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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部3章 帝国首都ローゼンシュタット 走れ!ヒヨコ
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3章7話 ヒヨコはユニコーンと出会う

 ついに帝都に辿り着いた。

 フルシュドルフから馬車で3週間ほどの旅路だった。

 前に暮らしていた場所より若干涼しい感じだ。夏から秋へと移ろうている事もあるが、地形的にも南へと移動した為に涼しくなっていた。


※ヒヨコのいる場所は南半球です。その為、南に行くと寒くなります。出発も9月初めで9月末に到着している為、季節的にも寒くなってきます。


 馬車は長々と旅人が並んでいる街道正面の道の横を進んで、通行証の持っている人が通れる入口を通り、巨大な城門を潜る。


 すると大きな街並みが広がっていく。とても人が多く活気がある町のようだ。

 たくさん人のいる道ではなく、一本横の大きな馬車がたくさん通っている道をコトコトと進む。

 奥の方に見える巨大なお城の方へ向かっているようだ。

「あれがお城ですか?」

「大きいだろう?」

「ピヨッ」

「きゅきゅきゅ~(ウチの山の方が大きいのよね)」

「ピヨヨ!?」

 そりゃ、山の方が大きいだろうさ。比較対象を間違えているだろう。

「きゅ~う(住処という意味では同じなのよね)?」

「ピヨ」

 言われて見れば。どっちの住処が大きいかと聞かれれば、山の方がデカいに決まっているが。比較がおかしくないかい?それともその大きさが竜族のプライドなのかいな?

「きゅうきゅう(竜族は大きいから見下すのが大好きなのよね。高い場所に家を置くのは当然なのよね)」

「ピヨッ?」

 ヒヨコは不思議そうにトルテを見る。

 馬車の中の座席に座るトルテ。ヒヨコはその後ろの荷台の上に座っていて、背もたれ越しでトルテを見下ろしながら話していた。

「きゅっ(見下ろすんじゃないのよね)!」

 トルテは尻尾を振ってヒヨコの顔をペチリと叩く。

「ピヨッ」

 嘴が…嘴が横から叩かれて痛い。

 ヒヨコは馬車の荷物置き場で痛みに転がり悶絶するしかできなかった。




***




 帝都に入ってからさらに馬車に揺られて30分ほど、やがて町長さんの帝都の家に辿り着く。

 家というよりは屋敷だった。フルシュドルフのおうちの3倍はありそうな豪華な邸宅だった。


「お、大きいですね」

 師匠も屋敷を見て絶句していた。

「いや、そうでもないでしょう?ここら辺は貴族街で、下級貴族でも末端の位置にあるからね。向こう側はウチより大きいし立派だろう?」

「帝都の貴族ってそんなに凄いんですね」

「ウチは大したことないから。仕事は騎士爵程度のものだし、この屋敷の維持費程度しか年金は無いし。他の貴族はもっとすごいよ」

「ほえー、帝国の貴族ってすごいんだぁ。ウチの実家なんて掘立小屋なのに」

 師匠は懐かしむように実家を思い出す。

 掘立小屋育ちだったのか。ヒヨコは卵育ちだぞ!


「ええと、ステラ君の実家って連邦獣王国で獣王陛下より偉い家だったよね?」

「偉い家というよりはお母さんが偉かっただけ、ですね。大きい山一つがウチの家の敷地でしたけど」

「獣王城のあるカッチェスター市の横に聳え立つホワイトマウンテンだったっけ?」

「はい。そこにぽつんと小さい家が」

「獣王国ってどうなってんの?」

 あまりの言葉に顔を引きつらせる町長さんであった。

 巫女姫とはどうも王様的存在だったらしいが、山の奥にひっそりと住んでいるだけのようだ。


「うーん。基本的に連邦獣王国の中央都市は大きいんですけど、偉い人でも住んでる場所は普通の民家ですよ?実力主義なので、市井の方から凄い強い人が出てきてそのまま三勇士になったりしますから。血筋で継承できませんし。まあ、強い血統から強い人が生まれやすいので、三勇士は大体いくつかの家から代々出てきますね」

