表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/327

2章12話 逃げるヒヨコ、寝るヒヨコ

 異世界お姉さんズ2人がはヨコ達の元へと戻ってきていた。


「あれ、ピヨちゃんどうしたの?」

 三つ編みお姉さんがヒヨコに尋ねてくる。ヒヨコは肩に違和感を感じてグルグルと肩を回していたからだろう。

「ピヨヨ~【何でもないぞ?で、そっちはどうだった?】」

「無理無理。まあ、予想通りの頑固って所ね。智子も不安だからこっちで現状維持って感じかなぁ」

「ピヨピヨ【それは残念だったな。無駄足だったか】」

「無駄足っちゃ、無駄足だったわね。ヒヨコはどうしたの?」

「ピヨヨ~【フェルナント君と王女さんがにらみ合っていて面倒な感じだったぞ。癒し系であるヒヨコはモフられて場を和ませていたのだ】」

 すると、三つ編みお姉さんもヒヨコの羽毛に顔をうずめて癒されていた。

 色々と良くない感じの話し合いだったのかもしれない。どうやらヒヨコは癒し系らしい。


「お帰りになられるんですか?」

「ピヨピヨ【戦時下に敵国が攻めてきた領域に一般人がいるのは危険だろう?ヒヨコは焼き鳥になりたくないのだ】」

「「「一般人?」」」

 天然ジゴロ君、王女さん、女騎士さんの三名がヒヨコ達を見て疑問符を浮かべる。

「ピヨちゃん、一般『人』じゃないから」

「ピヨピヨ【そうだった!ヒヨコはそんじょそこらにいるただのヒヨコだった!?】」

「いないから。そんじょそこらにピヨちゃんはいないから!神眼持ちでさえ種族名が『?』ていう新種でしょ?」

 フェルナント君はブンブンと首を横に振って否定する。

「ピヨヨ~【早く鳥になりたーい】」

「ピヨちゃんが妖怪人間みたいな事を言い出した」

 智子はヒヨコの言葉に反応する。

「今度は平和な時に会えるのを楽しみにしています」

 王女さんはヒヨコと握手を求めるのでヒヨコは手羽を差し出して握手?をする。


「それではジャンヌ、皆さんを城外迄お連れになってください。襲われたら大変ですし」

「そうですね。戦時下で軍人でない女子供が歩いていたら襲われてしまうかもしれませんし」

 女騎士さんの言葉に異世界お姉さんズはビクッとする。まあ、そんな事はあり得ないのだが。ヒヨコとフェルナント君がいるしな。フェルナント君は未熟で危なっかしいが放っておいても死にはしない。

 真の勇者というのはゴキブリの100倍は生命力があるのだ。子供だからころりと騙されて殺される可能性はあるが、敵地にいるという自覚がある限り、そうそう殺されたりはしない。

