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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部4章 帝国北部領メルシュタイン ヒヨコの慰安旅行
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4章1話 ヒヨコの新たなる日常

 これまでのあらすじ。

 悪しき暴虐な人間たちから無辜なる民を守るために勇者ヒヨコは立ち上がった。

 しかし、悪しき人間たちの軍は精強で、勇者ヒヨコは戦いの果てに谷底へと落ちてしまう。

 谷の奥深くを通る川に流された勇者ヒヨコは未来視の巫女に拾われることになる。しかし、勇者ヒヨコは落ちたショックで記憶を失っていたのだった。

 やがて、記憶を取り戻した勇者ヒヨコは巫女と共に行く冒険の果て、白馬と共に悪の組織の本拠地へと乗り込み見事に姫を助け出すのだった。


「ピヨピヨ(どうだろう、ステちゃん、こんな感じのあらすじで)」

「大筋では合ってる感じに聞こえるけど、中身が全然違うような。そもそも白馬を共にって白馬にまたがるんじゃなくて白馬に乗られていたんだよね?」

「きゅきゅう(ヒヨコにはがっかりなのよね。白馬にまたがった王子様を所望してたのに、皇子様が悪者で白馬にまたがられて助けに来たのがヒヨコとか、完全にコメディなのよね)」

 ヒヨコの過去のあらすじを語ってみたが、ステちゃんとトルテには不評だったようだ。イケてると思ったのにガッカリである。


※この物語はコメディで問題ありません。


 ステちゃんはヒヨコに向けて、盛大に溜息を吐いた後、すぐに元の仕事に戻る。

 現在、ステちゃんは帝都の大通りに占い屋の露店を出しており、ヒヨコ&トルテの2名はステちゃんのお仕事に付き添いをしていた。


 ステちゃんの本名はステラ・ノーランド。金髪の妖狐族の少女で見た目は12歳位といった幼い容姿であるが16歳ほどの美少女だ。美の少ない女ではない。美しい(?)少女である。妖狐族とは狐人版エルフともいうべき種族であり、この種族は長寿だから成長が遅いらしい。ステちゃんが幼く見えるのはそのせいだ……と言い訳をしている。

 金髪を肩口で切り揃え、髪の色と同じ黄金の尻尾を持つ。普段は複数の4本の尾を持っており何かしらのスキルで隠している。この尾は予知能力が高まるとともに尾の数が増えるらしい。

 母親は獣人族の頂点にいた巫女姫であり、その巫女姫を継いだのだが、獣人族と先代の王国勇者との決戦を前に獣王に領地から追い出された身の上である。


 そんなステちゃんがやっている商売が占いである。

 今日も今日とて街頭に台を置いて占い師っぽい小物を置いて客を待っていた。

 ヒヨコを椅子代わりに使っていなければ立派だとほめてやりたい。ヒヨコは椅子ではないのだ。いくら赤くて玉座のような風格があっても。夏場は涼しく、冬場は温かい羽毛であっても椅子ではないからだ。

 子供たちがピヨちゃんだーとか言ってバシバシ叩いていったとしても。

 いや、痛いからやめて、子供達よ。

 閑話休題(それはそれとして)、とにかくヒヨコは椅子ではないのだ。美少女に座られるのはご褒美とかいう変態とは一味も二味も違うのである。ここ重要。


 ちなみにヒヨコの頭に乗って丸くなっているのがトルテこと竜王女トニトルテである。

 ゴールデンドラゴンヘルムみたいに見えるが、幼い黄金色のドラゴンである。ドラゴンの角がバイキングヘルムっぽいので、兜をかぶっとるヒヨコとか言われても知ったこっちゃないのである。

 トルテは好奇心の赴くままに人間の領土に来て、何度となく人間にさらわれている哀れな竜王の姫様であるが、彼女の最近のブームはヒヨコの頭の上で丸くなることらしい。おかげでヒヨコの首が鍛えられてしまっていた。首が太くなってどこからが頭でどこからが首か分からないという声が聞こえてきそうだ。前から分からなかった気もするが。



 我らの法廷闘争が終わってから既に2つの月をまたいでいた。

 もうすっかり冬だった。

 ヒヨコとトルテはステちゃんと一緒に宿に泊まっている。安いけど大きい種族向けで出入り口が大きく、ヒヨコも部屋で暮らしている。軒下→馬小屋→部屋付へのレベルアップである。


