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最終章44話 ヒヨコインパクト〜前〜

 ノクティスの権能によってイリアスの軍は乗っ取られ、自身の軍によって総攻撃を受ける。

 まさに絶体絶命の状況にイリアスは焦っていた。

 自分勝手で、博打など好まないノクティスが、化身ではなく直接仕掛けて来るとは思いもしてなかった。

「くそ……生身で乗り込むとは……ノクティス……」

 次々とアラームが艦内の鳴り響く。

 対処する人間も手が回らなくなっていた。

 自身の保有する艦隊によって包囲されて、自身の母船が袋叩きにされているのだ。ありえない事態だったが、それが出来る相手だった。


「侮っていたのは僕という事だったのか……くっ…」

 ノクティスの権能によって手も足も出なくなったイリアスは歯噛みする。


「司令!どうしますか!?」

「全員退避だ!このままでは全滅だ。せめて……誰か一人でも生き延びてIDPKにノクティス襲来の報を届けなければ……。奴の権能は知らぬうちに支配されて病魔のように蔓延する。前回の騒動でも多くの上層部が廃神となってしまっているんだ。最低でも情報は持ち帰らないと拙い!」

 イリアスは泣きたいのを我慢して艦長帽を深くかぶって歯を食いしばる。


「せめて…死ぬ前に君に僕の想いを伝えたかった。……浅香…僕は君を愛していた………」

 燃え盛る艦内で己の最期を悟り宇宙空間に存在する忌々しき怨敵ノクティスの旗艦を見上げる。


 そんな時、イリアスの目の前でノクティスの旗艦ディザスターが火を噴いた。


「え?」


 大爆発で機関部が燃えて飛び散る。

ノクティス配下の艦隊が次々と燃えていく。ついた炎が一気に燃え上がるように広がっていくのだった。太陽の爆発のような恐ろしい程のエネルギーが巨大戦艦を呑み込んでいく。



 オールハイルピヨちゃん

 オールハイルピヨちゃん

 オールハイルピヨちゃん



 どこからともなく変な声が聞こえる。精霊?宇宙空間に?何故?

 自問自答してしまうイリアスは目の前にいる火の精霊に首を傾げていた。



 ヤミセイレイドコ? ココイナーイ

 アッチデミタヨ? モエテル モエテルネ モエモエダ

 モエモエキュン? オイシクナーレ?

 チガウヨ モエモエダヨ オイシクナイヨ?

 マツリダ マツリダ

 アッチニタクサン ヤミセイレイ イルヨ

 ミツケタ ミツケタ ホメホメ ウレシイ

 サキイカレタ オクレトルナ

 ミンナアツマレ ヒヨコダンス ハジメルヨ!


