5話 駿介の過去
沖田駿介はありていに言えば生まれつきの天才だった。
幼児の頃は何で何でと大人に質問する子供だったが、3つの頃には大人達が困るのだと学び、文字の読み書きができるようになって自分で調べるようになった。辞書や百科事典に乗ってない事もインターネットを駆使して調べられるので、良い時代に生まれたと言えるだろう。
一番苦手だったのは隣の家の女の子だ。
岬百合、彼女は全く論理的でなく気に入らなければ暴力で訴えて来る。幼児ではあったが、駿介は節度を身に着け、処世術を学んだ。
駿介が幼稚園に入る頃、駿介は自分が特別な子供だという事に気付くのは早かった。それは大人達よりもはるかに優れた知能を持っていたからだ。
暴力的な幼いお隣さんの暴力から避けるべく、ネットで格闘技を学んでみたが、自分が思ったように体が動くことが分かった。幼稚園ではかけっこで最も速く走り、何をしても一番だった。
だが、幼い女の子を泣かせると大人にこっぴどく怒られるので、やっぱり隣に住む女の子が苦手だった。
駿介は自分の才能に決して慢心はしなかった。井の中の蛙という言葉の意味を知る程度には知能が発達した幼児だった。だから、サッカーをすれば幼稚園児達をきりきり舞いにした所で誇る事はなかった。
しかしいよいよ自分の異常さに気付いたのは小学1年生の頃、父親がバッティングセンターに連れて行ってくれた事で気付かされた。
時速145キロのボールが飛ぶというバッティングセンターで剛球が放り投げられるが、簡単にボールをバットで捉えられたからだ。次に打ったボールをコントロールしようとホームランゾーンの的に当てようと思えばそれも物理演算により頭で計算すれば簡単に撃ち返して狙った場所に当てる事が出来た。
ボールが投げられた瞬間に勢いと回転を見極め、的確な角度と速度とタイミングでバットを振れば全て狙った場所にボールが飛ぶのだ。
父は手放しに喜んでくれた。ネットや百科事典で調べものばかりするよりは活動的でいいと思ったのだろう。
だが、駿介はあまりにイージーすぎて運動にはのめり込まなかったし、リトルリーグやサッカークラブには入ろうと思わなかった。
小学に入ってから隣人はあまり暴力を振るわなくなった。
彼女は剣道を始めたらしい。余りに暴力的な娘に大人しくさせようと精神修養の為という事で近隣の剣道道場に入れられたらしい。痛い思いをしなくて済むと内心喜んだが、少しだけ寂しいと感じた。
駿介が色んなものに冷めてきたのは小学1年生の7月頃だった。
テストをすれば100点が当たり前、運動をすれば何でも1番で、そして努力というものをした事さえなかった。教師たちは天才だと褒め称えた。スポーツテストで小さい体ながら中学生の記録を軽々と超え、IQ試験では200を越えていた。
だが徐々に駿介も自分の異常さがおかしいと思っていたものの、それ以上に周りが気付き始めた。最初に気付いたのは教師だった。教える必要のない生徒に、何を教えればいいか分からないのだ。
何をやっても出来るクラスメイトに同級生は畏怖を感じ始めていた。
サッカーボールを持って男子を引き連れてやってきたのは隣の家の少女だ。
「勝負よ!駿介!」
「えー、どうせ俺が勝つんだから必要ないでしょ?」
「あんたが勝つって誰が決めたのよ!勝負は水物よ、道場の師範代だって偶には先輩に負ける事があるんだから!」
暴力以外で勝とうと躍起になる隣人は何度も自分に絡んで来るが、大体軽くあしらわれる事ばかりだった。
「今度こそは私が勝つんだから!」
と半泣きで逃げていくのだった。
「勝てないって学ばないのかな?」
小学生だった駿介は容赦がなかった。サッカーをすればたった一人でドリブルしてキーパーも抜き去ってゴールにシュートを蹴る簡単な作業だ。それで10点以上差をつけて勝利する。
