3章19話 新しい日常
法廷の騒動が終わってから1月が過ぎた。
ステちゃんは街頭に出て占い屋の露店を始め、生活に軌道が乗るまではテオバルト君の屋敷に厄介になる事にしていた。
ヒヨコと言えば、ただで世話になる訳にはいかないので、たまにトルテと狩りに出かけに帝都の外に出たりする。
しかし、やはりちょっとお出掛けするくらいではヒヨコの腹は満たされぬ。テオバルト君の厚意に甘えて無職をするつもりもないので、テオバルト君のお仕事を手伝っていた。
つまり魔物レースに出て稼いでいるのである。
その、長らく続いていた魔物レースであるが、半数以上のレースで、攻撃禁止というルールのあるレースを作られたのだった。
武闘派の魔物達は未だに攻撃ありのルールでやっているが、7割以上がそちらへと移動する事になった。
とはいえキメラに殺された魔物も多く、昨今は魔物レースの頭数も減っているらしいので新規参入は大歓迎だそうだ。
実際、テオバルト君は多くの魔物をキメラ研究所によって没収されている。
だが、そのキメラ研究所の解体によって、没収されたアインホルン家が所有していたユニコーンとスレイプニルが発見されたのだった。
テオバルト君は飲み屋でヒヨコとイグッちゃんに町長さんを加え3人と1羽で飲み屋に行き、笑うのか泣くのかどっちかにしろ、と突っ込みたいくらいハイになって喜んでいた。
しかも、どちらも雌だった為、種付けをすべく他のユニコーンやスレイプニルを持っている牧場と交渉して早々に馬を増やすべく仕事を始めた。
壊された厩舎とそこの所有権を帝国から謝罪と共に戻されて、新しい厩舎は責任を持って現在帝国が建造中である。他の潰された厩舎もあったらしく、帝国は第三皇子がやらかした事への補償で出費が結構なものとなった。
トレーニングセンターも圧力がなくなったのでアインホルン家にも再び解放されるようになった。
そもそも、このトレーニングセンターはかつて魔物レースで栄華を極めたアインホルンが作り、誰もが使えるようにと帝国に献上したものらしい。
アインホルン家は自由に使える帝国からの免状を渡されていたのだ。
なのでアインホルン騎士爵は自身の正統性を訴えたことに対して、第三皇子は無礼だと断罪した事を帝国は公に発表した。
国の利益にもならず、しかも過去の栄誉をある貴族を貶め、上に立つ者としての資格が一切ないとして第三皇子は放逐されたのだった。
テオバルト君は気が優しいのでその事についてあまり頓着してなかったが、うらみのある他の従魔士達からは『死罪にすべきだ、皇族は身内にぬるい』と怒り心頭だったらしい。次期皇帝だった第三皇子がかなり強引な手を使い怖かった為、文句を言えなかった。彼らはテオバルト君のお爺ちゃんを尊敬していたようでかなり怒りを溜め込んでいたようだ。
ともあれ、権力に守られ温室で育てられた子供が、金も権力をすべて失って家から放り出され、果たしてまともに暮らしていけるのかは謎である。
普通の人でも無理だ。
まあ、貴族の学園通いだったのだから、頭の出来は良いはずである。魔法も使えるし、それなりに生きていけるのだろう。だから他の人たちはぬるいと文句を言っているのかもしれない。どちらにせよ、ヒヨコにはかかわり合いのない者達である。
IRAは色々と改革すべく動いていた。今回、権力者によって荒らされたことにより、そういった事が今後起こらないようにするためにだ。
ルール改正に伴い、厩舎やトレーニングセンターの規定も大きく変わった。攻撃禁止レースもその一環である。
帝国所有となっていたトレーニングセンターもルールを作りIRA所有に変更された。
ヒヨコはあれから更に3回のレースに出て4連勝中と大活躍。
