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13話 陰陽師との戦い

 俺と百合は横山を置いてきたあたりに戻りながら進む。

「何なの、こいつら」

 次々と出てくる鬼や魔物に百合は辟易した様子でぼやく。

「倉橋の知り合いじゃないかな。本家に帰ることになった理由は聞いてないけど、かかわりは有りそうだな。その割には俺らの能力とか分かってないっぽいから、表面的な話はしていたけど、中身は聞かされてないのかもな」

 鬼が出てきたので斬撃を飛ばしてイチコロにする。

 百合は急いで横山たちの方へと向かっていた。

「陰陽師業界が私たちを狙ってるってことね。レイカクってのが高いから手にしようってこと?」

 百合は俺の説明を軽く省略しつつ、理解できないと言わんばかりにコテンと首傾げる。

「殺して魂を手に入れるって話だろうな。政府と繋がりが有るかは分からないけど、人を殺して罰されないのか、誤魔化せるのか、権力はありそうだな」

「分からない事だらけね。まあ、コロナのせいでインターハイがなくなったし、高校最後の大暴れに丁度良いわ」

「武闘派だなぁ」

 危険な女だと呆れてしまう。向こうの世界では弱い勇者と思って心配していたが、こっちの世界だと逆に強すぎる。思えば向こうでも真の勇者になった友人はたくさんいたが弱くたって自分の背を任せる程度には力があった。曲がりなりにもかつての仲間と同格なんだから、百合を侮る事態が間違っていた。


「剣道部の幽霊部員で先輩を鼻歌交じりで飛●御剣流を再現して先輩たちにトラウマ植え付ける馬鹿と一緒にしないで欲しいんだけど」

「俺は知能派だから。武闘派じゃないから」

 あっちの世界では知られてないけど、俺は最初から知識系スキルが振り切れている賢者だった。

 その後、魔神やその眷属と何度と戦い続けて、敗走時に殿を務めた事もあった。熾烈な戦いの末に生き残ってついたのが真の勇者の称号だ。

「知能が高い奴は勇者にならないんじゃなかったの?」

「逃れられない戦いというのはあるんだよ。神殺しをする際、あらゆる策略を練って命がけで戦わねえとならねぇ。陰陽師の奴ら、過去の資料はあっても神殺しや英雄殺しもした事ないだろ。戦い方が小物のそれだ」

「でも物量作戦は良い手かもしれないわよ?」

 疲れるまで押し切るというのは手だろう。俺が合流する前なら可能性はある。

 百合は英霊の霊格を持っていても、無尽蔵な力はない。

 だが、神格を持った俺はほぼ無尽蔵だ。俺が加われば逃げの一手をするのが正しい選択だ。しかも拠点を放り出して京都から逃げるべきだった。

 手を引いたら百合の安全だけ確認して、俺は京都に殴り込んで全滅させる。その危険性を奴らは全く考えてない。少なくとも俺の知る神なら誰もがやれる力と心がある。舐め過ぎだ。ここまで舐められていると怒りを通り越して呆れが出る。


 今度現れたのは青龍だろうか?緑色の蛇っぽい龍だ。百合に向って一直線に襲ってくるので、百合は斬撃を飛ばして一撃で倒してしまう。

「命令系統が単調なんだろ?奴ら、それなりに権力があるみたいだし、権力で押さえつけることに慣れ過ぎてるんじゃないかね?」

 俺の見解に百合は頷く。


「まあ、腕でいえば倉橋さんとじゃ話にならないかな?青龍だっけ?異世界で見たのと比べて、規模も強さも大きさも動きの自在さも全然違ったし」

「そうなのか?倉橋はお偉いさんらしいし、末端の連中とじゃ話にならないかもな。まあ、奴らも女子高生が偶然英霊になった、なんて誤解しているようじゃ話にもならないかもな。あの女神がそんなちょろいハードル立てる訳ねーし。ちょっとこっちの世界のファンタジーを買いかぶってたかも」

「まあ、魔法少女セットが強力なのもあるのかな?」

 百合は魔法少女ステッキを見る。先生から貰ったという短いステッキであるが、剣を生み出すただの柄になっていた。

 もしかしたら魔法少女コスになれるかもしれない。試してもらいたいけど口にしたらガチで殴られそうなので言わないけども。


「IDPKが百合を守るけど、直接守れないって話はこういう事だったんだな」

「先生はどこまで知ってたんだろ?」

 奴らの動きはIDPKからすれば筒抜けだった可能性があるだろう。IDPKとは神々の乱行を食い止め世界の平和と安寧の為に三千世界を股に掛けて戦う神殺し集団。トップは恐らく英雄神の類だろうことが推測される。超未来技術を持っているから、今の日本の防諜技術では何をやってもバレバレな可能性が高い。

