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2章3話 ヒヨコの戦争が始まるかもしれない

「忍者を捕らえた~?」

 剣術お姉さんは怪訝そうな顔をしてヒヨコ達を見て、そこから露骨にいやそうな顔へと変えるのだった。

「ピヨピヨ【ヒヨコ達の凄さをご覧あれ】」

『僕が読んだ書物の力なのだ』

「ピヨピヨ【トルテが咥えて待っているから早く見に来てほしいぞ】」

 夕方ごろにヒヨコ達は獲物をもったままナヨリ城に戻っていた。


 ヒヨコの後をついてくる異世界お姉さんズ。フェルナント君とモニちゃんも一緒だ。集合住宅の近くに立っていたトルテは忍者を咥えたまま皆が来るのを待っていた。


「助けてほしいでござる~」


 そこには忍者さんがパタパタと暴れて助けを求めているが、トルテがしっかりとズボンのベルト部分を咥えているので下半身丸出しにでもならない限り逃げる事も出来ずにいた。


『僕の罠で忍者を捕まえたのだ。オークっぽい自称人間の忍者なのだ。褒めて欲しいのだ』

「ピヨピヨ【罠から逃れたところをヒヨコが確保したのだぞ?褒めて褒めて】」

 グラキエス君とヒヨコは異世界お姉さんズの前に行き頭を差し出す。


 モニちゃんがグラキエス君を、フェルナント君がヒヨコの頭を撫でてくれる。


「っていうか、アレ、忍者じゃないよね?」

「そうだね」

「ええと、知り合い?」

 剣術お姉さん、三つ編みお姉さんが目を細めて白けたような視線でトルテに咥えられている猪鬼(オーク)っぽい自称人間忍者を見上げる。

 癒しお姉さんは知らないようだが。


「……ピヨヨ?【に、忍者じゃないのか?】」

「だって、アレ、うちのクラスのただの中二病のオタクだもん」

 剣術お姉さんは呆れたようにぼやく。


「ピヨヨーッ!?【なんだってーっ!?】」

『忍者じゃないのだ?』

「きゅうきゅう【がっかりなのよね】」

 トルテはポイッと忍者を放り投げる。ズベタンと忍者が地面に落ちる。


「助かったでござるよ。もしかして岬殿と鈴木殿でござるか!?」

 忍者は腰をさすりつつも、異世界お姉さんズの方を見る。知り合いを見つけて目を輝かしていたようだが、

「いえ、別人です」

「こんな人知らないです」

 剣術お姉さんと三つ編みお姉さんが即座に拒絶する。


「めっちゃ嘘じゃないでござるか!?なんで知らないふりするでござるか?ドラゴンに食われそうでビビッてたでござるのに!」

 涙目で忍者は訴えるが二人は、「コイツどうしよう?」みたいな顔で困惑していた。

「何だよー。忍者じゃないのか?ござるって言ったら忍者って、異世界勇者名言録にあったぞ?」

「勇者様も異世界では普通の人だったらしいので視野が狭かったのかもしれませんね。勇者様の周りにいた忍者がそうだっただけかもしれませんよ」

「なるほど、そういう可能性があったか。むう」

 フェルナント君はがっかりしていた。モニちゃんはそれを宥める。

 異世界勇者名言録、皇族が未来の文明から勇者の事を知ることで施政をどうすべきか考えるための一助とする、割と真面目な本なのだが、中身はどうしようもない事ばかり書いている。異世界から来た勇者というのはどうしようもない奴だったことが伺えるのだ。


「酷い勇者でござるな!?別に忍者はそんな口調でしゃべらないでござるよ!?」

「ピヨピヨ【で、剣術お姉さんや。彼は異世界人で忍者じゃないのか?】」

「そうよ。普通の喋り方をしない、ただの変なオタクよ。妙に駿介と仲良かったけど」

「ふっ、駿介殿とはアニメや漫画で熱く語り合ったものでござるよ。何でもる●剣を読んで剣の道を志し、九頭龍閃をマスターしたと豪語していた男でござるからな」

「中二の全国大会の決勝で、審判が一本を取る前に相手を九度も打ち据えたせいで、めっちゃ怒られた上に負け扱いにされたやつね」

 頭を痛めている様子で唸る剣術お姉さん。たしかシュンスケというと異世界の勇者と同じ名前の剣術お姉さんの幼馴染だったか。異世界の勇者並みにろくでもねえ奴だな。

 駿介というのはダメ人間の証拠なのだろうか?

