1章17話 使節団襲撃
鬼頭達7人はA級冒険者パーティ350人と共に馬車でアサヒカワの南にあるセントランド共和国から光十字教国を経由しニクス竜王国まで縦断する大きい街道へと向かっていた。
冒険者と言っても所詮は荒くれもの集団である。簡単に鬼頭達と気が合うあたりが人間性の底が見えるところである。
こっちの大陸では冒険者のランクは実力ありきなので人間性や仕事の継続性に問題があっても上がってしまう部分がある。つまりは、人間の襲撃の依頼を受けるようなロクでなしという事だった。
鬼頭たちが彼らと普通に仲良くなった頃、一行は街道へと到着する。予定の一日前に辿り着いたので山小屋で馬車が来ないかを見張りを交互にする事になる。
やがてやって来るのは3台の馬車。
真ん中に立派な馬車があり、その護衛のように馬に乗った騎士が馬車と並行して左右には位置取り、前後の馬車にも護衛と思しき連中がいる。
「結構厳重だな」
鬼頭は舌打ちをしながら状況を確認する。
「それなりに貴人がいるって事だろう」
「その分金になるって寸法よ」
「なるほどな」
「そろそろ山間に入る。それぞれ配置につこう。頼んだぜ、勇者様よ。あんたらの力があっての戦いだからな」
「任せな。他の連中と違ってこの程度で尻込むような仲間はいねえよ」
鬼頭の言葉に五十嵐や荻野、三嶋や長塚といった不良集団が頷きあう。
「そろそろ時間だ」
「予定通り頼むぜ」
冒険者たちはそう言って配置へつこうと移動を開始する。
「分かってるって。五十嵐、荻野。行くぜ」
「おうよ!腕が鳴るぜ」
「やってやりますよ」
不良だった3人が暴力でどうにでもなる世界にやってきて調子に乗っていた。
普段、クラスででかい顔をしていた連中も後ろ盾がないから何もできない状況という点も大きい。
自分たちが勝手にやってもだれも文句が言えない。
そんな状況である為、彼らは学校でやっている以上に好き勝手にやることにしていた。力を手に入れて何もかもが思い通りになるようになり、それを評価されるから気が大きくなっていたのだ。
彼らにとって問題といえば、最初の頃にもっと手広くやるべきだったという後悔だけだ。
それに気づくのが遅かったといえるだろう。
他の弱い連中はこちらを避けているので中々傘下を増やすことができない。当時から虐めていた東や花山を良いように扱う位しか彼らはできていなかった。もっと傘下を増やして奴隷を作るべきだったという思いに至ったのは最近の事だったからだ。
何せ暴力がものを言い、暴力以外では自分たちを屈服させられず、大人達もそれに従っていたのだ。
冒険者のリーダー格が合図を出し、それとともに冒険者仲間達が弓を撃って馬車の足止めを行う。
前方の馬車が止まっている中、真ん中に走っていた馬車が突然前の馬車を追い抜いてスピードを上げて逃げ出す。
「いくぞ、野郎ども!」
鬼頭ら冒険者たちは一気に逃げようとした馬車へと走り出す。
戦闘が始まる。
護衛部隊を足止めし、逃げ出した馬車を他の冒険者たちが拿捕する。
鬼頭達は拿捕する側に回っていた。
「おらあああああっ!」
五十嵐は槍を振り回すことで斬撃を飛ばす。馬車の車輪を破壊されて馬車が横転する。
「でかした健司!」
「まかせろ!ヒャッハーッ!」
他の冒険者たちも鬼頭達に続いて逃げた馬車に襲い掛かる。
だが、慌てて護衛の者たちがその馬車を守るために走る。
「ここは死守しろ!」
「馬車を守れ!」
必死に守りに入るのは馬車の護衛に回っていた騎士達だ。盾を構えて中に攻撃させないようにするが20人ほどが雪崩れ込んできて手に負えない状況だった。
