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2章21話 終戦・前編

 北海王国の陣営は勝ち戦とばかりに落ち着いていた。


「おおっ!流石はモンタニエ卿!」

「あの死霊の群れを蹴散らしやがった二体のドラゴンを軽く叩きのめすとは!」

 モンタニエの周りは歓声を上げて喜んでいた。モンタニエもホッとした様子で成り行きを見守っていた。


 これでどうにか勝利できる、そう思っていたときにモンタニエは小さいが何か凝縮された魔力を感じる。感知外かと思ったが違和感ではなさそうだ。どこからか?ずっと遠い戦地のど真ん中だ。地平に隠れて見えるか見えないかギリギリのはずの距離だが…。


 モンタニエはとっさに横に飛んで伏せる。自分のいた場所に穴が開き、自分の背後を守っていた騎士の胸に大きい穴が開いていた。モンタニエは自分の護衛が糸が切れた人形のように倒れるのを見るのだった。


「!」

「な、なにが起きた!?」

「バカ!伏せろ!」

 すると自分の目の前にいた男の頭がトマトがつぶれたように吹き飛ぶ。


 モンタニエは正しく敵の存在を認識する。

 ピンポイントで自分の頭を狙いに来ていると察していた。しかも超凶悪な魔法と考えられる。火魔法LV7<火炎弾(バレットファイア)>と思われるが、その精度威力共に常識を逸脱していた。自分の魔力感知外からの超精密射撃だ。


 もはや人の域を超えている。


 モンタニエは敵の能力の恐ろしさをただただ驚愕するしかなかった。

 だが、同時に四聖と呼ばれるに至った怪物魔導師は素直に敵の力量を同時に解析する。



 自身の魔力感知はLV7、ともすると恐らく地平の奥からでも魔力を感知できるLV8以上。魔法は火魔法LV7<火炎弾(バレットファイア)>と思われるが、これほどの射撃能力を持つならばもう1~2レベル高い可能性がある。魔力操作はそれ以上のLVだろう。

 魔力感知と火魔法のLVは8以上、つまり神域に踏み込んでいる。

 ニクス竜王国にそのレベルにある者はニクスとヴィンセントの二大巨頭のみだった筈だ。ニクスとフリュガの子供が遊びに来ているというが、恐らく大暴れしていた二頭の竜がそうだろうと想定されるが、彼らは火魔法や火吐息の使い手ではなかったはずだ。

 それ以外と考えると大陸外からの訪問者か。

 ローゼンブルク帝国から留学生が来ているという話があった。噂では幼いながらも自分と肩を並べうる賢者の称号を持つという。だがそちらは火魔法ではなく風魔法だったという話を聞いている。

 まさか火魔法まで極めたという話は聞いていない。

 だが、そんな大物を留学に出すなど余程の護衛がいなければ割に合わないだろう。その随伴者と護衛のどちらかの可能性が高い。

 そうだ、あれほどの魔力感知と火魔法があるなら、ニクス竜王国の人間であれば大魔法でドラゴンもろとも地平の奥に向けて我らをも吹き飛ばせたはずだ。

 何故それをしなかった?

 戦争に関わる気はないのか?魔力不足?いや、そうだ、魔力不足が正解だろう。

 何で魔力を不足した?


 モンタニエは伏せながらも地平の先に辛うじて見える都市を包む巨大な聖結界を見る。冷たい汗が体を濡らす。

 自分と同格?否、格上の大魔導士が存在している。しかも大陸外からの訪問客だ。

 この精密射撃は術者である俺をピンポイントで殺しに来ている。それ以外は関わるつもりはないという事か?



 北海王国軍の面々は悲鳴を上げたりして混沌としているが、そこでモンタニエは同じように伏せている光十字教から派遣された部下達に命じる。

「撤収だ」

「え?」

 部下たちは頭を抱えて伏せたまま疑問符を浮かべる。

 北海王国軍の面々は優勢だったモンタニエがまさか逃げ帰ると言い出すのだ。このまま一気に制圧できるのに。

「馬鹿な!ここまで来て逃げるだと!?臆病風に吹かれたか!」

 北海王国軍の面々はその言葉に罵声を浴びせる。光十字教から派遣された自分の部下は絶対にそんな事を言わない。自身のいう事ならば意味さえあれば死ねと命じれば死ぬような者達だからだ。


