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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第2部1章 ヒヨコ・ミーツ・ガールズ in 大北海大陸
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1章22話 異世界人たちの動向

 北海王国ルモエ市北部の町にて高城勇斗が滞在していた。


 少しだけ茶色っぽい光を帯びた黒髪に甘い顔立ちをした17歳の少年だ。

「三雲君と倉橋さんが行方不明?」

 勇斗が宿屋の自室で武器の整備をしていたときに部屋にやってきたのは二人の女性だった。

 一人はマリエル・ミルラン=ルモエ、この北海王国の第一王女で勇斗に付いて補佐をしている。長い耳と桃色の髪をした美少女で、歳は悠斗と同じ17歳。北海王国は代々ハーフエルフが王族として支配する国家でもあり、エルフの血をよく引いているのが分かる通り・背は低く細身の体形をしている。

 その横についているのがジャンヌ・アルノワ。マリエルの護衛騎士で次期七光剣の一人と目されており、勇斗に剣を教えている先生でもある。背が高く赤茶色の髪をした美女で、歳も勇斗の一つ上の18歳でアルノワ男爵家の3女であった。


「はい。お二方は書置きを残して去ってしまったようで」


 マリエルは困ったように頬に手を当ててため息をつく。

 ジャンヌが持ってきた紙には


『戦争は勘弁でござる。戦うなんて無理、人のいない場所に逃げるので探さないでほしいでござる。 三雲』


「三雲君……」

 頭を抱える勇斗だった。

 クラスでも地味な存在で長いものに巻かれるタイプだ。1年の頃は沖田君と仲良かった、いわゆるオタクだ。

 彼が戦える人間ではないと分かっていたのにフォローしてなかったのは自分の落ち度だと後悔するのだった。

「勇者様がお気を煩わせる必要はありませんわ。戦争のない国の普通の学生なのに戦えなんて無理にも程があったのですから。悪いことをしてしまいました」

「マリエルは悪くないよ。仕方ないことさ。彼の穴は僕が埋めるから心配しないで」

 勇斗は胸を叩いて笑う。

「勇者様……」

 マリエルはうっとりとした表情をしながらも、慌てて顔を背けてジャンヌの方を見る。

「じゃ、ジャンヌ。あと倉橋様の手紙がこれです」


 ジャンヌの出した紙には

『誰か一方の言葉だけで戦に巻き込まれるなんて冗談じゃない。私は世界を旅します。光十字教に正義があればまた会いましょう 倉橋』

 と疑うようなことが書かれていた。


「我々が信用できなかったのでしょうか?残念でなりません」

「光の精霊の加護はどうなるのでしょう?」

「分かりません」

「三雲君はともかく、いや、三雲君もだけど、何の後ろ盾もなくこの巨大な荒野を女の子一人で生きていけるものだろうか?危なくないかな?」

「お二人にはいざという時の護衛を付けていたのですが、部屋に入ったきり気付けば消えていたと」

「敵が誘拐した可能性は?」

「分かりません。ですが、以前いただいた書面と同じ筆跡だったので本人の意思だった可能性が極めて高いかと……」

「……。まあ、この世界は僕らのいた世界程には情報がないからね。きっと不安だったんだと思うよ。もしも彼らが見つかったら困っているようだったら保護してあげてよ」

「勇斗様はお優しいですね。そのようにいたしましょう」

 マリエルは両手を胸の上で組んで優しい瞳を勇斗へとむける。

 ちなみに、高城勇斗。彼は学年でも有名な天然女たらしで、女子を惚れさせても自覚が一切ない辺りにたちの悪さのある少年でもある。幼馴染の智子が非常に大変な思いをしているのはそのせいでもある。

 中学時代に百合達と知り合ったのも天然たらしが女に勝手に好かれて、その反動で幼馴染の智子が他の女子に睨まれ虐めの対象になりかけたのだ。それを是としない百合達によって智子は救われたというのが正しい関係でもある。

 もしも光の精霊の恩恵を得られるとしたら間違いなく勇者は岬だったと思われる位の評価を周りからされていたのであった。


「だが、勇斗。大丈夫か?あと1週間後には戦争になるかもしれない。剣を持ってまだ1月しかたっていないお前を戦場に立たせるなど心苦しいのだが」

「でもジャンヌさんも立つんでしょう?僕の方が弱いけどジャンヌさんみたいな女性を戦場に立たせて僕が傍観するわけにはいかないよ。二人にはここで生きるために色々と手伝ってもらったしね。恩を返したいんだ」

