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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第2部1章 ヒヨコ・ミーツ・ガールズ in 大北海大陸
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1章16話 走るヒヨコと、企む光十字教

 一度ヒヨコの住処に戻って装備を整えてから状況を確認するため、一度、師匠のところに戻る。


「ピヨ殿、申し訳ない」

 師匠は肩をすくめてから苦笑気味に謝ってくる。

「ピヨピヨ【ヒヨコのところのやんちゃ坊主が迷惑をかけているので何とも言えん】」

「彼のフットワークは恐ろしく速いからね。私なら追いつくが、私も戦争が起こりそうな状況の中で動くわけにもいかないんだ」

「ピヨピヨ【分かっているぞ。いざという時は民を守る刀だからな。それにあのやんちゃ坊主のお守りはヒヨコのお仕事だ】」

 今は戦争があるかもという状況でもあり、動けないのは理解している。何よりもアレン・ヴィンセント大公が光十字教国に入ったなんて情報を耳にすればそのまま戦争突入となってしまう可能性もある。

 この国とて、今は三大貴族が権力の綱引きしている状況なのであまり面倒を起こしたくないそうだ。


「はあ……殿下が来ているときにあのような報告をするとは全く……」

 師匠は頭を抱えて呻く。

 厄介ごとを聞けば『僕が解決してやるぞ!』と走り出してしまう子の前で急ぎとはいえその報告を目の前でするとはダメダメな兵士さんだ。

 ここにきて3年近くになる。そろそろ分かっても良かろう。


 いや、これは奴に解決させて厄介ごとを手早く済ませようという巧みな兵士さんの策かもしれぬ。実はとっても賢いのかもしれぬ。


 そして最近はあの坊主、良い足を手に入れてしまったのが問題だ。

「ピヨピヨ【パトラッシュは速いからなぁ。追いつけるのはヒヨコか師匠くらいしかいないだろう】」

 ヒヨコはため息をつく。

「パトラッシュ?」

 残念お姉さんは首をかしげる。

「ピヨピヨ【奴の飼ってる犬の名前だ。去年、ヒヨコと一緒に東部諸国連合へクッシーを探しにクッシャロ湖とかいう場所へ行ったのだが、その時に従魔にした足の速い犬だ。名前を付けないでいたら、師匠が勝手に名前を付けていたからパトラッシュになってしまったのだ】」

「クッシーって……。なんだろう、突っ込みどころ満載感が……」

「ピヨピヨ【東部諸国連合にあるクッシャロ湖という霧に包まれた迷宮湖があってだな、そこにはクッシーという名の魔物がいるという噂があるのだ。クッシーには会えなかったが犬を捕まえた。それはそういうお話だ。まあ、500年前の勇者の言う事だ。奴は流言飛語の使い手だから何が真実かはわからん。】」

「……なんていうか破天荒な子なのね」

「ピヨピヨ【言っただろう?皇帝や英雄でも御せないと。だがこの地には皇帝や英雄を超える竜の女王と仙人がいて、ヒヨコもセットで付いてきた。どんな功績をあげても大陸が違うから声も届かぬ。その前に長男を皇太子にして功績をあげさせようという企みなのだ】」

「………な、なるほど」

 残念お姉さんはちょっと引きつり気味に呻く。

「ピヨピヨ【まあ、ちょっとやんちゃな困ったちゃんと認識していれば問題ないぞ】」


 二人の目は何故か心配そうな色を湛えており、ヒヨコへと向けられていた。まるでヒヨコの言う「ちょっと」とはどの程度なのだろうかと心配しているようにも見える。


「ではピヨ殿、殿下の事をよろしく頼む」

「ピ~ヨピ~ヨ【それにしても帝国でも手に負えないからとはいえ、まさかこの地でも手に負えないとは、困ったちゃんここに極まる、だな】」

「ははは。賢い子ではあるし普通に自分の息子ならば誇らしくはあるのでしょうに。シュテファン殿は権力争いの醜さをよく存じているからこそ、子供の代で争わせたくはないのでしょうね。仕方ありますまい」

