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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部4章 帝国北部領メルシュタイン ヒヨコの慰安旅行
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4章11話 ヒヨコは竜宮城に行けないらしい

 3日連続の海水浴も新鮮さが欠けていた。

 ヒヨコは海に浮くので、ステちゃんとトルテを乗せながらパチャパチャと海の上を浮かんでいた。差し詰めヒヨコボートである。

「うーん、休みも続くと何だか飽きて来たわね」

「ピヨピヨ(ヒヨコと一緒に狩りにでも行くかい?)」

「ヒドラを狩りと称するヒヨコと同行したら命がいくつあっても足りないわよ」

「きゅうきゅう(惰弱なステラは狩られる側だから仕方ないのよね)」

「これ以上日焼けすると黒くなるからそろそろ海で遊ぶのもやめて町で仕事をして金を稼いでショッピングでもしようかなぁ」

「ピヨピヨ(ヒヨコは全然黒くなりませんな)」

「きゅうきゅう(羽毛が黒くなったら怖いのよね)」

「ピヨピヨ(トルテみたいに肌があれば……。ぬぬ。人間は黒くなるのにトルテは黒くならないのだな)」

「きゅうきゅう(鱗は肌じゃないのよね)」

「ピヨッ!(言われてみれば!)」

「それにしてもヒヨコは美人と見ればピヨピヨとあちこちに目をやっていたのに、どういう事?こんなところで浮き輪代わりになるなら女の子をナンパするんだとか言いそうだけど」

