2章17話 守れなかったヒヨコ
ヒヨコがマナガルムゾンビに乗っかられて崩れた家の瓦礫に埋まってピヨピヨしている頃、北海王国の騎兵隊と七光剣を相手に剣術お姉さんとフェルナント君が戦っていた。
剣術お姉さんは初めての実戦だが、全く臆せず戦っていた。
「ピヨピヨーッ!【いい加減にせんか!】」
ヒヨコは自分を抑えているマナガルムゾンビの右前脚を蹴り飛ばす。体が吹き飛ぶのではなく肉が飛び散るだけだった。体の構成が弱くなって腐っているゾンビだからこその反応だ。
こいつはでかくて厄介だ。厄介だが……皆が三つ編みお姉さんを追ってヒヨコはここに一羽だけ釘づけにされている。
崩れている家、周りにも人はいない。
だったら、この辺りが燃えても問題ないのではないか?
「ピヨヨーッ【<火炎吐息>】」
マナガルムゾンビどころか辺り一帯を燃やす巨大な火炎が立ち上る。ヒヨコの吐息はヒヨコをも飲み込み大炎上するのだった。
同時にマナガルムゾンビも炎上して崩れていく。
ヒヨコはマナガルムが朽ちて押さえつけていた力が無くなるのを確認すると体を起こす。
「ピヨッ!」
ヒヨコは炎上する瓦礫の中をかき分けてピョイと外に出る。
ブルッと体を震わせて火の粉を払う。
「ピヨピヨッピヨ~」
さあ、皆の衆、ヒヨコに拍手喝采を!
…………………
……………
………うん、そうだった。誰もいないから燃やしたんだった。
するとゾンビに追われながらも決死の覚悟で戦ってる騎士隊の人たちがいた。馬には負傷者などを乗せて、避難民を守りながら背後へと走っていた。
「ピヨヨッ!」
「おお、ピヨ殿。隊長を見かけませんでしたか?」
「ピヨヨ~」
それは見てないぞ?
ヒヨコは首を横に振りつつ隊長さんの魔力を探る。
「ピヨヨッ!」
ヒヨコは魔力を感じる方を見る。剣術お姉さんやフェルナント君の向かった方だが……何だか突然魔力が減っている!?
「ピヨッ!」
ヒヨコは走ってそちらの方へと向かうのだった。
「皆はそのまま避難民を避難方向へ誘導を!俺の分隊は隊長を呼んでくる」
分隊長さんあたりだろうか、ヒヨコの向かう方へと一緒に駆ける。
「智子―っ!」
すると剣術お姉さんの叫び声が聞こえてくる。
「ピヨッ!?」
ヒヨコはその言葉にヒヨコは足を速める。
ピヨピヨとダッシュで走り、先に見える角を曲がりその場へと飛び込む。
そこには三つ編みお姉さんと騎士隊長さんの2人が倒れていた。どういう状況だろうか?
「!?」
ヒヨコは剣術お姉さんとフェルナント君が北海王国の騎士達と筋肉ハゲ達磨を抑えている間に走って三つ編みお姉さんと騎士隊長さんの近くにより慌てて魔法を使う。
「ピヨヨピーヨ【<範囲全体治癒>】!」
そしてヒヨコは回復領域を作ると同時にフェルナント君と拮抗する七光剣の男の隙を突いて思い切り蹴っ飛ばす。
腕力強化と脚力強化を使った力でその攻撃力は大男をも軽く吹き飛ばす。マナガルムを蹴っ飛ばした時の要領と同じだ。
「くっ…」
女騎士さんは剣術お姉さんに攻撃を加えたいが既に勇斗がいる為に手を止めるしかなかった。
「智子!」
向こうが攻撃をやめたので、剣術お姉さんは剣を腰の鞘にぎこちなくだが収めて、走って三つ編みお姉さんの方へと向かう。
倒れている二人の近くに呆然としている天然ジゴロ君がいた。
「勇斗殿、大丈夫ですか?」
「え?い、いや、ち、違う!違う違う違う。違うんだ。僕はこんな積もりじゃ」