野球をすれば全てホームランだったが、投手はキャッチャーが取れない場合があるので非常に難しいがそれでも負ける事はなかった。
そもそも、こういった事さえ、子供のレベルに収まるように手加減をしていた。小学1年生で50メートル走を適当に走っても7秒台で走ってクラスで一番早いのだ。そんな駿介がもしも本気を出して本気のタイムを叩きだした場合、周りを引かせることを極端に恐れていた。
暇さえあればインターネットをやり、WEB小説サイトを読んだりして、嵌ったのは異世界転生した主人公たちが活躍する物語だった。
「チートなんていらないから、異世界に行けば僕も普通の子供になれるのかな」
それでも駿介は日常に溶け込もうとする努力をしていた。自分が簡単だと思っている事が他人には困難だったりする為、素でおかしな数字を叩きだしてしまう事もあるが、そこそこ凄いレベルに調整して生きていた。
そんな人外として生まれてしまった駿介にとって両親はありがたかった。普通の子供のように接してくれる両親には感謝しかなかった。幼児の頃は自分の問いに必死に答えようと調べて教えてくれたりもしていた。世の中には奇妙な子供だと迫害に会う例もあるというのに。
だが両親はこんな問題児の親であろうと努力してくれたからだ。
そして度々突っかかって来る百合がギリギリ自分も皆と同じ人間である事を思い出させてくれる。
皆が自分に負ける度に異様さを感じ、遠巻きになって近付かなくなるが、百合だけが自分に負ければ死ぬほど悔しがるのだ。そして今度は勝とうと必死に努力する。手加減すると逆に怒るのだ。
誰もが自分に対して勝利を最初からあきらめるが、百合は決してひこうとしなかった。自分を唯一対等の人間として扱ってくれる隣人に感謝を感じ始めたのは小学中学年の頃で、大事な女の子だと認識し始めた。
小学高学年になる頃、駿介はある程度世間を知り、世間に合わせる事に成功させていた。
投稿小説で『ネタ』が出れば元ネタを調査したりするうちにあらゆるアニメをネットで調べて動画サイトで閲覧し、気付けば立派なオタクになっていた。
体育でも本気でやる事を辞めて、アニメや漫画の技を模倣して笑いを取る事に終始し、テストの点数は正解と不正解をコントロールして自分で狙った点数をピッタリ出すというゲームを始めた。
岬も自分に張り合う事を辞めて一緒に遊ぶ事も多くなったのは共通の敵を持つことが多くなったからだ。相棒と呼ぶ程度に仲良くなっていた。
中学に入って友人が出来た。
顔が良く、成績も優秀で、運動神経抜群。正義感が強く、よく誰かの為に駆け回っていて女子にちやほやされている男だった。何というか投稿小説によくある踏み台系ポンコツ勇者のような友人だ。
そして割とやらかしが多く、その尻拭いに百合の友達である鈴木智子さんがぺこぺこと頭を下げながら周りのフォローをしている。彼女はポンコツ勇者の幼馴染であるが、自分と百合とはまた違う関係である。駄目な亭主の尻拭いをする尽くす系奥さんのようだ。よく見ると美人なのだが地味な雰囲気とそういうファッションが好きなのか野暮ったくまとまっている。勿体ない感じの女の子だった。
だが、その野暮ったさが百合みたいな華やかな苛烈な性格の美人とは妙に馬が合った。
「百合、俺の女になれよ」
壁ドンをして百合の前に立って、百合の顎を指で持ち上げながらオラオラ系男子の如く迫ってみる。
「えーと、却下で」
ジト目でユリは俺を見上げていた。
「くっ、またか!何が駄目なんだ!?」
「いや、あのねぇ。そもそも、毎月ノルマのように告白するのは辞めなさい」
「今月もダメか~。来月はどういう告白にしようかなぁ」
駿介はがっかりしつつ、メモ帳に何やら書き込んでいた。百合は何かいてんだろうと思ってのぞき込むと『7月10日、土下座告白を予定、雨天延期』とか書いてあったりする。