「ピヨピヨ(ふっ、確かにさすらう恋の狩人と言われた若きピヨちゃんとて海にプカプカ浮きたい日もあるんだ)」

「そんな日がある存在を今日この場で初めて見たわ」

「きゅうきゅう(潜るのも乙なものなのよね。海は素晴らしいのよね。電気を流すとたくさん魚が取れるのよね。隠れて食べ過ぎてお腹いっぱいなのよね)」

「トニトルテは満喫しているなぁ」

「ピヨピヨ(それにこの浜辺は美人が多い)」

「ほほう、確かに。貴族のお嬢様が多い為か、美女ばかりだよね。お近くの皇女殿下ズなんかを筆頭に」

「ピヨピヨ(そう、美女は飽きるのだ。だからこうしてステちゃんと一緒に行動すると落ち着くのである)」

「よし、ヒヨコ。ならば戦争だ!」

 ステちゃんはヒヨコの首に手を回しグイグイッとひねってくる。

 並みの女の子ならば柔らかいふくらみが後頭部に当たってうれしい筈だが、残念。貧乳(ステちゃん)でした。

 肋骨がゴリゴリ痛いのである。


 そんな中、大波が来てヒヨコはひっくり返り、ステちゃんもトルテも海に落とすことになるのだった。




***



「ゲホッゲホッ………酷い目に合った」

「きゅうきゅう(耳に水が入ったのよね)」

 海水を吐くように咳き込むステちゃんと、ケンケンをして耳から水を追い出そうとするトニトルテを眺めながら、ヒヨコは砂浜に流れ着いていた。

「私はちょっと休んでくる」

「ピヨピヨ~」

 自分のパラソルの下へと向かうステちゃんに翼を振って別れを告げる。


 トニトルテはもう少し遊びたいのかヒヨコの頭に乗ってバシバシと頭を叩き移動を促す。仕方ないのでヒヨコは砂浜を散策することにするのだった。


 あてどもなく砂浜を歩き10分ほど。お金がないので売店で食事も買えず、獲物もいない海ではヒヨコ達も暇というもの。 


 そんな折、ヒヨコ達は出会った。

 幼い子供たちがウミガメを棒で叩いて喜んでいた。頭を出せば棒で叩き甲羅の中に引っ込む。そんな動作が楽しいようだ。


「ピヨピヨ(これこれ、少年たちよ。カメをいじめるのは辞めなさい)」


 ヒヨコはそんな子供達と亀の間に入ろうとする。

「ヒヨコだ!」

「でかいヒヨコだ!」

「何だこいつ」

 すると少年たちはタゲをヒヨコに変えて、バシバシとヒヨコボディを叩いてくるのだった。

「中に何かいないのか?」

「本物のヒヨコっぽいよ」

「ピヨッ!(こうなった時の必殺技だ、トルテ、行くぞ!)」

「きゅう!(あいあいさーなのよね)」

 トルテは回転して地面に降りる。するとキュウキュウピヨピヨとフルシュドルフソングの音楽を口ずさみ、いつものダンスを踊る。

 子供達もそれにつられるように一緒に踊り、そしてダンスが終わると去っていく。

 なんというダンス。終われば相手を戦闘から逃げてしまうという不思議な踊りだった。MPは減ってないようだが。

 とりあえずヒヨコパーティは子供の群れを追い払うのに成功したのだった。


「ピヨピヨ(もしもしカメよカメさんよ)」

「きゅうきゅう(カメを助けたから、きっとここはお礼に竜宮城に連れて行ってもらえるに違いないのよね)」

「ピヨピヨピヨ~?(竜宮城~?何それ)」

「きゅうきゅうきゅうきゅう(父ちゃんから聞いた事が有るのね。500年前くらいに人間が伝えた伝承で、助けたカメに連れられて海中の竜宮城で接待されるらしいのよね。竜宮城とは、つまり竜を祀っているお城の事の筈なのよね。祀られちゃうのよね。神にも等しきトニトルテ様なのよね)」

「ピ~ヨヨ~?(本当に~?)」

 ジトリとヒヨコはトルテに訝しげな視線を向ける。だが、トルテは自信満々な風体だった。まあ、親父に騙されている可能性大であるが。


「きゅうきゅう(そこなカメよ。助けてやったのだから何かいう事はないのか?なのよね)」

「ピヨピヨ(お礼を無理強いするのはよくないぞ、トルテよ。)」

 そういいつつも、何か言ってくれないかな?ありがとう竜宮城で接待します。良い姉ちゃんがたくさんいますぜ、とか言ってくれないかな?


 ヒヨコはちょびっとだけ期待する。

 ちょびっとだけだぞ。


 だが、反応は無かった。


「きゅうきゅう(何か言ってみたらどうなのよね?)」

 トルテはペシペシと甲羅を叩いてむしろ絡みに行ってしまった。

「ピヨピヨ(いやいや、トルテよ。こうして問い詰めたら虐めていたのが子供達からヒヨコ達になるだけではないか。ここは格好よく去って大きい存在の後ろ姿アピールした方が、生物としての格があがる気がするぞ)」

「きゅう~(確かに)」

 ヒヨコ理論がトルテに受けたようで、うんうんと頷く。そして二匹揃って後ろ姿を見せて去ろうとするのだが、そこでカメがゆっくりと頭を出して口を開いた。


「か、かめ~」


 ヒヨコとトルテは一歩踏み出したものの、歩みを止めてカメの方を見る。そしてヒヨコとトルテは互いに一度見合って首を傾げ、再び歩き出す。

 だが3歩進んだところで、2歩下がり、ヒヨコとトルテはガバッとカメの方を再び見る。二度見であった。


 え、今、カメ~って鳴いたのよね?

 カメの鳴き声ってカメだったっけ?

 そもそもこいつらって鳴き声とかあるのよね?

 カメってこちらの言葉を分かるんだっけ?


 ヒヨコとトルテは互いに見合いつつ、物凄く一生懸命考えてから、コクリとうなずき合って引き返す。

「ピヨ?(もう一度喋ってみるが良い)」

「きゅうきゅう(正直に吐くと良いのよね。カメには弁護士を呼ぶ権利があるのよね)」

「ピヨピヨ(早くおふくろさんに会いたいだろう?さっさと吐けば楽になるぜ)」

「あの~、被害者であって加害者ではないのですが」



 ………………………



「ピヨピヨッ!?(しゃ、喋った!?)」

「きゅうきゅう(カメって突込みが出来る種族だったのよね!世紀の大発見、ドラゴンは見た!)」

「お二方とも幼いのに賢いようでこちらが驚いたところです」

 カメは右前足を出してペチペチと自分の頭をなでて笑顔を見せる。カメの笑顔?

