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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部2章 帝国皇領フルシュドルフ ヒヨコは踊る
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2章8話 狐はドラゴンに立ち向かう

 私たちはヒヨコの案内によって町沿いにある小さな林の中にポツンと存在する物置にやってきた。屋敷の中には馬車が置いてあり、今は家の前に繋がれていた。


「ピヨッ」

「この物置に馬車を置かれたとヒヨコが言ってます」

「ここは確かモーリッツ殿が物置に使いたいからと借りたいと言った場所でしたな」

 執事がボソッと思い出すように口にする。

「盗賊はとんだ愚かな事をしましたな。まさか盗んだものを盗まれた本人の物置に置くなんて。きっと誰も使ってないと思っていたのでしょうね」

「夜にでもばれないように運ぶつもりだったかな?確かにこんな馬車を運べば町の警備が気付きますしねぇ」

 とヒューゲル様が笑って口にし、護衛の男性がうんうんと頷きわざとらしく商人のモーリッツに尋ねる。

「ではモーリッツ殿、中を少々入れさせて貰ってよろしいかな?」

「ま、待っていただきたい。こんな場所に隠すとは思えん。ヒヨコの戯言などを聞いて」

 慌ててモーリッツと名乗る商人は護衛の男性とヒューゲル様の行く手を塞ごうと前に出る。

「だが、犯罪者が貴殿の建物の中にいるかもしれないんですよ。おっと入口が既に開いているようですね」

 ヒューゲル様は話をほとんど聞かずに入口の方へとずかずかと進む。既に入口の戸が開いているのでそのまま進むのだった。

「ピヨッ!(そうか、ヒヨコが脱出した時に開けっ放しだったのか)」

「ああ、通訳がなくても分かる。ヒヨコ君が脱出した時に開けっ放しだったという事だね」

「ピヨピヨ」

「では中に入らせてもらうよ」

「今は私に家に勝手に入られるのはいくらなんでも許される事じゃ…」

 無理やりズイッとヒューゲル様が中へと入ろうとする。モーリッツはかなり弱気になりつつもどうにか中に入らせまいと体を張って抑えようとする。

「太守代行権限があります。犯罪者がここに荷物を運びこんだ可能性がありますからね。もしかしたらヒヨコ君が出て行ったときはいなくても、戻ってきている可能性もあります。太守代行として犯罪者を見過ごせません。それに貴殿もの荷物以外のものが泥棒によってここに運び込まれている可能性もありますし、隠れてここにいるかもしれない!」


 うーわ。目が生き生きしてる。

 ヒューゲル様、モーリッツを守るみたいな口ぶりで貶める気満々だ。

中に盗賊がいるかもしれないのに、堂々と町ヒューゲル様は先頭を切って物置の中へと入っていく。


「あ、あの、危ないのではないでしょうか?もしも盗賊がいたら…」

「あら~、大丈夫よ。太守代行殿は危険察知のスキル持ちで、8年前にヘレントルダンジョンを攻略し、帝位争いで現皇帝陛下を勝利に導いた凄腕の冒険者だからね。縁あってこの町の太守代行になってなければ、勇者パーティに加入したラファエル様の護衛に付けるべきという声が上がっていたくらいなのよ。」

「どうりで……」

 そう、ステータスが明らかにおかしいと思っていた。

 何せ称号が賢者と大迷宮攻略者を持っているのだ。大迷宮攻略者とは、魔神の眷属が逃げ込んだダンジョン攻略者の事で、魔神の眷属は亜神に数えられる人類では勝利する事が不可能とさえ言われる存在だ。

 それに勝利しているのだ。盗賊なんかに負けるステータスなんてしていない。

 呪いがついていて素早さが他のステータスと比べて遅いが……もしかしたら今冒険者をやっていないのはそのせいなのかもしれない。

 ただ、それを貴族として為政者を可能にしているのは知識系万能型というステータス構成が効いているからなのだと思われる。


「気付いていたのかしら?」

 アンジェラさんが私に訊ねて来る。

「ええと……私はかなり強力な鑑定眼持ちなので。一介の貴族様のステータスとはとても思えなかったので」

「まあ、地方の太守代行を務めるような人では無いからねぇ」

 アンジェラさんは子爵令嬢(?)でヒューゲル様は男爵。

 しかもアンジェラさんの方が年上だというのに、アンジェラさんは明らかに町長さんの下手に出ている。

 お願い事を喜んで聞いている節がある。

 それほどの人物なのはうっすらと気付いていたが。

 なるほど、どうやら凄いキャリアの持ち主のようだ。神様が認めるような偉業を成さないと称号は増えないのだから、私が知らないだけで、その凄さは帝国では有名なのかもしれない。


