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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部3章 帝国首都ローゼンシュタット 走れ!ヒヨコ
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3章閑話 竜王は親ばかで過保護なのである

本話は竜王イグニスの一人称です。

 我はローゼンブルク城へとやってきていた。

 正確にはローゼンブルク帝国ローゼンシュタット市にあるローゼンブルク帝城なのだが、まあ、面倒なのでそこまで説明は必要ないだろう。


「おい、そこのお前。今から皇帝に会うからそこを開けよ」

 我は城の前に立っている男に門を開けるように問う。

「はあ?何言ってんだ、アンタ。皇帝陛下にそんな簡単に会えるわけないだろう」

「我が会いに来たというのに直に出てこないとは滅ぼされたいのか?」

 まったくもって人間というのは面倒である。

 こんなザコなど叩き殺せばよいのだが、一応は盟約を結んでいるので無用の殺しもできぬ。

「いったいどこの何様だってんだ?」

「酔っ払いならさっさと帰りな。ここは帝城ローゼンブルクだぞ」

「北部の山に住んでいる竜王イグニスだ。人間の安酒などで酔ったりはせぬわ。いい加減にせぬと叩き潰すぞ?まったく、これだから人間は面倒だ」

 我はふんすかと息をつき腕を組んでイライラしてくる気持ちを落ち着かせようとする。


「ぷっ……はははははっ!言うに事を欠いて竜王だ~?」

「冗談はやめてくれ。ほれ、それだったらドラゴンだっていう証拠を見せて見ろ」

 ゲラゲラ笑う衛兵達。なるほど、言われてみれば我は人間の姿をしている。とはいえ、こんな場所で竜の姿になれば城門も崩れるし近くの店も巻き添えかねない。

「ふむ。構わぬがこんなところで竜の姿になってはパニックにならないか?城門もお前たちも踏みつぶしかねぬが」

「あははは。そうなったら俺が責任を負ってやるよ」

「はっ、やれるものならやってみろ。あはははは。」

 問題ないと言われたので我は即座に人化の法を解く。すると体は元の姿に戻りローゼンブルク城とやらと同じくらいの大きさになる。

「ひ、ひええええええええええええええええええええええっ」

「お、助けをーっ」

「騎士団を呼べ!ドラゴンの襲撃だ!」

「おお、神よ、我をお救い給え」


 言わんこっちゃない。大パニックではないか。

 問題ないと言われたはずなのに、解せぬ。


 逃げる兵士たち、慌てて城から出てくる兵士たちもいるがそれより前には出てこない。

 我を見て腰を抜かしてしまっているようだ。


 すると奥の方から慌てて走って一人の男がやってくる。確かシュテファンと一緒に交渉に来ていたこの国の宰相だったはずだ。確かクラウスとか言ったか。

「竜王陛下。申し訳ございません。足を運んで頂けたのにまともなお迎えもできず」

『ふむ。確かにお前が言うようにそもそもどうやって入ればいいか分からなかったな。以前、言っていたように何かわかるような印になるようなものを貰おうか?』

「あるいは前日辺りにでも帝都の上空を1周ほど飛んでいただければ翌日には来ると出迎え準備をいたしますが」

『なるほど。そこら辺は考えてなかったな。普通なら強引に入るところだが、盟約があるから叩き潰しながら進めなかったわ。クハハハハハ、いかんいかん』


 そういえば以前入場許可証みたいな宝具をクラウスの奴が渡すと言っていたが、どうせ忘れるし面倒だからいらぬと断ったのだ。

 だが、しかし、盟約がある以上、城を守る人間を片っ端から叩き潰しながら私を知っている人間に会おうとすれば、盟約を守れなくなる。

 我が来たことを伝える手段などが考えていなかったのは失敗だったな。先ぶれも何もドラゴンがのこのこやってくるわけにもいかぬしなぁ。大体人間どもは我が空を舞えば皆パニックになってしまうし、攻撃をしてくる輩もいる。

 クラウスやシュテファンが言ったように何かしら符号が必要だというのは本当だったな。とはいえ、忘れたからまた戻るみたいなのも面倒だからなぁ。どうしたものか。


 我は再び人化の法を使い人間になり、鱗を一枚使い人間の服を錬金術で作って身にまとう。

 服をまとわねばならぬとは人間というのは不便なものだ。


「な、アレは錬金か」

「何という早業」

「数多の英知を持つ竜王陛下とは真実か」

 周りの男たちが恐れるように我を見る。別に男なんぞに見られてもうれしくはないのだが。

 驚くほどのものか?

