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17話 龍穴の秘密

「まずいことになっている」

 と言い出したのは陰陽お兄さんだった。

「まずいと言われても俺は魔法的なものはよく分かんねーから説明を求む」

「ピヨピヨ(何が拙いのかヒヨコにはわからないぞ?)

「見て分かるだろう!?龍脈に流れる呪力の乱れが激しく、異空間に隔離されている龍穴から現実世界にまであふれ出ている。11年前、東海地方でまつろわぬ神が暴れての日本の東側の龍脈をねじ曲げた事があった。そのせいで後の東日本大震災が起こったと言われている」

 陰陽お兄さんがそんなこと言うのだが、ヒヨコはそんな地震は知らぬぞ?


「地盤の問題をまつろわぬ神のせいとか言われても」

 駿介は自動車運転をしながらポツリとぼやく。

「これは事実だ。密教僧の巨大な組織があったが、彼らは己の呪力や技術を奪われてしまい、壊滅したと聞いている。彼らが組織的にバラバラになったのはその所為だからな」

「まつろわぬ神ねぇ」

「ピヨピヨ(そもそも、よく聞くがまつろわぬ神とはなんだ?)」

 ヒヨコは駿介のコメカミを突きながら訊ねる。


「単純に言えば悪い神様だな。ただ歴史で語られるのは負けた方の神様だってことは確かだ」

「ピヨピヨピヨピヨ(だが東っぽん大珍祭とやらで大変だったのだろうが、こことは関係なくないか?)」

「東日本大震災だぞ。東っぽん大珍祭って何だよ?」

 駿介が突込みお姉さんみたいなことを言い出した。

「龍脈の乱れが同様にある以上、問題が起こる可能性はある」

 陰陽お兄さんが苦しげにぼやく。

「11年前はどうだったんだよ?何が起こったんだ?」

 駿介は情報収集に余念がないようだ。

「僕らも理解できてなかった。この世界の者とは思えない神が降臨し、富士に集まった密教僧の呪術師が壊滅した。そこで謎の魔導士が現れ、その戦いに参戦して暴れていた神を追い詰め、次元のかなたに追い払ったと観測されている。我々陰陽師もまつろわぬ神を追い払った何者かを探したが、我らのネットワークには一切引っかからなかった」

「11年前、11年前ねぇ………」

「ピヨヨ~(どんな神なのだ?)」

「少なくとも世界にいる神に該当するものが無かった。あらゆる呪術を盗み奪い、世界を奪うような権能だった。駿河沖では地震が起きたし、東の方の龍穴はそのせいで呪力詰まりが起こった。7体の凶悪な眷属がいて、たった一体の眷属に東北の呪術師たちは敗北したらしい。石になってしまった者、動けなくなった者、毒素にやられた者など、多くの被害を出している」

