4章14話 ヒヨコ、旅先の日常
ホテルの裏庭にて、ヒヨコはマスターから訓練を受けていた。
何のって?人化の法である。
「そう、人間の姿を思い浮かべて魔力で体を人間のように作り変えるイメージです」
「ピヨヨ~!」
「翼ではなく腕を!嘴ではなく歯を!人間のイメージを思い浮かべるんです」
右の翼を左の空へジャキッと掲げ、そして右の翼を左へゆっくりと動かしつつ、今度は左の翼を右の空へと掲げる。
「ピヨ・ピヨ(変・身)」
ピヨシャキーン!
…………
「ピヨピヨ(マスター、人間になれません)」
まったく変化がなかった。藤●弘も真っ青な完ぺきな変身フォームだったのに。
ピヨピヨリ。藤●弘って誰?
コテンと首を傾げつつも、ヒヨコはどうやら変な波動を受信しているのかもしれない。あるいは前世が異世界人だったとか。そこで勇者だったに違いない!
※500年以上も昔の前世で異世界人だったヒヨコは、勇者ではなくただの引きこもりでした。
「まあ、そんな簡単にはなれませんよ。私も50年かけましたし」
「ピヨヨ?(50年も?)」
「いえいえ、ヒヨコ君は魔法センスがありそうですからそんなにかからないでしょう」
「ピヨヨ?ピーヨピヨピヨ(そうかな?よーし、頑張るぞー)」
人化の法の訓練をするヒヨコであるが、中々変化できなかった。
そんなヒヨコを尻目にステちゃんは珍しく黒いローブを着て占師風の格好でホテルを出ようとしていた。この暑い中で酔狂な。
「ピヨピヨ(どうしたの、ステちゃん。ついにお金が無くなった?)」
「働かないで過ごすのも良いけど、何だか働かないとダメな気がしてきたから仕事をしようかと」
「ピヨピヨ(その年でワーカーホリックになるなんておいたわしや)」
ヒヨコはトテトテとついていく。
「何故ついて来る?」
「ピヨピヨ(何を仰る狐さん。ピヨちゃんはいつだってステちゃんのボディガード。昨日の怪しげな連中に襲われないとも限るまい。今日のピヨちゃんは防具も優れているのだ)」
「防具?」
ステちゃんは何故か怪訝そうな視線をヒヨコに向ける。
「いつも安定の全裸じゃない」
「ピヨッ!?(ヒヨコを変態のように言うな!ヒヨコは変身したいが変態したいわけじゃないのだ!)」
「ほう?」
「ピヨヨ!ピヨヨ!(トルテ!マスター!合体だ!)」
「え?」
ヒヨコは背中に乗るように背中をマスターに向けて翼でペチペチと背中を叩いて、背中に乗るように訴える。マスターはカメに戻りながら背中に乗る。
さらに後ろからトルテがパタパタと飛んできて、ヒヨコの頭にトルテが収まる。
ピヨピヨピヨーン!
「ピヨッ!(ドラゴンヘルムに亀の甲羅!冒険者的に守備力が高そうなアイテムでしょ!)」
「防御力の弱いヒヨコが他人を使って防御するとか、勇者的にどうなのよ、それ?」
「ピヨピヨ~(ガーン。ヒヨコはいつだって漢でなければならないというのに)」
「斬新なヒヨコね」
「ピヨピヨ(みんな大好きピヨちゃんはいつだって時代のフロントラインですから)」
「0歳時のくせに」
ヒヨコはステちゃんについていき、いつも通りのヒヨコ印の占い師ステちゃんの出来上がりである。
「ピヨッピヨピヨ(マスターの期待を背に、ヒヨコは大人しくステちゃんの隣に座りつつも人間になる為にイメトレをするのであった)」
「期待というよりはマスターそのものを背負っていますが」
マスターは甲羅から首を出して訴える。
「ピヨッ(やがてヒヨコは大空にはばたき星になる!)」
「きゅうきゅう(大空を羽搏く時は星ではなく鳥になると思うのよね)」
ヒヨコへの突っ込み役が増えてしまったような気もするが、気のせいだろうか?
