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18話 異世界の剣神様の剣術が酷すぎる件について

 火山の噴火口のような場所があり、龍脈の通る道に龍穴という大きな穴が開いた場所へと続く。

 龍穴から溢れるように魔力が流れており、おかしな状況になっている。差し詰め、火口から溶岩が流れるが如く、龍穴から魔力が駄々洩れ状態になっていた。

 本来、龍脈から魔力が噴き出てはいけないのでは?これでは魔力が外に垂れ流されてしまう。


 そこからとっぷりと魔力が溢れる穴の奥をのぞき込むと何かがいた。黒くて怪しげなナニカだ。

「あれは何だ?」

「双尾の大妖狐、っていう話なんだけど……。十二天将に封じられていた頃は分厚い結界に覆われて目視で見た事なかったからさぁ」

「そうね。1000年前くらいに封じて見えない結界の中に影だけがあるって感じで、目視した事は無かったわね」

 駿介が問い、陰陽お兄さんも陰陽お姉さんも黒い怪しげな何かを見て口にする。

 ヒヨコもあれはどう見てもステちゃんの友達に会えると思ってきたのに、どこからどう見てもステちゃんの友達には見えなかった。

「双尾の大妖狐?あれはどう見てもヤマタノオロチにしか見えないんだけど」

「ピヨピヨ(おいしそうなヒドラ君だな)」

「神格とか感じるか?」

「ピヨピヨ(何を言う、駿介!シカクだとかレイカクだとかサンカクだとか関係ない)」

「神格や霊格は言ったことはあるが三角なんていってないぞ?」

「ピ~ヨピヨピヨ(そこにおいしいヒドラ君がいればヒヨコはただの捕食者なのだ!ヒヨコグルメで星をつけるに値するヒドラ君に違いない。あえてつけるなら星3つ、ゴーカクだ!)」

「ヒドラ君でもねーから」

「ピヨピヨ(細かいことは気にするな。首が9つある、それだけでヒヨコは満足だ)」

「だから八岐大蛇(やまたのおろち)だってば……って、首9つ!?」

 駿介はどこか呆れた声から一転して驚いて目を剝く。


 駿介は目を細めて一つ一つ数えだしてようやく勘違いしていることに気付いたようだ。

「何で9本?」

「双尾の大妖狐はいずこに?」

「八岐大蛇でさえない?」

 首を傾げる駿介と陰陽お姉さんだった。

「僕らも伝承を聞いていただけだからね。実は双尾の大妖狐が八岐大蛇の関係者だとか、長い年月を経てその姿が八岐大蛇よりも強大になったと言われたら、そうなんだぁ、としか言いようがないんだけど」

「なるほど」

「案外、九尾の狐の伝承はここからきていたかもしれないね」

 陰陽お兄さんはどこか納得顔でぼやく。

「9本首だからきっと九尾の狐に違いない…と思いきや、実はヒドラでした~はないだろ」

「狐と蛇の違い位、分かってよ。1000年前の話じゃ真偽なんて分からないでしょうし」

 駿介と陰陽お姉さんは納得していない様子だった。

「ここはヒヨコアイで観察だ。どうだ、ヒヨコ。分かるか?あのヒドラが何者か」

「ピヨヨ~……ピヨピヨ(そうだなぁ~。………ヒドラ君は胃もたれして死んだ魚のような眼をしているように見えるぞ)」

「べつにアイツの体調を調べてねーよ!」

 ビシッと駿介はヒヨコの頭を突くのだった。酷い奴だ。

「ピヨピヨピヨピヨ!(何するんだ!ヒヨコアイでちゃんと見てやったのに、ヒヨコを突くなんて!動物愛護協会に訴えるぞ!)」

「動物が動物愛護協会に直接訴えるのを俺は見た事ねーよ!」


 そんな!?では何のための動物愛護協会だというのだ!