「その通りだ。薄々感じてはいたが、もはや想定を超えている。都市を包み込むような聖結界、地平線のギリギリ見えるか見えないかの位置から火炎弾の魔法で超長距離射撃をする存在がいる。ここからでは分からないが恐らく俺と同等の魔法使いが2人、あるいはそれを同時に出来る1人の化物がいるだろう。ボーンドラゴンを出した以上、後はもう私の出る幕がない。逃げさせてもらう。それとも貴国はあの厄介な二頭のドラゴンを倒して貰い、尚も私に頼りたいと?悪いが今回の戦争は私の仕事ではない。ボーンドラゴンを失うのは痛いが自分の命が一番大事だからな」

 そう言って頭を下げながら、逆方向へと走り出す。馬がいるが馬にも乗れない。

 今地平線からギリギリで狙っている奴がいる以上、迂闊に頭を上げられないからだ。

 魔法で身体能力を強化して逃げるしかないだろう。


「四聖の面汚しめ。あんな奴に頼っていたこちらがなさけな…」

 そんな愚痴を言ってこそこそと逃げるモンタニエとその仲間達を見て呆れるように溜息を吐いた刹那、彼は意識を途切れさせる。

 頭が弾けて死体となって崩れ落ちたからだ。ちょうどモンタニエと敵の斜線上にいた為だ。自分の失敗を理解することなく死ぬのだった。


 モンタニエたちは体を低くしたまま補助魔法を使える仲間に命じて全員を<軽化(ライト)>の魔法で軽くして、体を低くしながら素早く移動してその場を去るのだった。


 この判断はこの戦場にいた者達の多くが愚かな判断だと嘲笑する。

 臆病者であり敵前逃亡であり、勝利確定直前の情けない逃亡だと。

 しかし、遠くでヒヨコに自分達と同格レベルの魔法使いと評価されるだけのまともな判断力があったと言えるだろう。

 このおかげで、竜王国の反撃を避けることが出来たからだ。

 それは幼馴染を切ってサクスムの時点で戦線離脱した勇者もこの時点では同様であったかもしれない。




***




「ピヨヨーッ【すまん、あのボーンドラゴンの使役してる魔法使いを殺し損ねた】」

「ぎゅー【頭がくらくらして動けないけど、ヒヨコが失敗したのは分かったのよね】」

『僕らはこのままだとしばらく動けないのだ。魔法で回復願うのだ』

「ピヨピヨ【もうヒヨコも魔力がすっからかんだぞ。二羽ともそこで休んでると良い。ヒヨコは皆をサポートしてくる。魔力が無いからどこまでやれるか分からないけど】」

『絶体絶命のピンチなのだ…』

 ぐったり倒れているグラキエス君とトルテは悔しそうにしていた。

 だが、動けないものは動けない。

「ピヨピヨ【人殺しを避けていたのが失敗だった。あいつはサクスムでの戦時中に他の何を無視してもさっさと殺すべきだった。あのドラゴンが出て来る前に】」

 ヒヨコの判断ミスと言えるだろう。

 相手を侮っていたかもしれない。最初から聖結界ではなくピンポイント爆撃で皆殺しにしておけばこんな問題はなかった。向こうに三つ編みお姉さんの幼馴染がいる可能性があったからだ。

 何も知らない内に三つ編みお姉さんの幼馴染ごと北海王国軍を爆撃して終わらせていれば何も起こらなかった事だ。



『僕らと同格以上の魔法使いだったのだ。いくら闇魔法の支配者でもあれほどのボーンドラゴンを使役できるなんて想定外なのだ』

 グラキエス君もヒヨコ同様に敵の強さを侮っていたようだ。

「ピヨッ【とはいえ、術者には逃げられたが、ゾンビミストが途絶えた今、もう復活は無い。どうにか皆であのボーンドラゴンを倒すしかない。ヒヨコは魔力が無くても最後まで頑張るぞ】」

「ぎゅうぎゅう【回復したらすぐに行くのよね。負けたままでは終われないのよね】」

トニトルテも完敗だったことを認めたようで報復を口にする。

 ヒヨコは二羽のドラゴンに背を向けてドラゴンと対峙する人間達と合流しようと走るのだった。




***




 ヒヨコが一生懸命走っている頃、既に町を守っていた竜王国軍は、前線を押し上げて街に被害が出ないくらいの位置に出て来ていた。

 そしてその動きを感知したボーンドラゴンは一気に竜王国軍へと突っ込んでいく。


「散会!」

 フェルナントが叫び周りの軍人達が必死に逃げる。

 フェルナントは敢えてドラゴンのいる方へと走り、風魔法で空を飛び魔剣でドラゴンに切りつける。

 ボーンドラゴンの肋骨辺り斬り付けたが、20メートル以上ある巨体を相手にしている為、小さい傷が入るも骨そのものを切り落とせるようなレベルのダメージを与えた様子はなかった。それにドラゴンの骨なので想定よりもはるかに硬かった。

