3章16話 ヒヨコの帰還 ~ヒヨコINプリズン~
たくさんの誤字報告が届いておりました。ありがとうございます。
作者はPC内のワードでざっくり描き切ってから、本文を投稿欄に張り付ける際に誤字脱字を確認してはいるのですが、やはり抜け漏れがあるようです。その為、誤字報告をしてもらえてとても助かっております。
何度も書き直していると逆に前に書いた事を二度描いていたり、同じネタを二度繰り返していたりして当人も覚えていなかったりしております。ノリと勢いで書いている部分が多々ある為に、どうしても見切れていない部分があります。
出来るだけそのような事が無いように心がけていますが、もしも見かけたら指摘していただけると助かります。修正していただいた方々、ありがとうございました。
「ピヨピヨー(ただいまー)」
「おう、おかえりー。って、ヒヨコ!?逃げ出したヒヨコとユニコーンがなんかドラゴンまで連れて戻ってきた」
「衛兵、衛兵!」
バタバタと駆け付ける衛兵。しかしヒヨコは挨拶をしながら普通に自分のいた檻の方へと戻るのだった。
「え、ええと」
「どうすれば」
「ヒヨコを檻に戻せ!」
衛兵たちは慌てて武器を持って俺たちの方に向けつつも明らかに腰が引けていてびくびくしていた。
「すいません。ヒヨコが元の檻に勝手に戻っているんですけど」
「この場合はどうすれば?」
「どうしよう」
「い、一応、戻ったんだし、よくね?」
「どうせ尋問できるわけでもないし」
衛兵さん達や看守さんたちは困った様子でヒヨコの進む道を開ける。ヒヨコはキーラとトルテの3匹で檻のドアを開けて入っていくと、皆がどこか安心したようにホッと息を吐く。
ヒヨコ達はそんな彼らを背にして牢屋へと戻るのだった。
「ピヨッ」
皆がいなくなったら、ヒヨコは檻の入り口を開けて、お隣の檻にいるステちゃんに顔を出す。トルテも一緒にステちゃんの方を見る。
「ああ、無事だったの。良かったわ」
ステちゃんは笑顔でトルテを見ると、トルテはそっぽ向いて意地を張る。
「きゅうきゅう(心配しすぎなのよね。ヒヨコなんかに助けられるほど落ちぶれてはいないのよね)」
「そう?ノコギリでも鱗が通らないからアダマンタイト製のギザギザしたナイフで何度も何度も擦り付けられて、泣いても体を解体するまでゴリゴリされて、痛みで何度も気絶して、痛みで何度も起こされて、苦しみの果てに絶命する姿を幻視したのよ。余りに悲惨な骸を見た竜王様が怒り狂って大陸中央を吹き飛ばす未来を見たけど……」
「きゅ…きゅう(そ、そんな事、な、な、ないのよね)」
ステちゃんは心配している風を装って、まるでトルテを脅すように説明する。
というかトルテの顔が青くなって微妙に黄色い鱗と合わさって緑色に見える位だった。
実際ノコギリでギコギコやられていて、全く逃げられなかった過去があるだけに冗談に聞こえなかったのだろう。
というよりもステちゃんの予知は当たらなかったが、そうなる未来は目に見えるものだった。
「ヒヒーン(そういえばお兄ちゃんはー?)」
「お貴族様はお貴族様専用の収容所にいると思うけど」
「ヒヒン?(オキゾクサマー?)」
「まあ高貴な血族の人というか、功績を上げた人の子孫というか」
「ヒヒーン(コウキー?コウセキー?)