 オールハイルピヨちゃん

 オールハイルピヨちゃん


 自分の戦艦に、いつの間にか火精霊がいて何かを探している様子だった。

 こっちには目もくれず現れたら、ピョコンピョコンとディザスターの方へと飛んでいくのだった。

 宇宙空間に火精霊の懸け橋が生まれディザスターの方へと炎の波が襲い掛かっていた。


 オールハイルピヨちゃん

 オールハイルピヨちゃん


 イリアスは窮地に立たされている中、突然敵艦ディザスターが燃え出したことに驚いていた。もはや破滅は免れまいと諦めかけていたからだ。


 だが、火精霊の襲来と共に、時空戦艦空母アテーナーは突然ノクティスの支配から解放されていた。

「はっ!?」

「あれ、どうして我々は……」

「も、申し訳ありません!私は何という事を!」

「何故か私が…艦に被害を…」


 自分の戦艦を攻撃していた部下から慌てた様子で通信が入る。

 何故か彼らはノクティスの支配から解放されていた。


「避難だ!全員撤退だ!僕達もここから離脱する。」

「はっ!」

 時空戦艦空母アテーナーの動きはノクティスの支配から解き放たれると迅速だった。





***




 ノクティスとイリアスの起こした戦争はノクティスの権能によってあっという間に戦闘はノクティスが優勢に進めだす。


 軍神の権能を持つイリアスがまるで何の役にも立っていなかった。

 そんな戦況を眺め、ノクティスは高笑いを隠せずにいた。


 モニター越しであるが、自身の権能によって仲間達に裏切られたIDPKの空母アテーナーが今にも沈もうとしていたからだ。

 自信満々で戦を挑んできて、自分が倒す側だとでも思ったのかもしれない。だが、あのような若造に負ける要素など何一つなかった。

 余りにも滑稽だ。


 副会長以上が着艦する事になるリヴァイアサン級戦艦空母、一つの師団相当の軍隊が丸々詰め込める巨大戦艦を互いに持っている状況にある。つまりは自分と同型艦に乗り、同レベルの戦力を抱えているというのに、これだけの差が出てしまっているという事だ。。


 つまり、これこそが自分とイリアスの決定的な実力差という事だ。


 IDPKの中でも1~2を争う脅威を持った戦艦アテーナーが、闇竜神の持つ戦艦ディザスターによってあっさりと陥落する。

 ノクティスにとって気持ちの良いモノだった。


「所詮は元人間の神よ。俺とでは格が違う。あの世で生まれてきたことを後悔するがいい」


 結局は神としての地力の差が出ていた。


 イリアスは未来世界に誕生した人の身でありながら数多のまつろわぬ神々を倒し、IDPK副会長にまで登り詰めた英雄であり神格を獲得した絶対者である。

 人の身で神になった事に関しては褒めてやってもいい。


 だが、所詮はそれ止まりだ。


 邪魔者が消えたら、IDPKを再び乗っ取り、今度は俺の世界を作るのみだ。

 忌々しきはクレナイの親族よ。

 まさか俺の世界で子供を作って、その子供が俺を狙うとは……。…………、もはや容赦はせん。


「ノクティス様、イリアス陣営退避を始めているようです」

「逃げ出すものがいないかモニターをチェックせよ!徹底して潰せ!俺は奴らのような詰めの悪い神ではない。叩くときは叩き、絶対に逃げる隙など与えたりはせん!」


 戦艦ディザスターにて哄笑する闇竜神ノクティス。三千世界有数の神がついにIDPKの一大勢力を叩き潰し、地球へと手を伸ばそうとしていた。



 ミツケタ



 ゆったりと座り余裕を持てモニターを眺めていたノクティスは片眉を持ち上げて周りを見渡す。

「誰か何か言ったか?」

「いえ、我々は何も」

「ふむ」


 ノクティスは首を捻る。確かに聞こえたような気がした。だが、洗脳しきっている部下達が自分に嘘を吐くはずも無いのだ。だから空耳なのだろうと考えようとする。



 ミツケタ ミツケタネ? ミツケタヨ ミツケッチャッタ

 コレデホメラレル? イーコイーコシテクレルニチガイナイ

 ミンナアツマレ ミンナアツマレ

 ヒヨコダンス ハジメルヨー!



 また何か声が聞こえた…ような気がした。

「いや、確かに聞こえた。誰だ、小声で話している奴は!」

「確かに聞こえましたが……」

「我々は何も…」

 オペレータの部下達も周りを見渡す。


 するといきなり自分の部下が発火して燃える。周りが悲鳴を上げるのだった。

 次々と自分の部下が燃えてしまう。最強の戦力を整える為に、生まれた頃から地獄の訓練を施して闇の精霊に浸かり切った洗脳された人間だ。最高の優れた自分の話す意図を正確に理解して動く自分の傀儡が一瞬で燃え尽きたのだった。

