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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部3章 帝国首都ローゼンシュタット 走れ!ヒヨコ
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3章10話 人気者になるヒヨコ

 ヒヨコたち魔物レースに参加する魔物はみんなでゼッケンをつけてレース開始のゲート前に並ぶ。

 何だか巨大なゲートであるためにヒヨコは枠の中でうろうろとしていた。するとレース開始なのか実況の音声が魔導拡声器を通してレース場に響き渡る。

『1番ブラックコング、単勝オッズは17.0倍』

『2番トカゲメロス、オッズは27.6倍』

『3番ホワイトビット、オッズは36.8倍』

『4番ダークピョンスケ、オッズは56.8倍』

『5番ヤマノキャット、オッズは6.8倍の二番人気です』

『6番アシナガトカゲ、オッズは26.5倍』

『7番ブラックアニキ、オッズは10.3倍の3番人気です』

『8番シューティングスター、オッズは30.0倍』

『9番ピヨ、オッズは最低人気で110.6倍と唯一の万魔券です』

『10番はワンワンパニック、オッズは23.3倍』

『そして11番テラー、1番人気で1.1倍は殿下の持ち魔物で人気が集まっています。さあ、ファンファーレです』


 それぞれ紹介されてからファンファーレが鳴り響く。

 ヒヨコ達が枠の中に納まると人間が旗を振る。

 やがて、カパッとゲートが開く。


 ヒヨコは真っ先に飛び出す。なぜかどのモンスターも走り出さなかった。なぜだろうと首をかしげているが、まあ、どうでもいい。

『おおーっと、9番ピヨ、いきなり飛び出した。キメラの登場により前を走ると排除されるので出遅れる魔物が続出してましたが、恐れず一気に走ります!』

 そんな暗黙の魔物ルールがあったなんて聞いてないんですけど!?

 しかし、目指すべきは優勝。なればこそただ走るべし。


『最初は小さな丘がいくつも並ぶ段差コース。ピヨはどこまで独走できるのか!?おおーっと丘に飛ぶや否やジャンプして次々と丘を越えていく!これは早い!後続のテラーをどんどんと引き離していく!』

 ふはははは、こんな丘、障害物などにならんわ!ヒヨコの健脚を見るが良い。

 どうやらどんどん距離が離れているようだ。哀れ魔物どもよ。ヒヨコの恐ろしさに驚き慌て畏れるが良い!

 ピーヨピヨピヨピヨピヨリ。


『直線でさらに加速する9番ピヨ、次は湖コース!湖を迂回するか、それとも泳ぐのかピヨの選択は…』

 こんな湖など軽く潜って走り続けてやるぜ!ピヨピヨピヨブクブクブク…………

 すると湖の中を走っていたのだがやがて勢いが止まり体が浮かび上がってしまう。ヒヨコは足がつかなくなってしまうのだった。

「!?」

 浮かんでしまうと前に進めなくなってしまっていた。

 ヒヨコは引き返して必死にバタ足で水を掻いて、足の着く場所まで戻り、湖の入り口まで引き返す。

 体を震わせて水を散らす。

 どうやらこのヒヨコボディ、水の上に浮いてしまうらしい。軽い軽いと思っていたら水に浮くほど軽かったのか。ビックリ。

 ヒヨコが一息ついて湖を迂回するコースに向かおうとすると背後からライオンの頭をした巨大なキメラ君を先頭にずんずんと魔物たちの群れが追いかけてくる。

 やばい、折角広げた差が縮まってしまう。

 ヒヨコは再び走り出す。

『9番ピヨ!なんと湖の中を走るも体が浮いてしまった!結局、引き返すのか!哀れピヨ!泳げないのにとんだタイムロスです。何故自分のことをわかってなかったのか?だってピヨちゃんバカだから!』