 実際、ヒヨコはフェルナント君の(シークレット)(サービス)であるが、お付きとして一緒に来たモニちゃんを守るのが仕事だ。


「ではご案内しましょう」

「それじゃあ、またね、高城君」

 三つ編みお姉さんは不安そうな顔で手を振って天然ジゴロ君と別れるのだった。

「あの、ピヨちゃんは引き留められませんか?」

 握手したまま離そうとしないお姫様が名残惜しそうに言う。

「いないと私たちが帰れないのですけど」

「ピヨちゃんに運んでもらっていたので」

「そうですか」

 しょんぼりするお姫様だった。

 この人、普通に世間知らずな感じのお姫様だな、とヒヨコは呆れる。



 女騎士さんやたくさんの兵隊さん達に連れられて、怖そうな兵隊さんがたくさんいる通りを歩く。確かに危ないというのは確かなようだ。来るときはあまり気にならなかったが。

 そう言えばこっちの冒険者ギルドは傭兵も兼ねているから人数が多い半面で戦慣れしている人間が多いとも聞く。

 まあ、帝国は戦自体が少ないから魔物討伐や他国から流れて来る盗賊の捕縛などの任務が多いのだが。帝国は裕福なので自国の盗賊は非常に少ない。


 長らく歩いて町の城門の外に出るやいなや、ヒヨコ達を取り囲む。

「配置につけ!」

「はっ!」

 ジャンヌと呼ばれた女騎士さんの命令によって、20人ほどの騎士達がザッと取り囲み剣を抜く。

「え?」

 ヒヨコ以外の三人が身構えつつも驚いた顔で周りを見る。


「恨みはないが勇斗殿が揺れてしまうと士気に関わる。貴殿らにはここで亡き者になってもらう」

「なっ!?」

「ちょ、正気なの?」

「貴殿らとて勇斗殿に死んでほしくはあるまい。戦争で彼が揺らげば我らが死ぬことになるのだ。貴殿らがニクス竜王国にいれば尚更の事。故にここで不慮の事故に遭ってもらう」

 ジャンヌの言葉に兵士達も有無を言わさず臨戦態勢に入る。

「えー、戦う予定ないっていうから聖剣はナヨリにおいて来ちゃったよ~。ヴィンセントさんも一度どんなものか見てみたいって言ってたから預かってもらってたんだけど」

「ピヨピヨ【帝国の宝刀、というか女神から与えられた世界に唯一無二の神具をひょいっと知人に預けるな】」

「ごめんなさーい」

 フェルナント君はあまり反省していない様子で謝るのだが、聖剣はヒヨコの言う通り500年前の勇者が女神から賜ったもので、使える神聖魔法なら魔力無しで使うことが出来、しかも斬撃を飛ばせて、神殺しの機能が付いていて不壊性能付きという便利な武器である。ただし、切れ味は普通の鋼の剣程度である。


 そもそも神を敵にする事なんて早々ないので神殺しの機能なんて無きに等しい。

 斬撃を飛ばせることが出来るが、そもそも近隣で最強でないと装備もできないので、剣術LV5以上ないと装備することが困難なため、斬撃を飛ばす機能はあっても意味があるのか分からない機能だ。