 まるで燃え尽きる火のようにボッと火を大きくして消えて行く。

 それどころではなかった。自分の関わった全てが、戦艦の各パーツまでもが、その隅々に至るまで発火する。

 まるで一時の灯火のように炎が燃えて人間も部品も何もかもが消えていく。


 一時遅れてけたたましくアラームが鳴り響く。同時に戦艦内が真っ赤に点滅する。モニター画面が全て『WORNING』の文字で満たされていた。


「なっ、何が起きた!?」

 ノクティスは慌ててしまう。

 神が慌てる必要はない。それは当然だ。そもそも宇宙空間に放り出されて死ぬほど弱い身でもない。分かっているのにも拘らずだ。

 だが、いつも化身を使って遊び半分で人間をおちょくっていたが、今日ばかりは本体で移動していた。心に少しだけ余裕がなかった。


 だが、本体だからこそ圧倒的な権能を持っている。

 最強クラスの神が抑え込もうとしても、自分の権能には抗えない程の力があるのは確かだ。それは目の前で炎上している戦艦アテーナーが示している。


 この体で本気ならそこそこの神さえも傀儡に出来るほどの強い権能がある。

 事実、数多の時空事件を解決し多くのまつろわぬ神々を滅ぼしたイリアスは軍神の権能持ちだ。その軍神が、ノクティスの権能によって軍を掌握できなくなっているのだ。

 数千の神々が束になっても自分の権能の前では無力。

 それこそがノクティスが誰からも畏れられる所以である。


 だが、この本体は死ねば終わりだ。いつものようにゲーム気分ではいられなかった。


 余裕は捨てろ。本気で行くぞ!今現れた精霊も、自分が乗っ取ってやればそれですべて終わりなのだから!

 ノクティスは落ち着いて思い直す。

 権能を使って火精霊達を乗っ取ろうとする。

 どこのどいつか知らないが、こいつらを乗っ取って報復だ!

 精霊どもよ!我に従え!



 オールハイルピヨちゃん!

 オールハイルピヨちゃん!

 オールハイルピヨちゃん!

 オールハイルピヨちゃん!




 火の精霊達がとこからともなく現れる。大量にこの戦艦に集まり出す。次元を超えてピョンピョンと現れて、次々と燃え移って数を増やしていく。

 全く言う事を聞く様子もない。


 バカな!?ありえない。俺の権能が効かない精霊なんてあり得ない。


 そもそも、宇宙空間に火の精霊が現れる事があり得ない。よく考えたら、ではなくよく考える以前の問題だ。

 結局、火の精霊は大気が無ければ燃えられない。だったら、この宇宙空間にいるあの精霊の群れは何なのだ?

 そう疑問を思い、宇宙を眺めて直にノクティスは気付いてしまう。


 宇宙に浮かぶ太陽が目に入ったからだ。

 太陽の権能、唯一宇宙空間で燃える権能である。



 太陽と不死の権能!?



 太陽は宇宙空間の中でも燃え盛る。

 核融合によって生み出された紅炎だ。だが、穏健派であり、どこの派閥にも属さない太陽と不死の神が何故自分を攻める!?

 俺が気に入らないのならば、遠い過去に滅ぼしに来ていた筈だ。

 ノクティスは混乱する頭で必死に考えていた。そもそも太陽と不死の神に対しては何もしなかった。


 自身の世界でクレナイをイグニスに殺させたのはそれが理由だ。


 クレナイこそが太陽と不死の神の化身、最強不敗の化物だ。太陽だけでもない、不死だけでもない。太陽と不死だから危険なのだ。

 古代の太陽は大した意味は持たない。何故なら多くの世界において天動説時代の太陽を語る事が多い。太陽の神は天体の一つであり、生まれ生きる人々の住む大地より小さい存在だからだ。月と並んで語られることが多くつまりは重要な意味が全く含まれていない。


 故にこそ天の神と地の神がいて、太陽の神はその下に来ることになる。


 だが地動説が有力視される世界においての太陽神は違う。自分たちが住む星が太陽の周りに回っているという時点で太陽の大きさを理解してしまうからだ。あの世界の太陽神クレナイが巨大な存在だったのはそういう理由からだ。地平線が丸く即座に地動説が有力視されてしまった世界では、早い段階で世界の始まりも終わりも太陽によって定められる信仰が生まれてしまう。