「ピヨピヨ(鶴は千年、亀は万年と言うし、大人になったらしゃべるようになるとか?)」

「きゅうきゅう(なるほど、父ちゃんより長生きだったのよね)」

 ヒヨコとトルテはカメを囲んで大盛り上がりである。


「いえ、私、500歳ちょっとのカメです」

「ピヨピヨ(そうか、カメは500歳になると喋れるのか。やがてヒヨコも…)」

「きゅう~(しかし、このカメ、何気にイケボ!)」

「ピヨッ!(言われてみれば!ヒヨコのピヨピヨボイスからでは出てこない声だ!)ピ、ピヨ~」

「きゅうきゅう(ヒヨコは頑張っても無駄なのよね。カメのくせにイケメンっぽい声なのよね!何か深い事言ってみてほしいのよね)」

「ピヨピヨ(なんか格好良い事言ってみて?)」

 まさしく無茶振りである。だが、出来る筈だ。亀ならきっと。


「撃って良いのは撃たれる覚悟がある奴だけだ!」

 キリッとしたカメがイケボでなんか深い事を口にする。

「ピヨピヨ(おおっ、何か格好良い。ありがとうございます。ありがとうございます)」

 ヒヨコは手羽先を前に差し出して、カメの右前足と握手(?)する。トルテも同様に握手をする。


「ピヨピヨ(しかしどうしてカメが人語を介するのだ?)」

「あの、そこはまず真っ先に聞くところでは?」

「きゅうきゅう(カメがカメ~とか鳴いたら、まず突っ込みどころが違うのよね)」

「子ドラゴンや見たことのない大きいヒヨコの方がレアだと思うのですが」

「ピヨピヨ(トルテよ。喋るカメと大きいヒヨコ、どっちがレアだと思うか?)」

「きゅうきゅう(目糞鼻糞を笑うのよね)」

「ピヨ……」

 するとトルテはそそくさと亀の甲羅の上に乗る。

「きゅう!(さあ、竜宮城へレッツらゴーなのよね!)」

「え!?」

「ピヨッ!?」

 俺と亀は二匹で目を点にしてトルテを見上げる。


「きゅう~?(しゃべるという事はそういう事じゃないのよね?)」

「……私、カメなのでそんな長い時間潜れませんが」

「きゅうきゅう(アタシも長い時間潜れないのよね)」

「ピヨピヨ(ヒヨコは致命的に軽くて潜りたくても潜れない)」


「「「…………………………」」」


 我等の間に沈黙が訪れる。


「ピヨッ「きゅう!「カメ(我等、丘に上がり隊)」」」

 ハシッと3者の手と前足と手羽先が重なる。3つの心が一つになる。


「ピヨピヨ(で、カメは何ができるんだ?)」

「私、ランドタートルと申しまして、大きくなったり小さくなったり、人間になったりできますね」

「ピヨッ!?(にんげん!?)」

「きゅうきゅう(大きくてどのくらい?)」

「小島くらいでしょうか?このウミガメモードは人化の法を使ってギリギリ小さくなれるサイズですね。500年前の戦争の時はまだ小さかったので、人間を100人ほど乗せて運んだ事が有ります」

 なんとこんな所にも人化の法使いがいるとは。もしかして割とポピュラーな魔法なのか?


