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最終章45話 ヒヨコインパクト~後~

 異次元空間の門をうっかり通り抜けてしまったヒヨコは暗い闇の中を貫くと、やっぱり暗い闇の中に放り出される。周りは光り輝く星々が見える。でも上も下も分からない。

 これは言わなくても宇宙空間?


 ヒヨコはそんな真っ暗な無重力空間をものすごい勢いで移動していた。


 ピヨヨーッ!?


 どうしてこうなった?駿介のせいだ。許すまじ駿介。

 息が出来ない。どうしよう。ヒヨコはこのまま息が出来ずに死ぬのか。


 ヒッヒッフーヒッヒッフー

 ピヨピヨピヨピヨ

 どうやって息してたっけ?いや、そもそもヒヨコって息してたっけ。してたよな?ピヨピヨしてたし。ピヨピヨしてるという事は息しているって事だ。

 魔肺があるから、別に息しなくても大丈夫じゃね?


 …………


 と、とりあえずヒヨコはどうやら死なない事が分かって万事解決した!

 だが、この状況は全て奴のせいだ。

 ついに、ヒヨコの真の敵は駿介となったのだ。奴こそが最大ターゲットになったのだ。

 熱血チックな音楽と共にヒヨコが駿介を襲う日が来るだろう。



 夢がピヨを呼んでる 魂の片割れ レッツゴーパッション

 いつの日か世界へ 鳥戻せ この手羽に

 レッツ ヒヨコちゃん ピヨー



 取り敢えずロボットアニメっぽい音楽を流してみたが、駿介の世界がまさかロボアニメの世界だとは知らなかったぞ。どうりで進んでいると言っていた筈だ。


 前の方にロボット兵器みたいのがたくさんいたり、宇宙戦艦みたいなのがたくさんあるがアレは何なのだ!?

 はっ!あれが、木星圏ガニメデ・カリストエウロパ及び他衛星小惑星国家間反地球共同連合体、略して木連と地球連合軍との戦争か!?

 ピヨリと消えたのはもしかして、ボ●ンジャンプか!?


 ヒヨコ バーニン ピヨらしくて誇らしく 向かってよ

 宇宙に舞った日々が 夢のヒヨコさ~

 ヒヨコ バーニン そのヒヨコを集めて

 鳥を目指す勇気 見えるよ ピヨ~ 強引な地球移住だ~


 こっちの世界は何年も進んでいるとは聞いていたが、ここまで文明に差があったとは驚きだぞ!100年?本当に100年でこの世界に辿り着くのか!?宇宙戦艦がたくさんあって、戦争する世界だなんて聞いてないぞ?

 ところで木連って何だ?異様に名前が長いぞ!?何でヒヨコが知ってるんだ、ヒヨコの記憶力では到底覚えられない名前をストレートに呼べてしまった!?

 これが駿介の電波の凄さという事なのか!?

 駿介の奴、すんごい電波を飛ばして来たぞ!?ヒヨコが既に何を言ったか自分で分からなくなるくらいだ!?


『ピヨちゃん、聞こえますか?』

 するとヒヨコに電波を飛ばしてきた存在がいた。この声は女神さんか!?

 何と駿介以外から電波が飛んでくるとはこれ如何に!?


 ……あ、電波じゃなくて念話ね?

(ピヨピヨ)

 ヒヨコは応答する。喋っても声が出ないので仕方ないから念話で返事をする。

『良かった。……いま、ピヨちゃんは深刻な状況になっています。』

(ピヨヨ?)

 言われなくても分かっているぞ?

 ここはどこ?

 ヒヨコはピヨ?


 どうやら記憶喪失なのではなく、ただの迷子だった。だが深刻だ。ヒヨコって割と何度も迷子になるから。宇宙迷子は初体験だ。


 今は、宇宙空間を移動するヒヨコ的な何かだぞ?

 まさか宇宙ヒヨコにクラスアップか!?

 ………………宇宙ヒヨコ、そこはかとないロマンを感じるのはヒヨコだけ?


