3章17話 ヒヨコの法廷・前編
裁判所は、とても厳粛そうな雰囲気が漂っていた。
会った事もない弁護人と検事さんがいて、何か法廷っぽい感じだった。
被告サイドにはテオバルト君とステちゃんが連座されていた。距離が遠いのは相談させないためか?だったら一緒に呼ばなければいいのに。検事さんが原告サイドって事でいいのかな?
さらに奥の方から3人の高価そうな服を着た人達がたくさんの護衛に囲まれてやってくる。そのまま裁判員の座るような場所に座るのだった。
「これより、裁判を始める」
裁判長の声とともに法廷が開かれる。
「開廷前に宰相閣下より話がある。皆の者は静聴せよ」
裁判長が静まり返る法廷の中で裁判員席に座っている男を見る。
そこで立ち上がったのがたくさんの護衛に囲まれた3人組の男たちの一人で、50歳に差し掛かろうかといった所の中年男性だった。
彼は前に出て大きい声で話を始める。
「ローゼンブルク帝国筆頭大臣クラウス・フォン・リヒトホーフェン侯爵である。近年、裁判において証言や証拠の捏造により不当な罪を被告に押し付ける、被告が証人を買収して罪から逃れるケースが発覚しており皇帝陛下は遺憾の意を示している。よって、今後は虚偽の発言や捏造、買収などを防ぐために、今回から法廷での虚言等をしないことを皇帝陛下の名に誓って貰おうと思う」
筆頭大臣と名乗ったおじさんはどうやら宰相閣下と呼ばれているようだ。
今回から法廷を変えるために説明をしているらしい。
でも『ヒヨコ、嘘つかない』と言ってもそれが何の効果があるのかな?元々、嘘ついて罪から逃れようとしたり罪を擦り付けようと悪い事を考えている人たちに効果があるのかな?かなかな?
でも、筆頭大臣さんの言葉に法廷がシーンと静まり返る。
「それにはどんな意味があるのでしょうか?もとより罪を問われることを避けるために吐く嘘でしょう?」
おっとヒヨコと同じ疑問を持った検察の偉そうな人が挙手して訪ねてくる。
「これまで、偽証や捏造に関して甘く取り締まっていた部分がある。しかし、被告が証人の偽証によって死罪となったとして、後に証人が偽証していたことが発覚した場合、皇帝陛下を利用して他人を殺した犯罪者となる」
皇帝陛下の名の下に誓うのは非常に重い事だと貴族達は気づく。
「これはとんでもない不敬であり、相応の罰が下るだろう。例えば、証人が後で自分の行いを恥じて、誰かに頼まれて偽証したという証言が出て、その裏付けが取れたら、偽証をするように買収した人間は10年後だろうが20年後だろうが後でも皇帝陛下が退位していてでも罪を償ってもらう。果たして、そのようなリスクを取ってまで偽証できるか?偽証させられるか?金を払えば足がつく。人質で脅せばそれはそれで足がつく」
どこでバレるか分からないがバレた瞬間身の破滅だという事だと知らせていた。
かつてはそこら辺が甘かった。だが、その甘さを是正しようと言う事だ。
「例えば被告に罪を押し付けたい誰かから弁護人を買収したとして、弁護人が被告の意図しない虚偽の発言をした場合、皇帝陛下を利用して被告を殺害しようとしたことになる。無論、その様なものが二度と国選弁護人などにはなれぬどころか、法廷には被告としてしか立ち入ることはできなくなるだろう。無論、証拠の捏造をする検察や裁判官であってもだ」
そんなことを口にする筆頭大臣さんの言葉に何故か近くにいる若い銀髪青眼の男は少し顔を歪め、隣の白髪の肥えた男は苦々しそうな顔をしていた。
弁護人はなんだか顔色が悪いのだが大丈夫だろうか?