「んんん?」

 駿介は運転をしながら眉根にしわを寄せる。

「君は知らないのか?」

「知らねーよ。11年前って俺が異世界行く前だし。ただ、思い当たるものはある」

「思い当たるもの?」

 首を傾げる陰陽お兄さんだった。

「魔法少女るしふぇる浅香の第三期が丁度その辺にあったような」

「いや、アニメの話じゃないんだけど!?」

 陰陽お兄さんが即座に突っ込んできた。

 皆、突込みが大好きだな。

「アニメの話じゃなくて、うちの学校にいるIDPK出身の女教師の過去話だけど」

「ピヨピヨ(あれか?第三期の盗神アドモスと七英雄編だな?)」

「アニメの話にしか聞こえないんだけど」

 陰陽お兄さんが目を細めて唸る。

 ヒヨコと駿介の間だけで語られるIDPKの嘱託魔導士浅香先生の小中学生時代の話は、勝手にアニメ化しているからな。あたかもアニメのように語られてしまうのだ。

「アニメ風に話すことで、IDPKの活動をそれっぽく誤魔化すと同時に……」

「誤魔化すと同時に?」

「浅香ちゃんを弄れるというネタなんだが」

 駿介がニヤリと笑い、陰陽お兄さんは頭を抱える。

「教師を弄るのはどうかと思うよ?」


「ピヨヨ~(そうか、関係ないと見せかけてヒヨコ達には因縁あるお話だったという訳だな?)」

「異世界で俺が戦った魔神がアドモスで、そいつの神格から作った魂が行き着いた果てがヒヨコだからなぁ。で、如何なの、ヒヨコ。どうにかなるのか?」

「ピヨピヨ(龍脈の事か?特に何かが起こるような状況じゃないぞ?そもそも龍脈の異変で問題が起こるなどありえないからな?逆だと思うが)」

「え?」

「地盤に問題が起こるから、龍脈が乱れるのだ。鶏が先か、卵が先かと問われたら答えよう。ヒヨコが先に違いない!」

「いやいやヒヨコじゃないだろ。ヒヨコ的には龍脈ではなく地盤が乱れるから龍脈が乱れると言いたいんだな?」

「ピヨピヨピヨピヨ(龍脈が乱れるように見えるのは、地盤に観測できない傷が入ったりしているからじゃないか?龍脈がそれによって乱れるから、あたかも龍脈の乱れで地盤が壊れるように見えると)」

「そんなまさか。では11年前の事はどうなる」

「ピヨピヨ(アドモス君が最後の眷属・悪魔王に乗り移って最終決戦を仕掛けてきた時期に、ヒヨコは前世で勇者として戦ったから、記憶がちょびっとだけ残っている。アドモス君の力なら権能以前に自分の力で地盤を崩せるしな。世界を壊さないように戦うのがみそだ。倒すのにえらく苦労した記憶が残っているぞ)」

「だよなぁ」

 ヒヨコが倒したのは最後の七英雄・悪魔王の体を乗っ取ったアドモス君だった筈。

「ピヨピヨ(世界を壊さず神を殺すという、かつて初代勇者が残した神滅斬の習得に手間取ったのだ。そういう対アドモス君用戦闘術をしっかり残してくれた初代勇者様にかん………)ピヨヨーッ!?(って、お前が初代勇者か!?)」

「感謝してもいいのだぞ、我が後輩君よ」

 ニマニマと笑いヒヨコに上から目線で話しかける初代勇者。

「ピヨピヨ(何故だろう、先輩君(ルーク)の信じた偉大な初代勇者様がこれとか泣けてくる。ヒヨコは今、鳴いていい。鳴いていいんだ)」

 ヒヨコはピヨピヨと涙を流す。

 戦神のように戦いに赴くときは初代勇者の社にて参拝する帝国民の崇めていたが、その正体がこれって何なんだよ!

 ヒヨコ達の思いを返せ!山賊皇帝や腹黒公爵さんが駿介如きに敬語とか若干納得いかなかった理由が今になって理解できた。参拝客が勝ったり負けたりするのは当然だ。だって崇めているの、駿介だもの。勝てるはずがない。


「という事は龍脈の乱れで地球規模の災害の心配はないと言えるのかな?」

「ピヨ?ピヨピヨ(地震・雷・火事・親父の類は無いと思うが、これだけ無駄な魔力が漂って瘴気化しているからな。生物が魔物化しないかが不安だな。まあ、ヒヨコの浄化魔法ならピョピョイのピョイだぞ)」


 実際、鬼君たちを外に出した時、すんごい瘴気に溢れていたから、魔法で浄化したわけだし。いちいち魔法で対処するのが面倒だから、浄化のブレスとか編み出せないだろうか?魔法は構成するのがメンドーなのだ。


「……そ、それは龍穴から溢れる瘴気を簡単に浄化できると?」

「土御門よ、突っ込み所はそこではなく、災害の中に親父を混ぜるなって話だと思うが……」

 駿介は引きつってぼやく。

 正しくは地震だけで、雷・火事・親父という災害は瘴気で普通に起こるがな。実際、ごろごろしてたし。

「ピヨピヨ(ところで龍脈に何か引っかかりがあるようでな。何か封印でもしたのか?)」

「そういえば、昔、玉藻前討伐で封じ込めたとかなんとか」

「え、玉藻前って那須に逃げたんじゃなかったっけ?九尾の狐だよな?」

「ああ、九尾になったのは江戸時代以降の創作だね」

 駿介はそれを聞くと、ガンと頭をハンドルに打ち付けてうつむく。

「知りたくなかった裏話。」

 駿介が凄くがっかりしていた。

 ヒヨコもがっかりしていた。ステちゃんの親戚かなって思っていたのに!

 それはそれとして駿介よ、うつむいていてはいかん。前を見ないと危ないぞ。


「殺生石の伝説と玉藻前の伝説が結びつけられただけだよ」

「玉藻前自体が創作じゃないの?」

「存在した記録から全て消されているからね。とある双尾の大妖狐が公家の女を食って化けたんだ。現在では藤原得子が玉藻の前のモデルとされているが実際には彼女は利用されていただけだね。玉藻の前は人間達に内乱を起こさせて妖魔によって宮廷を崩壊させようとしていた。結果的には玉藻の前は安倍晴明に正体を暴かれて逃亡した。というのが逸話で、実際にはそこで陰陽師達がとらえて京都の龍穴近くで封じられたというのが事実だね」

「大狐如きに?」

 駿介は首を傾げる。狐をなめてはいかんぞ。ステちゃんの遠い親戚だからな?