 中を見ると、物置には馬車が置いてあった。馬は外に繋がれている様子だ。

「では、馬車の中を見せてもらおうか」

「ふ、ふざけるな!この中には大事なものが…」

「大事なものが入っているかどうか、確認させてもらいますよっと」

「ダメだと言っているだろう。この事は太守殿に必ず報告させてもらうからな!貴様の首が落ちると知れ!」

「とはいえ、ヒヨコ君はこの馬車に乗せられたのだろう?犯人がここにモーリッツ殿のもの以外を乗せて盗んで運んでいないとは限らないからね。これは致し方ない事ですからね。それに貴殿が言う10億ローゼンもするという魔獣を確認しておかねば、こちらも金を払いかねますし」

 ひょいと馬車に飛び乗り、大きな黒い布で覆われている檻の中身を確認する。


 バサッと開かれるとそこにはグレイトベア、キラーエイプ、そして三頭身ほどの黄金の幼竜がそこにいた。

「衛兵、モーリッツ殿を捕らえろ」

 それを見るや冷たい声音で口にする。

「な、何をする!?」

 護衛と称して連れてきた二人の衛兵は即座に商人さんを捕まえて押さえつける。


「これが貴殿の言う蜥蜴ですか?」

 町長さんはジトリと鋭い視線でモーリッツを射抜く。


「くっ……」

「皇帝陛下から話は聞いていた。帝国直轄領にて禁忌指定されている物を商売している者がいて、我らが太守殿の領地経由の可能性を指摘されていた。なるほど、太守殿が貴殿を守っていたというと、どうやら太守殿も貴殿とグルと考えてよろしいか。それにしてもとんでもないことになりましたな。ドラゴンは竜王陛下との争いを収めるために皇帝陛下が人権宣言に加盟してもらい、ドラゴンを人間と同等に考え、売り買いする事を禁止したはず。特にドラゴンとは竜王との協定がある為、禁を破ったものがどのような処分に遭うか存じていたと思います。よかったですね。あまりにも大犯罪すぎて、貴殿は牢屋の中で長く生き延びれそうですよ」

 ヒューゲル様は目が完全に笑っていないが、笑顔で脅すようにモーリッツを睨む。

「ち、違う。こ、これは…そ、そうだ。これは私ではない。きっと盗賊が勝手に…」

「まあ、その辺は帝国の裁判にて上手く訴えると良いでしょう」


 私は子ドラゴンに話しかけてみる。

「貴方はドラゴン?念話で話せる?」

「きゅう?(念話?あんたがヒヨコの言ってた狐の師匠?)」

「……ああ、このヒヨコに聞いていたのね。貴方はどうしてここに?」

「きゅうきゅう(それはそこのヒヨコに説明したのよね。自由を求めてドラゴンの領域を出て遊んでたらそこの商人たちにつかまっちゃったのね。うかつだったのよね。まあ、人里に行くには丁度良い道案内になると思ってゴロゴロしてたけど、ここから出れないから遊べないのよね。きっと父ちゃんがそろそろ探しに来てくれると思ってるのだけど、父ちゃんが来ると祭りが潰れるってヒヨコが言うのよね。祭りには興味あるからどうにか父ちゃんが来る前にここから出してくれると嬉しいのよね。父ちゃんの気配が結構近い場所まで来てるっぽいのよね)」

「父ちゃんってドラゴン?」

「きゅうきゅう(竜の山で一番偉いドラゴンなのよね)」

「え」

 私はこの黄金の幼竜の言葉に凍り付く。

「ステラ君。どうしたのかい?」

「い、今、そこの幼竜に話を聞いてたんですけど」

「うん」

「その幼竜が言うにはそろそろ父ちゃんが迎えに来る…と。その父ちゃんは……竜の山の一番偉いドラゴンだと」

「は?」

 私の言葉に全員が目が点になる。私だって同じような状況だ。あり得ない。


 つまりこの幼竜は竜王の娘だと言ったのだ。


 先に言っていた帝国と竜王と協定を結んだ本人の娘をさらったとなれば、協定どころではない。帝国そのものを滅ぼされても仕方ないほどの問題である。


「貴様……とんでもない事をしてくれたな」

 怒りを通り越して凄まじい殺気をまき散らして、町長さんが本性を露にして商人を睨みつける。商人はその殺気に充てられて「ひぃ」と小さく悲鳴を上げて白目をむいてしまい、そのまま泡を拭いて倒れるのだった。