「まず法廷に参加している全員に嘘偽りなく発言する事を皇帝陛下の名の元に誓って貰う。誓えなかった者はここから立ち去ってもらう。無論、被告には発言の拒否権も認めている。では全員起立」
筆頭大臣さんは厳しそうに周りに言い、その場にいる全員が立ち上がる。
さて、そんな法廷の中、人っ子一人いない傍聴席の影に隠れてこっそり傍聴しているのが我らヒヨコとトルテとキーラの3匹+町長さんである。なので実は人っ子一人だけいたりする。
町長さんの奇術スキルを使って、裁判所に入り込んだのだ。
奇術スキルと解錠スキルによって牢屋から普通に歩いて脱獄し、衛兵さん達の視線を誘導して歩いてヒヨコ達を連れて普通に街に出て、歩いて中央を歩きながら堂々とここに辿り着いているのだ。
アンコールしたい気分であった。町長さんをヒヨコは侮っていた。町長さんこそが歩くエンターテイナーだったのだ。さすがはヒヨコを親善大使にスカウトした凄腕である。
『なるほど、裁判をする際に自分から偽証のハードルを上げさせるという何というか詐欺みたいなやり方で法律を変えることなく手っ取り早く不正を防ごうというわけか。さすがは宰相閣下、この短期間で上手くやるわ。プレッシャーをかけた甲斐はあったな。法務大臣が不貞腐れた顔をしているし、いい気味だ。きっと法律改正を提案した宰相閣下にさんざん反論したんだろうな。見事に法律を変えることなく外枠で変えてくるという方法で回避といった所かな?』
法廷を楽し気に上から眺めている町長さんが隣にいた。
「ピヨ?(もしかして町長さんの差し金?)」
『差し金は入れてないけど、プレッシャーをかけておいたんだよ、宰相閣下にね。あの様子だと法務大臣はやはり自分の好きなように法廷を動かしていたようだな。裁判官や国選弁護人あたりがグルか。検察はどちらにしても被告を貶める側なのだから犯罪をしていない相手に犯罪をかぶせたいのだから余計な協力者は必要なしとして声をかけていないか。第3皇子まで渋い顔して何を考えているやら』
「ピヨ(第3皇子というとテオバルト君のお爺ちゃんをSATSUGAIしたという悪い奴だな。なるほど悪そうな顔をしている)」
『?……アインホルンの当主が亡くなったと聞いていたが第3皇子が切ったのか?』
「ピヨ(そう、モンスターパレードをやらかしたあの夜、肩で風を切りながら冒険者の町を歩いていると…)」
「きゅう(肩というより手羽元なのよね)」
『肉厚で美味しい部分だね』
ジュルリと町長さんとトルテがヒヨコの肩辺りを見て舌なめずりをする。
こいつら、ヒヨコを何だと思っているんだろうか?
「ピヨピヨ(そこで酔っぱらってるテオバルト君発見。ヒヨコは酔っ払いを励ましてやったんだよ。途中でうちの宿を外から眺めていたイグッちゃんも見つけて、竜と魔物と人の三者で酒を飲みかわしながら、ヒヨコが大人の悩みを聞いて慰めてあげていたのだ)」
『イグッちゃん?』
「ピヨ(竜王のイグッちゃん。もう一緒に酒を飲んだダチ公だぜ)」
『……まさか、竜王陛下は帝都にいらっしゃっていたりするのかな?近くにいることはある程度把握はしていたが…………』
突然、町長さんの顔色が悪くなる。
「ピヨピヨ(キメラ君のいた研究所らしき場所に捕らわれの姫を助けに白馬を乗せて行ったんだけど)」
『白馬を乗せて?……絵面が微妙におかしいようだけど、まあ、そこは良い。それで?』
「ピヨッ(そう、町長さんと再会するちょっと前、キメラを追い回すトルテの前にイグッちゃん登場!酒と女のにおいを漂わせていたので娘さんに問いただされてしまい、娘に邪険にされて、イグッちゃんはさらにへこんじゃいましたとさ。めでたしめでたし)」
『ええと………竜王陛下はこの状況をご存じなのかな?』
「ピヨ(イグッちゃんは放置して、収容所に戻ったから分からないけど、向こうの方にこっそり入り込んで隠れているから多分全部知ってる)」
ヒヨコは遠くの方でこっそり法廷に忍び込んでいるイグッちゃんの方を翼で指し示す。
「ブッ」
「キュッ!?」
町長さんとトルテが驚きの声を上げる。ちょっとうるさいよ、君たち。