顔を真っ青にして天然ジゴロ君は剣を放り投げて頭を抱えながら首を横に振る。その慌てた様子に誰もが理解してしまう。
勇斗が同じ異世界から来た幼馴染を斬ったのだと。
「ヒヨコ!お願いよ!どうにか、どうにかして!」
剣術お姉さんは取り乱して泣いてヒヨコに縋る。
「ピヨ……ピヨピーヨ【<完全回復>】」
「ピヨちゃん…。無理をしなくても……。僕は隊長さんを見るよ?」
フェルナント君は気付いているのだろう。泣きそうな顔でヒヨコに声をかけて騎士隊長さんの方へ向かう。
「ピヨヨ【頼む】」
ヒヨコは目の前の三つ編みお姉さんだったものを見る。
傷はさっきの<完全回復>でなくなっているのだが………。
<完全回復>は相手の傷を強制的に綺麗にする魔法で、折れた剣でも欠けた部分を集めれば強引に完全な剣に出来てしまうような魔法だ。死体でも治してしまうのだ。
ヒヨコは神眼で三つ編みお姉さんを見るが彼女のステータスは見えない。
『鈴木智子の死体』としか出ないのだ。
ヒヨコはまた間に合わなかったのか……。
「ピヨヨ……【剣術お姉さん】」
「傷は治ったし大丈夫なのよね?」
青い顔で泣きながらヒヨコの肩をゆする。
「ピヨピヨ【既に三つ編みお姉さんは神眼をもってしても『鈴木智子の死体』としか映っていないのだ】」
「は?………え………うそ………。嘘よ!どうして!?」
剣術お姉さん達はヒヨコ達の方を見る。周りの様子を見て察してしまったようだ。既に手遅れだという事に。
「……う…、あ、ああああああああああああああっ!」
剣術お姉さんは三つ編みお姉さんの死体に縋りついて泣きだす。
ヒヨコはどうしていいか分からない。だがヒヨコには何もできない。死者を生き返らせる方法なんてないからだ。
「勇斗殿、撤収です!帰りましょう!七光剣が負けた今、この場は危険です!」
「だ、だけど、と、智子が……僕は…どうすれば…」
「もう死んでいます。鑑定で確認しましたがあれは死体ですよ。ここに放っておけばゾンビになるでしょう。後方よりモンタニエ卿は全力でこの都市を落とすとの事です。我々も巻き込まれる可能性もありますので撤収しましょう」
「だ、だけど!」
「時間がありません。皆、勇斗殿と共に撤収だ!ルクレール卿を回収しろ。大きいけがをしていたらモンタニエ卿の魔法でゾンビになりかねん!」
天然ジゴロ君は女騎士さんに腕を引っ張られて無理やり撤収させられる。騎士の3人程がヒヨコに蹴り飛ばされた七光剣の男を回収しに向かう。
「隊長さんは大丈夫!生きてたよ!<完全治癒>をちゃんと覚えておいて良かった」
フェルナント君から安堵の声が漏れる。
フェルナント君は宿屋の娘さん(?)に声をかけて隊長さんを背負おうとするが、騎士隊の人たちが追い付いて来たので、背負う役目を彼らに任せる。
「僕らも撤収しよう。やばい感じだよ」
フェルナント君は剣術お姉さんの肩を引っ張るが
「で、でも…」
「ここで放置すればゾンビになって敵になる。……せめてちゃんとした場所に葬ってあげようよ………」
フェルナント君は泣きそうな顔で剣術お姉さんに訴える。
「……そうね。いつまでもここにはいられないし……」
剣術お姉さんはフェルナント君の顔を見て、袖で涙を拭いて、自分の頬を両手で張る。
「ピヨヨッ」
ヒヨコは背中に乗せるように二人に訴え、剣術お姉さんは三つ編みお姉さんの遺体をヒヨコの背中に乗せる。
背後からモヤモヤと紫色の煙が迫ってくる。