 余計な拡声器による実況と、笑いに包まれる会場にヒヨコは悔しさで歯を食いしばる。


 ………あれ?ヒヨコに歯がついてない。


 まあ、それはどうでもいい。

 湖に潜っていくキメラ君達を眺めつつ、湖を迂回して走る。

 ライオンヘッドのキメラ君の背丈だとどうやら頭が出るらしい。うらやましい事で。

 他の魔物達は泳いでいた。

 しかしさすがにスピードは落ちているようである。


 その間にヒヨコは湖コースを迂回して再びの平原コースへと入る。

 一時追いつかれそうだったキメラ君とは距離を広げていく。ヒヨコの健脚は迂回しても直線で湖を進む魔物達よりも遥かに早かった。


 そして3番目の障害、森林コースへ入る。

 道がないのが気になるが、とにかく木々を避けながらまっすぐ進めばいいだけだ。


『おおっと、ピヨ!スピードを緩めず森林コースを駆け抜ける!これは速い!しかし、これはどういうことだ?』

 なぜか困惑しているような実況が聞こえるが、スピードを緩めず木々を紙一重で交わして前へ前へと進む。


 さあ、森を抜けたぞ!あとはゴールに向かって飛び込むだけ!


 ヒヨコは森を抜けて前を見ると、なぜか目の前からキメラ君と魔物の群れが向かってくるのが見える。


「ピヨッ?」

 ヒヨコは首をかしげて不思議に感じる。何で前方から魔物が来るんだろう?


『あああっ!ピヨ、ここで迷子!森をものすごいスピードで走ったものの何度となく樹をかわして進むうちに曲がっていって、入り口に戻っていたことに気付いていない!でも仕方ない!だってピヨちゃんバカだから!』

 実況の煽りにどっと会場が沸き上がる。

「ピヨッ!」

 まさか逆走していた事に気づかなかったというのか!?


 するとキメラ君がすぐ近くまでずんずんと進んでやってくる。

「グルオオオオオオオオオッ」

 するとキメラ君の射程内に入ったようで、キメラ君はヒヨコに向けて口を開けて<咆哮砲(ハウリングロア)>を放ってくる。

 <咆哮砲(ハウリングロア)>による衝撃波がヒヨコボディを襲う。ジャンプしてかわすのだが爆風がヒヨコボディを宙に吹き飛ばすのだった。

「ピヨーッ!」

 ヒヨコは吹き飛びつつも空を舞い、そこから重力によって地面へと落ちていく。

 しかし、ここはヒヨコ必殺の後方3回転2回ひねりを加えて地面に着地する。

「ピヨッ!」

 この回転のキレとピタ着は高得点間違いなしと見た!

 あれ、なんだか足元が揺れている。地震かな?

『おおっとピヨ、テラーのハウリングの餌食になったと思ったが、どうにかこらえたようだ。見事な着地!しかし着地先がテラーの背中だーっ!』


 って、ヒヨコってばキメラ君の背中に着地しているじゃん!

 びっくり。

 でかすぎるんだよ、このキメラ君。ヒヨコが乗ったことに気付いてもいない。

 後ろの方を見ると平原の方で魔物たちが3位を争って必死に走っていた。

 随分と遠くにいるようで大変そうだ。

 中にはまだ湖を迂回している魔物までいた。黒いのが三頭見えるが、どうやらヒヨコの敵ではなかったらしい。


 ジェットストリームアタックはどこに行ったのか?


 ゲートが開いても出てこないからヒヨコがフライングしたのかと思ったけど、単に鈍いだけだったのかもしれない。

 でっかいキメラ君は森の木々を叩き壊しながらずんずん進む。

 なんて酷い。

 森林コースが平地コースへと変わっていく。しかもパワーがすごいから進むスピードも衰えない。環境問題に発展しそうな走りだった。


『ピヨ、なんとテラーの背中から降りないで、迷った森林コースを難なく進む。なんという頭脳プレー!これまでのおバカな行動はすべてこの為の前振りか!?』

「ピヨッ」

 そんなわけなかろう。丁度良いから乗ってるだけだっちゅうの。


 そういえば残りは平原コースを越えて山岳コースを登ればクリア?でも走るの面倒くさいからなぁ。このまま背中に乗って悠々自適に進もう。山岳コース当たりで降りれば良いか。

「ピヨッ」

 ヒヨコはテラーと呼ばれるキメラ君の背に乗りながら、ちょっとだけ欠伸をして、ゆさゆさ揺られながら先へと進んでいく。


『さあ、最終コース、山岳へと突入します。先頭はテラー、2番手はテラーの背中にピヨ!3番手以降ははるか遠く、このままレースは決まるのか?おおっとここでピヨが動く!』


 ヒヨコはテラーの背中を駆け上がりテラーの頭を踏み台にしてジャンプ!