 いかんいかん、そんな事を考えては他の駿介に申し訳が立たぬ。偶々駄目な駿介が二人いた。ただそれだけに違いない。


「ピヨピヨ【それではこの猪鬼(オーク)もどきさんは、忍者でもなければ、ただの痛い人だったのか!?】」

「そうよ、ただの痛い奴よ!忍者でも何でもないわ」

『折角、忍者をも捕らえる罠だと思って喜んだのに残念無念なのだ』

「ピヨヨ~【そうか~、残念無念だ】」

「きゅうきゅう【紛らわしいのよね。ござる語尾と言い縮地法といい忍者っぽいスキルがたくさんあるから忍者だと思ったのに残念なのよね。残念エセ忍者なのよね!】」

 グラキエス君もヒヨコもトルテもがっかりといった感じだった。。

「でも、確か私ら以外のうちの学校の連中って光十字教系の国に落ちたのよね。何でエセ忍者がここにいるのよ」

「逃げてきたでござるよ。ニクス竜王国と北海王国が戦争をするらしく、拙者たちにまで戦えとかいうなんて無茶過ぎるでござる。北海王国には他にも高城殿や倉橋殿がいたでござるが、倉橋殿はいつでも逃げられるように荷物をまとめていたみたいでござったから、倉橋殿が逃げるより先に拙者出し抜いて逃げてやったでござる」

 どや顔で語るエセ忍者君だった。そういう訳でヒヨコの中ではエセ忍者君になりました。

「いや、女の子より先に逃げるとかどうなの?」

 冷たい視線を向ける

「それにしても岬殿や鈴木殿がこの国にいるとは驚きましたぞ」

「そ、それは……」

 三つ編みお姉さんはヒヨコの方に視線を向ける。

 その視線を応用にエセ忍者もヒヨコに視線を向ける。

「ピヨピヨ【ヒヨコがお出かけ中にお姉さん達を拾ったので、ヒヨコの拠点であるこの街に連れて来たのだ】」

「と、言う訳なんだけど」

 三つ編みお姉さんはヒヨコの言葉に同意する。

「そういえば高城殿も二人が光の精霊の加護を受けていないと知り、死んでいるかもしれないと心配していたでござる」

「いや、割と光十字教の偉い人に殺されかけてるんだけどね」

 殺されかけているというか玩具にされかけていたというのが正しいが。

「レイプ未遂だったし」

「あの、未遂じゃないです、私」

 三つ編みお姉さんは思い出したようにぼやき、俯いて泣きそうな顔で癒しお姉さんがぼやく。

「ピヨピヨ【か弱い女性を保護するヒヨコです】」

 すると幼竜姿になったトルテはヒヨコの頭に着地する。フェルナント君はそれを見て慌ててヒヨコの背中に乗る。

 おい、何故お前らはヒヨコに乗りたがるのだ?


「だ、大丈夫なんでござるか?後で食べられたりとか。魔王の国ですぞ?」

 と尋ねるエセ忍者に異世界お姉さんズは小首をかしげる。


 町の外の山賊に袋叩きにされた剣術お姉さん、光十字教の枢機卿に強姦未遂された三つ編みお姉さん、クラスメイトや冒険者たちに慰み者にされた癒しお姉さん。

 治安が悪く、為政者もロクな人間がおらず、身近な人間も信用できない。そんな彼女たちを保護しているのに


『なるほど他竜(ヒト)の母ちゃんを魔王呼ばわりとは太い忍者なのだ』

「ピヨピヨ【見た目通り太い忍者だぞ?】」

 体脂肪率高めな感じの忍者だ。勇者シュンスケの書曰く、メタボリックシンドローム、略して『メタボ』という奴だろう。

「きゅうきゅう【そもそも国政に関与してないのに母ちゃん達の国と呼ぶのはちょっと首をひねるところなのよね】」

「ピヨピヨ【言われてみれば!?ドラゴンの女王さん達は祀り上げられていても国政には不参加だ】」

「きゅうきゅう【母ちゃん達は面倒ごとは嫌いなのよね。アタシは知ってしまったのよね。実は父ちゃんの方が仕事してた。ちょっとだけ見直したのよね、ちょっとだけだけど】」