 師匠は寛大なことを口にする。


「ピヨピヨ【では行ってくるぞ、師匠】」


 ヒヨコは師匠から情報をもらってから馬車を出してグラキエス君を御者台に、お姉さん二人を乗車席に乗せて出発する。


『ピヨちゃんの運送スキルがそろそろ達人の域に達しつつあるのだ』

「ピヨピヨ【ヒヨコはそんなスキルよりも鳥になるレベルが欲しい。はっ!人化の法があるのならば鳥化の法があるのではないか!?ヒヨコは真剣に考えます】」

 ヒヨコはトテトテと速く走りながらグラキエス君と雑談をしながら進むのだった。

「鳥化も何も、すでに鳥じゃない」

「ピヨッ!?ピヨヨーッ【言われてみれば!?早く成鳥になりたーい】」

 残念お姉さんの鋭い一言を背にしながら、ヒヨコはただただひた走る。




***




 この騒動が何によって起こったのか?ヒヨコ達がニクス竜王国にたどり着く数日前の事だった。

 光十字教国の首都アサヒカワの下層都市に異世界の勇者たちがやって来ていた。


 アサヒカワ市には二つの都市がある。上層都市と下層都市だ。

 下層都市は一般的な都市国家で中央には城のような大神殿が存在している。国家運営の根幹をなす機能を持っていた。

 そして上層都市こそがアサヒカワの象徴でもある。空中都市アサヒカワとも呼ばれ、聖職者などしか立ち入れることが許されず、光の精霊が居る城でもあった。

 異世界からやってきた勇者たちは入れる許可を申請中であるが、簡単に行ったり来たりできるものでもないので、現在は下層都市の大きい屋敷に住んでいた。

 彼らはアサヒカワ近郊にいる魔物を狩ってレベル上げをしていた。




 多くの勇者パーティが活動する中で、とある男女7人パーティが魔物討伐にやって来ていた。

 足元に転がるのは体長5メートルはあろうかというレッドグリズリーの死体だった。

 この地で最も危険と呼ばれる熊の魔物で、ゲームで言えばレイドボスという括りになるようなモンスターでもある。


「使えないよね~。治癒術士だから拾ってやったのにトロいんだよ」

「佐和、ハッキリ言いすぎ~。でも頭数に必要だしさ、治癒術士なしじゃきついっしょ」

 二人のギャル系女子が小柄な同級生の女子をどやしつけていた。

「こっちもケガしたんだからさっさと来いよな。気の利かないクズが。てめえは俺がいるから痛い思いをしないで済んでんだぞ!おせえんだよ!」

「は、はいぃ」

 さらに大きい声で文句を言うのは背の高い大男で、その言葉に委縮しながらも必死に走って大男の方へと向かう。


「つっても、思ったより大した事なかったな。そうだろ、オギ」

「いやいや、鬼頭君は攻撃役だから良いけど五十嵐君は盾役だしさ。けが人の前でそういうのは…」

「あ?俺に逆らっちゃうの?」

「ま、まさか」

「大体、そんな傷、学校の外で喧嘩するより全然マシだろ。西条とか延藤なんて偉そうにしていても、ビビッて碌に戦えて無かったろ?あんなのがリーダーとか笑いでも取るつもりなのかよ」

「それは言えてるな」

「ま、龍治がいれば魔王とか意味わかんない連中も余裕よね」

 ここぞとばかりにヒエラルキーの低い女子を罵倒していた女は、彼氏でもある鬼頭に甘えるように腕に抱き付く。


 げらげらと笑う男たちであるが、彼らはこの世界に来て歯止めをかける存在がいないために好き勝手にやっていた。

 北海王国に高城達3名、プラージ王国に山川、サロマ王国に教師達、他の生徒は全員光十字教国という状況で、光十字教国のタキガワにやって来ていた彼らは早々とアサヒカワに移動をしていた。そこでレベル上げを行っていたのだった。


 このグループは7人いる。金髪に染めた髪をオールバックにし、耳にピアスを3つも空けているインテリヤクザか若頭かといった風体を醸しているのが鬼頭龍治である。職業は戦士と一般的なもので戦闘に秀でている。

 その相棒的な立ち位置にいる背が高いスキンヘッドのいかつい男が五十嵐健司で、鬼頭と並ぶ学校の鼻つまみ者でもある。彼の職業は重戦士、フルプレートアーマーで身を固めていた。

 で、二人にペコペコしながらも仲間という立ち位置を保っているのが荻野昭。凡庸な容姿で、少々小柄であるが、髪を茶色く染めて粋がってる風を醸しており、鬼頭の取り巻きの一人でもある。彼は盗賊でちょろちょろ動いて攻撃をしている。当初のステータス自体は鬼頭と大したことなかったが、積極的な参戦が怖かった為、簡単に離されている状況にあった。


「おい、東。さっさと雑魚魔物の討伐部位を切り取っておけよな。お前も花山と一緒でトロトロすんなよな」

「そうそう、お前みたいな能無し、俺らが使ってやらなければ魔物の餌にしかならねえんだからよ!」

「ホント、使えない男」


 そういって周りにバカにされている男が東不二雄という黒髪にお坊ちゃんカットの地味な少年だった。鬼頭達の標的にされてしまった哀れな被害者でもある。職業が御者という異世界転移メンバーの中で唯一の非戦闘職だったことが拍車をかけていた。