「あの組織は『私、動物を守ってあげて優しい』っていう自己満足を満たすための組織だから」

「ピヨピヨ(何と恐ろしいことを。そんなことを言ったら世界中の人々に非難されるぞ。ヒヨコは動物代表として、駿介を非難するぞ!)」

「へっ、家畜を黙認している時点で自己満以外の何だっていうんだか。奴隷を認めて、人権を守れっていう人間がいたらそいつはただのクソだろ?奴らのやってることって、そういう事じゃねーか」

「ピヨピヨ(だが畜産でも動物にストレスを掛けないようにしようという流れが生まれていると聞くが?)」

「逆に聞きてーが、あなたは15歳で殺して肉にします。その間までは我が牧場でぬくぬくと快適に過ごしてくださいって言われて喜ぶ奴いるの?俺なら辛くても逃げて自由を求めるね。な、自己満の世界じゃん」

「ピヨヨ~(気持ちはわかるが、駿介のひねくれ方が納得いかんぞ)」

「そんなんだから岬さんに振られてるんでしょ」

 陰陽お姉さんが呆れたようにぼやく。

「まだ振られてないよ!?」

「ピヨピヨ(今月分は振られたが、まだ来月分以降は振られてなかったな)」

 駿介は抗議するが、小学4年の12月から月一で告白しているので、割とどうでもいい話である。


「ピヨッ(来るぞ)」

「「「え?」」」

 咆哮が響き渡り龍穴から9本首のヒドラ君が魔力だまりの中から姿を現す。

 駿介は薄っぺらいお土産で買うような木刀を持ち、中段の構えで前を見据える。

 だが先に仕掛けたのはヒドラ君だった。ヒドラ君は9本首がそろって炎を吐いてくる

 3人が慌てて炎を避けるが、次々と炎を吐いてくるので皆で必死に避ける。3人とも良い動きをしている。頑張れ!と、ヒヨコは駿介の肩に乗ったまま高みの見物をしていた。

 別に駿介が焼かれてもヒヨコに炎は効かないしな。

 むしろ、駿介も一度焼かれてはどうか?


 ヒドラ君の吐いた炎は熱いためか、足元のあちこちに放たれた炎の跡がマグマ溜まりになっていた。ヒヨコはそんなマグマでもババンババンバンバンな気分で浸かれるが、どうやら人間さんには無理らしい。


「面倒クセえな~。………くたばれよ。飛天●剣流九頭●閃」

「まさかの漫画剣術!?」

 陰陽お姉さんが思わず突っ込む。

 が、駿介から繰り出されたのは9つの突きは強力な魔力の斬撃となって9つの首を吹き飛ばす。

 元気に立ち上がったヒドラ君は、駿介が蹴っ飛ばしたプレ●テのように倒れるのだった。


「ピヨヨーッ!(ヒドラくーん)」

 開いた口がふさがらないという顔で陰陽お兄さんが駿介を見る。

 どこか呆れた様子で陰陽お姉さんが駿介を半眼で見て、

「いや、気持ちはわかるけど。ああいう生き物だから」

 とため息と一緒にぼやく。

「あんな化物を一瞬で殺す神格だったなんて聞いてないよ!?」

「言ったでしょ。山を切り谷を産む斬撃を使うって。古代の神以上の権能を持っていてるだから仕方ないでしょ?」

「……あんなのに喧嘩を売るウチの陣営って」

 頭を抱える陰陽お兄さん。

「ピヨピヨ(ヒヨコがおいしく食べる算段を立てていたというのに何をするんだ、駿介!首の部分はぷりぷりしていて旨いのだぞ!)」

「どこまでも食い物としか見てないお前が異常なんだよ」

「ピヨピヨ(ヒドラ君が一生懸命、胃もたれと戦っていたのに、こうなってはお腹のナニカが出てきてしまうではないか)」

「お腹のナニカ?」


 するとグッタリとお亡くなりになっているヒドラ君だが、9つの首の根元の腹からバリバリッと獣の手が現れる。ヒドラ君の腹を引き裂き、食い破って腹の中からナニカが出て来る。そこからゆっくりと現れたのは大きな狐さんだった。

「クォオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 ヒドラ君の腹から生まれたのは二本の尾を持つ狐さんだった。

「ピヨピヨ(ヒドラ君の子供が)」

「そんなわけないでしょ!」

「母親の腹を掻っ捌いて出てくる子供がいるか!」

 はて?ヒヨコの知るゴブリンはそういう種族なのだが………?