「今すぐドラゴンをこの牢から出せ!不味いぞ!こんなのが竜王陛下にばれてみろ!この領地どころの問題じゃない!帝国そのものが崩壊する!俺がどれだけ命懸けで竜王陛下との間に橋渡しをしたと思ってるんだ。このクズ野郎、それをぶち壊しやがった!」

 町長さんの叫びに周りの衛兵は牢を壊すための道具を取りに走り、もう一人は慌てて商人を叩き起こして鍵のありかを吐かそうとする。町長さん自体も何か小さな針金みたいなものはないかと周りを見渡していた。

 そう言えばこの町長さん、泥棒経験者なのか解錠スキル持ちでもあった。


 とんでもない事態になった。


「ピヨッ(師匠。北の方に物凄い勢いで大きな魔力が来る気配)」

「え?」

 ヒヨコが突然何か魔力を感知する。


 すると衛兵の一人が外から走ってここへとやってくる。

「ヒューゲル様!大変です!」

「どうした?」

「北部のアイゼンフォイアーが崩壊しました!」

 衛兵は青い顔色で全く信じられないことを口にする。

「なっ…崩壊とはどういうことだ?」


 アイゼンフォイアーはこの帝国直轄領の中央都市であり北部の守りの要所にして帝国最大クラスの城壁都市だ。


帝国最大の城塞都市がある場所だ。そこで太守をしているのがマイヤー侯爵、その太守の代行としてヒューゲル様のような法衣男爵達はこの町の長をしている。


「それが……突然ドラゴンが攻めてきたらしく城塞は跡形もなく粉砕され、そのままドラゴンは南部へ侵攻、こちらに向かっています」

「!……あの城塞は不死王らの軍勢やドラゴンからの攻勢から守るために作られた城塞だぞ。簡単に破られるはずが…。太守殿は大丈夫か?」

「はっ、命には別段問題ないとの事です」

「まあ、あのやばければすぐに逃げる人だから死にはしないだろうが…今死なれたら困るんだよ。全責任をかぶって貰うんだから」

 ボソリとつぶやくヒューゲル様の腹黒さが垣間見える。


 でも、このままでは予知通りの事が起こってしまう。

 どうしようもないほどに絶望的な状況だ。

 止めないと!

 どうにか竜王陛下を説得しないと!この町に近づけさせたら駄目!赤い巨大なドラゴンが全てを灰に返してしまう!

