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2章14話 ヒヨコの友達は下っ端ばかり

 それから1週間、ヒヨコだけでなくフェルナント君もオーウェンズ公爵領リトレで回復魔法を使って兵士だけでなく逃げてきた領民たちを癒していた。

 3日ほど過ぎたあたりから、何故かヒヨコは神の遣いに違いないとか聖鳥様とか言われだした。おかしいぞ、ヒヨコはその称号を公にはしていないのだが。


「ヒヨコが聖鳥とは世も末だわ」

「ピヨちゃんは神の使いというより二次元世界の使徒だと思うなぁ」

 

「ピヨピヨ【酷い言われようだ】」

 異世界お姉さんズはどうもヒヨコを侮っているようだ。

 そもそもヒヨコは使徒だなんて誤解だ。ヒヨコがサードインパクトを起こすとでも思っているのか?ヒヨコが第三使徒サキ●ルみたいに嘴が付いているとか言わないでもらいたい。


 ………ピヨピヨリ。サードインパクトって何ぞや? サキ●ルってどなた様?


 だが、剣術お姉さんが言う通り、この世界はイグッちゃんが滅ぼした後の世界。つまり世も末、イグッちゃんインパクトの後の世界なのだ。それでも、誤解は解いておきたい。

 だってヒヨコは神の使徒みたいな称号が悲しくも存在するからだ。ヒヨコは使徒として何かと戦わねばならないのだろうか?


 歌は良いね。歌はヒヨコを潤してくれる。勇者がパクった文化の極みだよ。


 ピヨピヨリ。何だろう、使徒ならば言わねばならないと電波が届いてしまった。今の幻想は何なのだろうか?………ヒヨコの嘴はその幻想をぶち壊す!


「ピヨピヨ、ピヨピヨ【ヒヨコは女神の遣いっ走りではないぞ?ヒヨコの嫌いなものは1に500年前の勇者、二に女神、三~四がなくて五にカラーヒヨコを売る店主だ】」

「何故にそこでカラーヒヨコ屋さん」

「ピヨピヨ【奴はヒヨコの弟妹達を(じん)身売買する悪の手先に違いない。そしてそれを作った悪徳勇者とそんな勇者をこの世界に連れてきた女神にはとっても思う所がある】」

「すごくどうでも良い理由が」

「しかも弟妹達じゃなくてただ羽毛を染めた鶏のヒヨコだし。赤いヒヨコだったとしても、赤の他(にん)だ」

 異世界お姉さんズは呆れるようにぼやくのだった。


 そんなどうでも良い話をしながら野外病院から中央街道の方へと歩いていると、城の方角から馬が走って出てくる。100人ほどの騎士達が南の方へと馬に乗って走って向かうのだった。

 その中には暫しヒヨコ達の案内役をしてくれていた騎士隊長さんもいたりする。ヒヨコは翼を振ってアピールするがどうやら見えてなかったようで振り返ることなく城門の方へと出て行くのだった。

 何かあったのかと思い、ヒヨコ達は取り敢えず全ての戦争被災者達の治癒を終わらせたとお城へ連絡しに向かう。

 ヒヨコはフェルナント君を背に乗せて、お姉さんズを引き連れて街を歩く。


「フェルナント君はピヨちゃんと長いの?」

 三つ編みお姉さんがフェルナント君を見て尋ねると、フェルナント君は悩ましく腕を組んで首を捻る。

「最初に会ったのはダンジョンに落ちた時だから3~4年前かな?」

「ピヨヨ~【正確には生まれて直だがな。ヒヨコとステちゃんはエルフの森にお呼ばれしたので、帝国で知り合いに挨拶回りをしてフェルナント君が生まれてから、帝国皇女のラファエラと種馬皇弟さんと一緒に花国に船で向かったのだ。】」

 ヒヨコはフェルナント君の言葉を否定する。

 フェルナント君と二度目に会ったのは確かにダンジョンに落ちた時だが。まあよく振り回されているのだ。トルテは剣術お姉さんにヒヨコ係を任命したりしていたが、帝都でのヒヨコはフェルナント君係なのではないかと訝しんでいる。