きっと気のせいだろう。
「そう言えば最初の頃と違って私が一々突っ込まないと行けなかったから面倒だったけど、亀とトニトルテが増えて負担が減った気がする」
「ピヨッ(気のせいではなかった!?)」
ヒヨコ的にびっくりである。
突込みのピヨちゃんと巷では有名なヒヨコであるにもかかわらず、まさかのボケ役扱いとは。何度となくヒヨコの嘴によって多くの魔物が突っ込まれて死に瀕したというのに、この扱いか!
※突込み違いです。
ピヨピヨリ?何かさらに他の突込みが入ったような気がするが。
うぬぬぬぬぬとヒヨコは眉間(鼻の上?)にしわを寄せてピヨリと唸るが誰も相手にはしてくれなかった。
気付けばトルテは陽気に当てられて転寝をしていて、マスターも甲羅の中に引っ込んでスヤスヤと寝こけていた。
そんな中、老婆が汗だくになりながらステちゃんの前にフラフラと現れる。
「すいません。占い師さんですか?」
「は、はい」
「ちょっと失せ物を探していましてねぇ」
「分かりまして。ちょと、ヒヨコ。今すぐ水を買ってきて。5人分ね。早く!」
「ピヨ?ピヨピヨ(分かった)」
ステちゃんはお客さんを座らせると、ヒヨコに銀貨をポイッと渡して買い物に行かせる。
仕方ないのでヒヨコは銀貨を咥えてスタコラサッサと水を売ってくれそうなお店へと向かう。
ここは、商店街のフリースペースな区画なので色んな商売をしている人がおり、中に水を売ってる人もいそうなので店の周りを歩く。マスターもトルテも頭と背中に装備されたままである。
「ピヨピヨ~」
ジュースとか売っている店にヒヨコは訪れる。
「うわっ、魔物!?」
「ピヨピヨ」
ヒヨコは袈裟懸けしている襷の文字を手羽先で指し示す。
『フルシュドルフ親善大使ピヨちゃん』
ゆるキャラであることを示す。
「ああ、なんだ。何か用なのか?」
店員は安心したように息を付きながら用向きを尋ねてくる。
「ピヨピヨ(水くださいな)」
「いや、ピヨピヨ言われても分からんぞ」
「ピヨ~。ピヨ!」
ヒヨコは地面に『水5杯くださいな』と書いてみる。
「へえ、器用に描くもんだな。」
『ピヨは書記LV1のスキルを獲得した』
おっとヒヨコが文字を書いて通じたから新しいスキルを得てしまった。
「ピヨピヨ」
ヒヨコは銀貨一枚を渡す。
「分かったよ。5人分な。でも、どうやって持つんだ?」
「ピヨヨ~」
ヒヨコは両翼を前に出してみる。『前へならえ』の格好である。
「しゃーねーな。後でトレーとコップを返せよ」
店員さんはコップに水を入れてトレーに並べ、お釣りと一緒にトレーの上に置くと、ヒヨコの手羽先の上に置く。持てるのを確認してから手を放すとお互いにホッとした表情を見せる。
「ピヨピヨー(ありがとー)」
ヒヨコは水を貰うと、こぼさないよう足音を立てずに走って去る。
「ピヨピヨ~(ステちゃん、ただいまー。水買って来たよー)」
ヒヨコがステちゃんの方へ向かうと、人だかりができていた。
何とお婆さんがぐったりした様子で顔を真っ青にして占いのテーブルを倒して唸っていた。周りの商店街の人達も心配した様子でそれを見ていて、誰か医者を連れて来いと声を出していたりする。ステちゃんはお婆さんを介抱をしている様子だった。
ヒヨコが水を届けるとステちゃんはお客に来ていたお婆さんに水を飲ませる。
「大丈夫か、婆さん」
「しっかりしろ」
「熱中症か?」
ステちゃんはお婆さんを支えながらゆっくりと水を飲ませてあげる。そして、
「<治癒>」
回復魔法を使ってお婆ちゃんを回復させる。すると、お婆さんは白い顔で苦しそうに唸っていたが、見る見る顔色に赤みがさしてきて息が整っていく。周りの人間もホッとした様子でそれを見守っていた。