 私は一人で部屋を飛び出す。


「私がドラゴンを説得します!ヒューゲル様はそのドラゴンの子を解放したらすぐに北へ走ってください!」

「ピヨ?」

 ヒヨコは不思議そうな顔をしつつも、コンコンコンコンと牢屋を嘴で突いて壊れないかを見ていた。


 私は慌ててこの場から北へと走る。

 きっとこれは私がどうにかしなければならない問題のはずだから。




***




 私は町の外を走って北へと向かう。地平の方から巨大な存在が飛んでくるのが分かる。

 ドラゴンの通る予定の場所を必死に走って北上する。街から極力離れなければならない。あのドラゴンは羽ばたき一つで大きく街を滅ぼしてしまう。


 町から大きく離れたころ、ついに地平の奥からやてくる私の予知で街を破滅させた存在。

 赤い巨大な古竜エインシェントドラゴンだった。


『おねがい!止まって下さい!』

 私は全力で念話を使う。

 しかしドラゴンは関係ないと言わんばかりに無視して通り過ぎようとしていた。

『おねがいします!お話を聞いてください!』

 大きい声で念話を使って空を通り過ぎようとするドラゴンへと飛ばす。


『うるさいわ!聞こえている!誰だ、貴様は!』

 響くような念話が広がる。ドラゴンは羽ばたきを止めものすごい勢いで地面に落ちて来た。


 大地震でも起こったかのような衝撃が地面を揺らす。

 あまりの震動に私は転んでしり込みをしてしまう。

 だけど、慌てて立ち上がりスカートを整え、ほこりを払いながら立ち上がる。走っていた為、まだ息切れしているが、それをどうにかこらえる。


「申し訳ありません、竜王様!私のような小さき者は目に入らないと思いまして、お話を聞いていただきたくお声かけいたしました。本当に申し訳ありません」

 私は慌てて獣人の流儀として、頭を下げて竜王様と対峙する。


『ぬ、ぬう。獣人か。もしや、その尾………貴様、フローラの親戚か』

 竜王様はジトと私を見てふと思い出したように口にする。

 どうやら私の血筋のことを知っていたようだ。

 いや、お母さんは500年前の戦争で魔神と戦う勢力にいたらしい。竜王様もそうだ。顔見知りだったというのは当然だろう。


「は、はい」

『私は忙しい。貴様の話はまたあとにせよ』

 だけど竜王様はどこか焦った様子で私の声を無視して進もうとする。


「その忙しい原因についてお話がありこちらに参りました次第です。竜王様」

『ほう?帝国が我らとの盟約を裏切り我が娘を拐かした事について、お前から申し開きがあるというのか?』

「はい」

 竜王様の焦り、それはあの幼竜が人間に盗まれたからだとは予想していた。怒りに負かせてあの村が滅ぶ姿は予知能力がなくても分かるほどだ。

 寝転がるだけで町が滅びそうな大きさのドラゴンを前に私は冷たいものを背中に感じつつも、それを止める為にどうにか会話でとどまって貰うしかないと決意する。

 強く拳を握り竜王様の目をジッと見つめてハッキリと話す。


「帝国の犯罪者が独断で幼竜を誘拐したのです。これは帝国の知る事ではありません。皇帝陛下も存じなかった筈。故にどうか何も知らぬ者たちへの裁きをお許しください」

『なるほど、皇帝を裏切った人間が勝手にやった事だから許せと申すか』

「竜王様の心の広さを万人に見せてあげていただければと…」

『ならばこそ、約束とはそのように簡単に裏切ってはならない事だ。下々の者に厳命しなかったが故の失態。我らの誇りを傷つけたものには血の制裁は当然のこと。私の見ていない場所であれば手違いだったと済ませただろうがな。我が娘を攫ったとなれば見ていなかったという言い訳もできぬ』

 竜王様から放たれた言葉とともに湧き上がるのは怒りだった。


 誇り。


 また、誇りだ。

 どうして誇り1つのために関係ない人間がたくさん死ななければならないのだろう。

 獣人族と勇者の戦争の時もそうだった。話し合いでどうにかなる相手だったのに殺し合い、私にとって大事な人達がたくさん死んでしまった。


「何で………何でたかが誇りのために関係ない人たちがたくさん死ななければならないのですか!」

 涙があふれるのを感じる。それでも私は感情を止めることが出来なかった。大きい声で竜王様に訴えてしまう。


『ふん、哀れな。獣人族の不幸はフローラが貴様らに何も教えずに逝ってしまったという事、貴様は誇りを、協定を、我らのことも獣人たちのことも、何も分かってはいない。弱き者には弱きものの戦い方があるのだ。これ以上つまらぬ時間を使うというならば貴様の命はないと思え』

「私の命なんていらない。だからお願いです。竜王様。どうか…」

 私もは頭を地面に擦り付けて謝意を見せる。

 だが、逆に竜王様にとっては何故かその態度が逆鱗となってしまった。

 突然殺気が膨れ上がる。


『ふん、いっそあわれよの、フローラも。女神に与えられた、女神以外に持たぬ神にも比肩する未来予知のスキルを貴様のような小娘が受け継いでしまった事こそが哀れだったのかもしれぬな。命を要らないだと?ならば貴様の命、この我が食い散らかしてやろうぞ!』

 竜王様は傲岸不遜な口調でありながらも、本当に心から憐れむような眼で私を見て、口の中に魔力を溜める。


『死ね!』

 私の説得は失敗した。

 何でいつも上手く行かないんだろう。大事な人達をただ守りたいだけなのに。


 深紅の炎が私の全てを覆おうと迫る。

 私は自分の生を嘆きせめて町だけでも助かる事を祈って瞳を閉じた。。

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