4章13話 ヒヨコ、飼い主と合流
いくつか感想をいただいており、ありがとうございます。
多忙故、毎日チェックをしている訳でもないので、返信等を出来ず申し訳ありません。
ヒヨコ達は大きな部屋で目を覚ます。天蓋にはシャングリラ、明らかに広くて金持ちそうな部屋だった。
「ピヨッ?(ここはどこ、私はヒヨコ?)」
何故かヒヨコは残念皇女さんの抱き枕になっていた。まあ、イグッちゃんの抱き枕になるよりかはマシであるが。
男に抱かれる、それは想像するだけで鳥肌モノである。ヒヨコはいつだって鳥肌だけども。
ヒヨコは残念皇女さんの抱き着きから逃れベッドから這い出る。
ヒヨコはカーテンから光差すベランダへと出ると、なんとそこからこのメルシュタイン領ヴァッサラントを一望できる景色の良い場所だった。
まさか起きたらお城だっただと!?ヒヨコは飲みすぎてあまり記憶にないのだが、何でお城にいるのだろう?
まさか飲みすぎて、ヒヨコは死んでしまったのか!?生まれ変わったらイケメン貴族に生まれ変わり………
ヒヨコはそんな想像をしてグググッと手羽先を強く握ろうとして握れない。
ピヨピヨリ。
どうやらヒヨコでした。生まれ変わった訳ではなさそうだ。
まあ、折角の朝、日差しが気持ちいいので踊りでも踊ろうか。
「ピヨ~ピヨ」
ヒヨコはベランダで朝日を浴びながら恒例のフルシュドルフダンスを踊る。やがてアップテンポなリズムとトテトテとヒヨコのステップの足音に気付いたのか、残念皇女さんも目を覚ます。
むくりと上体を起こして眠たい目をこすりながら、小さい欠伸と共にヒヨコへと視線を向ける。
「あれ、何で姉上の実家で寝ていて、ヒヨコが踊ってるんだろ?」
ヒヨコが踊っているのは朝のヒヨコ体操、ではなくフルシュドルフダンスの為です。
「ピヨッ!?ピヨピヨ!(しかし、ヒヨコも分かりません。まさか妙齢の女性と一夜を共にしてしまうなんて。まさか何か過ちが!?ヒヨコは遂に大人に!?)」
「ああ、そうか。酔ってメンバー全員侯爵邸に泊めさせて貰ったんだっけ。ヒヨコが抱き枕に丁度良いから抱えたままで……うーん完全に酔ってたなぁ。頭痛い」
「ピヨピヨー(<状態異常回復>)」
ヒヨコは二日酔いによく利く魔法を唱えると残念皇女さんの頭痛が治っていく。
「え?…まさか、<状態異常回復>の魔法?二日酔いを魔法で治す人なんてルーク様くらいよ。同じことをするなんて人間でも見たことがない上に、魔物だし」
「ピヨピヨ(ヒヨコはそんじょそこらのヒヨコとは違うのです。何故ならヒヨコもまた勇者だから!)」
とは言ってみたものの、この残念皇女さんはヒヨコの声を聴くことが出来ないので言葉のキャッチボールが出来ないのが悲しい。
だが、それにしても……
目を覚ました残念皇女さんはスケスケネグリジェで下着が丸見えである。ヒヨコ的に眼福なのであった。女性的凹凸が素晴らしい。貧相な飼い主では決して味わえない幸福なひと時である。
クックドゥルドゥーと朝日に向かって叫びたくなる鶏の気持ちがわかってしまうぞ。
え?ニワトリさん達はそんな思いでクックドゥルドゥーとは鳴いていないって?
あれはリビドーの雄叫びではなかったのか?
「おはようございます、ラファエラ様」
するとこの家の使用人であるメイドさんがやってくるのだった。
なんとメイドさんである。
重要な事なので二度言った。さすがはお貴族様である。メイドがいるだなんて。たしか残念皇女さんの義母の実家だとか。つまりここはメルシュタイン侯爵のお城という事か!