 ピ~ヨ~ヨ~ ピヨヨ ピッヨヨ~

 ピヨヨ ピヨピヨ ピ~ヨピヨッヨ~

 ピ~ヨヨ ピ~ヨ~ ピ~ヨヨ ピ~ヨ~ 

 ピヨッ ピヨッ ピヨッ ピヨッピヨヨッ

 ピヨッ ピヨッ ピヨッ ピヨッピヨヨッ ピヨ~

 さらば~ 世界よ~ 旅立つ何故か? 宇宙ヒヨコの ピ・ヨ・ちゃん

 異世界の彼方 駿介の世界へ 運命なのか? 今 旅立つ

 かならず ここに 帰って来るの? 声かける女神に 引き攣り応え

 世界を離れ 駿介の世界へ はるばる臨む 宇宙ヒヨコの ピ・ヨ・ちゃん


『駿介が異世界のゲートを飛び込むタイミングがギリギリ過ぎて、ピヨちゃんが落ちたタイミングの段階で、座標がズレ始めて、駿介より遥か遠い地球の重力圏外に落ちてしまいました』

 あの野郎は祟り神か!?剣の神格なんて嘘っぱちだ!ヒヨコ祟り神の神格に違いない。

 いつかピヨピヨしてやる!必ずだ!お前には容赦はせんぞ。誰にも使った事のないピヨンチョやピヨリックスまでしちゃうぞ!?泣いて謝っても許さん!


『ピヨちゃん、それ、覚えていないのですか?』

「ピヨヨ?」

 何の事だろう。女神さんは変な事を言う。宇宙にいるからだからだろうか?

 ピヨ、覚えていないのかと聞かれても………


 覚えていますか? ピヨと出会った時を

 覚えていますか? 手羽と手が触れあった時

 それは初めての ピヨの旅立ちでした

 I LOVE YOU PIYO~


『電波発生源が近くなって、ピヨちゃんのボケが激しくなってきましたね?』

 やはりか!?


(ピヨピヨ)

 ところで女神さん。

 ヒヨコはどこに向かっているのだろうか?ヒヨコ、気になります!


『そのまま放置するとピヨちゃんがどこか遠い宇宙の外れへ永遠の命を使って飛ばされて続けて、50万年後辺りにゼン●ラーディ人に拾われる未来しか見えない状況です。鳥であったのなら宇宙空間でも飛べたのでしょうが…』

 何という事でしょう。ここでそんな事実が。

 そういえば宇宙だろうが異世界だろうがクレナイは飛んで移動していたと。

 なるほど、イグッちゃんの言っていた通りなのだが……残念、今はヒヨコでした!進化するための経験値も無いぞ!?

 だが、どうしてだろう?

 50万年後辺りに出会えるというゼン●ラーディ人の方に心が躍ってしまうヒヨコだった。

 きっとヒヨコダンスがデカ●チャーと評判になるに違いない!

 だが50万年も放置されたら困る。そんなに経ったら皆がヒヨコを忘れてしまうではないか!?


『安心してください。1万年と2000年経ってもきっと愛してますよ?』

(ピヨヨーッ!?それはお前、50万年後はどうだろう、みたいな振りじゃないか!?)


『なので私の方で駿介の落ちる場所に向けてメテオインパクトを掛けておいたので安心して私の誘導に従ってください』

(ピヨピヨ~)

 なるほど、それなら安心だ。安心して駿介のいる世界に落ちられる………ってヒヨコがメテオかよ!


『ピヨちゃんは不死鳥。太陽神増産計画の末裔。神域を「拓く者」……もしもヒヨコが自身のルーツを、神域の真実を知りたいと願うなら『―――』を探しなさい』

(ピヨヨ!?)

 どういう意味だろうか?

 な、なんか深そうな事を言われたぞ!?

 これはきっとヒヨコが元の世界に戻るために重要なフラグっぽいセリフのような気がするぞ!?


 あと重要な部分が聞き取れなかったのだが……何を探せと言っているのだ?

 ワンスモアプリーズ?


『と、ちょっとピヨちゃんに因んで某作品の某キャラの台詞をまねてみました!同郷(なろう)の作品からのアニメ化ですよ!きょうび珍しく小説を商業誌化せずに、コミカライズだけの状況からアニメ化です。めでたいですね。本当は半年前にアピっておきたかったんですが……』

(ピヨヨーッ!?)