 先生は全部知ってるのだろう。先生から聞いておいた方が俺の動きは最小に終わるし、彼らも俺の暴走を危惧する必要もなくなるだろう。だが先生とは話をしても、奴らと仲良くする予定は全くない。奴らに使われることも避けたいからだ。


 俺はスマホで横山たちへ連絡をして戻って合流することにする。




***




 横山たちと合流して、再び式神を使ったもぐら叩きゲームに没頭することになる。

 式神の出没ペースが激減した辺りで俺はヒヨコに連絡を取ろうとしていた。

「もしもーし、もしもし」

『ピヨピヨ』

「ああ、ヒヨコか。あのさ、こっち来てくれない?え?今、忙しい?いや、こっちも忙しいんだって」

『ピヨ~ピヨピヨ、ピヨヨ~』

「いや、意味わかんねーよ」

 くそう、ヒヨコめ。全く会話にならない。

 声音から嘘っぽい臭いが垂れ流されていたから、あったにしても片付いていた可能性がある。やはりプレ●テを蹴ってセーブせずに落としたのが拙かっただろうか?もしかしてまだ怒ってるのか?


「こっちも意味わかんねーよ!」

「ピヨピヨと会話成立しないで!?」

 横山と藤原さんは引きつったまま俺に訴えてくる。

「何か向こうも襲撃されたらしいんだが、よくわかんね。前門の大白虎さんモドキ、後門のタマに翻弄されているって。タマってタケシ君ちの白地に黒ぶちの猫だよな?」

「タケシ君ちのタマって………。まず突っ込み所は、40過ぎの牛島さんをタケシ君呼ばわりするな」

 頭を抱えて叫ぶ百合であるが、俺も同じ気持ちだ。

 ヒヨコの言うタケシ君ってニートからフリーター、そして今では正社員にステップアップした牛島さんちのおっさんである。タケシ君呼ばわりしているのはヒヨコだけだ。


「ヒヨコがそう言ってたから仕方ねーだろ。あー、くそっ、ヒヨコがこの手の問題に一番強いのに」

 俺は木刀を一閃して、地面から現れ始める鬼の式神を切り落とす。全部出てくる前に首が落ちて死ぬとかもぐら叩き以上にひどい感じだ。

「あの、何なの?これ」

「知らないわよ。駿介に聞いて」

 藤原は百合に訊ねて、百合は駿介をにらむ。

「どうも現実世界におけるオカルト業界は、異世界から帰って来た子供たちに注目しているらしい」

「俺らに?」

 横山が首を捻る。

「大した能力が無いから問題ないらしいんだが、向こうの世界で霊格を上げちまった俺と百合の身柄を欲しているらしい。百合を捕縛して、俺へ人質に使う程度には考えてたんだろう。で、陰陽業界が攻めてきた。」