ヒヨコたちは町長さんの奇術スキルで忍び込んだけど……忍び込んだ?堂々と入ったのに誰も気にしなかった感じだけど、まあ、それは良い。
寧ろイグッちゃんはどうやって忍び込んだんだろう?謎である。
「きゅう(それにしてもドキドキするのよね。人間の裁きを初めて観察しつつ、かくれんぼを同時に実施する感じなのよね)」
「ピヨ(静かにするんだトルテ。)
「ブル(そうだよ、静かにしないと。)」
鼻をちょっと震わせてキーラが静かに注意する。ヒヨコも露店で売られているカラーヒヨコの如きピヨニッシモな声で注意をしていた。
え?露店で売られているカラーヒヨコは意外とうるさい?いや、奴らは数十匹くらいの群れじゃん。一匹のピヨはとっても小さい声なのだよ……って、誰に説明しているんだろう。
『いやー、つい最近、あそこに立っていたんだよ、私も』
町長さんは、まるでミーハーなファンのように容疑者の立つ席を指さしてヒヨコの体を笑顔でゆする。
この人、立場とか無視しだすと愉快な人だな。
真面目な町長さんだと思っていたのに。
ヒヨコは遠くを眺めて、かつて真面目な為政者たろうとする町長さんの姿を懐かしむ。
大人のお兄さんではなくやんちゃなお兄ちゃんだったのか。
法廷は着々と進む。
検事さんが罪状を読み上げ、刑罰を求める。
難しく喋るからよくわからなかったのでざっくり言えば、テオバルト君がヒヨコを使って観客に向けてキメラをけしかけたという話のようだ。
テオバルト君は魔物レースで近年幅を利かせているライツィンガー男爵を貶め、再びアインホルンらの派閥を強くしようと悪だくみしていたらしい。
己の欲望のために民を殺そうとする貴族など万死に値するとして死罪を要求した。
「ピヨ(言われてみると、テオバルト君が悪い男に見えてきたな。ヒヨコを利用してキメラを暴走させ、ライツィンガー某を追い落とし、テオバルト君の天下か!)」
『それ以前にヒヨコは君だから』
「ピヨ(ヒヨコに挑発スキルなんて無かったけど……このかわいらしいフォルムではどんなに挑発しても相手が和んでしまう。むしろ魅了スキルが手に入るのではないかと期待しているのに)」
「きゅう(ふっ、ヒヨコ風情じゃ無理なのよね。このトニトルテ様こそ魅了スキルが…)」
「ブルルン(あははは二人とも冗談が上手だねー)」
愉快そうに笑うキーラにヒヨコとトルテはゲシゲシと横から蹴りを入れる。この天然さんは素でヒヨコ達をイラっとさせるのが凄く上手だ。
「ブルン(何で蹴るのー?)」
そんな雑談をしながら法廷の様子をちらちらと隠れながら観察するのであった。
法廷は進む。
それはそれは、さもテオバルト君が悪人っぽい感じで語られていた。
あのヘタレでポンコツテオバルト君が。
先代アインホルンはライツィンガー男爵が勢力を伸ばすのを良しとせず、殿下がライツィンガー男爵に肩を持っていることを妬み、不敬を働き死罪となった。テオバルト君は直接的な手段では皇家に背くことを苦慮し、凶行に至ったという。
とはいえ、テオバルト君がそんなに腹黒ならダンジョンに潜って魔物をテイムしには行かないだろう。そもそもヒヨコを犯罪に巻き込むな。
さらには弁護人が前に出る。
「アインホルンは長きにわたり魔物レースを取り仕切っていた家系。近年伸び悩み、このままでは自分の代で潰してしまうと焦ってしまったのです。彼にとっては命よりも重たい問題、致し方ない事なのです。どうか減刑をお願いいたします」
全然弁護してなかった。むしろ罪状を認めてしまっていた。
「しかし、ライツィンガー男爵は今回の件で1月の魔物レースの謹慎を課される事となった。さらには多くの観客が傷を負い損害賠償の訴えが出ている。これらの責任もまた全てテオバルト・アインホルンにあるのは事実。ヒヨコを従魔しているテオバルト・アインホルン被告の傲慢な考えこそが問題なのです。並びに狂暴なヒヨコを共謀させたステラ被告も同様に責任があるとし、同様の実刑判決を求めます!」
原告たる検察サイドは若々しい検事さんで何だか正義に酔っている感じだ。話、盛りすぎじゃね?