 そして、今日も今日とてステちゃんは阿漕に金を稼いでいた。

 予知スキル+高度な念話スキルによる読心によって相手の悩みを言葉巧みに引き出し、解決してるんだかしてないんだかよく分からない言葉で相手を安心させてさよならである。

 あと魔物レースの予想をお願いする不届き者もいる。

 一度だけだと断り、安い料金で受け、最終レースで何番が1位になるだろうと予知をして、それ以外にも本人が買うのは分かっているので、最後に勝ち負けが微妙な感じになるように上手にコントロールしているのだ。自分の予知は当たりつつ、今一儲からなかったが、見事に的中したので評判は上がるという寸法だ。

 なんという悪女。

 女狐の尻尾がすすけて見えるぜ。

 いや元々スキルで尻尾は見せてないから、神眼持ちのヒヨコの目ではいつだってすすけて見えるのだが。


 そんな中、一人の女性が険しい顔をしてやってくる。

 黒薔薇の紋章が入った鎧甲冑を着込んでおり、この国の貴人らしく銀髪に青い瞳をした綺麗な女性だった。長い髪を後ろに束ねている。

 見たところ、貴族のお嬢さんが騎士にでもなったのかな?といった感じだ。

 敵に捕縛されて、クッ殺せ、とか言いそうな感じのお姉さんである。クッコロお姉さんと呼ぼう。


「そこの貴女」

 バンッとステちゃんの占い師っぽく見せかける小物である台に手をついて乗り出すように尋ねてくる。貴婦人という感じではなく、女騎士って感じだ。

「は、はい、何で……しょうか?」

「最近、この辺で噂になっている、よく当たる占い師殿とは貴女ですか?」

「噂になっているかどうかは知りませんし、良く当たったかどうかは占った後の人に聞いていないので分かりません。一応、占い師ではありますけど」

 ステちゃんはこう聞かれると、他人の評価なんて知らぬと言わんばかりに返す。


 まあ、予知スキルを使っているから当たって当然なのだが。

 あと、変な人間が言い掛かりをつけてこないように占いの結果に文句を言われないための処世術でもある。

 ステちゃんはフルシュドルフでも帝都でも占いをやって稼いでいるが、どこに行ってもよく当たる有名な占い師になってしまう。


「狐耳に黄金の髪の占い師が凄腕だと聞いていますが?」

「はあ……それで、凄腕なのかどうかはともかく、狐耳に金髪の占い師に何用でしょうか?占いをご所望ですか?」

「ええ」

 女性は鷹揚にうなずく。


「私は25になるの。周りには行き遅れだと陰で笑われているのよ。勿論、腹立たしいから全員締め上げてきたのだけれど。しかし、これが悪かった。今お家騒動が起きてしまっていて、今になって貴族共が私に息子をと言い出す輩が後を絶たないのよね」

「結婚相手を占って欲しいと?それとも恋愛相談?」

「恋愛相談。そうね、まさにそれよ。私は心に決めた男がいて、他の男に興味はないの。相手も結婚をしているわけじゃないから油断をしていたというのもあるでしょう。そろそろ無理やりにでも籍を入れてしまおうかと思っているのだけれど」

「はあ。もう決めているなら私に用事は無さそうですが」

 ステちゃんは不思議そうに首を捻る。

「もちろん。ですが、男はこの私から逃げ続けるのです」

「逃げられている時点で占い以前の問題な気もしますが」

「あなた、商売する気があるんですの?」

 ジロリとクッコロお姉さんはジロリとステちゃんを睨む。

 しかしステちゃんもこれで意外と肝が据わっていた。竜王を相手に立ちふさがるような肝の持ち主だ。簡単に腰が引けたりしないのだ。


「占いは幸せにするためにするもので、誰かが不幸になるような占いなら、私まで恨まれてしまうので、やらない主義なのです」

「なるほど、なら問題はないわ。夫婦になるのだから円満解決しなければ意味がないでしょう?」

 なるほど、クッコロお姉さんもまた正論である。

 逃げられていようと捕まえて円満解決して結婚したいという事だろう。逃げられている時点で望み薄だとは思うが、逃げられていては話もできないという事だろう。


「うーん、では、『Aコース・相手と出会い話し合う時間をじっくり取れるケース』で大白銅貨1枚、『Bコース・今すぐ相手と出会えてちょっとだけ話し合う時間が取れるケース』で小銀貨1枚、『スペシャルコースは確実に夫婦になれるケース』で銀貨1枚でどうでしょう?」

