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2章19話 リトレ防衛戦

 モンタニエは北海王国の将軍アンリ・アルノワとは異なる天幕の中で戦時には不似合いな大きな椅子の上で寝転がっていた。

 フィリップ・モンタニエ、光十字教法王直属四聖という肩書を持った男である。元は東部諸国連合布教軍魔導師隊にいた男爵の三男坊であるが、40代半ばで魔導師隊の隊長に成り上がり闇魔法を極める。それと同時に東部諸国連合を押していく。

 今から12年前に東部諸国連合をすべて布教し終えて、四聖へと叙任される。

 とはいえ、3年前に水の精霊王イヴを信仰する精霊信仰をする集団が反旗を翻し、最東端の大東王国が独立宣言をしており、東部諸国連合対大東王国という構図になっている。

 東部諸国連合は元々精霊信仰であった事と、東部諸国連合が元精霊信仰であり、大東王国が反旗を翻した理由が水の巫女を光十字教徒が殺したという理由だった為同情的で非情になれず、未だに大東王国の鎮圧には至っていない。


 そんな中、竜王国布教軍の人間が報告をする。勇者の問題だった。


「ふん、なさけない。身内を斬っただけで使い物にならぬだと?ソリス様が力を与えたというが、心までは与えられなかったようだな」

 呆れるようにぼやくのはモンタニエであった。

 その言葉に周りに侍っている魔導師たちは同意するように笑う。

「北海王国軍が前線で戦いたいと言っていますが…」

「くだらぬ。夜中に出るつもりか?ここで野営して高みの見物していれば良いものを。どうせすぐそこだ。まさか死霊共と一緒に夜戦でもする気か?自殺志願者以外の何者でもないだろう。放っておけ。そうだな、死霊共は細かい命令を課すことはできない。お前らが死霊に襲われて我が手下になりたいならいくらでも前線に出すが良いとでも伝えておくのだな。仕方ないのだ。はっはっはっ」

 まあ、細かい命令も出せるのだがな。とは心に思いつつも北海王国軍を無視する。

 分かっている者達は「これは酷いお方だ」と共に笑うのだった。


「とはいえ、七光剣も頼りになりませんでしたな」

「ふむ。奴らは所詮、七光剣であるからな。タキガワ法皇家の下に我ら四聖がおり、七光剣はあくまでも我ら四聖の下よ。しかも物理で殴るしかできぬ使えぬ武辺者。まともなものは少ないからの。殆どがただの肩書だけの筋肉バカよ。ローランも名前は立派だが『筋肉ハゲ達磨』としか呼びようがなかろう?」

 そんなモンタニエの言葉に部下の魔導師たちは追従して大笑いする。


 丁度そんな頃、敵陣にいるヒヨコがどこからかシンパシーを感じていたらしいが、彼らの知る由もなく、ヒヨコの知る由もなかった。


「それにしても死霊共は遅いですな。だから北海王国もじれるのでは?」

「あんな連中じらすだけじらしておけ。死霊共の役割はあと2時間くらいすればある程度戦場になる辺りに辿り着くだろう」

「わざと遅らせていると?」

「元々疲れも知らぬ者達だ。全力で走らせれば直に戦場に到達しよう。北海王国の奴らは軍略というものを知らぬのだ。あいつらの仕事は死霊共が消えるか朝になってからだろうに。何でこんな夜からやる気満々なんだ?かつて七光剣候補だったというアンリ・アルノワも、今七光剣候補のジャンヌ・アルノワも頭に筋肉しか入ってないかもしれないな。いっそ殺してもらって俺の手ごまにした方あ余程使えそうだがな」

「一応、アルノワ家は北海王国の侯爵ですのでさすがに拙いかと」

「拙いことは無いが、確かに面倒はごめんだ。まあ、冗談よ。勇者も思ったより使えんな。中央に入ったタケヒサ・ヤマカワという勇者がかなりのやり手でそろそろ四聖に近づく領域だと聞いているが?」

 モンタニエは周りの部下たちに尋ねる。

「他の2人の勇者はあまり使えないようですね」

「光十字教国にいたサイジョウという勇者は当初期待されていましたが、ヤマカワが入ってきて立場を失ったそうですね」

「ふむ。以前見た時、頭が切れる有能な男だったがな。……何より…」

 モンタニエは続いて出る、光十字教もソリス様も全く信用していない様子が素晴らしい、という言葉を飲み込む。モンタニエもまた光十字教を利用する事しか考えていなかったからだ。