「メモ帳に来月の告白予定日を書きこむな!」
「だが、このままだと高校3年生の卒業前には101回目のプロポーズになってしまうぞ?良いのか、そこまで伸ばすと、昔の懐かしドラマのようにトラックの前に飛び込むという離れ業をする羽目になるぞ。トラックが止まれなかったら、俺死ぬからな」
「自分の命を人質に取るのは辞めなさい」
スパタンと頭を叩いてくる百合だった。
「残念だったねー」
笑いながら声をかけてくるのは鈴木智子であった。仲良くなったポンコツなイケメンな友人の幼馴染である。
「まあ、毎月のノルマなので」
「ノルマなの!?」
智子は驚いた様子でうめく。同じクラスになってから3か月ほどだから、彼女は駿介と百合の関係を理解してなかった。
「良いか、百合。俺がトラックに轢かれてみろ?」
「アンタは轢かれても死にそうにない気がするんだけどね?」
「間違いなく異世界転生するぞ?異世界で勇者になっちゃうぞ。ハーレムでうっはうはになるのが確定だぞ?良いのか、それで!?あれ、むしろそれで良いんじゃね?」
「そんな非現実的な事が起こる訳がないでしょが!こんなのいらないからハーレムだかどうでもいいけど、異世界があるなら引き取ってよ」
「酷いわ、私を売るって言うの?」
ヨヨヨヨと駿介はシナを作って捨てられた女感を出す。
「売れるなら売りたいわね?」
「それは所有権が百合ちゃんにあるという宣言?」
「そそそそそ、そんなわけあるかーっ!」
頭を抱える百合にニヨニヨして笑う智子だった。
「でもいつから毎月恒例の告白をしてるの?」
「小学4年の6月だな。高校3年の10月に100度目の予定なんだよ。ふっ、俺が異世界に行くのは高校3年の11月か」
「トラックに飛び出すサプライズは決まってるんだ……。っていうかその前に告白が成就する可能性があるかもしれないでしょ?」
「え?」
「いや、コクってる本人が『そんな訳ないでしょ』みたいな顔しないでよ!?」
「そもそもこいつがいる学校生活はここで最後よ!絶対別の高校に行くんだから!」
フッと駿介は笑う。
「何よ、私と同じ高校に行けると思ってんの?」
「俺は間違いなく同じ高校に行くぜ」
「絶対に志望校は言わないから!」
「オホホホホ、うちの子ったら、●松北高に行くんですって。女子剣道部がある公立高校で一番頭のいい場所に行くとか言っていたのよね……と、小母さんが教えてくれたし」
「何故教えたウチの母……」
頭を抱える百合に
「知らなかったのか?幼馴染からは逃げられないんだよ」
駿介はどこかの大魔王のようなことを言う。
「駿介君、割と本気で大魔王的な所が有るからなぁ。今年の体育祭、打倒駿介で隣のクラスが燃えてたでしょ?」
「何故、俺個人を打倒するんだろうか?」
「400メートルリレーとかアンカーの駿介君が絶対にヒーローになるシナリオになってるでしょ。100メートル走で全国大会に出た陸上部の先輩を抜き去ってウチのクラスが優勝した時は凄かったし」
「俺の真の見せ場は組体操で塔を作る際に休んだ山田と高山の代わりに俺が一人で3人分の土台になったところと、障害物競走で平均台の上でロンダートから伸身二回宙返りをして、世界で誰もした事のない新技を発表した所だったのに、何故かけっこに注目するか分からない」
「新技って……」
「平均台という種目が男子体操に無かった事と、平均台の上で二回宙返りをした人がいない事から、間違いなく新技の筈。なのに、皆スルーだ。何故だ!?」
頭を抱える駿介に百合は呆れたような視線を向ける。
「単に誰も見てなかっただけよ。おおーって歓声が聞こえたけどそれやった後だから」
「そんな、俺の人生の中で最も輝いた瞬間の一つだったのに」
「誰にも見られていない所で世界的偉業を成し遂げるのがアンタらしいともいえるけどね」
「駿介君の成し遂げた偉業の中で一番だと思うのは何?」