メイドさんに奉仕されるとは………もう死んでもいいかもしれぬ。
いや、それはダメだ。メイドさんが冥途さんになってしまう。
「姉さんは起きてる?」
「部屋にはおられませんでしたので、恐らくはシュテファン様の寝込みをまた襲ったかと」
「良いの?皇女殿下的にそれ、どうなの?私と違って帝位継承権の高い血筋よ?」
「旦那様も大奥様も可愛い孫娘がシュテファン殿を手に入れたとあればと大喜びですから。もはや逃がす事もないでしょう」
「シュテファン殿も自由を謳歌したかったろうにとんでもない女に捕まったものね」
ふふふふふとメイドさんと笑い合う残念皇女さんであった。
「ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ(メイドさん、メイドさん、ヒヨコは朝ごはんが食べに行ってきます)」
「お腹減ったのかしら?」
「ピヨ!(それだ!)」
話が通じたと思ってピヨピヨと頷く。
「ピヨピヨ~(という事で、ヒヨコは町の外まで狩りに行ってきます)」
嘴で大窓を開けてベランダに出ようとする。
「???朝ごはんなら下に用意してますよ」
「ピヨ?(おや、もしもしなくてもヒヨコの食事があるのですか?)」
ヒヨコは回れ右をして外の方ではなく部屋の出入り口の方へと向かう。
「ラファエラ様、ささ、お着替えをしましょうか」
ヒヨコが出ていくと、ぴしゃりとドアを閉めて残念皇女さんの着替えに入る。しまった、ヒヨコはまだ着替える所まで一緒にいたかったのに!
くう、なんて事だ!飯に釣られるなんて!
とぼとぼと歩きながら公爵邸の廊下を歩いていく。一階のリビングにはイグッちゃんとマスター、そしてエルフのお兄さんがいた。
「ピヨヨ~(おはよう)」
「おはようございます」
「やあ、ヒヨコ君。おはよう」
「うむ」
うむってなんじゃ、うむって。
偉そうに、王様気取りか!
……………………そう言えば、竜王様だった。
ピヨッ、今日の所は見逃してやろう。ここ、ヒヨコの家じゃないしな。
ヒヨコはトテトテと歩いてマスターの隣に座る。3人とも人間フォームなのでヒヨコだけヒヨコフォームなのが悔しい限りである。
早く人間になりたーい。
「ピヨピヨ(そう言えばマスターやイグッちゃんは基本大きいのだろう?食べる量が少ない気がするのだが?)」
「というよりも人化の法を覚えたのは食べないで済む体を手に入れる為なんですよ。竜王陛下はともかく、もう私、大きすぎて普通に世界を滅ぼしかねないので。あの赤ちゃんランドタートルサイズである普通のウミガメフォームだとかなり燃費が良いですから、人化の法の一つでサイズ変更をすることで小さく生きているのです。とはいえ、魔物に襲われて食べられてしまう事もあるので沖に出たら10メートルくらいの小ささで生きていますけどね」
「ピヨ(10メートルくらいは小ささじゃなくて大きさって言うんだよ)」
「確かに10メートルは小さくないね」
ヒヨコの言葉に継いでエルフのお兄さんも即座に突っ込む。だが、イグッちゃんも呆れたようにヒヨコを見る。
「カメはこの町くらいの大きさなら食えるからな。俺の竜生の中で、俺よりでかい生き物5匹ほどいたが、その中でもトップ3にランクインしているサイズだ」
「ピヨピヨ(イグッちゃんの真の姿より大きい生き物が他に5匹もいたのか)」
たしかイグッちゃんは帝都の城並に大きかったはずだ。最初に戦った時も大変だった。
「まあ、俺よりでかい生き物で現存するのは亀だけだが」
「ピヨピヨ(マスターがイグッちゃんより大きくて、マスターよりでかい生き物が過去に二匹もいるとは)」
「この大陸の東方にある巨大な島があってな」
「ピヨ(その島にいるのか)」
「いや、その島が、この世界で魔神が降りる前に災厄として恐れられていたのだ。かつて我が殺した世界最大のランドタートルだったな」
「ピヨピヨ(マスターよ。しれっと同族を殺してるぞ、このドラゴン。ここはガツンと言ってやるんだ)」
「とは言いましてもランドタートルって雑食で、私みたいに知恵を持つのは皆無ですからね。基本的に無差別に乱雑に何でも食らうモンスターなので。出会ったら倒すは基本なのですよ。親であろうと自分を食おうとしますからね。種族的に少ないのは大きくなると卵を産んでも自分で食べちゃったりするからなんですよ。産後の雌ランドタートルは腹が減るので、危険ですね」
「ピヨピヨ。ピヨ~(何という雑食。しかしランドタートルとはいえウミガメ。きっと母亀は涙を流して産卵し、海へと帰っていくのだろう。そして子供たちは砂浜を一生懸命海へ向かって進む姿が思い寄せられる)」
「何故、0歳のヒヨコ君がそんな一般ウミガメあるあるを知っているのかは分かりませんが、ランドタートルは生まれた段階で私のウミガメフォームと同じサイズですね。一万を超えるウミガメの群れが海へ行く前にありとあらゆるものを食い散らかしながら、時に同族同士で食らい合い、海へと向かう雑食動物です。しかも海にたどり着けてもそこに待ち構えるのは腹をすかした母亀。我等ランドタートルは熾烈な生存競争を生き延びねばならんのですよ」
生まれたてのウミガメの群れがありとあらゆる食物を食い散らかして森を砂漠に変えて海へと向かい、通り過ぎた後はウミガメの骨のみ。そして辿り着いた海で母親が息子たちをむさぼる姿が想像される。
ヒヨコだけでなくエルフのお兄さんとイグッちゃんも若干引きつり気味だった。恐るべきランドタートルの真実。
「ま、まあ、ランドタートルは我も危険動物という認識があるから出会えば基本討伐対象よ。シュンスケが従魔にして頭の悪い亀のスキルを全部知力系に振ったお陰で世にも知的なランドタートルが出来たという訳だ」
「ピヨッ(何と)」
あらびっくりというかのように両翼を開いて驚きをあらわにしてみる。
すると食事が持ってこられる。
これから朝食となるのだった。
「おはよう」
「ピヨヨー」
残念皇女さんは何故か魔導士のお兄さん風の姿でやってくる。はて、胸元についていた巨大な肉塊はいずこへ?
