2章22話 終戦・後編
戦争はあっという間に終わってしまった。
師匠が出て来て斬撃を飛ばした瞬間、敵軍は恐怖に駆られ散り散りになって崩壊した。最前線に対して斬撃を一振り飛ばして1000近くを討ったからだ。
更には3~4振り目の斬撃が向こうの総大将を殺したようで、早いうちに死亡が確認されたからかもしれない。
ヒヨコはルーク時代を思い出す。
記憶がおぼろげであるが、先輩君が戦場に立つと大体、あんな感じだった。
しかし、ルークの時は殺さないようにしていたので、絶妙な手加減をしていた。殺して良いなら師匠の見せた現実を見せていただろう。
もしもあれを獣王国相手にやっていたら、今のヒヨコと獣王国の関係はなかっただろう。
そういう意味でも最終兵器のような存在がどれほどのものか改めて身を引き締めさせる思いだった。
師匠が一度敵軍を蹴散らしたら小一時間もしない内に戻ってくる。
今まで何だったんだって位の圧倒的な戦力投下に誰もが言葉を失っていた。対してヒヨコはと言えばやっと結界を解けるとホッとする。
青竜女王さんもドラゴン姿から人間姿になってリトレの町へと向かう。
グラキエス君とトルテも治癒術師に治癒魔法を受けて、どうにか復活し幼竜姿でヒヨコの背中と頭に乗っている。フェルナント君は羨ましそうにそれを見ているがヒヨコは無視する。
「そうですか、智子殿が亡くなられたと…」
師匠は剣術お姉さんから説明を聞いてどこか悲しそうに瞳を伏せる。
すると東の方からドドドドドドと揺れが近づいてくる姿があった。
「あれ、あれは……パトラッシュ!?」
フェルナント君は驚いて目を丸くする。自分のペットまで来ているとは思っていなかったのだ。
「ああ、途中まで一緒でしてね。戦争が始まっていると連絡を受けて、昨晩、一足先に出てきたんですよ。彼らには戦争に関わってもらう訳にもいきませんから。まあ、そもそも、ここまで時間が掛かったのは単にパトラッシュの足が遅いからですが」
「パトラッシュの足が遅いと言う時点で色々と間違ってると思いますよ」
剣術お姉さんはどんよりした顔で呻く。
師匠は仙人だから疲れないし、病気にもならない。水の中に潜っても呼吸ができる非常識人だからな。その点だけでは先輩君をはるかに超えている。
というよりも悪魔王を単独で殺した先輩君と比べられる人間という時点でおかしいのだ。ヒヨコは未だに先輩君の頃の力なんて鳥戻していないのだから。
するとパトラッシュはキュッとフェルナント君の前に止まる。
「殿下―っ!」
パトラッシュの頭の上からモニちゃんがジャンプしてフェルナント君へと飛びつく。
「モニカ!?」
まさかのモニちゃんの登場に驚いた様子を見せつつも、さすがに危ないと感じて落ちてくるモニちゃんをキャッチしようと手を広げると……
モニちゃんは空中で態勢を替えて両足を広げ、フェルナント君の頭を両腿で挟みこむ。そこから背後に回転してフェルナント君の頭を地面にたたきつけるのだった。
「これは勝手に出て行った罰です!」
「ぐぉおおおっ!頭が…頭が~」
見事な技が決まり周りは唖然としていた。
ヒヨコはそういえばモニちゃんは柔術のレベルが1あったと思って神眼で見てみたら既に3に到達していた。
モニちゃんは護身術として黒人のおじさんにかなり仕込まれていたからなぁとヒヨコは思い出す。だが、あれは護身術というよりも積極的に技を仕掛けているようにも見えるが……。
なるほど、フェルナント君を倒すためにお留守番の間に磨いてきたのだな、子供の成長は早い。
フェルナント君は頭を抱えてゴロゴロと転がっていた。それに対してモニちゃんはプンプンと怒った様子で叱っていた。
「フランケンシュタイナー…異世界にもあったんだ……」
剣術お姉さんは唖然とした様子でぼやく。どうやら異世界にもこの技は存在するらしい。