「血筋で継承…できない?じゃあ、君は?」

「物心ついた頃には予知スキルと神眼持ちだったので、二人目の巫女姫として周りが持ち上げてしまって。母が6年前に亡くなってなし崩し的に私が母の跡を継ぐ事に」

 師匠は照れた様子で後頭部を掻いて苦笑する。


「巫女姫様は不老種と聞いていたんだけどなぁ」

 町長さんは不思議そうに首を捻る。

「私を産んだ時に力を落としたそうです。詳しくは聞いてませんが」

「なるほど。確かに不老種は妊娠すると突然力を落とすと聞いたこともあるな。竜種も似たような傾向があったかな」

 町長さんはふと思い出すように口にし、全員の視線がトルテへと向かう。

「きゅう(母ちゃんは元気なのよね)?」

「そうなの?」

「きゅうきゅう(でも年齢によるのよね)。きゅうきゅうきゅう(私のお母ちゃんは老竜になりたての若造だったから)」

「ドラゴンも老竜の若造だと衰えないと言ってます。幼竜の若造が」

「きゅうううううう(誰が若造なのよね)!」

 トルテは悔しげにかみかみと師匠の裾を引っ張る。

 何故かトルテは師匠に抗議するときはヒヨコに抗議するときのように暴力を振るわないのである。

 ヒヨコ差別か!?


「ピヨピヨ」

 師匠。ところであれは何?

「あれ?」

「ピヨ」

 ヒヨコはお屋敷の門前に隠れるように立っている一頭の馬を見つけたので報告する。

「ユニコーンだ。何でここに?銀の首輪がついているから誰かのテイムモンスターなのだろうけど」

 町長さんが不思議そうにする。

 なので、ヒヨコは近づいて声を掛けてみる。

「ピヨッ」

「ぶるるん(ヒヨコさんだー。こんにちはー)」

「ピヨッ!?」

 こ、こやつ、喋りおった。

「ひひーん(ヒヨコさんも喋ってるよ~)?」

「ピヨピヨ」

 そりゃ喋るよ。ヒヨコは喋るものなのだよ。でも、馬は喋らない筈なのに。お前、どこの子だ?名前は?


「ひひん(名前はねー、えーと………ういろー?)」

 コテンと首を傾げる。

「ピヨッ」

 何だかおいしそうな名前だった。間違ってにゃーか?

「ひひーん(なんか違う気がする―。なんだったろー。もしかして、<なんだったろー>?)」

 それもちがうだろー。


「ひひーんひんひん」

「ピーヨピヨピヨ」

 ヒヨコとユニコーンの子は笑い合う。

「ひん(ぼくねー、お兄ちゃん探してるのー。お兄ちゃんの匂いがしたからここに来たのにお兄ちゃんいないの)」

「ピヨ…………ピヨッ!?」

 まさか、ヒヨコがお前の兄ちゃんか!?

「ぶるるん(いや、違うよー。お兄ちゃんは人間だから)」

 馬は首を横に振る。


 なるほど。人間と兄弟、つまり馬に見えるが実は馬人族。


「何、阿呆な事を言っている」

「ピヨッ」

 ビシッとヒヨコの頭にハリセン攻撃が入り、同時に師匠の声が聞こえてくる。ヒヨコの賢くて丸い頭に攻撃を加えてくるのは決まって師匠だった。そう、ヒヨコの賢くて丸い頭に。

 で、師匠。なんすか?


 ヒヨコはいまこの牡馬と馬語で会話をしてたのに。


「ひひーん(牡馬じゃなくて牝馬なのに)」

「ピヨピヨ」

 お嬢さんでしたか。これまた申し訳ない。


「君は何でここに?一応温厚とは言え魔物が町の中を勝手に出歩くのはまずいでしょう?」

「ひひーん(ぼく、牧場にいたのー。お兄ちゃんに会いに来たらお家がなくなってたから探してたの。そしたらお兄ちゃんの匂いがしたからここに来たの)」

「ピヨッ」

 師匠に男の匂いが!?