「こんなもの長く生きれば誰でもできよう。英知を持つというのであればクラウスの方がよほど賢かろうに」

「特別な目を持つ方々は私を買いかぶりすぎでございますれば」

「人間でも貴様のようなものが最も恐ろしいものよ。有史以前とて何度となく人類は滅びに瀕したが幾度となく強きものを屠ってきた。狡猾さによってな」

「経験故、ですな。ですがそういう狡猾さならもっといやらしい男がいましょう」

「ああ」

 ヒューゲルは典型的な有史以前の英雄によく似ている。ドラゴンのような圧倒的な力量差を知恵によって打ち破り人間の世を作ったかつての覇者があんな感じだった。

 まあ、奴は覇気が足らんがな。

「ところで竜王陛下は悪魔王の下につき勇者と戦ったと聞きましたが」

「悪魔王に息子が囚われてな。成龍ならば自力でどうにかせいという所だが、まだ幼竜だったのよ。助けに行きたくても娘が生まれて間もないから山を守らねばならぬ。悪魔王を倒せる人間が育ちつつあったから時間稼ぎをするために奴らの軍門に下っただけ。特に意味はないわ」

「なるほど。勇者ルークに陛下が負けるなど正直驚きましたので」

「別に決着がついたわけでもないが負けたとしたのは事実だ。本気で殺し合えば決着がつく前にこの大陸が滅びよう。戦ってるふりをしながら奴に息子を救ってもらったのだ。悪魔王を殺すまで死んだ事にしておいてもらっただけの事」

 さすがはあのバカの魂を引き継ぐものではある。逆に言えばあのバカの魂を引き継ぐものだからこそそれを任せられたとも言うが。

「は、はは……」

「とはいえ、人間は狡猾よ。我とも等しい力を手に入れたルークを騙し簡単に殺しおったわ」

 まあ、奴の魂を引き継ぐ者は決まって強く迂闊なものが多い。何度も転生しては見かけているが必ず真の勇者と迂闊者が同居しているからな。

「やはり本当でしたか。偽勇者を処罰したと王国から連絡があり忍びの者も火刑に処されたのはルーク本人で間違いないとは聞いてましたから」

「そうよな。だからこそ人間は侮れぬ。それに我らとて幼い頃は弱い。貴様らとの不可侵条約は我が子を守るために敷いたもの。我が息子が悪魔王にまんまと浚われるようなことにならぬようにな」

「そうですか」

 ふむ、顔色を変えぬとはさすがは人間、演技が上手いものよ。

 我が知らないとでも思っているか?いや、シュテファンの奴は我が法廷で全容を見ていたのを知っている。無論、その情報は聞いている筈だ。

「おそらくシュテファンから耳にしていると思うが我の娘がこの国の世話になる。どうも賑やかな文明を見てみたいそうだ」

「そうですか。我々もつい最近聞いた話なのですよ。太守がシュテファンの帝都への連絡を長らく遮断していたようでしてシュテファンが犯罪者として帝都の収容所に捕縛された時に知ったほどでして」

「ほう」


 やがて城の中にある一室へと案内される。

 そこには皇帝カールステンがいた。護衛らしき男たちは礼をして部屋の外へ出ていく。

「皇帝陛下。竜王陛下をお連れ致しました」

「うむ。竜王陛下、よくぞ来てくださった」

「突然の来訪済まぬな」

「いえ、竜族の文化にはない事ゆえ仕方ありませぬ」

「とはいえ、確かに面倒よな。何かしら符号のようなものがあれば良かったのは確かよ。とはいえ、我は基本的に好き勝手に着の身着のままで動いているからな。山にものなど隠し持てぬ」

