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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部3章 帝国首都ローゼンシュタット 走れ!ヒヨコ
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3章4話 ヒヨコは夜行性ではないらしい

 徐々にだがダンジョンの揺れが大きくなってくる。大量の魔物の足音が近づいてくる証左だ。

 気づいていなかった護衛さんも顔色が悪くなっていた。それでもギュッと剣を握って構える。彼も覚悟を決めて戦うようだ。


「ヒヨコ君は待機。私が神聖魔法LV3<聖光防御壁(プロテクション)>の魔法で魔物を足止めする。トニトルテ君は逃げてる人間が通過した後に<電撃吐息(サンダーブレス)>で一掃してほしい。取り残しをヒヨコ君とパウルにお願いできるかな?」

「はっ!」

「ピヨッ」

 剣を腰だめに構える護衛さんの横に並んでヒヨコは堂々と敵を撃つ準備をする。

 トルテはうきうきした様子でサンダーブレスの準備をしようときゅうきゅう鳴いて前の方に立つ。

 するとついに坂道の奥の曲がり角から大量の魔物を背負って走って逃げている男が見えてくる。

 助けを乞うて叫んで逃げているのは若い青年であった。第一層にこんなモンスターの群を連れ込んだらもっと不味い事になると思うのだが。


「<聖光防御壁(プロテクション)>!」

 町長さんは神聖魔法を唱えて、巨大な聖なる壁を左右に衝立てるよう展開し、坂道の回廊いっぱいにに広がって人間を追いかける魔物の群を、縦に伸ばす。

 坂道を必死になって走る若者はひいひい言いながら登ってきて、彼がトルテとすれ違うや否やトルテはアングリと口を開ける。

「きゅうううおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」


 凄まじい電撃が回廊を走り抜け魔物の群は消し炭になる。


「うわ~」

 トルテの背後にいる町長さんはトルテの背後にも<聖光防御壁(プロテクション)>を張ってヒヨコ達を守っていた。

 ヒヨコと護衛さんの出番は残念ながら存在しなかった。


 トルテの奴、なんて危なっかしいブレスを持ってるんだ。

 いや、よく考えればドラゴンのブレスとはあらゆる魔物を蹴散らす凶悪なもの。それは幼竜とて同じはず。

 実際、ヒヨコは炎熱耐性があるから事なきを得たが、地面をマグマにするような凶悪なブレスを放つ竜王と対峙できる存在なんて普通はあり得ない話だ。あれ一発で街一つが滅びるのだから。

 アレと比べれば<電撃吐息(サンダーブレス)>はまだ可愛いものだ。


 トルテは振り返ると、満足げにきゅうきゅうと鳴く。本気のブレスをぶち放ってご満悦のようだ。


「さすが竜王の娘だなぁ」

「ま、マジですか」

 思い切り顔を引きつらせている護衛さん。気持ちは分かる。

「竜王の娘といえど幼竜でこのブレスだからね。ドラゴンと戦うって事がどれほど厄介な事かわかるかい?」

「人類が滅びる時って感じですね」

「紅玉級冒険者?迷宮攻略者?彼らの前では貴族も爵位も、それこそ王侯さえもちっぽけな存在なんだ。唯一前に立てるのは勇者様くらいさ。権力者ってのはそこら辺の理解が出来ていないものが多い。女神さまの加護と、彼らが人類の生活圏に興味がないから生かされているだけなんだって事実をね」

 町長さんの言葉に護衛さんはゴクリと息をのむ。


 まあ、ヒヨコからすれば怖くはないのだけど。ヒヨコステップで電撃をかわし、この金色ドラゴンの頭に嘴を突き立てる事位、余裕だからだ。

 もしかしたらヒヨコ帝国が出来る日も近いな。

「きゅう(調子に乗るんじゃないのよね)」

 シュッと体を回転させてしっぽで攻撃してくるトルテ。ヒヨコはそれをかわしつつ嘴で応戦する。だがトルテは角で巧みに攻撃を受ける。


「何でいきなり喧嘩を始めてんすかね」

 護衛さんは不思議そうにヒヨコとトルテを見るが、町長さんは気にした様子も見せず


「ところでそこの君」

 ゼエゼエと息切れしてぐったりしている男を見下ろして声を掛ける。

「は、はい。な、なんでしょう?」

「何でしょうじゃない。モンスターパレードはダンジョンにおいては重罪だぞ。我々が対処可能なパーティだったから良かったものの、大量の死者が出る可能性だってあった。何をやっているんだ」