 剣士で神聖魔法が得意な人は希少なので、MPなく神聖魔法が使えても役に立つことは少ない。低い魔力では回復力も低い。

 つまりヒヨコの前世である先輩君(ルーク)が持つと最強の武器になるが、普通に『壊れない頑丈な剣』という効果しかないのが玉に瑕だ。


 ヒヨコとフェルナント君はお姉さんズを守るように前後を構える。


「弓矢!放て!」

 ジャンヌの号令に従い、城壁の上にいた兵士たちが弓を構えて撃って来る。

「<風壁(ウインドシールド)>!」

 得意の風魔法でフェルナント君は空から襲い来る矢の猛攻を吹き飛ばす。


「なっ」

「武器が無いから戦えないと思ったら大間違いだ。<石剣(ストーンソード)>」

 地面から硬質な石の剣が地面から生えてフェルナント君の手の中に納まる。

「ピヨピヨ【撃退するのは良いが、相手を殺すのは無しだぞ。多少腕や足が取れてもヒヨコが魔法で直すが、首を取るのはダメだからな。人間は首を取ったら死ぬのだ!】」

「言われなくても知ってるよ!?あと、この剣はスパッと切れるほど切れ味良くないよ!?」

 フェルナント君はもう一本石の剣を地面から生やし、剣術お姉さんに渡しながら構える。

 剣士隊の隊長と思しき壮年の男性が剣を持って前に出る。

「皆の者、掛かれ!」

「おっしゃーっ!」

「隊長、あの女、捕らえて好きにしていいですよね?」

「勝手にしろ。但し町の中には絶対に入れるな。終わったらちゃんと処分しろ!勇者殿にバレたら貴様の首は飛ぶと思え!」

「ひゃっはーっ!」

 何だろう、どうしようもないならず者集団だろうか。

 女騎士さんもすごく嫌そうな顔をしていた。


 たくさんの人たちが襲い掛かって来る。

フェルナント君は相手の剣をいなしつつ石の剣で相手を叩きのめす。殺さないように手加減しているようだ。

「ピヨッピヨッピヨッ」

 迫りくる剣や槍の嵐が吹き荒れるが、ヒヨコは迫りくる剣士の剣を嘴で受け流し、カウンターでキックを入れて吹っ飛ばす。

 さらに槍で付いてくる男に対しては、よけるとお姉さんズが危険だから嘴で加えて突進を抑え込み、首を上に思い切り振り上げると、槍を持っていた男は空へと投げ出される。

 落ちてくるところを必殺オーバーヘッドキックで蹴っ飛ばしてヒヨコを襲おうとしていた男に叩きつけて気絶させる。

 遠距離から魔法を放とうとする男が見えたので、ヒヨコは人と人の隙間を塗って嘴から炎の弾丸をプレゼント!

「ピヨッ!」

 <火炎弾吐息(バレットブレス)>を放ち、見事に魔法使いを打ち倒す。焼き貫く弾丸にならないよう、死なない程度に練りを甘くして敵を吹っ飛ばす。

 フェルナント君は立ち回りがどうも未熟だ。

 相変わらず正面の敵ばかりに目が行き、隙を見てはヒヨコの背後にいる異世界お姉さんズへ攻撃が届きそうになる。

 とはいえ割と剣術お姉さんが石の剣で相手の攻撃を受け止める。

「つああっ!」

 ドシッと重たい音がして剣を持って迫り来ていた男は腕を叩かれて剣を落としてしまう。

 異世界剣術はレベルが高いのかもしれない。まあ、迫りくる連中の剣術レベルは1~2くらいで、上手い人が3程度しかないからな。

「どけっ!はあっ」

 苦労している男たちを縫うように打ち込んできたのは女騎士さんだ。

「くっ」

 フェルナント君は防御するが、ガキッと火花が散る。

「つぅ!」

 女騎士さんは次々と剣で攻撃を仕掛けてきて、フェルナント君は防戦一方になる。

 技術や力ではフェルナント君の方が上なのだが、武器が悪い。さすがに粗雑な石の剣で受けるので、受け方を間違えると簡単に切られてしまうので防御に苦心していた。

「はあっ!」

 ガキーンッと鈍い音が響き石の剣が折れてしまう。

「ちっ!<石剣(ストーンソード)>!」

 何本も地面から剣を生やしさらに攻撃しようと剣を手にする。

「そんな剣で私のデュエルドミネイターが負けるか!」

「いつもの剣なら絶対に負けないのにー」

「ピヨヨッ【そういう時は相手から剣を奪うのだ】」

「なるほど、そういう事か!さすがピヨちゃん、年の功!」

 いや、ヒヨコは一応、フェルナント君より1~2年上なだけだが、年配者みたいに言われるのはちょっと困る。

 女騎士さんの猛攻をしのぎつつ、石の剣を投げつけて女騎士さんを一歩下がらせると、さっき戦った際に一人の剣士が落とした剣をフェルナント君は拾って構える。

 頭は良いのだ。教えると真綿が水を吸うように吸収する。

 こういう事を学問分野においても結構やっていたらしく、家庭教師が天才だと褒め称えていたとか。

 無論、腹黒公爵さんは、フェルナント君が調子に乗るから本人に言わないように口止めしていたし、弟や妹たちと比較することも許していなかった。

 ただ、手紙で聞いた限りでは弟や妹たちも心配が要らない程度に頭が良い子達らしい。親ばかなだけかもしれないけど。聞けば腹黒公爵さんのお母さんは帝国屈指の天才だったらしく、学生時代は帝国の貴族学校で主席だったそうだ。

 頭のいい遺伝子でもあるのだろうか?ヒヨコにもその賢さを分けて貰いたいものだ。

 ルーク時代は割と吸収力のいい頭していたんだけどなぁ。魔法の覚えがすごくよかった。勇者というより賢者に近いステータスだった。

 あれ?そういえばどうして賢者の称号が付かなかったのだろう?火魔法LV10を超えていたのだが……。……ルークはおバカさんだから賢者には不足という事か!?