 故に、あの世界では太陽神から破壊神が生まれるというのは神話体系でも自然な流れでもあった。


 そして、太陽に不死が付くというのは、大半が地動説の太陽である。勿論、天動説の場合もあるが、不滅の太陽は闇や夜にとって非常に強い。勝てる余地が一切ない。


 故にこそ、ノクティスはあんな化物を敵に回すわけにはいかないと知っている。何せ、奴は化身からでも圧倒的な火力で本体を燃やしてしまうような権能があるからだ。


 不滅の太陽。


 太陽という遍くすべての生命体にとって、なくてはならない存在である。そして、滅ぼすこと自体が、世界の死、ひいては自分の滅びにも直結する。


 故にこそ原初の存在。

 故にこそ最高神の中の最高神。

 あの世界におけるクレナイとはそういう存在だった。

 何せ、闇の中でも輝く暁の女神、自分にとっては天敵の存在でさえも“従えられる”存在なのだから。


 だからこそ不滅の太陽を冠する神は、三千世界においても常に中立を貫いていた。だが、自分は現在進行形でクレナイと同系統の炎によって危機に立たされている。

 ありえない事が起きた。

 敵対してないのにどうして俺を襲うのだ!?

 そんな事を考えながら、ノクティスは若干涙目だった。


 まずい!


 神として周りを舐め切って生きていたノクティスは、初めて自分の死が近くにある事に気付く。背筋が凍り付いていた。

 神である自分が、まさか神ではなく精霊に殺される?そんな筈は無い!

 だが、相手はあまりにも相性が悪かった。


 精霊に捕まっただけ、本人の前に立ったわけではない。そう自分に言い聞かせる。


 死なないまでも酷い目に遭うだけだと心を落ち着かせようとする。


 だが、かつて異なる世界で一度だけ不滅の太陽神に手を出した事がある。

 こっぴどくやられ、プライドの何もかもズタズタに切り裂かれ、化身が再起不能になり、フィードバックした痛みによって本体が1億年ほど寝込まねば危険な状態になる程やられた。


 たしかあの時もピヨリックスだとか……うっ、頭が痛い。思い出せない。


 そう、ちょっと酷い目どころかトラウマ級のダメージだったので、死にはしないと高を括れない。次は死ぬかもしれないと思っていたからだ。


 あの世界で遊んでイグニスに負けた時とでは比較にもならない。


 その痛みを思い出しどうやっても冷静になれなかった。手が震え、のどが熱くなる。神である自分がまるで小僧のように焦っていた。

 気付いた時には既に戦艦は燃え盛り、取り返しのつかない状況になっていた。


「俺は脱出する!貴様らはそこで火精霊どもを止めよ!」

「そんな、ノクティス様!?」

 死を宣告された部下達は簡単に切り捨てられてショックな顔をする。

「喜べ!私の為にその命を捧げよ。命令だ!」

「承知いたしました!」

「かしこま……ああああ…」

 ノクティスの命令には逆らえない。死して彼の為になる事を喜びとなってしまった彼らは嬉しそうに火精霊に焼かれて死んでいくのだった。

 泣きながら恐怖におびえっつ、喜び死ににいく姿を眺めながら、ノクティスは一人で駆けだす。


 次々と燃え尽きて死んでいく自身の配下たち。戦艦の崩壊ももはや止まりそうにもない。自身の闇精霊は何もかも燃やされていく。


 オールハイルピヨちゃん!

 オールハイルピヨちゃん!

 オールハイルピヨちゃん!

 オールハイルピヨちゃん!

 オールハイルピヨちゃん!


 どこかヒヨコのような姿をした小さい火の精霊達が行進をしてしながら進み、見つけ次第闇精霊を燃やしていく。


 大体、ピヨちゃんって何なんだよ!?クレナイじゃないのか?不滅の太陽神の化身の一種か!?


 ノクティスは必死にディザスター内を走って、救命艇のある場所へと向かっていた。


 彼はただただ自身の生に縋っていた。考えの中に他人など微塵も考えてない。自分がすべてだったからだ。

 どうやったら生き延びられるかだけを考えており、そこに他人の命なんて勘定にさえ入ってなかった。

 船に乗り込んで離脱のボタンを押す。ただ自分だけが逃れる為に必死だった。


 船が離脱を始め、ホッとした時にふと思い出すのだった。

 そういえばあの精霊達はイグニスという破壊神が生まれたあの世界で、若いドラゴンと一緒になって俺の化身をぼこぼこにしてくれたヒヨコに似ていると思い出していた。




***




 イリアスは心から安堵していた。

 他のIDPKに救助を呼びながら、全員が逃げたのを確認して避難船に乗る。


 燃え堕ちるディザスターを眺め自身の幸運をかみしめていた。


「もう終わりだと思っていたがな」

「あの紅炎の精霊、太陽神様でしょうか?」

 部下の一人が首を傾げていた。

「でも、ちょっと火精霊は可愛かったデース。ヒヨコみたいな姿をしてました?」

「確かに。でもノクティスは計算高い神よ。太陽神に喧嘩なんて売らないでしょう。真正面に立つだけで滅びるような相手なんだから。夜や闇なんて、太陽にとっては逃げ回るしかできない存在でしょう?逆に言えば逃げる能力が高いから闇竜神は厄介なんだけど」