想定外だ。この大陸の人間なんてちょろいと思っていた。だが、この闇魔法使い、明らかに頭一つ抜けている。魔法使いとしてなら大陸最強格かもしれない。
これは最初は随分大規模な闇魔法LV5不死領域だと思っていたが、それが限界だろうと勝手に決めつけていた。
だが、背後から迫るのは傷を負えばそこから浸食されてゾンビになるような最悪の闇魔法LV8<不死霧>だ。あんな高等魔法、不死王ノスフェラトゥ以外に見たことは無い。
いや、光十字教は光と闇の研究が進んでいるとはフェルナント君から聞いていた。
ともなればこっちの大陸は闇魔法と光魔法においてはコロニア大陸より進んでいた可能性は高いのだ。ヒヨコやフェルナント君にとっては何も怖くないが、他の皆は非常に危険だ。
そういえば先輩君が倒した時、ノスフェラトゥは何度でも転生して貴様を苦しめて殺してやると言っていたが、あれからとんとご無沙汰である。ルークがヒヨコになったから、ヒヨコの所に復讐に来れないのだろうか?まだ生きていたとしたらかなりの脅威である。
「ピヨヨーッ【<聖結界>!】」
ヒヨコは大規模な聖結界を張ってヒヨコ達だけでなく騎士隊の皆さんも守って町の出口へと走る。
「ピヨちゃん、後ろから来る魔法ってヤバいの?」
「ピヨピヨ【以前、ヒヨコもルーク時代に不死王に使われた謎の魔法だったが、エルフの森に行ったときに教わった。闇魔法LV8<不死濃霧>、最悪の戦略級大魔法だ。ヒヨコ達のような勇者ならともかく、普通の人だと怪我をしただけでそこから浸食してゾンビ化させる禁忌の魔法だ】」
「ま、まさか智子まで?」
「それは無いよ。ピヨちゃんは自分の周りに神聖魔法LV8聖結界を張ってくれたから」
「ピヨピヨ【この中にいる間は安心だ。ヒヨコから離れるなよ。騎士さん達もだ】」
「た、助かります!」
騎士さん達も礼を言って頭を下げる。
「ピヨヨ【今の体調じゃ騎士隊長さんも危ういからな】」
「隊長がゾンビになったら俺ら全滅しますよ」
引きつった顔で呻く分隊長さんだった。宿屋の娘さんもヒヨコ達と一緒に走って付いてくる。正しくはヒヨコ達が一番足の遅い宿屋の娘さんの速度に合わせて走っているのだが。
ヒヨコ達一行はどうにか町を出る事に成功する。。
既に敵軍も撤収して南側へと向かっており、北側へと住民たちが逃げていた。
「ピヨッ【<異空間収納>】」
ヒヨコは町に出るとそこから大きい馬車を取り出して、馬車に怪我人や走れない人、女子供年寄りを乗せていく。
「僕も一緒に引っ張るよ」
「ピヨピヨ【頼むぞ】」
ヒヨコ達は軽いのでそれ以上に人並外れた脚力と腕力によって、たくさん乗った馬車を引っ張り街道を北上する。
グラキエス君やトルテを乗せるために大きい馬車を買ったのだが、まさかここで役に立つとは思わなかった。
馬車の中は静かだ。誰もが恐ろしい目に遭っていたからだ。馬車の中では治癒魔法をできる女の神官さんが魔法をかけながら怪我人を癒しているようだ。
ヒヨコの隣で馬車を引くフェルナント君は暗い顔をしていた。
「ごめんよ、ピヨちゃん」
「ピヨヨ?」
「………どうにかなると思ってたんだ。まさかこんな事になるなんて」
ヒヨコは割とこんな事になるんじゃないかとは思ってた。何度も死ぬと言っていた筈だ。
「僕が過信してたからだ」
過信していたのは事実だが、三つ編みお姉さんも剣術お姉さんもどうにかなると思っていたのだろう。死を身近に感じて来なかったのだろうか?