 そういうネタ振りは良いから!駄目だ、この女神。全然役に立たねぇ。

 ヒヨコを誰か助けて!?

 ヒヨコはこのまま青い星へと向かって落ちていくしかないのか?ヒヨコ燃えてしまうぞ!?

 大気圏の摩擦熱によって燃えてしまうぞ!


『大丈夫ですよ!大気圏で燃える原因は摩擦熱ではなく断熱圧縮です!(ドヤァ)』

(ピヨヨーッ!)


 そういう豆知識いらないから!ヒヨコが燃える事とは関係ないだろう。

 そういう事ではなくヒヨコの話をしてくれ!


『ではヒヨコの話をしましょう。…………ヒヨコ豆はヒヨコの頭のような形で嘴のような突起がある事からヒヨコ豆と呼ばれているんですよ』

(それは、ヒヨコの話じゃなくて本格的に豆知識じゃないか!?しかも豆の意味が違う!)

 というか、その前に宇宙戦争の中を通り過ぎる感じなのだが、その前に宇宙戦艦にぶつかってしまいような気がするぞ!?


 ヒヨコが宇宙船に激突して、ダイ●ウジ・ガイが死んだらどうするんだ!


 もちろん、女神さんよ、そこら辺はぶつからないように設定してくれたのだよな?

 ちゃんと設定したんだよな?よな?


『あ、しまっ………………こほん。では、これで。健闘を祈ります……ブツ』

 ツーツーツー


 おーい、女神さんよ!逃げたのか!?逃げただろう!絶対に逃げたよな?

 逃げるな!神ってのは逃げるものなのか!悪神、闇竜神に続いて女神さんまで逃げやがった!おーい、誰かヒヨコを助けてくれ!駿介、恨むぞー!


 ヒヨコの進む先には戦線から離脱しているっぽい宇宙戦艦があった。いかん、このままではヒヨコがぶつかって、ヒヨコがペチャンコに潰れてしまう。いつもこんな扱いだ。


 毎回、毎回、ヒヨコは鉄板の ネタでやられて 嫌になっちゃうよ

 ある昼、ヒヨコは帰る駿介に、引っ張られて 異世界に飛び込んだのさ


 いかん、電波に流されている。どうにかしなければならないのだ。ヒヨコだけで。


 軌道修正不可能。

 ヒヨコ修正不可能。


 ヒヨコに出来る事は何だ?

 ヒヨコの身を守るだけだ。出来る事なら何でもするしかない。右手羽は動く、左手羽も動く。嘴も動く。だが姿勢が変えられない。空気が無いからか?あちこちにゴミが浮いてぱちぱちヒヨコに当たってすごく痛いぞ?

 だが、このゴミを空気変わり蹴りながら軌道を変えられないだろうか?


 軌道修正不可能。

 姿勢制御可能。


 可能?おお、姿勢くらいなら変えられそうだ!

 諦めたらそこでヒヨコ終了って偉い人が言っていたような気がする。そう、諦めないのがヒヨコ魂。それはもうヴォーパル魂とでは比べものにもならないのだ。


 べ、別に女神さんの振りに答えたわけじゃないんだからね!

 ピヨピヨ、女神さんの振りって何のことだろうか?


 それはそれとして、これならば体をスピンさせるのだ。

 そう、ピヨスパイラルアタックによってぶつかるゴミを受け流すのだ!

 ピーヨピヨピヨ

 なんてヒヨコは賢いヒヨコなのだろうか!?

 ふはははは、ヒヨコは無敵だ!最強だ!宇宙のゴミなどもはやヒヨコの敵では………あ




 くるくるとスピンをかけてピヨスパイラル中なのだが、肝心の軌道修正が全くできなかった。出来ないとそもそも宇宙戦艦にぶつかってしまうのだが!?