毎週走っているのでお疲れであるが、新魔戦(出走開始から1年生の魔物が出るレース)だとかそういうレースを勝ち、4勝目はグレード1『帝国で一番早い仕上がり!子猫クリーニング新魔物カップ』で優勝して、今年デビューした新魔物の4勝未満の魔物の頂点に立ったのだった。
ところで、何でこんな変な名前のレースなのかって?スポンサー名が帝都で一番有名なクリーニング店『子猫クリーニング』さんだからだ。
衣服や布団、馬車の幌から盾や鎧まで、なんでもクリーニングするので皇室御用達でもある有名店である。
この1年で二度もキメラによってクリーニングのスポンサーをしている新魔物杯が血まみれになってしまい、スポンサーを撤退しようかと悩んだらしい。
魔物レースで新魔レースが攻撃禁止のレース対象になった為、スポンサー撤退を取りやめたとか。
そんなこんなで有名なったヒヨコ達であるが、今日も今日とて商売をしているステちゃんの隣に座って日向ぼっこをしていた。
商売といってもステちゃんが街頭で占いをしているだけだ。人だかりができるほどではないが平日の昼間でも10分に一人は客が来るようで時給大白銅貨2枚程度のお仕事である。ただし、お仕事帰りの時間帯だと行列ができる程度に混むのだが。大きいおじさんが凄く下らない悩みを小さな子供に占ってもらうのは微妙な感じである。
どうも評判が良いので人が集まるようだ。
ヒヨコはレースに参戦してない時は大体ステちゃんと一緒にいて、占い屋の横で寝ている。ステちゃんの営業時間は午前8時の鐘の音と共に始めて、午後6時の鐘の音と共に営業を終了する。
ちなみにヒヨコ達の仕事といえば、午前8時の鐘がなると、フルシュドルフの名前を売る為にトルテと共にピヨピヨきゅきゅきゅと歌いつつ、フルシュドルフダンスを踊る事だ。報酬はもちろんない。
ただ、偶に町長さん(元町長さん?)に飲み屋で奢ってもらえるので、その為に日々フルシュドルフの地域振興として踊っているのである。もう町長さんには関係ないと思うが、生まれ育った地だからアンバサダーとして日々頑張っているらしい。
気付けば帝都の定番になって、近くを登校の為に通りかかる少年少女たちがフルシュドルフダンスを一緒に踊ってから学校に行くようになっていた。フルシュドルフの名は確実に広まっていた。
ヒヨコとトルテは午後6時ちょっと前になると行列の整理に入り、営業終了の看板を首にぶら下げて新規で並ぼうとする人たちを追い返すのである。
我儘を言って無理矢理我を通そうとする人間もいるが、竜王の威光があるのでトルテが睨むと大体帰ってくれる。
そんな穏やかな日々を送っていたのだが、ステちゃんの占いの的中の噂が噂を呼んで、厄介な連中を引き込むこととなった。
早朝に20人くらいの魔物レース新聞を握りしめ、赤鉛筆を耳にかけたおじさん集団の到来である。並ぶというよりは取り囲むという形でステちゃんの所に来ていた。
1人の男がステちゃんの前に立ち
「嬢ちゃん、ちょっと占って欲しいんだけど良いか?」
と若干脅すような感じで訪ねてくる。
「はい。ですが魔物レースの結果は占いませんよ?」
ステちゃんは相手の姿を見て、明らかに魔物レースで魔券を買いに行く風体なので釘をさしておく。
「客を拒むってのか?ああん?」
ステちゃんはサラリと流すが、そうは問屋が卸さなかった。
「当たるという噂はあるが、やっぱりインチキだったようだな」
「はっ、インチキ占い師が」
すると周りにいる男たちがインチキだ、詐欺だと騒ぎ立てる。元々、占いってそういうものじゃん、とステちゃんは呆れた様子で周りを眺めていた。
とはいえ、ステちゃんの阿漕な商売にヒヨコもトルテも口出しはしないのだ。
「きゅうきゅう(ジャーキー3本で男たちを追い払っても良いのよね。カエルの刑に処してやるのよね)」
「ピヨ(それに乗った!)」
「(いや、別に良いから)」