「ピヨピヨ【イグッちゃん、どんだけ侮られてんだよ………?】」

 飲み友達でもあるイグッちゃんが子供たちに侮られているのは知っていたが、あれで割と良い奴だぞ?過去に世界を滅ぼしかけたので、滅ぼそうと思えば気に入らない奴らなど皆殺しにすることなどたやすいのに、その力を使う事はないのだから。

 ヒヨコも最近、自分の力がちょっと強すぎるかな~、と思ってきている。普通に、ヒヨコ能力を覚醒させたらあっという間に町が火の海だ。

 残念ながらヒヨコと違って人間たちは火の海では泳げない。


「あ、あの、ヒトの母ちゃんを魔王呼ばわりって………」

 おずおずとエセ忍者君がヒヨコ達に視線を向ける。


「こちら、ニクス竜王国の竜王ニクス陛下のご子息、グラキエス君」

「こちら、セントランド共和国の竜王フリュガ陛下のご令嬢、トニトルテちゃん」

 三つ編みお姉さんと癒しお姉さんがグラキエス君とトルテを紹介する。

「ピヨピヨヨピーヨヨ!ピヨピヨヨピーヨヨ!ピヨッピヨッピヨッピーヨ!【そしてわれらピヨドラバスターズの隊長!赤い彗星こと、ヒヨコのピヨちゃん!】」

「いや、何でヒヨコがリーダーなんでござるか?」

「ピヨピヨ【認めたくないものだな、ヒヨコ自身の若さゆえの過ちというものを】」

「た、確かに赤い彗星でござるよ!?」

「いや、何でこのヒヨコ、ガン●ム知ってんのよ」

 何故かエセ忍者は衝撃を受け、妙なツッコミをしてくる剣術お姉さんだった。


「きゅうきゅう!【ちょっと待つのよね!いつからヒヨコがリーダーなのよね!】」

『その点については僕も見過ごせないのだ』

 まさかトルテだけでなく、グラキエス君までもヒヨコのリーダーに異を唱えるというのか!?

「ピヨヨッ!?【ピヨドラという時点でピヨがメインと考えるのが普通だろう?それに戦隊ものでリーダー、センターポジションは赤!赤いヒヨコで決まりだろう?】」

「きゅうきゅう【ヒヨコ!あんたの色は赤よりもピンク色なのよね!ヒロイン枠なのよね!】」

「ピヨヨーッ!【ヒヨコがヒロイン!?そんな馬鹿な!?】」

 雷が落ちたような衝撃にヒヨコは目の前が真っ白になる。

 言われてみれば赤というよりは桃色だ。最近では頭のアホ毛以外は桃色っぽいと評判。……そんな、ヒヨコは赤くないのか?赤い彗星が桃色に変わるのか?


「いや、そもそもなんでこの異世界に戦隊ものの概念があるでござるか!?マジ、納得いかないでござる」

「きゅうきゅう【帝都のデパートで毎週日曜の朝に子供たちの前で戦隊ものの劇があったのよね】」

『そういえば一度そんなのを見たのだ』

「ピヨピヨ【実は、ヒヨコってば朝の体操で偶に呼ばれて踊っていたのだ】」

「きゅうきゅう【待った!?アタシは聞いてないのよね?いつから!?】」

「ピヨピヨ【トルテたちがいなくなった後、エルフの領地で数年学び、帝都に戻ってからヒヨコには数々のオファーがあったのだ。ヒヨコグッズがたくさん売れ、ヒヨコは帝都の人気者。デパートではヒヨコが踊ってからヒーローショーが始まるのが定番だ!最近ではヒヨコの着ぐるみを着た人間がゆるキャラとしてデビューし、あちこちでヒヨコが量産!】」

「きゅう~【帝都がヒヨコで汚れちゃったのよね~】」

 トルテは愕然としていた。


『そしてピヨちゃんが偽物にとってかわられて、ここに流れ着いたという事なのだ』

「きゅうきゅう【ヒヨコ、可哀そうなのよね。悲しみが癒えるまでここにいると良いのよね】」

 トルテはヒヨコの頭の上に乗ったまま、憐れむようにポムポムと頭を優しくたたくのだった。

「ピヨヨーッ!?【そ、そんな事実はないぞ!?】」

 ヒヨコの話を盛りに盛ってみたのに、まさかグラキエス君にとんでもないオチを付けられるとは、何て恐ろしいのだ。

 ……だが、まさか………本当に帝都に戻ったら、偽物にとってかわられていたらどうしよう?