 回避不能な宇宙戦艦からは流石に避けられなかった。


 メテオインパクトの勢いでヒヨコは物凄い高速で戦艦へと飛んでしまう。

 ヒヨコは身を守るためにピヨスパイラルアタック中なのだが、嘴で戦艦の壁を貫いてしまったのだった。


 あらゆる障害物をメテオの引力で貫き進む。

 宇宙戦艦を貫き進むヒヨコの背後から、爆音と爆風が襲う。そしてまばゆい光がキラキラとして、宇宙船は宇宙の藻屑へと消えて行くのだった。

 中の空気が爆発したからヒヨコにも轟音が届いてしまっていた。人の悲鳴も。


 何という事でしょう。

 戦艦の中にいる固い何かとか柔らかい何かとか色々と貫いたのはヒヨコ自身も感じた。

 感じたが、あまりにも超高速で移動している中、くるくる回っていたので何を貫いたかまでは確認できなかった、


 いかん、人がいたような気がするぞ!?


 ヒヨコは人を殺してしまったような気がする!??

 ドラゴニュートっぽかったが多分人っぽい何かだ。グラキエス君の親戚だろうか?いや、異世界にそんなものがいるはずもあるまい。じゃあ、知らないドラゴニュートだ。


 どうしよう、ヒヨコは嘴で人の体に穴を開けてしまった。殺人事件だ。犯人はヒヨコです。自首します。ごめんなさい。見た目はヒヨコ、中身は勇者の名探偵、犯人はいつもヒヨコ!


 いや、待てよ。

 ヒヨコは悪くないのでは?ヒヨコをこんな遠くの外れに堕ちる羽目になったのは全て駿介が悪く、駿介に向けてメテオインパクトを仕掛けた女神さんが悪い。

 ヒヨコは軌道に沿って落ちただけ。そう、そうだ、よく考えたらヒヨコは加害者ではなく被害者だ!

 ヒヨコは落ちただけ、悪いのは沖田だけ!


 なので偶発的被害者の宇宙戦艦のどこのどなたか知らんが、恨みも悲しみも泣き言も、愛しさも切なさも心強さも全て駿介と女神さんに言うように。ヒヨコは悪くないのでな。


 するとヒヨコに中でファンファーレが鳴り響く。


『ピヨはレベルが上がった!レベルが485になった!』

 やばい、女神の奴、ヒヨコに罪を着せに走りやがった!

 レベルが上がったのならヒヨコの責任だよね作戦か!?そういうのは良くないと思うぞ!?責任逃れはいけないと思うんだ。

 ところで……レベル1だったのに妙にレベルの上りが大きくないか?


『ピヨは<闇竜神討伐者>の称号を獲得した。ピヨは功績により<闇竜神討伐者>と<悪神討伐者>と<真の勇者>の称号とかよくわかんないけど、いろんなのが統合されて<ヒヨコ神>になった(テヘペロ)。<ヒヨコ化の法>を手に入れた!』


 おい待て!

 よく分からん情報が色々と飛び交い過ぎだ!

 いつヒヨコは闇ナグール君を倒したのだ!?闇竜神と悪神を討伐して、何で他諸々が合体したらヒヨコ神になるんだよ!よく分かんないからって纏めるな!

 あと、いい年した女神さんがテヘペロするな!


『あ、私、永遠の17歳ですので、セーフです』

ピヨピヨ(はいはい)

 どういうことだ!応答を求むがそういう応答は求めてないぞ!

 ヒヨコは永遠の16歳だから生まれが1年差という事だろうか?

 っていうかヒヨコにヒヨコ化の法って……人間が人化の法を覚える意味と同じくらい意味が不明だ!?誰かヒヨコの疑問に答えておくれ!


 ヒヨコがヒヨコ化してどうするんだ!?どういう事なんだ?

 ぬう、返答が無いぞ?


 女神よ、女神さんよ、ああ、女神様。

 いや、最後のはちょっと違う女神様になってしまうような……。え?声が似てる?

 そこは誰も聞いていないぞ。


 とにかく誰でも良いから、ヒヨコを助けて!せめて助かり方を教えてくれ!

 誰かいないのか?


 女神さんじゃなくてもいい。変なパンを焼いては売れ残らせてしまうような奥さんでも良い。しましまとら君のお母さんだってヒヨコは許容できる。99の謎と99cmのバストを持つ綺麗なお姉さんに助けて欲しいが、この際だから我儘は言わない。

 通りすがりの宇宙人の女性教師とか助けてくれないのか!?おねがい☆ゴッデス!