「あと、魔導通信を使って連絡させてもらいました。小母さまが直にエドに来られるそうなのでそこで落ち合おうとの事です」
「はい?」
「死なないよう頑張ってください」
「う、裏切者~。母上に話した?なんてことを……、お、お前自分のやらかした事を理解しているのか?幼馴染に死刑宣告をして楽しいのか!?」
「パトラッシュに咥えさせられて阻むことも許さなかった幼馴染が何を。皇妹殿下に叱って貰えばいいのです。お尻百叩きでも食らっていればいいのです!」
「馬鹿な。母上にお尻百叩きなんてされたら僕のお尻がこの世から消えてしまうじゃないか!」
怒って頬を膨らませているモニちゃんと跪いて助けを乞うフェルナント君。さすがに今回はヒヨコも庇えない。
ヒヨコは巻き込んだ側だが、ここに来なければ巻き込まれなかったのだから。
ヒヨコに助けてオーラを含む視線を向けるが、ヒヨコは断固無視の構えである。
するとエセ忍者君と癒しお姉さんもパトラッシュの背中についている大きな鞍から降りてくる。
というかパトラッシュがペタンと地面に伏せて、エセ忍者君が癒しお姉さんをエスコートして地面に降ろしているのだが。
「酷い目に遭ったでござる」
「ちょっと揺れたけど快適だったと思うけど」
「花山殿は三半規管がおかしいでござる」
ぐったりした様子のエセ忍者と意外にもピンピンしている癒しお姉さん。
城門の前で皆が集まる。
「あれ、そういえば鈴木さんは?」
「そういえば智子お姉さんがいませんね?」
癒しお姉さんが周りを見渡して首を捻り、モニちゃんも思い出したように周りを見渡す。
「と、智子は……」
百合は説明しようとして、言葉を濁す。彼らにも説明しなければならないのは気が重かった。
***
城門をくぐった直後にある竜神教会の礼拝堂の前に三つ編みお姉さんは物言わぬ死体となって安置されていた。
「うそ……鈴木さん……」
ショックで癒しお姉さん両手を口元抑えて後ろにそのまま倒れそうになる。ヒヨコは慌てて背後に立って癒しお姉さんを支える。
そういえば異世界人達が死ぬのは初めてだっただろうか?癒しお姉さんを虐めてた連中の4人が死んでいるが、ヒヨコが魔力感知で知っているだけで、他のお姉さん達は知らない事であるからな。
少なくともこれで異世界人達は5人が死んだ事になる。
「……こんな事になるような気がしたでござる。この世界は厳しいでござるからな。日本みたいに安全を確保されていないでござるから…」
エセ忍者君はそんな事を口にしつつも手首の脈を確認し首元に手を当てて死んでいることを確認していた。
嗚咽を漏らして泣く少女たちの声がしくしくと聞こえる中、師匠が剣術お姉さんを見る。
「何故、死んだのですか?」
「馬鹿が人殺しをしようとしているのを止めようとして、馬鹿に振りほどかれる拍子に斬られた。ヒヨコが回復魔法で傷を治していたけど手遅れだった。多分、即死だったんだと思う。バッサリいってたから」
「ば、馬鹿って………まさか高城君がやったの?」
「高城殿はちょっと真面目で正義感が強すぎる御仁でござるが、いくら何でも……」
癒しお姉さんとエセ忍者君が信じられないといった感じで口にする。
「戦場では何があるかなんて分かりませんよ。私も幾度となく戦いの場を経験していますから、分かります」
と師匠が慰めにならない事を言う。ヒヨコもそれは分かっている。
戦いの雰囲気によって頭に血が上った人間が集まる場所で、人の命をコントロールするなど困難だ。殺す気がなくても殺してしまう事なんて多々ある事だ。
それにあの天然ジゴロ君はヒヨコ達と違って他人に与えられた力を振り回しているだけの素人だ。はっきり言えばその辺は剣術お姉さんよりもはるかに下と言えるだろう。