「そりゃ、牛島さんちの引き籠りのお兄ちゃん・42歳・無職を言葉巧みに騙してハローワークにいかせて自宅警備員からコンビニの店員という名のフリーターにジョブチェンジさせた事だな。俺を未来のダーマ神官と呼んでもいいだぜ?」
駿介はキリッとした顔で話すのだが
「既に言葉巧みに騙したという辺りに悪意以外の何事も無いように感じるわね」
「悪事を自白する口ぶりだったよね」
百合と智子はこそこそと話しながら犯人を見るように駿介を見ていた。
「でも牛島さんのお祖父ちゃん感謝してたじゃん。あまりに感謝するから駿介教を作って教祖になろうかとちょっとだけ思ったほどだぞ?」
「作るな!」
「ダーマ神殿を作る日も近いかもと思ったのに………」
「作ろうと考えるな!アホなの!?アホなのよね!?………はあ、小学時代、神童と謡われていた筈の駿介が最近すごくバカなんだけど」
「え、駿介君って頭良かったの?」
懐かしむように百合は遠くを見る。
「え、もしかして俺ってバカだと思われてるの!?IQ202で金田●少年どころか明●警視並みの頭脳を持ち、一子相伝の筈の飛●御剣流の後継者に勝手になったこの俺がバカだと!?」
「漫画剣法辞めい。アンタのせいで先輩が本気で飛●御剣流を研究しだしてんのよ!?」
百合の中学剣道部では入部したばかりの1年生幽霊部員が飛●御剣流を使って異様に強いため、どうしたら飛●御剣流に勝てるかと本気で悩ませていた。
「ふっ、男子剣道部員が真面目な剣術で俺に勝てたら真面目に取り組んでやろう」
「ちぃ、あの軟弱者どもが!」
「うーん……駿介君が賢かったという過去の方が凄く気になるんだけど。張り出されるトップ10に入ったことないよね?」
智子は首を傾げていた。ちなみにトップ10には百合と智子、それに友人の高城も入っているが、駿介は入ってなかった。
ともすれば駿介からすれば擬態成功ともいえる所であるが……
「別にアホな訳ではないよ?中間試験で赤点ぎりぎりを狙った赤点チキンレースという、赤点ぎりぎりセーフの点数を取るという遊びをやったんだけど、リスクが高すぎて難しいんだ。補習やら宿題増加やらで酷い目に遭った。なのでリスクの少ない平均点狙いに変えた。全て平均点でそろえるって凄い難しいんだよ?」
「え、じゃ、駿介君ってやろうと思えば全部100点とか出来ちゃうの?」
「ふっ……真実はCMの後で」
「何のCMよ」
「いや、チャイムなったから授業だし」
「授業はCMじゃないわよ!」
再度、百合から竹刀による打撃が駿介に加えられるのだった。
「アイターッ!?」
「まあ、そもそも昼休みに壁ドンして教室で同級生を口説いている人が凄く一番目立っていたんだけど………」
智子は呆れた様子で駿介を眺めていた。
大体、駿介のそんなキャラクターが出来上がったのが中学の頃だったという。
***
幼い頃、周りに馴染めなかった自分を愛してくれた家族は、駿介にとってかけがいのないものであり、何より大事なものだった。
高校に入り、半グレ集団に出入りしている同級生を叩きのめした事が切っ掛けで、自分のせいで沖田家はヤクザをバックに半グレ集団に襲撃を受けた。
家のガラスは叩き割られ、両親は怪我をさせられ病院へ、駿介はひたすら下げたくない頭を下げて許しを請うたが彼らは金まで奪って行った。
更には岬にまで手を伸ばすという脅しを口にした。
警察が駆けつけても何事もなかったように対応しつつ、両親を救急車搬送しながらも、駿介は弱者のように振る舞っていた。
だが、彼らは駿介にとって最も触れてはいけない部分を触れた事に気付いていなかった。生まれつき知力と運動能力をチート能力を持って生まれてしまった駿介にとって、暴力で解決して良いという場所に落ちてきた連中に遠慮する必要が無かったからだ。
駿介に人間性を与えてくれた両親や百合に手を出す?
