2章6話 ヒヨコとドラゴンの一時休戦
ヒヨコが師匠と出会ってから今日で11日が過ぎる。すなわち11歳という事だ。もはや誰に違うと言われてもヒヨコルールである。
師匠は16歳らしいので、師匠を抜くまでもう少しだ。
今日は師匠と一緒に役場にいって魔物として登録する所から始まる。
役場のお姉さんが師匠の出した登録用紙の項目をチェックしていく。黒ぶち眼鏡にスーツ姿の真面目そうなお姉さんだ。
キャリアウーマン的な何かに見える。
「すいません。種族名が書かれていないのですが?」
「よく分からないのでフレイムバードの亜種、あるいは未確定魔物とでも入れておいてもらえると助かります」
「フレイムバードの亜種である確証はありますか?」
「火を吐く大きなヒヨコだからそうかな~位で、全く確証はないです」
師匠は首を横に振る。
「なるほど、分かりました。まあ、未鑑定魔物と追記しておきますね」
役所のお姉さんは質問をしながら追記していく。
「知能はどの程度かしら?」
「人並みの知恵はあるようです」
「あら、そんなに賢いの?それじゃあ、ちょっとチェックしようかしら。算数をするから、答えと同じ回数鳴いてみてね?1足す1は?」
「ピヨピヨ!」
ヒヨコは右手羽先を上げて速攻で答える。そんな単純な算数が分からないと思うか?楽勝なのだ。
「じゃあ、12引く8は?」
「ピヨピヨピヨピヨ!」
「おおっと賢いわね。じゃあ2掛ける6割る3は?」
「ピヨピヨピヨピヨ!」
「か、掛け算まで分かるとは。やりますね?」
「ピ~ヨピヨピヨ」
こんな計算、序の口と言って良いだろう。さあ、どんどん来なさい。桃色ヒヨコのインテリジェンスが今日はさえ渡りますぜ。
役所のお姉さんはペラペラと手元にある冊子をめくりそれを読み上げるように問題を出してくる。
「では応用問題。たかし君(10歳)は魔物レースに出る為に100ローザン白銅貨8枚を使って魔物のヒヨコを購入して鳥に育てました。この鳥は魔物レースに出場すれば必ず勝てるとして、勝利すれば1000ローザンが手に入るとします。たかし君が1レース出走させる事が出来る場合、どれだけの利益を得る事が出来るでしょうか?手数料や税金はないものとする。」
回りくどい話だが、ようは800ローザン払って1000ローザンゲットするから利益は200ローザン、つまり
「ピヨピヨ」
白銅貨2枚分の稼ぎという事だ。ヒヨコにはちょろい問題だったな。
「ブブーッ、残念でした。答えは『利益は出ない』でした。ふふふ、ヒヨコは飛べないからレースには出れるけど、鳥は飛べてしまうから帝都の魔物レースには出場できないのよ。飛翔スキル、あるいは着陸スキルと離陸スキルが3以上あると出場できないのです。たかし君の皮算用ね。こんなのも分からないとはヒヨコは所詮ヒヨコという事ね」
受付のお姉さんはハンとヒヨコを鼻で笑い、クイクイと眼鏡を持ち上げつつ見下すのだった。
「ピヨッ!」
卑怯な!算数で答えるべきだ。
それは算数問題じゃなくて魔物レースのルールじゃないか!
か、考えたくは無いが大人になっても飛べない可能性だったヒヨコにはあるのだよ、ヒヨコには。
「何を言っても私の勝利ね」
ドヤ顔で俺を虐める役場のお姉さんにヒヨコは悔しくなり、師匠に泣きつくのだた。
「ピヨ~」
悔しい。なんてズルい役場のお姉さんだ。師匠、仇を。ヒヨコの仇を!
ヒヨコは師匠にすり寄ってお姉さんへの報復を強請る。
「めっちゃ悔しそうなんですけど、ウチのヒヨコで遊ばないでください。あと私に仇を取ってとか言われても困るんだよね」
「そんなダメなピヨちゃんにはもう1問の問題を出してあげましょう」
すると役場のお姉さんはもう1度チャンスをくれるというのだった。
「ピヨ?」
次は負けない。次は勝つ。どんとこーい。
「じゃあ、第2問。たかし君は500ローザン大白銅貨2枚をもってデパートに行きました」
またたかし君とやらか。珍しい名前だが、まあいいだろう。
「たかし君は冒険者で明日はポイズンフロッグを倒す為に1つ100ローザンの毒消しを5つ購入する必要があります」
つまり500ローザン残るという事か?