「マジかー。陰陽業界ってもしかして倉橋の家なの?」

「さーな。でも、倉橋に電話したのにつながらねー」

「何で倉橋さんの連絡先を知ってんの?」

 百合がジトリと俺を見る。確かに俺と倉橋の間に接点はない。異世界でいろいろと話はしたけど、それだけだ。クラスも違うし。

「お前の家に貼ってあった3年1組の連絡網に書いてあったから?」

「いやいやいや、ふつう覚えないよね?」

 藤原は首を横に振る。

「横山は090-XXXX-XXXX、藤原さんは080-△△△△-△△△△でしょ?」

 二人の携帯番号を指摘する。ちなみにこの二人も特進クラスだ。

「何で知ってんの!?」

「あー、駿介、絶対記憶能力みたいのがあって、見たもの忘れないんだよね」

 百合はあっさりと暴露する。

「そう、だから藤原さんが風魔法で煽られたスカートの中のピンクの布地を80年後であっても昨日のことのように思い出せる!」

「「最低だ!」」

 百合と藤原は同時に突っ込むのだが、横山はうらやましそうに俺を見ていた。

 だが、俺は知っている。横山の視線と角度とスカートのバタつきの角度から計算して、横山も目撃していただろう事を。

「まあ、80年後は言い過ぎかな?割と頭壊れかけた事もあったから記憶が怪しくなってたしな」

「壊れかけたって?」

「魔神との戦いで死にかけたんだよ。頭蓋骨陥没して、左半身が麻痺して一時的に記憶喪失だったりしたから。マリアがいなかったら後遺症が残ったかもしれん」

「マリア?」

 3人が首を傾げる。

「向こうの世界における伝説の聖女だな。魔神はやばい奴だった。でも、楽しかったなぁ、本気で負けを覚悟する敵。今日のこれは百合が危険と言っても幾重にも保険のある状況だ。こっちのファンタジー連中は温い。魔神なら町ごと滅ぼしてから考えるような奴だったし」

「お前が非常識なのは分かった」

 横山は溜息をつく。

 非常識だったのは魔神だ。世界が壊れたり人類が絶滅してもお構いなしに攻め込んでくる奴だ。

「横山、背後にでっかい鬼が出てきたから、ファイアボールよろしく。百合、前方の虎刈っておいて」

「駿介、何かもぐら叩きになって来たよね?」

 横山はファイアボールを放ち召喚された鬼を爆散させ、百合は斬撃を飛ばして大きい白虎を刈る。


「俺と百合が合流した以上、最早、戦略の練り直しをすべきだと思うんだけどな。低能は嫌だ。きっと上から目線で自分が格上だと思ってんだろうな。ドローン抜きで召喚獣が俺や百合に狙いをつけて攻撃が始まったし、何か新しい策を練ったんだろうけど…」

 俺は自分の周りに現れる召喚獣(式神?)を飛ぶ斬撃で次々と消し飛ばしていく。

「そうなの?」

「例えば、道路の隅に不自然にいる鼠。今時、鼠なんて見かけねーから。鼠の式神を目に使ってんだろ?自分達の視覚代わりだったドローンをつぶされたから。でもさ、ドローンがなくなった後に来たから……どこから来たか見え見えだっての。やっと敵の居場所に目途がついた」

 俺は遠くに向けて次元を切り裂いて剣を振る。

 すると召喚されていた龍や鬼が一斉に霧散する。おそらくこれらの式神を使役していた男を刺して集中を乱したようだ。

 空間に突き刺した木刀を引き戻すと、俺の木刀には真っ赤な血糊がついていた。


「って、何した!?」

 慌てて訴えるのは横山だった。

「時空間を切り裂き、敵の場所に木刀を通した。足を切られて慌てているだろう。視覚の外だけど、近くにいたからな。一人倒したけど、仲間を見捨てて逃げるかな?それじゃあ、敵を見に行きますか」