「3つもあるの?」

「まあ、忙しいのであればBコースはお勧めしませんし、スペシャルコースはたかが占いには高すぎますので。占いはあくまでも何かを成す為に背中を押す程度のもので良いと思ってますから」

「あなたとしてはAが無難と?」

「いえ、単純に貴方の現在の懐事情を鑑みてですけど。当占いの店は即金なので。貴族様の後払いは受け付けていないのです」

 女性はポケットに手を突っ込むと驚いたような顔をする。そしてそこから白銅貨1枚を取り出す。若干手が震えていた。

 これがステちゃんの手口である。相手の懐事情を神眼で見抜いて占い師の実力が本物っぽく演出するのだ。


「まあ、貴族ですから基本的にお金なんて持ち歩かないのだけど…即金で払えという事ね。仕方ないわAコースでお願い」

「はい。手を拝借しても宜しいですか?」

 ステちゃんはいまいち予知ができていないのか女性と握手をするように求める。

 女性もそれに否を言うわけでもなく、手を差し出し握手をする。実はこれ、意味があるらしい。

 予知スキルはより相手との接触や情報があったほうが明確に物事を予知できるそうだ。相手に振れるというのもまた相手の情報を多くとることができるのである。


「う、うーん。温かい場所で……ここは海でしょうか?偶然の出会い……結婚?あれ、何か展開が早すぎるような?」

「何、見知った顔だからな。別に嫌われてもいない筈だし、進むときは進むだろう。良い話を聞かせて貰ったと言いたいが、思い当たる場所があるも相手はまだ帝都にいるのだが」

「さあ。情報がそんなにある訳じゃないので何とも………。ただ、逃げられているのでしょう?」

「む、むう。確かに家まで売り払い、自分の身元を隠しているのよ。元々自由人で妻を持つのが面倒くさいという男ではあるのですけど」

「それはまた面倒くさい感じですね」


 うちの町長さんもそんな感じだ。竜王さんの所のイグッちゃんもたくさんいる嫁達の尻に敷かれているらしい。テオバルト君は魔物レースで復権し、最近、モテモテらしいのだがどうにも家を見てすり寄る相手が多く辟易しているそうだ。

 とはいえ、リア充なので、イグッちゃんとヒヨコはそれを理由に飲み代をテオバルト君に奢らせるのである。


「でもそうね。……今の情勢で帝都に詰めねばならない私が帝都から離れるとは思ってもいないでしょうし、あり得るかもしれませんわね。良いでしょう、婚姻の事をバタバタしてる両親よりも祖父母のいる実家で相談する必要もありますし、適当に用事を作って実家に行ってみましょう」

「ご実家には海があるんですか?」

「ええ。この国の温暖な観光地でもありますから。ふふ、占いありがとう」

 そう言って女騎士さんは去っていく。

 貴族の人を遠くへいざなうというのはちょっと占いにしては大きすぎる話のような気もするが。

「うーん、大丈夫だろうか?」

 案の定、ステちゃんも心配をしていた。

「ピヨピヨ(まあ、責任は向こうにあるので)」

「上手く行かないと私が困るのよね」

 責任を取れと言われても困るのだ。

「ピヨ?(予知が失敗する事ってあるの?)」

「例えば彼女の愛しい人が私の予知を覆すような凄腕だった場合」

「きゅうきゅう(たしかに狐がどんな予知を起こしても、父ちゃんからすれば好き勝手出来るレベルなのよね。未来を知っても意味ないのよね)」

「そういう事。町中で普通の人を相手に占う分には問題ないけど、こう、ヒヨコが予知に混ざると見えない事が有るように何か嫌な感じだったんだよね」

「きゅうきゅう(混ぜるな危険)」

「ピヨピヨ(残念無念)」

 そうか、ヒヨコは予知に混ざると狂わせるのか。

 やはり勇者ヒヨコは予知などには負けぬのである。だが、ステちゃんを困惑させるのは申し訳ないのでちょっと位は自重しよう。

「そういえば、ヒヨコ、また魔物レース出るんだって?」

「ピヨッ(テオバルト君にスカウトをされてな。トルテが有名竜になった御蔭で外に狩りに行きやすくなって狩り系スキルをガンガン上げていたけど、やはりこの帝都、広くて外に出るのは面倒なんだ。このままだとヒヨコは飢え死んでしまう。そこで稼ぎ口が欲しいと、その前イグッちゃんとテオバルト君との3人で飲んでいた時に…)」