ハッ、まてよ。
ここで大白銅貨をまるっと渡せば残るのは大白銅貨は1枚。大白銅貨ではなく、ただの白銅貨は何枚かという問いをされたら0枚と答える。そういう引っ掛けだな!?さあ、どっちの質問で来る?ヒヨコなめるなよ、ヒヨコ。
「しかし、隣のレジで小さい子供がお母さんの病気を治す為にどうしても最高級のポーションが必要で800ローザン足りません。たかし君は少年に800ローザンを奢って、残りの200ローザンで2つの毒消しを購入しました。翌日、毒によって亡くなってしまったたかし君の後悔した気持ちは白銅貨何枚分か答えよ」
「ピヨ~~~~~ッ!」
たかしーっ!何故…………お前って奴は…………。
だが、ヒヨコはお前の生き様に感動した。たかしは男や!ええ男や。
「ヒヨコを号泣させて何してるんですか!?」
師匠は滂沱の涙を流す俺に困惑しつつも役場のお姉さんを責め立てる。
「備考:ヒヨコは情に脆い………と」
役場のお姉さんはクールに書類に追記をペンで書いていく。
「ええと、もう良いんですよね?」
「ええ。これで登録は完了です。ふふふ、ピヨちゃん。私に勝ちたかったらもう少しインテリジェンスを高めて来るようにね」
「ピヨ…」
悔しいが今日はヒヨコの完敗だ。だが、今日はたかし君に免じて見逃してやろう。次は負けない!
「何でヒヨコの所有登録しに来ただけなのに、役場のお姉さんとヒヨコがライバルみたいにメンチ切り合ってんだろう」
一人師匠はヒヨコ達の様子を見て呆れるような溜息をついていた。
解せぬ。
***
ヒヨコは師匠と一緒に町長さんの屋敷にやって来ていた。
今のヒヨコの首には身分証明するカードのついた鎖がかけられている。ヒヨコが誰のものか証明するものだそうだ。愛玩動物の首輪みたいなものだろうか?だが、俺は家畜や愛玩動物などとは一味違う。お祭りの頃には皆の人気者になるのだから。
師匠は町長さんの屋敷に入って行ったので、ヒヨコはお庭でお留守番である。
昨日あった馬車は今日もあるようだ。ヒヨコは中に入ると魔物がうようよいたが、無視である。
「ピヨヨ~」
「きゅっ?」
奥の方にいるゆるドラに声を掛けると、ゆるドラの奴は寝こけていた所を慌てて体を起こす。
「ピヨピヨピヨピヨ」
「きゅうっきゅきゅきゅきゅきゅう」
「ピヨッ」
「きゅきゅう」
やはり俺とコイツでは会話にならないようだ。
「ピヨッ」
プイッとそっぽ向くと、何故かヒヨコの周りを牢屋が下りていた。牢屋を回り込んで行こうとするとぐるりと一周してしまう。どうやら俺はいつの間にか牢屋の中にいたらしい。
「ピヨヨッ?」
何でやねん!
ヒヨコは頭を手羽先で抱えて絶叫する。いつの間にかヒヨコは牢屋の中にいた。いつの間に!?
「きゅきゅーっ!きゅうきゅうきゅう」
ゆるドラ、大爆笑。
ゴロゴロと腹を抱えて笑ってやがる。そんなにヒヨコの不幸が楽しいか、このダメドラゴンめ!
