2話 ユー●ューバー・ヒヨコ
ヒヨコは静岡県浜松市にある高校にやって来ていた。
鳥籠なのか虫篭なのか知らぬがヒヨコは駿介に運ばれて、とある高校の教室の後ろに置かれてしまったのは確かだ。
「うわっ、駿介君、本当にヒヨコを持ってきたの!?」
「ピヨちゃん、ちっちゃくなってない?」
「大きいまま連れてこれないだろ」
「ピヨピヨ」
癒しお姉さん発見。ヒヨコはピヨピヨと手羽を振って挨拶をする。
「アハハハ。ちっちゃいけど本当にピヨちゃんだ」
癒しお姉さんは指を籠に入れて来るので近づいてほおずりする。もっと撫でてくれても良いのやぞ?
「ううう、何故だろう。あのヒヨコを見ると頭が痛くなる」
駿介と同じクラスの生徒がぼやく。向こうの世界ではっちゃけていたものの、記憶を持って帰らなかった山川である。
「ウンコ掛けられたからなぁ」
それを眺めるとある少年・横山とか言ったか、彼はポツリと聞こえないようにぼやく。
彼がそういう反応をしたのはこの少年が数少ない記憶持ち帰り組だからだ。大人しく上手く立ち回ったメンバーは多くがヒヨコを覚えていたようだ。記憶持ち帰り組は記憶を持ち帰らなかった者たちに何もなかったように振る舞っていた。
だから、駿介が連れてきたヒヨコも何かの折に見た事があるという程度の話をしていた。
今は令和2年1月も末頃。駿介はあっさりと再入学して2組に編入している。
異世界に行った数学教師の西脇は記憶を忘れて帰ってきたため、何喰わない顔で授業をしていた。
「良いか。来年は受験生だからな。今のうちにしっかり覚えておけ。この手の問題は受験でも今季の期末試験でも必ず出すからな!難しいがしっかり反復練習をして勉強するように」
えー、と悲し気な声を出して唸る学生たち。どうやら難しい問題が学生たちをむしばむようだ。だがこの音楽を聴いて運命を受け入れるのだ。
「ピヨヨ~ ピヨピヨピ~ヨ~。ピヨヨ~ ピヨピヨ~。ピヨ~~」
ヒヨコは取り敢えず恒例の音楽(バッハ作「トッカータとフーガ ニ短調」)を流してみた。そう、この地球から駿介が持ってきたという音楽だ。
「誰だ、変な音楽を流してる奴は!」
「ピヨピヨ」
ヒヨコですが何か?
ヒヨコはピヨピヨと鳴き続けて先生さんにアピールをする。数学の先生だとか。異世界に来ていたな?ヒヨコは最後に女神が彼らを生き返らせた時にいたような気がする。
髪が薄くなってきている先生だ。まだ30ちょっとくらいなのに登頂の旋毛辺りが寂しい感じだ。毛根よ、頑張るのだ。
「すいません。ちょっとこっちに連れて来ただけです。僕のペットです」
と駿介が謝るが……。
「ピ~ヨ~ヨピ~ヨピヨ~ ピヨピヨ~ピヨ~ピヨ~ ピヨピヨピヨ~ピヨ~ ピヨピ~ヨ~ ピヨ~ピヨ~(毛根 取れて~ 大空へ~ 髪の毛 飛ぶ~飛ぶ~ 炎と燃え~て~)」
ヒヨコを覚ええて向こうで魔力扱いがちょっと覚えた念話持ちの子だけが分かる歌詞をつけてみた。そんな人しか聞こえない念話と一緒にピヨピヨ歌うと、念話の通った(記憶を持ち帰った)学生達はブフッと噴き出す。
歌詞は覚えてないからヒヨコが適当に付けた。確か黒とオレンジの野球球団の応援歌だった気がする。
「誰だ、真面目に人が話をしているのに笑っているのは。変なピヨピヨ鳴くようなら放り出……」
学生たちの様子に憤慨した薄毛の先生さんだが、逆に生徒達のツボに入ったらしい。残念ながら薄毛の先生は異世界でのことを忘れたらしいから仕方ない。
ヒヨコはよく忘れていたが、忘れられる側というのは寂しいものだと初めて知ったぞ?