「妖魔の女王だったそうだからね」

「ピヨピヨ(妖魔の王はぬら●ひょんでは無いのか?)」

 今日のヒヨコはぬら●ひょんの孫なのだが?

「それは創作だね」

「ピヨピヨ(駿介の異世界勇者伝説もきっと創作に違いない)」

「1000年生きるエルフがいて、500年前の伝説が創作になるわけないだろ。ヒヨコ伝説の方が創作に違いない」

「ピヨヨーッ(ヒヨコをフィクションにするな!)」

 なんと酷い駿介だ。ヒヨコをフィクションにするなんてありえない事だ。


※本作品はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係ありません。


「ピヨッ!?(駿介よ。何か今、とてつもなく嫌なテロップが入ったような気がするぞ)」

「知らねーよ。そろそろつくけど大丈夫か?」

 この男、ヒヨコの尊厳と存亡にかかわる問題を軽く流しやがった!?

「瘴気がここまで漂っている。大丈夫かな?」

「流石に俺も大丈夫に見えねーよ。っていうかどこで車停めよう」

 何せ鞍馬寺や貴船神社への観光客と思しき人々が倒れているのだ。

 近くのベンチの上で倒れている人は良い。道端に倒れてしまった人は災難だ。夏休みとはいえ平日だしお盆休みでもないから観光客は少ないが、それでも大変な惨状だった。

 陰陽お兄さんはスマホでどこかに連絡を取って、この惨状の対処をさせようと要請しているようだ。スマホを切ると、

「そこの烏帽子岩の先の駐車場に車は置こう。鞍馬寺の西門がある山道を登って左手側、魔王殿の更に奥に龍穴がある」

「あいよー。何かやべーな。やべー感じなのに普通に行動している俺もやべーな」

「ピヨピヨ(レンタカーで偶々空いてたからと言って真っ赤なフェラーリを借りて、悲しくも男二人でデートしている駿介が一番やべー)」

「それ言わないで。真っ赤なフェラーリに目がくらんだだけやねん」

 高額レンタカーを借りた理由はそんなつまらない理由だった。




***




 土御門は山道を勝手知ったるといった感じで陰陽師らしい服装のままずんずん進む。駿介もそのままついていく。

 結界の前で陰陽お兄さんは足を止める。

 すると木々を見渡しながらきょろきょろと何かを探し出す。

「確かここら辺が龍穴の入り口で、解除させるための場所な筈なんだけど、確か目印が……」

「目印があるのか?」

「目印の近くに結界の入り口があるんだ。そこで呪文を唱える事で本来の姿になっている龍穴付近の姿の中に入れるんだけど。魔術師でも分からない結界があるんだよ」

「なるほど。どういうのだ?」

「木に縄が縛ってあるからすぐわかるはずなんだけど、それが見当たらなくて…」

 陰陽お兄さんに言われて駿介も何かを探し出す。

「倉橋の奴場所を分からなくする為に、目印を取ってないよな?」

「ありえる。とすると僕の記憶力任せになるんだけど、2~3度行った経験しかない僕に何を求めているんだか。他の人たちが先に見つけかねないんじゃ?」

「あるいは先に見つけて俺らに見つけられないよう捨てたとかな」

「それはまずい!」

 慌てだす陰陽お兄さんだった。


「ピヨピヨピヨ(ところで何を探しているのだ?)」

「結界の入り口の目印だよ。結界の中に龍穴があるらしいんだけど」

「ピヨヨ~(何を言っているんだ駿介よ。入り口の前で、皆でうろうろしているから何かの遊びかと思っていたぞ?入っちゃダメなのか?その目印が必要なのか?)」

「…………もしかしてヒヨコにはわかるのか?」

「ピヨピヨッ(そこにあるだろう?ほれ)」

 ヒヨコは駿介の肩から降りて、木と木の間にある空間の揺らぎのはざまに嘴を掛けてピヨッと開けると、異界の門が開くのだった。中は地獄の窯のような感じでおどろおどろしい感じである。