「ピヨッ」
隙あらば牢屋と牢屋の間を通して嘴でドラゴンを突く。
「きゅうっ!?」
見事に背中を嘴で突くと、ゆるドラは背中を痛めてゴロゴロ転がる。
「ピヨーッピヨッピヨッピヨッ」
馬鹿な蜥蜴だ。ヒヨコを笑うからこんな神罰を下されるのだ。
「きゅう!」
怒り猛るゆるドラは俺に襲い掛かろうとするが牢屋にぶつかってしまう。
「きゅううう」
哀れな事に牢屋に体を打ち付けて涙目になっていた。
「ピヨピヨ」
やれやれ、どうやら頭の出来がヒヨコの方が良いらしい。所詮は蜥蜴、自分が牢屋に捕えられている事も理解できないとは嘆かわしい。お前の親の顔が見てみたい。
ヒヨコは肩を竦めて手羽先を上に向けて嘲笑う。
「きゅう!」
するとバチバチバチッと激しい光の何かが走る。
「ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ」
体がバチンバチンと痺れて震えて痙攣させる。じゅうと微妙に焦げ臭い匂いをして俺は地面に倒れ伏す。
な、何をされた?
あれは恐らく……電撃。
電撃………だと?
<電撃吐息>なんて御伽噺の世界じゃないか。竜王だって炎のブレスしか吐いてなかったぞ?
なんなの、この電気蜥蜴?
ヒヨコとゆるドラが睨み合っていると
「兄貴。ヒヨコを牢屋に入れましたぜ」
「上手く行ったな、兄弟」
「この馬車をモーリッツの旦那の買った町近郊にある物置小屋にぶち込めば任務完了ですね」
「ああ、あの金払いの悪いモーリッツの旦那が10万ローザンも払うんだからよ」
「でも大丈夫ですかね。貴族様の家から馬車を盗んでるんですけど」
「どうせ、この町は何の警備もない辺鄙な町だ。太守代行も太守に嫌われているらしい。金を貰ったらさっさとおさらばすりゃ問題あるめえ」
男達はニヤニヤと笑いながらヒヨコとゆるドラを見下しながら笑う。
もしかしてヒヨコは攫われてしまったのか?
何かに誘われるように馬車の中に入ったら、盗賊にさらわれたのか!?
盗賊?に攫われて、ヒヨコはどうなっちゃうのだろう?
「ピヨーッ」
ヒヨコは盗賊と思しき怪しげな二人組に襲い掛かろうとする。だが、目の前の鉄格子がヒヨコの行く手を阻む。ガギンと鈍い音がして頭を打ち付けて倒れてしまう。
ううう、頭が痛いよう。
「きゅうきゅう」
隣の鉄格子のなかでゆるドラが笑っていた。
やれやれ、どうやら頭の出来があたいの方が良いらしい。所詮は鳥、自分が牢屋に捕えられている事も理解できないとは嘆かわしい。お前の親の顔が見てみたい。
そんな感じの笑いだった。腹が立つ。そこまで思うような事なんてしてないのに!
「ピヨッ!」
「きゅう」
ヒヨコは腹が立ったので、ゆるドラに八つ当たりをしようとして嘴で攻撃しようと威嚇する。対するゆるドラはと言えば噛みつくではなく、頭の角をヒヨコに向けて頭を振って威嚇する。
バトルスタート!
ヒヨコとゆるドラは互いに襲い掛かる。だが、攻撃を危険視するあまり、ギリギリで当たらない。互いに物理で殴らねば腹が据えかねない状況なので当然の選択と言えるだろう。だが、攻撃が当たらないのだ。距離が遠いので互いの角か嘴しか当たらないし、その距離を保てば互いに攻撃が当たらないので、仕方ないと言えば仕方ないだろう。
壮絶なデッドヒートをしているといつの間にか周りが暗くなっていた。明かりも無い建物の中に連れ込まれたようだ。
「じゃあ、金を貰いに行きますかね、兄貴」
「ちゃんと所定の場所にも置いたしな」
いつの間にか盗賊共はヒヨコ達を置いて去ってしまった。どうやらヒヨコとゆるドラは取り残されてしまったようだ。
「ピヨ」
「きゅううううう」
ヒヨコは休戦しようと伝え、ゆるドラも頷き一緒に牢屋で並んで座り込む。
それにしてもなんでお前はドラゴンなのに、こんな場所にいるんだ?
「きゅう(ふっ…アタシはさすらいの旅人なのよね。父ちゃんが心配性で山から出してくれなかったのよね。こっそり家を飛び出して山の下で自由を謳歌していたら、美味しいお菓子をくれるデブの人間に近寄ったらこのざまなのよね)」
誘拐される奴の常套句だな。この蜥蜴、なにげにアホの子かも知れない。
「きゅうきゅう(人間は信じられないのよね。ところでヒヨコは何でこんな場所にいるのよね)?」
ヒヨコの事か?