「状況を見るに僕らと仲良くなった騎士隊の小父さんが自分の娘さんを守るために、タカギ君?とやらの仲間を殺したみたいなんだよね。それにタカギ君が頭に血を逆上せて、智子お姉さんが止めようとしたけど切り捨てて騎士隊の小父さんを斬ったみたいだった」
「何でわかる?」
ジトリとフェルナント君を見るのは剣術お姉さんだ。
「状況を見てそうかなぁと。半裸にされている宿屋お姉ちゃんがいて、その周りに殺された敵軍の兵士がいて、その近くにいた騎士隊の小父さんがタカギ君に斬り殺されていたから。魔力感知で殺された順番は分かっていたし、騎士隊の小父さんは宿屋に仕事に出ている娘さんを心配してたから」
「ピヨピヨ【ヒヨコの魔力感知でも死んだ順番はフェルナント君の言う順番で正しいぞ。騎士隊の小父さんに聞けば多分はっきりするだろう】」
フェルナント君の推測は物凄く容易に想像のつく状況で、ヒヨコも言われてみるとそんな感じがすると頷く。
こういう見えない部分を補完するとか想像力や状況把握はやはり父親譲りか、非常に頭がよく回る。いつも幼児並みのお子様思考なのだが、いざ考えると即座にポンッと結論に至る。
モニちゃんも癒しお姉さんもめそめそと泣いており、一番仲良かった剣術お姉さんはとっくに泣いた後で戦ったが、二人が泣いている為、また涙が出て来てしまったようだ。
幼竜姿に戻ってるグラキエス君はヒヨコの背中に乗っており、同じく幼竜姿のトルテは三つ編みお姉さんの近くに歩み寄る。
「きゅうきゅう【残念なのよね】」
トルテは悲しそうに三つ編みお姉さんの額を撫で、そして右手をそっと握る。
そういえば割とトルテもなついていたなぁと思い出す。異世界お姉さん達はこの世界に無縁だから竜王の子であろうと皇位継承権があろうと関係なく接していたので、グラキエス君やトルテ、フェルナント君とは割と仲が良かった気がする。この3者は基本、ヒヨコしか友達がいなかったから、こういう立場に関係なく対等に話せる存在はありがたかったのかもしれない。彼らは王に近しい立場の為、簡単に友達ができなかったからだ。
そこでトルテはふと視線を三つ編みお姉さんの首元に向ける。
「きゅう?【首に下げてる布袋が光ってるのよね】」
「…本当だ。それはウチの世界のお守りなんだけど……。確か智子の家の小母さんが、町内会の旅行で伊勢神宮に遊びに行ってついでに買ってきた奴よ。高城と智子は母親たちに『裏切られた、何で修学旅行に行くのが自分たちなのに、伊勢神宮のお土産を貰わねばならない』ってぼやいていたわ」
家族ぐるみの仲良しだったのに片方が加害者になって、片方が被害者になるとは何という皮肉だろうか。
そんな剣術お姉さんの言葉を聞いて、トルテは無造作にお守りの中を開けるとポロリと何かが出て来くので、トルテはそれを手で取ろうとする。
だが、その光の粒は手をすり抜けてそのまま不自然な感じで三つ編みお姉さんの中へと入っていく。
「きゅっ!?」
すると三つ編みお姉さんの体がまばゆい光に包まれる。
「きゅうきゅう?」
「ピヨヨッ!?」
何が起こったのかと周りの人達は三つ編みお姉さんを見る。
やがて光が収まっていく。
すると、光がなくなると、すうすうと呼吸する音が聞こえてくる。
ピョイッとヒヨコから飛び降りたグラキエス君は三つ編みお姉さんの近くに寄って首元に手を当てる。
『脈があるのだ』
「きゅうきゅう【息しているのよね?生き返ったのよね?】」
「嘘………。ステータスが死体から普通の生きている人のステータスに戻ってる。生き返ったの?聞いた事ないよ!?」
フェルナント君も驚きであるがヒヨコも驚きである。
三つ編みお姉さんから魔力は失われていた。魂は世界に霧散していた筈だ。死んだ者は生き返らない。これは世界の理だ。
ヒヨコの神聖魔法LV10<蘇生>の魔法は生き返らせる魔法ではなく、どちらかと言えば一度だけ復活できるよう死ぬ直前に魂の状態を保存して、死んだ直後に体の回復と共に魂を再び戻すという魔法だ。