ステちゃんは念話でヒヨコ達に抑えるように言いつつも、武闘派のヒヨコ達が立ち上がろうとするのが、ヒヨコたちの頭を手で抑え込みステイさせる。
基本的に、ヒヨコもトルテも夜や早朝に狩りへと出かけて、昼間にここで寝るのが日課だから騒がれるといやなだけだが。
ステちゃんは小さく息をついてから周りの大人たちを見る。
「魔物レースは誰が勝つか分からないエンターテイメントだから面白いのであって、私が勝者を教えてしまったら魔物レース協会やレースのエンターテイメントを楽しみにしている人達に迷惑がかかるからです。母の遺言で占いによって私腹を肥やしたりせず、皆が幸せにするように言われてますので」
「はっどうせインチキだから当てられないのだろう?」
「都合の良い言い訳ばかり言いやがって」
「どうせ母親もインチキで生きていたに違いない」
「インチキ親子が何を偉そうに」
するとステちゃんのコメカミはヒクヒクッと痙攣する。しかし怒りを隠して営業スマイルを続けていた。男たちはさらなる心無い声をかけるので、ステちゃんは聞き触りの良い反論をする。
「わ、私は基本的に多くの人が幸せになる為に占いをしているのであって、そういったことは受け付けておりませので……」
「できないならできないって言えばよいだろう」
「「「イーンチキ、イーンチキ」」」
ステちゃんが自己弁護をしても、男たちはゲラゲラ笑いながらも、インチキコールを始める男たち。
一応16歳だが思春期前の幼女にしか見えないステちゃんをいい大人たちが取り囲み、寄って集ってインチキ扱いをするのだった。
大人げないというか小さい連中である。ヒヨコも流石にイラッとする。ちょっと軽くあぶってやろうか?
「(ヒヨコ、この連中、遺体が出ない程度に炭にして焼き払っておいて)」
「ピヨッ!?」
ステちゃんはヒヨコ以上にご立腹だった。営業スマイルの裏で恐ろしい命令を下すボスの姿にヒヨコは戦慄せざるを得ない。武闘派のトルテでさえ若干引きつっていた。
ステちゃんの怒りポイントは恐らくお母さんの悪口を言われたからだろう。
これまで、占いで文句を言われることはよくあった。フルシュドルフにいる頃から狐の横に常にヒヨコがいたのでステちゃんの営業スタンスをよく知っている。
占いの結果が悪い時や、占えないと拒んだ時、多くの人に文句を言われても決して怒る事はなかったからだ。むしろ自分の至らなさに反省している真面目な子なのである。
まさか焼き討ちを指示されるとはヒヨコ的に想定外だった。そして別にそれはできないわけではないのだが……
「ピヨピヨ(ステちゃん、ステイステイ)」
ヒヨコはステちゃんをなだめる事にした。さすがにこの大通り、人の少ない休日の朝だからとて、いきなり20人の男が消息不明になったら大問題だ。
「(でも、こいつらお母さんの悪口を言うとか万死に値するし!大体、こっちは稼ごうと思えば稼ぎ放題なのを我慢しているのに、何で文句を言われなきゃいけないの!お母さんの遺言がなければ今頃帝都のど真ん中に巨大な宮殿を立てているわよ!)」
「ピヨピヨ(確かに儲けようと思えばいくらでも儲かるスキルだからなぁ。気持ちは分かるぞ)」
「きゅうきゅう(アタシやヒヨコと違って弱っちい狐を寄って集って虐めるのは格好悪いのよね)」
微妙に涙声な念話を使って訴えるステちゃんであった。
そう、我慢しているのはヒヨコもよく知っているのである。ヒヨコはなだめようとするが、トルテも義のない男たちにご立腹だった。そう、ヒヨコとトルテは凄腕で帝都郊外の魔物狩りを軽くこなせる運動能力と戦闘能力を持っている。だが、ステちゃんは予知スキルがあるだけのただの小娘である。弱い者いじめはドラゴン的に好きではないようだ。
やがて、二人の視線がヒヨコに向く。
え、マジで焼き払えと?