「何か花国って言うとフラワープリンセスを思い出しちゃうなぁ」

 三つ編みお姉さんはぼやく。

「ふらわーぷりんせす?」

「こっちの世界にあるテレビゲームの一つで…って言って分かるかな?」

「てれびげーむ?」

「テレビっていう画面に絵を映す機器があるんだけど、そのテレビを使って物語の中の人物になったシミュレーションをするようなゲームね」

「へー、異世界ってそういうのがあるんだ。魔導放映機器の魔力波のノイズキャンセラーが上手くいけば、魔導放映機器も量産されて、そういう事もできそうだけど……」

「ゲームはプログラムとかも組まないといけないから、そんな簡単じゃないとは思うけど」

「魔導回路があるから出来ると思うけど…。こっちの国ではプログラムなんて言われてもちんぷんかんぷんだろうけど、帝国では魔法はプログラム化が進んでるからね。僕の叔母さんがとっても詳しいよ。前に鉄砲の話が合ったけど、帝国では魔導回路に組むことで魔法から出るノイズを除去して大砲や鉄砲は最近作られてきてるし」

「…………。本当にフェルナント君の国ってこっちと全然違うよね」

「文明格差が酷い。幕末の日本と欧米位の格差がある」

 げんなり気味の2人は呆れるように溜息を吐く。

 彼女たちは文明の進んだ日本という所から来ているので、若干、帝国を侮っている節があるが、フェルナント君が理解するような言動があるので目を白黒させてしまう。

 彼女たちは大北海大陸しか知らないから侮っているのだろう。


「さあ、早く報告に行こう」

 フェルナント君も戦争には活躍できなくても、魔法使いとして活躍できたので満足しているようだった。早く褒めて貰いたいと言わんばかりにヒヨコの頭をユサユサ揺する。

 三つ編みお姉さんに褒められて妙に嬉しそうだったが、どうやら褒められなれていないようだ。

 そういえば小さい頃はともかく最近は上手くやればやるほど小さく見せようとして両親も公では褒めていないかもしれない。帝位継承権が高いが故に哀れな話である。

 ヒヨコはピヨピヨと前進する。

 ちなみにトルテとグラキエス君はお城で遊んでいるらしい。まあ、特に仕事は無いからな。ヒヨコとは別に慰問とかしていたりしたようだが。


「ふふふふ。今回のお仕事と父上の神聖魔法の教科書のおかげで神聖魔法のレベルが7にまで上がったぞ」

「ピヨピヨ、ピヨピヨ【おかしい。おかしいよ。腹黒公爵さんが10年近い歳月をかけて辿り着いた境地を、教科書読みながらちょっと実践を積んだだけで越えて行くとか何なんだろう、この子】」

「フェルナント君見てると、異世界転移者達が才能があるって嘘じゃない?」

「そだね」

 ヒヨコは溜息を吐きながら、フェルナント君がご満悦な様子に眺めていた。

 異世界お姉さんズも同様でヒヨコが過去数年間フェルナント君のお供をして何度となくぼやいていた事を実感しているようだ。

 そう、この子おかしいんです。ヒヨコは声を大にして訴えたい。




 ヒヨコ達がお城の玉座の間に辿り着くとそこにはオーウェンズ公爵領の領主パトリック・オーウェンズがいた。

「ありがたい。民もこれで少しは落ち着くだろう。必ずや恩に報いよう。とはいえ、戦況はかなり拙い事になっている」

 玉座にいるオーウェンズ公爵は感謝するようなそぶりを見せる。

「そうなんですか?」

 フェルナント君は首を傾げる。

「ピヨッ【でも軍人さんの数が増えてるみたいだが?】」

「…やっと中央軍がこちらに動き始めた。そろそろこっちも雪が降る故に、戦争も止まるだろう。既にレッドプラヌム砦が陥落し、サクスムへの進行が始まった。かなり敵の攻勢が厳しいらしい。下手をすると雪が降る頃には領都の眼前迄来るかもしれぬ。軍が来てもいまさらという事だが……他の貴族たちもさすがにリトレ陥落はまずいと慌てたのかもしれぬな」

「私兵を持ってないんですか?」

「軍部の人数は中央会議にて決められている。国によって持とうと思えば軍事力で国を従えさせることが可能になる故にな。戦時になれば戦時用の軍隊が派遣されるという事になっているという訳だ。それが戦時であるのに、理由を付けられて、戦時ではないとも言われ、これだ。死ぬのは民であろうに、奴らはそれをも政治の道具にしよる。腹立たしい限りよ」

