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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部3章 帝国首都ローゼンシュタット 走れ!ヒヨコ
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3章閑話 貴族の法廷顛末

 俺、シュテファン・フォン・ヒューゲルの初公判が帝都の裁判所で行われる。

 被告人席に座る俺はどこか退屈そうに座っていた。


「被告シュテファン・フォン・ヒューゲル男爵はドラゴンの違法売買未遂容疑についての裁判を行う」

 裁判長であるマルクス・フォン・ゲッベルスが中央に立ち、裁判の開始を宣言する。

 茶番にも程があるこの裁判に俺は怒りを通り越して呆れていた。


 家の者たちは何をされるか危ないので、解雇して半年分の給与を渡して家を出した。

 ステラ君達はアインホルンに預けてもらうことにする。

 無論、アインホルンも預かれるような金はないということだったので、私の私財から3か月分の生活費を渡してある。そんなに時間を掛ける必要はないし、そんなに時間を掛ければ恐らくは皇帝陛下か、あるいはエレンが気づく可能性がある。

 エレンが気づいたら、帝国が滅びるかもしれないから、早く宰相クラウス殿に気付いてもらいたいところだが。


 もともとステラ君には証人として帯同を願っていたが、弁護人にそれを拒否されていた。

 不穏な空気はビンビンに感じていた。


 レースの話に乗っかって、ヒヨコ君を預けるというのを口実に彼女たちをアインホルンに預けたのは正解だっただろう。

 そして、今回の件を利用してこちらとしても貴族の地位を捨てようと企んでいるからあまり言えた義理ではないのだが。


「先日、ヒューゲル男爵の訴えによりマイヤー侯爵の指示により商人モーリッツがドラゴンの密売を行おうとしていた事が告訴されたが、取り調べによりヒューゲル男爵がマイヤー侯爵を騙し、商人モーリッツを使ってドラゴンの密売を企んでいたことが発覚した。弁護人アルトナー殿、異論はないかね?」

 裁判官が口にした告訴だが、そもそも俺はそういう告訴を行っていない。

 調べた話だと、護送中のモーリッツの馬車が襲撃され、モーリッツがそこから逃げたという事。にも拘らず何事も無かったように私が訴えているという内容だった。

 バカバカしい。

 つまり奴らは俺が何を訴えてモーリッツを帝都に送ったかさえ分かってないのだ。

 恐らくモーリッツはドラゴンの売買をしていた事で訴えられていたと思っているのだろう。

 そんな事を冗談でもする筈がない。

 竜王陛下にドラゴンの売買なんて行なってはいなかった、と言ってしまったのだから。

 それをそのまま帝都に報告する筈もないだろう。ヴィン伝手で事実内容を送っておけばよかったかもしれない。


 裏にエリアスのバカがいるならば同じ皇族を使った方が話は早かった。

 正式な手順でやろうと真面目に太守代行の顔で裏仕事をしたのが間違いだったのだろう。


「はい、異論はありませぬ」

 弁護人がにっこりと笑顔で返し、俺は横に立っている弁護人を思わず見てしまう。

 そんな話はしていないのだが。


 何故弁護人に確認しておかしいという突込みが出ないのか?

 そもそも私はこの国選弁護人と話をしてもいない。

 デキレースの裁判体験というのも中々に珍しい。

 どういった力が働いているのだろうか?中々に興味深い。


「まず被告はヨンソン子爵にドラゴン売買の疑いを持たれることを恐れ、商人モーリッツを捕縛し、脅迫してドラゴン売買の罪をかぶせたそうです。また、ドラゴンを北の大地から運ぶ際にマイヤー侯爵の検問を商人モーリッツがドラゴンを運んでいても抜けられるように王家の名を出していたとのこと。王家の覚えが良い事、そして己の権力を利用して、帝国において生命権を持つドラゴンの違法売買に手を染めた罪は非常に深いと判断する。爵位剥奪及び砦の再興費として金貨100万枚の罰金を求める!」


 原告側の言葉に俺は小さくほっとする。

 最悪がそれならうれしい限りであるからだ。

 それで貴族という面倒くさい柵が無くなってくれるなら素晴らしい。もともと、貴族にされたせいで冒険者活動を止められたというのだから。


 紅玉になると国を股にかけた活動を必要とされる。それほど重要な立ち位置なのだが、貴族では他国へホイホイと渡れない。金貨100万枚は確かに大金だが、総資産の3分の1程度だ。

 それを払って爵位まで捨てられるなんてある意味ご褒美か?