 町長さんは厳しい視線を青年に向ける。

「ち、ちが……違うんだ。俺は…だまされたんだ」

「騙されたぁ?」

「お、俺は帝都で従魔士をしてるんだ。魔物を手に入れるべくこの地にやって来て、冒険者を雇ったんだけど、あいつら俺を囮にして逃げやがって……」

 青年は慌てた様子で訴える。

「あー、そういう事」

 町長さんは露骨に呆れた様子で青年を見下ろしていた。

「それは冒険者ギルドに依頼を出したのか?」

「い、いや、仲介料がもったいないから、ギルドに行って直接頼んで…」

 青年はしどろもどろに話すと

「自業自得だな」

「自業自得ですね」

 ばっさりと切り捨てる元冒険者の町長さんと護衛さん。どうやらモンスターパレードの先頭を走っていた青年は自業自得という事で蹴りがついたらしい。


「きゅきゅ?(話がよく分からないのよね)」

「ピヨッ」

 つまりジゴージトクという奴なのだよ。

「きゅきゅきゅ~(よく分からないで言ってるのよね)?」

「ピヨ」

 ヒヨコはそっと目を反らす。分からなくて当然なのだ。何故なら冒険者じゃないから。


「じ、自業自得って……こっちは大金叩いて雇ったんだ!なのにこんな…。俺は魔物をテイムしないともう帝都で従魔士の資格まで取られそうだってのに!それを自業自得だなんてふざけるな!」

 青年は逆に激昂する。一応、被害者は我々なのでこれは当たり所の違う話であるような気がしなくもない。

「ピヨピヨ」

 まあ、そう熱くなるなよ、若造よ。

 人生、楽ありゃ苦もあるさ。まあ、ヒヨコは鳥生だけど、な!

「きゅきゅう(竜生は長いのよね。だから人生なんて分からないのよね)」

 尻尾を振ってペタンと座るトルテ。フワッとあくびまでして、この青年に興味はないようだ。


「冒険者なんてのは雑用や魔物退治で、日々の食い扶持を賄ってるロクでなしだろう。そんな奴らにギルドも通さず金を渡して、死んでしまっても自己責任なダンジョンに連れて行って貰う。しかも何のコネもない相手に。元冒険者の私が言うのもなんだが、自殺行為としか思えない」

「冒険者なんて半数がヤクザモノと変わらないですからね。むしろ事故でモンスターパレードを押し付けられるのは良心的ですよ。普通ならまず奥の方に潜って、直接殺されて金目の物を全て奪われて放置されるでしょうね」

「まあ、多分、深い場所に潜れない程度の低い冒険者なんだろうね。冒険者ギルドってのはこういう仕事を斡旋する事で、冒険者を監視する目になってるんだ。その監視を外して仕事をしてもらう?最も危険だという事を理解すべきだ」

 町長さんと護衛さんは青年をたたみかけるように自分がかなり危険なことをしているのだと注意する。

 なるほど、冒険者は半分アウトローみたいなものだから、ちゃんと公的なお仕事斡旋業者であるギルドを通さないと信用ならないって事なのか。


「ピヨッ」

 まあ、元気出せよ青年。今回の失敗を後に活かせばいいのさ。死んだ命を拾えたんだ。生きてるだけで儲けものと思って次は失敗しなければいいんだよ。

 ヒヨコはピヨピヨと青年の肩を叩いて慰める。

「次なんてない…。俺には次がないんだ。もう雇う金もない、もうおしまいなのに、次なんてあるものか!ううううう」

 青年は蹲って泣き出す。


 面倒くさい感じになってしまったので護衛さんは手慣れた様子で倒れているモンスターの体を開けて魔石を取り出していく。ダンジョン産の魔物には魔石が体に入っていてこれが高値で売れるらしい。

 ヒヨコから言わせると食えないのでどうでも良いのだが。


「ピヨッ」

 オレはゲシッと嘴で青年の頭を突く。青年は頭を抱えてゴロゴロと痛みで転げ悶える。

「ピヨヨッ!ピヨーッ」

 メソメソするんじゃねえ。それでも貴様はタマ持ってんのか!?生きる事さえ未熟なピヨピヨのヒヨコか!?

「い、いや、ピヨピヨのヒヨコは君では?」

「ピヨッ」

 ゲシッと再び嘴で突くと青年は額を抑えて再びゴロゴロ転がる。半泣きで痛みをこらえている様子だった。

 男が泣いて良いのは大事な人が死んだ時と嬉しい時だけだ!どんな困難でも闘うのが真の(ヒヨコ)というものだろうが!

「ええと、良いこと言ってるのは分かるんだけど、俺はヒヨコじゃないんで」

「ピヨヨッ」

 このバカちんが!

 ペシッと翼で青年の頬を叩く。残念ながら翼による攻撃は弱い。まさしくフェザータッチだからだ。

「ピヨッ」

 グダグダ言い訳をするな!男なら冒険者など雇わず、嘴一つで魔物と戦って見せろ!

「え、えー…嘴ないっす」

「ピヨ………」

 ヒヨコは相手の顔をまじまじと見る。

 うむ、確かに嘴は無い。どうやらただの人間のようだ。

「きゅう(何あほなことを言ってるのよね)」

 体を翻してトルテが尻尾でヒヨコの横っ面を叩くのだった。ヒヨコは体を切り揉みさせて地面に倒れ伏す。

「きゅうきゅうきゅう(そもそも普通の人間にうち等の話は伝わらないのよね)」

「ピヨ」

 言われて見ればどうりで話が一方通行な筈だ。

 まるで独り言を熱く語っていたみたいじゃないか。ああ、恥ずかしい。


 ピヨピヨリ。


 ヒヨコはゆっくり起き上がると、翼で顔を覆って薄く桃色に染まった顔を隠す。まあ、ヒヨコの羽毛はいつだって薄い桃色なのだけど。

「きゅうきゅう」

 腹を抱えて笑うトルテ。悔しいが甘んじて受け入れよう。


「はあ、全く…………。まあ、今回は運が良かったと思ってさっさとここから出るように。我々も帰るから付いてくる事くらいは大目に見よう」

「う、ううう、最後の賭けでこのダンジョンに来たのに何でこんな…」

「きゅう(さあ、いざ街に帰るのよね)!」

 トルテはピョインと飛んでヒヨコの背中に乗る。

「ピヨッ!」

 いざ、師匠の下に帰らん!