 ヒヨコは襲われているのにぼんやりとそんな事を考えながら惰性でピヨピヨと迫りくる兵隊さん達を蹴倒し続けていた。

 とはいえ、殺すのはご法度なのでこの戦いは終わらない。

 相手も次々とけしかけられて、湧いてくる。

「ピヨちゃ~ん。終わらないよぉ」

「勢い良すぎでしょ、こいつら…」

 剣や槍、矢が次々と飛んでくる中、ヒヨコ達は劣勢を強いられてしまう。

「ピ~ヨヨ~」

 ヒヨコは空に向かって大声で鳴く。

 するとギュルルルル~と鳴き声が返ってくる。


 バッサバッサと大きい音を立てながら空から黒い二つの大きな黒い影が現れる。


「何事だ!?」

「ど、ドラゴンだ!?」

「やばいっ!逃げろ!」

「ヒイイイイイイイッ!」


 青い成竜であるグラキエス君の氷の息がさらにコントロールされ、氷の礫となって空から降り注ぐ。

 ヒヨコ達を取り囲んでいた兵隊さん達は慌てて逃げる。

「馬鹿者!逃げるな!」

 女騎士さんは叫んでとどまるように言うが、ドラゴン相手に逃げる事を止めるのは難しいと思う。


「ぎゅう~」

 最初に空から飛んできたのは金色の成竜のトニトルテであった。大きく翼を広げて地面に近づき、両足で三つ編みお姉さんと剣術お姉さんを器用に捕まえてそのままそこを通り過ぎて飛び去って行く。