 ニクス竜王国は確かに過ごしやすいが貴族たちの増長は酷いものだ。

 権力者たちは国の大都市さえも天秤をにかけて他の権力者の足を引っ張り、自身の権力を掴もうとするのだ。

 こういうことを何年も繰り返し軋轢が大きくなっていく。


「ピヨヨッ【中央騎士団はいつ辿り着くのだ?】」

「2日後くらいにはつくだろうとの事だ。サクスム出身の騎士隊が南部へ飛び出していった。城塞が破られそうだという情報が入ったからだ」

「だからか」

 騎士隊長さんはサクスム出身と言っていた。宿屋の娘さんはまだあの町にいるのだろうか?少なくとも家族を逃がさねばならない。

「ピヨピヨ【ヒヨコが住民避難の援護をしよう。町を取り囲んでいたら誰も外から入れないし、あの町の人たちが干上がるのはかわいそうだ。】」

「よーし、僕も」

「ピヨヨッ!【お前は連れて行かんと言うただろう!】」

 ヒヨコはペチリとフェルナント君の頭を手羽ではたく。

「むう……」

 叩かれた頭を押さえながら不満そうに頬を膨らませるフェルナント君であった。

「まあまあ、ピヨちゃん。フェルナント君は正義感からそう言っているんだから邪険にしなくても」

「そうだよ。智子姉ちゃんのいう通りだ。ピヨちゃんのケチ!ピヨちゃんの意地悪!ピヨちゃんのヒヨコ!」

「ピヨヨ~【おい、ヒヨコを悪口みたいに言うのだけはやめろ】」

 三つ編みお姉さんがフェルナント君を庇うのでフェルナント君も膨れっ面でヒヨコを責める。面倒くさい奴め。




***




 グラキエス君の使っている公爵城の片隅にある部屋にヒヨコ達が集まる。

「きゅうきゅう【助けに行くのよね?】」

「ピヨピヨ【ヒヨコはトルテの開けた穴をふさいでもいないのに町が滅ぶのはまずいとおもう】」

『その金も北海王国に渡るのは腹立たしいのだ』

「ピヨヨ~【とはいえ暴れるのはまずいからな。住民の避難を手伝おうと思う。敵軍に包囲されている可能性があるから退路を作りそこから逃がそうと思うがどうだろう?多少は北海王国にも被害は出るが、人助けの為だ】」

『それは仕方ないのだ。僕もさすがに直そこに戦場があって見知った人が死ぬのは悲しいのだ。どうにかしたいと思っていたのだ。でもさすがに戦場には立てないのだ。ピヨちゃんが助けてくれるならとっても助かるのだ』

「きゅうきゅう【そんな事考えずにとりあえず敵を滅ぼしてから考えると良いのよね】」

「ピヨヨッ【そう言う所はイグッちゃんそっくりだな】」

『トニトルテは父ちゃんそっくりなのだ』

「きゅうっ!?」

 トルテは人生の終わりみたいな顔で凍り付くのだった。

「ピヨヨ~ッ」

「きゅきゅきゅきゅきゅ~きゅ~」

「ピヨヨ~ッ」

「きゅきゅきゅきゅ~」

 ヒヨコの音楽(バッハ作『トッカータとフーガ ニ短調』)に自分で歌いながらもトルテは頭を抱えて地面にへたり込む。


「あの、ピヨちゃん、私も連れて行ってくれないかな」

 三つ編みお姉さんが口にする。

 ヒヨコやグラキエス君だけでなく、異世界お姉さんズの相方でもある剣術お姉さんさえもぎょっとした顔で相方を見ていた。


「ピヨヨッ?【前と違って今度行く場所は最前線だぞ?死にに行くようなものだ。いくらヒヨコが強くても守り切れぬぞ。】」

「それでも……高城君を止めようと思うんだ。ずっと考えてた。騙されていると思っていたけど、ピヨちゃんが言う通り、多分裏側はともかく表の部分では困ってる王女様を助けたいだけなんだと思うの。でも、やっている事は高城君の方針とは別だと思うんだ。『郷に入りては郷に従え』という事を口にしていた。それを理由に我慢しているんだと思う。私たちは戦争なんて一切知らないから」

「ピヨピヨ【それはおバカな男だけでなく三つ編みお姉さんも知らないのに関わろうというのか?ヒヨコは反対だ。フェルナント君に色々と戦争に関わらないように言っていたのは本心では守れないからでも何でもない。皇族だからだ。政治的に大問題だからだ。実力そのものなら、たかが有象無象の戦争でフェルナント君を殺せるような輩は早々いない。女神に認められた勇者はそういうものだ。】」

