8話 狙われる英霊と神霊
ヒヨコの色は? 何色ですか?
もういっそ 齧られたままで 鳥かごから 逃げ出すほど
強くないよ ピヨ
2020年夏、ヒヨコには、絶望的なまでに強力なライバルがいた。
奴の名前はタマ、ご近所に住むたけしくんちの愛猫(雄)である。奴はヒヨコを追いかけては爪で攻撃を仕掛けたり齧ったりするのだ。
ニャーと鳴く黒ぶちの白猫だ。
また 躓いて 転がって それでも挫けない。
ヒヨコの色は 何色ですか
ヒヨコの中でタマに襲われるととあるアニソンがヒヨコの心の中で流れ出すのだ。
何のアニソンかは秘密だ!
最近のヒヨコの外出は駿介の肩に乗ることが多い。道路を歩くとホワイトデビルがヒヨコを襲うからだ。
閑話休題。駿介達が高校最後の夏休みに入った昨今、ヒヨコは駿介と一緒にエセ忍者君の家にやって来ていた。
「ピヨピヨ」
「まあ、そうだよな」
「ピヨヨ~」
「そう言ってやるな。所詮はエセ忍者だからな」
「ピヨピヨ」
ヒヨコと駿介はガッカリしていた。それはもうガッカリだ。
「何で人の家に上がり込んだ早々にガッカリしてるでござるか!?っていうか、念話使わないで会話を成立させないで欲しいでござる」
エセ忍者君はヒヨコ達に文句を言うが、彼奴にヒヨコ達のガッカリ具合を理解できまい。
ヒヨコ達はドキドキのワックワクでエセ忍者君の家にやって来たのだ。それが何だ!?
行ってみたのは普通の今時の家である。3階建ての3LDKである。1階が物置兼車庫になっていて玄関と階段があるだけ。2階にLDKと両親の寝室があり3階には子供部屋が二つあるだけ。めっちゃつまらん家であった。
「ピーヨピヨピヨ!ピーヨピヨピヨ!」
「ヒヨコが怒ってるぞ。折角、忍者の家なんだから日本家屋の忍者屋敷を待ちわびていたのに、行ってみたらただの家だったなんて。俺も同感だ」
「そう言われても困るでござるが」
エセ忍者君は半年でほとんど元の体形に戻っていた。
折角、イケメンにしてやったというのにガッカリだ。イケメン化したエセ忍者君にキュンと来てしまった女生徒達からも非常にガッカリな目で見られているのをヒヨコは知っている。
「あらあらいらっしゃい。大輔が友達を読んで来るなんて珍しいから嬉しいわ。ゆっくりして行ってね」
いつの間にか部屋にやってきたエセ忍者君のお母さんがヒヨコ達にジュースを運んで持って来ていた。駿介がぽかんとしていた。ヒヨコもだ。
そうだ、部屋の入り口から入って来ただろうか?パタンとかガタンとか音がしなかった。
2人分のコップとヒヨコ用の小皿を置くと、ごゆっくり~と言って去っていく。
パタンと音がして消えてしまう。
「え?」
「ピヨヨ?」
入り口のドアは動いていなかったのにお母さんが消えてしまった。パタンとドアじゃない場所から消えたのだ。
「……普通の家と見せかけての忍者屋敷か!?」
駿介とヒヨコは壁や床を調べるがおかしい所は無かった。
今のはなんぞ?
「いやいや、そんな事ないでござるよ。そもそも三雲家に嫁入りしているお母さんは一般人の筈でござるし」
「えー……、一瞬瞬きした瞬間に消えてたんだが……。忍者なのは父親とお前だけなんだよな?」
「そうでござる。母と妹は父さんが忍者なのは知っていても無関係でござる」
「そうか。それなら……勘違いだったかな?ちなみにお母さんの旧姓は?まさか服部とか言わないだろ?」
「そうだったら面白いでござるがな。残念ながら忍者とは関係ない、川村でござる」
「……それ、服部系の苗字だからな。江戸御庭番で有名な苗字だ」
「ピヨピヨ」
ヒヨコは呆れるように溜息を吐く。よく分からんがエセ忍者君のお母さんは忍者疑惑があるらしい。
「で、川村だか四乃森だかは置いておいて、俺が聞きたいのはヒヨコが情報を取って来たんだけどさ、魔術協会、密教僧集団、陰陽師が百合の身柄を狙っているそうなんだけど何か情報とか持ってない?」
それよりも誰も四乃森だなんて言って無いぞ?それはどこの小太刀二刀流の達人だ?