「ピヨッ(師匠!)」

「え」

「きゅう?」

 何故かカメとトルテは目を点にして驚く。


「ピヨピヨピヨピヨ(ヒヨコは人間のように肉を噛んで食べたいので人化の法を教えてください。カメちゃん師匠!)」

 ヒヨコはヒシッと亀に縋りつく。

「カメちゃん師匠って……………。これでも500年生きたランドタートルなのでそんなはっちゃけたニックネームを持てるほど若くはないのですが」

「ピヨ……(500年、それはもう霞でも食って生きていけそうな歳月だな)」

「お落ち着きのある大人ですから」

「ピヨピヨ(ならば……亀仙人のじっちゃんと呼ぼう!)」


※そのニックネームは勘弁してください。


「それは何というか、どこかの誰かがそれだけは許容してはいけないという声が次元を超えて聞こえてくるようですが」

 額に汗を浮かべて唸るカメであった。


「きゅうきゅう(そう言えばカメの名前を聞いてなかったのよね)」

「おっと自己紹介がまだでした。私、イナバと言います」

「ピヨ(野生のカメのくせに名前があるとは……)」

「私、幼い頃に勇者様に鹵獲されまして、船代わりに使われていた事が有るのですよ」

「ピヨピヨ(勇者?何だろう、過去に聞いた話ではロクでなしな匂いがするのだが)」

 大体、勇者の話はロクでなしな話ばかりだ。

 勇者はロクでなしだったみたいだけど、死んで生まれ変わったら、立派なヒヨコのようなヒヨコブレイバーになれると良いね。


※ロクでなしな勇者は転生の果てにそのようになっているので、ご安心ください。


「いえいえ、勇者様曰く『カメの名前と言ったらノコノコかレオナルドだが、お前は8度連続で踏んでも俺の残機が増えないし、忍者にもなれないからとっておきの名前は与えられない。』と仰られておりました」

 またしても勇者ルールか。やはり奴はロクでなしである。


「ピヨピヨ(そしてなぜイナバ?)」

「さあ、勇者様は教えてくれませんでしたね。勇者様のいた異世界の何かから取ったらしいですが」

「ピヨピヨ(勇者ってのは何だかロクでもない奴だからきっと変な伝承があるに違いない。気をつけろ、マスター。及ばずながら一緒に殴りに行こうか?)」


 ヒヨコは自分の手羽先を見て、そしてカメの平べったい水掻きのような前脚を見て、互いにコクリと頷く。

 残念、殴る為の拳がない。


「まあ、既に故人ですけど」


「ピヨピヨ(そうか、既にやっていたのか)」

「きゅうきゅう(カメのくせに意外と武闘派なのよね。見直したのよね)」

 なんと既に怪しげな勇者を殺めていたのか。この亀、やりおるわ。

 きっとあのイケボで『お前たちは死ね』とか命令されたら、その命令通りに自殺してしまうのかもしれない。恐ろしや。


「いえ、別に私の手が伸びたわけではなく、普通に寿命ですけどね。500年前の人の勇者様がまだ生きてたら逆に怖いですよ?」

「ピヨピヨ(ご長寿種族による牛歩戦術か)」

「きゅうきゅう(何か違うような気がするのよね)」

「ピヨピヨ(では、マスター。ヒヨコに人化の法を教えてくださいな)」

「はあ、教えるほどの知識もありませんが、折角ですのでお見せしましょう」

 マスターは何やら魔法を使うとポムと甲羅の上に人間の衣服が現れる。

「このまま人化の法を使うと全裸になってしまうので、時空魔法で常備している服を出します」

「きゅうう~(いきなり高等技術キターッ!)」

 トルテは目を輝かせて時空魔法を称賛する。当然ヒヨコもである。二匹並んでパチパチと手(?)を叩く。

「ピヨピヨピヨピヨ(さすがヒヨコのマスター、そこに痺れる憧れる!)」


 するとマスターは体が徐々に変わっていき、甲羅の中に体を入れると甲羅は歪み服の中に入っていき、そこからどこかの変形型魔王のように手足を失った体からニョキニョキと人間の手足が生えてくる。そして徐々にカメから二足歩行型人間へと変わっていき、やがて緑色の体が肌色へと変わっていき、同時に甲羅がなくなっていく。

 どこからどう見ても普通の人間になるのだった。

「ピヨピヨ~(人間の全裸は18禁だから、0歳時と3歳児の前に自重するマスターが素敵すぎる)」

「きゅう~(どこかのストーリーキングドラゴンとは違うのよね!)」

 ヒヨコとトルテは高等な芸を見せてもらったので、二匹でグルグル回るように喜びの舞を見せる。そしてトルテはサラッと父親をディスっていた。

「これでどうでしょう?」

「きゅうう、きゅうう(500歳のカメとは思えないのよね。見た目が10代半ばのお兄ちゃんなのよね)」

 すらりとした体躯、サラリと長い黒髪、イグッちゃんを若くして黒髪にしたような顔立ちだった。声に違わず美青年風である。中の(カメ)がカメだとは思えない出来具合だった。