「そうなの!?」

 驚くフェルナント君にヒヨコはピヨリとうなずく。

「ピヨピヨ【それに戦争で功績をあげれば皇太子の話が浮上する。政治とはかかわりない所でヒヨコと冒険をして遊んでいるなら何も問題ないのだ。ヒヨコはフェルナント君に関しては危ないから連れて行きたくないんじゃなく、政治的に問題があるから連れて行きたくないのだ】」

「そ、そういう事なの?」

「ピヨピヨ【危ないからとか役に立たないからといろいろ言っていても全く聞きやしない。まあ、確かに戦争は危ないし何が起こるか分からないというのは本音だが、フェルナント君がそれで簡単に死ぬとは思っていないぞ。真の勇者はしぶといのだ。戦場で死ぬことは敵に勇者がいる時くらいだ】」

「えーと、高城君も勇者って呼ばれてたけど」

「ピヨヨ【才能はあろう。勇気のスキルを持っていた。だが、真の勇者の称号がない。あれがあるとないとでは、同じ猫でも獅子と海猫ほどに違うぞ?】」

「海猫はニャーニャー鳴くけど猫じゃないよ」

「ピヨピヨ【つまり勇者でさえないという事だ。周りに呼ばれれば勇者の称号は簡単に手に入る。でも真の勇者は神が神をも殺せる才能と認められる阿呆の称号だからな】」

 ヒヨコの言っていることが理解できただろうか?

 三つ編みお姉さんは難しい顔をする。

「ピヨヨ【ヒヨコもかれこれ10年ヒヨコをやって世界中をピヨピヨ回ったが、実のない勇者を何人か見た事がある。まあ、大抵は名前だけだな。フェルナント君はただの頭のねじが外れた感じのおバカさんではないのだ。やればできる子なのは知っている。それでもヒヨコは戦場に出すのは懸念しているのだ。政治的にも生命の危機という点でも】」

「僕は頭のねじが外れた感じのおバカさんじゃないよ!?」

「きゅうきゅう【割とそんな感じなのよね】」

『若き日のピヨちゃんみたいなのだ。兄弟のようなのだ』

「ピヨヨーッ!?【ヒヨコは頭のねじが外れた感じのおバカさんではないぞ!?】」

「きゅうきゅう【アタシは分かっているのよね。ヒヨコは頭のねじが外れた感じのおバカさんじゃないのよね】」

「ピヨピヨ【おお、珍しくトルテはヒヨコを分かってくれるのか】」

「きゅう~【ヒヨコは頭にねじなんて一切ない本物のおバカさんなのよね】」

 うんうんとトルテは満足げに頷く。そんなトルテを見てヒヨコは両手羽で頭を抱えてがくりとしゃがみ込む。

「ピヨヨ~」

「きゅきゅきゅきゅきゅ~きゅ~」

「ピヨヨ~」

「きゅきゅきゅきゅ~」

 ヒヨコが嘆いているとトルテは嘆き声に合わせて音楽(バッハ作『トッカータとフーガ ニ短調』)で合わせてくるのだった。

「ピヨピヨピヨヨ?【ヒヨコがこんなにドラドラ達に貶められても戦場に行きたいというのか!?】」

「トニトルテちゃんとグラキエス君にピヨちゃんが貶められるのと、私の行きたいというのはまた別だと思うけど」

「ピヨピヨ、ピヨピヨ【死ぬぞ。本当に亡き者になるぞ?助けに行くがどれだけ助けられるかもわからんぞ?ヒヨコはこれ以上、知り合いが死ぬのを見たくはないのだ。なのにどうしてそんな事を言う?ヒヨコを虐めて楽しいのか?】」

『割と楽しそうなのだ』

「きゅう~【自分の身を犠牲にしてまでヒヨコに嫌がらせをする。素晴らしいのよね!】」

「べ、別にピヨちゃんに嫌がらせはしてないよ」

 ヒヨコの言葉にノリノリについていくグラキエス君とトルテをヒヨコは一睨みするが、三つ編みお姉さんは否定する。嫌がらせではないなら何なのだろう?