「い、生きてるの?」
フラフラと剣術お姉さんは三つ編みお姉さんに近づいてペタンと腰を地面に落とす。 三つ編みお姉さんの手を取ると、真っ白だった体に赤みが差してくるのが分かる。
「よか、良かった。良かったよぉ…」
その手を取って剣術お姉さんは堰を切ったかのように泣き出すのだった。
「ピヨピヨ【信じられない。何があったのだ?そんな方法があるというなら悪神はもっと簡単に力を付けて世界を支配できたぞ】」
『私も俄には信じられません。死者の蘇生方法なんて世界の理から外れています』
青竜女王さんもヒヨコの言葉を肯定するように口にする。あまり喋らない青竜女王さんでさえ驚きの言葉を口にしてしまうのだった。
「きゅうきゅう【きっと異世界のお守りのおかげなのよね!異世界凄いのよね!】」
『異世界のお守り侮れないのだ』
竜兄妹は互いにうんうんと小さい頭で頷きあっていた。
剣術お姉さんは細長い六角形のお守りを眺めつつ首を捻っていた。
「そ、そんな効果はないでござる!?あったら世界中の人間が伊勢神宮にお守りを買い求めるでござるよ!」
ドラゴン達の中で異世界スゲーという流れになっていたのだが、慌ててエセ忍者君が異世界お守り説を否定する。
「ピヨピヨ【偉い人が握りつぶしているだけで、実はそういうお守りなのかもしれぬぞ】」
「日本で一番有名な神社で隠し通すとか無理でござるから!」
「ピヨヨ~【事実は小説よりも奇なりと言うしな】」
「異世界でも言うの?」
癒しお姉さんは首を捻る。
「ピヨピヨ、ピヨピヨ【ござると喋るただの陰キャ同級生が実は本物の忍者だったという事実と、実は有名神社のお守りが人を生き返らせる効果がある。どっちが可能性が高いと?】」
「言われてみれば!?」
ヒヨコの言葉に癒しお姉さんは目をカッと開いて驚きの声を上げる。
「拙者が本物の忍者だった事の方が、人が生き返る事より驚きだと思われていた事実に泣きたくなったでござるよ!」
いや、ヒヨコはエセ忍者君が本物だろうが偽物だろうがどちらでもよいのだが。エセ忍者君は偽物でも本物でもエセ忍者君に違いないのだから。
「でも、良かったぁ」
「そうね」
癒しお姉さんが涙ながらに口にして、同じように剣術お姉さんは首を縦に振り、目元をぬぐう。
「ピヨピヨ【確かにそれは……】」
『目出度し目出度しなのだ』
そう、これはきっとハッピーエンドではないがバッドエンドではない。ヒヨコはピヨピヨ団を死なせてしまったが、今回は死ななかった。それで良しとするべきなのだろうと考えるのだった。
「そんな事より早く智子を病院に運ぼうよ。大丈夫なの?」
「ピヨピヨ【ステータスを見る限りでは何も……ピヨヨッ!?】」
『ピヨちゃん、何か驚いたのは分かるけど、念話でピヨピヨ言うのはやめた方が良いのだ』
グラキエス君はどこか呆れたようにヒヨコを窘めるのだった。
だが仕方ない。ヒヨコの見たステータスはかなりおかしなものだったからだ。
名前:鈴木智子
年齢:17歳
性別:女
種族:人間
職業:調理師
LV:14
身長:158
HP:147/147
MP:82/82
STR:24
AGI:26
DEF:22
INT:121
MAG:28
称号:異世界人 火精霊の加護 復活者(NEW)
スキル:魔力操作LV2 回避LV1 計算LV2 言語理解LV2 分析LV2 精密思考LV1 精霊眼 魔力感知LV10(NEW) 水泳LV1 書記LV2 家事LV2 裁縫LV2 料理LV5 描写LV2 火魔法LV1(NEW) 水魔法LV1 神聖魔法LV1(NEW) 精神耐性LV3 酩酊耐性LV5 呪耐性LV10(NEW) 即死耐性LV10(NEW)
称号に復活者、そして魔力感知と呪耐性、即死耐性がLV10とカンストしていた。