「邪魔だ、邪魔だ!」
「間違いねぇ、あの馬車にえらい奴が乗ってやがる!」
「ありゃ、俺の獲物だ!」
冒険者たちはエサに群がる池の鯉のごとく馬車へと群がる。
馬車を守る騎士達は必死に抵抗するが、鬼頭が斬撃を飛ばし、司令塔と思しき騎士の首を飛ばす。
すると命令系統が失われて一気に瓦解する。
あわただしく争いあっている状況を一瞥してから、鬼頭は悠々と馬車へと向かう。
鬼頭は確信していた。
この世界は自分に合っていると。腕っ節だけで勝負が決まるなら自分は最強だと信じて疑わなかった。
そして横転している馬車の中に入ろうとしていると馬車の出入り口がガンッ大きく開く。
鬼頭は慌てて剣を両手で持って、身構える。
横転した馬車の入り口から1つの影が飛び出してくる。それは人影だった。
鬼頭を含めた冒険者たちが前のめりになり、何かされても対応できるよう、武器を持って身構える。
飛び出した人影はクルクルッと回転してさらにひねりを入れて膝から着地する。
両膝を地面につけて両手を頭の上で三角を作るように構え、そのまま額と両手を地面につける。
スーツ姿の、くたびれた中間管理職のおじさんといった様相をした男が、見事な土下座をしていた。
頭は薄く左右の髪から一生懸命中央にもっていっているのでバーコード感が半端なく、鬼頭もこの世界にもバーコード禿がいるんだーと戦闘中だというのに全く関係ないことを頭によぎらしてしまう。
誰もが何をしているのか理解できず、戦いの手を止めてポカーンとしてしまうのだった。
「どうか、お許しをーっ!命だけはどうかお許しを!どうか、どうかお許しをーっ!」
その姿に戦っていた冒険者たちもポカーンとして動きが止まる。
パタパタと馬車の中から鳥が北の方へと飛んでいく。なんとも間抜けな雰囲気が漂っていた。
守っていた騎士たちはあきらめた様子で武器を手放し両手を上げて、降伏するのだった。
その流れで、ほかの馬車の近くで戦っていた騎士達も全員が鬼頭達冒険者集団に降伏するのだった。
「て、てめえ、何なんだ。ああ?」
「おお、少々お待ちください。私、ヘクター・バンフィールというしがない政治屋でして……実はですね、ニクス竜王国に移動中でして。我々の命さえ取らないのであれば、ええもう、何でも言うことを聞きます。人質にだってなりますよ。国からたくさんお金を引っ張ってください。だから、命だけはお助けを!」
ゴリゴリ地面に頭をこすりつけながらヘクター・バンフィールと名乗った中年は、思い切り下手に出てきていた。
地面にこすりつけた頭から血が流れているが気にした様子もない。
「ど、どうすんよ、これ」
「やべえな。あんな土下座、沖田以来初めて見たぜ」
鬼頭も五十嵐も荻野も思い切り引いていた。40代ぐらいの大人の男性が地面に膝ついて頭をこすりつけての土下座である。
戦いが終わり、山賊を装った冒険者たちは騎士たちを捕らえて集まってくる。
「そうだ。この馬車には姫様ってのが乗ってるって聞いたんだが?」
冒険者のリーダー的存在の大男は、土下座しているヘクターという中年男性をにらみつけて尋ねる。
「は、はい。もちろんでございます。今すぐ出しますが馬車が倒れてしまい……」
すると御者台の方から6歳くらいの少女が小さな幼竜を抱えて這い出てくる。
「おお、大丈夫ですか、姫様」
「は、はいぃ。大丈夫です」
少女は周りを見て鬼頭らと目が合うと、ひうぅと悲鳴を小さく上げてパタパタ走ってヘクターの方へと走る。
「んだよ、ガキじゃねーか」
「オギ、何を期待してたんだよ?」