「智子、やめなさい。今回、敵に襲われた時だってかなりヤバかったじゃない。智子は守りの中にいたから分かってないけど、一本でも矢が私たちの守りから抜けてたら死んでたかもしれないのよ。ヒヨコも冗談を言っている訳じゃないわ。敵軍に包囲された都市へ行くのよ。生きて高城に会える可能性も低いわ。向こうはもう私たちを敵だと思っている。高城に会わせたら拙いから、絶対に会わせないようにするでしょう。」

「で、でも………」

「ピヨヨ~。何でそんなに心配するんだ?放っておけばいい。戦争だからどうなるか分からないけど、大事に扱われてるし、死ぬような場所に放り込む真似はしないと思うぞ?光十字教にとって光の精霊の加護持ちは聖人に等しいらしいし」

「私のせいだから……」

「ピヨ~?」

「高城君は小さい頃、私を助けてから人助けをする事を当然のようにやってきたの。ずっと正義の味方になろうとして、私はそれを否定はしなかった。やるべきではない事でさえ百合ちゃんや駿介君にお願いしてカバーしてもらって正義の味方であり続けるようにしていたの。私がどこかであきらめるようにしてれば良かったんだよ。なのにずっと失敗をしないように、正気に戻るチャンスを邪魔してた。私だけだったんだよ。高城君に現実を見せるのは私のやるべき事だったのに」

 三つ編みお姉さんは天然ジゴロ君を放置したのは自分が原因だと言いたいのだろうか?

「結果として駿介君が悪役を買ってくれて、高城君は挫折しなかった。ううん、失敗しているのに失敗している事に気付けず、成長出来なかったんだと思う。そのせいで今、人助けをするために人殺しをするなんておかしいって事に気付いていない。非戦闘員に対して非道を働く北海王国の仕方ないという言葉を、受け入れている。正義の味方になろうとしているのに、明らかに正義の味方から遠ざかってる」

 三つ編みお姉さんはうつむいて懺悔をするように口にする。

 あれだけ自信を持って人を信じているというのはつまり失敗してこなかったから怪しむような事をしてこなかったという事だろうか?

「私が止めないといけないんだよ。高城君がここまで危険なことをしているのも元はといえば私のせいだから」

「17にもなってそんな判断もできない高城がすべて悪いと思うけどね。智子は背負い過ぎよ。命を懸けてまで止める必要があるの?」

 剣術お姉さんの指摘に三つ編みお姉さんは自分のしようとしている事が怖いのか体を震えさせていた。

「それでも…」


 剣術お姉さんはヒヨコを見る。助言が欲しいのだろうか?困っているのはヒヨコでもよくわかる。

 三つ編みお姉さんと違い、剣術お姉さんはそれなりに戦いを知る人だ。以前、北海王国に襲撃された時、ヒヨコとフェルナント君に守られていたから気付いたのだろう。自分ほど剣が使えても何の役にも立たないと。

 剣術お姉さんに関しては、ヒヨコから見れば自分の身を最低限守れていたと評価はしている。だが、それでもヒヨコ達に守られている上での話だ。

 そもそも戦となれば槍での攻撃が基本になる。小手先の技術は鎧で守られていない1対1だから使えるのであって重装甲歩兵が集団でぶつかると剣術なんて何の役にも立たないのだ。集団の敵を相手に剣一本で蹴散らすような頭のおかしい人間はそれこそ剣を極めた師匠みたいな存在だろう。残念ながらヒヨコも先輩君時代の能力は未だない。ブレスがあるからどうにでもなる部分があるが守りはいささか不安だ。


「ピヨピヨ【前にも言ったがヒヨコはお姉さん達が死んでも別に責任を負う事もないし勝手にすればいいと思うが………。9割くらいで死ぬような場所に行くのか?】」

「きゅうわり……」

 あまりの高確率に二人とも顔を青ざめさせる。まさか物見遊山感覚だったのか?

「ピヨピヨ、ピヨピヨ【サクスムは城塞で持ちこたえているという話だ。北海王国の兵士に包囲されているだろう。そこで退路を切り開くのだから乱戦になる可能性が極めて高い。騎士隊の隊長さん達が向かったが彼らも多分決死の覚悟だ】」