「分かっていたなら言えよ!」

「ピヨピヨ(そんなことを言われてもヒヨコは何を探しているのかも、何で探しているかもわからないのだから。そこに玄関があるのに、玄関の前でカギでも探しているようにしか見えないぞ?鍵なんてついてないのに何してんだ、こいつらって感じで眺めていたが。特別な何かあるのかと思うだろ?)」

「………このヒヨコ君は僕らの目とは別格なんだね。怪異を見る目を持つ僕らをも欺く仕掛けを、丸見えだから認識が違い過ぎるんだ。そもそも呪文も唱えず開けるとか見た事ないんだけど」

「多分、見えない、触れないというような結界だから開閉の呪文が必要なだろ?ヒヨコは見えるし触れるから俺らの行動が滑稽に見えるんじゃねーか」

「魔術の王、もはや魔王だね」

「ピヨヨーッ!?(ヒヨコが魔王?ついにヒヨコは勇者から忍者、探偵から怪盗、そして怪異の王や賢者のステップを踏んで……つ、ついに!魔王…………!)」

「どさくさに紛れて賢者になってんじゃねーよ。賢者の条件を満たしても女神に賢者と認められなかったくせに」

「ピヨピヨ(おのれ、駄女神さんめ。いつかヒヨコが賢い所を認めさせてやる)」

「大体、魔王って何やるんだよ」

「ピヨピヨ(これはメ●ゾーマではない。メ●だ、とかな?)」

「ついさっき横山がやってたぞ?」

「ピヨヨーッ!?」

 異世界転生者Y君と同じことをヒヨコは目指していたわけではないのに!何故、そんな事に。

 大魔王ピヨーンへの道のりは厳しい。


 ヒヨコはがっかりしながら開いた異次元の門の中に踏み入るのだった。




***




 異次元の門の奥は、森林だった世界から一転して荒廃した世界が広がり、青い空が赤い空へと変わる。火山の噴火口のような山がありその奥から魔力が垂れ流される穴があった。


「すっげ。これはさすがに俺でも見える。魔力か、あれ?」

「日本の龍脈で最もこの龍穴に力を集めている場所だ。余りに濃すぎて僕ら陰陽師の源泉ともいえる。この力の一部を水道のように引いて土御門本家に魔力を供給しているんだ。ここを弄られると、僕らの魔力は得られなくなる」

「なるほど。って山の方に何か人が争ってんだけど」

 駿介が指をさす。




 編み笠を被ったあたかも僧兵って感じの人達10人程で陰陽お姉さんと戦っている様子だった。

 まあ、ここからだと、遠くてよく見えないから、和装をしている誰かと誰かが乱闘中って感じではあるのだが、ところがどっこいヒヨコアイは陰陽お姉さんの魔力を認識していたのだ。

 そしてヒヨコイヤーは遠い場所からでも声が聞こえるのだ。鳥は耳が良いからな。


「ノウマク・サマンダ・ボダナン・ヤマヤ・ソワカ」

 僧兵さんたちの一人が何やら炎の魔法を唱えた。マントラだっけ?よく分からんが。

「急急如律令!出でよ、玄武。受け止めよ!」

 強大な炎が陰陽お姉さんに襲い掛かるがゲンブ君が前に出てきて炎を掻き消す。あれ?ゲンブ君何でそこに現れるの?