 だが、こちらとしてはうれしい限りだが、この無能なマイヤー侯爵が幅を利かせてしまうのは拙い。

 こんな犯罪を続ければいずれは帝国が滅ぶ可能性もある。

 法務大臣もグルだろう。奴はマイヤーの縁戚だった筈だ。


 俺の罪を無くした上で爵位を捨てたいところだ。

 不要な罰金も腹立たしい。払うべき人間が目の前にいてなぜ俺が払わねばならないのかという怒りが込み上げてくる。


 さらには弁護人も弁護をしている口ぶりではあるがすべての罪を認めるような発言をし、検察もそれを指摘し『すべてはこのヒューゲルの陰謀によってドラゴンの売買をしようとし、そのせいでドラゴンが怒り砦を崩したのだ』という話へと進む。


 かつて竜王と話し合いに持って行ったのは俺だ。

 公にはしていないが、帝国内では帝国のルールで動いてもらえるようにし、人権宣言にドラゴンを乗せたのだ。

 そのお陰で長らく悩まされていたドラゴンに関わる騒動は幕を閉じた。

 その俺がドラゴンの人身売買とかするはずもないだろうに。


 とはいえ、このバカ共はその顛末を知らない。平民出身の天才クラウスが宰相として力を奮えるよう権力付けさせる為に、皇帝陛下と俺とで共謀した事だ。

 宰相クラウスは皇帝の学友でもあり、帝国皇帝の懐刀とも呼ばれる。圧倒的な知能と処理能力を持つクラウスであるが、平民出身という事もあり後ろ盾は彼を認めて養子にしたリヒトホーフェン侯爵家しかなかった。

 宰相に立てて辣腕を振るわせる為に俺と皇帝陛下はドラゴンとの交渉の手柄を全てクラウスに渡している。


 さて、裁判であるが、この茶番をいつまで続けるのかと思えばどうやら私に喋らせずにそのまま終わらせようという構えのようだ。あまりに可笑しく笑いが込み上げてしまう。


 しかしこの法廷、明らかに囲い込むことに失敗している。恐らく、弁護人と裁判長を囲い込んだようだが、原告側を囲い込めなかったと見受けられる。

 法務大臣辺りが親玉の可能性が高い。

 今回は明確な証拠がないから最終的に私が否定し、怪しい部分があるからという理由で収容所にて取り調べという流れになるだろう。


 まあ、この流れは変えられる事はないだろう。

 せっかくステラ君を呼んだというのに彼女を証人として使わない所かアンジェロ・フォン・ヨンソン子爵令息までこの件に関わらせていない辺り、弁護人側が既にマイヤー侯爵の手にあることが明らかだった。こんな腐った弁護人を司法で使うのはどうかと思うのだがどうだろう?