 そうだ、左頬に傷のある宇宙海賊のお姉さんとかヒヨコを拾ってくれないだろうか!?いいアイデアだと思わないか?

 どこかにヒヨコを助けてくれる銀河の歌姫のマネージャーさんとかいらっしゃいませんか!?


 届けヒヨコの想い!


『おかけになった神託は現在使われておりません。番号をお確かめの上、もう一度おかけ直しください』

 ツーツーツー


 ピヨヨーッ!?

 かつてない返しが来た!?

 ついに神託機能が機能不全になってしまった!ちゃんと通話料金を払わんと駄目だろう、女神さんよ。着信できなくなったぞ!?

 そもそも神託番号ってあったのか!?


 ヒヨコは地球へと落ちてくしかないのか?

 空から見ると分かるのだが……ヒノモトに似た島へと落ちていく。ヒノモトの島の北にある小さな島の形が……なるほど、異世界人が言っていた大北海大陸のかたちが北海道に似ているとはこのことか。


 だがな、………今はそんな事どうでも良いから……誰かヒヨコを助けてーっ!?




***




 イリアス達の避難していた戦艦から闇竜神の戦艦が爆発するのが見える。

「や、闇竜神の緊急避難艇、完全に沈黙」

 そんなオペレータの言葉に全員目が点になっていた。

 戦いと関係ない場所で戦いと関係ない何かが飛んで来て闇竜神ノクティスの船が爆発して宇宙の藻屑となっていく。


「え、えーと……。生き残りは?」

「生命体の類は確認できません。熱源なし…です」

「神の波動は?」

「ありません」

「転移痕は?」

「ありません」


 ………。

 あの恐ろしい大神がよく分からない事故で死亡?あり得るのか?

 神だぞ?

 誰もが理解できず言葉を失っていた。


 イリアスは何とか状況を整理しようと考える。

「何か赤い何かが飛んできたけど……何だったんだ、アレは……隕石…じゃなくて……」

「赤いヒヨコに見えたデース!人間と同じくらいのサイズでしたヨ!」

「僕もそう見えたけども!何でいきなり宇宙の彼方からヒヨコが飛んでくるんだよ!?レーダー感知内に突然ヒヨコが現れて闇竜神を討って地球に落ちて行ったって事か!?」


 すると火精霊達がピョンピョンと飛んで喜んでいた。


 オオ、ピヨチャンガヤッタ!

 サスガピヨチャン ボクタチノホシ!


 オールハイルピヨちゃん!

 オールハイルピヨちゃん!

 オールハイルピヨちゃん!


 サア、ミンナ!

 ヒヨコウタ・イチバンだ!