「変わった鳥をかってにつれて来るな。授業をやめても良いのか?」
「ピ~ヨ~ ピヨ~ピヨ~ ピヨピヨピヨ~ヨ ピ~ヨピヨヨ~ ピヨピヨピヨ~ヨ ピヨピヨヨ~(お~お~ピ~ヨちゃん その名担いて 先生の 燃やす頭の ハゲ増しさ)」
「「「「やめろよ!」」」」
学生たちは慌ててヒヨコの鳥かごの方を見て訴える。
一部の生徒がヒヨコの歌に反応して止めに入る。火を吐く鳥なのを知っているからだ。
「何だ、その態度は。本当に授業をやめても良いのか!?」
だが、自分の授業を辞めろと言われて勘違いした先生は激怒する。
「ピヨピ~ヨ~ ピヨピ~ヨ~ ピヨ~ヨピヨ~ヨ ピヨ~ピヨ ピヨ~ピヨピ~ヨ~(ピヨちゃーん ピヨちゃーん 燃やせ燃やせ それ行け ヒヨ~コちゃん~)」
「「「「「マジでそれだけはやめてください!」」」」」
「そうだろう」
今度は授業を辞めるのをやめてくださいと聞こえたようで先生は気分よさげにする。
何故かヒヨコの歌に反応する学生たちと薄毛先生の間でコミュニケーションが成り立っていた。
学生って凄い。
***
ヒヨコはピヨピヨと鳴くと、どうやら授業中は煩いらしいので静かに呼吸をする。
チャイムの間は静かにしないといけないらしい。昼休みになるとヒヨコの周りに人が寄って来る。
「ピヨピヨ」
「二組にヒヨコが連れてこられたと聞いてたでござるが……まさかピヨ殿が……」
「ピヨピヨ(おお、エセ忍者君よ。ヒヨコブートキャンプの布教は進んでいるか?)」
「やってはいけないと言われたでござるよ。残念だが、そういう事でござるな」
「ピヨヨーッ!?(どういう事だ。ヒヨコがエセ忍者君をスリムにさせたのに!?)」
「拙者忍者故、目立つことをしてはいけないと言われたでござる」
「ピヨピヨ(皆の衆、聞いたか?ヒヨコは本来ここに来る予定は無かったのだ。つまり、エセ忍者君は男と男の約束を断りなく辞める予定だった事になるのだ。なんて男なんだ。ヒヨコの奪った脂肪を返してやりたい!)」
「その奪った脂肪を胸に欲しいという女子生徒がいるやもしれぬでござるから許して欲しいでござる」
「「「お前の脂肪より命を奪ってやりたい」」」
怒りの女生徒集団がそこにいた。主に胸元のさびしい女子だった。忍者君は顔色を青くして後退る。外面がイケメンになったが中の人が同じなので扱いは変わらなかった。
「ピヨピヨ(ヒヨコから受けた恩を無視するとはエセ忍者君にはがっかりだ。ヒヨコは頼れる人間を探そう。隙あれば薄毛先生の髪の毛を焼いてやる!後で謝っても手遅れだぞ?)」
「それはどうでも良いでござるが勘弁してやってほしいでござる」
「別に良いんじゃね、あのクソ先公」
「いや、ペド野郎だし」
「多くが記憶を失っているし、あの先生も忘れてるけどさ。あいつ幼児を相手にとんでもない事をしでかしてた超犯罪者だから」
「死ねば良いのに」
「ピヨピヨ(ヒヨコの気づかないように毛根を焼く火魔法LV1【永久脱毛】の魔法が火を吹くぞ?良いのか?)」
「やめろよ。っていうかそんな魔法ないだろ」
「ピヨピヨ(火魔法LV1【熱化】の威力調整をしたヒヨコの必殺技だ)」
「必殺技って……」
「ピヨピヨ(毛根を必ず殺すのだ)」
「「「こいつ、とんでもねえ」」」
「ピヨピヨ(ヒヨコブートキャンプでは脂肪を燃やすし、毛根だって燃やせる。燃やす事に関しては一家言あるヒヨコだぞ?)」
「一家言ってお前家族いないじゃん」