「きゅきゅきゅーっ」

「ピヨピヨピーヨー」

「きゅきゅきゅー」

「ピヨピヨ~」

 そこはかとなくいつの間にかトルテがやって来て音楽(※バッハ作『トッカータとフーガニ短調』)に合わせて鳴き声を差し込む。


「ブルルル(僕はヒヨコさんからお兄ちゃんの匂いを辿って来たんだけど)」

「きゅきゅきゅきゅう~!?(ヒヨコ、まさかの男色疑惑!?)」

「ピヨッ!?」

 そんな馬鹿な。ヒヨコは女の子が好きなのに!?一体、なんでヒヨコに?

 どうしてヒヨコに雄の匂いが。


 くんかくんか。残念、ヒヨコの嗅覚は低かった。


「ぶるるん(お酒の匂いもするの)」

「ピヨッ!」

 思い出した!そう、モンパレのお兄ちゃん達と酒盛りをしていたんだ。

 その時の匂いか。


「きゅうううううう(モンパレのお兄ちゃん?ああ、あの時、アタシの<電撃吐息(サンダーブレス)>で一掃された人間なのね)?」

「ひひん(お兄ちゃん、死んじゃったの)?」

「ピヨッ」

 イヤイヤイヤイヤ、殺してないから。

 モンパレのお兄ちゃんの背後のモンスターを一掃したけどモンパレのお兄ちゃんは殺してないでしょ?

 その後にヒヨコは酒盛りをしたんだし。


「きゅう(残念なのね)」

「ひひーん(よかった。お兄ちゃんは生きてたんだぁ)。ぶるるん(言われてみればもう一つお兄ちゃんの匂いが近づいてきてるような気がする)。」

「ピヨッ」

 危うくヒヨコがオカマにされるところだった。

 そんな事が出回ればアンジェラ先生にお尻を狙われてしまう。

 大体、ヒヨコはお釜よりお窯のほうが好きなのに。そう、ヒヨコは白米よりパン派なのである。


 ………あれ、ヒヨコの主食は肉だったような?なぜ、ヒヨコは穀物なんかを…………???


 ピヨピヨリ。よく分からないから、まあ、良いや。


「すいませーん。ここにウチの馬が来ていませんかー?」

 そんな声が門の外から声が響く。

 それに町長さんが気づいて荷物の移動を屋敷の人に指示を出しているのを途中でやめて、玄関口のほうへ執事っぽい男を向かわせる。



「どちら様でしょうか?ここはヒューゲル男爵家ですが」

 執事さんは門の入り口を開いて来訪者に尋ねる。

「申し訳ありません。アインホルン家のものですが、お宅にうちの馬が来ていませんか?牧場から勝手に出て行ってしまったらしく、気配を探ったらこちらにいるようなので」

「ああ、先ほど入り口から入ってきた馬のことでしょうか?ちょうどそちらで、我が家のゲストと話し込んでいるようですが」

「ゲスト?」


 やってきた来訪者は入り口の周りをきょろつくと丁度馬車の方にヒヨコたちがいることに気づく。

「ひひーん(お兄ちゃんだー)」

 ユニコーンは喜ぶように鳴き声を上げて前足を持ち上げて走るのかと思いきや、そのままヒヨコの背中にノシッとのる。

「ピヨ」

 どうやらお迎えのようだ。そしてなぜ向こうに行かずにヒヨコに乗りかかる。

「きゅう」

 さらにノシッとトルテがヒヨコの頭の上に乗る。

 そしてお前までなぜ便乗する!?

「きゅう!」

「ピヨッ!?」

「ヒヒーン」


「ええと、どういう状況?」

 目を丸くしているアインホルンを名乗るモンパレの若造。たしかテオバルト君とかいったか?

 それはヒヨコが聞きたいのだが。どういうことなの?


 んん!?この馬のお兄ちゃん。………まさかの実はユニコーンから人間にでも進化した青年だったのか!?


「相変わらずろくでもないことを考えているヒヨコね」

 すると師匠がヒヨコの前にやってきて、盛大にため息をつく。

 あれ、普通に至極当然の発想だと思うのだが。師匠、それよりも馬とドラゴンに乗られて困ているヒヨコを助けてくれませんか?