「今日はラファエルモードか?」
「はい。ベルグスラントの勇者を迎えるので」
イグッちゃんと残念皇女さんは訳知り顔な会話をする。
「ピヨピヨ(では朝食をいただいたら、マスターに人化の法を習おう)」
「人化の法ですか。そう言えばそう言う話でしたね」
こうしてヒヨコは公爵家で食事をしてから、去ることになる。
***
「いたーっ!」
「きゅう~(ヒヨコ発見!)」
公爵邸を出るとステちゃんとトルテが街道沿い近くにやってきていた。
「ピヨヨ~(ステちゃん、トルテ~)」
ヒヨコはまるで飼い主に出会って喜ぶかのように両の翼を広げて感激するようにピヨピヨと走ってステちゃんの前に到着する。
「ピヨピヨ(元気してたか?ヒヨコがいなくて寂しかっただろう?)」
「そう言う事はないけど、まさかお城から出てくるとは思わないわよ」
「ピヨッ!(残念皇女さんに抱き枕にされてしまったからだ。貧乳とは抱かれ心地が違うわ)」
ヒヨコは楽しげに笑うとステちゃんは無言で笑顔のままヒヨコの頬を片手でつまみ、グイッと片手でヒヨコの体を持ち上げる。プラーンと釣られるヒヨコ。
「おい、今、何の言葉をステちゃんと呼んだか聞こうじゃないか」
「ピヨピヨ(何の言葉でしょう?ヒヨコは子供なので分かりません)」
「きゅうきゅう~(貧層で平らな洗濯板にステちゃんなんてルビを振っちゃダメなのよね。いくら真実でもそれはかわいそうなのよね)」
吊られるヒヨコを下から仰ぎ見て笑うトルテだったが
「え、何が真実だって?」
次の被害者はトルテになるのが明白で、とっても目が笑っていない良い笑顔でステちゃんはトルテの首を掴んで持ち上げる。
「きゅう~(申し訳ないのよね。うっかり頭の声が滑ったのよね、平らな胸のせいで)」
「ピヨ~(ヒヨコ達に悪意はないのです。無邪気に貧乳だと思ったのです)」
「なお悪いわ!」
ヒヨコをベシッと地面に叩きつけてステちゃんは怒りの声を上げる。
ヒヨコはバウンドしてからコロコロと転がる。対してゆっくりと手を放して地面に着陸するトルテ。これは男女差別ではなかろうか?
「まあまあ、その辺に。ヒヨコ君は基本的に包み隠すような器用さはないので」
「むむ、亀に言われても心に響かないわ」
いつの間にかマスターはウミガメ姿に戻っていた。マスター曰く燃費が良いらしい。
そんなことを話していると、そこに馬車がコトコトと揺られてやってくる。
「ほら、邪魔になるから道の端に移るわよ」
皆は慌てて移動するが、ヒヨコはピヨピヨと頭の上にヒヨコが舞っていて目を回していた。その為、横にどくのがちょっと遅れてしまい、馬車がヒヨコの前に止まる。
そこから現れるのは白銀の鎧をまとった美麗の男。ブラウンの髪を揺らし白い歯をキラリと輝かせるヒヨコ的にいけ好かない男だった。
「そこの小娘。我が姫の御前を邪魔するとはなんと無礼な!」
ジロリと睨んでくる男は剣を抜いてステちゃんへと向ける。
「え?私?……あ」
ステちゃんよ。ヒヨコはステちゃんのペット扱いなのでペットの無礼は飼い主の責任になるのを忘れていたな?哀れなり。
………………って、ちゃうやん!
