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2章1話 ヒヨコの日常 IN ナヨリ

 大北海大陸ニクス竜王国ナヨリ市にて、ヒヨコは人間姿になって、道場で師匠と剣術お姉さん、フェルナント君を加えた4人で剣術の稽古をしていた。。


「ぬう……ピヨちゃん、恐るべし」

 フェルナント君は一生懸命ヒヨコに打ち込んでくるが、ヒヨコにはとんと掠らぬ。ヒヨコの足さばきは巧みで緩急織り交ぜてフェルナント君を翻弄する。

 人間としての体形的にはほぼ同等だが、スキルが段違いなのである。こう言ってはあれだが、ドラゴン達は人間になることで全能力が落ちるしドラゴン固有のスキルが失われてしまうが、ヒヨコの場合は魔物としての固有スキルは少ないので、人間姿の方が身体能力的には高いステータスもいくつか存在している。逆に魔力系スキルはヒヨコ姿が圧倒的だ。

 どうやらヒヨコは天性の魔法使いらしい。走り屋じゃなかったのか!?峠最速のヒヨコ社製GR145と言えばピヨちゃんだろ?


「つああああっ」

 次々と打ち込んでくるフェルナント君。ヒヨコはパシパシと木刀で木刀による攻撃を叩き落として防御する。さらに打ち込んで攻めて攻めて攻めまくるフェルナント君。勇者特有の前へ前へと出てくる戦い方だ。

 思えば後輩君や先輩君もこういうタイプだ。だが、ヒヨコはフェルナント君のレベルであれば受け止めようではないか。

 3分ほど打たせて疲れが見えた一瞬のスキを突き、足元を蹴っ飛ばして地面に転ばせる。

 そしてヒヨコはフェルナント君の首元にピタリと木刀を置く。

 勝負ありだ。


「くうっ……悔しい」

 ムウウッと頬を膨らませるフェルナント君であるが、まだまだヒヨコには及ばない。10年前ならそのまま押し切られたかもしれないが、今のヒヨコはそんじょそこらのヒヨコではないのだ。


 その一方で剣術お姉さんは師匠と戦っていた。

「はあっ!」

「それは不用心ですよ」

 疲れが来たのだろう、剣術お姉さんは特攻しようとするが、師匠は大きくよけてカウンターで剣術お姉さんの件を打ち据えて勝利する。

「まいりました…」

 剣術お姉さんは悔しそうにうめくのだった。

 あまりにもレベルが違い過ぎて、一瞬の隙が勝敗を分けてしまう。


 師匠は金髪の髪をかき上げつつ、手拭いで額を拭く。すると自分の髪がちりちりと切れて飛んでいるのを見て目を丸くする。

「ちょっとだけ出ていたぞ?」

 ヒヨコは師匠の方に向かい遠くで汗を拭いている剣術お姉さんを一瞥する。


「そうですね。彼女の成長の早さは恐ろしいものがあります。魔力適正もそこそこありそうですし、近い内に届くかもしれませんね」

「異世界人達は光の精霊の恩恵をもらって無条件で剣術スキルLV5を手にしているが、もしかしたら自力で剣術スキルLV5に届くやもしれぬ」

「あのステータスでこの技術ですからね。………。素で……ピヨ殿たちと並ぶかもしれませんよ」

 師匠はフェルナント君を一瞥してから口にする。

 ピヨ殿達、つまりヒヨコとフェルナント君の共通点、真の勇者という肩書だ。

 たしかに、あの肩書はレベルが低くスキルの高いものがつきやすい。ステータスの低さを技術や戦術で覆す必要があるからだ。ただ、それはあくまでも確率に過ぎない。

 今世のヒヨコも前世のヒヨコも偶然生き延びただけだ。天文学的確率が二度連続して起きているといえるだろう。そうそうないことだ。レッドグリズリーの群れを弱い人間の身の上で戦って倒すのも、三万の軍勢をヒヨコ一羽で戦うのも、生き残ることは困難だ。