 妹がそんな事を口にしており、実際にその通り厄介な神だった。

 そう、逃げさせたらある意味で最悪の神だ。

 光をも置き去りにして逃げ切る速度と、更には闇竜神は重力も司っており、力を使えば自分に届かせまいとする事も出来る。

 軍を支配するイリアスでさえも闇竜神の権能の前では無力だったのだから。


「司令、滅びるディザスターから一隻の船が……」

「すぐそこにいるというのに……」

「まだ動ける船がいます!攻撃をさせますか?」

「それは悪手だ。それが奴の権能に捕まって、無防備な我らに仲間から襲い掛かられたら最悪な事になる。何も考えず撤収だ!」

「くっ……忌々しい」

「気持ちは分かるが皆同じ気持ちだ。それがこの世界の……神の世界の理だ」

 イリアスは溜息を吐く。


 強大な敵を命からがら退けた。それだけで満足するしかない。

「せめて、太陽が二つあれば……」


 するとどこからともなく録音機から音声が漏れるように聞こえてくる。

「やば、アリアってば何を録音してるの?」

 銀髪ロングの美女エルシーが驚いた様子で声を漏らす。

「これ、浅香にお土産デース」

 ニマニマしている金髪の美少女アリアが録音機をプラプラと揺らして笑っていた。

「でも当の浅香は大丈夫かなぁ。闇竜神のいた世界にいたんでしょう?」

「場所が分かった以上、どうにでもなるデース。今の様子なら支配からも解放されていると思いますし、時間軸もそこまでずれてないのは分かったのですから!先行き明るいデース!」

「そうね。どのくらい時間がたったかは懸念している所だけど……。闇竜神の言葉の範囲ではさほど時間差はなさそうよね」

 エルシーは少しだけ笑みを見せる。

 エルシーにとって、浅香という親友は14年もの付き合いがある。

 時にぶつかり合い、時に背を預け戦い、あるいは肩を並べて強大な敵と戦い続けてきた親友であり、そして戦友でもある。

 それこそかつて敵だったアリアと対峙した時でさえ、共に肩を並べていた初めての同じ魔法少女の友達だった。

 エルシーはもしも浅香に何かあったらと思うだけで胸が苦しくなる。

 だが、アリアが言うように大丈夫だろう。共に神殺しの成した魔法少女仲間が、いくらあの闇竜神であってもそう簡単に屈する筈が無い。浅香の後ろにいた神は明けの明星を司る女神だったのだから。


「ところでお前達、何を録音したと?」

「え、ああ、兄さんは知らなくて良い………」

『せめて…死ぬ前に君に僕の想いを伝えたかった。……浅香…僕は君を愛していた………』

「ぎゃああああああああああっ!」

 アリアがその記録媒体の音を流すと、その音声を聞いて周りにいる女性の部下達はキャアッと黄色い声を上げ、イリアスは頭を抱えて物凄い悲鳴を上げるのだった。


「その録音機は没収する!!」

 イリアスは慌ててアリアから録音機を奪おうとするがアリアはそれを奪われまいとする。

「いやデース。おっと、手が滑って胸の谷間に挟まってしまったデス。これ、奪ったら、浅香に言いつけてやるデスよ。司令が私の谷間に挟まった録音機に興味津々だったと。私のおっぱいの中に手を突っ込んで奪ったと!」

「卑怯だぞ!アリア!」

「迂闊な音声を残してはいけない。私がIDPKに入る前に私に言ったのは確か司令だったと思いマース」

「そんな昔の事を持ち出すな!」


 敵の命令に従ってレリック強奪をしていたアリアが自分のやっている事に疑問を持ってうっかり味方と思っている側への不満を呟いた為に、IDPKは全力で自分を保護するために動いたのだった。