 そしてモンタニエは続いて考える。


 ソリス様もまた光十字教を自分の踏み台にしか考えていないのだろうと。

 だからモンタニエには分かるのだ。西条という勇者は周りから信を失わせるようにしたのはソリス様による誘導なのだろうと。

 自分を崇めさせるには邪魔だったから。ソリス様には何か考えがあるのだろうが、およそ碌な事ではあるまい。精霊が受肉して具現化した存在というのはそういうものだ。

 実際、精霊達が崇めていた伝説の鳥クレナイが残したという不孵(かえらず)の卵が大陸から失われて、直後に台頭したのは火精霊から具現化したイフリートという暴君だった。

 精霊は基本的にろくでもない連中が多く、それが受肉するとろくでもない事しかない。それを支配するために多くの幻獣が存在する。だが、光の幻獣という存在は見た事がないのだ。もしかしたら、絶滅した為にソリス様が生まれたのかもしれない。

 あるいは……。


 それから暫くすると突然外から光が走り悲鳴が聞こえる。

「何が起こった?」

 驚いた様子でモンタニエは立ち上がる。

 すると伝令の兵士が急ぎやって来る。


「空です!空から二体のドラゴンが現れて、黄金のドラゴンのブレスが死霊共を殲滅し始めました!」

「……ドラゴンの大きさは?」

 とモンタニエは舌打ちをする。

「ふ、不明です。我々からは遠く見え難いので。ただ、成竜程度のサイズだろうとは。ただ、成竜とは思えぬブレスで…」


 モンタニエは考え込む。

 青い竜と金色の竜が沈黙を保っていたニクスとフリュガならこの戦争はここまでだ。全力で撤退しなければならないだろう。

 まだ自分には奴らを越える力は手に入れてない。だが、成竜程度の大きさというのだから別のドラゴンであると考えるのが妥当だ。

 いや、元々奴らは人間を殺す事、人間の戦争に介入する事は極力避けている。だからこそこの大陸で光十字教が強くなったのだ。他のドラゴンも昔ならともかく今はフリュガやニクスに従順だから平和を保っていた。

 となると何で今になって出てきた?

 奴らの意を無視して出てくるとは思えない。

 青と金のドラゴン。ニクスとフリュガを彷彿させるが、あの二体のドラゴンの意を無視して前線に出てくる。ありえない事だった。それこそ彼らのいう事を無視できるほどに権力のある存在でなければならない。


「人的被害は?」

「死霊兵達前列のみ、雷撃で動かなくなるだけなので皆無かと」

「そういう事か」

 公にはしていないが、ドラゴン達は人類には手を出さないようにしている。これは四聖やそれに近しい者達しか知らない。この戦場にいる人間ではモンタニエしか知らないだろう。

 恐らく魔物の進軍、つまりは我が支配下にある死霊集団をターゲットに決めたからだ、とモンタニエは理解する。

「ちんたら歩かせていては皆殺しにされるな。進軍速度を速める」

「これまでわざと遅く動いていた事に対して、北海王国軍への言い訳は…」

 そんなモンタニエの言葉に慌てて他の魔導師たちが訴える。

「文句があるならアルノワ卿が直接来るように言えばよい。俺が言ってやる」

 伝令の男に伝え、モンタニエは立ち上がる。

「はっ、承知いたしました」

 伝令の男は敬礼をしてから直ちに幕舎から出て行くと、モンタニエも幕舎から出る。


 モンタニエは歩いて布の戸を広げ、戦況を確認するとまさに天災が降り注いでいる状況になっていた。

 地平の奥、リトレ近隣の空が黄金色に染まっていた。何度も何度も轟音が鳴り響いている。何度も何度も雷が落ちたような凶悪な音が兵士たち全員を怯えさせる。


「我がボーンドラゴンに比する力だな。フリュガではないようだが……出来るだけゾンビやスケルトンたちを走らせてドラゴンの攻撃を突破させたいが何匹突破出来る事やら。そういえば異世界人達が勇者に会いに来た時にドラゴン二匹が一行を助けたと言っていたな。人間達と仲良くなったドラゴンがいたという事か」