ピヨピヨリ。ヒヨコのせいでステちゃんが超ピンチになってしまっている。
ヒヨコはピヨピヨと慌ててステちゃん前に行き反省するポーズをとる。頭を低くして謝罪の意を表明する。
「ピ~ヨピヨピヨピヨ、ピ~ヨピヨピヨピヨ(ヒヨコが悪いんです。ステちゃんは悪くないのでご勘弁を)」
するとチッと白銀の鎧を着こんだイケメン男は小さく舌打ちをする。
それにしても、どこかで出会ったような無かったような?ヒヨコの記憶量はアレなので思い出せませんが。
「魔物を扱う卑怯な獣人族が。死して詫びろ!」
謝っているのに、何故か怒った男は白銀の剣を高々と振り上げてヒヨコを蹴飛ばしてステちゃんに襲い掛かる。
「ピヨヨーッ!」
ヒヨコは慌ててステちゃんへと走り身を挺して守ろうとする。しかしこれでは体のやわっこいヒヨコごとステちゃんまで切られてしまう。
振り下ろされる刃。ヒヨコはその刹那の間を嘴を持ち上げて剣の腹を横に押す。
ヒヨコは嘴で見事にその刃をステちゃんに当たらないように受け流すと、受け流された先にトルテがいた。
カキーン
何か凄い良い音が鳴り響いた。昨日、イグッちゃんの首を切りつけたお兄さんの剣と同じ音だった。
……
「きゅうきゅうきゅう!(な、な、な、何するのよね!びっくりしたのよね!ヒヨコ、それはさすがにびっくりなのよね)」
「ピヨピヨ(す、すまんすまん。ステちゃんを守るために剣を受け流したら、その先にトルテがいたのだ。)」
「なっ、この魔物風情が……」
白銀の鎧の男は怒りの矛先をヒヨコへと向けて再び剣を握ると……
「アーベル、そんな者達など放っておきなさい。それよりも侯爵家はすぐそこです。さっさと行きましょう」
「ああ、すまない、ヘレーナ。今戻る」
男はそう言って馬車の方へ声をかけると、こちらをじろりと睨みつけてくる。
「………貴様の顔は覚えた。次会った時は命がないと思え」
そう言って白銀の鎧を着た男は物騒な事を言い残して馬車に乗り、その場を去っていくのだった。
『ピヨは<回避>のスキルクラスが上った。<流水>のスキルを獲得した』
「ピヨッ!?ピヨピヨ(おや?どうやら流水を覚えたぞ?)」
※相手の攻撃を受け流すスキルなので
防御スキルではなく回避スキルの発展系です。
「スキルが伸びて良いわね。私のスキルはあまり伸びないのに」
彼らが去ってホッとする一同だが、ステちゃんは若干心配するような表情で溜息を吐く。
「強い者に守られているとほとんど予知が発生しないらしいですよ。私が幼い頃にフローラ様が言ってましたから。それはそれとして、さっきは焦りましたよ。トニトルテさんに刃が向かったから」
「ピヨピヨ(父親と同じ音を鳴らしていたな。カキーンとか鳴っていたし)」
「幼竜のうちは比較的鱗は弱いのですが、さすがは竜王族の娘さん」
「ピヨピヨ(トルテはノコギリでギコギコやられても簡単に切れないから護衛対象外)」
「というよりも、トニトルテさんが危険な目に合って、怒り狂った竜王陛下がこの町を滅ぼす可能性があるからもう少し庇いましょうよ」
「ピヨッ(その時はイグッちゃんとヒヨコが雌雄を決するとき!)」
ヒヨコは未来のいくさに思いを馳せる。
「きゅうきゅう(あんななまくら攻撃、避けるまでもないのよね)」
トルテはトルテで避けられなかったくせに、よけようと思えば避けれたという雰囲気できっぱりと訴える。相変わらずの負けず嫌いな子ドラゴン様であった。
「ピヨピヨ(しかし、さっきの男、どこかで見た事が有るような無いような?)」
「え?」
「ピヨ?(え?)」
何故かマスターが驚いたようにヒヨコを見るのだった。
もしかしてお知り合いでした?
※ヒドラを倒した時の冒険者御一行、もしくは酒場でイグニスが放り投げた勇者御一行です。