 キラリと白い歯を輝かせて2人を見つめる。

 あまりにもピュアすぎてマリエルもジャンヌもこの方は私たちが守らねば!みたいな感じで勝手に盛り上がり、ずるずると変な方向に走っていた。


 ………が、本人達は一切合切無自覚だったりする。


 そして、同時にニクス竜王国と北海王国との間で戦争が始まろうとしていた。

 北海王国の軍勢は1万、対してニクス竜王国の三大貴族の一角オーウェンズ公爵が迎え撃つべく動かしている軍勢は7千。

 北海王国の王都ルモエが20万人の都市、オーウェンズ公爵領の領都リトレが10万人の都市であるがゆえにかなりの人数を投入していることが分かる。




***




 そんな頃、どうにか北海王国から逃げる事の出来た倉橋はホッと息をついていた。

「明らかにやばいって。よく高城はあんな連中のいう事を信じられるわよね」

 自分についていた護衛という名の見張りを撒いて自由になってホッと息をつく。

 女一人でこんな土地を歩くことが危ないことを彼女は理解していたが、それでもさっさと離脱したのには理由がある。


「まさか三雲の奴、このタイミングで脱走するとはね。私と高木だけになったら尚更私の監視が厳しくなるから逃げられないじゃない。高城は完全に騙されてるしなぁ。っていうか、あれ、絶対に周りにつけた王女さん達も知らされてないでしょ。国を想っている純粋な王女さんを近づけることで、明らかに不当な侵略戦争を仕掛けるのをごまかしてる感あるし。魔王?魔王に洗脳されている人間?そんなんで騙されるかっての」

 倉橋は地味に見せるための三つ編みを解き、大きく息をつく。


「まずこの世界のことを知らないと日本に帰れそうにないしね。ニクス竜王国に入れないかしら?光十字教以外の国をまず知りたい所ね。5ついる魔王てのが何者かをはっきりさせない事には何もできやしないわ」


 そう言ってルモエ北部の街道から外れて森の中へと入る。

 そこには魔物が跋扈していた。

 体長3メートルはありそうな魔犬(デビルドッグ)の群れが倉橋に目を付ける。


「倉橋真奈美の名において命じる。出でよ、青龍!」

 森の根元から碧い巨大な蛇にも似た龍が現れる。

 森の木々が青い龍に従うように根が伸び魔犬(デビルドッグ)の群れを食い散らかしていく。


「<念動(サイコキネシス)>」

 地面に転がっている石に魔法をかけるが石は全く動かない。

「光の精霊の恩恵は消えてないけど、もらっていたスキルは消えてるわね。言語は義務、義務以外のモノは消せるって事か。やっぱり光の精霊って食えないわね。敵に回るなら力は渡さない、か。まあ、当然よね。学校の80人くらいで反旗を翻されたらまずいのは分かっているんだもの」

 倉橋は苦笑するようにぼやきつつも森の中を歩く。


「ま、……向こうで持っていた力をこっちで使えるのを確認できてよかったわ。見てないところではなかなか出来なかったからね。スキルとして存在してなかったんだもの。失われたかと思ったわ。はてさて、どうしたものかしら…ね」


 そんな事をぼやく。

 彼女はこの世界における異端。

 日本の魔法使い、つまり陰陽師の末裔だった。まさか日本の高校生にそんな存在が混じっているとはだれもが思わない事だった。




***




 そして、もう一人の逃亡者、三雲はといえば……

 ヴィンセント大公領ナヨリ市南部の森を三雲は魔物を避けながら進んでいた。

「ヤバいでござるヤバいでござる。戦争なんて御免でござる。マジでうちの学校の連中何考えてるか意味わからないでござるよ。高城とか何考えてるでござるか?戦争って人を殺すでござるのに。仕事でもないのに人殺しとか勘弁でござる」

 腹に溜め込んだ脂肪をタプタプ揺らしながら、せっせせっせと森の中を人間とは思えない速度で走っていた。Tシャツにチェックの上着とジーンズ、指抜きグローブといった装備はザ・オタクを地で行く少年、それは三雲大輔であった。

「でも裏切って逃げたら早々にスキルが失われたでござる。光の精霊も割とけち臭いでござるな。まあ、……スキルなんて使わなくても問題ないでござるが……」

 懐にある黒曜石製の手裏剣(、、、)を投げつけ通りすがりの魔物を一投の下に殺し、先へと進む。まるでスキルがなくても元々これだけ動けたかのようだった。否、動けるのである。

 彼は現代に隠れ生きる日本の隠密の生き残り。そう、忍者の末裔であった。


 ゴザルとか言っているのは忍者だから使っているのかオタクだから使っているのかは不明であるが、普通の学生に擬態して生存していた変人である。否、見た目は明らかに普通ではなかった。これもまたオタクとして目立たない存在になって生きるという擬態なのである。


 そんな変人が森の中を走って逃げている最中、何かを踏み抜いてしまう。


「ほえ?」


 足にロープが巻き付いて一気に体が空へと吊り上げられてしまう。

「なななななな、何でござるかーっ!?」


「きゅうきゅう【おおー、獲物が捕まったのよね。肥えた上手そうな豚なのよね】」

『僕が図書館で得た知識に間違いはないのだ』

「ピヨピヨ【残念無念。知的枠がグラキエス君に奪われてしまった。ヒヨコこそが知的でいたかったというのに!】」

 すると茂みから三等身のドラゴン2匹と大きなヒヨコが現れるのだった。


「た、助けてほしいでござる。拙者はおいしくないでござるよ?」


 ………


「ピヨピヨ【確かに脂肪が多くて美味しくなさそうだぞ?食べる部位が少ないのは良くない】」

「きゅうきゅう【魔物じゃなくて猪鬼(オーク)だったのよね】」

猪鬼(オーク)は人類だから狩猟禁止なのだ。残念無念なのだ』

 出てきたファンシーなヒヨコとドラゴン達はピヨピヨきゅうきゅうと相談しあう。


 勝手に話し合うファンシーな魔物3匹に三雲は困り、ロープから逃れようと三雲は身代わりの術を使いつつ縄抜けをしてそこから逃れる。このままだと食われないまでもひどい目に合いそうだと思ったからだ。