「ピヨヨ~(ヒヨコの父ちゃんは火の精霊を生み出した不死鳥で、兄ちゃんは大陸を焼き落とした破壊神、そんなにヒヨコが信じられないならプレート上で不安定なこの島を焼き落としてやろうか?)」
「やめい!南海トラフが不安定なこの島でやるな!」
駿介はヒヨコの頭をこつんと指でつつく。
むう、残念無念だ。ヒヨコの凄い所をピヨッと見せようと思ったのに。
「凄い所を見せるだけで日本滅ぼすな。大魔王かお前は」
「ピヨピヨ(ヒヨコの天地ヒヨコの構えが火を吹くぞ?)」
ヒヨコは右の手羽を上に左の手羽を下に構えを取る。従来のヒヨコでは無理な関節の動かし方をするのだった。
「大魔王ピヨーンは辞めろ」
駿介は呆れたように溜息を吐くのだった。呆れたのはヒヨコなのになして?
***
生徒指導室にてヒヨコを連れた駿介は先生さんと話をしていた。
「出かけるから預かってくれって言うならともかく、永続的に預かってくれというのはちょっと」
と、駿介に頼まれた先生さん改め魔法少女るしふぇる浅香がヒヨコを預かるのを拒否するのだった。
「そんなぁ。俺のプライバシーが…」
「弟が出来たと思って廊下にでも置いておけば良いと思いますよ」
「隙あれば人の部屋に入って勝手に人のアニメを見て、ポテチポリポリしている弟なんざいらん!」
「ピヨちゃん……」
何故先生さんはコメカミを抑えて唸っているのだろうか?
ヒヨコは電波の発生源を探しているだけなのに。それともポテチポリポリが拙かったのだろうか?野球チップスの余りがたくさんあるのだから仕方ないだろう?駿介はカードばかり取ってチップスを余らせるから。
「ピヨピヨ(ヒヨコは魔法少女るしふぇる浅香の続編を見たいのだが?魔法少女るしふぇる浅香WEDING!浅香がついに結婚してハッピーエンドを迎えるという、最終回的なシリーズはいつやるのか?)」
「いきなり斜め上に飛びましたね。私は別にそういう相手はいませんから。あとやってもいないアニメ番組を勝手にあったかのように語らないでください」
「そういうのありそうだなぁと思うんだけどなぁ。大体、先生の後始末として異世界に取り逃がした盗神アドモスを俺が倒し奪った神格を使ってヒヨコが生まれた訳だし、もうこれは俺達がるしふぇる浅香の第4シリーズと言っても過言ではない!」
「過言です!」
先生さんは駿介に強く訴える。よほどるしふぇる浅香の続編を進めたくないようだ。3部作で完結していたのか……。だが、実際に書かれていないからな。これはヒヨコが作品を作って売るしかない。
「ピヨピヨ(そ、そうか……そうだったのか。つまり…浅香は3部作で完結。つまりヒヨコは違う監督さんや制作会社の下で、シリーズ第4章の魔法少女るしふぇる浅香PIYO外伝の主人公だったのだな!?ヒヨコと契約して魔法少女になってよ!)」
「あからさまにラスボス臭のする誘い文句は辞めい!それ絶対に主人公サイドの契約者じゃないから」
「ピヨピヨ(残念だ。だが、そう言えば突込みお姉さんが言っていたぞ?ヒヨコが見たのは先生さんサイドの事件だと)」
ヒヨコは地球に来る間の話をする。
宇宙戦艦と宇宙戦艦の戦い。ヤマトなナデシコな感じの話があった事を説明する。
「ヤマトとナデシコは方向性も物語性も全然ちげーよ」
駿介はヒヨコの行ったことを何故かどうでも良い所に引っ掛かった。
「ピヨヨ~(ヤマトはモリユキが綺麗な物語で、ナデシコはルリルリが可愛い物語だろ?)
