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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部2章 帝国皇領フルシュドルフ ヒヨコは踊る
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2章1話 ヒヨコには記憶がない

 吾輩はヒヨコである。名前はまだ無い。

 どこでうまれたかとんと見当がつかぬ。何でも川でどんぶらこっこどんぶらこっこと流れていた事だけは記憶しているようなしてないような?吾輩はここで始めて獣人というものを見た。


※それは以前、やっています。


 え、このネタは既にやってるって?

 おかしいな、ヒヨコにそんな記憶は無い。


 ……ぬぬぬ、そもそも今、ヒヨコは誰と話をしたのだろう?

 まあ、良いや。


 ヒヨコは周りを見てみるとそこには狐耳の少女がいた。年齢は10歳くらいだろうか?思春期前の幼女といった印象で大人では無いけど子供とは呼びにくい、そんなくらいの年齢と見受けられる。

 とはいえ顔立ちはとても整っている。きっと微妙な年ごろが大好きなロリコンの好みであろう。黄金の髪と黄金の狐耳、黄金の瞳、黄金の狐の尻尾。キンキラキンである。


 だが、そんな事よりもヒヨコは後ろで揺れているモフモフの大きな金色のしっぽがたくさん生えている方が気になるのだ。

 尻尾が1本、尻尾が2本、尻尾が3本…………うつらっ……何だか眠くなってきた。


 そんな、目の前の相手を冷静に分析しているが、彼女の先ほどの言葉

「……運命の出会いって……運命だと思う程美味しいヒヨコなのかな」

 という不審な言葉にヒヨコは疑問を感じる。何故かヒヨコを食料のように考えてそうな口振りであったからだ。


 とはいえ、こちらはただのヒヨコ。人間に敵うはずもない。どちらにせよ平和主義なヒヨコは、どうやって命乞いをすべきか思案する。

 そうだ、ここはヒヨコの愛らしさを前面に押し出してみよう。


「ピヨピヨ、ピヨ、ピヨピヨ(僕、悪いヒヨコじゃないよ)」


※それもやっています。


 え、このネタも既にやってるって?

 おかしいな、ヒヨコにそんな記憶はない。


 ……ぬぬぬ、そもそも今、ヒヨコは、誰と話をしたのだろう?

 まあ、良いや。


 何だかヒヨコを見る狐耳の小娘は、ヒヨコの命乞いのキュートな瞳攻撃というスキルを使ってどうやら諦めたようだ。良かった、ピヨピヨ。


 いや、待てよ。今とある重大な事実に気付いた。ヒヨコは紛う事なき生まれたてのヒヨコ。そして目の前に女がいる。つまり、導き出される結論、それは!


 まさか、お前が母ちゃんか!?


※それもやってます


「そんな訳ないでしょう!」

 ズビシッ


「ピヨヨッ!?」


 脳天に狐耳少女のチョップが刺さる。手羽先が頭に回らないヒヨコはゴロゴロと転がって痛みを耐える。

 というか河原なので転がった方が石が体をゴリゴリして痛いので直に起き上がる。


「乙女に向かって母親かとは失礼な。そもそも私からヒヨコが生まれる訳ないじゃない」

「ピヨピヨ……ピヨ…………ピヨヨッ!?」

 呆れる様子の狐娘に対して、ヒヨコは起き上がりながら話をかけようとするが、何故かヒヨコ言葉しか声が出ない。

 だが、よく考えればヒヨコはヒヨコなのである。つまりディス・イズ・ヒヨコ。


※アイ・アム・ヒヨコです。


 当然の事だが、ヒヨコ言葉しか出る筈もないのだ。

 むしろ何故ヒヨコはヒヨコ言語以外を喋れると思ったのだろう。うっかりなヒヨコだと自分で自分に呆れて額の汗を拭う。

 しかし、どうやらヒヨコは生まれたてのヒヨコ。賢さが足りないのは仕方ないのだ。

 おや、手羽先が頭に回ったぞ。この角度で手羽を回すと上手く手羽先が頭に届くのか。ヒヨコは一つ賢くなった。


 するとヒヨコを見ていた狐耳の小娘、訳して狐娘はジトッとした視線をヒヨコに向けて腕を組み思案していた。


「君、0歳の割にはおかしなステータスしてるね。何か熟練の魔導師みたいなステータスをしてるし、人の言葉も分かるようだし……。アンデッドだとこういうのもいるけど、どう見てもヒヨコっぽいしなぁ。でっかいけど。君、住んでるところは分からないの?」

「ピヨ?」

 ヒヨコはさっぱりわからないので首を傾げる。言われてみればヒヨコはどうやら川に揺蕩う記憶がうっすらと思い出される。

 まさか川が故郷じゃあるまい。

 いや、もしかしたらヒヨコは川から生まれるのかも知れない。将来は蛙になったりするのか?