「ピヨ(つまりだな、キーラ。魔王を倒したり、王様だったり、領地を治めていたり、王様の役に立ったりした一族なんだよ)」
「ヒヒーン(分かったー……ような、分からないような?)」
「ピヨ(何故に首をひねる)」
「ヒヒーン(トルテちゃんはりゅーおーさんのお子様だからキゾクサマー?)」
「ピヨ(トルテは竜王のお子様だから竜王女様?でもポンコツドラゴンだから別に良いんじゃね?)」
「ヒヒーン(なるほどー。ポンコツだからセーフ)」
「きゅうきゅきゅきゅう(誰がポンコツなのよね。こんなに高貴でエレガントでスタイリッシュでクールなのに)」
「ヒヒン(フールで?)」
「きゅう(そう、フールで、って誰が愚か者なのよね!)」
キーラの尻を蹴っ飛ばすトルテ。ヒヒンと嘶き、キーラはヒヨコの背後に逃げる。
「ピヨ(そんなノリ突っ込みをしてくれるトルテ、プライスレス)」
「きゅうきゅうきゅう(誰が芸人さんなのよね!)」
トルテは地団太を踏みながら俺に抗議をする。
ヒヨコたちがピヨピヨきゅうきゅうヒヒンと揉め合っていると
「くくくく、アハハハハハ。トニトルテ君の声を聴けなくて不便だったし、ステラ君にお任せするのも申し訳なかったから念話を覚えようとしていたんだけど。何だか愉快な話をしているね」
奥の方から笑い声が聞こえてくる。
ヒヨコは檻を開けてピヨリと顔を出し声の聞こえた方をのぞき込む。
たくさんある牢屋横丁ともいうべき檻の立ち並ぶ場所の一番奥の方の暗がりの牢屋の中に地べたにリラックスした様子で寝転がってる町長さんがいた。
「ピヨ(町長さん発見。ステちゃん、いつの間にか皆でフルシュドルフの住人から牢獄の住人にランクアップしてた)」
「いや、ランクダウンだから。フルシュドルフが牢屋の下みたいな言い方は辞めて。人の第二の故郷を貶めるヒヨコは焼き鳥にするよ」
「ピヨ………ピヨ(お、恐ろしい。焼き鳥に食されてしまう)」
「きゅう………じゅるり(お、美味しそう。焼き鳥を食せてしまう)」
「ヒヒーン(似たようなことを言ってるけど、中身がヒガイシャとカガイシャだねー)」
俺がビクビクしているのに、トルテもキーラも非常に能天気だった。
『ところでステラ君。君までこの牢屋に来ていたのは想定外だ。何あったんだい?』
『実は…』
念話でヒヨコ達にも聞こえるような声で話を始める町長さんとステちゃん。
ステちゃんはこれまでのあらましをカクカクシカジカと説明する。
その説明に町長さんは盛大に溜息を吐く。遠くからでも感じられる大きな溜息だった。
『なるほど、つまりキメラの暴れた原因をアインホルンに押し付けて有耶無耶にしようというわけか。………で、魔物を一緒に連行するついでにどさくさに紛れてキメラ研究所にトニトルテ君を拉致してキメラ素材にしようと…………ある程度想定はしていたのだが、最悪の方に転がるとは…………。まずいな』
『最悪とはどういう事ですか?』
『最近、魔物レース界では第3皇子が魔物の所有者として、キメラ研究所のキメラを出走させていたのだが、評判がよくないのは聞いていたんだ。勝利の為なら何でもやるので、周りの従魔士達は不満が溜まっていた。数か月前に不平を述べたアインホルン騎士爵が無礼なことをしたとして皇子に切り伏せられた事もあり、だれも文句が言えないらしい。噂では従魔士達の間では新しい魔物レースを作ろうという動きがあるとか』
「ピヨ(村長さん、耳が早いな。ヒヨコは最近テオバルト君と一緒に連れ歩かれていたからそんな話を聞いていたぞ。どこぞのお爺ちゃんがテオバルト君を勧誘して、一緒に貴族の位を捨てて一からやり直そうとか何とか)」
『なるほど。となるともう時間の問題だな。とはいえ、法務大臣が向こう側についているからなぁ』
なんだか町長さんは面倒くさげにぼやく。
法務大臣さんとは何ぞや?偉そうな人なのは確かだが。
『問題があるのですか?』
ステちゃんは不安そうに町長さんに尋ねる。
『なりふり構わず自分たちの罪を他人に押し付けに来る可能性がある。ただ、そこには皇帝陛下や宰相閣下に釘を刺しているから動いて頂けるとは思うが』
『こ、皇帝陛下と宰相閣下に!?』
ステちゃんは驚いたように口にする。
帝国のナンバー1と帝国のナンバー2である。一般人たるステちゃんにはハードルの高い相手だった。
『一応、帝位争いで役に立っていたからね。覚えめでたいんだよ。まあ、そのせいで旧来の貴族たちに睨まれているんだけど。そもそも私は故郷のフルシュドルフの太守代行として街を治めつつ、第二皇子ヴィンフリート殿下の命を受けて不法魔物売買の調査をしてたんだ。正直、自由でいたかったんだけど、故郷が滅んでも良いのかと宰相閣下に脅されてね。フルシュドルフを含めた帝国直轄領の太守を務めるマイヤー侯爵が不正で魔物売買をしている疑いがあり、その監視を含めた太守代行という立場だったんだよ。これは帝国上層部の知る所にある』
