3章14話 トルテの危機
本邦初トニトルテ視点です。
「きゅ?」
あれれ、アタシは何でこんな所にいるのよね?
人間をいじめると遊べないからおとなしくしてたらなんだかまた鉄格子のなかに入っちゃったのよね。
こういうときはヒヨコ。ヒヨコはどこなのよね?
はて、魔力が感じないのよね。キツネもヒヨコもキーラもいないのよね。
困ったのよね。まあ、そのうち迎えに来るだろうからおとなしくしているのよね。
ゴロゴロしているのが世の中平和なのよね。ドラゴンの持つ七つの特技の一つは寝る事なのよね。二度寝も昼寝も冬眠も大好物なのよね。
アタシは暇なのでとりあえず鉄格子のなかをゴロゴロと転がりながら端から端まで移動する。もう一度端から端までゴロゴロ移動する。
でもあまり面白くないので一番中央まで戻ってぐでんとする。
こういう時は歌でも歌うと良いのだけど、トニトルテ主催のドラハーモニー楽団としてはヒヨコがいないといまいち締まりがないのよね。残念ながらキュウキュウだけでは盛り上がりに欠けるのよね。
とはいえ、ヒヨコはボスの座を奪おうとする危険鳥物なのよね。父ちゃんと戦えるようなヒヨコなんて聞いた事ないのよね。ジャーキー1欠片で懐柔できそうだけど、そうするとアタシのジャーキーが減るから嫌なのよね。
う~ん、ここはドラハーモニー楽団の団長としては、もう一名加入させてアタシの派閥を大きくしたいところ。キーラは音感がないけど我が配下としてヒヨコ派閥を削る為に加入させるしかないかもしれないのよね。でもヒヒーンをどうやって使えば良いのか分からないのよね?
ヒヒーン担当、きっついのよね。
アタシはペッタンペッタンと尻尾で床を叩きながら暇そうにぐでんとしていた。
すると鉄格子の外から人が現れる。なにやらギンギラギンの髪の毛を生やした偉そうな男だ。
そう、キツネの読んでいた本に出てくる白馬の王子様みたいな感じなのよね。出来れば白馬に乗ってくればいいのに。助けてくれるとプリンセスっぽくてうれしいのに。
使えない人間なのよね。
もう一人はなんだか豚が立ったような感じの茶色い髪の毛の男なのよね。
あれはオーク?
とりあえずどちらもキラキラした服を着ているのよね。キラキラに目がないドラゴンとしてはあの人間とオークを齧って服だけを貰っていきたいところなのよね。
※オークではありません。れっきとしたBMIが高めの人間です
…………いや、そうすると折角賑やかで珍しいものがたくさんある場所から追い出されちゃうからダメなのよね。
う~ん、困ったのよね。
「これがドラゴンか。小さくないか?」
金色の人間がアタシを見てなんだかがっかりしたようなことを言うのよね。なめているとしか考えられないのよね。角で刺してやりたいのよね。
「まだ1歳程度の幼竜なのでしょう。間違いなくドラゴンでございます」
「まあいい。ただのキメラに使う材料だ。さっさと解体してしまおうか」
「良いのですか?かなり貴重なサンプルですが」
「今はキメラ研究を突き詰めることが最優先だ。魔物はどうしても頭が悪すぎる。ユニコーン風情に負ける理由がそこだ。ユニコーンより賢いキメラを作るにはドラゴンの頭が必要なのだ」
「わかりました」
恭しくオークが頭を下げる。どうやらオークの方が人間より偉くないらしいのよね。
「今回のドラゴンの素材を使ってキメラにドラゴンを組み込めたら、大々的にドラゴン狩りをしよう」
「しかし、殿下。ドラゴン狩りなど陛下が許されないのでは?」
「問題あるまい。ドラゴン自治区につながる地を収めるマイヤー侯爵や法務大臣のバルツァー伯爵には話を通している。陛下とてたかがドラゴンなどとの盟約を後生大事にするはずもなかろう。私はこの帝国の次期皇帝だ。次期皇帝と竜王などどちらが重要かなど誰もがわかっていよう?」
「なるほど。さすがは殿下ですな。既に外堀を埋めていたとは」
「当然だ。ではその幼竜を殺してさっさとキメラを作れ。期待しているぞ」
「は、かしこまりました。早速このドラゴンの必要な素材をはぎ取りキメラの材料に致します」
そんな話をして男は去っていく。
オークはニヤリと笑いこちらの方へと向く。
「よし、ではそのドラゴンを解体せよ。鱗と脳髄はキメラ細胞に漬け込む。骨と肉は別途氷魔法で凍らせて保存しておけ」
「はっ」
鉄の鎧を着た大きな斧を持つ男たちにオークは何やらキビキビ命令をすると近くにある椅子にふんぞり返る。椅子が重そうにギシギシ鳴いていた。
3人ほどの男がのっしのっしと近づいてくる。
「きゅう?」
人間をいじめちゃだめだと言われていたけど、これは明らかにいじめられそうな雰囲気なのよね。
アタシはトテトテと男たちの方から距離を取るが、3方向から囲むように近づいてくる。