「しかし「ちょっとお待ちください」」
テオバルト君が反論しようとすると、被せるように弁護人が大きい声で反論しようとする。
テオバルト君かぶせられてちょっとショボンとしてしまう。
そんな状況を見ていると、ボソッと念話で町長さんが口にする。
『あの弁護人、私の法廷時の弁護人と同じだ。私とは全く話をせずに被告側に現れ、全然弁護しないで罪を被せて終わらせようとしていたな。口先では庇っているように見せつつ、罪を全部認めさせて終わらせようって感じだった。あれは多分、法務大臣の子飼いなんだろう。ああやって国選弁護人を務めて高額の報酬を受けつつ、大臣の都合の良い方向へ話を進めているんだろう』
「ピヨ(なるほど。弁護人が弁護しなければ冤罪も罪になるのか。人間って恐ろしい)」
町長さんは念話で呆れた感じの声音を使って教えてくれる。
「きゅうきゅう(面倒くさいのよね。ドラゴン種族ではとりあえず喧嘩して勝った方が正しいって感じなのよね)」
『はははは。ある意味、この法廷もその通りだよ。本来、真実から罪を明確にするのが法廷のはずなのだが、現状としては権力者が正義で自分の偽り不正によって、弱者に刑罰を押し付けようという話だ』
「アインホルン殿、法の知識を持たない貴殿は余計な口をしない方が良い。下手に話せば死刑にだってなりえる案件ですぞ」
弁護人はテオバルト君に注意する。テオバルト君は抗議をしようとしてそこで凍り付いてしまう。
するとステちゃんが手を上げる。
だが、裁判長も検察も弁護人も関係なく話を進めようとしていた。
まるでそれが見えていないかのように
「テオバルト殿とてそこまでキメラが暴れるとは想像していなかったのです。彼はちょっとライツィンガー男爵の立場がなくなると思っただけなのですから。しかし予想以上にキメラの攻撃が余波を生み、客席に強く当たってしまったのです。彼らに悪気はなかったのです」
弁護士はあくまでもテオバルト君の非を認めつつも、悪い事じゃないと訴える。
「だが、そのヒヨコは脱獄し先日はキメラ研究所を襲ったという。そんな危険なヒヨコを従魔にし、男爵への攻撃どころか帝国の施設でもあるキメラ研究所を襲撃し、貴重なサンプルを奪われたという。しかし、そこでもヒヨコによってキメラを暴れさせて町に甚大な被害を与えた。これは明らかに確信的な悪意があったと断言します!」
「ですが、キメラ研究所にヒヨコが行ったのもちょっと暴れさせて嫌がらせをしたかっただけです。事実、ヒヨコがそこにたどり着くまでは何も起こっていませんでしたから。キメラ研究所にちょっとした嫌がらせをしようと思ったら大惨事になってしまっただけ。彼の落ち度はそれが予見できなかった事であり、大量の負傷者を出そうとした意図はありません」
「一度起こして学ばないとすれば尚悪いでしょう!」
バンッと若い検事が机をたたいて食らいつく。
でもステちゃんはずっと手を挙げたまま裁判長の方を見ていた。
裁判は検察と弁護人の間でだけ進んでいた。
すると筆頭大臣さんが前に歩いて出てくる。
「ちょっと失礼。白熱した裁判の途中なのに水を差して申し訳ない。先ほどから気になっていたのだが、ステラ被告が立って挙手したままなのだが、裁判長は何故彼女に発言を訪ねないのかね?」
周りを見渡すように不思議に思っているように尋ねる。
「それは…まだ幼い子供ですし下手に発言をさせると彼女に不利益なことになるかと…」
「トイレに行きたいと言ったらどうするつもりか?それに不利益になるならそれは本人が悪い事になるだろう。被告への問いも弁護人が全て話している始末。被告がここにいる意味がないと思うが」
「そ、それは……」
「まあまあ、宰相閣下お待ちを。若い被告に対する配慮ですよ。裁判長とて若者に無用な罪を押し付けたくない配慮かと」
法務大臣さんが落ち着かせるように口にする。