「ヒロインしか見てないのか?そしてナデシコのヒロインはルリルリではなくミスマルユリカだ!」
「ピヨ?(それは初耳だぞ?アニメージュの人気投票で1位になったのはルリルリだった筈だが…………ミスマル某って誰?)」
「アニメを見ておいてヒロインガン無視かよ。あとアニメージュの人気投票なんて知らねーよ、当時生まれてないから」
「ピヨちゃん、明らかに駿介君の電波じゃない何かを受け取ってますよね?」
何故か戦慄する駿介と先生さんだった。
「ピヨピヨ(それにヤマトは確か宇宙の彼方、ライダーに行く物語だったか?)」
「ライダーってどこだよ、そんなよく分かんない場所に行かねーよ!イスカンダルだよ………って、ライダーってそういう意味かよ!?F●te/Z●roじゃねーから!」
「ピヨピヨ(日本語はむずかしい。似たような言葉が異なる意味を持つから。ヒヨコ言語なら全てピヨの二文字に収まるというのに)」
「ピヨちゃん、そもそもヒヨコ言語使ってないでしょう……」
先生さんが呆れた様子でヒヨコを見る。
「ピヨピヨ(今年の夏を見るがいい。ヒヨコが華麗にヒヨコ言語で、夏の夜店に出ているカラーヒヨコ達と会話している姿が見えるだろう。ヒヨコの可愛い弟妹たちだ。)」
「血は繋がってないからな」
駿介は呆れた視線をこちらへ向けて来る。どれだけヒヨコを蔑んでいるのだろう。ヒヨコはとってもヒヨコだというのに失礼だ。
「ピヨピヨ(そう夏を見ているがいい。ヒヨコのバイリンガルっ振りをな。
ヒヨコ、夏の終わり、将来のピヨ、大きな姿忘れない
10年後の8月 (向こうの世界に)また出会えるのを信じて~
最高の~ピヨちゃんを~)」
「そんな歌われても……」
「ピヨピヨ(マスターに教わったのだがな。体を小さく過ごすと食費が浮くそうだ)」
「いなばの奴、ウミガメ姿なのはそのせいか。昔は大きかったのに……」
「ピヨヨ~(本来の姿だと世界資源を食いつくす害獣として討伐されるからだそうだ)」
「そっちかよ!」
「ピヨピヨ(うっかり七英雄の一人をダンジョンごとくったら体長800メートルの巨大亀になったと言っていた)」
「しれっと軍艦島より大きいですね」
「ピヨピヨ(だが、ヒヨコとて負けはせぬ。250年前、サンドワームに転生したヒヨコは国喰らいと呼ばれた巨大キングワームになりイグッちゃんやエルフの女王さん、支配帝、マスターといった錚々たる世界の英雄と戦ったそうだぞ?残念だが負けてしまったが……)」
「俺の魂、うっかり世界を滅ぼしかけてたのか……。そして負けたことを残念に思うお前が一番残念だよ!」
駿介は頭痛を堪えるようにコメカミを抑えて唸る。
「でも、そうですかぁ。先生はこのヒヨコを飼えないと」
「っていうか私に押し付けに来ているでしょう?駿介君、自分の魂の片割れなんですから、面倒を見るべきでは。作った子供を捨てるようなものですよ」
「え、そういう話?でもそれを言い出したら……アドモスの神格から生み出された命なんだから、先生にも責任の一端があるのでは?」
「!?」
「俺だって仕方なかったんですよ。アドモスは七英雄の祖先でもある。その死んだアドモスは七英雄と体を共有して復活する事が出来るのですから。あの世界は七英雄を殺さねばならず、奴らはダンジョンに引きこもって出てこない。俺の魂を使って残らずすりつぶしたいという話であるけど、俺は俺でこっちに戻りたい。と、言う訳で、魂を残してこっちの世界に戻る手段を手に入れるように動いていたんだけど。先生が地球から逃した悪い神の1柱がアドモスで、俺に迷惑をかけていたなんて……まさかまさかだよ」