 ヒヨコが生まれるよりずいぶんと昔、帝国では人工『真の勇者』を作ろうとし、かなり非人道的な事をしたことがあったらしい。1万以上の人間を攫い、勇者にしようと死地に送ったが、生み出すことはできなかったそうだ。


「確かに危ういところはあるぞ。だがそういうシチュエーションが来たら十中八九死ぬと思うが…。確かに強い力をつけるかもしれないけど、それは博打に近いからなぁ」

「そうですね。そうならないよう気を付けましょうか」

 ヒヨコと師匠は二人で話し合う。

 剣術お姉さんの才覚は目を見張るものがある。それが逆に枷となり早死にしてしまうのではないかとヒヨコ達は愚考するのだった。


「よーし、次はお姉ちゃん、俺と一本やろう!女には負けんぞ!」

「良いわよ」

 剣術お姉さんはフェルナント君の誘いに乗って木刀を手に取る。


「女には負けんって、母ちゃんに勝った事ないだろ」

「ピヨちゃん、母上と女は別だ!」

「ヒヨコの剣聖奥さんへのチクリ手帳にまた新しい一節が書き加わることとなったのだった」

「それは反則だよぉ!」

 涙目で訴えるフェルナント君だった。母親が一番怖いのはフェルナント君のおうちでは常識である。


「こっちから行くわよ」

 ギュッと木刀を握って剣術お姉さんはフェルナント君へ打ち込む。フェルナント君は素早くかわしてカウンターを狙うがすぐに剣術お姉さんは防御する。

 カコカコと木刀がぶつかり合う。フェルナント君は身体能力に分があるので、どっしり構えて受けて立つのだが、元々先の先を取るタイプなので、押された状態で戦うのは苦手なのだ。

 割と駆け引きが上手いのが剣術お姉さんである。先に攻めたいフェルナント君の思いを逆手にとって踏み出す空気を一歩早く攻撃を仕掛けることで抑え込むのだ。

 あの術理は10年前のヒヨコにはなかったものだ。もしもあれば後輩君に後れを取ることはなかっただろう。剣術お姉さんは異世界の技術にここの技術を加えレベル4を自力で到達している猛者だ。

 ヒヨコ達のないものを持っていてもおかしくはない。


「くっ、このっ、そいや!」

 フェルナント君はやり辛そうに後手に回ってしまうが、最後は手数と正確な乱打によって剣術お姉さんを押し込みに行く。

「おりゃーっ!」

「くっ」

 剣術お姉さんもそこで引きながらも逆転を狙うが、それがちょっと不用意な飛び出しになってしまう。

 前に踏み込む剣術お姉さんはそれでも鋭い踏み足をける。

「もらった!」

 フェルナント君は胴を薙いで勝利する。


「くっ……剣道部じゃ負けなしだったのに、こっちの道場では勝てる相手がいない…」

 ガックリとする剣術お姉さん。

「もっと魔力を剣につたわせるなり、剣と魔力の制御が次のステップだからな。この壁は魔力制御初心者の剣術お姉さんにはちょっと厳しいかもしれない」

 ヒヨコは負けっぱなしの哀れな剣術お姉さんの現状を分析する。

「分かっているけどね。くぅ、でも9歳児に負けるとか割と屈辱なんですけど」

「安心して良いぞ。この9歳児はこの大陸では七光剣に匹敵する。フェルナント君はさらに人化の法をマスターしたヒヨコや師匠、母親にも手ほどきを受けている。この世界に10人といない剣聖の称号を持つ3人に手ほどきを受けてるなど奇跡に近い境遇だからな」

「七光剣ってあのヒヨコに軽くあしらわれたけど、あのめちゃくちゃ強そうな人だよね。あの人と同格とはとても思えないけど」

「えー、酷いなぁ」

 フェルナント君は七光剣より弱そうといわれて憤慨する。

「とはいえ、レベル5を越えると剣術スキルはいかに魔力を自在に剣に伝わらせ、剣を自在に使えるかがスキルアップの焦点だからな。まずスキルレベル5の壁を越えるのが良いと思うぞ」