「故にこそ前回の話し合いではそれを諦めたのですが、毎回城門が壊れても困りますからなぁ」

 外を眺める皇帝は我が竜化したことで壊れた城門を悲しげに見降ろしていた。


「責任を問われても困るぞ。我とて遠慮をしたのだが、竜になれるものならなってみろ、責任を取ると言っていたからの」

「全く、門番達は……」

 皇帝は呆れるように溜息を吐く。

 まあ、部下の統率など簡単な話ではない。実の息子さえいう事を聞かせられぬのだからな。


「私は近いうちに竜王陛下の来訪があるかもしれぬとは言っていたのですが……それから1週間以上経ってますし仕方ない事かもしれませぬ。当人たちが責任を取るといったようなので、責任を取らせましょうか。城門の修復費用を奴らに出させましょう」

「奴らの給与では一生かけても払えぬぞ?」

「それは分かっております。そう言って数か月ほど、給料半額でコキを使い、例のタイミングで恩赦をかけて返済免除とすれば次の皇帝陛下への忠誠心も増しましょう」

「相変わらずあくどい男よの」

 皇帝はクラウスを半眼で睨み小さく溜息を吐く。


 そして我の方を見て

「して、今回は何用でこちらへ?」

「娘が帝国の文化に興味を持ちしばし滞在することになった。シュテファンに伝えていたのだが、どうもシュテファンの連絡が途絶え、最近まで知らなかったそうではないか。まあ、一度は親としてやんちゃな娘が迷惑をかけるだろうから挨拶をと思っていたところだ」

「かしこまりました。娘さんはどちらへ?」

「今は帝都の南の方にいると聞いている。フローラの娘とヒヨコが近くにいるから命の心配はなさそうだが………それでも盟約を破るような輩が多いらしいな」

「………人が多い故に中々周知しきれぬ事を申し訳なく思っています。して、フローラの娘とヒヨコとは?」

「ああ、巫女姫フローラの娘だ。まだまだ青い小娘よ。己の力に振り回されて、生きる術も能の使い方も、己の責任といったものを全く理解しておらぬ。とはいえ、予知能力は母ほどではないが高いレベルで保持している。ステラといったかな。ヒヨコはステラが飼っているというか、ステラの周りをうろちょろしている赤い大きいヒヨコだ。あれらがいれば、私が見守っていなくても大丈夫だろう。ヒヨコも魔物として暴れないようだし、収まるべき場所に収まってくれて娘を保護してくれているから安心はしているが、まだヒヨコも力不足だからな」

「な、なるほど。とはいえ、盟約破りをさせぬよう、周りに周知すべく我らとしても竜王陛下のご息女の身の安全を確保いたしたく考えております」

 宰相が思い出したようにうなずき仰々しく頭を下げる。


「確かに必要かもしれぬな。…………………ステラの予知では一度我が娘トニトルテは死んだそうだからな。この帝都を黒墨にしてすべてが消し飛んだ予知を見たと言っていた。ステラが予知し、ヒヨコが救ったと聞いている。よほどのことがない限り問題は無さそうだが、………彼らがいなければトニトルテは殺されていたという事でもある。盟約に関しては考え直す必要がありそうだな」

「……………その節は誠に申し訳なく存じ上げます」

 皇帝は頭を下げる。


「よい。娘は勝手に家出をするわ、こちらも不備があったのは認めざるを得ぬ。それに娘もそれにより傷が残っているわけでもない。私が見ている範囲では何も起こっていないことになっているからな。実際に何が起こっていたかは知っているが、それを見たわけではない。娘のプライドの手前、目こぼしくらいはしよう。しかしなぁ」