「名前は思い出せない?」

「ピヨッ?」

 さらにヒヨコは首を横に振る。ピヨッと鳴く度に何かを思い出せそうな気がするが思い出せない。

 やはり、ヒヨコは名前も住所(おうち)も分からない。迷子の迷子のヒヨコちゃんだった。なんてこった。

 これが噂の記憶喪失という奴か。都市伝説じゃなかったようだ。


「うーん……私の神眼で見ても名前も種族も分からないんじゃどうしようもないなぁ」

 なんだ、役に立たない狐娘だ。こっちが記憶喪失なんだからそこら辺はしっかりしてほしい。運営も、真面目に仕事をすべきだと思う。


 ピヨピヨリ。…………運営って何の?


 コテンと首を傾げる可愛いらしいヒヨコが水面に映し出される。おっとこの可愛いヒヨコは自分だった!


「いや、何で私が責められる形になってるの!?何か、このヒヨコ、見た目は可愛いけど中身が凄く図々しいよ。やっぱりヒヨコ鍋にした方が…」

「ピヨピヨ、ピヨ、ピヨピヨ(ぼく、悪いヒヨコじゃないよ)」

「今更、無害アピールされても怪しすぎるし」

「ピヨ………」


 ……あれ、そういえばこの狐娘、何故か知らないけど話が通じてる?ピヨピヨ語の使い手なのかな?ここは適当に取り入って、通訳として使えば、社会性あるヒヨコになれるかもしれない。仕方ないなぁ、ここはちょっと下手に出てやるか。


 ヒヨコがそんな事を考えていると、狐娘は呆れるようなジト目を向けて来る。

「ちなみに……私は念話スキルが使えて、考えが駄々洩れな魔物の意思も読み取れるんだよ。さっきから思ってる事が何となく伝わっているから」

「ピヨ…………」


 なんて事だ。うっかりだ。


 それにしても、そんなステキスキルがあるなんて、ヒヨコが出来ないのに狐娘が出来るとか羨ましい限りだ。

 もしかしてヒヨコはヒヨコじゃなくてどこかの王子様が魔女の呪いでヒヨコにされたのでは?

 そして目の前の狐娘は、実は魔女!?


「誰が魔女だよ!失礼だよ。そしてこんな無礼なヒヨコ王子はありえないから!」

「ピヨッ………ピヨ………」

 狐娘はヒヨコの嘴の両端に手を入れてぎゅいぎゅいと横に引っ張る。口が横に伸びて痛い。ピヨピヨと抗議するが言葉は伝わっているんだか伝わっていないのだか。


 だが、ヒヨコは気付いたのだ。

 ヒヨコとして生きていくには世間の風は厳しい。しかし、この狐娘の持つ念話スキルがあれば美味しいスイーツを街で食う事も可能だ。

 もしかしたら鍛えて帝国騎士団に入隊してホブヒヨコやヒヨコシャーマンへと進化し、さらに上のヒヨコジェネラル、あるいはヒヨコロードに成り上がれるかもしれない。


「そ、それは無理だと思うけど………というかヒヨコってゴブリンじゃないよね?」

「……ピヨ?」

 この狐娘は何を言ってるのだろうか?

 ヒヨコがゴブリンなはずがないじゃないか。

 あんな愛くるしくない生物にヒヨコがなるとでも思っているのだろうか?ゴブリンなんかに生まれ変わったら絶望するぞ、ヒヨコは。

 八つ当たりで王国を滅ぼしちゃうぞ?


 ……………王国ってなんじゃらほい?


※ヒヨコの400年前の前世である鬼神王アルバは現アルブム王国の前身であるカルロス王国を滅ぼしています。


 だが、しかし、ヒヨコがゴブリンかヒヨコかなどはどうでも良い。

 その念話とやらを覚えれば人類と会話する事が可能。そしてヒヨコはアイドルとなって走って踊ってトークも出来ちゃう、今現在陥っているピヨピヨ野郎を卒業する事が出来るのだ。

 ただのピヨ助なんて呼ばせない。偉大なるヒヨコ、つまりピヨマグナスと呼ばれるようになるかもしれない。

 素晴らしい響きだ。ピヨマグナス。もうヒヨコはこのような名前に憧れてしまう。人間みたいな名前はダメだ。ルークとか言う名前になったら自殺ものだよ、自殺もの。


 ピヨピヨリ……ルークってなんじゃらほい?