「それが難しいっての。魔力なんてモヤっとしてよくわからないし。それを伝わらせるとか言われてもさー」

「確かにそうだな。ヒヨコは魔力操作を極めているからその辺はあまり苦にしたことがないのだ。だが前例として気合でどうにかなってしまうのだ。何故なら魔力を感じる事の出来ない獣人族はそれができるからだ。理屈が無理なら気合でどうにかする、剣術お姉さんはそっちの方が向いていそうだぞ」

「人を脳筋みたいに言わないでくれないかな?」

 ヒヨコの言葉に剣術お姉さんは膨れっ面で訴える。


「「「割と脳筋だと思うけど」」」

 ヒヨコと一緒にフェルナント君と師匠も突っ込み、剣術お姉さんは一人で打ちひしがれることとなるのだった。



***



 朝の稽古を終えてヒヨコは人間を辞めてヒヨコ姿に戻る。

 人間を辞める、何やら背徳的な響きである。

 それはそれとして、皆で汗を拭いてから道場を出て行く。師匠は自分の家へ行くのでそのまま別れヒヨコ、フェルナント君、剣術お姉さんの三人はヒヨコの部屋へと向かう。

 これからヒヨコの魔法教室が始まるからだ。


「くそう、いつかヒヨコを打ち負かしてやる」

「打倒ピヨちゃん!」

 何か剣術お姉さんに加えてフェルナント君までヒヨコに対抗意識を持つのは構わんが、キャリアが違うと思うのだが。

「ピヨピヨ【まあ、君たちがヒヨコに勝つのはかなり困難だと思うぞ】」

「何でよ?」

「ピヨピヨピヨピヨ【身体能力はともかく剣術スキルは体が覚えていたからな。人間になった途端、剣術スキルがカンストしていた。つまり、ヒヨコの剣術スキルはイグッちゃんと互角に渡り合い、悪魔王を倒したモノをそのまま継承している。神殺しの剣術に追いつけるとは思えないぞ。フェルナント君はともかく剣術お姉さんには困難だ】」

「フェルナント君はともかく?」

「ピヨピヨ【フェルナント君は真の勇者称号持ちだからな。あの称号を持つと大きいステータス補正がつく。ヒヨコの前世であるルークはそうして強大な敵と戦い続けて悪魔王に打ち勝ったのだ】」

「どうやって真の勇者になれるの?私も取ったら強くなる?」

「ピヨピヨ【強くはなれるだろうが……。女神から直接聞いている人から教えてもらったが、真の勇者という称号は愚か者への救済称号だ。取得条件は自分より2倍以上強い複数の敵を同じ戦闘で倒すことだ。細かい数字はそれぞれでケースが異なるから分からんが、ルークの時はレッドグリズリー10体ほど倒した時で、ヒヨコの時は3万の人間の軍勢を一羽で戦った時らしい】」

「時らしいって…」

「残念だが記憶にないのだ。ただ、ヒヨコが拾われたちょっと前にヒヨコの流れてきた上流の方で、王国3万の軍勢が一羽のヒヨコに壊滅させられたという話があったらしい。恐らくヒヨコがやったと思われる。勇者の時の記憶が憎き王国への復讐だったのか、それとも仲良くなった獣王国を守るために戦ったのかはヒヨコもとんと知らぬが」

「僕が勇者になったのはヘレントルダンジョンの40層あたりに落ちた時だよ。ピヨちゃんが助けに来てくれなかったら死んでたよー」

「………ダンジョンの40層って……いつ?」

「5歳か6歳のころだったと思うけど…」

「ピヨピヨ【助けに行ったとき、ナイトスケルトンの死骸が20位転がっていたからな。レベル8の6歳児にとっては生還不可能というか100%死ぬシチュだ】」

 というかヒヨコはフェルナント君が生きていたことにびっくりだったがな。

「う~ん、と言われてもね、その何とかダンジョンの40層ってどのレベルか分からないし」

「ピヨピヨ【ヘレントルダンジョンはダンジョンボス自体はフェルナント君のお父さんのパーティが倒したんだが、多くの魔物が住み着いていて駆除しきれていないんだ。400年前にダンジョン攻略ラッシュが始まってから20年前まで人類最高到達地点がダンジョン地下20階くらいだったそうだ。実際、ヒヨコも頼まれて一人で飛び込んだんだが、小さい子供がかなり深い場所に落ちたとか聞いていたので、無残な死体を引き取りに行かねばならないと思っていたほどだ】」