***




 そしてヒヨコ達はめそめそしている青年を連れてダンジョンを出て宿へと帰るのだった。


 その日の夜はごちそうだった。宿屋の馬小屋の一区画に泊めさせてもらい、そこに狩ったモンスターの肉を塩に付けて干していた。

 今後の我らの食事となるだろう。ブランブランと大量の肉が釣り下がっているのはとても爽快である。


「きゅう~~(もう食べられないのよねぇ)」

 夢の中でもごちそうを食べているらしいトルテは馬小屋の藁の中できゅうきゅうと寝息を立てて寝ていた。

 しかし、実はヒヨコは夜行性。眼が冴えてたまらないのだ。


 ………ごめんなさいヒヨコは嘘を吐きました。単にお肉の匂いに眠れないだけです。

 お腹が減ってしまうが、保存食を食う訳にも行かない。


 なので、ちょっと町の喧騒を観察しに外にお出かけしようと思います。


 馬小屋から出て歩いて行った場所は繁華街。だが、残念なことにもう夜も更けて人はいなかった。

 アレレ?

 冒険者の方々は夜中にどんちゃん騒ぎとかしないの?

 そんな夜の喧騒の中を、肩で風を切るようにヒヨコは歩きたかったのに。

 ニヒルなヒヨコ、格好いいとか思ってたのに、これじゃ真夜中を徘徊するお爺ちゃんみたいじゃないか。


 寂しいよぉ。

 ピヨピヨ。


 ヒヨコは空虚な街を歩いていると遠くの方に大きなかがり火が見える。ダンジョンにたくさんの人が入っていくのが見える。

 なるほど、夜行性だったのは冒険者の方だったのか。


 夜は何だか寝付けなかったりするもんな。分かるぞ、冒険者諸君よ。

 ヒヨコも一緒に冒険をしたいが、どうやら単独だとモンスターのように扱われてしまうので遠慮しておこう。

 残念だ。ヒヨコ伝説は未だ始まらず。


※すでに始まってます。


 ヒヨコはピヨピヨと歩いていくと路地の方に何かが蠢くのを感じる。


 すわ魔物か?


 ヒヨコは誰もいない街並みの中を歩いて路地の方へ向かい、蠢く何かをのぞき込む。


「しくしく……ううう、先祖代々受け継いできた爺ちゃんの厩舎が……」

 そんなことを口にして飲んだくれている酔っ払いがいた。今日のダンジョンでモンパレごっこをしていた青年だ。

「ピヨ」

「おお、ピンクのヒヨコか。何だ、お前まで僕を笑いに来たのか。街の衛兵に行ったらバカにされたんだ。お前と一緒にいた冒険者と同じことを言われたよ。くそう、大金をはたいて雇ったのに。何て酷い連中だ。」

「ピヨ」

 分かるぜ青年よ。まあ、世の中ってのは素直に生きちゃいかんって事だよ。目の前に獲物がいたら一気に走っちゃいかんのよ。足元に罠があったり見えない蜘蛛の巣があったり、そんな感じで捕まってピヨピヨにされちゃう可能性もある訳だ。

 生まれてうん才程度の幼竜如きにきゅうきゅう笑われた日には悲しくて夜も一人で歩きたくなるもんだ。分かるか?


「分かるか、ヒヨコー」

 青年はひしってヒヨコに抱き着く。酔っぱらっててフラフラのようだ。再び地面に腰を付けてヒヨコの背中をバシバシ叩く。

 だから、人間ども、ヒヨコの背中をバシバシ叩くな。ヒヨコのボディはやわっこいから乱暴に扱うと壊れるのだ。

「ピヨッ」

 まあ、何があったのか話してみ。ヒヨコさんが聞いてやるから。

 あと、エール一杯でグダグダに酔う程酒に弱いなら呑むのはどうかと思うぞ?


「ううう、俺はなー、由緒正しい従魔士の一族なんだよぉ。これでも従魔士貴族なんだぜ」

「ピヨピヨ」

「それがクソ皇族のせいで全部ぶち壊されたんだよ。厩舎が潰れそうになったのも全部クソ殿下のせいだ。もう終わりだ。従魔士協会落ちた、ローゼンブルク死ね!」


 何やら物騒な事を言う青年。子供が保育園に行けなかった奥さんみたいなことを言いだしたぞ?

 世俗に疎いヒヨコにはよくわからないことだらけである。

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