「キュウ」
尻尾でバシバシと床を叩いて威嚇してみるがどうも怯える様子もなく、何だか肉を捌くお肉屋さんの如く、アタシを前にして作業でもするかのように近づいてきたのよね。
「きゅっ(アタシに歯向かおうなんて100年早いのよね)」
ドラゴンヘッドバッドを試みるが、目の前のスキンヘッドの鎧男はアタシを受け止めて捕える。
「よし、お前ら、捕まえたぞ。ミスリルナイフで腹を掻っ捌け」
「きゅきゅっ!?」
なんと、人間どもはとんでもない事をしでかす気満々だったのよね。これはとっても困ったのよね。
ジタバタしてみるが後ろでアタシを捕まえている男が離さないので身動きもとれないのよね。平和的に解決したい所だけど、どうも無理っぽい。
「きゅうぉぉおおお!」
アタシはカパッと口を開けて<電気吐息>を放つ。
「アバババババババッ」
「グベベベベベベベベベッ」
あっという間に人間がカエルのように地面にヒクヒクしてひれ伏すのだった。
さすがアタシ。さて、次のカモはお前なのよね。
カパッと口を開けたまま後ろを振り向く。
「ちょ、ま、やめ…ギャバババババババババババ」
ポテッとさらに人間が地面にカエルのように倒れ、ヒクヒクと痙攣していた。
どうやらアタシの魅力に男たちは痺れてしまったようなのよ。なんてアタシは罪作りな女なのよね。
さてと、こんな場所からはおさらばなのよね。でも、扉の方へと走ると、外にいる男たちが慌てて扉を閉めちゃうのよね。
ふむ、これでは出られないのよね。どうすれば出られるのか考えものなのよね。こいつら全員しびれさせたら、なおさら出られないしどうしたものなのかしらなのよね。
手を頬に当てて淑女らしく小首をかしげてみる。
「くっ、なんてドラゴンだ。あれはサンダードラゴンか?くそっ。こうなったらゴーレムを出せ」
オークがなんだかブヒブヒ言って周りに命令をしているのよね。ところで、ゴーレムって何?
大きな檻を奥の方から運んできて出入り口の所にガチャコーンとくっつける。運ばれた檻の中には金属人形が入っているようだ。
ゴーレムってあの檻の中の金属人形の事?
「ゴーレム起動させます」
何やら隣の檻についているイルミネーションが赤白黄色と変化して、ウィーンと低い振動音と一緒に金属人形が起き上がる。
おおっなんだか格好いいのよね。
うっかり感動してしまったが隣の檻にいるゴーレムとか呼ばれた金属人形がズシンズシンと歩き出す。
出入り口のドアを開けると、巨体を小さくかがめてその出入り口からこっちの檻の中に入ってこようとしていた。
「きゅきゅう(笑止。このトニトルテ様に立てつこうとは500年早いのよね)!」
アタシは間抜けな感じで歩いて近寄る金属人形に、<電撃吐息>を浴びせる。人間じゃないから手加減抜きなのね。
でも、ガシャコンガシャコンと音を立てながら、ゴーレムは一顧だにせずこちらに近づいてくる。
「きゅきゅうっ!?」
まさかアタシの<電撃吐息>が効かないなんてあり得る事?
そ、そう、きっと溜めが無いからダメージが小さかっただけなのよね。だったら全力全開で叩き込んでやるのよね。
アタシはトテトテと歩いて距離を取りながらもう一度カパッと口を開けて大きく息を吸う。口の中に反発しあう魔力の粒子を最大限にぶつけあって摩擦を起こして雷を起こす。
「きゅきゅきゅーっ!(くたばるのよね!)」
閃光が放たれ世界を黄金に染める。
轟音が鳴り響き、アタシたちを覆った檻がギシギシと揺れる。
やがて、光がなくなると、煙舞う視界が徐々に晴れていく。
でもウィーンガシャンと音を立ててこちらに近づいてくる金属人形が目の前にいた。
「きゅうっ!?」
まさか全力の<電撃吐息>が全く効かないなんて想定外なのよね。
すると金属人形は手を伸ばしてアタシを片手でガッツリとつかんでくる。
「きゅうきゅうきゅううっ(離せなのよね)!」
どんなに暴れても全くびくともしない。うんともすんともしない変な人形なのよね。
「び、びっくりさせられたが、さすがは帝国秘蔵のゴーレムよ。さあ、そのドラゴンを解体しろ!」
オークが腰を抜かした様子のまま金属人形に命令を下す。
金属人形はウィーンと音を立ててノコギリを右手に振り上げる。
「キュウウッ(そ、それは痛そうなのよね)!」
暴れても金属人形から逃げられない。尻尾を振ってもペチペチ音がするだけで人形は動きを止めようともしなかった。本当に命がピンチなのに気づいて慌てるがどうしようもなかった。
「きゅうきゅうきゅううう(誰か助けてほしいのよね!母ちゃん!父ちゃん助けてなのよね)!」
涙目で暴れながら最後の反抗をする。
でも全然金属人形はびくりともしなかった。