 山の上に立つ陰陽お姉さんはさながら大魔王。下から挑むような形で編み笠僧兵さんたちは勇者パーティに見える。

「くっ!?何故だ!奴らは式神が使えなくなったのではないのか!?」

「我らの物量の前に小娘一人ではあらがえんはずだ!ノウマク・サマンダ・ボダナン・ヤマヤ・ソワカ」

「「「「ノウマク・サマンダ・ボダナン・ヤマヤ・ソワカ」」」」

 編み笠僧兵さん達が何やら陰陽お姉さんを取り囲み炎を放つ。

「オン・マヤラギラン・デイ・ソワカ!」

 陰陽お姉さんが口にすると豪雨が空から降り注ぎ、大量の炎が陰陽お姉さんに届かない。

「折角だからその炎貰うわよ。五行相生、火は土を生ず。自分で管理できない炎を出すのはお勧めしないわよ、三流術師さん」

 僧兵たちの放った炎が途端に土となって落ちる。山の上に立つ陰陽お姉さんは玄武君がドッシンドッシンと暴れると、土砂崩れとなって大量の土砂が僧兵さん達に襲い掛かる。

「くっ、この程度で」

 だが大した土砂でもないので僧兵さん達はこらえるのだが

「ノウモボタヤ・ノウモタラマヤ・ノウモソウキャ・タニヤタ・ゴゴゴゴゴゴ・ノウガレイレイ・ダバレイレイ・ゴヤゴヤ・ビジヤヤビジヤヤ・トソトソ・ローロ・ヒイラメラ・チリメラ・イリミタリ・チリミタリ・イズチリミタリ・ダメ・ソダメ・トソテイ・クラベイラ・サバラ・ビバラ・イチリ・ビチリリチリ・ビチリ・ノウモソトハボタナン・ソクリキシ・クドキヤウカ・ノウモラカタン・ゴラダラ・バラシヤトニバ・サンマンテイノウ・ナシヤソニシヤソ・ノウマクハタナン・ソワカ」

 陰陽お姉さんは更に長々しい呪文を唱えて豪雨がバケツをひっくり返したような威力に変え、海の波のような勢いの水を生み出し、僧兵さんたちを土砂崩れで押し流してしまうのだった。



 駿介達が駆け足で進むと、山の下には倒れている編み笠のお兄さんや怪しげな坊さん、僧兵さん達が100人以上は倒れている姿があった。

「あれは大魔王か?」

「ピヨピヨ(ヒヨコが成れなかった大魔王に陰陽お姉さんがなっている、だと?)」

「おんみょーお姉さんって……あれ、倉橋か?」

「真奈美?」

 慌てて走り出す陰陽お兄さんにヒヨコ達もついていく。というかヒヨコは駿介の肩の上に載っているので、駿介がついて行っているだけだが。




「遅い!」

「いや、●田駅から最速最短の電車に乗って、レンタカー借りて来たんだけど」

「レンタカー借りるあたりからもたついたんでしょ。術式でレンタカーの店員をだまして、人払いで道開ければ1時間は早かったはずよ」

「えー」

 じゃ地暴虐な陰陽お姉さんに悲しげな声を上げる陰陽お兄さんだった。

「で、倉橋。お前、何やってんの?」

「何って龍穴を守ってるだけよ。式神が使えなくなったから、他の勢力から攻め込まれるのは予測していたし。こことの契約も切れちゃうだろうし、他勢力は一早く知って攻め込んできてたから。鞍馬山の僧兵ね、あれ」

「そ、そう」

 陰陽お兄さんはホッとしたような、釈然としないような顔をしていた。

「京都の陰陽師達は式神が不能になって混乱して龍穴の面倒もできない状況だし」

 呆れるように陰陽お姉さんは肩をすくめる。


「いや、知ってたけどね。真奈美が僕に守られるだけのお姫様じゃないのは………」

 一方、がっくりと肩を落とす陰陽お兄さんは小さくつぶやく。

 駿介がポンポンと肩をたたいて励ましていた。だが、駿介はどこか嬉しそうにニマニマして仲間を見る目をしていた。

 大方、駿介も一生懸命突込みお姉さんを守るように手を広げていたが、突込みお姉さん一人でどうにでも出来た感があったのだろうな。

 ヒヨコが貴様らを断じよう。無駄な努力だったな、ピヨピヨ。


「式神使えなくなったんじゃねーの?」

 駿介が問うと

「異世界で力を与えられて、精霊の気持ち一つで簡単に奪われる力だったのよ?自分の式神が霊獣を隷属させる形とはいえ、契約を切ったらあっさり使えなくなるシステムである以上、手を打つに決まってんでしょ」

 と当たり前のように陰陽お姉さんが答える。

 なるほど、陰陽お姉さんはこの状況になる前から術式の怪しさに気付いて手を打っていたという事か。異世界にいた頃から。

「ピヨピヨ(そう言えば帝都で魔法研究会に参加していた時、時空魔法に並々ならぬ興味を持っていたな。てっきり帰る為のバックアップ案の模索かと思っていたが、式神の為か?)」

「そっちの世界のアイテムボックスの魔法を応用したものが式神を封じる方法の一つだったのは、直に分かったからね。向こうで覚えて式神と交信を続けてたのよ。式神たちは時間の概念が無いからね。契約を切られても、力を貸してもらえるようにしていたのよ。式神は向こうでいえばティグリス様辺りよりも格が落ちるから、そこまで無茶難題を吹っ掛けられもしないしさ」