「ぐぬう」
「仕方なくアドモスの神格を使って魂をあの世界で継承させた結果、このヒヨコなんですよ。つまり俺の子供であり先生の子供でもあると」
「それは暴論です!っていうかシレッと私との間に子供があるとか言わないでください!」
「そうですね、彼氏にバレたら大変だ」
「だからいませんから!」
「先生、まさか………行きおくれ?」
「まだ24の身空で行きおくれじゃないですから!」
「曰く、女性はクリスマスケーキに準えて、24歳で食べられるそうです。24歳の今年度、売れ残ったクリスマスケーキというのも……仕方ない。ヒヨコは持ち帰るしかないかぁ。売れ残ったクリスマスケーキと一緒に腐っていくのはヒヨコも可哀そうだな」
「ピヨヨ~(ケーキ先生の邪魔になっては行かんからな)」
「魂が同じだからでしょうか?他人を貶める時だけ仲良くなるのは変わってませんね?」
先生さんはヒヨコ達を見て呆れるのだった。
***
ヒヨコと駿介が帰ろうとする(正確には駿介が鳥籠を持って帰ろうとする)と、優等生君が一人で生徒指導室の近くに来ていた。
「あ、沖田君。ピヨ君も」
「ピヨピヨ(おお、優等生君ではないか?ヒヨコに何か用か?)」
「何だい、優等生君」
駿介がヒヨコに習って優等生君を優等生君と呼ぶ。本名なんだっけ?
「君には言われたくないよ」
駿介は編入時に昨年の期末テストと同様の試験を受けて全問正解したらしい。こやつの記憶力は恐ろしいものがある。
「悪い悪い、西条。で何だ?」
「実は家出を画策してるんだけど…」
「マジか?」
「大学に入ったらな。今は文系でそこそこやって誤魔化しているけど……。西条家をドロップアウトして会社打ち上げた叔父がいるんだよ。相談したら色々とアドバイスをくれて家を出るなら、いろんな書類の保護者欄を書いても良いって言ってさ。でも、生活費は稼がないといけないだろ?」
「そういうのは生徒指導室で先生にすべきでは?」
駿介は自分が出てきた部屋を差す。
「金の話は教師とは出来ないし、親と話し合えって言われるだろ。親と?うちの親を知っていてその言葉を使ったらバカだぞ?」
「どんな親か見てみたい」
「それはそれとして……稼ぐために相談があるんだよ」
「俺に?」
「むしろピヨ君に?」
「ピヨヨ?(ヒヨコに稼ぎの相談とは…?)」
「ヒヨコ君、ユー●ューバーで稼いでみない?僕が君を支援して儲けを折半するってのはどうだろうか?」
「ピヨヨーッ!(何となく面白そうな臭い!?)」
「そういう事なら、このヒヨコ引き取ってよ」
駿介はずずいと鳥籠を優等生君に押し付けようとする。
「いや、流石に家を出てないから無理だし、家を出ても叔父さんの家に厄介になる予定だからヒヨコの面倒は無理だよ」
「ちっ、使えねえ」
舌打ちをする駿介だった。
そんなこんなでヒヨコのユー●ューブデビューが決まった。
***
翌週、ユー●ューブにて投稿された動画が何と1万回以上視聴された。
『歌う赤いヒヨコ~交響曲第9番短縮版~ @優等生君』
単に赤いカラーヒヨコがピヨピヨと鳴くだけの映像である。