「きゅうううっ!?【いつの間にか、捕らえた猪鬼(オーク)が消えたのよね!?】」

『すごいのだ!捕らえていたのが丸太に変わってるのだ!』

「ピヨピヨ【しかし、ヒヨコの目はごまかされぬぞ。鳥ならぬ神の瞳を持つヒヨコは逃げた猪鬼(オーク)を捕らえたのだった!】」

 ヒヨコは縮地を使って、逃げた三雲の上に乗って抑え込んでいた。

「な、何という魔物でごるか!?拙者の変わり身の術が!?」

「ピヨヨ!?【変わり身の術!?】」

「きゅうきゅう【ま、まさか……】」

『この猪鬼(オーク)さんは伝説の忍者なのだ!』

「ピヨヨ~?【なんと、忍者さんですか?】」

「きゅうきゅう【モノホンの忍者なのね?偽物の忍者ヒヨコとは格が違うのよね!あたしと握手するのよね】」

「ピヨピヨ【ヒヨコもヒヨコも握手してほしいぞ!そしてヒヨコは忍者になりたい!偽物じゃない本物の忍者ヒヨコになりたい!】」


 というわけのわからない理由で、三雲はヒヨコ達に囚われるのだった。

「異世界恐ろしいでござる!まさか拙者が捕まるなんて!?身代わりの術を使って身をくらませたはずなのになんで逃げられないでござるか!?」


「ピヨピヨ【……知らなかったのか…?大きいヒヨコからは逃げられない…!】

「しかもヒヨコが大魔王みたいなことを言っているでござるよ!?」


 異世界の少年は世にも恐ろしい大魔王みたいなヒヨコと出会うのだった。

 そして、オタクに擬態しているのではなく、本当にオタクであることは間違いなさそうだった。


 こうしてヒヨコ達は9人目の異世界人と接触することになったのだった。




***




 東は光十字教国から逃げ、セントランド共和国の国境に入ったころ。

 突然、支配していたはずのライノドラゴンが暴れだした。

「な、なんだ!?」

 捕まっていたのだが、ライノドラゴンは支配から逃れたようで暴れて東を振り落とされる。


 高い場所から地面に落とされてぐったりしているとライノドラゴンは近くで大暴れし、東は必死になってそこから逃げる。


「ど、どういう事だ?明らかに支配から逃れたような。………スキル効果が切れたのかな?」

 東は自分の状況を理解できなかった。

 すると自分の服が燃え出すのだった。

「うああああああああああああああっ」

 慌てて燃えた服を脱ぐとそこにはフレイムスライムがいた。燃えた服をむしゃむしゃ食べているフレイムスライムから必死になって逃げる。


「何だ、何だ?どうして?僕はやっと自由になれたのに……」

 上半身裸のまま向かっていた方向へと進むと、街道に巨大な体躯をした二律歩行のトカゲ男たちが鎧をまとって歩いていた。


 まさかあれが魔王の軍勢か?

 と慌てて近くの岩場の影に隠れる。


 東は光十字教国には戻れないと感じて逃げた。

 ならば敵側である魔王の国に自分を売り込んで魔王軍に寝返ろうと画策していた。

 だが、魔物が支配から離れてしまい、逆に魔物から慌てて逃げる羽目になっていた。よく考えようが考えなかろうが、光の精霊とは違う側に行って、スキルが残るなんて考えるのは虫が良すぎたのだ。

 思えば自分はただの人間だ。恩恵をもらっていても戦えるものではない。

 この世界の冒険者たちは異常なほど能力が高いだけに自分の身の程はある程度は知っていた。絶体絶命の大ピンチだと理解する。


 どうすればいいのかと考えているとトカゲの顔をした男たちがぞろぞろと近づいてくる。


 まずい、殺されると思って必死に息をひそめて岩場の影で小さくなっていると


「何だ、坊主。追剥にでもあったのか?」

「教国から来たのか?災難だったなぁ。あの国は盗賊が多いからな」

「連れはいないのか?」

 と心配そうに声をかけてくるのだった。


「は?」

 あまりの対応にぽかんとしてしまう。東は理解が追い付いていなかった。


「俺の古いマントで良いならやるよ。その格好じゃ寒いだろう」

「へ、あ、は、はい。あ、ありがとうございます……」

 思っていたものと違う対応に東は困惑していた。

 フレンドリーで優しいトカゲ人族の冒険者に毒気を抜かれた感じだった。とりあえず一命だけはとりとめられたと安堵するのだった。

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