「とらえた捕虜は殺さなければ何してもいいって話だったからさぁ」
鬼頭が突っ込み、荻野はそれに対してゲラゲラと笑って流す。
彼らの中にあった下心が垣間見えるかのようだった。他の冒険者たちも同様でガッカリした様子だった。捕らえた人間たちの中には幼女以外は全て男性だった点もある。
冒険者たちはとらえた騎士達を縄で縛りあげて連行する。総勢20名ほどだ。スーツ姿の男と姫様と呼ばれた少女は縄につく事無く冒険者たちに連行される。
「じゃあ、向こうの山小屋で一度休もうぜ。こいつらは皆で交互に見張りだ。山小屋の前に連行するぞ!」
「身代金がどれくらいふんだくれるか楽しみだな」
「そうだな」
「一人頭100万クロスと考えると2000万クロスか。さらに要人と思しきおっさんと姫さんとくれば5000万は確実に搾り取れるな」
「さっさと馬車を直すぞ。捕らえる為とはいえこいつらの足を潰したから運べないし」
冒険者たちもうまくいったので余裕をもって笑っていた。
その話を聞きながら鬼頭はふと東の方へと視線を向ける。御者の職業もちに加え、騎獣スキルを持っているので馬車の運転はできるからだ。
「東、手伝ってやれ」
「は、はい」
「早くしろよ、おっせーんだよ!」
鬼頭はじろりと東をにらみ、更には荻野は思い切り東の尻を蹴り飛ばして地面に転がし怒鳴りつける。
「ひぇ、は、はい~」
東はペコペコしながら鬼頭の言うことを聞いて慌てて馬車の修復作業班の方へと向かうのだった。
「あんたもだよ!こっちは負傷者出てるんだから治癒術士なら治癒してやれってのよ!」
「ホント、トロ子はトロイよね~」
髪をつかんで三島は花山をけが人の方へと連れていく。
三島は花山を怪我している冒険者たちの前に連れていき
冒険者たちもどっと気が抜けた様子で拿捕した人間たちを連れて、雑談をしながら歩いていた。
「あーあ、いい女がいたらお楽しみになれたのによ」
「移動準備ができるまでの時間つぶしにな」
げらげらと下品な声を上げて笑いあう。
「勇者さんよ、いい女連れてんじゃん。俺らにちょっとくらい…」
「ああ?殺すぞテメエ」
冒険者たちは三嶋を見て鬼頭に尋ねると、鬼頭は睨み返して殺気を飛ばして返す。
すると三嶋は
「はーい、こいつ、治癒術士なんで怪我人の人は治してもらってください」
「うちらの奴隷みたいなものなんで待っている間、お楽しみしてても問題ないんで、ポーション兼肉奴隷だと思ってくださーい」
さらに長塚が追い打つようにとんでもないことを口にする。
「えっ!?」
花山は顔を真っ青にさせて三嶋や長塚の方を見るが、冒険者たちは喜びの声を上げる。
「あ?文句あんのかよ」
「どうせ五十嵐や荻野達にも犯されてんでしょ?ここの20人くらいにレイプされても変わんないっしょ」
二人に睨みまれてしまえば花山も何もできなくなる。二人は籠の中にいる小動物を甚振るかのような残酷さを見せて、楽しげに笑う。
「じゃあ、嬢ちゃん、頼むわ」
「捕虜になった連中の見張りじゃない時間の良いつぶし方が見つかって助かるわ」
「い、いや、いやああぁぁぁぁ」
花山は泣いて助けを乞うが、捕虜たち以上に最悪なことを押し付けられ、冒険者たちに無理やり山小屋の中に運ばれていくのだった。
姫様と呼ばれた少女は黄色い幼竜を抱えたまま、ヘクターと共に小屋の前に連行され、騎士達とは近づかないように木に縛り付けられて地面に座らされる。
「どうしよう、姫様」
少女はぬいぐるみのように抱いている幼竜にぼそりとつぶやく。
黄色い幼竜はきゅうきゅうと鳴いて少女を励ますように肩をポムポムとたたくのだった。