「あのー、岬さん、鈴木さん」

 ちょいっと手を上げて癒しお姉さんが剣術お姉さん達に尋ねる。

「何か?」

「三雲君ってスパイなんじゃないの?」


 ………


 異世界お姉さんズはジトリとした視線をエセ忍者君に向ける。


「たまたまピヨちゃんたちの罠にはまったけど、ニクス竜王国まで斥候として侵入していた可能性はあるね」

 三つ編みお姉さんは一考の余地ありとうなずく。

「いやいや、本当に逃げたでござる。戦う意思はないでござる。魔王の町なので様子を見ようと思って来ていたでござるが、どうみても魔王の町に見えないくらい活気があってむしろ驚いていたでござるし」

「そもそも魔王の町に潜入しようとしているんじゃない?」

「足ぬけしたでござるよ。信じてほしいでござる!」

 剣術お姉さんが目を細めるが、エセ忍者は必死に土下座で説得を試みていた。


「足ぬけすると光の精霊の加護が無くなるけど……」

「そ、そうだ。それでござるよ。せかっく付与されていた補助魔法スキルとかなくなってしまったでござるからな。魔力とかも全然分からなくなって困っているでござる。足ぬけしたせいで手に入れたスキルがなくなったでござるからな」

「馬鹿め、騙されると思うなよ!ヒヨコやグラキエス君たちはスキル構成やレベルをも見ることができる力を持っているのよ!さあ、ヒヨコよ!奴のスキルや能力を読み上げてやって!」

「ピヨピヨピヨ~【アイアイサ~】」

 剣術お姉さんはどや顔でヒヨコに仕事を振る。なので、ヒヨコは神眼を発動させてエセ忍者のレベルやスキルを読み上げる。


「ピヨピヨ【氏名、三雲大輔。年齢17歳。レベル33。性別男。HP510、MP154、STR149、AGI395…】

「はい、ダウト!ほら、明らかに光の精霊の恩恵あるじゃない。何よ、HP510とかAGI395とか。私らなんてHPを除けば大概2桁よ!」

 剣術お姉さんはビシッとエセ忍者君に指を突き付けて断じる。


「ピヨピヨ【しかし、光の精霊はこんな異常なスキルを渡すことができるのか?ヒヨコの見た今までの異世界人達のスキルは最大でもLV5だったが、こっちの異世界人はマジでやばいぞ?明らかに忍者スキルを有している。光の精霊恐るべし】」

「いやいや、それ恩恵ではないでござる。元々の能力でござるよ!」

 ブンブンと首を横に振ってエセ忍者は訴えるのだった。

「そんなわけがあるか!」

「嘘はいけないと思うよ」

「中二病…」

 だが、異世界お姉さんズは嘘くさいと明らかに訝しむような視線を向ける。


「ピヨ殿、どうか弁護をしてほしいでござる」

「ピヨピヨ【じゃあ、スキルを読み上げよう。気配消去LV10、殺気LV10、強撃LV8、跳躍LV2、縮地法LV1、流水LV1、計算LV2…………。いや、そういえば称号が光の精霊じゃなく木の精霊の加護に変わっているぞ!?】」

「そ、そこでござる!分かってもらったでござるか!?」

「いやいやいやいやいや、もっとおかしいから!何なの、今の妙なスキル構成は!?縮地法ってヒヨコや師匠以外に使い手がいないような希少スキルでしょ?」

「ピヨピヨ【普通の人は高速移動LV5まで行けば良いが、縮地法は忍び足と高速移動をLV10まで極めねばならぬからな。使い手はつまるところ足遣いに特化したヒヨコ級の使い手だぞ?………はっ!?まさかエセ忍者君はエセ忍者ではなく、モノホンの忍者!?】」

「し、忍びは忍ばなければならないでござるが、命には代えられないでござる。実は三雲家は忍者の家系でござるよ」

「いや、……ないでしょ?」

 即座に剣術お姉さんが突っ込む。


……


「え、ええと、確かに甲賀忍者といえば三雲家だけど。そういう設定を考える中二病なんだね」

 と三つ編みお姉さんがフォローする。……いや、フォローしてるのか?