 だが、分かったぞ!師匠、ヒヨコを弟子にしてください。いや、もう弟子になった。そして師匠を踏み台に念話マスターとなって独り立ちするのだ。


「何て不純な理由で、しかも占師なのに念話の師匠になってくれとか超嫌なんだけど」

 うんざり気味な顔でヒヨコを見る狐娘、否、今日から君は師匠だ!


 だが、どうやら師匠はヒヨコの覚悟を侮られておられるようだ。

 ヒヨコは死ぬより厳しい修行をも乗り越えられる自信がある。


「いや、覚悟っていうか………取り敢えず何か面倒臭そうだからそういうのは良いんで。うーん、私の占いってやっぱり当てにならないのかなぁ」

 狐娘はヒヨコの弟子入りを拒否して洗濯物の入った籠を再び担いで去ろうとする。


「ピヨー」

 お待ちを、師匠!

 ヒヨコはピヨピヨと師匠の後を追いかけるのだった。




***




 ヒヨコは洗濯物を背負って進む師匠の後をついて行くと、小さな街に辿り着く。

 城壁は無いが、集落というよりは町といった感じの場所で、商店街とか色々と並んでいる。そんな町の片隅にある老夫婦のいる雑貨屋に辿り着く。どうやらこの年老いた夫婦が店を営んでいるようだ。


「おかえり、スーちゃん」

「何か変なのが後ろにいるけど、どうしたんだい?」

 老夫婦はヒヨコを見て目を細めて首を傾げる

「何か変なヒヨコに付きまとわれちゃって」

 狐娘はヒヨコを指して口にする。

「でっかいヒヨコだねぇ」

「食べる時は皆にお裾分けしないとねぇ」 

「ピヨッ!?」

 いきなり老夫婦はヒヨコを見て食べる事を口にする。何でここら辺の住民はヒヨコを食い物だと思っているのだろうか?

 恐ろしい。迂闊に眠る事さえ許されない。念話を身に着けたいが、ここにいたらヒヨコの焼き鳥かヒヨコの串カツにされるかもしれない。否、今夜はヒヨコでバーベキューだ!


 う~ん、シャレにならない。


 ヒヨコがダラダラと冷たい汗を流していると

「この子、毒耐性があるから多分食べられないと思う。お腹壊しちゃうよ」

「ペットにしては食費が掛かりそうじゃのう」

「何か私の弟子にしてほしい、みたいな事を言ってるし、むしろ貢いでくれるよ」

「ピ、ピヨ………」

 何と無茶な事を言うのだろうか?ヒヨコが経済活動なんて出来る筈ないじゃないか。


 ………んん?そういえば何で野生の生まれたてなヒヨコのヒヨコがこんな賢い事を知ってるのだろうか?

 …………ま、よく分からんが、賢い分なら問題ないし、別に深いこと考える事はないか。

 むしろ深く考えるべきは、うっかり食べられたりしない事だ。


 あと…………お腹減った。


 すると狐の師匠は洗濯物を裏手の庭に干しに向かっている。ヒヨコは念話を教わるべくそれについて行く。


 ところで師匠、念話ってどうやったら使えるんですか?ヒヨコはそれが知りたいのですが?

 ヒヨコは狐の師匠を見ると、狐の師匠は物干し竿を天敵のように見上げていた。

 洗濯物を干すには師匠の身長では、少々足りないように見受けられますが。


「念話~?それより洗濯物を干さないといけないんだけど、踏み台を持って来るのを忘れちゃったんだ。踏み台を持って来てくれない?」

 狐の師匠は背があまり高くない。というか低い。ヒヨコより低い。

 そして物干し竿はヒヨコよりも高い位置にある。手は届くが洗濯物を干すには少々足りない。


 でも、師匠よ。ヒヨコの体ではこの小さな家には入れないし、入れたとしても踏み台なんてどこにあるか知らないのだが。

 何でだろう?この無茶振りがどこか懐かしく感じるのだが………?