「ピヨピヨ(そう、ここは穏便に痛い目を見てもらうというのはどうだろう?)」
「(何か方法でもあるの?)」
ジト目でヒヨコを睨むステちゃんに対して、ヒヨコはそう聞かれながらもグルグルと頭を回して策を練る。
「ピヨッ(そう、……占いが当たるという事を示しつつ、奴らがひどい思いをするような感じの占いを!)」
「きゅうきゅう(そんな無茶振りをするものじゃないのよね)」
いや、そっちはそっちでヒヨコに結構な無茶振りをお求めなのですが。
奴らを消し炭にするのは難しくないが、ここら辺の家とかも一緒に消し炭にしてしまうだろう。ヒヨコの火炎吐息は既にレベル6に上がっていた。一撃でマグマのようにするようなブレスが可能である為、人間を瞬時に消し炭にする事が出来ない訳じゃない。
だがそれはとっても危険だ。
ここは対案を出すしかない。
「ピヨピヨ(こう、占いを当てつつも、彼らは全く儲からぬ、みたいな。ステちゃんとて、占いを教えた結果、逆目になったみたいな事はあったと思う。皆を幸せにしつつ敵を不幸にする分には問題ないのでは?)」
「(ふむ…………う~ん…………なるほど確かにそれはお母さんの言いつけに逆らわず、そしてインチキといった連中を見返せる……。よし、やってやろうじゃないか)」
ステちゃんの目に光がともる。暗い光だったけれども。
そしてステちゃんは周りからインチキコールをされて脅されたうえに、子供に謝罪を要求する大人たちの前で、占い小道具の中から算盤を取り出してカチャカチャと何やら計算を始める。
そしてはじき終えるとうんと一度うなずいてから男たちを見渡す。
「わかりました。良いでしょう。レースの占いは基本的にしませんが今回だけは特別ですよ。大白銅貨1枚になります。ですが、所詮は占いですので見えるとき見えない時があります。具体的でなければ具体的なものもあります。それでいいですか?」
「外れたらどうなるか分かってんだろうな。俺から大白銅貨を奪うんだからよぉ」
と脅してくる男に対して、ステちゃんは頷いて許容しつつ、早く払えとそして手を差し出す。男たちの一人がステちゃんに大白銅貨を渡す。
ちなみにステちゃんの占いは大白銅貨1枚からとなっていて、内容によって都度値上がりをするというもの。例えば失せ物探しでも大金を戻せるなら高めにとるし、財布がなくなっても既に財布の中身がすっからかんなら無料で占ったりしている。
そもそも白銅貨1枚は魔券の最低価格である。ステちゃんの占い料金の5分の1程度だ。それで大当たりできるなら安い投資だと思うのだが、どうも彼らは単に嫌がらせをしに来ただけかもしれない。
「3つのレース結果の一部が見えました。1レース目は1着が2番、2着が8番、魔番連勝2-8。5レース目は1着が7番、2着が1番で魔番連勝は1-7。あと…最後の10レースは時間的に随分先なので、番号まではよく見えなかったんですけど、8レースと9レースの間くらいでにわか雨が降って、馬場が随分荒れて十万魔券が出るみたいですね」
「はあ?この晴天で雨が降るわけないだろ?」
どっと笑う男たち。
「当たるも八卦当たらぬも八卦と言いますから。どうぞご自由にご判断を」
ステちゃんはといえば、占いはこれで終わりと頭を下げつつ彼らの見えないように舌を出す。
さすが腹黒占い師である。だが、大丈夫なのだろうか?ピヨドラバスターズがいる以上、暴力的に困った事にはならないだろうが、営業妨害されたりしないかと不安だ。