 ヒヨコノイロノ クレナイニホフ

 フルシュドルフハ ワレラガ キョード

 アカノ ヒヨコノ イヤ トシノハニ

 ワガヒヨコノ サカユクスガタ

 オチノセーシン シンシュノギセイ

 コレコソ ワレラガ ピヨノココロヨ

 イマゾ ワレラヒヨコ

 イザオドレ ピヨヨ ヒヨコニ


 火精霊達は足を肩幅よりも広げて空を仰ぐように歌っていた。

 そして、ヒヨコウタを歌い終えると、ビシッと足を揃えて、敬礼をしながら、すうううと宇宙の中に消えて行くのだった。


「あの………アレについて言及して良いか?」

「何を?」

「あれ、闇竜神よりやばくないか?」

「見なかった事にしませんか?」

 露骨に嫌な顔をする部下にイリアスは頭痛を抑えるように自身のこめかみを揉むのだった。


「浅香に良い土産話が出来マシた!空飛ぶ赤いヒヨコの話デース!」

 嬉しそうに語るアリアに、エルシーは兄と同じように自身のこめかみを揉みながら頭痛を抑えていた。


 後に、駿介から事情を聴いた浅香が、彼らとの再会時に話を聞いて思い切り引きつっていたのはまた別の話。

 そしてイリアスの恋路が上手くいったのかどうかも、また別の話であった。




***




 1人異次元を移動している駿介がいた。

 いつになったら辿り着くのだろうか?そんな事を考えていると女神から通信が入る。

『ピヨちゃんが結構遠くにに堕ちたので貴方の方へ送ります。あとはよろしくお願いいたしますよ』

「やべー、やっちまった。あの新種のヒヨコどうすんだよ。でかいから隠すに隠せねえよ!」

『そこはあなたの責任で』

「というか、俺はどこに向かってんだよ!本当に地球に辿り着くんだよな!」

『勿論です!時間軸は修学旅行組と同じですが、ちゃんと元の場所に戻してますよ!』

「…ちょ、ちょっと待て。も、……元の場所?」

 駿介は必死に記憶を探る。一体自分はどこから異世界に飛ばされたのか、地球時間では1年ちょっとだが、体感では何十年もたっているので忘れかけていた。

 確か……あの日は暴力団を壊滅させて、証拠を海に捨ててから、家に帰ろうと水門橋を渡っていたら……たしか和服の幼女が………。

 そうだ、和服の幼女を助けようとして車にはねられて体が宙に浮かんで…… 人間って車に引かれたらあの高い水門を越えちゃうくらい飛ぶんだなぁ…とか思ったりしたけど……。確か海というか水門の奥に着水して……。


「ちょ、ちょ、ちょ、ま、ま…待て!バカ女神!それって、俺、車にはねられて宙に舞っている場所からって事か!?」

『ソーデスネ』

「ふざけんな!バカーッ!」

『今までありがとうございました。今生の別れになりますが、……あ、ならないかな?とにかく、残りの人生を頑張ってくださいね。駿介は一応神格持ちだから死んだらこっち行きですからねぇ』

「行かねえよ!誰かに全部押し付けて人として死ぬ予定だからな!……あ、ヒヨコがちょうどいいや」

 そんな声を聴きながら、駿介真っ黒な世界から一転していきなり青い空が広がる。

 異世界から地球に戻ってきた。


 場所は浜松の隣、磐田市のぼう僧川の先、水門のある橋の道の上に放り投げられた。

 奇しくも1年半前を再現するかのように、水門を背面飛びで乗り越えるように異世界から地球に到着し、頭から水門を越えてぼう僧川へバックロールエントリーを決める事になるのだった。


 当時、朝だったが見ていた人がいたためにちょっとした騒ぎになった。

 だが、この日は朝ではなく真昼間。

 しかも偶々人通りの多いタイミングだったため、ちょっとした騒ぎどころではなかった。

 誰もが驚くことになる。


 いきなり人が水門の麓に現れてトラックが無いのにトラックに、というか某ストリートファイターに昇●拳でも食らったかのように体を持ち上げられて、水門を越えて頭から川に着水したからだ。