 それでもニクスやフリュガを無視して戦場に来ることはあり得ない。気に入った人間についてきて戦場の真っただ中に来るほど愚かなドラゴンはいない。

「少々厄介だな。まあ、良い」

 いざとなれば逃げれば良いのだから、と割と薄情な事をモンタニエは考えるのだった。




***




 一方その頃、迫りくる死霊の群れの前に現れた成竜化したトニトルテは口から放電が漏れるほどの電撃を視界を塗りつぶすような範囲へ吐き出す。

 死霊は激しい電撃を浴びてブツリと糸が切れたように動かなくなる。


 空を舞う黄金の成竜、トニトルテはご満悦に目を細めて笑う。

「ぎゅう~ぎゅう~【アタシのブレスの前には死霊なんて物の数じゃないのよね】」

 ブレスを端から端まで一吐きすると最前線にいた5万の内の1万位はすでに動かなくなっていた。


「こ、これがフリュガ様の血を引く竜王姫トニトルテ様か…」

 敵対する北海王国だけではなく、竜王国軍の全員がその力に慄いていた。

 すると突然死霊達の動きが活発になり走り出す。のそのそと明らかに死霊っぽい感じで動いていたら、突然、スプリンター顔負けの華麗なフォームで死霊たちが走り出す。

 さすがのトニトルテも目を丸くする。

「ぎゅう!?【なんなのよね、あれは!?】」

『華麗なフォームなのだ。きっと皆、かつて徒競走で優秀な成績を収めたに違いないのだ』

「ぎゅう【兄ちゃんはヒヨコより冗談のセンスが酷いのよね】」

「ぎゅいっ!?」

 すごくショックを受けた顔で凍り付くグラキエスは思わず鳴いてしまう。

 だが、すぐに我に返る。


『僕は下がってトニトルテのブレスから逃れた死霊を止めるのだ』

「ぎゅぎゅう!【抜け漏れを出す予定はないのよね!<拡散(ディフュージョン)雷光吐息ライトニングブレス>なのよね!】』


 再度の広範囲の雷光吐息が放たれる。多くの魔物の軍勢を退けた巨大なブレスが数千を越えるゾンビやスケルトンたちを一瞬で吹き飛ばし昏倒させる。

 だが走り出したスケルトンの中には上手く潜り抜けた者もいた。

『<氷結吐息(フリーズブレス)>なのだ。』

 ギュオオオオオオオオオオオオオオオオッとグラキエスも声を上げて凶悪な氷のブレスを吐きつける。一瞬で凍り付いて動かなくなる


 後方で残りを討とうとしている兵士たちはここに届く前に電撃に撃たれ動かなくなったり、氷によって凍り付いたゾンビやスケルトンたちを見て、ただただ自分たちの崇敬するドラゴンの凄さに言葉を失っていた。


「こっち迄これないかな?凄いやトルテちゃんやグラキエス君は」

 ポカーンとフェルナント君は騎士隊の隊長や公爵の近くでぼやく。

「いや、奴らがこれで終わるとは思えぬ。私もサクスムで不覚を取りかけたが、死んでいた筈のゾンビやスケルトンたちは何度倒しても復活する。足を壊さねば動き続ける」

 騎士隊の隊長であるエマーソンが口にする。

「え?」


 すると闇夜に隠れて紫の霧がゾンビやスケルトンの集団の背後から迫り、電撃で倒れたゾンビやスケルトン達は再び立ち上がる。そして、全力ダッシュで死霊とは思えない全力ダッシュでこちらへと向かってくる。

 その姿はある意味ホラーであった。腿を上げ腕をしっかりと振る様はスプリンターの如しである。そんなゾンビやスケルトン達が数千と群れを成して第一陣となり、さらに後方のゾンビやスケルトンが同様に走って来る。

「ぎゅ~【復活するなんてズルいのよね】」

『トルテにはちょっと向いていない敵なのだ。人間なら二度と起き上がらなかったと思うけど、何度も復活する死霊相手には厳しいのだ』


「ぎゅうぎゅう【兄ちゃん、アタシのブレスが役に立ってないのよね。むかつくから人間の方をやっつけるのよね】」

『相変わらずトルテは短気なのだ』

「ぎゅう~【弱い奴に譲らねばならないアタシの気持ちを察してほしいのよね。】」

『簡単な方法というのは得てして長いスパンで考えると大変なことになっちゃうのだ。こういう時はフリュガ母ちゃんに折檻されている時を思い出すのだ』

「ぎゅ、ぎゅ~」

 トニトルテはブルッと身を震わせる。

「ぎゅっ!【兄ちゃん、なんかいい案は無い?アタシは悔しいのよね。智子の仇を討つのよね】」

 グラキエスは、智子は幼馴染に殺されてるから仇を討つのは問題なのだと思いつつ、北海王国の違った意味でのゾンビアタックに押されている状況に腹立たしそうにするトニトルテの気持ちも理解する。