他にも火魔法と神聖魔法が増えていたが、何かしら起こったのか。少なくとも本当に死んでいたことは間違いようもない事実だった。
そして、HPとMPはMAXだし状態異常は一切ない事も確認できた。
取り合えず、起きたら話を聞いて見よう。
***
北海王国王女マリエルはサクスムにて情報を受ける。
マリエルの横に座っているのは俯いたままの勇斗だ。
ジャンヌは報告を受けて二人の前に跪いて口にする。
「撤収ですか!?」
確認するように尋ねるのはマリエルだった。
「はっ」
ジャンヌは頭を下げて肯定する。
「モンタニエ卿の闇魔法による侵攻でほとんど勝利を確定していたとアルノワ卿より報告が入っていましたが」
「……ち、父は亡くなりました」
「!?」
ジャンヌの報告にマリエルは言葉を失う。
「ぼ、僕が戦線離脱をしたから…」
「いえ、違います。モンタニエ卿のボーンドラゴンによってほとんど勝利を確定していたのです。ですがモンタニエ卿は敵に恐れ逃亡。さらにアレン・ヴィンセントが戦場に現れてわが軍は壊滅してしまいました」
「…中央にいたのでは?」
マリエルは顔を青ざめたまま訊ねる。
「疲れを知らぬ仙人ですから3日で駆けて来たそうです」
「!?……ここまで攻めてくると?」
「元の領土まで押し上げると、宣言したそうです。逃げるなら見逃すが歯向かうものは皆殺しにすると…。父を失い軍は散り散りになったそうです」
「くっ………」
勇斗は俯いて悔しがるしかできなかった。
幼馴染を殺してうろたえている間に戦争は終わり敗戦となっていたなど、余りにも屈辱的な終わりだ。
「勇斗様……」
「マリエルやジャンヌはどう……するの?」
勇斗はジャンヌやマリエルの方へと視線を向ける。ジャンヌは
「父がいなくなった以上、撤退するしかないでしょう。私は弟に伝え、新しい領主として幼い弟を立てねばなりません。私も七光剣を目指すなんて事も言えなくなるでしょう。」
「七光剣のローラン殿は?」
「……聞いた話ですが……ヴィンセントは一般の兵達を斬った際に紛れてローラン殿も討ち取っていたそうです」
「は?」
「……あの化け物にとっては雑兵もローラン殿も大差ないのでしょう。光十字教国が軍事訓練をすることであの男が中央から離れないという前提でした。中央に軍を集め、彼の者が動いた時点で我が軍は終わりです」
ジャンヌは俯いて肩を震わせる。現実を口にしつつも、悔しさが募っていた」
「2人は皆と一緒に撤退を。僕はここに残って戦う」
勇斗はギュッと唇を結び俯いていた顔を上へとむける。
「今の勇斗殿ではローラン殿と同じ道をたどります。お考え直していただきたい」
ジャンヌはきっぱりと口にする。
「僕には覚悟が足りなかった。皆を元の場所に帰す為に、北海王国の民の為に、マリエル達の笑顔のために戦っていた。………智子がそれを邪魔するなら……僕がこの手で殺さなければならなかったんだ。最初からそうすべきだった。」
「勇斗様…」
マリエルは切なそうに勇斗を見る。
「僕はやるよ。もう何も怖いものなんてない。ニクスがいるならニクスも討ち取るまでだ。すぐ近くにいるってことはピンチであると同時にチャンスでもあるのだから」
勇斗は理解して頷きつつも、好機だと考える。
故にこそ勇者とも呼ばれているのだと勇斗は頷く。
「そうはいきません。私は父上より勇斗様の身の回りを補佐するように言われてきているのです。勇斗様が残るなら私も残ります」
「いや、でも、マリエルにまで危険を冒させるわけには…」
「私も残ります」
ギュッと袖をつかまれてマリエルは勇斗を見つめる。勇斗は少し困った顔をして、ジャンヌを見る。
「殿下を止める事は私にもできませんよ。国王陛下は勇斗殿につけているのですから。死も覚悟の上でしょう」
ジャンヌは諦めるように首を横に振る。
「僕は戦うけど、マリエルは決して戦わないようにね。」