「編集ではないか?」「ヒヨコがあんな風に鳴く筈が無い」「ヒヨコ可愛い」「ビブラートしてたけどどういう編集をしたのだろうか?」「友達が歌うヒヨコを学校に連れてきた奴がいたって聞いた事がある」
そんな声が多くコメントされた。
登録者がたくさんついて、広告収入が入るようになった。
優等生君は登録者数が増えてお小遣い程度は入りそうだと言っていた。
第2弾『歌う赤いヒヨコ~交響曲40番~(モーツァルト)短縮版 @優等生君』
同じように赤いカラーヒヨコがピヨピヨと鳴くだけの映像である。
やはり同じようないちゃもんがついてしまう。
「編集してるだけだろ?」
「ピヨピヨ鳴く声を録音して上手く流しているだけ」
「編集者の腕は認める」
「クラシック音楽シリーズでもやるのだろうか?」
「ウチの高校に連れてこられた赤いヒヨコだ。巨人の応援歌をピヨピヨしていたけど、モーツァルトはなかった筈。一生懸命覚えたんだね」
中にはヒヨコの努力を認めてくれる心の温まるコメントがあった。
あの高校の学生だろうか?だが、二番煎じだからか再生数は減少した。
だが、コメントでヒヨコの実在を匂わすのは良い布石だと優等生君は喜んでいた。
クラシックだけなのか?というコメントも多数あったので、今度は童謡に手を出す事となった。
第三弾『かごめかごめ~さくらさくら~鳩 @優等生君』
ヒヨコを籠の中に入れて始まる動画だった。次々と歌っていくヒヨコ。最後に自分で小さな籠を嘴で持ち上げて外に出て終わる動画だった。
「編集を指摘するより動物虐待では?」
「赤く塗られて可哀そう」
「動物愛護協会に連絡を」
変なアンチがついてしまったがそれなりに再生数は第2弾より増えた。
次の音楽はアニソンを推してみる。カラオケで長年歌われている中学生が主人公な新世紀なアニソンだ。
そこでヒヨコの歌声が一気に人気を博した。ピヨピヨしてただけなのになして!?
だが、再生数5万を超えて、登録者数が5000人を超えてしまうのだった。
***
「やばい。小遣い程度のつもりが、収入多すぎるんだけど。親に何て言おう………」
「ピヨヨ~(優等生君よ。ヒヨコはもとよりキャラクター収入で莫大な金額を稼いで帝国で暮らしていたんだぞ?ヒヨコの愛らしさが小遣い程度で済むと思わない事だな)」
「んー?だったら、俺が適当にお前の親を丸め込んでもいいぞ?」
駿介はこういう時に顔を出すのだった。
「君が?」
「俺がヒヨコを養う際に適度な小遣い稼ぎをする為にお前を巻き込んだ。俺がヒヨコを、お前が撮影をする事で、お前の収益から5割を俺が貰う。軽い小遣い稼ぎのつもりだったけどまさか新卒社会人みたいな収益が入るとは思わなかった、とでもいえば良いだろ。俺が言った方が違和感ないし、ヒヨコに渡すと言っても理解せんだろ」
「それでも色々と言われると思うけど。言っておくけどウチの親は本当に価値観が固いから」
「俺をたかが一般社会人風情がどうにかできるとでも?」
どんな偉い人だろうが関係ない。この男、異世界で崩壊世界を救って一つの大陸では英雄に、もう一つの大陸では支配者になっているのだ。剣を振れば最強で、何でも見れば真似が出来て、見たものは忘れない。…………何だろう、このチート野郎は。
人生を一度ベータテストした後にやっているようなものだ。
こんなんもうベータのチーターでビーターや!
……ピヨピヨ、どこかで何かのデジャヴを感じたのだが、何だろ?