 ヒヨコは首を傾げる。


「双尾の大妖狐!?」

「ボスキャラっぽい登場シーンだけど、八岐大蛇のお腹にいた時点でそれより弱いって事じゃないのか?」

「だけど、明らかに呪力は……さっきの八岐大蛇よりも高いぞ!」


 双尾の大妖狐はプルプルと体を振りながらゆっくりと立ち上がる。体から大量の瘴気が漏れ出す。


「クワッ」

 鳴き声と共に咆哮砲(ハウリングロア)が飛んでくる。

「オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ」

 陰陽お兄さんは素早く手で印を組み、陰陽お姉さんを抱きかかえて物凄い速度でその場から離れる。

「やるね」

 駿介は陰陽お兄さんの逃亡を半眼で見ながら、木刀を一閃して自分に飛んできた衝撃波を切り裂く。

「八岐大蛇を切って出て来るのは草薙の剣でしょ。何で妖狐が出て来るの?伝承とかちゃんと伝えてよ!」

「ピヨピヨ(ヒヨコが思うに、封印できなかったから、昔封じていた蛇神の腹の中に封じたのではないか?)」

「そういう事か……。じゃあ、八岐大蛇が9本首なのはともかく、あの狐は八岐大蛇ほどじゃねーって事だな?」

「ピヨピヨ(そう言った訳では……)」

「だったら話は早え!かっ飛ばしゃ良いんだからよ!月牙●衝!」

 駿介は両手で剣を持ち、上段から斬撃を飛ばす。ヒヨコの話を聞いてほしい。半分くらい流されてヒヨコはお冠だ。

「どこまでも漫画剣術なのね。突っ込み所は、オリジナルより強そうなんだけど」

 陰陽お姉さんは陰陽お兄さんに抱きかかえられたままぼやく。

 事実、アイテムボックス化している異界をも切り裂き妖狐に斬撃が直撃する。普通なら何もかも切り裂くだろう斬撃だった。

 だが、妖狐に斬撃がすり抜けてしまう。

「ああ!?」

 駿介は眉根をしかめて唸る。

「何だ?すり抜けたぞ」

「効かなかった?」

「無効化する能力?」

 陰陽お姉さんと陰陽お兄さんが首を傾げてぼやく。

「ピヨピヨ(アレはな………)」

「効くまで斬りゃ良いんだろ!」

 駿介はクルリと木刀の持ち手を変える。だから、ヒヨコの話を聞けっちゅうに。

「吹き飛べ!ア●ンストラッシュ!」

 駿介が独特な持ち手から横薙ぎの飛ぶ斬撃を放ち、さらに走って飛ばした斬撃に追い付いて妖狐に飛ぶ斬撃に重ねるように第二撃を放つ。

「クロース!」


 駿介が素早く走り出したので、ヒヨコはジャンプして陰陽お姉さんの頭の上に着地する。

「いや、ほんと、何で漫画剣術にこだわるの、あの人」

「ピヨヨ~(ヒヨコに聞かれても)」

 奴には努力も友情もないというのに………。

「っていうか、あんな強烈な斬撃連打されて、完全に封印していたこの大地がむき出しになっちゃったんだけど」

 陰陽お兄さんは頭を抱えて異空間だった空が切り裂かれて青い空が開かれていた。

「まずいわよ、どうするの?」

「仕方ない。オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ、オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ、オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ……」