『人間は弱いから大変なのだ』

「きゅ~【簡単に死んじゃうのよね。智子、ごしゅーしょー様なのよね】」

「それは死んでから言う言葉だと思うよ?」

 トルテの物騒な言葉にフェルナント君が言葉の遣い方が間違っていることを指摘する。


「戦場で自分たちの行いを見れば気付くはずだとおもう。私は絶対に高城君を見捨てない。ちゃんと自分のやっている事に気付かせないと行けないんだ」

「ピヨヨ~」

 ヒヨコは困ったように剣術お姉さんを見る。

 剣術お姉さんは肩を落として大きく盛大に溜息を吐く。

「無理よ。こうなったら梃子でも動かないもの。頑固なのよね」

「きゅ~【アタシ達は戦場にはいかないのよね。相手が魔物ならともかく人間だと大変なことになるのよね】」

 ヒヨコ的にはかなり困るな。脅しても動かないとは。ヒヨコは剣術お姉さんに止めて貰いたいのだが………。そんなにタカギ君とやらが大事なのか?幼馴染だとは聞くが…………。

 するとユサユサとヒヨコを揺するフェルナント君がいた。

「ピヨヨ?」

「僕が智子姉ちゃんの護衛をすればいいのでは?」

「ピヨ【それは本末転倒だ……………】」


 ヒヨコは騎士隊や軍と合流して一般市民を逃がす仕事をする。

 誰かをお守りをする余裕なんてない。

 断ればいいのだが、そもそも敵軍は歩いても3日で付く場所にいるのだ。勝手に来てしまう可能性もある。放置する方がよほど危険だ。

 とはいえヒヨコは保護者として異世界お姉さんズを守ってやらねばなるまい。義務がある訳ではないが、彼女たちの身の安全は光十字教国との争いにおいて重要なことになると思う。

 ヒヨコが光十字教国を全て攻め滅ぼして平和になりましたと言っても、誰もヒヨコを信じないだろう。ルークの時にそれは学んだのだ。ルークは王国にとって強すぎたのだ。故に疎まれ殺されたのだ。

 帝国では違う。帝国は自らが戦う気概があり、腹黒公爵さん達や同盟国となった獣王と共に戦った。

 故にヒヨコを恐れる声はない。国がたった一人を頼った訳ではないからだ。その点で言えば皇帝や腹黒公爵さんはよく分かっているのだ。きっとヒヨコなんぞには理解できないほどいろんなものに気を使って国の平和を保ち発展する事を考えているのだろう。


「ほら、ここから歩いて1~2日だし馬車を走らせれば直に追いつく。僕が智子姉ちゃんなら走ってでも会いに行くよ。そうすると無理に置いていくなんて難しいでしょ。僕もここでうだうだするのは性に合わない。ほら、ピヨちゃんが抱える問題児が2人、これはもう仕方ないから僕を一緒に連れて行って智子姉ちゃんの護衛をすればいいと思うよ」

フェルナント君のフォローに三つ編みお姉さんは目を輝かせる。

 フェルナント君の案は妥当だ。ヒヨコが面倒を見れないからフェルナント君が見る。ヒヨコとて分かっているのだ。フェルナント君には戦争に関わって欲しくないが、フェルナント君がいれば死ぬ可能性は極めて少なくなることを。

 だが、これで三つ編みお姉さんが死んだらフェルナント君も気に病むことになるだろう。それは本意ではない。


 ……だが、死を前提に考えるのはどうなのか?難しい。ヒヨコには分からないよ。

 フェルナント君を見て、三つ編みお姉さんを見て、ヒヨコは大きくため息を吐く。


「ピヨヨ~【頼める?】」

「やればできる子だからね!」

 どんと胸を叩くフェルナント君。

「ありがとう、フェルナント君。やっぱりフェルナント君は頼りになるもんね」

「僕は頼りになるんだよ。」

 フンスフンスと鼻息を荒くして喜ぶフェルナント君。

 三つ編みお姉さんに気があるわけでもなかろうに、何なんだろう?………そういえばフェルナント君は褒められ慣れていないな。

 神童と周りから崇められ始めると、両親は褒めるのをやめたと言っていた。帝位継承権が高いだけにお家騒動を嫌ったからだ。純粋に褒める人がいなくなっている。同時に帝国貴族や学校でも公爵令息であり大事業の権利を持つ親に媚を売りたくて下心ある人間が多く、辟易としていた。思えばトニトルテにしてもグラキエス君にしても異世界お姉さんズには懐いていたが………。