「拙者、忍者の家で生まれ、忍んで生きていたでござる。趣味を兼ねてオタクに擬態していると誰も気づかないでござるし」

「むしろ痛いオタクにしか見えないよ!?」

 三つ編みお姉さんはかなりきついツッコミを入れてくる。

「ふふふ、そうやって婦女子になじられるのがご褒美なので、割と忍者は素晴らしいでござる」

「「「最悪だ」」」

 異世界お姉さんズは3人で思いっきり顔を歪めてドン引きしていた。

「ピヨピヨ………、ピヨヨーッ!【なるほど、……さすがは異世界!本物の忍者が実在するとは!きっと魔法少女や風水とか陰陽術とか使う人もいるに違いない。500年前の勇者が語った嘘くさい話もきっと実存しているのだろう!ヒヨコは感動した!】」

「きゅうきゅう【さすが摩訶不思議異世界なのよね。忍者は実在したのよね】」

『異世界、恐ろしいのだ』


「いやいやいやいや、あれを見て、異世界(ウチら)を判断しないでよ!」

「イレギュラーすぎるよ!」

「地球はあんなのが跋扈している所じゃないよ!?」

 剣術お姉さん、癒しお姉さん、三つ編みお姉さんの三人が一生懸命訴える。


 そうなのだろうか?

「拙者、光十字教から逃げてきたので助けてほしいでござる。光の精霊の恩恵が失われているという事はきっと裏切者扱いでござるよ。拙者は戦いたくないだけでござるよ!?」

 言われてみれば癒しお姉さんも治癒魔法が使えなくなっていて、光の精霊の加護なんてものは存在してなかった。火の精霊の加護になっていたのはおそらくヒヨコが近くにいた事が原因だろう。

 あの場にはトルテやグラキエス君もいたから氷の精霊や雷の精霊の可能性もあったが……。どうやらヒヨコの方が火の精霊の熱い信者が多いのだろう。

 火の精霊だけに、熱狂的で熱心なヒヨコ信者な精霊に違いない。


「そうだ。戦いたくないって、戦う予定があるの?戦争に行く途中に離脱したとか何とか言ってたわよね?」

 剣術お姉さんが忍者の胸ぐらをつかんで問いただす。


 すると奥の方からゆっくりと師匠がやって来る。

「忍者が捕まったと聞いて見に来たのですが………忍者にしては丸いですねぇ」

「ピヨピヨ【師匠。師匠は忍者に会った事があるのか?】

「前世で会った事がありますね。私の隊もそういう人がいましたし。まあ、見分けるのは困難です。黒装束のイメージがあったのですが、どちらかというとただの町民でしたね。幕府内に入った先生から聞いたのですが、ただの諜報部隊なので黒装束の格好していたら明らかに怪しいのでむしろばれるらしいです。黒装束は創作らしいですよ?」

「ピヨヨ~【そんな~】」

「きゅうきゅう【夢も希望もありゃしないのよね】」

『ピヨちゃんが言うようにエセ忍者というのは本当だったのだ!?』


 ガッカリしたヒヨコ達ピヨドラバスターズはしょんぼりした様子で肩を並べて遠くを眺める。


「とはいえ、私も忍者に詳しいわけではないですからね。あと、先ほど話していた事ですが、戦争がはじまりました。オーウェンズ公爵領に北海王国が戦争を仕掛けてきたという情報がありました」

「戦争……」


 顔色を悪くするのは三つ編みお姉さんだった。


「おや?拙者が聞いた話では竜王国が攻め込んで駐留していると聞いていたでござるが」

 エセ忍者君が尋ねると、異世界お姉さんズは首をひねる。そして異世界人達が師匠へ疑惑の目を向けるが……


「200年前、オーウェンズ公爵は北海王国の辺境伯で、北海王国で革命に失敗して我が国に下った場所です。光十字教から離反し、私の妹の家と婚姻してウチの公爵になっていますね」