「関わっている連中は全て首を落としてそちらへ送ればよいでしょうか?」

「別にそんな小童など興味はない。世を知らぬガキが愚かなことをするなどどこの種族も同じことよ。そんな連中の命など別にほしくもないわ。子育てなど毎度さんざん振り回されて大変なのは我もよくわかっている。そうだろう、皇帝よ」

「…も、もったいないお言葉です…」

 皇帝は頭を垂れて震えながら言葉を紡ぐ。

 あのバカ息子をどうするかは分からぬが、まあ、首を落としてこちらに送る覚悟はしていたという事か。

「まあ、身の程を知らせてやれば我は別に人間がどうなろうと、どうでもよい」

「広い心に感謝いたします」

「広いわけではない。気分一つで、一瞬で地図から消えるこの国にも人間にもさほど興味がないだけよ。娘がこの国や人間に興味があるから放置している。私の気分では既に二度滅んでる。その程度の事で感謝などされることはない」

 我のごくごく普通の感想に何故かこの二人は顔を青ざめさせていた。

「故に罰を下すにせよ貴様らの好きにせよ。ただ、二度と同じようなことが無いよう対策は練ることを望む。失敗はいくらでもあろう。我がドラゴンとて同様に失敗するバカはいるのだ。決定的な失敗をして我が感情に任せるような事にならなければ問題はないと思う」

「それなのですが陛下にお願いがございます」

 そこでクラウスが恭しく我の前に出て訪ねてくる。

「お願いだと?」

「ハッキリ言えば勇者に負けているという逸話が多く、少々なめている人間が多いようなのです。勇者殿は恐ろしき力を持った御仁ですが、人間の延長線にいるものだと勘違いしているものも多い。竜王陛下とて我らなら勝てるなどと勘違いしている輩がおります。先に竜王陛下が言ったように身の程を知らぬ連中が多く御座います」

「なるほど、それ故か」

 勇者と呼ばれる連中は同じ人間と言えどほとんど生物としての規格が違う。人間からすれば自分たちの延長線にある者だと勘違いするのも仕方ない事だろう。


 元々、あの魂は異世界からこちらに持ってきた特別製の魂だ。


 女神はこの魂によって世界に降り立った魔神を倒すべく、この世界のステータス制度でもあった。

 一定の功罪によってレベルやスキルを上げ、弱者を強くする事で魔神の眷属や魔物に、知的生物たちを勝てるようにしたシステムである。

 そして勇者と呼ばれる連中は基本的にこのステータス制度に適応能力が高い。

 正しくはあの魂を基準にしてこのステータス制度を作っており、勇者と呼ばれる連中が魔神に対して有利になるようなシステムを導入したのだ。これが眷属を残し何度も生まれ変わって立ち塞がり続ける魔神アドモスを攻略するための女神の秘策だった。

 ただ、このシステムの盲点は知識を失って勇者が転生する際に人間を滅ぼすような種族に生まれ変わる時がある。魔神よりも厄介な敵だ。

 それを抑えるのが我であり巫女姫だった。巫女姫が予知で場所を把握し、我が倒すというものだ。我でさえ決死の覚悟で戦いを挑む事になった過去がある。

 エルフの女王や亀のような協力者もいるが、我と戦友であるフローラとの付き合いは長い。

 ………フローラの娘を脅すつもりでちょっと火を吐いてやったらまさか加減に失敗して本当に殺し掛けるとは思わなかった。死んだアイツに恨まれそうなので、それに関しては反省はしている。とはいえ、危なっかしいのも事実、トニトルテもいるし暫くは我があの子らを見守らねばなるまい。まあ、あの魂の後継がいるから万一も無いだろうが、昔からあれは迂闊だからな。


「一度、娘であるトニトルテ様のお披露目と共に、竜王陛下の御力とその圧倒的な力を民衆に示してはいただけないでしょうか?帝都より離れた丘の一つでも焼いて見せれば誰もが己の矮小さを思い知るでしょう。無論、それを利用して帝国を貶めようとするものが出てくるやもしれませんが、そちらの方がやりやすいのです。身内が身の程を知らず小銭稼ぎの為に己が帝国を滅ぼそうとするような所業を平然とやっている事実に気付いてすらいないという状況がとても不味いのです。敵が隠れてコソコソするならばともかく、味方と思ってる輩がそれをなすのは我々とて気付くのが遅れますから」