「くっ…全然ダメージを受けてない!?ならば……」

 フェルナントが空中でボーンドラゴンの前に対峙して飛ぶ斬撃を何発も放つ。

 だがボーンドラゴンはフェルナントが空中で動きを止めたのを確認するや否や、巨大な雷撃を吐きつける。

 フェルナント君は慌てて風魔法<突風(ブラスト)>で自らを吹き飛ばして地面に逃げるが勢い余って地面に落ちてしまう。何とかゴロゴロと転がってダメージを回避して受け身を取る。

「目が回る~」

 それを追ってボーンドラゴンが地面に着地すると、竜王国軍の精鋭10人程が走ってボーンドラゴンへと突っ込んでいく。

 彼らはボーンドラゴンの足を武器で攻撃しているが、やはり全くダメージが入らない。

 ボーンドラゴンは痛いからというよりはうっとうしいからという感じで尻尾を振って足元の人間達を吹き飛ばす。

 竜王国軍の精鋭たちはそれだけで大きいケガをして動けなくなる。

「魔法部隊!放て!」

「<石矢(ストーンアロー)>!」

「<火炎(フレイム)>!」

「<炸裂(バースト)>!」

 騎士隊の魔法部隊が次々と魔法を放つ。


 ボーンドラゴンの前にたくさんの魔法が降り注ぐ。

 だが、ボーンドラゴンには全く効かなかったようだ。

 それもそのはず、グラキエス、トニトルテが魔法にしてLV9~10相当のブレスを叩きつけていたのにびくともしなかったのだから効くはずもない。LV5がトップレベルのこの大陸の魔法使いの魔法ではそこまでに達するのは困難だろう。