暴力団を背景に脅しつけてくれたガキを本物の化物があらゆる手段を講じて生まれてきたことを後悔させると判断するには十分だった。
そして、最凶最悪の知能と暴力が火を吹いた。
半グレ集団をあっという間に壊滅させ、その後ろ盾の暴力団を皆殺しにした。しかも、あらゆる監視カメラの目を潜って証拠を一切掴ませず、完全犯罪をやり遂げたのだった。
半グレ集団は、警察の問いには知らないの一点張りで恐怖におびえていた。
そもそも証言したとて、誰が信じるだろうか?たった一人の高校生が素手のまま日本刀や銃弾飛び交う中で、暴力組織を一夜にして皆殺しにしたとは考えにくい。
彼らとてたった一人の高校1年生のガキに全滅させられトラウマになるようなダメージと恐怖を与えられたなど、生きていたとして口に出来るはずもなかった。
もし真実に辿り着けた警察がいたら、その警察官は頭が狂ったのかと思われるだろう。
高校1年生の夏、異世界に行く前日に起こった真実だった。
***
IDPKのお膝元であるセントラルゲートという三千世界に通じる時空都市にて、新たなる神の発見報告をIDPK副会長イリアスの妹エルシー・アナストプーロスが説明をしていた。
人類社会にて暴力団との抗争と殺害、後に異世界へ転生。
飢えと暴力にさらされた人類を救済し、アドモスを斬殺。
アドモスの神格を利用し自身の魂の複製に成功、将軍となって別大陸で大陸統一を果たし神仙に至る。
また、複製された自身の魂は、盗神の配下七人の英霊6体を殺し、神によって産み落とされた卵へと転生、まつろわぬ神とその眷属を殺し、神に至る。
「そして、先にあった浅香の報告通り、闇竜神との抗争があったという次第です」
エルシーは説明を終えて席に座る。
「そんな……」
余りにも突拍子もない話に浅香でさえ絶句していた。
今になって突き付けられる自分の受け持っている生徒の凶悪さに驚いていた。
「彼はまだ高校生なんですよ。罪を償わなければ……」
「やめた方が良いよ、浅香」
上司であるイリアスは浅香を止める。
「何故!?」
「このレベルの社会に生まれた超常の人間が真っ当に適応するのが何より難しい。罪を償うというが証拠はないし我らの科学技術を証明して日本に提供でもするのかい?」
「あ」
「それに自首したのに既に誰も信じられなかった話だよ。彼の軌跡は僕が神格を得る道を歩み出した時に極めて似ている。僕もこの社会に近いレベルで大事なものを奪われかけたからね。証拠を残さず国家主席の首を飛ばし、腐っていた自国を滅ぼした。僕の国を手にしようと近づいてきた他国のよこしまな連中を滅ぼしている内に軍神の神格を得てしまった。君が10歳の頃に会った時、僕は君と同年代だっただろう?僕が神化してあの姿に固定されていたのは、ローティーンの話だったからだ」
今は20代半ばの姿で落ち着いているが、当時、浅香が出会った頃のイリアスは10代前半の少年だった。同じように成長したから気にしてなかったが、年齢が千歳を超えているのでおかしいとは感じていた。
「最近、成長したけどね。兄さんが成長してくれないと私が子供のままで嫌だったんだけど」
「それは悪かったよ。だからと言って、後悔してないと思うかい?人を殺して平気でいられると思うかい?踏み切るまで悩んだろうし苦しんだろう。僕も同じだった。だが、妹に手を出そうとしたクズどもを許す事も出来ない。彼は相手が悪人だという証拠を調べた上で半グレの未成年を許す代わりに、詐欺と恐喝、薬物の売買で他人の人生を無茶苦茶にしていた大人を殺して脅すという形で収めたんだ。それがギリギリだけど、彼の社会性を持ち続けている証拠でもある」