 印を胸に当てて何かのマントラとかいう奴を陰陽お兄さんは唱え始める。

 そして陰陽お兄さんは手を叩き、この空間を包むよう魔力を五か所に飛ばす。

 五芒星の光が辺りを包み込む。

「オン・アビテヤ・マリシ・ソワカ、オン・アビテヤ・マリシ・ソワカ、オン・アビテヤ・マリシ・ソワカ………」

 陰陽お兄さんがさらに異なるマントラを唱えると世界が元に戻っていく。


「ピヨピヨ(おお、空が元の不自然な赤い空に覆われていくぞ)」

「何やったの」

「摩利支天の隠形術を応用してこの世界そのものを隠してるだけだよ。後でちゃんと封じないとダメだろう。ご老公たちは動いてくれるだろうか?」

 陰陽お兄さんはどんよりした顔で唸る。

「流石というか、器用にそういうところを見せると、後で沖田君に良いように使われるわよ…」

「ピヨピヨ(駿介ほど腹黒い奴はいないぞ?奴をお腹まっくろくろすけと呼んでも良いぞ?)」

「そんな可愛いもんじゃないけどね」

「ピヨピヨ(ちなみにヒヨコは真っ赤なピヨスケだがな!)」

 ヒヨコ達は距離を取って駿介と狐さんと戦っているのを眺めていた。


「くらってもダメージが無いの?」

「一瞬で回復しているわけでもないなら、当たってないのか無効化する力があるのか。

 大きく飛び退り、陰陽お兄さんたちの方に戻ってくる。

「くそっ!何故だ?全然効かんぞ。手ごたえもない。阿●陀流真空仏●斬りが利かなかった時点で、努力と友情と勝利な必殺技が利かないと判断したのだが」

 やはり努力もしなければ友情もない駿介では勝てないという事だな。

「誰か突っ込んでよ」

「無理無理無理無理」

 陰陽お姉さんが呆れるようにぼやき、陰陽お兄さんが首を横に振って否定する。微妙な空気になっていた。

「ピヨピヨ(違うぞ、陰陽お兄さん。無理ではなく、ここはあえて、無駄無駄無駄無駄!とお願いしたい)」

「「意味わからないんですけど」」

 陰陽師夫妻はヒヨコの突込みがお気に召さないようだ。彼らはJ●J●を知らないようだ。


「だが、スターバ●スト・スト●ームやマザ●ズ・ロ●リオも効かんのはどういう事だ!」

「ピヨピヨ(努力・友情・勝利から離れれば良いというものではないぞ?ゲームではないのだぞ、駿介!)」

「分かってるからゲームじゃないネタを使ったのに!」

 駿介よ、何でそんなに残念な技を使うのだ。それはゲームであってゲームでない世界の技だ!

「ピヨピヨ(普通にやるのが吉だぞ?)」

「つまり、初心に戻れという事か。うむ………そう、この木刀は小学生の頃に祭りのノリで買ってしまったが、ちゃんとした銘があるのだよ」

「ピヨヨ~(すっげーどうでも良い話になってないか?)」

「否、つまり初心に帰ってこの剣を振ればよいという事よ!そう、このエクスカリバーをな!」

 駿介は剣を抜くと、英語でちゃんと『EXCULIBUR』と書いてあった。


 これは誇る事ではなく、

「ピヨピヨ(駿介よ。幼き日の黒歴史を語るでない)」

 という事だと思うのだが。駿介は中二病に罹患していたことがあったのか。                                                                                                                                                                                                                                                                             


 駿介は剣を上段に抱える。

「行くぞ、エクス……カリバー!って、これじゃステイでナイトな奴じゃん。」

 駿介が飛ばす斬撃を放ち、光が双尾の狐を切り裂く。

 そんな光を放つ中、ヒヨコの脳裏によぎるのは巨大亀を運ぶドラゴンを見送るヒヨコの図を思い出す。(2部3章11話参考)

「ピヨピヨッ(夜中に取り残された嫌な夜を思い出させるでない!)」


 だが、地面を赤い空ごと切り裂き、双尾の大妖狐は威力で掻き消されてしまう。だが、傷を負った様子はなく煙の中からピンピン下姿を見せる。それどころか、狐火を操り、駿介に炎を放ってくる。


「死なぬなら死ぬまで殺そうホトトギスっていうし、ま、何とかなんだろ」

 駿介は気に入らない様子で双尾の大妖狐を半眼で睨みつつ再び切りかかりに向かう。


「何か、怪獣大戦争みたいになってるけど、僕らはどうすればいいのかな?」

「どうすべきかしらね……。私じゃあの手の相手は無理よ?」

 陰陽お兄さんは困ったようにぼやきつつもこの領域の隠形術を使い続けていたし、陰陽お姉さんは地面に降りてため息を吐く。


 ヒヨコも手持ち無沙汰になったので、気配を殺しながら魔力を薄くし抜き足差し足で出ていくナニカに会いに行こう。

 ヒヨコはそんなナニカの頭に乗ってこの隠形で隠されている龍穴から外に出るのだった。


「ピヨヨ~(こういう時はなんというべきだろうか?あれだな、ヒヨコじゃなかったら見逃しちゃうね、だな)」

 魔力を極限まで薄くしてこの場から逃げようとする何かの頭に乗ったヒヨコは、そのナニカが気付かないほど気配と魔力を消して頭の上に載って移動するのだった。


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