ヒヨコはこの町のマスコットキャラとして踊ったり歌ったりする予定だったんだけど、変な馬車に近付いて珍しい生物をからかってたらこんな事に。
「きゅうきゅう?(ここにそんな珍しい生物いたのよね?)」
目の前のドラゴンは不思議そうに首をひねってから、周りを見渡す。
お前が一番珍妙じゃ!という突っ込みを伝わらないのか?
「きゅう(これだから田舎者は。私の都会暮らしのハイセンスさが分からないとは情けないのよね)」
と、都会なのか、竜の山脈って
俺の中のイメージである竜の山脈はあからさまにただの岩山なのだが?
「…………」
プイッとそっぽ向くゆるドラ。どうやら肯定しにくいようだ。
ヒヨコ達は売られちゃうのかな?師匠、心配しているかな?
まさかこのまま捨てられてしまうのか?読み終えた雑誌のようにポイッと。
「きゅう、きゅきゅう(師匠、鳥には師匠がいるのよね)??」
「ピヨッ」
うむ。念話の師匠だ。狐人族だけど色々と詳しいのだ。川で流されていた所を拾ってくれたのだ。胸は平べったいが将来は良い女狐になるだろう。
「きゅう~(多分、女狐は誉め言葉じゃないのよね)?」
「ピヨ?」
「きゅう」
ヒヨコとゆるドラはおかしなことを口でもしたかと首を捻る。
とはいえ、お祭りの為にダンスのトレーニングをしたのに、それが無駄になるのは嫌だなぁ。
「きゅう、きゅきゅきゅきゅう(まあ、多分売られる事はないと思うのね。多分、お父ちゃんが気付いてると思うから直に助けてくれるのよ)」
なるほど、ゆるドラには父ちゃんがいるのか。
「きゅううう(普通に父ちゃんも母ちゃんもいるのよね。鳥にはいないのよね)?」
「ピヨヨ~」
記憶がないのだよ。
ふっ、過去のない男。なんかちょっとミステリアスでヒヨカッコいい。
「きゅ?きゅきゅう(自画自賛してるけどなんか違うと思うのよね)」
ゆるドラは呆れるようにヒヨコに視線を向ける。
「きゅう~(ところでさっきから気になってたんだけどゆるドラってなんなのよね)?』
「ピヨヨ?」
え?
ゆるキャラっぽい、キモ可愛い感じのドラゴンだからゆるドラと命名したんだけど。
何が変なのか俺は不思議そうに首を傾げる。
「きゅーっ!(勝手に変な名前を付けるのは断固拒否するのよね。私にはちゃんと「トニトルテ」という立派な名前があるのよね)」
「ピヨッ」
じゃー、トルテで。
「きゅう(略されたのよね)!?」
長ったらしい名前をする存在は略されるのは当然の帰結だと思うのだが。
あと、ヒヨコの頭は賢くないので多分長い名前は忘れると。じゃあ、トニーが良い?
「きゅうきゅうきゅう(誰が二子山の白いニートドラゴンなのよね)!」
きゅうきゅう怒り狂うトルテ。もしかして、他のドラゴンにトニーさんというのがいて、評判の悪い人(竜?)なのだろうか。
トルテは暫くして、フウと息を吐き、ふと空を見上げる。
「きゅううううう(まあ、父ちゃんがその内来ると思うのよね。そうすれば私も安心してここから出てお祭りに行けるのよね。人間は面白い事をしているから楽しみなのよね。これも社会勉強なのよね)」
なるほどー、それなら俺もお祭りに間に合いそうだなぁ。
めでたしめでたし………っておい、ちょっと待てトル公。
「きゅううっ(誰がトル公なのよね)!?」
トルテはバシバシと尻尾で地面を叩いて抗議するが、それどころではない。
こんな田舎町にドラゴンなんかが来たらお祭りどころじゃねーだろが!大パニックだ!お前の父ちゃん、ちゃんと裏手からこっそり来てくれるんだろうな?
