にあった巨大ダンジョンを食って大迷宮攻略者の称号を手に入れてしまったワームです」

「ダンジョンごと……?」

「ダンジョンに潜っていた人間どころか砂漠のダンジョンの街もダンジョンマスターさえも食ったんですよ。ワームキングレベル80であのワームキングの10倍以上もの大きさをしてましたね。それで定期的にワームキングが出てないか巡回していたんですけど……。というか今回ここに寄ったのも巡回ついででしたし」

「そんな事が有ったんだ」

 ステちゃんは戦慄したように口にする。


「歴史書には竜王陛下といなば殿が暴れてギレネダンジョンごと旧王国が消失したとあったけど」

「おや、人間ではそのような歴史に?竜王陛下も私も人間と距離を置いてますからねぇ。まあ、それも良いでしょう。私も竜王陛下もそこら辺頓着しないので」

「良いのですか?そんな汚名を残して」

 慌てて剣聖皇女さんはマスターに訊ねる。

「構いませんよ。人類の歴史なんて頻繁に変わるものですから。為政者の都合で変わる事は多いですし、そもそも私は世界の守護者として女神様から多くの恩恵を貰っています。人類が邪魔となれば人類を滅ぼす事だってあり得ます。我々はそう言うものですから。ねえ、巫女姫様」

 マスターはちらりとステちゃんの方に視線を向ける。


「ほえ?いやいやいや、そうなの?私そう言う話、お母さんから全く聞いてないんだけど」


 折角、大きい騒動が終わったのに、ステちゃんがマスターの問いに対して首を捻る事で新たな問題が発覚するのだった。

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