だが、そうか。お庭番疑惑という事は転生前の師匠と同じ側にいた疑惑があるという事か!師匠は転生前、幕末の京都で薩長の浪人たちを取り締まり、最後は肺を患って亡くなったという。先祖がもしかしたら知り合いとか胸熱だな。
「魔術でござるか。実は拙者、全く知らなかったのだけど、父上は魔法の事を知っていたでござる」
「そうなの?」
「かなり厄介な連中で子供の拙者には教えられなかったそうでござる。異世界に行って魔法を知ったから、教わったでござる」
「お、じゃあ、情報もある?」
「少しでござるが。さっき言った密教僧集団は組織によってバラバラだから、拠点らしい拠点がなく不明でござる。逆に言えば計画的に物事を組織的に行えないでござるな。厄介なのは陰陽師と魔術師協会だと思われるでござる」
「陰陽師?」
「五大老という偉そうな連中に支配されているそうでござるなぁ。倉橋殿、五大老の土御門家の直系が婚約者だとか。下賎の身が次期当主の婚約者となり陰陽界のシンデレラなのだとか。意外にもかなり立場が高いらしいと聞いてござる」
エセ忍者君は陰陽お姉さんの情報を取っていたらしい。聞けば異世界でも先手を取られて慌てたとも言っていたし、曲者度合いは陰陽お姉さんの方が上だったのだろう。
忍者が陰陽師に先手を取られるとか(笑)
「ピヨピヨ」
「倉橋の魔力の使い方はかなり高かったって?」
「ピヨ~」
「本人が向こうの魔法を覚えようとしてたならレベル9クラスの魔法をいくらでも使えたって?そんな凄いの、倉橋って」
「ピーヨピヨピヨ」
「なるほど、魔法形態の違いで小規模で低質な魔術式しか知らなかっただけ。向こうで覚えていれば大魔法も使えた筈と。それってどう言う意味だ?」
「ピヨピヨ」
「なるほど、こっちの世界は魔力を竜脈から貰って濃くて粘り強いモノを使う。異世界は誰でもどこでも薄くてサラサラなモノを使う。異世界では操作をするのが容易だが、こっちでは魔力を力づくで動かすから向き不向きが違うという事か」
「ピヨ!」
「よく分からんでござるよ。っていうか、駿介殿のピヨちゃん語の読解力の方が恐ろしいでござるがな。」
ヒヨコの言葉を聞いて駿介は納得するが、エセ忍者君は首を傾げる。
「異世界の魔力をアルコールだとすると、地球の魔力は粘土だとヒヨコは言っていた」
「やけに違う例えでござるな」
「異世界の魔力はサラサラで書きやすいけど術式を書いている内に霧散する。地球の魔力は霧散しないけど重いし引っ張って形を作るにも力を使う。早く要領よく形を作る上手さと、ゆっくりコネコネして形を作るんじゃ技術が違うらしい。」
「なるほど。同じ魔力を使うにしても競技が違うくらい違うのであれば仕方ないでござるな。とすると地球で魔法を使うのって凄く難しいでござるか?」
「ピヨヨ~」
「だろうな。向こうでは少ないけど女神の補助があったし凄い魔法が使えたのも効率が良い形に出来たからだ。地球ではそれが出来ないから厳しいだろうな。」
「ピヨピヨ」
「ルシフェルあさかくらいの技術を持つ人間はこの地球にいないかもしれない」
「あさかちゃんを落ちにするのは酷いでござるが……。陰陽師界隈の話に戻すと、倉橋殿は分家から消えて一般家庭に落ちた家から次期当主に次ぐ魔法資質を持って生まれたそうでござる」
「倉橋がねぇ。百合の敵になりうるのかな?」
「ならないと思うでござる。百合殿を敵に回すような愚かはしないし、駿介殿の敵になんてなるくらいなら味方と戦った方がましだと思うでござるよ。彼女、陰陽師だけど、陰陽師側の人間とは言い切れないでござる。それに、事情は違えど異世界で能力は把握してるでござるからな」
ヒヨコもその辺は同感だった。
「ま、そうなるだろうな」