男たちが去っていくと
「心配無用。大丈夫よ。予知に予知を重ねてみたから。というか予知スキルが今ので一つ上がったわね。やっぱり複雑な予知をたくさんしないとレベルが上がらないのかぁ。お母さんみたいに予知スキルレベル10の世界は遠いなぁ」
ステちゃんは小さく溜息を吐く。もしかしたら、ステちゃんが占い師をしているのはお母さんみたいに予知スキルをカンストするためなのかもしれない。
言われてみればさっきから神眼ですすけていた狐の尻尾の数が3本から4本に増えていた。妖狐は予知スキルのレベルが上がると尻尾の数が上がるという。もしかしたらヒヨコにとってレベルがカンストすると鳥になる、みたいな成長なのかもしれない。
「きゅうきゅう(でもあいつらが儲かるのは我慢ならないのよね)」
「大丈夫よ。そう、ヒヨコが言ったように逆目になるような予知をしたから」
「ピヨピヨ(腹黒ですなぁ)」
「きゅうきゅう(他の魔券は当たったりするの)」
「まあ、後で魔物レース場に行って状況を観察しに行きましょう。ククク、お母さんをバカにしたこの恨み晴らさでおくべきか」
クツクツクツと昏く嗤うステちゃんにヒヨコもトルテも思い切り引きつっていた。ステちゃんのお母さんを侮辱する発言はしまいと心に誓うのだった。
「ピヨピヨ(ステちゃんが黒い)」
「きゅうきゅう(そもそも女狐という諺は狐のお母さん由来だと父ちゃんから聞いていたのよね)」
「ピヨピヨ(黒いのは母親譲りか)」
「余計なことは言わなくていい。さあ、営業再開」
まあ、営業しているのはステちゃんであって、俺とトルテは暇なので寝ているだけなのだが。このお昼寝スポットはほどほどの日差しで、うたた寝するのにちょうどいいのである。
実はこのお昼寝スポットがヒヨコ達のお気に入りであった。
昼を過ぎたあたりでステちゃんは俺たちを叩いて起こす。
「雨が降るから営業終了するよー。最後に並んでる人の後ろに立ってー」
「ピヨ……(そういえばそんなことを言っていたが、全然雨が降る様子はない)」
俺は不思議そうに首を傾げつつも立ち上がる。トルテはステちゃんから大きい傘を持たされて、トルテは傘を差して俺の頭の上に乗る。これで2名様が1つの傘に収まったのだが、恐らくヒヨコの体は大きいので雨に濡れるのだろうが。
学校から帰ってくる子供たちがやってきて「ピヨちゃんだー」と呑気そうにバシバシと叩いて去っていく子供達がいたりする。誰もトルテを叩いていかないのはなぜだろう?まあ、トルテはヒヨコの頭の上に避難していて子供たちの手の届かぬ場所にいるのだが。
今日は何故か傘を差しているので子供達も不思議がっていた。そりゃそうだろう。ヒヨコだって不思議だ。だが、ステちゃんのいう事は大体当たるのだ。したがって損はないのである。
やがて最後の占い客が去っていくとステちゃんは傘をさす。
するとポツポツと地面を濡らし気付けば遠くからものすごい勢いで暗い雲が進んできて帝都を包み込もうとする。
あっという間にバケツをひっくり返したような豪雨になってしまった。
ヒヨコ達はといえば小雨のうちに魔物レース場へと辿り着いて避難していた。
レースは丁度9レースに差し掛かったあたりだ。まさに占い通りであった。
ステちゃんは魔物レース場に入るなり、魔券売り場で1枚の白銅貨と自分の身分証明書を出して、10レース目の魔券を購入する。
あれれ?
勝った魔券は2-5だが、配当は300倍?