「もとより戦う力なんてありません。身の振り方は大丈夫ですよ………」
マリエルは覚悟したようにうなずく。
神々「「「「「わっしょい、わっしょい」」」」」
女神「私の部屋でお祭りを勝手にやっているのはどこの天照だ!」
天照「ハロハロ!女神ちゃん、やほー。神輿の上からこんにちはー」
女神「ええい、日本神話の神群共、私の部屋から出て行きなさい!」
天照「地面にシュタッと。皆、ありがとー。ミカちゃんもミナちゃんもクマちゃん達もありがとねー。いやー、今回は私の大活躍を見たのかな?伊勢神宮のお守りの凄さをご覧あれだよ!」
女神「いや、そんな効果ないでしょ。ふう、やっと日本神話の神群共が去っていきましたか。って、祭りに紛れてヒヨコ!何で貴方まで神輿を担いでいたのですか!?」
ピヨ「ピヨヨッ!?おお、いつものようにあとがきスペースでゴロゴロしてたら、そこの棚にブルーハワイ味のポテトチップスがあったから食っていたのだ。すると、そこのおばちゃんが祭りをするから参加しないかと誘われたのだ」
女神「わ、私の虎の子のブルーハワイが!?」
天照「いや、それ以前にブルーハワイ味のポテトチップスって!?女神ちゃんとピヨちゃんの嗜好が一番突っ込みどころだから!そしてどさくさに紛れておばちゃん扱いされてる私って!?」
女神「いくら本編に自分の片鱗が出たからって、他人の部屋の中で大量神員を投入してお祭りする程のツッコミどころはないと思いますよ」
天照「ついに、この物語が、『天照転生~異世界行ったら本気出す(お守り限定)~』に名前を替えようというのに」
ピヨ「ピヨッ!?勝手にヒヨコの話を乗っ取るな!」
女神「しれっとタイトルをパクっている上に、無職=天照と言う所に引きこもり仲間としての矜持を感じますね」
天照「ウチのお守りの効果の凄さをご覧あれ!きっと私のお守りが異世界行ったら本気出したんだよ!ヒヨコとは違うのだよ、ヒヨコとは!」
ピヨ「ピヨ!?ヒヨコに何を求めているか!?ヒヨコは歌って踊れて走って戦える上に、眺めて可愛く、抱き枕にも使えて、悪霊退散までしてしまう愛されピヨちゃんなんだぞ。よく分からない効果を持ったお守りと一緒にしないで貰いたい!」
女神「そもそもあのお守りにそんな効果があるんですか?」
天照「さあ?でもきっとあるんだよ。神格持ちとは名ばかりのただのヒヨコとは違うのだよ」
ピヨ「ピヨヨッ!マウントを取られてる!?ヒヨコがマウントを取られてる!?赤い彗星たるヒヨコが!?己、アマッちのくせに!」
女神「本人が効果を授けてもいないのに、神の奇蹟が起きたというあたり、何ていうか、最近のなろうでザマアされるキャラの匂いがプンプンしますが。あと、アマッちって新しい呼び名ですねぇ。おばちゃんで構わないのに。」
天照「女神ちゃんが裏切った!?私は17歳なのにおばちゃん扱いだなんて酷いよ!?」
女神「私も17歳ですよ?」
ピヨ「おいおい。お前らは一体どこの神なんだ?」
女神&天照「「17歳教の信者ですけど」」
ピヨ「神ですらなかった!?」
女神「天照ちゃんは脱退したものだとばかり思っていましたが」
天照「乙女はいつだって17歳なんだよ~」
ピヨ「まあ、ヒヨコから見たらどの女神も小母さんであることには変わりないな」
天照「ピヨちゃんのくせにおばさん呼ばわりとか生意気なんだよ。我が神威を本編にてたっぷりと堪能すると良いんだよ!」
ピヨ「くうっ、だがしかし、確かにお守りの効果が真実ならば恐ろしい。くっ、ヒヨコが負けるなんてあり得ない。いつかピヨピヨしてやる」
女神「では次回、エピローグで終わります。それではまたのお楽しみを!」
ピヨ「では、今回はヒヨコがおばちゃん達に捧ぐ1部2章10話にてカットされてしまったヒヨコソングでお別れしましょう。歌います。曲目はセンチメ
※作者都合にて本あとがきは打ち切りとなりました。