「ピヨ(マスター。ヒヨコは人間になってモテモテライフを過ごしたいです。切実に)」

「きゅうきゅう(食事の為という理由が飛んで行ったのよね)」

「ピヨピヨ(ヒヨコもあんな感じでスタイリッシュな感じになりたい。マスター、ヒヨコは一生ついていきます!)」

「いや、何かご長寿種族っぽい感じの魔物に一生ついていくとか言われるとさすがに引きますよ?」

「きゅうきゅう(そう、怪しげな男についてこられるのは死ぬほど嫌なのよね。分かる?)」

 父親のストーキングに辟易しているトルテから若干切実そうな苦言を呈される。


「ピヨピヨ(じゃあ、歯が生えたらポイ捨てします。ヒヨコも追いかけるなら巨乳美女が良いです)」

「ヒヨコ君は欲望に素直ですねぇ」

 何故かマスターに優し気な目で見られていた。


「ピヨピヨ?(ところでヒヨコはご長寿種族というのは本当?)」

「進化するタイプの種族は進化するたびに寿命が延びますから。我々ランドタートルやドラゴン、エルフやドワーフも長寿ですけど、進化するのにレベル50や100が必要な種族は大体長寿種族ですね。貴方、ヒヨコ+アホ毛が次に進化するのにLV100という事は、アホ毛のない時代もあったのでしょう?」

「ピヨピヨ(つい最近な)」

「その割には何故かレベルが高いのですが………何か大物でも倒しました?」

「ピヨッ(ヒヨコは狩人だからな!我が前に立ちふさがる愚者は何人たりともお食事になるのだ!)」

「きゅっきゅきゅっきゅきゅっきゅきゅきゅきゅきゅきゅ~(にっくにっくにっくにっく肉祭り~)」

「何故ヒヨコとドラゴンが一緒にいるのかと思えば単に食性が被ってただけなんですね」

「ピヨッ(我等!)」

「きゅきゅきゅうっ!(ピヨドラバスターズ!)」

 ジャキーン

 ヒヨコとトルテ、二体で格好いいキメポーズをとる。


「一応、お子様なんですね」

 妙な子供たちに絡まれてしまったとでも言わんばかりのカメだった人間イナバ氏、否、マスターが目の前でぼやいていた。




***




「で、何で亀なんて連れてきたの?」

 ステちゃんは目を細めてヒヨコを見る。

「ピヨピヨ(マスター・イナバ様に向かって何たる言い草。確かに亀だけど)」

 ウミガメフォームに戻っているマスターはヒヨコとトルテの間にホテルの裏口で腹ばいになっていた。まあ、ウミガメなので腹ばいではなく、仰向けになっていたら大変なことになると言えるだろう。

「何故、ヒヨコは変なところで変なのと出会うのかな?」

「きゅうきゅう(ちょっと待つのよね、ステラ。まるで複数回、変なのをヒヨコが連れてきたかのような報告だけど、その中の一体は私じゃないのよね?)」

 真面目に問い詰めるようにステちゃんを見上げるトルテであった。気持ちは分かるが問題はそこではない。

「ピヨピヨ(ステちゃん、マスターを捨てないで。ちゃんとヒヨコが面倒見るから!ヒヨコはマスターに人化の法を教えてもらいたいだけなんだ!)」

「いや、ちょっと意味わからない。だってウミガメでしょ?」

「………カメ~」

「ほら、普通に犬猫みたいにワンワンニャーニャーしか喋らない普通の亀じゃない」

 呆れた様子でステちゃんはマスターを指さして呆れたような表情をシ、暫くしてその表情が凍り付く。


 二度三度瞬きをしてから再びマスターへと視線を向ける。

「カメ~」

「あれ、亀ってそういう鳴き声だっけ」

「ピヨピヨ(マスター、やっぱりその鳴き声はおかしいぞ!?)」

「おや、お気に召さない?……おかしい400年前の鉄板のジョークだったのに。んんっ?……おや、もしかして貴方様はフローラ様のご息女、ステラ様?」

「カメがしゃべった!?しかも私の事を知ってる!?」

 ステちゃんは驚いて飛び退る。驚きすぎではなかろうか?