「何で大人の男たちと一緒に飲んでんのよ」

 ステちゃんは何故か呆れるように溜息を吐く。

 男はいつだって疲れた時にお酒でパアッとやって忘れたいのだ。ヒヨコとて社会ヒヨコ、大人の付き合いというものもあるのだ。


「きゅうきゅう(さらりとうちの父ちゃんが混ざってるのよね。いつになったらアレは帰るのか今度とっちめてやるのよね)」

「ピヨピヨ(そりゃ、無理だ。どうもトルテの母ちゃんに娘の家出の責任の所在を押し付けられて山に居場所がないらしい。トルテにもすげなくされて外にも居場所を失った哀れなお父さんなんだからあまり虐めてやるな)」

 そう、イグッちゃんは愚痴ばかりである。竜王と言えど心労がたまっているのだろう。

 ほとんど飲み会はイグッちゃんを慰める会になっている。ヒヨコはトルテの様子を伝える諜報員みたいになっているとだけ言っておこう。

「竜王陛下は大変そうね。というかなんだか王様なのにお城に居場所がないみたいな感じだったのか」

「ピヨピヨ(偶に参加する町長さんも大変そうだ。なんでも『しめしめこれでどさくさ紛れに爵位を放り出せたぜ。他の貴族から嫁やら妾やらを押し付けられそうにならなくて済む。冒険者として稼いで独身生活を楽しむぜ、ヒャッホウ』とか言ってたぞ。『爵位を捨てど、独身貴族でいたいのだな』と言ったら町長さんはその表現は良いなと笑っていたが)」

「うちの町の貴族様は何を考えているんだろう」

 ステちゃんはどこかあきれたようにぼやく。真面目に街をよくしようとしていた人だという認識だったのだが、その立場がなくなったとたんダメ人間みたいになった感じだ。立場は人を作るとはよく言ったものである。


「ピヨピヨ(まあ、そんな飲み会なんだが、新しくなった魔物レースでキーラが勝ちまくってちょっと調子に乗りすぎて困っているとテオバルト君から相談を受けてな。ヒヨコはキーラの兄貴分としてちょっと懲らしめてやろうと頼みに乗ったわけだよ)」

「きゅうきゅう(キーラのくせに調子に乗るとか生意気なのね。ここはガツンとやってやるのよね)」

「ピヨッ!」

 トルテがフンスと鼻息を荒くしてキーラが調子に乗っているという話に気分を害した様子であった。無論、ヒヨコは奴の伸びた鼻をへし折りに行くのである。

「ピヨピヨピヨピヨ(ヒヨコ的には良い金稼ぎだとおもったし、キーラもちょっと懲らしめて、副賞は常夏のヴァッサラントでの高級リゾートご招待のペアチケットがついている大会らしいからノリノリなんだけど)」

「うん。それは悪くはないんだけど、ヒヨコ、一言言っておこう」

「ピヨ?」

「多分ペアチケットの頭数にヒヨコは入らない」

 はっ?


「きゅきゅきゅー」

「ピヨピヨピ~ヨ~」

「きゅきゅきゅー」

「ピヨピヨ~」

 ヒヨコは愕然となり、音楽(※バッハ作『トッカータとフーガニ短調』)を歌いながらうなだれる。そういえば俺氏、魔物だった件。


「きゅうきゅう(ここは狐とアタシでいいのでは?こーきゅーリゾート?響きが良いのよね。まさに王者たるドラゴンに相応しいのよね。)」

「あ、そっか。ドラゴンは人権宣言に入っているから人間として数えるの?」

「ピヨピヨ(おかしいな?ヒヨコの勝ち取る予定の高級リゾートをどうしてステちゃんとトルテで山分け?)」


※現在、ヒヨコを椅子代わりにするステラとヒヨコの頭に乗って丸くなっているトニトルテを見れば、どのような扱いかは分かる事です。


「いやー、楽しみだねぇ。高級リゾート。ヒヨコ頑張れ」

「きゅうきゅう(ヒヨコ、応援しているのよね!)」

「ピヨー(どうしてこうなった!?)」

 ヒヨコは頭を抱えて空に向かって嘆く。

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