「全く、人間は面倒くさい」

「その面倒くささが故に多様性を作り、時に勇者を生み出すのでございます」

 勇者を生み出しているのは勇者の魂ではあるのだがな。

 そこら辺を説明する訳にはいかない。

 それに、それとは別に勇者が生まれる事もある。獣人などが良い例だ。先代の獣王や従魔士のトップも勇者の称号持ちだった。侮れない種族である。



「まあ良いだろう。…娘が長期滞在する気満々での。身の安全を確保せねばならぬのだ。そのような些事であれば手を貸そう」


「近々城壁を取り壊して新しいものを作る予定の区画があります。そこを破壊してそのお力を見せて頂ければ………」

「我の力の誇示を帝都に被害なくやるというのは困難だが、まあ良いだろう」

 確かに一度見せておかねば理解できぬ輩は多いだろう。百聞は一見に如かずともいうしな。何せこの世の中には現実とかけ離れすぎていて見ても信じられないものが多いという。

「それが何よりも此度の愚かな事をした連中への罰になろうからな」

「竜王陛下のご息女に手をかけようとしてした愚かな考えがどれほど恐れ多い事なのか知ることになりましょう」

 にやりとクラウスが笑う。

 これはアレだな。言っても聞かないバカ共に本物の力というものを見せて分からせようという奴だな。

 まあ、驚かす余興というのも嫌いではないから乗ってやるとするか。

 それにクラウスの奴に良いように使われるのも面白くない。奴も驚かせてやるとしよう。

 ククククククと我らが笑い、皇帝が我とクラウスを交互に見て顔を青くしていた。一番かわいそうなのはこの男かもしれぬな。

 奴は皇帝に生まれただけの凡人だからな。




***




 それから1週間後、南の大広場にたくさんの民衆が集まっていた。遠くに住む人たちも魔法映像によってその様子が放送されていた。


『此度、我が愚かな息子エリアスが人権宣言に加盟しているドラゴンをキメラの材料に使おうとし、法務大臣や北方直轄領太守を利用し、事もあろうかドラゴンを拉致していたことが発覚した。我が国では竜の領域の主たる竜王陛下と互いの領域の不可侵を盟約としている。これは国際問題にも発展し、国益を損なうだけでなく、我が国に多大な被害を引き起こしうる可能性があった故、皇帝として関係者を勅令として裁く事とする』

 皇帝の声によりたくさんの男たちが広場に縛られた状態で連れてこられる。

 関係者15人、その中にはエリアス皇子もおり、罪人として手錠をはめられた状態で連れてこられる。魔法放送で帝都中にそれが放送されている為、二度と公に出ることがかなわなくなることが分かる。だが、連れてこられた貴族たちはどこか不貞腐れた表情で、まだ逮捕されたことに納得が行ってないらしい。


「エリアス・フォン・ローゼンブルク。貴様は人権宣言を無視し他国との条約を破り、法務大臣を利用し自分の都合の良いように法廷に圧力をかけた。貴様に他者を率いる資格なし、廃籍するとともに二度とローゼンブルクの姓を名乗ることを許さぬ!貴族位も与えぬ。今後は平民となりただのエリアスとして生きることを命じる!」

 エリアスはと言えばそれでも憎むように父親を睨み何で我がこんなことをと罪の意識さえも存在しなかった。

 さらにマイヤー侯爵と呼ばれた男は不法魔物売買や北部領を皇家の許しなく自分の利益のために人を出入りさせ、利益を得ていた事が発覚。爵位剥奪及び国外追放となった。これは不法奴隷売買などにも加担していたためである。