 ヒヨコの過去に無茶振りをする幼女と出会った事が有ったのだろうか?ピヨピヨ。


「むう、使えない押し掛け弟子ね。じゃあ、良いや。ちょっと、こっちに来て?」

 狐の師匠はヒヨコを手招きするので、ヒヨコはピヨピヨと歩いて狐の師匠の前に立つ。

 すると狐の師匠はヒヨコの背後に回り込むと、いきなり土足でヒヨコの背を踏みつける。

 むぎゅう、何をする!?

 ヒヨコには幼女に踏まれて喜ぶ趣味は無いのだが。

 そういうのはロリコンにしてあげなさい。


「丁度いい踏み台があったからまあ良いか」

「ピヨッ!?」

 おかしい、念話を身に着ける為の踏み台にしようと思ったのに、まさか本当に踏み台にされるとは!?

 師匠、恐ろしい子!


 それにしても、こんなに珍しいヒヨコがいるのに、まさかこうも無感動にあしらわれるとは酷い話である。もっとチヤホヤしてくれても良いんやで?


「構って欲しそうにしているのは分かるけど、お祭りが近いからみんな忙しいのよ」

「ピヨヨ?」


 お祭りですか?

 屋台が出たり露店が出たり、美味しい食べ物が出たりするのですかな?


「そこら辺を歩いていたら美味しそうなヒヨコだと思われるからあまり出歩かない方が良いかもしれないわね」

 おお、師匠に気を遣っていただけるとは!

 現在進行形で踏み台にされてなければ感謝するのだが。


「毒耐性のある魔物って体が毒性を持ってるから、うっかり食べると皆がお腹を壊すし」

「ピヨッ!?」

 心配しているのは食べる側(町民)の方!?

 食べられちゃう側(ヒヨコ)じゃないの!?


「あと、念話ってお兄ちゃんに習ったんだけど、結構時間が掛かったんだよね。こう、異なる言語をもう一つ覚えるような感じで。でもヒヨコには魔力感知スキルがあるし鍛えれば覚えられるんじゃないかな?時間が掛かると思うけど」

「ピヨッ!?」

 そうか、大変なのか。ヒヨコはバカだから覚えるのが苦手なのだ。しかし、時間が掛かって覚えられるなら頑張ろう。きっとヒヨコはやればできる子なのだ。

 ヒヨコは過去などを見ず、ただただ未来に燃えるのであった。

 まあ、記憶が無いから過去を見たくても見えないのだけれど………。きっとヒヨコは未来に燃えているように、過去にも燃えたことがあるのだろう。


※割と深刻に燃えた過去(前世)はあります。


 師匠は洗濯物を干し終えると、大きな荷物をもって店の前へと向かう。ヒヨコはそれにただただついて行くのだが、一体、どこに向かうのだろう?

 師匠が店の裏手は商店街の片隅だった。

 そこで師匠は荷物を広げる。



「ピヨピヨ」

 何しているんですか、師匠?

「仕事よ」

「ピヨピヨ」

 仕事?ヒヨコの様な迷える子羊に念話を授けて金を巻き上げるんですね?

「念話を授けたりしないし、金を巻き上げるんだったら目の前にいるヒヨコから巻き上げると思わない?」

 ジトリと師匠はヒヨコに視線を向ける。言われてみればその通りだ。うっかりだ。

「あと君は子羊じゃなくて小鳥だから!」

「ピヨッ!」

 あらビックリ。言われてみれば迷える小鳥だった!

 ヒヨコは両の頬を手羽先で抑えて驚きを示す。

「何か反応が人っぽいっていうか………中に人でも入っているんじゃないかと思うんだけど」

「ピ、ピヨピヨ」

 お腹を割いても内臓しか出てこないよ?

 ヒヨコは恐怖で体を震わせる。


「まあ、でも、念話を使って金を巻き上げてるってのは嘘じゃないけど」

「ピヨピヨヨ」


 ぐえっへっへっへ。お主も悪よのう。

 ピヨピヨ、お代官様ほどではありません、とかいう感じか?