 そういえばフェルナント君もグラキエス君もトルテも立場が立場なので友達がいないし媚を売る人間ばかりで個人として仲良くしてくれる相手がいないのだ。

 そんな彼らにとって損得抜きで仲良くしてくれて、純粋に褒めてくれる異世界お姉さんズは貴重なのかもしれない。


 それに剣術お姉さんは肩を落として溜息を吐き

「私も行くわ。足手まといにはならないわよ。覚悟を決めたから真剣を買ってくれる?護衛は一人でも多い方が良いでしょう?」

「ピヨヨ?【本気か?】」

「仕方ないじゃない。智子(バカ)高城(バカ)の目を覚まさせたいって言うんだから。放置して遺体で帰ってきたら私が後悔するでしょ?この世界ってファンタジーだから生き返らせる魔法とかあるの?」

「ピヨヨ?【剣術お姉さんはアホなのか?死んだら終わりだぞ?それともニホンと言う所では死者蘇生が出来るのか?】」

「いや、聞いてみただけよ」

「死者蘇生の魔法はないけど前もって魔法をかけておけば一度だけ蘇生できるっていう魔法はあったよね?」

 フェルナント君に尋ねられヒヨコは頷く。

「ピヨピヨ【エルフの郷に行ったときに花国で一度だけ使ったが、ヒヨコは2~3週間くらい寝込む羽目になったぞ?昔、巫女姫が自分の夫に使ったとも聞いているが、ヒヨコも巫女姫も歴代最高峰の魔力と神聖魔法の使い手だ。それに頭が潰されたりすれば生き返らないからな。3~400年前の女神教の教皇がそれで皇族と渡りをつけて組織を拡大して国を興したらしいが……】」

 という話をエルフの郷で聞いている。

 オロール教国の前の国・神聖女神教国の教皇の話だ。その時に帝国は皇帝が高い金をかけて復活魔法をかけて貰ったとか。ケンプフェルト地方やヘギャイヤ共和国もかつては神聖女神教国だったらしい。

「生き返す方法はあるけど、事前に蘇生が可能。それでもそんなに大変って事なのね?」

「ピヨピヨ【エルフの女王さんは言っていた。この世界に侵攻した悪神も魔神も他の世界では人間を生贄にして簡単に受肉できたそうだ。だがこの世界では死ねば生き返れないし、肉が無くなれば直に魂が魔力になって散るのだそうだ。他の世界では1つの肉体で問題ないがこの世界では10万人の生贄が必要らしい。だから生き返すのは極めて不可能なのだそうだ】」

「……生き返らないのか。まあ、うちの世界でも生き返りはしないけどさ。知っていたらかけて貰っておけばよかった」

 ヒヨコにそんな義理はないと思うが。

 そもそも、ヒヨコは自身の生活の為にお仕事をしている。師匠に弟子入りしているが、剣術の遊び相手を毎日しているのも仕事の内だ。今回、こうして国の役に立ったりするからこそ、部屋をポンと与えられたりしている。お姉さん達を養っているのもその恩恵から来ているのだ。

 ヒヨコはフェルナント君やお姉さん達と違って大人だからな。

「ピヨヨ~【いや、何の役にも立たない居候のお姉さん達の為に、何週間もヒヨコの行動を阻害するとかありえないぞ。そもそもヒヨコの活躍がお姉さん達の生活環境を作っているのだからな】」

 ヒヨコのツッコミに異世界お姉さんズは失言を認める。

「ごめん…」

「でも、命を扱う魔法はピヨちゃん自身にとっても非常に危険で、軽々しく使って良い魔法じゃないよ。ピヨちゃんと同じことが出来た魔法使いは過去にも数人いるけど、いずれも大国の王やそれに等しい立場になってる。ピヨちゃんが帝国で皇帝陛下や父さんたちと仲良くしているのはピヨちゃんをそういう立場の人間と同等と考えているからだからね」

『分かっていてピヨちゃんに乗る公爵令息がいるのだ。僕はとっても困惑しているのだ』

「きゅ~【ヒヨコを崇め奉るなんてあり得ないのよね。ヒヨコなんてただのピヨピヨのヒヨッコなのよね】」

『そもそも、ピヨちゃんはそんなに偉そうなヒヨコじゃないのだ』

「ピヨピヨ【その通りだな。ヒヨコの友達はセントランド共和国の姫とかニクス竜王国の王子、帝国の公爵令息とか下っ端ばかりなのだ】」

「きゅうう!?」

「きゅいぃ!?」

 ショックを受けるヒヨコのドラ友達であった。


 だが、ヒヨコは剣術お姉さんの失言なんて気にしないのだ。何故ならヒヨコは大人だからな。重要なので何度でもいうぞ。

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