『僕たちは安全圏からブレスを吐き続けるだけなのだ。僕の氷のブレスは動いている相手には効きが良くないから、トルテが雷で止めて、僕が仕留めるでいいと思うのだ。そこを抜け出した敵は下の皆に任せるのだ』

「ぎゅうぎゅう【さすが兄ちゃんなのよね。アタシもそれが良いと思ってたのよ

ね!】」

 あたかも自分も同じことを考えていたという感じでうんうん頷く妹の姿を、グラキエスは生暖かい目で眺めていた。基本的に妹に甘いのだ。

 ドラゴンは家族という概念が薄い。強者こそが絶対という考えが根強いからだ。

 ニクスやフリュガが平和的なのはその強者に命をさらされて生きてきたからである。


 ニクスはイグニスという絶対的強者が世界を終末へと導いていた時代に生まれ、死んでいった父親世代から託された卵や幼竜たちのリーダーをしていた。

 フリュガは幼竜の頃に暴君である父親に才を疎まれ殺されそうになり、ニクスの下で保護された。

 どちらも経験的に平和主義を旨としており、家族を大事にする傾向にある。その子供たちは素直に母親の影響を受けて育っているからか、ドラゴンにしては変わり者でもあるのだ。


「ぎゅおおおおっ!【アタシのブレスの前に跪くと良いのよね!】」

 トニトルテはカパッと口を開けると口の奥から激しい放電をさせて一気に雷撃を闇夜に放つ。


 本当に雷でも落ちているかのような轟音が鳴り響き同時に雷光が通り過ぎた後は死霊たちが倒れていく。

 何度も何度も轟音が鳴り響き、明るい光が闇夜を照らす。死霊たちは関係なく走るが、それ以上に味方の腰が引けてしまう。

 そして次の瞬間闇夜に氷の礫が戦場に散発的に降り注ぐ。倒れた死霊たちはあちこちに吹き飛んで体を飛散させて朽ちていく。

 グラキエスは戦場を右手側から約20メートルおきに左手側まで氷の礫を吐き散らし、それを何度も続けて全部の死霊の軍勢に行きわたるようこまめに攻撃を続ける。

 全体に行き渡らせようとすると届かない場所が出る為、このように散発して戦場全体に攻撃を仕掛けていた。

 その攻撃が派手に死霊たちを吹き飛ばすので誰もが恐れおののくのだった。


「こ、これがドラゴン様の真の力…」

 騎士達も恐怖を感じながらも口にする。この力が街に向けられたら一瞬で滅びるだろう。ドラゴン達が力を使わない筈だとただただ感じるのだった。


「でも、敵はその中を斬り込んでくるよ!」

 と焦るように叫ぶのはフェルナントだった。

 死霊の軍勢が物凄いスピードで走って来る。

「全員構え!迫る死霊共を全て討ち取るのだ!」

「トニトルテ様やグラキエス様に後れを取るな!」

 一部の精鋭だけを残し1000にも満たない軍が声を上げて敵の攻撃に対して防衛に走る。万はいる死霊の軍勢もほとんどはトニトルテとグラキエスによって討たれている。

 残党程度でしかない。襲い掛かって来る密度も薄く、1000人の精鋭たちが3人掛かりで死霊兵を倒すに十分だった。迫る敵は千を超えているようにも見えるが散発になっており、数の暴力は一瞬にしてしおれた。




***




 モンタニエは目を細めて唸る。

「ドラゴンは頭が悪いだと?バカを言うな、……あの青いドラゴン、群れを逃すより群れを崩す事に終始して黄金のドラゴンの仕留めた死霊共を広範囲に強い力を放っている。これでは軍勢の意味がない。自分の力を誇示するだけでなく、背後の人間達を考慮して最低限の力で最大限の効果を発揮させている。それに成竜であれほどの力など聞いた事もない」