「……。私には何も出来ないと?」
「しない方が良い。僕も君を守れる自信はない。彼はとっくに個人単位で最強格の神になっている。彼を止める為に僕の全軍を持ってどれほどの被害を出すか分からない。それに君を殺したら彼は本格的に壊れるよ?」
「壊れるってどういう事ですか?」
「好感を持った教師でも、自分の邪魔をするなら手を汚す覚悟をするだろう。そしてそれを成せば本格的に自分の異常さに狂う」
イリアスは浅香を見る。
「浅香。兄さんは浅香と出会う前はかなり壊れていたのよ。IDPKに入り、100年以上も神殺しに追われて、挙句身体的な成長をしなかった。お陰様で英霊になって付き従った私まで同じ年で固定されていたからね。浅香と同年代の容姿だったのはそのせいだし。神の先輩として貴方の生徒に同情もしているわ」
エアリーは親友の浅香を止めるように口にする。
「……イリアス君もそういう経験を?」
浅香は切なそうな視線を上司に向ける。
「僕は妹に手を出そうとした代官を証拠を残さずに暗殺したが、僕の先生が気付いてね。先生は良い人だったがあの国の洗脳教育を受けて育ったから僕を許せなかった。先生を殺すしかなかったし、それでも怪しんだ人間が次から次へと出て来て国家崩壊につながった。自分の罪を嘆く暇もなく人を殺す事も自分の旗の下で死ぬ人間を悼むことも出来なくなり壊れて行った。大事な妹が英霊になってしまったのに止められない自分の滑稽さに笑えたさ」
イリアスの言葉に誰もが言葉を失う。三千世界屈指の幼い軍神だったイリアスがそういう過程で現人神になり妹の英霊と共にIDPKでまつろわぬ神を殺し続けていたなど初耳だった。
「でも、だとしたらイリアス君は何で成長し始めたんですか?」
「ぐっ」
コテンと首を傾げる浅香にうめき声をあげるイリアスだった。
「それは是非とも聞きたいデース」
アリアがニマニマと笑いながらイリアスへと視線を向ける。
「そ、それはだな……そ、そうだ。大事な妹が折角友達が出来たのに一緒に成長できないのは申し訳ないと思ったからだ。うん、そういう訳で…」
「とんだヘタレデース」
アリアは落胆の溜息を吐く。
「まあまあ、イリアス君のシスコンは今に始まった事じゃないから」
「なっ!?ぼ、僕はシスコンじゃない!」
「じゃあ、妹以外に好きな女性がいるのですか~?」
まるで猫が鼠をいたぶるようにアリアがにやりと笑う。
「…おっと、会議は以上だったな。僕は次の会議がある。とにかく沖田駿介には手を出さない事だ。我々はルール上現場に手を出せないとはいえ、岬百合の動向に気を付けること。あの神が壊れた場合、地球文明がどう捻じ曲がるか我々も想像つかない。要注意事項だから扱いには気を付けるように」
そう言って去っていく。
「イリアス君がエアリーちゃん以外に大事な人なんていないと思いますよ」
浅香はアリアにフォローをするが
「兄さんも報われないわね…」
当の妹はどこか呆れるように小さくつぶやくのだった。
かつて、IDPKで追っていた事件で、雀の女神を守る為に、IDPKと利害がぶつかった事で浅香とIDPKは争った事があった。
結果的にそのせいで別れる事となるのが分かっていても友達の為に戦おうとした少女に尊さを感じ、子供のままだったイリアスが成長する彼女に引きずられる様に成長を始めてしまったのだ。
その事実を知るのは、神化した兄の英霊として生まれ変わってしまったエアリーだけである。