「人を守るって難しいね。僕はピヨちゃんの言葉を何一つ理解してなかったよ」
「ピヨピヨ【高い授業料になったな】」
フェルナント君の事に関しては割とヒヨコは満足している。人を殺さず最大限の仕事をしてくれたのだから。殺していれば大きい問題になっていた。まあ、この戦場だから誰が殺したとかは分からないだろうけど、七光剣を殺せばどうなるかは怪しい。
でも、こういう思いを持たせたくなかったから戦争に連れて行くのは反対だったのだ。
ヒヨコがこういう嫌な気分になったのは勇者になってからだから16歳位からだ。9歳児にこんな思いをさせるのは忍びなかった。だが、今回はヒヨコの手に余るし、ヒヨコが放置すれば三つ編みお姉さんは勢いのままに勝手に追って来そうだったからだ。
フェルナント君は勇者だし、ヒヨコもそこに頼ってしまったのはいただけなかった。
「こんな授業は受けたくなかったよぉ」
フェルナント君はポロポロと涙を流す。
その通りだ。ヒヨコも何度も受けて何度も反省しているけど、全く進歩がない。悲しい事ばかりだ。
ヒヨコの方が反省しきりだ。
途中で騎士隊長さんが起きたので外に出てヒヨコ達と馬車を引いてくれた。とっても感謝していたのと、三つ編みお姉さんが亡くなってしまったことに申し訳なさそうにしていた。
話を聞けば宿屋の娘さんはやはり騎士隊長さんの娘だったらしく、天然ジゴロ君は彼女を凌辱しようとする一行の一人だったらしい。
天然ジゴロ君自身は加わっていなかったようだが、仲間が殺されて頭に血が上っていたようだ。
幼馴染の静止が耳に入らず思わず剣を振ってしまう位には。
「すまぬな」
騎士隊長さんは一緒に馬車を引きながら頭を下げる。
「別に大した事はしてないよ?まあ、僕らの回復魔法はこの大陸では規格外だから運が良かったと思えば…」
「そうではない。もしも私があの者たちを殺さねば、もしかしたら…」
「ううん、そんな事ないよ。……大事な人を傷つけるような相手を許さないのは当然だからね。大事な人間って訳じゃないけど、親しくなって友達になった人たちを戦場に連れて行くこと自体が間違ってたんだ。ピヨちゃんが僕を連れて行きたくない理由も分かったよ。これから戦場はリトレになる。こうなる可能性はあったんだ」
「そう……ですな。殿下が戦場に出るなどありえません」
「ピヨピヨ【だが、想定を遥かに超えている。敵側の魔法使いにこっちの大陸でも規格外の奴がいるぞ。魔力を消耗してる現状はかなり厳しい。後ろからは膨大な量のゾンビやスケルトンの群れが進軍してきている。近寄った魔物も殺されてゾンビモンスターになってる。竜王国軍が全軍そろっても撃退は厳しいレベルだぞ?ヒヨコも魔力がかなり減ってる。強力なブレス一発位なら可能だが、背後に感じるゾンビの物量を考えるとどう考えても厳しい。あと、その物量の中にとてつもない魔力がある。万全の時に戦えば勝算はあるけど、現状はかなり厳しいぞ】」
「僕も光十字教の事を思い出したけど、多分、敵は光十字教国の四聖だと思う。闇術師団長モンタニエ。莫大な魔力で強力な死霊の軍団を支配する大魔導士だ」
「光十字教国のモンタニエですと!?」
「ピヨヨ?【有名なのか?】」
ヒヨコはコテンと首を傾げて尋ねる。
「この40年不敗を誇る最悪の大魔導士です。40年前まで精霊信仰しかいなかった東方諸国連合を全て光十字教国に服属させたとも言われる大魔導士です。まさかこっちに来るとは…」
騎士隊長さんは苦々しい顔をする。
「……ピヨ」
今なら剣術お姉さんに断りを入れて天然ジゴロ君ごとまとめてミサイルブレスでモンタニエごと皆殺しに出来るが……。
天然ジゴロ君を殺したら、三つ編みお姉さんも浮かばれまい。
竜王国だけを考えれば一番手っ取り早い手段ではあるが、帝国とて光十字教国との国交を無視している訳でもないから判断が難しいな。
だが正攻法で戦えるのだろうか?