 次いでグラキエス君が空から急降下してヒヨコ達の方へと飛んでくる。

「ぎゅい~」

 フェルナント君はとっさにグラキエス君の足に飛びつく。ヒヨコは最後まで戦おうと残る女騎士さんを警戒していると

『ファイト~!』

「ピヨヨ~【いっぱーつ】!」

 グラキエス君がヒヨコの胴体を掴んで空へと再び舞い戻る。

「くっ!逃げられたか!」

 女騎士さんは悔しそうに歯噛みする。

 ヒヨコとフェルナント君を捕まえているグラキエス君は首を傾げる。

『何でただ僕に捕まえられただけのピヨちゃんが、俺はやってやったぜ、みたいな顔をしているのだ?』

「ピヨピヨ【何となく、ヒヨコも頑張っている風を装ってみたのだ】」

「何でこの二羽(?)はリポ●タンDをやっているんだろう?」

 トルテに掴まれている剣術お姉さんから不思議そうな声が漏れるのだった。


 ヒヨコ達はグラキエス君達に捕まれたまま、リトレの南にある城塞都市サクスムまで飛んで逃げるのだった。




***




 城塞都市・サクスムはリトレから街道を南へ歩いて2日程度で辿り着く場所にあるリトレの衛星都市で最も大きい町だった。

 戦時下とありニクス竜王国軍が少数だが駐留しており、一般人もまだ多くいるようだ。だが、避難している人も多いので、景気の悪い雰囲気ではあった。


「いらっしゃいませ。青のリンゴ亭へようこそ」

 そんな景気の悪そうな商店街の宿屋では景気のよさそうな顔で迎えてくれる宿屋の娘さんがいた。

「ピヨヨッ【人間3名とヒヨコ1羽とドラゴン2羽なんだがお願いできるか!?】」

「え、ヒヨコ!?」

「ピヨッ【ヒヨコの名前はピヨちゃん!10歳、雄、独身!】」

『ピヨが名前でちゃんが苗字なのだ』

 幼竜姿に戻っているグラキエス君がヒヨコの自己紹介を勝手にする。

「ピヨヨッ【ちっげーよっ!】」

 ヒヨコの手羽によるツッコミがグラキエス君に炸裂する。

 だが、残念な事にヒヨコの柔らかい手羽先ではグラキエス君には一切ダメージを与えられない。

「もしやグラキエス様!?」

『そうなのだ。様は特に必要ないけどニクス母ちゃんの息子のグラキエスなのだ』

「そ、それでは一番良い部屋をご案内いたします」

『そんな気遣いは無用なのだ。大きい部屋を二つくらいとってくれれば問題ないのだ。ちゃんとお金も払うのだ。…………ピヨちゃんが』

「ピヨヨーッ!?【ヒヨコがスポンサーッ!?そんな馬鹿な!?】」

 6人分なのでこの国の銀貨3枚という所だった。ヒヨコはとりあえず<異空間収納(アイテムボックス)>の魔法を使って前金として銀貨3枚を払うのだった。



 さて、ヒヨコ達は宿屋を取って皆でヒヨコの部屋に集まる。

 ちなみに、ヒヨコはヒヨコ姿のままで部屋にやってきていた。

 ニクス竜王国ならばグラキエス君達喋れる幼竜が間に入るだけで、どこに行っても部屋住みが許されるので、非常に心強い所でもある。

 ヒヨコも人気者になる前は帝国でも割と馬小屋に入れられていたのだが。


「それにしても……酷い目に遭った」

 フェルナント君はぐったりと自分のベッドに腰掛けてから、そのまま大の字になってあおむけに倒れ込む。

「フェルナント君にも助けられちゃったね。ありがとう」

「そうでしょう、そうでしょう。僕は出来る子なんだよ」

「調子に乗りすぎ」

 呆れるようにぼやく剣術お姉さん。

「でも百合ちゃんだって助けられたでしょ」

「それはそうだけど……」

「フェルナント君はこっちの事情も詳しいし凄いねぇ」

「おー。ピヨちゃんピヨちゃん」

 フェルナント君はむくっと起き上がりヒヨコの手羽を揺する。

「褒められちゃった」

「ピヨピヨ【まあ、話が面倒な感じにはなってしまったが悪くはなかったと思うぞ。ちゃんと守れていたし】」

「そうでしょうそうでしょう。むふー、ぼく、やればできる子だから」

「ありがとうね」

 三つ編みお姉さんがフェルナント君の頭を撫でているので次はヒヨコが頭を差し出して撫でられる準備をすると、ビシッと剣術お姉さんがヒヨコの頭を叩く。


「調子に乗らない」

「ピヨヨ~」

 ヒヨコだけ、何故に叩かれるのだ?