「……ホント、死ぬかと思ったよ」

「ピヨピヨ【いや、普通に死ぬから。という感じでだな、真の勇者称号ってのは死んで当たり前のシチュエーションを知恵と勇気と工夫と幸運が偶々舞い込んで生き延びた者に与えられるんだ。女神様の予想を上回る、神を覆す可能性の称号なんだ。欲しいから手に入れたいと思ってとれるものではないぞ?】」

「そっか………」

 ガッカリと肩を落とす剣術お姉さん。

「ピヨピヨ【だが、別に気を落とすこともない。別に勇者じゃなくても強い人はたくさんいるぞ。基本的に勇者の称号は向こう見ずのバカの称号だし】」

「そういうもの?私としては七光剣に勝てるくらい強くなりたいんだけど。……親友が目の前で凌辱されそうになっているのに手も足も出なかったなんて最悪じゃない。あの借りは絶対に返す」

 剣術お姉さんはこの性格だから、師匠も触れていたが確かに『真の勇者』称号を手に入れる可能性はあると思う。だがあれは運の良さが必要だからおすすめはできない。


 恐らく似たような状況になった人は、この穏やかならぬ世界において、ヒヨコ達の万倍以上はいた筈だ。それでも生き延びた人達だけが勇者となった。

 歴代獣王国に多い可能性があるといわれているのも、あの魔物多くいる森で生活している獣人たちがそういった危機に陥りやすいからだという話も大いに聞く。実際、後輩君、ミーシャ、ステちゃんの父親達も勇者だったそうだ。そういう類の人がたくさん出てきても不思議ではない。むしろそういう人が生き延びて一角の人物になったのだろうと思われる。


「ピヨピヨ【それに前世と今世、二度勇者になったヒヨコから言わせれば、勇者になる人は勝手になると思うぞ。死んでも引けない、逃げたくても逃げれない、生き延びるために必死に戦った結果でしかない。己の信念に基づいて戦い続けて、それが偶然女神さまに認められたかそうでないかの違いでしかない。だから、なろうとなるまいと、やる事なんて何も変わらないのだ。やり続ければなるかもしれないけど、結局のところ自分の理想を貫けるならそれで良いではないか】」

 つまり、相手が誰でも自分と貫いて生きていけば結果的に勇者になるかもしれないが、別にならなくても自分を貫いて生きていけるなら何も問題ないのだ。

 とはいえ、その言葉にストンと剣術お姉さんは腑に落ちたようだ。

「なるほど。言われてみればそうよね」

 ヒヨコの言葉に心震わせるがよい。ピヨピヨ。

「確かに向こう見ずのバカの称号よね」

「ピヨヨーッ!」

「僕らを見て言わないでほしいんだけど!?」

 剣術お姉さんはヒヨコとフェルナント君に対して呆れた視線を向けてぼやくのだった。




***




 そしてその日のお昼から魔法講座が行われる。

 ヒヨコの部屋の簡易黒板を置いてヒヨコが講義をする。参加者はフェルナント君、モニちゃん、トルテ、グラキエス君、剣術お姉さん、三つ編みお姉さん、治癒お姉さんの7名だ。

 ちなみに、トルテを抱えていた幼女は使節団と一緒に帰ってしまった。トルテはしばらくここで遊んでいくらしい。


 ヒヨコは真面目に講義をしていた。

 黒板に人間の概略図を描いて、翼でパタパタと黒板を叩く。

「ピヨピヨ【ここで重要なのが魔力の流れだ。神聖魔法は体のどこを治すべきか、どういう形にすべきか、細胞をどうやって活性化させるか、という様々な観点が必要だぞ】」

「はい、ピヨちゃん。でも、私、神聖魔法LV5を使えたけど、その時はただ唱えるだけだったんだけど?」

「ピヨピヨ【それが謎なんだ。精霊の恩恵で力を水増しされるなど普通はあり得ないと思うが、実際にはレベルがあるという事は、術理の理解さえあれば使える筈。だが、術理の理解も能力もないのに使えるというのがおかしい。精霊達が代わりに構成していたんじゃないかとヒヨコは愚考する?】」