 とはいえ<炸裂(バースト)でちょっとだけ体が揺れたので、火魔法に対しては弱い事が伺える。だがその程度だ。炎に弱いのは最初から分かっていた事だからだ。


 しかし、ボーンドラゴンはその攻撃に反応して、口元に凶悪な電撃を放電させて魔法部隊へと口を向ける。

「逃げろ!逃げろーっ!」

 慌てて叫ぶ周りの人間達。同様に逃げ出す魔法部隊。


 それを止めようと走るのはフェルナントと百合の2人。

 部隊に配属されていないからこそ遊撃として空いていたからだ。

「届けえええええええええええっ!」

 百合は剣を振り斬撃を飛ばそうとする。

「うおおおおおおおおおおっ!」

 フェルナントは気合一閃でジャンプして思い切り斬り上げる。

 二人の斬撃がボーンドラゴンの下あごにぶつかる。


 首が少しだけ持ち上がり凶悪な雷の吐息が魔法部隊のちょっと上に逸れるのだった。

 だが、その威力は想定以上のもので吐き出された勢いだけで城壁が爆発し、その中を守るヒヨコの張った障壁がぶつかった部分を大きく剥がす。


 そしてボーンドラゴンははがれた結界の奥へ顔を向けて放電している口元を大きく開ける。


 全員が戦慄する。あれが街に放たれたら住民は膨大な数が死ぬだろう。

「や、やめろ!」

「全員!ドラゴンを止めろ!」

 必死に走ってドラゴンに向かう竜王国軍の人間達。

 だが尻尾を振るだけですべてを蹴散らしてしまう。

「やめろぉおおおおおおおおおっ!」

 足元にいたので尻尾の攻撃を避けられた百合は、勢いの止まった尻尾に乗って、拾った魔剣を片手にボーンドラゴンの体の上を走ってドラゴンの頭へと向かう。

「砕けろ砕けろーっ!」

 背中まで達した所でジャンプして頭を全力で叩きに行く。

 百合の攻撃がボーンドラゴンに炸裂するが、ボーンドラゴンの頭がちょっと揺れただけで傷は入らなかったどころか、持っていた剣が折れてしまう。


 ボーンドラゴンは首を振って百合を見ただけで百合は口元に近かった事で放電した電撃を浴びてしまい、感電してそのまま地面へと落ちていく。


「<空中浮遊(エアフロート)>!」

 フェルナントは落ちる百合の落下地点に空気のクッションを作りながらも、走ってボーンドラゴンへと向かう。


「くたばれ!<虚無(ヴォイド)>!」

 風魔法LV10、神殺しの最上級魔法をフェルナントは発動させる。

 ボーンドラゴンの頭だけでも叩き壊そうと、フェルナントは手をボーンドラゴンの頭に掲げて魔法を放つ。

 ミシミシとボーンドラゴンの頭がきしみ今にも内側からはじけ飛びそうな勢いでボーンドラゴンの頭が歪んでいた。

「うおああああああああああああああっ!」


 バアアアアアアアアン

 フェルナントは激しい破裂音と共に吹き飛んでしまう。

 神殺しの最上級魔法を使用するには、魔法の理屈を知っていても制御するほどの技術がなかった。魔力操作LVが低い事が圧倒的弱点だったからだ。

 さらに言えばこの頭だけで2メートルはありそうなドラゴンの大きさに対して行なうには、より高精度の魔力操作技術が必要だ。小規模ならばともかく大規模な<虚無(ヴォイド)>を使うには技術が圧倒的に不足していたのだ。

 フェルナントは天才肌だったが故に魔力を上げるための地道な練習というのをしてこなかった。フェルナントは大きい後悔を感じつつも自分の力不足を感じていた。

「止めないと…」

 ヘロヘロの百合とフェルナントはそれでも必死に立ち上がろうと地面の土を掴み起き上がろうとする。


「ピヨヨーッ【ピヨスパイラルアターック!】」

 遠くから回転してきたヒヨコがドラゴンの首の骨と骨の隙間に嘴を差し込んで頭を吹き飛ばす。

「ピヨピヨ【よくぞ、時間を稼いだぞ、皆の衆。敵にやられて惨状!そこでピヨちゃん参上!】」

「ああ、下手なラップってこれか」

 力が抜けるようにぐったりする百合だが、ヒヨコが崩された城壁の上に立ち、穴の開いた結界を守るように立っていたのだった。

 だが何を思ったのかフルシュドルフダンスを踊りだす。


「ピヨちゃん、終わってない!終わってないよ!」

 フェルナントは倒れたまま慌ててヒヨコへ叫ぶ。

 だがボーンドラゴンは自分の首を持って再び頭にくっつけて立ち上がろうとしていた。ヒヨコは関係なしに城壁の上でフルシュドルフダンスを踊る。

 そしてボーンドラゴンの瞳は怪しげに赤い光を放ち、ヒヨコを見る。

 そして口を開けて激しい放電を起こしてボーンドラゴンはブレスを放とうとしていた。さすがにこれを放たれたらもはや終わりだと言わんばかりの威力が伺わせる。

「ピヨピヨ【フェルナント君よ。ちゃんと魔力感知を見れば良いのだ。ヒヨコの仕事はすでに終わったのだからな】」


「その通りです」

 そこに現れたのはアレン・ヴィンセントだった。右手に聖剣を持ち、空高くジャンプしてボーンドラゴンを頭から一刀両断する。

 その余波で大地までもが切り裂かれて小さな崖が出来てしまうほどだった。

 あまりの威力に誰もが開いた口が塞がらないと言った状態だった。


 ヒヨコからすればルーク時代の戦争で、このくらいの能力はルークにも獣王アルトリウスにもあったので、そこまで驚くほどではないだろう。


「あ、あはははは……遠いなぁ」

 フェルナントは先輩勇者であるヒヨコやヴィンセントを見上げ、乾いた笑い声しか出て来なかった。自分が何をしてもちょっと首を動かす事しかできなかったのに、ヒヨコは体当たりで頭を吹き飛ばし、師匠に至ってはあの固い骨を一刀両断にしてしまったのだ。

 本当にありえない光景だった。父のように偉大な戦士になりたいと闇雲に強くなろうとしているフェルナントは身近に自分なんか足元にも及ばない存在がいる事に肩を落とさざる得なかった。魔法に関してはピヨちゃんが遥か先に進んでおり、剣術においては師匠が遥か先に進んでいる。


 東の空が明るんでくる。

 死霊の群れはほぼ全て始末したころだった。これから戦争が始まろうとしている。


 だが戦争を終える決定的な声が響き渡るのだった。


『戦を止めてください』


 空に現れた巨大な影。

 これから戦争になるとばかりに北海王国軍は隊列を組んでいた時に空から見た事もないほど巨大な青いドラゴンが舞い降りてきた。

 羽根の羽ばたきだけで吹き飛びそうになるほど巨大な存在だ。マナガルムさえも足で踏みつけて壊せそうな巨体は、真っ二つになってなおも動こうとするボーンドラゴンを踏んで砕きつぶすのだった。