『今回、それが明らかになったんですよね?』
『先に向こうが私に罪を押し付けて来てね。皇帝陛下の見えない場所で始末しようと手を打ってきたんだ。法務大臣も絡んでいて少々厄介な状況だが。法廷をかき回してやったから、現在は停滞中というわけだ』
『……私たちは、というかアインホルンさんは次期皇帝陛下を相手に法廷で争うと?』
『そうなるね。いや、君が次期皇帝陛下と争う事になるかもしれないね。ヒヨコは君の所有物扱いだから』
『いざとなればヒヨコを焼き鳥にして殿下に献上するという手も』
「ピヨッ!?(ステちゃん!?こんなにかわいいヒヨコを売るというの!?)」
『残念ながら私はヒヨコと違って自在に脱獄できないし』
「ピヨッ(ヒヨコは何時でもステちゃんを脱獄させられますぜ)」
『いや、私、別に犯罪してないのに、脱獄囚にはなりたくないんですけど』
『それは私も同じだよ。まあ、私の貴族スキルを用いれば、いつの間にか牢屋から消えているという事も可能だから心配いらないよ』
「ピヨ(それ、貴族スキルじゃなくて奇術スキルでは?)」
『私は非常に器用でね。若い頃にいろんなものを興味持って色々と調べていたら10歳の頃には鑑定スキルを7まで上げてしまったんだよ。自分を鑑定しながらどうしたら上手くなるかを調べた結果、レベルアップするコツを掴むのが上手くなったんだ。こうやって念話スキルをあっという間に会話を成立させてしまう程度にはね」
「ピヨピヨ(うらやましい。ヒヨコはまだ念話レベルが3しかないのに)」
『大体、いろんなスキルがある。冒険者が長いから戦闘スキルが豊富だけど、日常系スキルが高いんだよ。家事や料理、裁縫などプロ級の腕がありスキル欄に乗ってしまう程だ』
「ピヨ(どこのお母さんだ)」
『おかげで冒険者時代は雑用を一手に引き受けさせられていたね。おかしいな、女性メンバーもいたんだけど』
ヒヨコアイで町長さんをのぞき込むと町長さんのステータスが見えてくる。
名前:シュテファン・フォン・ヒューゲル
種族:人間
性別:男
職業:執政者
年齢:27歳
LV:53
HP:582/582
MP:181/181
称号:賢者 大迷宮攻略者
状態:邪神の呪い(血厄、鈍化)
スキル:魔力操作LV5 気配消去LV10 殺気LV10 力持ちLV5 強撃LV5 腕力強化LV2 跳躍LV7 縮地法LV6 流水LV10 脚力強化LV5 防御LV2 計算LV10 言語理解LV5 分析LV5 高速思考LV10 並行思考LV10 集中LV8 鷹の目 気配感知LV5 魔力感知LV5 索敵LV5 罠感知LV8 真偽判定LV7 書記LV3 調合LV5 鑑定LV7 家事LV5 裁縫LV5 料理LV8 解体LV5 解錠LV5 騎獣LV3 鍛冶LV5 大工LV5 歌唱LV2 弦楽演奏LV3 描写LV5 舞踊LV3 舞踏LV5 奇術LV9 物真似LV9 挑発LV3 火魔法LV4 水魔法LV6 氷魔法LV3 土魔法LV10 風魔法LV7 神聖魔法LV5 補助魔法LV10 時空魔法LV3 疲労耐性LV3 精神耐性LV5 毒耐性LV3 酩酊耐性LV1 病耐性LV3 呪耐性LV3 短剣術LV7 細剣術LV5 剣術LV3 二刀流 弓術LV5 投擲LV5 拳闘術LV4 格闘術LV3 柔術LV5
「ピヨ(おい、町長さんよ。ヒヨコはついに神眼の使い方を思い出したのだが、アンタのスキル構成がおかしいぞ。500年以上生きてる竜王さんでもこんなにたくさんのスキルを高レベルに持ってないぞ)」
スキルはLV1でも持ってるだけで売りになる。LV3もあれば熟練者。LV5は一流といわれる。
ちなみに芸術系は作業の精密さを示す。見る人の美的感覚などの違いが善し悪しの決める部分があるのでそういう部分はLVに反映されないのだ。実際、芸術系スキルはLV3以上は人の好みの前では大差ないというのが実情である。
だが、人生をかけて一つの物事を集中し、職人たちはLV5を越えることを目標にする人が多い。
たくさんの日常系芸術系スキルをLV3越えしているというのは異次元過ぎるのだ。
『私は自由人でいたいんだよ。貴族やらなにやら変な肩書とか捨てたいんだよね。これを期に貴族を辞めて旅にでも出るかな。フルシュドルフも自立させたし、よっぽど無能なワンマン太守代行が来ない限りは名主たちで上手く回すだろうしさ』
『そういえばご結婚はなさらないんですか?』
ステちゃんがクリティカルヒットを仕掛ける。言われてみれば町長さんは27歳、良い奥さんになれそうなスキル構成じゃないか。
まさか旦那はアンジェラ先生!?