「精霊って魔法を使えるの?」

「ピヨピヨ【というか魔法そのものって感じだな。ヒヨコはこの大陸に来て火魔法が使いやすくなったし、ブレスの効果も格段に上がっている。でも代わりに構成を肩代わりしてもらう感じはないのだが………そもそもヒヨコは火魔法を極めているので肩代わりなんてしてもらう必要もない。むしろ精霊達よりも上手いくらいだからな。それに神聖魔法は女神さまの領分だって聞いていた。精霊たちがそんな役割を担えるだろうか?】

 ヒヨコもその辺はよくわからない。

 光の精霊たちがフォローするにしても火術士、風術士などもいたという。光の精霊というのは万能なのだろうか?


『母ちゃんが言うには光や闇の精霊自体が400年前位にいつの間にか存在していたらしいのだ。そういうものだと思って受け入れていたし、母ちゃんとて世界のすべてを知っているわけではないから分からないけど、神格の株分けされた存在かもしれないと言っていたのだ』

 とグラキエス君は説明する。

「ピヨピヨ【あるいは新しい神格保持者か】」

『その意見については僕も同意なのだ』

「新しい神格保持者って?」

「ピヨピヨ【この世界は神が生まれることもあるらしいぞ。例えばヒヨコの飲み友でもあるイグッちゃんはこの世界を滅ぼしかけて破壊神の神格を得てしまったらしい。青竜女王さんも救世の神として神格を得ている。人々の願いや祈りによって神格を得る事もあるらしい。一般人でも神になるかもしれぬという事だ。まあ、異世界人に言っても理解できぬかもしれないが】」

「…ああ、なるほど。大魔神社みたいなものか」

 ポムと手を打つ剣術お姉さんだが、

「百合ちゃん、せめて藤原道真みたいって言ってよ!」

 三つ編みお姉さんが全力で突っ込む。

「日本でも、その、歴史的な偉人が神様のようにまつられることもあるけど、そういう事?」

 剣術お姉さんは訪ねてくる。たぶん似たようなことなのだろうとヒヨコは頷く。

「ピヨピヨ【よくわからんがそういう事だ。まあ、イグッちゃんや青竜女王さんは生きているから、現竜神(あらひとがみ)みたいなものだけどな。やがてヒヨコ神社ができるだろう】」

『健康ダンスの神様なのだ?ピヨちゃんの像を竜社の端に作れば完璧なのだ』

「ピヨヨ!?【それでは副祭神扱いではないか!?】」

 そんな事を言うとグラキエス君も一緒に祀るぞ?


「はい、ピヨちゃん。水魔法以外にも覚えられないかな?」

 次に挙手をするのは三つ編みお姉さんだった。

「ピヨピヨ【もちろん、覚える事はできる。この大陸はスペシャリスト教育だし、うちのフェルナント君も風魔法を得意としているが他の魔法もそこそこ習得しているぞ。まあ魔力制御に難があるから今一だが。風魔法は数少ない魔力ごり押しで作れる魔法だからな】」

 形がないから無理やり形を作ろうと魔力で凝縮する為、風魔法はほぼ唯一の魔力ごり押しで極められる魔法だ。LV10に達して賢者の称号を手に入れたフェルナント君であるが、賢者の称号を与える必要性はないのではと考えてしまう。


「私はできれば神聖魔法とかが使いたいんだけど……」

「ピヨピヨ【確かにそういう人はとっても多い。神聖魔法は人気魔法。ヒヨコも極めているのでローゼンブルクの大学教授さんに色々と聞かれたことがある。魔法は魔力制御と、使う魔法の術理の理解が重要だ。異世界人のお姉さん達は魔力制御が今一だから、まずはそこからだぞ】」