 山岳コースを一早く脱出し、そのまま直線を走って誰よりも先にゴールラインを超える。同時に大歓声がヒヨコを迎えるのだった。


『1着は9番のピヨ!何という頭脳派!11番テラー、残念ながら2着。単勝は1着9番、魔番連勝9-11で確定です!複勝はまだ決まっていないので魔券はまだ捨てないでください!』


 ヒヨコはそのままウイニングランを走る。

「ピヨピヨ~」

 そこでステちゃん達を発見。

 そっちの方へ走り、両の翼を振って勝利をアピールする。

「きゅきゅ~」

「ひひーん」

 トルテがパタパタと空を飛んで近寄ってきて、キーラがヒヨコに体当たりしに来るので、それをひらりを交わす。

「きゅうきゅう(さすがヒヨコ、我が手下なのよね)」

「ピヨ?」

 誰が手下なんだ?

 むしろヒヨコがボスなんだと思うのだが。さあ、勝利のダンスを踊ってヒヨコを侮った愚衆どもに我が威光を示すのだ。

 フルシュドルフソングは流れてないけど、簡易版をみんなでご一緒に。


 ワンツーさんしーごーろくピヨピヨ

 ツーツーさんしーごーろくピヨピヨ

 上上下下左右左右

 そしてBのポーズ、続いてAのポーズ

 最後は荒ぶるヒヨコポーズ!ピヨシャキーン!


 トルテもそれに合わせ、最後はドラゴンっぽい感じのポーズをとってドヤ顔だった。

 知らないキーラは真似るように動いて最後はユニコーンの角を空に掲げユニコーンポーズをとっていた。

 どうやら新ユニット爆誕である!


「ヒヒーン(あれれ?遠くの方からでっかい変なのが走ってくるよ)」

 不思議そう首を振るキーラ。

「きゅきゅう(なんか危ない感じのでっかいのが近づいてくるのよね。なんかガウガウ、口にしてるのね)」

「ピヨ?」

 ヒヨコは遠くからこっちの方へと近づいてくるキメラ君を眺める。

 何を考えているのかわからないので、キメラ君から漏れる思念を読もうと念話スキルに集中すると


 ヒヨココロスヒヨココロスヒヨココロスヒヨコロス


 なんか危ないの来たーっ!

「きゅう(じゃ、じゃあ、頑張るのよね)」

「ヒヒーン(僕たちは観客席に戻ってるよー)」

 トルテは来た時の3倍の速度で飛んで逃げていく。

 おかしいぞ、3倍の速度で動くのは赤い彗星たるヒヨコの特技なのに!?

 キーラも通路の駆け抜けてピョインと飛んでテオバルト君の方へと逃げるのだった。


 ヒヨコはポカーンと奥の方のテオバルト君やステちゃんのいる方を仰いでからキメラ君の方を向くと、キメラ君はいきなり<咆哮砲(ハウリングロア)>による衝撃波を放ってくる。

「ピヨッ」

 ヒヨコは攻撃を避けると風圧に負けて吹き飛んでしまう。空に舞ったヒヨコに対して、さらにキメラ君は<咆哮砲(ハウリングロア)>による衝撃波を放つ。

 だがそれは観客席へとぶち込まれ、多くの観客が吹き飛ばされ悲鳴が上がる。


 これはやばい。


 ヒヨコは何とか着地をするが、あの風圧は体の軽いヒヨコボディが吹き飛んでしまうのがありありと分かる。

 というか軽すぎて<咆哮砲(ハウリングロア)>の衝撃波にダメージを受けず、ものすごく吹き飛ばされていたという微妙な感じだった。


 とはいえ、あのキメラ君はどうやらヒヨコを狙っている。


 ヒヨコは着地して、走って攻撃をかわすのだが、<咆哮砲(ハウリングロア)>による爆風によって吹き飛ばされてしまう。

 さらにキメラ君はズシンズシンズシンと走ってヒヨコとの距離を詰めて来て、踏みつけようと鋭い鍵爪のついた前足がヒヨコに向ける。


 しかしこの程度の速度でヒヨコを捕えようなどとは100年早い。

 近づいてしまえば、こちらのもの。奴の踏みつけをかわしつつ高々と跳躍!