はて、おかしな話だ。
最低魔券が白銅貨である100ローザで取引されている。100ローザを賭けて1000倍が当たった時に10万ローザの配当があるから十万魔券と呼ばれている訳だそうだ。
つまり1000倍を買わなければならないのだ。
この制度や呼称をつくったのはかつての異世界から来たピョンスケとかいう勇者だった奴らしい。
で、ステちゃんが十万魔券が来ると言ったのだから、それは1000倍が当たらなければならない筈だ。300倍では足りないと思うのだが。
ヒヨコは不思議に首を傾げていると、にやにやと笑っている例の男たちを発見した。
彼らは10万魔券を当てるべく10レースの現在のオッズ見ながらどれを買えばいいのか辺りをつけていた。そしてたくさんの金をつぎ込んで購入していく。なんて汚い奴らだろうか。
「ピヨピヨ(ステちゃん、ステちゃん。奴ら片っ端から10万魔券を買いまくってるぞ)」
「……それで?」
「ピヨッ(これではギャフンと言わせられないではないか。どうなってるんだステちゃん)」
「きゅうきゅう(悔しいのよね。儲かる気満々な顔が腹立たしいのよね)」
「ん?別に問題ないよ?」
「ピヨ?」
理解の追いつかぬヒヨコはレース場へと足を運ぶ。
10レース目はすでに始まっていた。本日のメインレースである。ヒヨコよりも遅そうだが皆一生懸命頑張って走っている。
飛び出た魔物達は一斉にゴールへ向かって走り、障害物を潜り抜けていく。
ドドドドドドドと足音を立てて、大きい声で応援する観客が見守る中、1位に2番のランニングリザード、2位には5番のグレートボアという弱そうな魔物達がゴールを通過するのであった。
『まさかの1着はトコナツブービー、2着はビリッケツです!名前に反してとんでもない着順!これは大きい配当が期待できる結果となりました!』
盛り上がりを見せる会場。
ピヨよりも酷い名前が付けられていた。何を目指して付けた名前なのだろう。
ステちゃんを脅してきた連中がこちらをみて一斉に頭に血を上らせてやってくる。
「テメェ、外れたじゃねえか!」
「1000倍の魔券は全部買ったってのによ!」
「このインチキ占い師が!」
「どう責任取ってくれるって言うんだ!ああ!?」
ステちゃんに因縁をつけてくる連中。この人たち、もしかして魔物レースで生活費を削ってるダメな人ではなく、あっちの筋の人だったのだろうか?
困ったものである。やはりヒヨコブレスによる炭化作戦の方が良かったのか?
ヒヨコはズズイとステちゃんと男たちの間に入ろうとするが取り囲まれてしまったので逃げれない。
『魔単2番は103.1倍、魔番連勝は2-5で1021.2倍となりました』
「ちゃんと10万魔券だったと思いますが」
ステちゃんはシレッと答え、男たちはぐうと唸る。
「こ、こんなの偶々だ!」
「そうだ!大体、中途半端な占い結果が偶々当たっただけのくせに!」
年に10回も出ない10万魔券を当てて偶然と言い切るのはある意味で凄い男たちだった。
「あ、すみません。私、換金しないといけないのでどいてくれませんか?」
ステちゃんはシレッとさっき買った魔券を取り出す。
それをトルテがヒヨコの頭に乗っかって全員に見せるように手で持って掲げていた。
ステちゃんは十万魔券を当てたという証拠を見せて、取り囲んでいる連中はそれを見て後退る。そんな馬鹿な!みたいな顔をしていた。
ここにおわすはどこの誰と心得る。この方こそが先の副将軍ステちゃんであるぞ。頭が高い!控えい控えい。みたいな感じになっていた。
十万魔券すげー。
「何?あの子、最近商店街の露店で見かける占い師の子でしょ?」
「さっきの10万魔券当てたの?」