 ヒヨコの説明にきらーんと目を輝かせるのはフェルナント君だった。

「僕、魔力制御とかさっぱりだけど、風魔法は超得意だよ?」

「ピヨピヨ【お前のは勇者称号による魔力上乗せによる物量による強引な制御で、普通の人を同じ枠に入れるな。不真面目な生徒にはさすがのヒヨコも怒るぞ!?】」

「むー、ピヨちゃんが怒った」

 ヒヨコの説教に膨れっ面で返すフェルナント君。この子、素の頭は天才と呼べるレベルで良いのだが、脳筋なのが玉に瑕だ。

「あの、殿下。魔法で四苦八苦している私も、殿下の物量魔法はまじで怒りたいです」

 膨れっ面になるフェルナント君だが、憤慨した様子でモニちゃんが突っ込んでくる。


 そう、魔法とは本来技術でどうにかするものだから、正直納得いかないのはヒヨコも一緒だ。

 思えばラファエラこと残念皇妹さんも賢いのに割と脳筋だった。そして得意魔法は風魔法だ。もしかして皇族独特なのだろうか?

 見た目で言えば一番脳筋そうな山賊の親分が一番理知的なのだから恐れ入る。


「ピヨピヨ【風魔法がLV10になったのに他が全然伸びないのはしょっぱい魔力制御だからだぞ。ヒヨコは腹黒公爵さんにあわす顔がないぞ】」

「むう」

「殿下もちゃんと真面目に勉強しましょう。ピヨちゃんの知識は大魔導師並みですからね」

「ピヨピヨ【そうだぞ】」

「むー、ピヨちゃんはモニカに甘い。ずるい!」

「ピヨヨ~【むしろ、腹黒公爵さんなら、ヒヨコの言う方向性を極めるような人だぞ?なぜ、あの腹黒の息子がこんな奔放な子供が】」

「父さんは母さんによく似てると言っていたよ?ふふん」


 ………


 そういえば若き頃の剣聖皇妹さんはかなりやんちゃだったと聞く。

 とはいえ、ヒヨコ達に会った頃は押しの強さは見られるがずいぶんと落ち着いた道理のわかる人だった。フェルナント君も剣聖皇妹さんのように落ち着いてくれると嬉しいが……。


「ピヨピヨ【それはさておき、まず三つ編みお姉さんは水魔法を覚えて、ある程度魔力操作に慣れてから神聖魔法を覚えると良い。神聖魔法は人に作用させる魔法で、血液循環にも使うから、水を操る魔法はとっても後で役に立つと思うぞ?ヒヨコの知ってる神官さんは高位神聖魔法の使い手で回復要員ではあったが、水魔法で悪神の足止めをしていた、一流の水魔法使いでもあった】」

「人間の9割くらいは水でできてるんだっけ。なるほど。じゃあ、ここで覚えたことがとっても役に立つ可能性はあるんだね?」

「ピヨピヨ」

 ヒヨコは頷く。

 そうなのか、人間は9割が水でできていたのか。異世界人は妙な事に詳しいな。


「ねー、ヒヨコ。私に合いそうな魔法ってないの?」

 剣術お姉さんは不服そうに口にする。

「ピヨピヨ【そういえばまだ魔法の使えない人がいたな。とは言われてもなぁ。他に教えてないのは補助魔法と時空魔法くらいだ。時空魔法をうまく説明できる自信もないし、補助魔法は専門分野外なのだ。フェルナント君のお父さんはそれを極めて空から隕石を降らしたぞ?補助魔法というのは力を操る力魔法なのだが、ヒヨコは目に見えない力魔法というのが理解しきれないのだ】」

「力魔法かぁ」

「ピヨピヨ【どちらにしても魔力感知をもう少し上達する方が先かもしれないな。異世界のお姉さん達は頭が良いのでヒヨコが教えることはあまりないからな。魔力にかかわる部分だけで現象の説明をする必要ないのが楽だ】」