 その時、その呟きを聞いたのは浅香で、何で自分なんかの為にここまでしてくれたのかと聞いた際に答えたのはイリアスだった。

 本当は困っているのを察したから助けようと決めたのであって、決して弱みになるような事を口にするなという意味ではないが……。


 ギャアギャアと騒ぐ一同を眺め、エアリー苦笑していると、自分のスマホにピコンと通信が入った事に気付く。

「あ、浅香から連絡だ。………ふふふふ、何それ……よく分からないんだけど。……色々大変だったけど大丈夫だったみたいだよ、アリア」

「本当デスか?」

「うん」

 エアリーは浅香からの連絡をアリアに見せる


「1年前に亡くなった教え子が、先に異世界に渡って神様になって闇竜神を追い出すのに一役を買ってた?何デスか、これ。浅香は神の先生になったデスか?」

「でしょ。修学旅行が終わったら落ち着いて話そうね…と、送信。こっちでも闇竜神と一悶着あったのはその時で話すかなぁ」

「私も良いお土産あると伝えておいてくださーい」

「そうだね」

「それは辞めろ!えと、お願いだから辞めてください」

 イリアスも流石に文句も言えなくなって来る。最後は命令ではなく下手に土下座を敢行するしかないかと悩んでいる所だった。


 だが、次の刹那で誰もが絶句する結末を迎える。




***




 ノクティスは避難船で一息ついていた。

 危険な状況だったが、これで大丈夫。俺の権能の前ではイリアスでは手も足も出まい。

 あの精霊が少々厄介だったが、さすがにもう俺を襲ってくることはないだろう。


 そう思って安堵していた。安堵だ。

 椅子に座り空を見上げて溜息を吐く。イリアスを縊り殺して、あの地球とか言う世界を手に入れて遊ぼうと思ったが、それは次回の遊びにしよう。

 それにしても何で俺が太陽神なんかに襲われねばならんのだ。

 度し難い。

 逃げるのではなく、今度は本気で奴を殺すことを企んでみるか。

 襲い掛かってきたところで俺の権能の前ならば、それこそ逃げられない場所に突然攻め込んでこなければ、負ける事は……ん?


 なんだアレは?


 そらから赤い何かがこちらへ近づいてくるのが分かる。

 何だろう?

 凄く嫌な予感がする。宇宙に浮かぶ赤い何かが避難船に一直線に飛んでくる。


 何故だ!奴は何者で、何故私を襲う!?理解できん!

 来るな!これ以上近付くな!?何故だ、どうして俺を襲うんだ!?クレナイよ、まさかイグニスを利用してお前を殺した犯人が私だと気付いたのか?気付いたってお前は気にしない男だろう?


 何故だ!?

 来るな!来るな来るな来るな……こ、来ないでください、太陽神様!?

 ノクティスは走って逃げようとするが、宇宙船の中なので逃げれる範囲は決まっている。そして、逃げるコースに空から赤い何かが体を錐揉みしながら跳んでくる。


「あ」


 ノクティスはモニターが壊れると、同時に赤いヒヨコが回転しながら宇宙船を貫いて俺の目の前に現れたと思った瞬間、自分を貫いて過ぎ去っていくのだった。

 何が起こったのか理解できず、ノクティスは胸を押さえて避難船の中で倒れる。


「な……何故…?お、俺は世界の……あ……」

 ノクティスは薄れゆく意識の中で燃え盛る避難船に一人取り残されていた。


 息が出来ない。


 体が失ったのならば……他の体に乗り換えて……あれ?

 これは…ほん…たい……だっ……け。

 俺は………もしかして……謎のヒヨコのせいで………終わるのか?

 何十億年も生きた………俺………が………バカ……な…………


 何十億年も生き続けてきた闇竜神としての命が、この日突然謎のヒヨコが飛んで来て潰えるのだった。

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[良い点] ノクティスなんのドラマも無く認識すらされず滅されててざまぁ! [一言] 轢き逃げアタック!!
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