 何だか見た感じファンシーさが醸し出てしまって、ヒヨコのクールでダンディな雰囲気が台無しなのですが?


「この中でヒヨコが一番ファンシー度が高めだと思うけど」

「ピヨッ!?」

 なんと、そんな馬鹿な!?


「ええと、玄関で何をやっているのかな?」

 しびれを切らして町長さんもやってくる。執事さんも困った様子だ。


「ご主人様。こちらアインホルン家の方だそうです。どうも牧場にいた馬がここに迷い込んできたらしく」

「ピヨッ!」

「ヒヒーン」

「きゅう」

 ヒヨコ、馬、トルテの3者が何となく組み付いたままポーズをとる。


「君たちが入れたのかい?」

「ピヨピヨ」

 ヒヨコが取り合えず頷く。というか、この馬、なぜか門をするりと抜けてきたが。


「あ、貴方は…………ヒューゲル男爵様だったのですか!?」

 驚くように町長さんを見るモンパレのお兄さんであった。モンパレの時に怒られたので当然だが覚えていよう。ヒューゲル男爵というのは有名なのかな?


「……君はダンジョンでの。アインホルン………なるほど。魔物を取りに行ったというのはそういうことか。そういえば先のレースでマグナスホルンが亡くなったそうだね」

「その節は申し訳ございませんでした」

 モンパレのお兄さんは恐縮した様子を見せる。


「そこに馬がいるようだけど、何もなかったんじゃなかったか?」

 若干、不思議そうに町長さんは訊ねてみる。

 責めている口調では無いが、確かに当人は何もかも失ったと嘆いていたので、魔物なんて飼っていないとみんな思っていたのだ。


 ヒヨコもすべて失ったと聞いていた。


「その子はまだ1歳の子供でレースになんて出れません。ぶつかり合いのあるレースなんかに出たら死んでしまいます。でもあと2月以内にレースに出なければ調教師免許をはく奪されてしまうので」

 テオバルト君は分かりやすく説明してくれる。

 なるほど、猶予は2か月しかないものの、まだユニコーンはレースに出れる程のものではないと。


「何より牝馬ですし、次代の子を作る為にもレースには簡単に出せません。お判りでしょう?今、皇子殿下のキメラは周りの魔物も殺す危険な存在。たった一頭の牝馬をレースには出せません」

 困った様子でモンパレのお兄さんは後頭部を掻きながら弁解する。


「ん?ちょっと待ちたまえ。君はアインホルンだろう。家として永世従魔士としてレース資格を貰っていただろう。なぜそんな話になる」

「現在、エリアス皇子殿下がレースを取り仕切るようになりまして、我が家の持っていた特権は全て剥奪されています。トレセンも使えなくなりましたし、祖父はそれに抗議をして王家の反逆とされその場で殺され、罰則として厩舎が取り潰されました。そこの魔物は全て処分されました。私が牢屋から出たら、祖父から株分けしてもらった遠くにある私の牧場以外何も残ってなかったのです。……飼っているのはまだ調教もしてない牧場で放し飼いしてたキーラだけで」


「ヒヒーン(調教って何?おいしいの?)」

 どうやらのこの馬、全くわかってないようだ。

 ところで、ヒヨコの背に馬が乗るな。むしろヒヨコが乗る側だと思うのだが。そこで判明した馬の名前はキーラというらしい。

 一体、どこから<ういろー>とか<なんだったろー>とか出てきたんだろう?