 ちょっとした騒ぎどころか突然人が宙に現れて川に落ちたのだ。


「や、焼き直すなよ……」


 途中からなら川に落ちた後からだろ。飛び込むところをリプレイするなよ。

 ぐったりしたまま駿介は意識が遠ざかるのを感じる。

 拙い、世界が変わった為に疲れて体が動かん。折角戻って来て早々死ぬんじゃないか、このままなら……


 慌てて起きようとするが体が動かない。すると空からものすごい勢いで更に赤いヒヨコが落ちて来る。

「ピヨヨーッ!」

「メテオインパクトか!?ゴボッ!」

 空から赤く燃えたヒヨコが降って来て自分の腹を抉るのだった。

「あ……これ、死んだ」


 アドモスと戦った時も、大北海大陸統一した時も、闇竜神と戦った時も感じなかった死が、ピヨスパイラルメテオアタックという超新技を食らって意識を手放しかけていた。

 奇しくも神殺しの必殺技が駿介という現代の剣神に激突したのだった。

 剣の神格、すなわち鋼の神格をもってして何とか耐えたが、折れぬ曲がらずの神格をフル動員してどうにか腹を貫かれずに済んだ。

 これ、下手すると上位の神でも軽く殺せないか?くらいの勢いだった。

 とはいえ、駿介は駿介で、それを堪えても関係なく死にそうなのは事実だった。


「ピヨヨーッ」

 バシャバシャとヒヨコは溺れそうになるが、よくよく考えたらヒヨコはヒヨコで川には浮く生物だから沈んだりはしなかった。

 駿介は死にそうな気持ちながらも、ヒヨコを浮き輪代わりに掴んで命をつなぎとめる。


「せ、せめてもう少し違う復活の仕方ないのか。あと、ヒヨコよ。その大きさだと明らかに新種のヒヨコとして研究者に解剖される未来しか見えないのだが…」

「ピヨピヨ!?ピヨヨーッ!」

 そうは言われても困る、とでも言っているようだが、ヒヨコはヒヨコで慌てていた。ヒヨコはポムと手羽を叩いて何かを思い出す。

「ピーヨッ!」


 ヒヨコ化の法、ヒヨコがヒヨコに使う事で、ヒヨコの姿はどこからどう見ても赤いだけのただの小さいヒヨコちゃん。屋台に売られてる目に優しい桃色のカラーヒヨコになったのだった。


「ピヨピヨ」


 川に浮かべても移動能力は体が小さくなった分だけ小さくなってしまい、体感距離が岸まで更に遠ざかってしまった。

 ヒヨコ、万事休すか!?


 駿介は駿介で大変な思いをしていた。ヒヨコが浮き輪代わりにならなくなり、本気で死にかける事になったからだ。


「誰か!人が川に落ちたぞ!」

「消防を呼べ!」

「レスキューだ!」

 にわかにあわただしくなる静岡県磐田市の外れにある風景だった。




***




 北海道では何事もなかったように修学旅行が行われていた。

 百合は智子と共に同じ班の友人たちと部屋で休んでいた。

「やばいやばい。さっき弥島が宮埜さんに告ってた!見ちゃったよ」

「私も誰かに告られないかなぁ」

「ないない」

 女性陣は相も変わらず姦しい。

「倉橋さん、魔法使えないんだけど!折角、向こうで覚えた異世界チート魔法がここで使えないなんて!」

「あっちで使ってた魔法って、色んな処理を全部女神がやってたからね。新しく魔法を作れるような天才ならともかく、こっちの世界だと女神の補助が無いから無理でしょ」

「そんな。折角異世界魔法でこっちの世界でも無双する予定だったのに」

「半年も頑張って魔法を覚えたのに!私も倉橋さんみたいな陰陽術が欲しい」

「幼稚園の頃から命懸けの修行をして、何度も呪霊に殺されかけての私だから、そこらで異世界に行った高校生が、半年努力した位で私みたいになられたらこっちが困るわよ。あと、使えなくて正解よ。こっちの世界は魔法管理が厳しいから、後ろ盾のない人間が魔法を使えたところでその筋の人間が出て来て殺されかねないからね」

「厳しいよ」

「そんなぁ」

「私の高速移動が全く使えない!」

「スキル系はほとんど女神の補助だからねぇ。それこそ、スキル補助に従ったスキルレベルアップではなく、自力で頑張り相当の実力と認められてのスキルレベルを上げないとねぇ…」

 倉橋はバッサリと切り落とす。

「まあ、向こうの世界でも向こうの世界なりに頑張っている人がいて、ちょっと異世界行って女神様のサポートで強くなっても、上には上がいるんでしょう?異世界でもこっちでもね」