「それは名誉ある帝国法廷において天秤の役割を果たしているのか?今回、私がこの法廷に来たのは何も偶然ではない。過去半年ほどの裁判の議事録に目を通させてもらった。法廷の中で一切被告がしゃべらずに終わった裁判が12点あり、その裁判の内4つをレーヴェンタール裁判長が行っていた。その4点では別に年齢には関係なかったはずだが、何か理由があるのかね?」
「え、そ、それは…」
宰相さんは裁判長に疑惑の視線を向ける。裁判長さんはタジタジとなる。
「法務大臣バルツァー伯爵。皇帝陛下は法廷内の不正を取り除くために私を派遣している。そのことはよほどの愚か者でなければ気付いているだろう。先日、とある皇族の命によって不正魔物取引を行っている疑いがあった貴族を調査させていたが、何故か調査していた貴族が不正魔物取引を強要したと、調査されていた貴族が訴え出し、貴殿から逮捕状がでている。しかもその逮捕された貴族は2週間の拘留期間を過ぎても未だ釈放されてもいなければ次の法廷も開かれていない。明らかに違反をしているが、だれもそれを指摘していない。伯爵、貴殿は当に陛下から信頼を失われている。本来ならば私の話したことは貴殿が話す事だったはずだ」
「なっ………ま、まさか……」
宰相さんは法務大臣さんはもう皇帝陛下から見放されているのだと口にする。
その言葉に裁判長は真っ青になる。
「そしてヴァールブルク弁護人。その国選弁護人は全て貴殿だったな。貴殿のやり方に陛下は疑問を持っているようだ。本法廷が最後になるかもしれぬからしっかり務めるように」
「ま、お待ちを!私は不正などしておりませぬ!これはあくまでも弁護人として、被告を助けるための…」
「よろしい。では被告とどの程度はなしをしてこの法廷に立ったのかお聞きしよう。被告の代理で話している貴殿の事だ。よほど多くを話したのだろう?」
「も、勿論であります。まあ、私ほど経験ある弁護人ともなれば会話をさほどせぬとも相手を知ることができますが」
「では何時間ほど話したのかな?」
「それは…」
「何時ごろから会話を始めて何時ごろに終えたのか?」
「さ、さすがにそこまで詳しくは覚えてはいませんが、人となりを知るに十分な時間を」
筆頭大臣さんは大きい声でねちっこく弁護人に尋ねる。
攻勢を強めるかと思いきやそこで視線をステちゃんに移す。
「邪魔をしたままだったね。ステラさ、いやステラ被告、何か言いたい事が有るようだが。おっと、私が聞くのはルール違反か。邪魔者は一時撤収をしよう。すまないね、続け給え」
宰相さんが席に戻って椅子に座るとその四角にいる法務大臣さんと思しき男は人を殺しそうな目で宰相さんを睨んでいた。
でも、知ってか知らぬか涼しい顔で宰相さんは法廷を見守っていた。
法廷を上から眺めるヒヨコ達であるが、トルテとキーラは飽きて寝転がりながら尻尾をぶらぶらさせていた。
町長さんは引きつった顔でそんな様子を眺めている。
『うーわ、宰相閣下、相変わらずきっついわー』
ヒヨコに念話を送ってくる町長さん。
「ピヨ(あの筆頭大臣さん?宰相閣下?とやらは怖い人なのか?)」
『皇帝陛下の懐刀と呼ばれている人だよ。腕っぷしはからっきしだが、頭が凄く良い。若い頃、多くの貴族を能無しと見下してきた私が上には上がいるのだと初めて思い知らされた男だからね。頭がいいと呼ばれる人間はINT値が200もあれば超一流だ。ヒヨコ君に言ったように私は多くのスキルを得やすい要領の良さがあり、同様に多くの事を覚える特技があり600を超える。私は私を越える人間を見たことがなかった。だが、宰相閣下は800を超える』
「ピヨピヨ(侮りがたし宰相さん)」
おかしいな、驚愕した感じだったのに、ピヨピヨ言うと軽く見ているように聞こえる。ひよこの10倍以上のINTとは。つまりヒヨコが10匹いて会議すると同格か!?