「そこら辺はまあ、魔法はなくても学術的にはこっちの方が上だしなぁ」

 剣術お姉さんの言葉に異世界のお姉さん達もうんうんとうなずく。


 恐るべきことにチキューのニホンという異世界では人体構造を多くの人が把握しているらしい。天気のことも詳しく、電気についても詳しいとか。つまり神聖魔法や天災級の4属性魔法、雷系魔法の知識があるという事だ。

 風魔法を力押しで使うフェルナント君を叱っていたヒヨコであるが、ヒヨコの雷魔法は魔力ごり押し魔法なので他人のことを言えない。

 最近のヒヨコの魔法効率が高いのはエルフの先生たちに魔法を0から教わったからだ。

 彼らと同じ知識が異世界のニホンジンという人たちは知っているという事に関しては驚きが大きい。


「ところでピヨちゃん。ずっと気になってたんだけど」

「ピヨヨ?」

「頭の上であおむけで寝てるトルテちゃんはそのままで良いの?」

「ピヨッ!?【はっ、そういえば10年前はヒヨコの頭の上にずっと乗っていたから、いつものことと思って気にしてなかったぞ!?】」

『ピヨちゃんの頭の上に乗るために人化の法を覚えたのだ。その位は見逃してやってほしいのだ』

「ピヨピヨ【いつかピヨピヨしてやる】」

「そのピヨピヨするってなんなのさ?たまに口にしてるけど」

 剣術お姉さんがヒヨコに突っ込んでくる。

 何でそんな事も分からないのだろうか?

「ピヨピヨ【これはヒヨコの決め台詞。例えるなら調理場にいる三つ編みお姉さんがお客さんに美味しい食事を出した後に「お粗末!」というようなもの】」

「私はそんな少年漫画に出て料理勝負する主人公みたいな決め台詞は持ってないよ!?」

 おや、おかしいぞ?三つ編みお姉さんが慌ててヒヨコの言葉を否定する。言って無かっただろうか?言われてみれば聞いた事がない気がする。

 ではヒヨコはどこからそんなセリフを聞いたのだろうか?


「きゅうきゅう【何、ピヨピヨ言ってるのよね】」

 ヒヨコの頭の上でムクリと起き上がりごしごしと目元をこする。

「ピヨピヨ【勇者ヒヨコの決め台詞的な話をしていたのだ】」


「「「いやいや、そんな話じゃないから!」」」

 異世界人達がこぞって否定する。これではヒヨコがおバカな独り言を言っていたみたいじゃないか。冗談でも辞めてほしい。

「次は忍者ヒヨコの決め台詞を作ろう!」

「殿下、そういう無茶はどうでしょうか?」

 チクリと返すモニちゃんにムウと膨れるフェルナント君。

 確かにヒヨコはある時は勇者ヒヨコ、ある時は忍者ヒヨコであり。そしてある時は(シークレット)(サービス)ヒヨコ。


 そうそう忘れていた。またある時は貨物ヒヨコでもあ……………


 誰が貨物か!?

 おかしいぞ、だれがそんな事を言ったのだ。少なくともこの事実を知るものはいないはずなのに。

 ヒヨコは悪魔に呪われているのかもしれぬ。


 だが、忍者ヒヨコの決め台詞案はフェルナント君にしては良いアイデアだった。ヒヨコもそろそろ新たな決め台詞を使いたいものだろう。


『それはそれとして。そろそろ罠を見に行きたいのだ』

「きゅうきゅう【何か掛かっていると良いのよね】」

「ピヨピヨ【そうだな、勉強会が終わったら、知性派ヒヨコのお株を奪うグラキエス君の罠の結果を見に行くとしよう】」


 実は今朝、ヒヨコ達はグラキエス君の提案でわなを仕掛けてきたのだ。一見ただの枯れ木が落ちているだけに見せかけて、枯れ木を踏むと隠してあったロープが足に巻き付いて300キロくらいの動物でも片足を宙に引っ張り上げるような罠だ。

 トルテをだまして成竜姿で引っ掛けてみたらまんまと巻き上げられたからかなり行けていると思う。

 そのあと、ヒヨコとグラキエス君がこっぴどく報復されたが………。


 この後に、ヒヨコ達は思ったのだ。

 まさかこんなのが引っかかるなんて……と。

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