 苦笑気味に答える

「そんな事してたのかよ」

「案の定、使えなくなるし。大方予想はつくけど」

 陰陽お姉さんはヒヨコをちらりと見る。ヒヨコはそそくさと視線をかわす。

「ピヨヨ~(わざとじゃないのだぞ?頼まれてうっかりやってしまっただけだぞ?)」

「まあ、私の力じゃそもそもあの結界を壊せないから。ピヨちゃんが精霊や鬼神や霊獣たちを隷属されている姿を見て、助けてあげようと思う事はあり得る事だったし」

「やっぱり予測してたのか?」

 駿介は陰陽お姉さんに訊ねる。

「予測も何も、式神システムは分かってはいたけど、理屈が分かってなかったのよ。全体解明は異世界に行っても使えた事がヒントだったからね。ピヨちゃんがこのシステムを知って、隷属されている霊獣と話せば、助けたいとなるだろうと思っただけよ。このシステムがピヨちゃんから見たら、余りにも脆く、関わった瞬間、崩壊するシステムだと異世界にいた段階で察していたわ」

「そこまで……」

 呆気にとられた様子で陰陽お兄さんが言葉にする。

「私は割と丸く収めるつもりだったけど、上が勝手に強硬に動いたでしょ。陰陽師終わったって思ったわ。その子に戦闘態勢でぶつかりに行った時点で、この結末は火を見るより明らかだったわ」

「そんなヤバいの、そのヒヨコ」

 陰陽お兄さんがヒヨコを危険物のように見るのだった。

「ピヨピヨ(ヒヨコをヤバいとかいうでない。可愛いじゃないか)」

 そう、ヒヨコは可愛いだろう?シマエナガよりも。

「困った者がいたら手を差し伸べる上に、人間じゃないから相手を問わない。式神の霊獣を見たらこうなる。だから、私は式神をあの子の前で出来るだけ使わなかったし、式神たちとどうにか交信して個人としての契約を出来るように時間をかけていたわけ。私が舵取りできてたら緩やかに式神のシステムを変えられたけど、爺たちが弱いくせに調子に乗るから。」

「君がまんまと捕まるからこっちは慌てたんだ。君が人質にされてなければ、勝てない戦いをさせられていたんだからな。高位の神格持ちを倒すために君のクラスメイトを生死問わず捕まえろとか」

「それは悪かったけど岬さんが狙われているならちょうどいいと思ったのよね」

 陰陽お姉さんは呆れるように口にする。

「はぁ?百合に何かあったら問答無用でお前らの実家を皆殺しだぞ」

 駿介は剣呑な様子で陰陽お姉さんを睨む。


「それ以前に、うちの連中が岬さんを殺せるほど強くないもの。私のクラスメイトを殺せなんて言う命令を晴斗が聞きたくない時点で詰んでるのよ。岬さんを害せる可能性があるのは晴斗位だし。私が本気で殺す気になって手を余すようなクラスメイトをうちの連中がどうにか出来る訳ないでしょ。私の行っていた異世界は英霊がゴロゴロ生きていて、岬さんはそこで偉業を成して高い霊格を獲得してるからね」

「ピヨヨ~(英霊がそんなにいたのか?)」

 ヒヨコはそんな偉そうな連中は見た事ないぞ?

「称号持ちは全員英霊の霊格よ」

「あー」

 駿介は察して頭を抱える。

 ヒヨコも理解した。『剣聖』や『槍聖』といった連中どころか、大したことないただの『獣王』とか『猫姫』、『勇者』という称号持ちさえも英霊扱いだとすると、めちゃくちゃレアな『真の勇者』称号を持つ突込みお姉さんはかなり高位の生きた英霊となってしまう。

 この世界で勝つには、かなり限られた大物だったのか。

 聖鳥にして真の勇者、悪神討伐者の称号持ちであるヒヨコはさぞやレアだろう。


 ヒヨコの称号にあった迂闊者と真の愚者は何か凄い恩恵はあったのだろうか?


「結局、駆けつけるの待ってたのに、こっちで全部片付けちゃったじゃない」

「ここの襲撃も予想通りって事?」

「陰陽師が日本で強い上、外の組織に勝てたのは式神と霊脈を抑えているからでしょ。日本の支配権を手に入れるべく対抗組織が動くのも予想通りじゃない。私がいればピヨちゃんと交渉して、開放するにもタイミングを測れたのよ。能無しの爺共、あとで全部請求してやる。式神頼みの雑な政治しやがって。一生遊んで生きていける金額を請求してやる」

「お手柔らかにね」

「さて、これからその金額がどこまで吊り上げるかの戦いがまだ残ってんだけどね」

 陰陽お姉さんは自分の守っていた龍穴の方を見る。

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