「ピヨヨ~【大体、師匠の血縁は妹さんの末裔なのだな?】」

「まあ、そうとも言えますね。私の末裔は滅んでますから。リトレ近隣の貴族は元々北海王国時代のオーウェンズ家の寄子だったから、付き合いが残っていてね。光十字教は教団への賄賂で権力を持つ。関所の徴税が大きくなり、どうも儲からないから商人は自然と北海王国より関所を廃したうちで活動することが多くなる。北海王国からすると貴族の離反は領土侵略だと思っていても不思議ではありませんね」

「あー。そういう事かー」

 三つ編みお姉さんは納得するようにぼやく。

「どういう事?」

 剣術お姉さんと癒しお姉さんは首を傾げる。

「織田信長なんかがとった政策で、関所を廃止して景気を上げて、他国以上の経済力を上げることで鉄砲をそろえたんだよ。税金や入場料みたいな余計な金がかからない方が商人は移動し易いでしょう?」

「へ、へー」

 三つ編みお姉さんはとっても賢いようだ。

 そういえば帝国も貴族たちは町に入るときの入場料を求めなかったな。アルブム王国なんかは各貴族たちが町に入るときの入場料なんか取っていたが……。


「何、じゃあ、逆恨みなの?」

「逆恨みとは言い切れませんね。自国を切り崩そうとする敵国ですから。国家間の問題に正義なんてありませんよ」

 師匠は淡々と語る。自分達が敵国にとって悪なのだという話だ。

「どちらも自国の言葉が正しいと信じ、自国の政策や信仰こそが素晴らしいと考え、隣り合う領地の人間が殺しあう。純粋な戦争だ。北海王国は自国を切り崩そうとする敵国、それが竜王国という認識なのでしょうね」

「……な、なるほど」

「戦争なんてみんなそういうものですよ。殺し合いの行くつく先の世界を見た陛下は、それを嫌ってはいますが、僕は別に戦を否定はしません。暴力でも蹴りを付けなければ話が終わらない事もあります。暴力でしか会話できない事は悲しいですが、相手に嫌なことを押し付けるのだから、暴力が最終手段というのは仕方ないことです。そして殺し合いになれば、悲惨なことになる」

「ピヨヨ~【戦争に加担したいが、ヒヨコ達は過剰戦力だし戦うのは厳しいぞ?】」

「そうだね。ただピヨ殿は後方で支援してほしい。ピヨ殿は神聖魔法のマスターですから。避難する民を後方で守る仕事をして欲しい。戦うのは我が国の仕事ですから」

「そうなんですか?この国の為にも戦う必要があるのではないんですか?」

 剣術お姉さんは不思議そうにヒヨコ達ピヨドラを指さして尋ねる。


「私は政治する能力なんてありませんからね。元々この国の支配者になったのもニクス様の意思を伝えるためです。貴族が民を虐げれば貴族を切るし、敵が民を殺すなら私は敵を切る。私は民の為の剣であり、それ以外でもそれ以下でもないよ」

「……さすが師匠」

 剣術お姉さんは感銘を受けたように師匠を見上げていた。

「ピヨピヨ【さすがは師匠。ヒヨコもかくありたいものですな。そこに痺れる憧れる】」

「それに、ピヨ殿は過剰戦力ですからね。私以上に危なっかしい。殿下も民を助けてあげてください」

『まあ、あまり暴れると母ちゃんに怒られるのだ。皆の役に立ちたいけど、そこら辺は我慢するのだ。人間には手を出さず何か役に立ってあげたいのだ』

「きゅうきゅう【つまり、高みの見物なのよね】」

「というか過剰戦力って……師匠はともかくヒヨコも?」

「いや、ピヨ殿は私などよりもはるかにこと対軍戦闘においては戦闘能力は高い。人間になって剣術を使って私に近い力を持っているが、ヒヨコ姿になると別次元だ。ニクス様程とは言わないが、器用さや技術はそれ以上だからね」

「そうなの?」

 訝しそうにヒヨコを見る剣術お姉さん。やはりというか、ヒヨコを侮っていた。


「ピヨピヨ【ヒヨコは魔力感知と魔力操作を極めているからな。大陸内なら遠方の都市に向けて、都市1つをピンポイントで消し飛ばす爆撃の炎、<爆炎弾吐息(ミサイルブレス)>を吐けるぞ。師匠の言う過剰戦力というのはそういう事だ】」