俺は女装しているムキムキな青髭のオッサンを思い出してウェッとなる。
『何故か、ヒヨコ君から嫌な想像をされた気がするが、念話というのは不便だね。知りたくないことを察してしまう』
「ピヨピヨ(さて、ヒヨコは何も考えてないよ?)」
「ヒヒーン(だって、ピヨちゃんバカだから~)」
「きゅきゅきゅきゅ(そうなのね。ヒヨコはバカなのね)」
おかしいな、誤魔化そうとしたら、何故か周りの当たりがやたら厳しい。ヒヒーンにバカにされるのは我慢ならん。悔しいから嘴で小突いてやる。
ビシビシと攻撃するとキーラはパカラッパカラッと狭い牢屋の中を巧みに逃げる。
『まあ、ヒヨコ君のおぞましい想像は置いておいて、何故か周りに邪魔されるんだよね。一応、貴族だから縁談はいくつもあったんだけど、どこからか圧力が掛かって大体途中で取り潰されるね。まあどちらにせよ、私は子供を作れない身だから政略結婚の意味がないのだけど』
『それってもしかして呪いの事ですか?』
ステちゃんが心配するように尋ねると、自嘲してどこか黄昏た雰囲気を見せる町長さん。
『この騒動が終わったらどこかバカンスにでも行くかな。メルシュタイン侯爵領でバカンス、あそこは常夏の街だし、暫くすれば丁度良いかもしれないな。そうしよう。ヒヨコ君もどうだい?輝く太陽、青い海、白い砂浜でバカンスでも』
「ピヨッ!(素晴らしい。青い太陽、白い海、見渡す限りの雌鳥!ヒヨコハーレム)」
『いや、太陽青くないし、白い海って海が汚れてるし。ヒヨコハーレムというよりヒヨコバーベキューはやってるかもしれないね』
ステちゃんが安定の突込みを入れてくる。あれ、何かごっちゃになってたっけ?
ところで、何そのヒヨコBBQ。恐ろしい想像をしてしまったのだけど。
「きゅ~きゅ~きゅきゅ~きゅ~きゅきゅ~きゅきゅ~きゅきゅ~」
何故、誰かが死んだときのような曲(※ショパン作『葬送行進曲』)を歌うんだ、トルテよ。
まるでヒヨコハーレムが全滅した様じゃないか。まだ作ってもいないのに!
『惜しいヒヨコを亡くしました』
「ピヨピヨッ(待て、ステちゃん。そこで死ぬのはお前だ、みたいな振りは辞めてほしいのよね)」
「きゅう!(さらりと人の口真似は辞めてほしいのよね)」
「きゅう!(さらりと人の口真似は辞めてほしいのよね)」
「ピヨ?」
あれ?何で二回も言う?大事なことだから二回言いました?
ヒヨコは口真似をとがめられて首を傾げる。
「ヒヒーン(トルテちゃんが二度喋った)」
「きゅ……きゅきゅきゅきゅ(人間に念話も鳴き声も真似られたのよね)」
『これが僕の物真似スキルLV9の威力だよ』
なんとさっきの二つの声の片方は町長さんだった。
どっちがどっちか分からなかったけど。
「きゅう(人間のくせに侮りがたいのよね)」
あまりに似ていたのでトルテも怒るよりもビックリしていた。
「ピヨ(で、今のはどっちの声?)」
「きゅうきゅう(目の前でしゃべっていて疑うのはどういうことなのよね!)」
「ヒン(で、今のはどっちの声?)………ヒヒーン(どう?似てた?)」
いきなりキーラが変なことを言い出す。もしかしてヒヨコの真似をしたつもりなのか?
「きゅう(明日のご飯は何だろう)」
「ピヨ(馬肉でいいんじゃね?)」
あまりに似てなさ過ぎて物真似していた事さえ分からなかった俺たちはガン無視を決め込む。
「ヒヒーン(トルテちゃんもピヨちゃんもひどいよー)」
少なくともキーラの物真似よりは酷くはないと胸を張って言えるだろう。
「ピヨ(さて、このジメジメした場所ではネズミでも出そうだからそんなネズミでも食ってから寝よう)」
「きゅう(賛成なのよね)」
「ヒヒーン(草が生えてないからお腹減ったよー。カイバどこー?)」
こうして短い収容所生活を過ごすのだった。