「きゅうきゅう(あはははは。ウチの父ちゃんにそんなデリカシーはないのね。前に立つものは何でも蹴散らして正面から堂々と私を助けてくれるのね。なにせ地元の王様なのよね)」
ドヤァと当たり前のように語るトルテにヒヨコは一気に青ざめるのを感じる。
アホか―っ!存在そのものが災害を引き起こす竜王イグニスじゃねーか!
お前、バカなの?人間が集まってるの見たら一息ついただけでこの世が真っ黒焦げじゃ!どこに祭りの見れるチャンスがあるんだ!祭りどころから血祭りで火祭りじゃないか!
「きゅ~う?(やっぱりそうなっちゃうのよね?)」
駄目だ、こいつ。早くなんとかしないと。
もしもあの脳筋ドラゴンがやってきたら、ヒヨコはともかくこの町が大変なことになる。
折角のお祭りも中止だ。あのダンストレーニングの日々は無駄になってしまう。
ヒヨコの裏側で描いていた『ピヨちゃん、人気者大作戦』が失敗に終わってしまう。
アンコールの為に、ヒヨコが陰でこっそりと作詞作曲をしていた歌が発表される前に消されてしまう。
「きゅううう、きゅうう(ダメなのね?仕方ないから私も頑張って自主的に出るのよね。でも、どうやってなのよね?)
コテンと小首をかしげるトルテ。
物理じゃ!
ヒヨコは嘴を鉄格子に突き立てる。コーンと良い感じに音が響く。
さらにコンコンコンコンコーンと叩くがすこしだけ歪んだもののヒヨコが出ていけるスペースは作れそうになかった。
ガジガジとゆるドラことトルテは鉄格子を齧るが噛み切れそうには無さそうだ。
「ピヨ」
むう、ちょっと変化があったな。
共に鉄格子が歪んでいるのを確認し、もう少し頑張ればやれるのではないか?そんな希望を見出す。
「きゅう」
「ピヨッ」
ヒヨコとトルテは鉄格子を破ろうと取り掛かる。
「ピヨピヨ(それにしてももっと柔らかくならないものあ)」
「きゅうきゅう(金属が勝手に柔らかくなる訳がないのね?もしかしてヒヨコはバカなの?バカなのうよね?)」
「ピヨピヨ(溶岩のようにドロリといっちゃって欲しいんだよね。むむむ、そうか、その手があったか)」
ヒヨコの灰色の脳細胞はふと良い事を考えた。
ヒヨコは熱いのが得意だ。火も吐ける。ならば鉄格子を熱して柔らかくしてしまえば良いのだ。ヒヨコ、頭いいな。
小さく火を吐いて鉄格子の鉄柱を熱する。鉄は熱されて赤くなっていく。
そこを狙って嘴で突く!
ついた場所はぐにゃりと曲がっていた。
おお、曲がった!
「きゅきゅう(おお、ヒヨコ、凄いのね。バカだと思ってたけど意外に賢いのね)」
トルテは驚いたように目を輝かして俺の歪んだ鉄格子を見ていた。
よし、どんどん行くぞ!
熱して打つべし!打つべし!打つべし!
熱して打つべし!
『ピヨの嘴術のスキルレベルが上がった。レベルが8になった』
なんだか鍛冶屋みたいな音が響くが、丸い柱の中心を尖った嘴で見事につつく。俺の嘴術はもはや神業と言えよう。
剣聖ならぬ嘴聖として崇め奉られてしまったらどうしよう。
十分に大きく広がったので体を差し込んでみる。まだきついがもう一つ頑張れば…
スルリと体が通り抜ける。
「きゅー!」
さすがのトルテも俺の脱出テクニックに驚いたようだ。『ピヨ!大脱出』劇に目を丸くして感心していた。
よし、じゃあ、助けを呼びに行ってくるぞ
「きゅーきゅー(頼んだのよね)」
ぶんぶんと尻尾を振ってヒヨコを送り出すトルテであった。
ヒヨコは馬車の置いてある部屋の中からでると、そこは見覚えのある場所だった。林を出るとそこは村のすぐ近くの林だったからだ。
すぐに村の中へと入って行って、ヒヨコの話の分かってくれる師匠に助けを求めに行かなければ!