「待ちたまえ。それはおかしいだろう。歴史を考えればそんな権利は皇家にだってない筈だ。今の魔物レースはどうなっているんだ?」

「それはむしろ私が聞きたいかと。少なくとも皇子殿下がトレセンの権利を有し、私はトレセンも使えません。ダービーでのマグナスの優勝も、マグナスはゴールする前に死んでいた可能性があると言い、レース協会は賭博はそのままにしましたが、記録は殿下のキメラを優勝という記録にし、賞金も入ってきませんでした」

「あの殿下(バカ)は何考えているんだ」

 町長さんは右手で頭痛を抑えるようにコメカミを抑えながら盛大に溜息を吐く。


「お、皇子様の悪口はさすがにまずいかと」

「言いたくもなるわ。はあ………こっちは貴族のバカ共のせいで進退が極まっていて、そこまではフォローできぬというのに」

「ヒューゲル様でもどうにもなりませんか?」

 お伺いするようにモンパレ兄ちゃん、たしかテオバルト君とか言ったか、が町長さんに尋ねる。


 その様子に師匠もヒヨコも首をかしげる。

 確か町長さんは男爵、男爵は貴族にとって下位に類する微妙な家のはず。

 男爵風情が皇子様に何かできるとは思えないのだが。


「ヒューゲル様は、どうにかできるのですか?」

 驚いたように師匠は町長さんを見上げる。


「陛下に謁見できるから、苦言の一つくらいはできる。陛下も愚かではないから状況を見て皇子に説教くらいはして手を引かせることはできるだろう。今はこちらが罪人に仕立て上げられそうだからな。それどころではないし、謁見も許可されぬだろう。いや、………まさか、そういうことなのか?」

 町長さんはハッとした様子でうめく。


「旦那様。そういう事とは?」

 執事さんも不思議そうに首をかしげる。全員が不思議そうにしていた。

 ヒヨコとトルテと馬君はピヨピヨきゅうきゅうヒヒーンといった感じで別に何とも思っていないが。


「侯爵らは皇子殿下と繋がっていた。今回の問題、元をただせばあの殿下(バカ)にある。商人のモーリッツの売却先を明確に調べろ。奴の帝都の家の家宅捜索はされている筈だろう。どういう結果になっている?金の動きに不自然なところはあるか?」

「基本的にはセリに出していたという話でした。ただ、家宅捜索はされておりません。ヒューゲル様の訴えた罪状とは異なる様子でした。ただ、こちらで調べた限り、ヒューゲル様の仰られる通りで不自然な金銭の流れは見られます。ヒューゲル様の詮議はそこから来ているようで」


「私の訴えた罪状と異なる?」

「はい。こちらがお聞きした内容と帝都で訴えられている内容が異なっていました」

「そこまで司法がダメになっているのか……はぁ」

 思い切り町長さんは溜息を吐いて肩を落とす。

「少々厄介になりましたね」

「侯爵の権力は侮れぬ。………首を取られるような罪を押し付けられる可能性があるからな。罰金や爵位剥奪なればこちらも喜んで差し出すが、何もしてないのに罪をかぶされるのも、それにより侯爵が喜ぶのも腸が煮えくり返る。どうしたものかな」