 ぬう、納得いかぬ。


「でもさ、あの勇者、全然こっちの話聞いて無くなかった?」

 とフェルナント君は撫でられ終えると頬を膨らませて口にする。

「やっぱり高城君、騙されていたんだよ!もう一度乗り込んで話をしに行こうよ!」

「信じると思う、高城が?」

「うっ……」

 ジト目で突っ込む剣術お姉さんは三つ編みお姉さんの座る椅子をポンポンと叩く。三つ編みお姉さんは反論できず、無言になって座る。

 どうやら高城君とやらは思い込みの激しい人のようだ。

 とはいえ、ヒヨコは首を捻る。

「騙されてはいないと思うぞ?」

 とヒヨコは口にする。

「どこが!?」

 剣術お姉さんはヒヨコに鋭い視線を向ける。

「ピヨちゃんはお姫様にモフモフ撫でられて懐柔されたんだよ!僕のモフモフを勝手に取るなんて許せない!ビッチ王女め!僕のピヨちゃんがモフ取られた!」

「ピヨピヨ【いや、ヒヨコは別にフェルナント君専用のモフモフではないのだが……】」

 子ドラゴン姿のグラキエス君とトルテはヒヨコの背中と頭に座り込み

「きゅうきゅう【話し合いは決裂したのよね?】」

『北海王国に襲われたのはそのせいなのだ?』

「そうだよ。正しい事を知ってる私達がいると都合が悪いから消そうとしたに違いないよ!」

「で、ヒヨコは何で騙されていないと思ったのよ?」

 剣術お姉さんは首を捻ってヒヨコへ視線を送る。

「ピヨヨ~【北海王国はニクス竜王国に多くの民が奪われて怒ってるらしいぞ。拉致されたそうだ。民を返せと言っても我が国の民を返さないと突っぱねているらしいな?】」

『拉致されたのではなく自主的にウチに来てるのだ。みんな幸せに暮らしているのだ。二度とあんな国に帰りたくないというのだから、返す必要はないのだ』

「ピヨピヨ【オーウェンズ公爵は裏切者らしいぞ?】」

『北海王国からすればそうだけど、公爵はかつて北海王国の前身・旧連合国時代に離脱したのだ。当時は竜王国も南進を是としていたから戦争が絶えず、公爵は亜人と結婚して亜人の血を引いているから、貴族と言っても周りに侮られていたのだ。良いように旧連合国の肉壁にされていたから嫌になったのだ。それでニクス竜王国に寝返ったのだ。そもそも竜王国が欲しかったのはリトレの不凍港だけなのだ』

「……そ、それは確かに……そうだけど」

 フェルナント君はこっちで歴史の授業を聞いているのでううむと腕を組んで考えてしまう。

「ピヨピヨ【そもそもフェルナント君は気付いていただろう?得意の真偽判定スキルで】」

「そういえばあんなに嘘っぱちの事ばっかり並べてたくせに、全然ニセ判定を感じなかった!」

 ヒヨコの指摘に驚いたようにフェルナント君は目を丸くする。

「ピヨピヨピヨピヨ【つまり高城君とやらは一切騙されていないのだ。何故なら、騙されているのは王女さんだから】」

「ちょ、ちょっと。国の事でしょ?なんで王女が騙されてるのよ!?」

 剣術お姉さんが突っ込む。

「ピヨピヨ【それはヒヨコも分からんが、転生前の人間時代は騙されて殺されたから、割とそういった案件に関してヒヨコは敏感なんだぞ?そもそも始まりは200年以上前で、師匠が竜王国の総裁をやめていた頃だからな。師匠は具体的な状況をある程度知っているが、向こうは300年も竜王国に攻め込んでは返り討ちに遭っていった国だ。情報伝達の不備があってもおかしくない】」

「王族が嘘を子供や部下に教え込んでいたら、急死による代替わりに失敗して、国そのものに真実を知るものがいなくなった可能性もあるって事?」

 三つ編みお姉さんがヒヨコに尋ねる。

「ピヨヨ~【つまり、面倒なことに、王女さんは多少の悪に目をつぶってもニクス竜王国を倒さねばならないと善意から思っているのだ。】」

「はた迷惑な」

 剣術お姉さんは呆れるように溜息を吐く。

「ピヨヨ~【あの女騎士さんも知らないだろうが、天然ジゴロ君を正しく理解していると思うぞ?】」

「どういう事?」

「ピヨピヨ【困ってる人を見過ごせないのだろう?困っている王女様を見過ごせなかったわけだ。でも、こっちの異世界お姉さんズも困っているわけだ。だから女騎士さんは邪魔だと思ったのであろう?天然ジゴロ君の心変わりを恐れて。】」