 まあ、亀が流暢に言葉をしゃべったら驚くのは普通か。


「これはこれはお懐かしい。15~6年ほど前でしょうか。海をプラプラ泳いでいたら、エミリオ様に鹵獲されたのでした。共に連邦獣王国の聖山ホワイトマウンテンに行った時にフローラ様の御子としてお会いしたのですよ」

「ピヨピヨ(マスター、アンタ、鹵獲されすぎだろ?)」

 初代勇者だけでなく、獣人にまで鹵獲されるとか。

「きゅうきゅう(この調子だと100年後あたりにはヒヨコに鹵獲されたとか言い出しかねないのよね)」

 若干残念なものを見るようにトルテがマスターを眺めていた。


「とは言っても、お兄ちゃんはよく魔物を連れて遊びに来ていたから…………その時にカメなんていたっけ?」

 ステちゃんは首をひねる。

「ふははは、まあ、覚えてはいないでしょう。あの頃は小さかったのですからな。ですが覚えてますよ。ステラ様は私に言いました。バブゥと」

「それ完全に赤ん坊じゃないの」


 というよりも突っ込みどころは赤ん坊がばぶぅって本当に言うのかどうかという所だろう?

 これもマスターのいう所のジョークのような気がしなくもない。


「……………ピヨッ(まあ、女としては今も十分に小さいのだがな。主に胸元が)」

「ヒヨコ、私に文句があるなら聞こうじゃないか?」

 ステちゃんはヒヨコのぼやきをシッカリと聞きとり、ぎゅいぎゅいとヒヨコの首を絞める。ヒヨコは手羽先でステちゃんにタップするがしまっていく力は強くなるばかり。

「フローラ様は勇者様と一緒に行動していた頃、通訳として色々とお世話になってましたので。いやはや、こんなところでステラ様とお会いするとは」

「ピヨピヨ(なんと、マスターはステちゃんの知り合いだったのか。さすがはヒヨコのマスターだ。ヒヨコの飼い主と既に懇意にしていたとは。という事で、良いでしょ、ステちゃん)」

「あまりよくはないけど、さすがに亀をホテルに入れられないと思うんだけど」

「ピヨピヨ(じゃあ、人間になれば良いの?)」

「むしろ人間になったらお金を取られるからやめて。私にここのホテルの料金を払えると思ったら大間違いだ」

「まあまあ、私も日頃から海でプカプカ浮いているだけの存在なので泊る場所がなくても問題ありませんよ」

「ピヨピヨ(ならばほかに気前のよさそうな知人に宿を借りようではないか。そこらのヒヨコとは一味違う、顔の広さをご覧あれ)」

「そりゃ、まあ、そこらのヒヨコより顔も体も大きいけどさ」

 ステちゃんはヒヨコを呆れた様子で眺めていた。


「今は寒い帝都ではヒヨコは寝るときに重宝したけど、ここは温かいから別に寝床に居なくても問題ないし」

「ピヨッ!?(ステちゃん、まさかのヒヨコ=寝具扱い!?ヒヨコは羽毛布団ではありません)」

「きゅうきゅう(確かにヒヨコは暖かいから冬場に便利なのよね。夏場には微妙に暑苦しいのよね)」

「ピヨッ(誰が松岡●造か!……………松岡●造って誰?)」

 ヒヨコは突っ込みつつも、自分の突込みのコメントにコテンと首を傾げて不思議に思う。一体、何でそんな事を思ったのだろうか?

 たまにヒヨコには何か不思議な天啓ともいうべき知識が流れてくる。これが伝説のヒヨコパワーなのだろうか!?


※そんな天啓を下してはいません。伝説の勇者の電波です。………多分


 そんなわけでヒヨコの今夜の予定は元町長さん達かイグッちゃんを捕まえて飲みに行き、宿の確保をしようと悪だくみをする。

 そう、愛玩動物必殺の寄生殺法である。

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