「ヒヨコICBM?」

「ヒヨコテポドン?」

 三つ編みお姉さんと癒しお姉さんは疑問を持つように首を傾げながら訪ねて来る。


「ピヨピヨ【しかしヒヨコが暴れると一般市民も巻き沿いになる。ヒヨコの炎に救いの手はないのだ】」

「きゅうきゅう【ヒヨコの手羽先は救われない?】」

『ピヨちゃんが炎熱耐性さえなければとても美味しそうな感じなのだ』

「ピヨヨーッ【だから、貴様らは直にヒヨコを食肉のように見るな!】」


 ヒヨコは怒り、二羽のドラゴンに攻撃を仕掛けようとすると、トルテとグラキエス君は慌てて逃げだす。


「私は光十字教を警戒する為、ここを離れるのは悪手ですが、殿下がピヨ殿と一緒に行ってくれれば多くの民が助かるでしょう」

 きゅうきゅう逃げ回るグラキエス君とトルテを眺めながら師匠がぼやく。


「で、でも戦争って……」

 三つ編みお姉さんはとっても心配そうだった。


「高城殿がこの国を攻めてくるでござるよ。北海王国の王女と騎士と共に国境付近に移動していたでござる。拙者、このままだとまずいと思って逃げたでござるからな」

「……そんなっ!?」

「何でまた……」

 戦争に参加する友人の話を聞いて驚きを露にする三つ編みお姉さんと剣術お姉さん。

「情報をまとめているが、光十字教区において、ニクス様は魔王であり、魔王の国が侵略してくるといえば、まあ戦わなければ、という話になるのはおかしくないですしね」

「は、話し合えばわかりますよ!」

「君たちはそうだろうが、北海王国と我が国の間で話し合う事は困難だよ。君達の友人がそこに巻き込まれたのは不運でしかないですね」


「フハハハハッ!そんな時は僕にお任せ!勇者たる僕がさっさとそいつを叩きのめして戦場からリタイヤさせてあげればいいんだな?あわよくば確保して捕虜にしよう!」

「殿下。殿下の剣は伝説の勇者が持っていた神殺しの聖剣なので、人との戦いに持ち出してほしくないのですが」

 師匠は呆れるようにフェルナント君に突っ込む。そう、フェルナント君の持っている剣はかつて帝国からルークが貰い、アルブム王国に奪われ、その後戦争でヒヨコが奪い返したあの聖剣だ。あの後、帝国が宝物庫ではなく、聖剣の台座の上に刺して飾ってあったのだ。手にできる者は勇者である、みたいな逸話になぞらえていたのだが、しれっとフェルナント君が抜いて持ってきてしまったのだった。


「さすがに9歳児にボコられる高城の姿を見たくはないね」

「想像もつかないけど、フェルナント君、人間離れしているからね」


 そういえば二人は空からフェルナント君が山賊相手に大立ち回りしたのを見ていたな。それにフェルナント君は師匠と修行をしてるから、剣術お姉さんより強いのもよく知っている。

 とはいえ、フェルナント君ではまだまだ上級者相手には届くまい。ただ負ける姿も想像がつかない。

 真の勇者とはそういうものだからだ。

 光精霊の加護でもらったチート能力持ちの異世界人達と異なり、真の勇者は実績により女神からもらうチート能力持ちである。

 元の人間としての能力に加え与えられるチートはそれを補強するものでもある。


「ピヨピヨ【トルテもグラキエス君も空に逃げるのは卑怯だぞ】

 二羽は翼を広げて空に逃げていた。追いかけっこはこれで終了となる。

「きゅうきゅう【アタシも高みの見物に行くのよね?】」

『僕は民を慰撫しに行くのだ。いざとなったらオーウェンズ公爵がいなくなっても僕が守るのだ』

「役に立たないドラゴン二羽が何しに行くのか?戦闘に加わらないと邪魔ものだと思うが?」

「きゅうきゅう【たくさん魔物を狩って食事を与えてやるのよね?】」

『ピヨちゃんの手羽先は僕が守るのだ』

「ピヨヨーッ!【ヒヨコの手羽先は別にうみゃ~という訳ではないぞ!?】」


 かくして戦争は始まるらしい。ヒヨコが二羽のドラゴンに食料にされるのが早いか、この国が攻められるのが早いか、どちらかは知らぬが。

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