 体を捻りキメラ君の横っ面にヒヨコキックに叩き込む。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」

 断末魔を上げて崩れ落ちていくキメラ君であった。


 ヒヨコ、大勝利である。


 さあ、愚衆どもよ、ピヨちゃんを崇め奉るが宜しい!

 ヒヨコはピヨピヨと歩いて再び観客席の方へ戻るが、どうやらそれどころではないようだ。観客席にぶち込まれた<咆哮砲(ハウリングロア)>によって、その衝撃波がたくさんの観客を傷つけてしまったようだ。

 負傷者が続出して観客席が血の海になっていた。


 しかし、ヒヨコにやれる事なんて何もない。

 手当の手伝いでもすればいいのか?しかしヒヨコは水の中に入ったり砂埃をかぶったりとむしろ傷に振れれば悪影響を及ぼしてしまう気がする。

 残念ながらヒヨコには指を咥えて見るしか……否、咥える手の指さえ存在しなかった!

 ヒヨコは無力である。

 ヒヨコはがっくりと肩を落として悔しく思う。


 果たして本当に無力なのか?


 そんな時、誰かの声がヒヨコの心に響く。


 だが、ヒヨコは負傷者たちに何かしてあげることはできない。惨めな弱っちいピヨちゃんにできることはない。

 …………本当にできる事は無かったのだろうか?

 かつてヒヨコは誰かを救った、そんな記憶が有るような無いような気がする。そうだ、ヒヨコはただのヒヨコではないのだ。

 ううん、思い出そうとすると頭が痛くなる。だがその先に何かあるような気がする。


 思い出せない。


 ヒヨコは考えているとザザッと頭に砂嵐のようなザップ音が響く。

 誰かの涙が、誰かの泣き声がザップ音の中から漏れてくる。

 ヒヨコはそれを救おうとして……


 ピヨヨヨーン

 トルテの<電撃吐息(サンダーブレス)>を食らったかのような雷が体を走るように感じた。


 思い………出した!

 ヒヨコは――ヒヨコから奪っていく奴を、絶対に許さねえ!


 ピヨピヨリ。なんか違うような気がする。


※聖剣と禁呪を使うヒヨコの物語は決して始まりません


 ヒヨコは記憶の断片にある魔法の呪文を唱える。

「ピヨピーヨ(エリアヒール)!」

 魔法を唱えるとヒヨコを中心に被害のあった負傷者の区画全体を包み込むように聖なる光が大地から輝きだす。

 すると怪我をしていた人々の傷が治っていく。

 おお、やはりヒヨコの記憶にうすぼんやりとだが、ありとあらゆる神聖魔法を使えるようだ。


「ピヨピヨ(ふう、危ない危ない。それにしてもキメラ君はどうして暴れたんだろう。もともとそういう暴れん坊だったのかな)?」

 ヒヨコは器用に関節をまげて翼で額を拭う。随分とこの体にも慣れたものだ。


「魔法?魔法を使ったぞ」

「すごいヒヨコだ」

「俺達を救ってくれたのか?」

「ピヨちゃん、すごい!」

「ピヨちゃん、格好いい!」

「ピーヨ、ピーヨ、ピーヨ」

 なぜか巻き起こるピヨピヨコール。


 とりあえず人気者になったのが、嬉しいので周りに右の翼を広げて声に応える。

 大きい歓声が響きわたるのであった。


 一応、第2レースだったので、すぐに次の準備に取り掛かる為に放送が流れて、ヒヨコたちは撤収することになる。


「ピヨ(そういえばヒヨコにケンカを売ってきた黒の三連星はどうなったのだろう)?」

 魔導掲示板を見ると黒の三連星の3匹は入賞してなかった。此度4戦目のキャリアと聞くが勝てなかったようだ。

 むむむ?そういえばこのレースって未勝利戦なのでは?ということは4連敗という事か。何とも哀れな。黒星4つになるとは……。


 ハッ!黒の三連星ってそういう事なのか!?


 ヒヨコはあまりにかわいそうな二つ名をさも格好良いものと勘違いしていた事に気付き、戦慄するのだった。

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