 俺は東の方へと歩き出す。だが、それに呼応するよう今度は東の方から召喚獣がたくさん現れる。

「増えたんだけど」

「逃げるための時間稼ぎだ。足に剣がぶっ刺さって慌てて逃げようとしてんだぜ。横山と藤原さん、ありがとね。じゃあ、襲撃しに行きますか」

「はいはい、私も行きますよっと。じゃね、二人とも。気を付けてね」

 俺が召喚獣の群れに突っ込み、百合もそれについていく。さしずめ二人の剣士がどこかに殴り込みにでもかけるかの如くだった。


「あの二人、仲いいよな」

「異世界の騒動の時、まともに動けてたのあの二人だけだから」

「倉橋も自分サイドを止めておけよなぁ。人類が手を出していい連中じゃないって」

「同感……」

 自分たちを襲う召喚される怪しい生き物がいなくなってほっとする二人だった。




***




 俺達が切り落としていると突然式神が霧散して消えていく。

「なんか居なくなったけど、どういう事?」

「知らね。式神の紙が切れたとか?」

 道を走っていくと右足から血を流した黒服の男が足を引きずりながら慌てて車に乗ろうとしていた。5人ほどがいて慌てて逃げている様子だった。


「逃がさん!」

 俺は斬撃を飛ばすと自動車がいきなり動かなくなる。

「何したの?」

「ん?生意気にも電気自動車だったから、バッテリーからモータにつながる電気配線を切った」

「何故にそんなピンポイントに車の構造を知っているのよ」

「何故俺が知らないと思ったか?」

「どうせ、電気自動車の本でも立ち読みしたんでしょうけど」

「ご名答だ」

 俺たちが走って近寄ろうとすると5人組の一人が前に出て式を打つための紙を取り出す。

「出でよ、酒呑童子!」

 式神をこちらに投げつけるが、ひらりひらりと宙を舞って地面に落ちる。

「な、何で出ない?出でよ!青龍!」

「どういうことだ!?出てこい!白虎!」

 次々と男たちは式神を取り出して何かを叫ぶが全く機能していない様子だった。

「さっきから突然、式神が出なくなったぞ?」

 誰も彼もが式神が突然出現させられなくなって混乱していた。

 おそらく俺とは別口で何かしらエラーが出たのだろう。既にヒヨコに手を出したのであれば、あのアホが何かやった可能性が高い。しかも悪意無くやるから怖いのだ、あのヒヨコは。


「早く車を出せ!」

「だが自動車が突然………どういうことだ?」

 何度も電源のボタンを押すが全く電気がつかない。

「何なんだよ!さっきから!式神も車もつかえなくなるなんて!」

 慌てている男たちの距離を瞬時に詰めて、自動車のドアを無理やり開ける。

「逃がすかよ、三下共」

 俺が車のドアを腕力でこじ開けると男たちは悲鳴を上げる。

「ひぃいいいいいいいっ!」

「き、貴様!?い、いったい何をした!?」

 車の中に逃げ込んだ男たちは逃げることもできず俺をにらむ。だが、にらむだけで、何もできない。

「現人神だって知って攻め込んだんだろ?人類如きが理解できるかよ!俺が殺した神の方はもっと楽しませてくれたぜ!お前らは100点満点中1点も上げられねーな」

「なっ!?」

「赤点だ!出直してこい!」

 俺が男たちに剣を振るとぱたりと魂が抜けたかのように、傷も負わずにぱたりと倒れるのだった。




***




 気絶している男たちの懐から免許証などを取り出して身元を確認する。

「大友、小野、大津……陰陽師っぽい苗字だなぁ」

「陰陽師っぽいってあるの?」

 ジトリと百合は俺を見る。

「あるよ。そもそも陰陽師って昔は宮仕えだったから家柄の世界だし。記録として残ってるから、調べれば出てくる」

「なるほど」

「そしてフィクションでも陰陽師を扱うラノベが有れば、その手の苗字がチラホラと」

「結局あんたはそういう男よね」

 百合は呆れた様子で溜息を吐くのだった。

「別に俺は漫画とラノベとアニメで全てを知っている訳じゃないやい」

「はいはい。で、こいつらどうすんの?倒せば終わりってわけじゃないでしょ?ラスボスに辿り着くまでの途中よね?」

 車の中で倒れている男たちを眺めつつ、百合は呆れるようにぼやく。

「偉そうな奴がいれば良かったんだけどなぁ。一時的にこっちへの襲撃を止めたら、ヒヨコと京都まで行って壊滅させる予定だったんだよ。家族とか人質に取られるのが厄介だったからさ」

「何故ヒヨコと?」

 首を傾げる百合に俺は肩をすくめる。

「魔力感知とかその手の技術にたけてるから速やかに敵の場所を知り、壊滅できるだろうな、と。そもそもあいつ、すでに京都にいる連中に目星つけてるし。ほら、倉橋が本家の方に帰ったって言ってたろ?近くに力の強い連中に目星つけてるから、アイツは」

「……あんたもそうだけど、ヒヨコもあれよね。無駄にスペックが高いわよね」

「無駄とか言うなよ」

 何でこんな扱いをされねばならぬだろうか?めっちゃ役に立ってるだろ?

「あんたらは共通して、世界最高のスパコンを利用してるのに、そのパソコンでやってるのはソリティアだけっていうレベルで、スペックの無駄遣いでしょ」

「うっ」

 意外にも図星なことを言ってきた。そう、俺の能力はくだらないことに全振りしているのだ。やろうと思えばスポーツでも学術分野でも活躍できるだろう。だが、そんなことは絶対にしない。

 ヒヨコも俺もその点は間違ってないから言い返す事もできなかった。


「おっと、開いた開いた」

「他人のスマホを勝手に解除しないの」

「俺に喧嘩を売って勝てると思っている連中の無能さを知らしめてやらんとな。鬼頭らを相手にしたとき、両親が病院送りされたんだ。今度の奴らは墓送りしかねねえし。ヒヨコがいるから大丈夫だとは思っていてもそこまで許してやる予定はないぜ。むしろ、ヒヨコがいるから相手に対していつでも殺せるってのを刻み込むことも可能だってことだ」