「大丈夫ですか?」
「んん………あ、ああ。申し訳ありません。見知らぬ方にご迷惑を」
「お気になさらず。失せ物を探して夢中になっていたのでしょう?暑いですし、体にはお気をつけてください」
「そうだったわ、主人の形見の…」
「失せ物の婚約指輪なら自宅の裏手にあるので、このままお帰りになって体を休めると良いです
よ。恐らく猫か何かが咥えて持って行ったのでしょう。ヒヨコ、お婆さんをおうちまで運んであげなさい」
「ピヨ!(アイアイサー!)」
ヒヨコは敬礼をしてからお婆さんの前にストンと座ると、マスターがヒヨコの上からコロンと降りてからお婆さんを持ち上げてヒヨコの上に座らせる。
「ピヨピヨ?(とはいえ、ヒヨコはお婆さんの家を知りませんが?)」
「えーと……そこからまっすぐ行って海辺に出てから右に曲がって歩いていけばすぐに着くと思うわ」
「ピヨヨ~(分かった~)」
ヒヨコは再び振動を与えないよう体を揺らさないように素早く走ってお婆さんをおうちへと運ぶのだった。
「きゅう?」
トルテがふと目を覚まして後ろの方を見る。
「きゅうう!?」
いきなり知らないお婆さんが近くにいて驚きヒヨコの頭からずり落ちそうになる。
「あらあら、ごめんなさいね。ドラゴンの子供なんて珍しいわね。さっきの子の友達かしら」
「きゅう?(この人間の女は誰なのよね)」
トルテは頭をなでられ気持ちよさそうに目を細めているが、尻尾は不機嫌そうにペチペチとヒヨコの頭を叩く。
「ピヨッ(ステちゃんの客だぞ。熱でやられて倒れたからヒヨコが家まで運んでやってるんだ)」
「きゅう~(人間は軟弱なのよね。しかし絶妙な撫でテク、もっと頭をなでると良いのよね)」
トニトルテはさらにペチペチとヒヨコの頭を尻尾で叩く。
撫でられて気持ちいから機嫌よさげに尻尾を振るのは構わないが、ヒヨコの頭をペチペチ叩くのは辞めてもらいたい。
「ヒヨコさん、ここよ」
ヒヨコはストップしてそこで止まる。海辺のペンションが並ぶ中、巨大な別荘がズドーンと存在していた。
すると門番らしき男が慌てた様子で迎える。
「奥様、勝手に出歩いては困ります。家中の皆が心配して探していたのですよ。と、ところでこの魔物は……」
ヒヨコからお婆さんが降りると、門番のお兄さんは腰の剣に手をかけてヒヨコに近づいてくる。
「ピヨピヨ」
ヒヨコは自分に掛かっている襷の文字を相手に見せる。
「フルシュドルフ親善大使?…………フルシュドルフってどこ?」
知られてなかったことがショックで、ピシャッとヒヨコとトルテのバックに雷が落ちるような背景が描かれる。余りの事にヒヨコはガクリとうなだれるのだった。
「キュキュキュー!」
「ピヨピヨピ~ヨ~」
「キュキュキュー」
「ピヨピヨ~」
ヒヨコ達は運命に打ちひしがれたように音楽(※バッハ作『トッカータとフーガ ニ短調』)を鳴きながらがっくりとする。
そんな、我が故郷を知らぬとは何という事だ。フルシュドルフを知らないだなんて。これは布教が足りなかったのだろうか?
ここはひとつフルシュドルフダンスでアピールだ。
取り敢えず踊りだしてみると
「あー、なんか最近、うちの子が踊ってる奴だ。帝都で流行りとか」
「ヒヨコのくせに何という……もしかして人の言葉が分かるのか?」
門番さん達がヒヨコを見て驚きをあらわにする。
「ピヨッ!」
踊りを辞めて、門番さんに向き直って頷く。
「そ、そうか。奥様を運んでくれてありがとな」
「きゅうきゅう(頭が高いのよね。とっても感謝するが良いのよね)」
ヒヨコの頭の上で偉そうにするトルテであったが、そもそもこいつも頭の上に寝こけていただけなのに何でこんなに偉そうなのだろうか?