「ただ、身分的な立場が弱いから、本家に逆らえない可能性はあるでござろう。できれば敵対しても彼女を助けてやってほしいでござる。クラスメイトとしてでござるが」
エセ忍者君がそんな事を言う。
「ピーヨピヨピヨ」
「ヒヨコ、恐ろしい子!」
駿介はヒヨコの言葉に戦慄した。
「だから二人で何話しているか分からないのに分かり合わないで欲しいでござる!ピヨ殿が恐ろしいって何でござるか!?」
「まあ、ヒヨコの特性を知っていたなら、その位出来て当然って言えば当然だったよな。まさか既に陰陽師達の本拠をロックオン済みだとは……」
「あー。魔力感知で倉橋殿を追っていたでござるな……。既に生殺与奪を握る所が鬼畜でござるが……そんな小さい姿で問題ないでござるか?」
「ピヨヨ~」
「ヒヨコに掛かれば大きさに関係なく京都の市街地に1メガトンの核融合爆発を起こせるって、それはもう京都が跡形もなく残らねーから辞めろよ?」
「ピヨヨ~」
「今のは拙者でも分かったでござるよ、駿介殿!駄目でござるぞ、やったら駄目でござる。ピヨ殿、これはマジで止めているのであって振りではないでござるからな!」
「言えば言う程、ネタ振りにしか見えなくなるからな?」
駿介はどうやらヒヨコの事をよく分かっているらしい。
「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ」
「そんな、ここに来てヒヨコのくせに『祇園精舎の鐘の声』とか言い出すな!いつかは奴らも滅びると言って、現在の京都を滅ぼそうとするな!」
「ピヨヨ~」
魔術師の話はどうなのだろうか?
「魔術師はもっとヤバいでござるぞ?英霊には神霊を、神には神殺しをぶつけてくる可能性があるでござる」
「そういう正面から来るなら別に怖くもないんだけどな。俺もヒヨコもこの世界で手に負えない神を異世界で叩き殺してるからな?英霊?高位の神が勇者と認めた、生き汚い生存能力に優れた勇者がそう簡単に死ぬかよ。それに……」
「それに?」
「どうも情報を聞くにヒヨコの事が見えてないそうだ。魔力隠蔽が効いているんだろう。裏を突かれそうならヒヨコを暫く百合に預ければ何の問題もないし」
最終兵器にして最終防衛ラインピヨちゃんと呼んでも良いぞ?タマがヒヨコを襲わねば何も怖いものはない!
それはそれとして、駿介は更にエセ忍者君から取れるだけ情報を抜いて去るのだった。
***
土御門晴斗は五大老に呼ばれて京都市中にある暗い部屋へやって来ていた。
晴斗は陰陽師としての正装をして5つの台座に跪く。5つの台座にはそれぞれ御簾によって中が見えなくなっている。
その内の一人が自身の祖父である御簾の奥にはそれぞれ5人の陰陽師達が座っていた。
「晴斗よ。面を上げよ」
「そなたにやってもらう事がある」
「お主も今年で二十歳。そろそろ陰陽師としての仕事をしてもらわねばならぬ」
「我ら陰陽師協会はこの日ノ本の怪異を治め、使い、そして使役する」
「お主にはとある二人の人間を始末し、式にしてきてもらいたい」
五大老達が語り、
「人間を!?……それは殺せという事でしょうか?」
晴斗は声を震わせて訊ねる。
「魂を縛らねばならぬのだ。当然であろう?」
「しかし、どこの誰を?」
「話は聞いているだろう?静岡県のチェンジリング事件の事を」
「はい。真奈美も巻き込まれていますから。こちらでも調べて、事件概要は把握しています。」
異世界に転移した少年少女達の一部は記憶があり、魔法の記憶を持ち帰っている。その中には高い能力を得て帰って来たものもいたらしい。
真奈美の能力が上がっていたのもある。そういう世界だったらしい。地球に生まれた人類では理解できない程の偉大な女神の恩恵によって導かれた力だった。