「あ、なるほど」

『戦場ではそういった敵への同情は命とりなのだ。揺れてしまったが為に殺される位なら悪役を買ってでも不安分子を消そうという訳なのだ。見上げた覚悟なのだ』

「きゅうきゅう【そんなんで襲われる哀れなヒヨコ。トニトルテはあの程度の雑魚に梃子摺るヒヨコにがっかりなのよね】」

「ピヨピヨ【殺して良いなら一瞬だぞ?そこはヒヨコの思いやりからくるものだ。ヒヨコの心の広さに感謝感激雨霰を降らすと良い】」

 ピヨドラがピヨピヨきゅうきゅうと話し合っていると

「こう、弱い人が戦い終わった後に強がるような言いぶりが悲しいね」

 剣術お姉さんが酷い事を口にする。

「ピヨッ!?」

 真実なのに何だかヒヨコが強がっているみたいに言われている!?解せぬ!

『僕たちは人殺しをあまりしないのだ』

「それはニクス様に止められているから?」

 剣術お姉さんは不思議そうに思い首を傾げる。

「ピヨヨ~【それはあまり関係ないぞ?多分】」

「関係ないの?」

『そもそも僕とトニトルテは人間の攻撃でダメージを食らう事はそうそうないのだ。一方的に攻撃できちゃうから、基本的に弱い者いじめになっちゃうのだ』

「きゅうきゅう【つまりアタシは弱い者いじめはしないのよね。だからヒヨコをいじめるのよね】」

「ピヨヨーッ!?【中途半端に強いせいでいじめの標的に!?】」

 ちなみに現在進行形で幼竜フォームの二羽に乗られているヒヨコは手羽先で頭を抱えるのだった。

『まあ、トニトルテがピヨちゃんをいじめるのはともかく』

「ピヨピヨ【ともかくにしていい案件ではないと思うが……】」

『人間を殺傷するのは控えているのだ。多少攻撃されても気にしないのがドラゴンの嗜みなのだ』

「ピヨピヨ【スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないようにゆっくり歩くような嗜みと同じだな?】」

「いや、ピヨちゃんのいう嗜みはヒヨコの嗜みではなくリリ●ン女学園の嗜みだから」

 ズバッと突っ込んでくる三つ編みお姉さんだが、ヒヨコはそのなんとか学園なんて全く知らないのだが?


「このヒヨコは地球の二次元知識を持ってくるのは何故だろう?」

「ピヨピヨ【そんな知識はないぞ?あってたまるものですか。ヒヨコの魂が輪廻して昔異世界人だったという噂もあるがそんなのは嘘っぱちなのである。そう、ヒヨコの成分の半分は屋台で売られているカラーヒヨコなのだ】」

 そう、ヒヨコはあんなのの転生なんかじゃない!断じて違うのだ。エルフの女王さんやイグッちゃんが嘘つきなのに違いない。ヒヨコはヒヨコであってそんな何かよくわからないロクでなしとは違うのだ。ヒヨコはたった一つのオンリーワン!アレの転生とか関係ないのだ。

 ナンバー1にならなくても良い、ピヨピヨ特別なオンリー1。


「むしろこっちの世界にもカラーヒヨコが屋台で売られていたことに驚きだよ!」

『ピヨちゃんの世迷言に食いつかないで欲しいのだ』

 困ったような顔でグラキエス君がぼやく。ヒヨコもついにドラゴンの表情が読めるようになったようだ。


「そういえばそうだった」

 そういえば元はと言えばこの戦争の話をしていた筈だ。

『僕たちは戦争に介入することはほとんどあり得ないのだ。それはピヨちゃんもフェルナント君も同じなのだ。足代わりにはなってあげても問題ないけど、それ以外では僕たちは力になれないのだ』

「トニトルテちゃんはともかくグラキエス君は自国が攻められても加勢しないの?」

『しないのだ。そもそも僕たちは嫌になったら出て行けば良いだけなのだ。人間の営みに関わっていないし、母ちゃんが寒い所じゃないとみんなに迷惑が掛かるからワッカナイにいるだけで、それ以外にいる理由がないのだ。この国には愛着があるけど、争ってまで、居ようとは思わないのだ』