 智子がちくりと口にする。

 ラノベでは異世界行って無双するという定番があった。だが、向こうにも天才がいて努力して、皆が必死に頑張っている。地球より過酷で、昔から魔法と親しんでいる。

 そんな世界で、素人が放り込まれて無双できる筈もない。敵も味方も本当に凄い人がいた。

 そして向こうの技術を貰って使えると思っていても、こっちにない仕組みがこっちで使える筈もない。

 ちょっと考えればわかる事だ。


「そんな~」

「世の中は甘くないって事ね」

 ガッカリする一人の女子に、部屋の皆がゲラゲラ笑う。


 百合はスマホを見ながら連絡を待っていた。

「何の連絡もないけど……駿介君、着いたのかなぁ?」

「確かに……アイツ、直に連絡すると思ってたけど……」

「あ、でも、スマホとか制服とか戻って来てくれてよかった。そこら辺は何もなかったようにサービスしてくれたんだね」

「神龍並みに気前のいい神様だったね」

「アハハハ言えてる」

 この班は百合と智子を含めて、全員が記憶を持って帰った1組のメンバーで、品行方正で楽しく修学旅行を満喫していた。

 そんな中、北海道のテレビ局のテレビを見ていると、ニュース番組なのに、何か毛色の違う報道が入るのだった。


『何と二日前、この静岡県磐田市ほう僧川の水門で不思議な事件が起こったのです!』

 リポーターが百合達の地元を歩きながらマイクを持って語っていた。

 街を歩く人にインタビューすると目撃者が証言を語る。

『驚きました』

『マジあり得ないっていうか~』

『本当に…突然人間が現れたんですよ!真昼間に突然目の前にです。アレは絶対にワープですよ』

『僕は見ました、人間が現れたのを!ほんとですよ!嘘じゃないです!』

 目線にモザイクのかかった、ちょっと高めの変声機を通した声で熱心に語っていた。


『二日前の10時ごろ、丁度人通りの多かったこのほう僧川水門付近に人が突然現れたのです!誰に聞いてもワープしたかのように現れたというのです!そこで取材陣はそのワープして現れたというものが何者か調査してみました!』


 消防署の職員が語る。

『いや、驚いたよ。高校生くらいの少年が突然現れて、水門を飛び越えて溺れてるって情報を聞いてね。慌てて飛びこんだんだ』

と職員は冗談を交える事なく冷静に話していた。

『助けてみたら驚いたよ。去年の夏頃かなぁ。高校生が車に引かれて水門の上に吹き飛ばされて行方不明になった事件があったんだけどね、その時の被害者の子だったんだよ!』


『何と、その少年は、1年半前、この磐田市で交通事故に遭って行方不明になった少年だというのです。まるで1年半の時を越えて車に引かれてこの時間に飛んできたような事件が起こったのです!』

『嘘のような本当の話ですね!』

『果たしてタイムリープは本当にあったのか、検証をしようと思います!』


「ミステリーになっているよ、あいつ!」

「アハハハハハッ!」

 百合の嘆きの声に班員全員が大爆笑だった。


『また、少年は記憶が混濁しており、1年半前の暴力団殺害事件の犯人を自称しており、証拠を隠滅してから、家に帰る途中に車に引かれて異世界に飛ばされた。異世界で神様を殺して神様になった』などという意味不明な妄言を残していたそうです』

『もしかしたらタイムリープで混乱しているんでしょうね』


「本当の事を言っているのに誰も信じてないし!」

「やばい、沖田君。変な事を言うバカになってる!」

「お腹痛い…」

「誰かコ●ン君を呼んで事件を解決して!」

「そもそも誰が異世界転移を証明するの?」

「皆で証明する?」

「うちの班員が駿介君と同列扱いされるから辞めて!」


 百合の部屋の班員は全員で、腹を抱えて大爆笑していた。捧腹絶倒とはこのことかもしれない。

 異世界に行ってきた面々にとっては、戻って来てから初めて心から笑えた話だったという。

 笑っている中、智子はいつの間にか横にいた親友がいない事に気付く。どこに行ったんだろうと首を傾げる。

 もしかしたら一人になりたいのかな?

 物心ついたころから一緒にいた幼馴染の帰還だ。あの気丈な親友が、事件の日は泣いて取り乱していた程だ。

 智子はそんな事を感じるのだった。




 皆で馬鹿笑いをする中、百合はその輪の中から一人で抜けて、廊下を歩く。

 寒い中、白い息を吐きながら空を見上げる。空は雲に覆われコンコンと雪を降らせていた。そんな中、雲と雲の間から丸い月だけが覗いていた。

 

「おかえり、駿介」

 戻ってきた幼馴染へつぶやき、小さく微笑むのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒヨコ神♡ [一言] 女神様は17歳教信者さん?
2024/03/24 19:54 退会済み
管理
[良い点] ひよこのキャラがすきです [一言] 少し前から読ませていただきましたが内容が好みでいっきに読んでしまいました。2回も(笑)。終わるんですか? 久々にいい作品に出会えて先も読みたいという残念…
[良い点] ひよこのキャラが好きです [一言] 少し前から読ませていただきましたが内容が好みでいっきに読んでしまいました。2回も(笑)。終わるんですか? 久々にいい作品に出会えて先も読みたいという残念…
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