 法務大臣バルツァー伯爵は法を自分の都合の良いように使っただけでなく、それにより冤罪で死刑までさせていた為、死刑が言い渡された。皇子の件だけならば仕方なしとして処罰が甘かったかもしれないが、それを利用してもっと汚い事をしていたので容赦ない裁きが言い渡される。反抗を見せるが宰相がバッサリと言葉の刃で切り裂き、国民は死刑にしてしかるべきだと声が上がるほどだった。

 弁護人や裁判官たちは爵位剥奪、法務に関する職務から永久追放となった。ただ、関わった人間でも脅された者たちはこの場に立たされず、法務の職務から解任されて別の仕事が与えられたものもいるらしい。

 次々と裁かれていき、これだけで10分以上も要することになる。


「今回、竜王陛下の寛大な御心によって、このような甘い罪とすることにしたが、次は無い。これは帝国としても、そして竜王陛下としてもだ。此度、我が国にいらしていただいた竜王陛下からの言葉がある。心して聞くように」

 クラウスの奴が口にし、大広場の中央に立つ我に注目を集めさせる。人化の法を使っておりただの人間にしか見えない訳であるが。


 魔法映像とやらはすごいな。我の人化の法を使っている人間の姿が帝都の空に浮かんで映し出されている。声も一緒に届くらしい。


「我が竜王イグニスである。此度、我が娘を浚おうとする不届き者がいた為、この国に寄らせてもらった。本来であればブレスの一息でも浴びせて帰るのだが、娘はこの人間の営みに興味があるようで、我の許可なく家出をした身の故、大目に見る事とする。これが娘のトニトルテだ」

「きゅうきゅう(トニトルテなのよね。なんだかアタシがあちこちに映っていて面白いのよね。そういうのをもっと見たいから献上すると良いのよね)」

「トニトルテはまだ3つの子供故、言葉は理解していても会話が出来ぬ。恐らく帝都でもフラフラしていることだろう。蝶よ花よと育てていた為、少々わがままだが、親切にしてもらえると助かる」

 と、一応人間の為の挨拶例をクラウスに書かせたのでそのまま読むのだった。

 下手に出ず、トニトルテが迷惑をかけても問題ないような感じにするしかないのが現状である。

 それに周りの見ていた人間が拍手をして答える。ふむ、受け入れられたという事か。


「とはいえ、帝国ではどうも人権宣言に竜族が加盟したにもかかわらず未だに魔物だと思っている不届きな輩が多い。竜族は民族や部族によっては神格視されているほどの存在であり我らは共に尊重しあえる隣人である事をこの場ではっきりと伝えておく。この度、竜族がどれほどのものなのかを示すために、恐れ多くも竜王陛下が帝都の皆にその力の一端を示してくれるという。心してみるように」

 クラウスがそういうと我はさっさと人化の法を解き、そのままドラゴンの姿へと戻る。放送でなくても帝都の何処からでも見える程の巨体である。

 我は久しぶりに大きく息を吸いこの帝都に飛び散らないように<爆炎弾吐息(ミサイルブレス)>の進化系、火吐息LV10の<収束熱線吐息(レーザーブレス)>を選択する。


「ピヨッピヨッピヨッ」


 これから息を吐こうかというときに、何故かヒヨコが吹き飛ばす予定の城壁の上に登って踊りを踊っていた。何故に!?

 とはいえ、今、ここでブレスを無理に止めたら、漏れ出た炎で帝都の一角が灰になるだろう。

 仕方ない。入ってこない筈の場所にいるヒヨコが悪いので、我はヒヨコを無視してそのまま<収束熱線吐息(レーザーブレス)>を吐く。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」


 収束された熱線が我の口から城壁を一瞬で消し飛ばしその射線上にある全てを焼き尽くす。


 そして、そのやけ尽きた城壁の周りはマグマ溜まりとなっており、その破壊の痕跡は地平の奥へと向かい、南方の永久凍土で覆われている山に大穴を開けていた。雪崩が起こり氷が崩れ行くのがここからでも見える。