殺された住民を含めゾンビ兵やスケルトン、魔物の数を足すと既に5万を軽く超えている。
国を滅ぼすには十分な戦闘力だ。
これでびくともしない国と言えばコロニア大陸にあるローゼンブルク帝国くらいだろう。魔導砲や複合魔法による大規模殲滅が可能だからだ。伊達にあの国は神相手に戦っていない。
だが、リトレやオーウェンズ公爵に同じことを求めるのは不可能だろう。ここは城壁に囲まれている都市ではあるが、サクスムよりも脆いのだ。軍も来ていない。
貴族たちの争いのせいでこんなことになっている。ヒヨコ達の結果を聞けば、政治介入しないと言っていた師匠も重い腰を上げるだろう。
ヒヨコ達がリトレの町に戻る頃には夜になっていた。リトレの町にはまだ兵士は集まり切っていないようだ。状況的にはあまりよろしくない。
物見をしていた兵士も顔を真っ青にして報告してきた。
日が暮れる中、南方より地平を埋めるように死霊モンスターの群れが集まってくる。赤く光る瞳が不気味でその光が夜の平野を埋め尽くしていた。
「な、なんだあれは…」
「無理だろ」
「町の人間を避難させよう」
「東へ逃がすべきだ」
兵士たちも動揺を露にする。
公爵が慌てて街の南側に走ってやって来る。
「な、なんだ、あれは……」
「恐らくはモンタニエだとフェルナント殿が…」
「光十字教四聖の…………闇魔導師モンタニエか。これほどの力があったとは……」
すると幼竜状態のトルテとグラキエス君がパタパタと羽根を羽ばたかせてやって来る。
「きゅう~【魔物が来たのよね?でも食べられなさそうな感じなのよね】」
『腐った肉と骨だけなのだ。食物じゃないのだ』
「きゅうきゅう【おや、どうしたのよね?智子はおねむなのよね?百合も辛気臭い顔してるのよね。ヒヨコ、まさかまたつまらないラップを…】」
「ピヨ!?【ヒヨコのラップはそんなに酷いのか!?】」
「智子姉ちゃんは……」
俯いてしまうフェルナント君。
「きゅうきゅう【智子、起きるのよね。このままだとゾンビに食べられちゃうのよね?アタシがお化けなんて怖くないっていう事をちゃんと知っておくべきなのよね】」
トルテはペチペチと三つ編みお姉さんのおでこを弱く叩きながら起こそうとするが、三つ編みお姉さんはうんともすんとも言わない。
「きゅ?」
反応が全くなく小首をかしげる。
「トルテちゃん、智子は……」
剣術お姉さんは口にしてまた泣き出してしまう。
「ピヨヨ~【すまんな。ヒヨコはまた守れなかったのだ】」
「きゅう?」
剣術お姉さんとヒヨコの反応に、トルテは三つ編みお姉さんのおでこの上に手を置いたまま固まってしまう。
「きゅう~きゅう~【もしかしてご愁傷様なんて言ったから怒っちゃったのよね?智子、起きてくれないとつまらないのよね……】」
ショボンとしたトルテは三つ編みお姉さんに背を向けてとぼとぼと去っていく。
『トルテも仲良くなった人が死ぬのは初めてなのだ。放っておいてあげるのだ』
「ピヨヨ~」
ヒヨコはグラキエス君の言葉にコクコクと頷く。
「…魔物の数が凄い多いね。ゾンビだらけだ」
「こんなのがこの都市に攻めてきたら終わりじゃない」
地平の方から赤い瞳が夜の中に現れ、その数は地平の奥がぼんやり赤く光るほどだ。
「ピヨピヨ【推定5万のゾンビ兵、その背後に人間達がこぞっている感じだな。あと、何だかよく分からない魔力だまりがあるな。奥の手だろうか?】」
「奥の手?」
剣術お姉さんは不思議そうに首を傾げる。
「ピヨヨ~【起動していない魔導回路みたいな感じだ。かなり大きいから感じ取ったのだが】」
「でっかい魔物の死骸があるのかな。秘密兵器みたいに残しているのかもしれないね」
フェルナント君は首を捻る。
「ピヨピヨ【パトラッシュより大きい感じだぞ。魔力が流されてないから分からないが、それを流すための魔力だまりを持った魔石か何かがあるみたいだ。魔石にある魔力量がかなりでかいぞ?全力のヒヨコに匹敵する程だ。】」
「ちょっと嫌な感じだね」
フェルナント君の言葉にヒヨコも同意するようにうなずく。
嫌な予感が当たらなければいいのだが……。