「ピヨピヨ」
それじゃあ、ヒヨコは帰ります。お大事に~。
「ちょっと待って、ヒヨコさ…」
ヒヨコはトルテを頭に乗せたまま、パタパタと右翼を振りながら、その場を去るのだった。お婆さんが何か言っているようだったが疾風のように速く駆け抜けるのだった。
***
そんな一幕があった頃、ヒヨコが戻ると何故かステちゃんはハンマーを持っていた。
「カ、カメ~カメカメ~」
マスターの悲鳴が聞こえてくる。喋ると変に思われるからカメカメといっているようだが、亀と喋るカメも明らかにおかしいと誰か教えてあげた方が良いのではないだろうか?
「ピヨピヨピヨ~(どうしたマスター)」
「カメ~(助けてください。とんでもない客が来て亀甲占いを所望しまして)」
「ピヨヨー(今行きます、マスター!)」
ヒヨコは走ってマスターとステちゃん前に立つ。それはもう超速だ。サーヴァントが令呪で呼ばれたかのような速度だ。
………令呪ってなんだ?ピヨピヨ、また変な電波を受信したのかもしれぬ。
だが、それはそれとして、ヒヨコは潤んだ瞳アタックでステちゃんに攻撃。
説明しよう!ヒヨコの潤んだ瞳アタックはどんな人でもメロメロになる効果があるのだ!
しかし、ステちゃんには効かなかった!
「大丈夫。甲羅を割るだけだから。亀甲占いって奴よ」
そんな恐ろしい事をシレッと言い出すステちゃん。
「ピヨヨ!(ダメだ!亀甲縛りなんて!)」
「きゅうきゅう(ついにステラが大人の階段を上るのよね)」
「いや、亀甲占いだから。亀の甲羅を割って形を見て占って欲しいってお客さんが所望して……」
「ピヨピヨ!(マスターの甲羅には手を出させないぞ!縛るな!)」
誰も縛るとは言ってないんだけど……とステちゃんは微妙な顔をしてハンマーを手元でくるくる回して困ったような表情をする。
「わー、ヒヨコさんだー」
小さな少女がキラキラと目を輝かせてヒヨコを見上げる。
「ヒヨコさんで占って!」
「カメは良いの?」
「カメさんよりヒヨコさんが良い」
少女はヒヨコを指さしながらステちゃんに新たな占いを求める。
ステちゃんはふむんと腕を組んで何やら考え出す。
「ヒヨコ占いか。………」
なに、そのヒヨコ占い。そんな占いあるの?というか、そもそもステちゃんって未来予知スキルで読んでるんだからヒヨコとか亀とか関係なくない?
「いっそ、燃やすか?」
「ピヨヨ~!?(不穏な言葉頂きましたーっ!?)」
ボソリと恐ろしい事を呟くステちゃん。目がギラリと光ってのをヒヨコは見逃さなかった。あの目は冗談じゃなく本気の目である。本気と書いてマジだ。
辞めて!
ヒヨコを燃やさないで!
ヒヨコは燃えキャラではなく萌えキャラですから!
ヒヨコが必至に首を振ってステちゃんにストップをかけようと訴えているといきなり幼女がヒヨコの頭をワシっとジャンプして掴む。
ブチブチッ
「ピヨヨーッ」
頭を抱えて転がる。今、羽毛をむしられた!?むしられたよね!?
しかもヒヨコの進化の象徴たるアホ毛が!まさかヒヨコは進化前に戻るのではなかろうか!?
ヒヨコは頭を抱えて転げまわっていると、少女はステちゃんに羽毛を差し出して
「これで占って!」
「そうね。じゃあ、占うわね」
良い子良い子しながらステちゃんは事もあろうか占いを開始する。
ヒヨコは頭が禿げてしまったというのに、なんという仕打ち!その子は決して良い子じゃないぞ!
「きゅうきゅう」
トルテは地面に降りて腹を抱えて大爆笑である。あの幼竜、いつか殴る。
そんなヒヨコ達を無視してステちゃんは机の上にヒヨコの羽毛を並べなんか占っている風にうんうん唸ってから再び立ち上がる。
「はい、占いが出ましたよ」
「ホントー?」
「ええ、本当ですよ。これからはちゃんと好き嫌いなく食べましょう」
「えー、やだー。何でー?野菜嫌―い」
少女は露骨に嫌そうな顔をしてブンブンと首を横に振る。
「もしも野菜を食べないと………」
「た、食べないと?」
「何とヒヨコさんが食卓に鶏肉として並びます」
「!」
ズギャーン
マジカ!?ヒヨコ、食されちゃうの!?