「裏で次期皇帝がいるとあればさらに問題が大きくなりましょう」

 執事のお爺さんは首を横に振る。


「こっちは帝位なんぞにかかわりたくないというのに、自ら近づいてくるのだから面倒だ」

「仕方ありませぬ。ご主人様は先の帝位争いの立役者でありますれば」

「今は良いがまた乱れるぞ、皇太子になろうという男が何で面倒ごとをわざわざ起こす?」

 町長さんは頭を抱えて呻く。


「他の兄姉達が総じて優秀であるからでしょう」

「優秀っていうか大半は戦闘バカの脳筋だぞ?まともなのは上の2人だけだ」

「それでも政治的に優秀かどうかなんて分かりませんよ、世間には」

「それで劣等感を持ってるという訳か。バカの中のバカだな………」

 町長さんはは呆れるように溜息を吐く。


「殿下は自身が有能であると示したかったのでしょう」

「それが魔物レースか?」

「魔物研究所からキメラ研究部を独立させ、そこでキメラを交配して魔物レースで功を上げることが自分の研究での成功と見せているようです」

「従魔士協会やIRAに圧力をかけていることを皇帝陛下は気づいているのか?」

「気付いてはいないようです。皇子殿下は口が上手いようで言質を取らせないで圧力をかけてますし、帝国の所有物を自分のものとしていいようにしておられますゆえ」

 こちらの執事さんはどうも帝都の事を色々と調べていたらしい。

 向こうの執事さん同様に有能のようだ。

「次期皇帝がそんなこそこそやって民がついてくるものか。小悪党みたいな真似をして………」

 町長さんはどこかあきれるようにぼやく。


「帝都の英雄でもどうにもならないのか…」

 テオバルト君は肩を落として溜息を吐く。

 町長さんが帝都の英雄だったとは初耳である。


「どうにもならん。それどころか今日の帝都への出頭はなぜか私が帝都に送った犯罪者が、黒幕は私だなどと口にした為、こうして仕方なくここに来る羽目になったのだ。皇帝陛下への謁見など認められようもなかろう。こちらは家を整理して残った者達に退職金やら渡して出てきているからな」

 町長さんは盛大に溜息を吐く。

 なんと町長さん、普通に出てきたようだが、実は身辺整理して町長職を辞してきたようだ。軽い雰囲気で騙されていたぞ。


「帝都の英雄なのに、そんな事が?」

「今頃、落ちた英雄などと笑っている連中がいるだろうよ。そんな肩書にもこの国にもさほど興味がないのだが。私は帝位戦が終わった後、褒美も何もいらないと言ったのに、爵位だの空いた実家の太守代行の地位などを押し付けやがって、挙句、今度は罪まで押し付けやがった。腹が立って仕方ない。今度は帝国を滅ぼしてやろうか」

 イライラした様子で町長さんはつぶやく。

 帝都を滅ぼすって……出来るのかよ!?


「冒険者時代に蓄えた金や、立ち上げた事業で未だに莫大な収益を得ている。個人所得の方が年金よりもはるかに高いのに何が悲しくて貴族として帝国に尽くす必要がある。どこか観光地にでも家を買って遊んで暮らしたいと考えていたのに台無しだ。褒美を要らぬと跳ね除けるわけにもいかぬし、周りの貴族共からは成り上がりだとやっかまれるし。今回のことを機に陛下には厳しい対応をしよう」

「お気持ちは分かりますが、町の皆様も我々も途方に暮れてしまいますのでご自重ください」

 執事が町長さんに抑えるよう諫言をする。


「問題なかろう。全員分の紹介状を書いてやるからそれをヴィンフリートのところへ持っていけ。フルシュドルフも引継ぎ済みだし、この屋敷も売ることになるだろう。帝都のクソ貴族共に目にもの見せてやる」

 ニヤリと笑う町長さんは黒幕系キャラだった。

 以前から思っていたがしたたかな感じだ。元冒険者の貴族というのはそういうものだろうか?勇者なヒヨコにはとんとわからぬ。


「ところでアインホルン殿でよいかな?魔物が必要だと聞いていたが、その子を出走させようとは思わないのか?」

 町長さんはちらりとヒヨコの背に乗るユニコーンのキーラに視線を向ける。


「キーラはまだ生まれて1年の子供です。すごく賢くて、もう人間の言葉も覚えていますし、念話スキルもレベル3まで上がっています。風の魔法も使える有望な存在ですが。ですが、レースで走れるほど強くはありません」

「魔法?魔物が?」

 町長さんは不思議そうに首を捻る。


「ユニコーンは賢く魔法を使える個体は稀にいますが、この子の親は走りは苦手だったけど賢くて魔法もできたので」

「ヒヒーン(僕賢いの~?えへへ、褒められちゃったー)」

 足元をゴリゴリしながら照れるキーラだが、その蹄はヒヨコの頭でゴリゴリされているのでやめてほしい。

 ヒヨコの柔らかヘッドが破壊されちゃう。


「きゅう(魔法なんて必要ないのよね。念話だって、アタシもレベル3なのよね、多分)」

 トルテはトルテで若干の張り合っていた。

「きゅうきゅう(まあ、念話レベル1のヒヨコが一番格下なのよね。だからみんなに踏まれてるのよね)」

「ピヨッ!」

 そんな理由でヒヨコが一番下っ端だと!?

「でも…うちのヒヨコ、念話レベルがいつの間にか2になっていたけどね」

「ピヨッ!」

 なんと、ヒヨコもついに念話レベルが2まであがってしまいましたか?