「故に男爵は国家のために働こうとしたのであり意図した事ではない。爵位剥奪はやりすぎであり爵位降格が正しいのではないかと…」

 そう弁護人が話している中で、原告である検事がプルプルと震え俺をにらんでいる。


 それもそうだろう。


 さっきから笑いをこらえてヘラヘラしているのだ。

 もしも侯爵の側に与していればストーリー通りに進めるために被告がヘラヘラしていても怒ったりはしない。

 喋らないならいいチャンスだと思い畳み込むだろう。だが、それをしない。


 つまり、今回の検事は知らないのだ。


 ともすれば反省しているそぶりを一切見せない私に怒りを向けるのは当然だ。

 あまりにも茶番過ぎるこの裁判の状況をやっと原告側の怒りという形で私に見せてくれる。


「さっきから弁護人が反省をしているというが、ヒューゲル男爵!貴殿、反省をしているというのか!先ほどからニヤニヤと笑いおって!」

 ほら、噛みついてくれた。

 これで完全に裁判の状況が把握できた。そして私に発言をさせたくなかった裁判長や弁護人の顔色が変わる。

「弁護人に話ばかりさせて、ニヤニヤとバカにするように笑って、罪を犯したという自覚があるのか!?何か言ったらどうだ!」

 検事が私を怒鳴りつける。


「これは失礼。さきほどからこの面白い法廷の茶番を見学させてもらい帝都はここまで堕ちたのかと笑いをこらえるのに必死だったのです。そもそも、私は最初からモーリッツ殿がドラゴンの売買をしたなどと訴えてはいないのに、なぜか私が『罪をかぶせるためにモーリッツ殿を脅してドラゴン売買を訴えた』という話になっている。私の最初に訴えた内容とは違う。しかしこの場にいる誰もがその訴えた内容を知らないと来た。こんな法廷を続ける意味がよくわからないのです。そしてこんな茶番を法廷という場所で演じるなど皇帝陛下の威信も地に落ちたものだ。無能皇帝と後世に語られることになるでしょうね。帝位争い時代から思っていたが本当に無能すぎて笑える皇帝だ」


「き、貴様!皇帝陛下を侮辱するか!」

 法廷がどよめき、原告である検事は怒りの声を上げる。

「お、お待ちください。被告は…」

 慌てたように弁護人が俺の発言を取り消させようとする。が、すでに遅い。


「弁護人、黙っていただこう!皇帝陛下への侮辱の現行犯である!申し開きはあろうな!」

「申し開きなどせぬ。陛下の膝元で私の訴えた内容を知らぬ法廷で私が逆に訴えられている事実こそが茶番だ。それと侯爵が太守として勤める砦が破壊された事を訴えていたが、その件により千人以上もの死傷者が出たそうだ。爵位剥奪?罰金?そんな問題ではなかろう。死罪を訴えて然るべき事なのに原告はそこに一切踏み込まぬ。被害報告を正しく受けているのか?貴殿の受け取っている被害報告は誰による被害報告か?」


 俺の指摘に原告である検事は眉間にしわを寄せ、同僚の検事にその件について話を聞いているようだが、同僚の検事は首をひねり、そしてちらりと原告側の侯爵を見る。

 ハッとした様子で検事は若干悔し気に唇を噛み侯爵を一瞥してから弁護人をにらむ。話があまりにも素直に進みすぎたことがおかしいと勘付いた様だ。

 検事のアントン・フォン・ベッカーといったか、彼は若いようだが、若いからこそ、変に染まっていない真面目な男のようだ。

 どうもこの私は上手くはめられたようだが、検事の引きは良かったようだ。彼は自分が周りに踊らされていた事を知り、怒りと羞恥で顔を赤く染める。


「私は先の帝位戦にて陛下にご助力したがその時にこう言っている。『消去法で手を貸すがあのような雑なやり方で帝位につこうとした無能に追い出される羽目になった無能では帝国は落ち着かぬだろう』とな。陛下への侮辱など今更の話よ。本人に何度も言った言葉だ。そして今、その通りになった。皇帝陛下への侮辱罪を追加し、陛下に尋ねるが良い。ヒューゲルが陛下をバカにしているので首をはねましょうとな。私は一切の抗弁はせぬ」

 ざわつく法廷を慌ててまとめるように裁判長は間に入る。

「ヒューゲル男爵の罪は明らかであるが、証拠証言ともに不十分であるために、収容所にて取り調べを行うとする。以上で法廷を終了する」

 裁判長は慌てたように予定通りの筋書きに話を持っていくようだ。


 検事達は明らかに怒りの声を上げて裁判長に詰め寄る。

 恐らく、私への取り調べは出来ないだろう。するだけ無駄という奴だ。

 真面目な検事殿には引き続き、まじめに仕事をして頂きたいところである。


 分かっていた事なので収容所へと連行されることになる。俺をにらみつける弁護人を鼻で笑ってやったら顔を真っ赤にして怒り狂っていた。

 それを公然では必死に隠すところが滑稽である。


 さて、これからどう動こうかな?

 彼らが言うように、事件の黒幕ではないが、この問題の黒幕は私になる事だろう。

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[気になる点] 八百長→八百長だと互いに示し合わせるイメージ。茶番の方が適切では? 面の皮を守る→守る?何か違和感ある表現。。。
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