「その中に英霊化した少女がいた。そのチェンジリング事件の別口で戻ってきた人間が現人神になっていた」
「英霊化?」
一人は神化していたのは知っていた。IDPKにいたという教師が彼らを守っていたことは分かっている。あれは自分の使う式神の元になっている神霊をはるかに超える力が感じられた。
「一人の学生が英霊化をしていた。名前は岬百合、神化した沖田駿介の隣の家に住んでいる。この二人の魂を縛り式神化せよ」
「……以前、現人神には会っていますが手に負える代物ではありません。敵意が無い温厚な人であっても二度と会いたくないと思うほど莫大な力の集合体だった」
「それをどうにかするのが我らの仕事よ。正面から神や英霊に勝てる人間がいるものか」
「………陰陽師のあらゆる式を極めている身としては、己の使う式がどんな状況でも勝てる未来が見えません」
「頭を使うのだ。………婚約者を失いたくは無かろう?」
「はぁ?」
「倉橋の小娘は我らの手にある。英霊や神を手に入れる事と比べれば、あの娘の命など些細なものだ」
五大老の一人の言葉に晴斗は反論する。
「ふざけないでください!彼女は才能が有り力がある。陰陽界において…」
「だが、想定外。イレギュラーな存在だ。生まれない予定だった者が早く死んだ。それだけの事であろう?だが神と英霊の存在を得られれば陰陽界において、これ以後の陰陽界全体にさえ寄与する。故に神と英霊、二つの命を手に入れるのだ」
陰陽師にとって新たな式神の獲得は全陰陽師の寄与する。
だが、真奈美から生まれた子供が優秀であったとしても、一部の家が繁栄するだけだ。
「……断れないという事ですか」
「大事なものを失ないたくなければ、やるしかないと知れ」
晴斗も真奈美とはそれなりに距離を取っていた。仕方なく婚約者になった相手という態を取っていた積りだったが、彼らを誤魔化しきれなかったと気づかされる。
「分かりました」
頭を垂れて恭順を示す晴斗だった。
御簾の奥で満足そうにうなずく五大老達がその場を去り晴斗が残される。
「くそっ……厄介な事になった。真奈美………」
頭を抱えて項垂れるのだった。
ピヨ「魂の色は 何色ですか?ヒヨコの魂の色が駿介と被っているだと!?余計な事を聞くでない。ピヨピヨ、さあ今日のあとがきが始まったぞ?」
女神「あとがき担当の女神です。ちなみにヒヨコの色は羽毛の色がGM34で、頭頂の羽毛がGM35ですね」
ピヨ「一体、何のコードを言っているんだ?」
女神「え?ガ●ダムマーカーのコード名ですが」
ピヨ「ピヨヨーッ!ついにヒヨコの色が公式でシ●アピンクとシ●アレッドに!?」
女神「つまりシ●ア専用ピヨという訳ですね?」
ピヨ「何故だろう、あまり嬉しくない」
女神「ちなみにシャア専用カラーが何でこの色なのか?アニメの色塗りをする際に余っていたからだそうです。つまり余りモノカラー」
ピヨ「ピヨヨーッ知りたくなかった真実」
女神「安心してください、ピヨちゃん」
ピヨ「安心要素はあるのか?」
女神「ピヨちゃんのボディカラーは最初から決まっているのです。カラーヒヨコでググって、目に痛くないピンクのヒヨコと」
ピヨ「おおっ!?そうか、ヒヨコは最初からそう言う設定だったな!よしググってみよう。目に優しいピンクの色のカラーヒヨコはどこかな?お、これなんかいい感じじゃね?」
女神「そうですね。………ん?」
ピヨ「何か問題が?」
女神「いえ、問題というか、このピンクの色って……」
ピヨ「ピヨッ!?」
女神「並べてみたら、どこからどう見てもGM34なんですけど」
ピヨ「ピヨヨーッ!?」
女神「という事で今回のあとがきはこれまで。それでは皆さんまたお会いしましょう」