が、素直じゃない兄の想いは部隊の皆が生暖かく見ていたりする。弄るのはかつて敵だったアリアで、知らないのは想われている当人だけだったりする。
彼らは要注意人物をマークするべく地球近辺で仕事をする事になったのだった。
ピヨ「ピーヨヨピヨヨ ピーヨヨピヨヨ ピーヨーピーヨーピーヨヨー ピーヨヨピヨヨ ピーヨヨピヨヨ ピーヨーピーヨーピヨーヨー ピーヨヨピヨヨ ピーヨヨピヨヨ ピーヨーピーヨーヨー ピヨヨ ピーヨーピーヨーピーヨヨー ピーヨーピーヨー」
女神「女神ちゃんのお部屋の時間がやってきました。今日のゲストは新しいヒヨコの神様ピヨちゃんです。よろしく~」
ピヨ「よろしく~。って、やる気満々だな」
女神「最近、神生相談によく乗ってあげて評判がいいんですよ」
ピヨ「基本的に不死な神が神生相談って……」
女神「ピヨちゃんの神生相談でも聞いてあげましょうか?」
ピヨ「相談かぁ………ふむ。そうだな。最近、駿介の家の付近にうろつく猫に引っかかれて困っているんだがどうすればいいのだろうか。とっても痛いのだ。白猫だからシロの再来かもしれぬが、名前はタマというらしい」
女神「神の相談とは思えないほどの低次元な相談をされましても」
ピヨ「何を言う。タケシ君ちのタマの危険度を知らぬからそんなことを言うのだ。奴はヒヨコスレイヤーに違いない」
女神「ゴブリンスレイヤーよりも弱そうですね。ドラゴンより強いヒヨコなのに」
ピヨ「ヒヨコは回避したいのだ。あの爪から」
女神「鳥かごの中で待機すれば平気なのでは?」
ピヨ「苦しくったって悲しくったって、鳥かごの中では平気なの?」
女神「まあ、猫の唸り声が聞こえたら跳ねるように逃げるといいでしょう」
ピヨ「子猫が唸るとヒヨコ弾むわ」
女神「さらに非殺傷の神をも悶絶させるピヨッピヨやピヨンチョなどを使うと効果的です」
ピヨ「ピヨッピヨッピヨンチョ ワンツーさんしーピヨヨンチョ ………だけど涙が出ちゃう。ヒヨコの子だもん」
女神「ピヨちゃんの神生相談なのに、なぜかピヨちゃんの過去3回のセリフがアタ●クナ●バーワンの替え歌みたくなっているんですけど?」
ピヨ「ピヨヨーッ!?もっと親身に相談に乗って!タマに引っかかれて傷が残ったらどうするつもりだ!というか傷が残っているではないか!」
女神「そういえば今日のピヨちゃんは頬に十字傷が」
ピヨ「ピヨヨーッ!?ヒヨコは逆刃刀を持っているるろうにではないでござるよ!オロロとか言わず、ピヨヨというヒヨコなのに!?」
女神「よく考えると、逆に良いのでは?」
ピヨ「何をだ?」
女神「猫に左目に引っかかれて3本の傷痕が出来たら、るろうにどころでは無いですよ?某長寿漫画の四皇と同じ傷が出来てしまうのです!」
ピヨ「ハッ!?まさかそんなおしゃれな傷が出来たら……声が渋くなって格好良い事を言ってしまうのでは!?坊やだからさ……なんて言って…」
女神「そうです!ピヨちゃん、ひっかいてくるタマを前向きにとらえるのです!傷がつけば、もしかしたらワンチャン、声が池●さんのようなボイスになるかもしれませんよ!」
ピヨ「ピヨピヨ。そうか、ヒヨコとは傷つくことと見つけたり!」
女神「はい、ではお時間になりました。今日の女神ちゃんのお部屋はこれまで。ゲストのピヨちゃんでした。ありがとうございました~」
ピヨ「……って、あとがきコーナーでさえなかったのか!?どうりで今日だけテレビ局みたいな場所で撮影していると思ったら!?」
女神「いや、最初からノリノリで『●子の部屋』の音楽をピヨピヨ歌って初めておいて、気づいていなかったのですか!?」
ピヨ「ピヨヨーッ!?」