 ククククと俺は笑うのだが、百合は呆れたような視線を向けてくる。

「精々、ソリティア程度の事で終わらせておきなさいよ」

 あまりやり過ぎるなっていう百合の突込みは胸に痛い所である。


 俺は倒れている男のスマホをブロックから解除して連絡先を調べる。

「あったあった。土御門……晴斗君ね」

「知ってんの?」

「4月ごろに倉橋と浜松の方に来てたから」

 俺は自分のスマホと、奪ったスマホをケーブルで繋げる。

「何すんの?」

「どこにいるのか逆探知する。ここの視界に入らない場所にいるはずだ。この手の連中ってのは命令する奴らは絶対に接触可能な場所にはいない。だが、絶対に駆けつけられる場所にいるはずだ。高度な術式を使って魂を式神にするはずだから、それをする人間は必ず来てるはずだ」

「なるほど。接触可能な場所にはいないってのはどういう事?」

「魔法の世界って、見るってのは見られるって事らしいからな。」

「なるほど」

 説明しながら電話を掛ける。

 するとワンコールで電話がつながる。


『大津、どうした?作戦は……いかん、電話を切れ!』

 土御門と思しき男が電話に出たが、途中で近くにいた男に電話を切られてしまう。


「あらら、気づかれちゃった。他にもいるのかな?後ろからの声で電話を切られたみたいだし」

「逆探知なんてできるの?」

「デジタル時代は通話記録が残るからな。基地局が分かるし、強制的に相手の携帯のGPSを突き止めるアプリを自作したから……。おっと、駅前のホテル、すぐ目と鼻の先だ」

「さっさと片付けるわよ」

「あいよ~」

 俺と百合は走って駅前へと向かう。1分ほど走って向かうと、バタバタバタと轟音が響き渡る。


 ホテルの屋上を見るとヘリコプターが飛び立つ姿が見える。

「あちゃぁ。逃げやがったか」

「ん?あれが例の陰陽師?」

「そう、それ………ってぇ!?」

 俺がうなずいていると百合が魔法少女ステッキから光の刃を出して横薙ぎに一閃する。

 斬撃が撃ち出され、ヘリコプターの回転翼を切り飛ばす。


「百合、こっち来い」

「?」

 俺は百合の手を取ると抱きしめるように自分に引き寄せる。切り飛ばした回転翼が空を舞い、微妙なカーブを描きつつ百合の立っていた場所に落ちてアスファルトに叩く。回転翼は破損して地面を滑って近くの家に突き刺さるのだった。

「あっぶな」

「自分の方に飛んでくるタイミングで切るなよ」

「分かるわけないでしょ!?」

 そういえばそんなことが見て計算できるの奴はそんなにいないか。


「陰陽師ってのは思ったより面白いな。あれは何だろう?式神でもないけど、切り落とされたヘリの本体がゆっくり地面に落ちて行っているんだけど。真っ逆さまに落ちて爆破炎上すると思ってたのに」

「どうにかすんじゃないの?爆破炎上しないでしょ」

「するだろ、普通に」

「……危うく殺人の咎を負う所だったわ」

「いや、お前異世界でかなり咎を負ってるじゃねーか」

「まあ、そうだけどさ」

 聞いた限りじゃ、かなり殺している。自分の同格以上の相手を何人も。出なければ真の勇者になれるはずもない。

「地球であっても、違う理に生きている連中相手に、普通の感覚で対峙するつもりはねーよ。俺は相手の領域で暴れるからな」

「あー」

 百合は呆れたように俺を見ていた。恐らく2年前の暴力団皆殺し事件を思い出したのだろう。

「倉橋さんの知り合いって言われると……」

「聞いた限りだと倉橋はあっちの世界に染まり切ってないみたいだからな。だが、襲撃してきている連中は染まってるぜ。横山や藤原だったが、結界の外に出た一般人を普通に殺しに来てたし。甘い事考えるとヒヨコの世話になるぞ?」

「そ、それは考えたくないわね」

 ヒヨコの世話、つまりフェニックスの羽を使ってもらう羽目になるという事だ。


「仕留めに行くぞ」

 俺は地面にゆっくり落ちようとしているヘリコプターの方へと向かう。百合は溜息をついて一緒についてくるのだった。

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