 ふむ、まあ、こんなものかな。

 ヒヨコよ、また生まれ変わったら熱い戦いをしようではないか。あの魂とは今のところ3勝3敗3無効試合となっているからな。次こそ決着をつけたいものよ。


 うむうむと我は頷いていると帝都は静まり返り、悲鳴のような声が戻ってくる。トニトルテを誘拐しようとした連中は真っ青になったり、真っ白になったり、焦点が開いたまま笑いだしたり、小便をちびって気絶したりと様々な反応だった。


 帝都民もすさまじい轟音とそれを成した破壊の痕跡に理解が及ばなかった。城壁などあって無きが如くともいえるブレスは、地平の奥に見える山に穴をあけて、地面がマグマへと変えるほどなのだ。

 もしもその射線に間違って入っていたら?敵意を向けられていたら?

 帝都民は誰も不埒な事をしようとは思わないだろう。


「こ、これが竜王陛下の御力である。地平の奥へ逃げようと逃れる術はない。これら、トニトルテ様を害そうとした連中は、下手をすればこの破壊の方向を帝都に向けさせた可能性があったのだ。皇帝陛下が与えた罪が軽いと思うか?否である。竜王陛下は寛大な心で彼らを許したが、帝都民の多くはいっそのことこの大罪人たちを城壁の前に並べるべきだったのではないかと思うものもいるだろう。己の身可愛さに帝国の滅びを招き入れようとしていたのだ」

 クラウスの言葉に帝国民はやがて断罪されていた男たちに怒りの目を向ける。

 下手をすれば竜の吐息を食らっていたのだ。冗談ではないと思うのも無理はないだろう。


「ピヨーッ!」

 すると、城壁の奥の方に吹き飛ばされたヒヨコはマグマ溜まりからジャバリと音を立てて起き上がる。

「ピヨーッピヨピヨピヨ(ちょっと、そこのでかいの!何してくれるの!ヒヨコが城壁の上で気持ちよくダンスを踊ってたらいきなりとんでもないブレス吐きつけてきて!死ぬでしょ!危ないでしょ!ヒヨコをいじめて楽しいの!?)」

 ヒヨコは抗議するように我に向かって歩いてピヨピヨ言っていた。

「きゅう(むしろ、何で生きているのか知りたいのよね)」

「ピヨ?…ピヨヨーッ(何を言ってるんだ、この子は。って、ブレスですんごい事になってる!?ヒヨコを殺す気か!)」

 ヒヨコの怒りのボルテージがさらに上がる。とはいえサイズ的には文字通り足元にも及ばないので、あまり怖さがない。足の指を嘴でつついてもいたくないのだが、とりあえず憂さが晴れるまで放置しておこう。

 そういえばこのヒヨコ、炎熱耐性LV10があったな。軽いから簡単に吹き飛ぶけど熱には強いからダメージが無かったようだ。


 ………ああ、このヒヨコ、何の鳥のヒヨコなのか分かって来たぞ。


 そういえば確かに世界中を渡っている炎の化身のような鳥がいたな。たしか星の裏にある大陸の精霊を束ねる幻獣の類、つまりは………。何ともアイツの魂の欠片とは縁があったが、まさかなぁ。

 長らく見かけなかったから絶滅していたと思っていた。

 魔神がこの世界にやってきた頃には見かけなかったから、とんと数百年見かけなかったからすっかり忘れていた。種族がつかないのも仕方ないだろう。ステータスが出来たのは500年前からだ。その頃にいなかった種族が不明になってしまうのは仕方あるまい。


 我が考え事をしていると、怒り疲れたのかヒヨコは肩で息をしていて、トニトルテに背中をなでてもらっていた。


「トニトルテ様はしばらく帝国に滞在する。殿下が帝国での観光を楽しみにしているからこそ、我が国は寛大な扱いを受けたのだ。それを心して歓待するように。以上だ」

 クラウスの言葉に民衆は声を上げて歓迎を示すのだった。

 まあ、これだけやっておけばトニトルテの安全は確保できるだろう。

 我も威を示せて満足し、これで安心してトニトルテが暮らしていけるだろう。めでたい事だ。

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