「マジかよ」
「よく当たるって聞いていたけどマジだったんだな?」
「ピヨちゃんだー」
子供連れのお父さんがいたようで厄介そうな男たちとは逆に子供たちがヒヨコにまとわりついてくる。だからバシバシヒヨコを叩くなと言うておろうが。
ステちゃんは換金所のおばちゃんを驚かしつつも小金貨1枚と小銭をじゃらりと貰い、それをそのまま隣に置いてある恵まれない子供の為の基金の募金箱にそのまま放り投げる。
「じゃ、帰ろうか」
ドヤ顔してなければ格好いい所だったのに。
ヒヨコはちょっと残念な飼い主を見てから、頭にトルテを乗せて、子供たちにバシバシと叩かれながら、ピヨピヨとついていくのであった。
後日、客がたくさん来るようになって大変になるステちゃんであるが、この日の事を後悔したのは後の祭りだったという話。
そういう所もちゃんと予知しようぜ、と突っ込んでいたのはヒヨコだけではないだろう。
女神「はい、あとがき担当女神です。3章のエピローグ的な話でありながらあとがきのゲストに何故か元勇者沖田ピョンスケ君が来ています。」
勇者シュンスケ(以降『ピョ』と表記)「誰がピョンスケだ!」
女神「いや、作者的にも面倒くさいらしいですから」
ピョ「いやいやいやいや、だからピョンスケちゃうねん。駿介だから。何故間違えるのか、ヒヨコ&女神様。そもそもヒヨコは未来の俺の魂じゃなかったのか?何故、アイツは俺をディスる!?」
女神「魂なんて何にも印刷してなければ別物ですよ。貴方、同じ紙でできた本でも文庫本と上製本で異なり、作者も内容も違う作品を同じ本だと思いますか?」
ピョ「ぐぬう。確かに。本の紙の質と内容は別物」
女神「これだから文庫本は」
ピョ「サラリと俺の方が安いとか言わないでください!かつて魔神アドモスを倒した救世主にして、この世界の文明を大きく進めた勇者なんですから。扱いが雑すぎる!」
女神「フフフ、またまた冗談を。地球のジャージルックな引き籠りと、うちの世界で丸々と育てたヒヨコとどっちが上だと思ってるんですか?」
ピョ「ガフッ。だ、だが、サラリとヒヨコの身の危険さを感じる言葉を吐くのもやめてくれ。俺の魂が、転生先で美味しく食べられるのかと思うじゃないか」
※勇者は何度となく転生している中で、羊に転生してイグニスに美味しく食べられたり、蚯蚓に転生してカメに美味しく食べられた実績があります。意外に食べられてます。
女神「さて、やっとこさ退屈な三章も終わりですね」
ピョ「そうですねーって何故に話が突然変わる?何か変な間があったようだが…………まあ、時間も押しているしいいでしょう。そんな事よりも、イグニスってまだ生きていたんだな。2章の時に気付いてはいたけど。フローラも娘がいるけど全然似てないのな、フローラって言えば俺の中ではスイカが胸元に二つ付いている妖艶なイメージしかないのだが、娘はどう見てもチンチクリンじゃないか。確かに胸を無くせば似ているが……」
女神「そういう風に女性を見るから、500年も童貞を極めるんですよ。30歳に魔法使いにジョブチェンジさせておいたのに」
ピョ「まだ10代の俺にそんなどうでも良い未来を教えないでください!だが未来は変わるはず。そう、魔神を倒してもこっちの世界でたくましく生きてる俺が童貞で終わるなんてありえない。ありえないんだ。きっと上手く行く世界線があるはず。そして俺は存命のうちにその世界線を選ぶのだ!」
女神「そんな世界線から外れた世界を見ているのに何を今更な」
ピョ「大体、俺の知ってるイグッちゃんは硬派でクールな奴だったんだ。キャラクター変わってね?きっと違う未来なはずだ。俺の行くべき未来はここじゃない」