「いや、そういう方向じゃないけどね?無駄に知識豊富なヒヨコね。もしかして女神様ってばヒヨコに変なのぶち込んじゃったのかなぁ」

「ピヨ…………」

 素で返されると悲しいからやめてください、師匠。


※勝手にぶち込まれている類です。


「道端でヒヨコ相手に悪い顔している占い師がいたら、それはただの変質者だと思うし」

「ピヨ」


 言われてみればピヨピヨ言ってるヒヨコと会話してるだけでもちょっと怪しい人ですよね。コイツ、何喋ってんだ、みたいに思われるかもしれない。

『分かっているなら話しかけないで』

 すると突然、師匠は喋ってないのにヒヨコの頭の中に師匠の声が響く。

「ピヨッ!?」

 ヒヨコは師匠を見て驚きつつも周りを見渡し何が起こったのか首を捻る。


『これが念話。従来、魔力感知を持ってる人は相手から発している微妙な雰囲気を察知する事で互いに会話する事も可能な能力。知性ある魔物となら会話する事も可能なのよ。何故、知性の低そうな君から高度な考えが駄々洩れなのかは分からないけど』

「ピヨピヨ」

 これが念話の真の力か。さすがは師匠、一瞬、高度な腹話術かと思ったら、頭に直接声を語りかけてくるなんて。そんなスキルがこの世にあったとは驚きだ。

『ちなみに、こっちから念話で話しかけるにはLV4が必要だけど、相手にも念話スキルがあると話は通じるわ。獣人は念話使いが多い割にはどうして使えているか理解していない部分がある。君は何故か最初から高度な魔力感知と魔力操作を持っているし、練習すれば直に使えると思うけど』

「ピヨヨーッ!」

 何と、ヒヨコには念話の才能があるのですね?わーい、これからの訓練に役に立ちそうですね。師匠、どうやったら会話できるんですか?

『というか、君、自分のスキルを見る事が出来るでしょう?何で見ないの?』

「ピヨ」

 ヒヨコは首を傾げる。はて、そんな能力がヒヨコにはあるのか?よくわかんない。言われてみれば有るような無いような?

 こういう時は何と念じれば良いのだろう。そうだ、ステータスオープン!


 …………


 何も出ませんが何か?


※出てきそうですが、それはどこの異世界用語?


『おかしいなぁ。君には私と同じ神眼スキルがあるのに。まさか使い方を忘れたの?確かにステータス情報に記憶喪失ってなってるけど。そもそも何故かヒヨコなのに真の勇者とか聖鳥とか神の使徒とか何かよく分からない称号があるし』

「ピ、ピヨッ!?」

 本当ですか!?

 おお、ヒヨコは伝説の聖なるヒヨコブレイバーだったのか…………。

 どうりでヒヨコとしては並外れたヒヨコだと思った。

 よく考えればヒヨコと言えば人間の足で踏み潰されちゃうくらい小さいのに、今のヒヨコは踏み台になれちゃうほどに大きい。

 偉業を成したヒヨコが巨大化したのか!?


『あと、再来週の祭りではフラフラしないように。君が祭りで歩くと、多分、混乱が起こるから』

 師匠はヒヨコに厳しく注意する。

 だが、理由は分かるぞ。何故ならヒヨコは聖なるヒヨコブレイバーだから。そう、ヒヨコの様なヒヨコが歩いていると多くの人が崇拝して混雑が…………

『………………いや、そうじゃないけど…。それよりお腹減ってんでしょ。さすがにそんな巨大ヒヨコの腹を満たす食事はこの町で買おうと思うと高くつくから、自分で何か食べて来てくれる?』

 言われてみればさっきからピヨピヨと鳴いているから聞こえなかったが、お腹がキュウキュウと鳴いていた。

 でもお金を持ってないんですけど。ヒヨコに経済力を求められても困りますが。そんなリッチなヒヨコならば既に愛鳥(あいじん)の一羽や二羽いてもおかしくありません。


『野生の魔物なら、野生の魔物でも食べれば良いでしょ』

「ピヨピヨ」

 ああ、なるほど。そういえばヒヨコは野生のヒヨコ。獲物は自分で狩るものだ。

 餌を母ちゃんに恵んでもらうピヨピヨのヒヨコとは違うのだ。


 ………………あれ?でもヒヨコってばピヨピヨのヒヨコなのでは?


 まあ、良いや。じゃあ、師匠。ちょっくら行ってきます。

『帰って来なくて良いよー』

 手をひらひらさせてヒヨコを送り出す師匠。でも、ちょっと酷いと思う。

 するとヒヨコが去った背後に女性がやって来て何やら占いを頼んでいるようだ。どうやら師匠も仕事で忙しいらしい。あんなに小さいのに師匠は社会人で大変なようだ。

 そう、あんなに小さいのに。重要な事だから二度言ってみた。


 ヒヨコも社会鳥(しゃかいじん)として獲物を探しに町を出るのだった。

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