「言われてみれば……」

「あんなブレスを吐く成竜は聞いた事がありません」

「老竜に匹敵する戦闘能力に見えます」

 周りの部下たちもモンタニエの言葉に唸る。

「…………ちらりと噂は聞いていたが……そういう事か。ニクスの言葉を無視して人間の味方をできる存在、ニクスの息子グラキエス竜王子か!」

「!?……10年ほど前にこの大陸に来たというニクスの子供ですか?」

「他大陸に渡って子供を作ったとは聞いていたが……」

「とするとあの黄金の成竜は…」

「恐らくは妹のトニトルテというフリュガの娘だろう。父親が同じで仲が良いと聞く」

 誰もが微妙な顔をしていた。これほどの軍勢を引き連れ、敵は想定外と言えるほど軍を集められていないのに、劣勢を強いられている。


「そろそろ出番か」

 モンタニエは諦めたように背後に積んである巨大なドラゴンの骨を見る。セントランドの歴代竜王が眠る墓地を荒らして手に入れたドラゴンの骨だった。フリュガは先代のセントランド竜王の骨だ。

 モンタニエは歴代最強クラスのドラゴンの骨を手に入れていたのだった。




***




「ピヨヨ~【ミストが死霊たちと一緒にこちらに流れ始めた。そろそろ結界を張るか】」

 ヒヨコはついに重い腰を上げる。

「外ではトニトルテちゃんが大活躍してるみたいね」

「ピヨピヨ【トニトルテの攻撃は電撃だから敵から一時的に主導権を取れても、あのゾンビミストの前では直に復活されるからトニトルテはいらいらしてそうだけど】」

「そ、そうなの?こ、こっちが怖くなるほど雷の轟音が響きまくってるけど」

 派手な音をさせているのはトニトルテだと分かりやすかった。外はゴロゴロ音を鳴らし戦場が雷雲の中のような状況になっているのだ。

「トルテは小さい頃、死霊の類を怖がっていたが、もしかしたら本能的に気付いていたのかもしれない。死霊は悪意ある魔力を受けて体を動かすから、雷撃で一時的に魔力を散らせても、しばらくすれば復活するという事実を。トルテにとって死霊は天敵だ」

「………敵って、私たちが思っている以上にとんでもないってこと?」

 百合は不安そうにヒヨコの方へと視線を向ける。

「ピヨピヨ【予想をはるかに超えてるぞ。ヒヨコがたかが人類程度に魔力をいっぱいいっぱい使う羽目になる事も想定外だ。トルテとグラキエス君が戦場に出て、抜け出した敵がこちらに迫る状況というのも全て想定外だ】」

 ヒヨコはピヨピヨ鳴きながら三つ編みお姉さんから離れようとする。

「私も出るわ」

「ピヨピヨ」

 ヒヨコは剣術お姉さんの言葉にうなずく。


 そしてヒヨコと剣術お姉さんは三つ編みお姉さんを一瞥する。

「?」

「?」

 ヒヨコは何だろうと首を傾げる。剣術お姉さんはごしごしと目をこする。

 魔力の反応を感じたからだ。だが三つ編みお姉さんの体からは魔力を一切感じられない。死体だ。

 百合は一瞬、三つ編みお姉さんの首にかけてあったお守りが光った気がして目をこすって、再び見るが、外でドカンドカンと雷が落ちていて何が光っているかよく分からないと感じる。目の錯覚かと思い直し、外へとむけて歩き出す。

  ヒヨコと剣術お姉さんは城門の手前にまで移動して、ヒヨコはリトレ城塞内部全体に魔法をかける。

「ピヨピヨッピヨー!【<聖結界(セイクリッドシールド)>!】」


 リトレの町を守る城塞内部に美しくも七色に光る光が差し込み、闇夜に半球上の壁が生み出される。その巨大な防御障壁は神聖を帯びており何物も寄せ付けない光となっていた。


「…変なヒヨコだと思ってたけど、実はすごかったのね?」

「ピヨヨッ!?【散々、ヒヨコの世話になっておいて、それは無いだろう!?】」

「いやー、口先だけかなと。剣術が出来るけどヒヨコだと剣も持てないし。まさか町を囲むような巨大結界を作れるヒヨコだとは思いもしなかったって言うか」

「ピヨピヨ【酷い言われようだ…。ヒヨコ程英雄的称号を持ってる存在は皆無だというのに】」


 剣術お姉さんは剣を握りしめて死霊達を見る。せめてこいつらを叩きのめさなければと心に決めるのだった。

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