女神「そりゃ、500年前は世界滅亡の危機でしたし、従来はあんな感じですよ?それに500年ですからね。ピョンスケだってあんなにお茶目で可愛くなっちゃって」
ピョ「サラリと俺が俺のままヒヨコになったような言い方は辞めてくれ!あとピョンスケ辞めて!」
女神「そうですね。ピョンスケとうちのヒヨコが実は同一魂だったなんて反吐が出ますし」
ピョ「さらっとディスらないでください。あと、駿介ですから。シュンスケ。何ですか、さっきからピョンスケピョンスケって!俺はTシャツにプリントされたカエルの親戚じゃないですからね!」
女神「はい、じゃあ、話を変えましょう。ちょっと3章は退屈だったので、4章ではもう少しアクティビティに行きたいと作者からの訴えがありましたけど、何か意見がありますか?」
ピョ「敢えて言うならタイトルの変更を物申す」
女神「またですか?1章でふざけたことを言ったと思ったら、三章でもいうんですか?奇数回はタイトル変更の提案なんていうどうでも良いネタ振り入りませんよ」
ピョ「何を言っているんですか、女神様。そんな先のありえない未来なんて関係ない。題名変更について、俺は本気です!」
女神「猿が何か?」
ピョ「誰がモンキーやねん!って、ちゃうわ!こう、そもそも最凶ヒヨコ伝説とかどこら辺が最凶なんですか!?お子様に人気の可愛いピヨちゃんに最凶とかないでしょ」
※訳:最も凶な運勢のヒヨコ伝説です。
女神「はいはい、で、どうすべきと?」
ピョ「何かおざなり!?……コホン、まあ、いいでしょう。そこで俺はもう少しヒットしそうなタイトル名を欲しいのです。最近はピヨピヨきゅきゅきゅと歌っているみたいですし音楽性があると尚良いですね」
女神「音楽性ですか?確かにヒヨコは音楽をピヨピヨと垂れ流してますが」
ピョ「そう、そこで音楽性ですよ!」
女神「はいはい、じゃあ、候補を挙げてみてくださいな」
ピョ「じゃあ、考えてみるんでちょっと待ってください」
………5分後
ピョ「じゃ、じゃあ、言いますよ」
女神「どうぞどうぞ(さっさとしろよ、おっせーな)」
ピョ「……では、ピヨライブ!サンシャイン!でどうでしょう!?」
女神「いや、別になろう系じゃなければパクっても良い、みたいな振りをされても困るのですが。あとドヤ顔がうざいです。私は私自身がアイドルなので、アイドルモノって好きじゃないんですよね」
ピョ「で、では、HIYOKO ALBUMでどうですか?」
女神「あー……次に進撃のヒヨコとか革命機ピヨヴレイブとか魔法小鳥リリカルピヨヨとか言ったら潰しますよ?大穴で機動戦士ヒヨコ~鉄血のピヨチャンズ~とか、ピヨヨアンジェ~ヒヨコと竜の輪舞~とか言ったら二度とここに来れないようにします」
ピョ「ガフッ。まさか5分使って再考したネタをすべて言われるとは。というか、俺よりも微妙にセンスがあるし」
女神「いったいどんなネタを並べようとしていたのでしょうか?先に没を出したのをセンスがあるという時点で終わっているような気もしますが」
ピョ「どうせ俺にはセンスなんてありませんよ。シクシク」
女神「という事であとがきはこれまで。一体、このパクリ勇者ピョンスケの考えていたネタの共通点は何でしょうか。回答はこの後すぐ」
ピョ「それよりも、さっきからピョンスケピョンスケと何ですか。駿介ですよ。勝手に名前を変えないでください」
女神「ですが、今回のあとがきにある貴方のセリフ、全部『ピョ』になってますよ?」
ピョ「って、マジだ!?ちょ、作者!勝手に人の名前をかえ
※作者都合によりあとがきを打ち切らせていただきます。
回答:紅白歌合戦で歌われたアニソンのアニメタイトルをパクっています。