ヒヨコが一羽で葛藤していると、優等生君は何か悟った顔をして
「うん、任せた」
と、駿介に丸投げする事を決めるのだった。
30年で二つの大陸の頂点に立ち数千万人の人間をまとめ上げた男である。しかも女神からもらったチートは異世界言語のみである。
結果はどうだったのか?大企業の社長さんは、駿介に良いように丸め込まれたそうな。
そして優等生君は家で苦渋にまみれた顔をした父親にユー●ューバー活動を認められた上で『友達は選びなさい』とだけ言われたそうな。
駿介よ、一体何をしたのだ?
それはヒヨコと優等生君の両者が同時に思った事だった。
ピヨ「ピ~ヨ~ピ~ヨ~ヨ~ピ~ヨ~ピヨピヨ~ピヨピヨ~ ピ~ヨ~ピヨヨピ~ヨ~ヨ~ピヨピヨピ~ヨピ~ヨ~ ピヨピヨ~ ピヨヨ~ ピヨヨ~ ピヨヨ ピ~ヨピヨピヨ~ ピヨピヨ~ ピヨピヨ~ ピヨピヨ~ ピヨピヨ ピヨピヨ ピヨ~ヨ」
女神「ええ、ドラ●エ3リメイクの冒険のテーマを流すのは辞めなさい!」
ピヨ「聞いてくれ、女神さん。ドラ●エ3リメイク版は何とクラシックバージョンにあった最初の出だしの部分から始まるんだぞ?以前あとがきでヒヨコが大好きな音楽はドラクエ3の冒険のテーマのクラシック版の冒頭の部分だと言っていただろう?今回はそこから始まるのだ!何というサプライズ。それだけで作者はリメイクを買った価値を見つけるだろう」
女神「その後書きが既に消されているのですが……。ドラ●エ3リメイクですか」
ピヨ「という事でここでもドラ●エ3をやろうと思うぞ。勇者の名前は定番の『アレフ』で」
女神「それ小説版の『1』の主人公の名前ですからね?3なら『アレル』では?」
ピヨ「折角だから性格はセクシーギャルだぞ?」
女神「勇者アレフ(女)とか何だろう、出だしで走りすぎですよ?そして自分の趣味に走りすぎですよ」
ピヨ「……仲間にするのは誰にしようか……名前が思いつかないぞ?」
青竜「じゃあ、僕にするのだ」
黄竜「アタシが仲間になってやるのよね?」
ピヨ「何故神界にグラキエス君とトルテが!?」
黄竜「きゅうきゅう寝ていたら、いつの間にかここにいたのよね?さあ、早く進めるのよね。あたしは凄い息を吐くキャラをご所望なのよね!」
ピヨ「よく分からんが……そんなキャラはいなかった筈…」
女神「所がどっこい。リメイク版には魔物使いという火炎の息を吐く職業が出来たのです」
黄竜「じゃ、それにするのよね」
ピヨ「神足のヒヨコは盗賊にして超早いキャラになるぞ?きっと防御力もマシマシな筈なのだ」
女神「今回のドラクエ3のリメイクではスーファミ版と違って身の守りが素早さの半分という仕様はないので防御力は大してないようです」
ピヨ「ピヨヨーッ!?ただの素早いだけの攻撃が軽いキャラになってしまったぞ!?」
青竜「ブレスのないピヨちゃんみたいなキャラなのだ」
黄竜「ある意味、自分の写し鏡なのよね?」
女神「勇者、魔物使い、盗賊……これゲームバランス的に駄目なんじゃないんですか?」
青竜「仕方がないから僕が僧侶になってやるのだ」
黄竜「また、兄ちゃんは良い竜ぶって得点稼ぎを……」
ピヨ「まあ、名前が決まったので、ドラクエ3リメイク、スタートするぞ!」
そういう訳で勇者アレフ(セクシーギャル)、盗賊ピヨ(電光石火)、魔物使いトニトルテ(自称セクシーギャル)、僧侶グラキエス(切れ者)の旅が神界のゲームで始まるのだった。
あとがきの続きも次回の後書きにて続きます(笑)