 師匠とのトレーニングの成果が!?

 師匠との…………、師匠との…………。

 師匠、ヒヨコは何も教わっていませんが!?


「そもそも何も教えていないのになぜ師匠呼ばわり?」

「ピヨッ!?」

 ヒヨコと師匠は師弟関係ですらなかったのですか!?

 ……では今日からステ公と呼ぼう。


 スパカーンッ


 ステ公の手の中に顕現した白い巨大ハリセンがヒヨコの頭を叩き揺らす。

 ぐわんぐわんして変な感じだ。

「何か言った?」

「ピヨヨ~?」

 さて、某は何か言ったでござるか?ステ公殿


 ピシャピシャピシャッピシャッ


 右から左、左から右のハリセンアタックにヒヨコは地面に崩れ落ちる。

 目が回ってピヨピヨとヒヨコがヒヨコの頭を回っている。いや、ピヨピヨ言っているのはヒヨコだった。


「きゅきゅう(そのキツネは凶悪なのよね。その前もアタシにマトンジャーキーをくれなかったりひどいのよね)」

「ヒヒーン(いじめる?いじめる?)」

「ピヨッ」

 ステちゃんのせいでキーラがおびえてしまったじゃないか。子供をおびえさせちゃいかんぞ?


「何で私が責められてるんだろう。そして何故か師匠からステちゃん呼ばわり?」

「ピヨッ」

 ヒヨコは殴っていい。だけど仔馬はだめだ。殴るならドラゴンをどうぞ。

「きゅう(さらりと売るのは卑怯なのよね)」

 ヒヨコはトルテの後ろに隠れようとし、トルテはキーラの後ろに隠れようとし、キーラはヒヨコの後ろの隠れようとし、3匹でグルグルと回り始める。最初にキーラが目を回してぐったりと座り込みヒヨコとトルテはキーラに足を引っかけてそのまま前のめりに倒れるのだった。


「何だろう、このおバカトリオ」

 ステちゃんはどこかほほえまし気にヒヨコたちを見下ろしつつも、呆れたように溜息を吐く。


「アインホルン殿、魔物レースなのですが、こちらのヒヨコを使ってみませんか?」

 町長さんがヒヨコを推薦する。

「え、ええと、その魔物ですか?確かに並みの魔物よりも頭は良さそうですけど………大丈夫かな?」

「レースに出る必要があるのだろう?」

「あるのですが、そもそも皇子殿下がどうでるか。私の出走に合わせてキメラを当ててくるかもしれません。殺されてしまう可能性も……キーラを無理に走らせられなかったのは私の手元に残された唯一のユニコーンだからですし」

「ヒヨコ君、どうだい?魔物レースに出てはどうかな?」

「ピヨ~?」

 町長さんの突然の問いに思わず訝しげな声が出てしまう。


 正直に言って気乗りしない。このヒヨコ、確かに脚力には自信がある。しかし帝都で見世物になるなど落ちぶれたつもりはないのだ。

「勝てば賞金が入る。帝都では外に出るのも一苦労だろう。狩りにいけない分、そこで稼いで食っていけばいいんじゃないかな?」

「きゅう(それは名案なのよね。ヒヨコ、アタシに食料を貢ぐのよね)」

「ピヨッ」

 何故、ヒヨコがトルテのために食事をとってくる必要があるのかは不思議だが、確かに帝都で狩りはできない。外に出るにはトルテに頭を下げねばならぬのだ。


 旅の途中で手に入れた魔物肉も数に限りがある。

 トルテは空を飛んで城壁を超えられるがヒヨコにはできないことだ。食事を得るには稼ぐ必要がある。なるほど、ヒヨコの経済活動のための職業斡旋というわけですね。

 ヒヨコは了承したとばかりにピヨリと胸を叩いてコクコク頷く。


「ええと、じゃあ、やるって事でいいのかな?」

「ピヨッ!」

 ヒヨコにおまかせあれ!


 こうして、どういう話の流れかは分からないが、ヒヨコは走る事になったのだった。

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