しかしイグッちゃんはヒヨコはまずいと言っていた。いや成長したらまずいけどヒヨコのうちは上手いかもしれない。なんてこった!
「ピヨヨ~」
ヒヨコは少女にすがるような目で倒れながらも上目遣いで見つめる。
「ヒヨコさん、かわいそう」
その前にお嬢ちゃんにアホ毛引っ張られてかわいそうな事にはなってるんだけどね?
「かわいそうでしょう?だからちゃんと好き嫌いなく食べなきゃだめよ」
「分かったー」
「あと寝る前にちゃんとおトイレに行ってから寝る事」
「おトイレ行かないといけないの?」
「おトイレ行かないとヒヨコさん悲しいって」
「ピヨピヨ(ピヨリ、別に幼女がトイレに行くと嬉しいという趣味はないのですが?)」
でもさっきアホ毛を抜かれて涙目なので悲しそうに見えるでしょう?
「トイレ行かないと悲しくてお嬢ちゃんが寝ている時に布団の中で泣くから、まるでおもらししたようになっちゃうから気をつけないと」
「メル、おもらしなんてしないもん。ヒヨコさんがしょあくのこんげんだったの?」
「でもヒヨコさんを悲しませちゃだめだよ」
「そっかー、ヒヨコさんが悲しいからだったのか―。分かった、ヒヨコさんの為にメル、ちゃんと寝る前におトイレ行ってあげる」
なんだろう、幼女のお漏らし癖がヒヨコの涙のせいにされてしまった。
ヒヨコ、悲しい!
すると幼女はステちゃんからお土産にヒヨコのアホ毛を貰うと、喜んで使用人を連れて去っていく。
執事風の使用人が残って、ステちゃんに陰でなんか普段の1コインの色の違うコインをじゃらりと手渡していた。
なんかめっちゃ感謝している様子で頭を下げてから使用人は去っていく。もしかしたら偏食とおねしょ癖に困っていたのかもしれない。
「カメ~(何だかフローラ様のような手際でしたね)」
少しだけステちゃんは嬉しそうに亀の方を振り返る。
「そう?お母様に似ていた?」
「カメカメ~(ええ、予知スキルではなく他のスキルを駆使して未来を明るく変える。そんな占いをして世直しの旅をしていましたから)」
「そうなんだ」
「カメカメ(でも……間違っても甲羅を割ろうなんてしませんでしたよ)」
めっちゃ涙目でヒヨコの後ろに隠れて訴える。ああ、やっぱり怖かったんだ。ハンマーを持つステちゃんと逃げるに逃げれないマスターの図はさすがにヒヨコもびっくりである。
「いや、別にヒヨコの回復魔法で治るから別に良いかなと」
「ピヨピヨピヨ(拷問か!?治れば良いのではない。治る前に怪我しない方が良いのだ。禿げたからまた生えればいいとかピヨちゃん拗ねちゃいますよ!)」
「いや、それは私でなくあの貴族様の娘さんに」
「カメ~(しかもクレームがカメの事からヒヨコの事になっている)」
「ピヨピヨ(だって、ステータス欄で神様が遊ぶんだもん。きっと今のヒヨコのステータス欄は……)
名前:ピヨ
年齢:0歳
LV:12/50
種族:???(ヒヨコ+ハゲ)
性別:男
職業:ゆるキャラ(笑)
状態:アホ毛欠落(効果:頭皮がちょっと見える。治ると種族が本来のものに戻る、効果は特になし)
「「あ」」
「ピヨヨーッ!(予想以上に酷い状態!?)」
頭を抱えるヒヨコ。
「アホ毛からハゲに種族退化してる」
「職業がゆるキャラになってますね。何この(笑)って。完全に遊ばれてる!」
※ヒヨコの為に変更した訳じゃないんだからね!
しかもどこからかヒヨコで遊んでいたのにツンデレ風に返して誤魔化そうとしている声が聞こえたような気がする!
一体どういう事なんだ、オーマイゴッデス!
***
後、我儘だった少女は立派な貴族の女性になったという。
学園卒業後、外交で近隣国に行った際、戦争に巻き込まれ命を落としたがヒヨコの羽根が灰となると同時に死に絶えた筈の女性が生き返ったという伝説が生まれたとか生まれなかったとか。