「に、ニクス様だ!」

「ニクス様!」

「おお、何という…」

 竜王国の民は皆が跪いてしまう。彼らにとっては神だからだ。竜神教の竜神の姿は伊達ではなかった。


『人間達よ。聞きなさい。北の僻地で静かに暮らしていても、私を理由に争いをする貴方たちの行動に愛想が尽きました。私は我が子らと共にコロニア大陸へ移住します。戦いたいなら勝手にやっていなさい。光十字教徒たちよ。あなた達が望むように、イヴ、ティグリス、イフリート、フリュガをこの大陸から一緒に出て行くよう暫し説得に向かいます。それが終わったら勝手にすれば良いでしょう。我々はここから出て行きます』


 ニクスの言葉は遠く北海王国軍まで届く。


 その言葉はニクス竜王国解体に等しい宣言でもあった。北海王国軍は勝鬨を上げ、大きい声で盛り上がっていた。


「故に!ニクス竜王国はこれによりアレン・ヴィンセント大公の名のもとに解散する!これまで竜王陛下の名の下で平和主義を貫いていたが、もはや争いもやむなし。これよりアレン・ヴィンセントは一介の剣士に戻りニクス様が出て行くきっかけを作った貴様ら北海王国の敵を皆殺しにする!逃げるなら良し、歯向かうならば容赦はしない!」

 アレン・ヴィンセントの大声が響き渡る。

 勝鬨を上げていた北海王国軍はピタリと止まる。


『ヴィンセント。これまでご苦労様でした』

「陛下も他の連中の説得は難しいでしょうがお気をつけて。後で合流しましょう」

 ニクスはヴィンセントを労い、ヴィンセントもまた戴いていた竜王に頭を下げる。


 ヴィンセントは結界内の城壁付近にいたオーウェンズ公爵を見る。

「パトリック。後は勝手にせよとの事です。中央にいるラングリッジとグランヴィルと話し合うように。私もニクス様と共にこの国を出る予定です。この国から北海王国を叩き出してからですが」

「しょ、正気ですか!?我らを捨てるのですか?」

「私のような老人がいつまでもいては邪魔でしょう?貴方達が上手くやることを願っています。あと、船を一つ貰いたい。ピヨ殿やフェルナント殿下はコロニア大陸に帰る事になったので」

「そ、そうですか……。し、しかし……」

「暫く攻め込めない程度には北海王国を片付けておいてあげます。中央に行って他の連中とよくよく話し合うと良いでしょう」

「は、はっ……承りました」


 ふらふらと歩いて戻って来るのはグラキエスとトニトルテの二頭だった。

『母ちゃんも結局僕と同じ結論に至ったのだ?』

『あなたも出る方が良いと思ったという事ですか』

『光十字教は僕らが邪魔だったみたいだからなのだ。人間達でやるべきことに対して、僕らが干渉するのは良くなさそうだと思ったのだ。その点で言えば帝国は僕らを利用しないから迷惑にならないと思ったのだ』

『まあ、イヴやティグリス、イフリートの説得には骨が折れそうですがね』

 グラキエスは母を見上げ、母は苦笑するように口元に笑みを浮かべつつ指でグラキエスの頭を優しく撫でる。



 アレン・ヴィンセントは聖剣をフェルナント君に返してから、自分の腰に差している日本刀を引き抜く。

「さて、私は久しぶりに戦争に加担させてもらおうか!」


 ヴィンセントは狼のような獰猛な笑みを口元に浮かべて青みを帯びてきた空へと掲げ、そして刀を持ったまま敵陣へと走って向かう。

 地平にかろうじて見える敵軍はヴィンセントへと向かって戦いに出てくるが、ヴィンセントが剣を一閃した瞬間に前列にいる人間の上半身と下半身が泣き別れになって倒れていく。


 幕末期の日本から転生した剣士は、学もなくニクスを敵と思って大量のドラゴン達と戦ってニクスに敗れた猛者である。

 剣を極めようと仙人になった超越者アレン・ヴィンセントが戦場を走りだす。


 たった一人によって1万の軍が後退していくのを見て、ヒヨコ達は戦争が終わったのだと理解するのだった。

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