「そ、そうなんだ」

「実際、私たちはドラゴンって強いってイメージしかないけど、勇者たちと比べてどのくらいの力量差があるの?」

『勇者たちというか異世界人達?』

 グラキエス君は首を捻る。そもそも異世界人のステータスなんてほとんど見ていない筈だ。以前、トルテ達の一団が捕まった時にいたが、その時くらいだろう。

「ピヨヨッ【現時点では全員が束になっても勝てないだろう。光の精霊から与えられた恩恵でどうにかなるとは思えん。だが、ヒヨコ達も強者を自覚しているが光十字教全てを敵に回して勝てるなどと思ってはいないぞ?】」

「そうなの?自信満々だからそのくらいできるのかと思ったけど」

「ピヨピヨ【数の暴力を侮ってはいかんぞ。そりゃ、勝てるんじゃないかなぁ、位の自信はあるけども人間は侮れん。】」

「きゅうきゅう【ヒヨコは自信なさそうだけど、アタシは問題なくどの国でも亡ぼせるのよね!】」

「ピヨヨ~【人間は何するか分からんからな。予想外の手段で簡単にヒヨコ達を上回って来る。フェルナント君を見るが良い。従魔スキルも禄に無いのにマナガルムなんて懐かせて頭おかしいじゃないか】」

「きゅう~【確かに】」

『確かに』

 ヒヨコの言葉に2羽のドラゴンがコクコクとうなずく。

「何で僕が頭おかしいとか言われるのさ。これでもナヨリの国立魔法学校では14~5歳くらいのお兄さんたちの中に混じって主席なんだよ!」

『敢えて言うなら、そう言う所なのだ』

 グラキエス君がビシッと指をさしてきっぱりと言い切る。

 ガーンとショックを受けた様子で凍り付くフェルナント君であった。そしてショックを受けても何でなのかよくわからなかったりする。


「ピヨピヨ【どんな隠し種があるか分からないからな。従魔スキルみたいに自分より強い生き物を従えさせる例もある。】」

「そういうスキルもあるんだ」

「ピヨピヨ【実際、獣王国という国では最も強いものが獣王になるという風習があったらしいが、実際には強力な従魔士の家系が従魔を使えば獣王より強いから獣王を自分たちの都合の良いように入れ替えていたりしたそうだ】」

「な、なるほど。力だけでは勝てないという事ね。………で、その国ってまともに政治が機能してるの?」

「ピヨヨ【機能してなかったそうだぞ?それを力があって頭も良かった獣王が現れたそうなのだが、悪魔王が現れて大陸中が戦争になってな。人間時代のヒヨコがその獣王を倒してしまったのだ】」

「最低だ」

「ピヨピヨ【いや、つまり、人によって立ち位置が異なるのは仕方なく、強いからと言って慢心してはいけないという事だ】」

『そうなのだ。勇者の剣を頭に食らってもダメージのないトニトルテが帝国では無残にも捕縛されてゴーレムにアダマンタイトのノコギリで頭ギコギコされて涙目だったのだ』

「きゅう~っ!?【待った!その話は兄ちゃんは知らない筈なのよね!?】」

 トニトルテは慌ててグラキエス君に訴え、即座にヒヨコの方を向く。ヒヨコはピヨリとよそに視線を向ける。

「きゅうきゅうっ!【犯人はいつでもヒヨコなのよね!】」

「ピヨピヨ【ちょっとした世間話で怒らないで欲しいぞ】」

「きゅうっ!【幼い頃のやらかしを知る他人が最も厄介なのよね】」

「ピヨヨ~【で、トルテはお化け嫌いは治ったんだっけ?】」

「きゅうううううっ!【言った直後にその解答、自殺志願者と受け取ったのよね!】」

 トルテはカパッと口を開けると、ヒヨコの眼前でまばゆい光が走り、ヒヨコは意識が途切れるのだった。



 からかい過ぎたのだろうか………。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