※それはありません。
そして法廷では何だか放置されていたステちゃんだが、筆頭大臣さんの振りのおかげで発言を許されることになる。
「発言していいんですか?いえ、勝手に皆さんが話していたんですけど、そもそもヒヨコ、だれにもテイムされてないんですけど」
「そんなはずがあるか!従魔にしていない魔物が勝手にやったことだと言って罪から逃れるのか!」
奥の方でオークに似た太った男が突然がなり立てる。
原告側の証人みたいな感じで立ち上がって怒りをあらわにする。
「ライツィンガー男爵、静粛に。発言があるならば挙手してください」
裁判長がバンバンとハンマーを叩いて静かにさせる。
次いで検察の若造がステちゃんを見ながら訪ねる。
「衛兵の証言によればあなたが脱獄すると言っていたと聞きましたが?」
「別に従魔でなくてもお願いすれば賢い魔物は…………まあ、賢くない魔物でも人の心を理解できればいう事くらいは聞いてくれますし」
ステちゃんが検察の問いに答える。
おい待て。どうして賢い魔物ではなく賢くない魔物に言い換えた。ヒヨコは物申すぞ。まるでそれではヒヨコが賢くないみたいではないか。
くう、隠れている身の上でなければピヨピヨと抗議するところなのに。
「ならばキメラ研究所への襲撃を命令したのはステラさんだったと自供したと取っていいのですね?」
「そんな命令はしていません」
ステちゃんはきっぱりと言い切る。
「ならば何故、ヒヨコがキメラ研究所に行ったというんだ!」
「私はヒヨコの他に、故郷フルシュドルフの太守代行がドラゴンの父親から幼竜の保護を託されていたのです。ですが、アインホルンさんが逮捕された際に何故かドラゴンだけが同じ収容所にいなかったのです。私はヒヨコにそのドラゴンの捜索と保護をお願いしただけです」
「つまりキメラ研究所にドラゴンが運ばれていたと?」
「さあ、ヒヨコは変な施設にドラゴンが拉致られていたと言ってましたけど」
「ふざけるな!証拠でもあるのか!」
すると何故か怒りの声を上げるのは全く関係ない場所、法務大臣の隣に座る若い男だった。
「さあ、私はドラゴンを連れ戻せと伝えて1時間ほどでヒヨコがドラゴンを連れ戻したので、何が起こっていたかは知りません。ヒヨコがドラゴンを探しに行った過程でそのキメラ研究所?という場所に入ってしまっただけかもしれませんし、私には分かりません。ヒヨコに聞いてください。通訳ならしますから」
「平民風情がそうやってヒヨコにすべての罪を擦り付けようというのか!ならば今すぐヒヨコを呼べばいい!」
奥の方にいたオークみたいな人が地団太を踏んで怒鳴りつける。ステちゃんは困ったなぁという顔をする。何故だろう。
ヒヨコは颯爽と物陰からピヨッと傍聴席のある二階に立ち、背中から飛び降りて、後方3回転宙返り2回ひねりを決めて入り口から法廷へ続く階段にビタリと着地する。
ヒヨコはステちゃんの横に走ってぴたりと辿り着く。衛兵の人たちが慌ててヒヨコの方へとやってくる。
「ピヨピヨ(何か呼びました?)」
「「「「「「え」」」」」」
全員がびっくり顔だった。
何故だ?みんなが呼んだからヒヨコが来たのに。
「ピヨッ(呼ばれたから来てやったのに、どうして変なのがやって来たと思っているんだ!解せぬ!)」
ヒヨコはパタパタと翼をばたつかせて周りに抗議する。
「ええと『呼ばれたから来てやったのに、どうして変なのがやって来たと思っているんだ!解せぬ!』とヒヨコが憤ってます」
ステちゃんが通訳をしてくれる。おお、今まで一切応えてくれなかったステちゃんがついに通訳をしてくれる。
こうしてヒヨコを加えた法廷は後半戦へと進む。