 彼は戦えないので、強い魔物と戦う事はせず、雑用をやらされていた。


 さかのぼれば、鬼頭達は高校1年の頃にとある一人の男子を虐めていた。

 理由はちょっと因縁のあったクラスメイトだった。ちょっと締めてやろうかと思ったら逆に恥をかかされた。聞けば荻野が女子に振られて、その女子と仲の良い幼馴染だという話しだった。

 それを聞いて、鬼頭は半グレグループの仲間を集め、家を襲撃して黙らせた。

 その行動はエスカレートしていき、金をむしり取り、袋叩きにして、不登校にするまで追い込んだ。その少年は高校1年の夏休みを迎える前にトラックに撥ねられてこの世を去った。警察に自殺じゃないかと、事情聴取などまでされるところまで行った程だ。

 実際には通りすがりの少女を助けたという目撃証言があるため、自殺説は覆されたが、死んだ本人は海沿いの川に堕ちたそうだが、死体は上がっていない。

 彼らはそれから1年も経った頃、反省もせず新しい標的を見つけて虐めをしていた。それが東不二雄という新しい被害者だった。


「す、すいません。い、いま、今すぐ、お、終わらせます」

 ペコペコしながら東もまた目を合わせないよう俯きながら謝る。下手に異議を唱えると暴力の対象になるからだ。


 鬼頭の彼女である三島佐和はストレートロングの茶髪で鬼頭と同じピアスを耳に一つ空けている。気の強そうな美人といった感じで、女子ながらも163センチしかない荻野よりわずかに高い背の高さを持つ。ちなみに職業は火術士で炎の魔法を得意としている。

 三島の友人である長塚はセミロングの髪に赤いメッシュの入っており、かなり威圧的な雰囲気を持っている。こちらは風術士で風の魔法を得意としていた。

 そして女子の二人にパシリにされているのが花山美紀。小柄でいつも猫背でオドオドしており、女子だけでなく男子にも良いように使われていた。

 髪は黒髪ながらもガタガタなのは三島や長塚にハサミで切られて酷い目に何度もあっているためだ。この世界に来てからは歯止めが利かなくなっており、五十嵐や荻野などにより強姦され奴隷のような生活を送らされていた。


 教師がいない事、突然の環境の変化によるストレスにより、虐めはより露骨になっていた。恐喝、暴力、強姦、そんな事が罷り通っており、光十字教国もそれを許容していた。

 そして周りも関わりたくないので見て見ぬふりをしていた。


 もともと、東を助けようとしたクラスメイトが鬼頭に絡まれて不登校に追いやられたからだ。




***




 東の操る馬車に乗ってアサヒカワの下層都市へと帰還する。中級の魔物を多く狩り、新しく作られた異世界出身者用の冒険者ギルドへと持ち運ぶ。


「レッドグリズリー討伐!?」

「さすがは勇者様だ」

 受付の男たちが褒めたたえており彼らの自尊心を満たすには十分だった。

「へっ、あの程度で褒められるなんてこの世界の連中も大したことないんだな」

 と呆れるようにぼやく鬼頭であった。

「確かにな」

 大したことないとは言うが、あくまでも彼らは光の精霊の恩恵があるからであり、異世界に来る前からこの力を持っていたわけではない。


 すると鬼頭達の前に30人くらいでやってくる西条達がいた。

 西条光一、国際的な複合企業体(コングロマリット)・西条グループの会長子息であり高校で一番の有名人でもある。髪を真ん中で分けている優等生風の少年だ。職業は光戦士という光の精霊の力を一身に受けたような存在だった。

 大きな土台の上にワイバーンの死体が乗せられていた。


「なんだ、西条家のお坊ちゃんがそんな大量の人間を引き連れてワイバーン一匹とはしけてんなぁ」

 鬼頭は嘲るように西条に声をかける。

「まずは生き残ることが大事だよ。誰一人として被害を出さずに帰る事を念頭に置けば、過剰戦力になるのは当然だろ」

 西条はそう言って鬼頭らの問いに答えるが、

「怖くてビビッてるだけだろ。ハッ」

「ちょっと光の精霊から多く加護をもらっただけで調子に乗るんじゃねえよ」

 鬼頭に続き五十嵐と荻野が絡んでくる。


「んだと!?」

 それに反応するのは西条の親友でもある空手インハイ出場者でもある延藤泰虎だった。

 スポーツ刈りでいかつい顔立ちと分厚い肉体を持った男だ。体格で言えば五十嵐よりも大きく、体も一回り筋肉で大きい。

 それを止めるのは相沢翼だった。

「やばいってば。仲間割れは!」

 華奢で女と見間違う顔立ちで、長い髪を後ろに束ねている少年である。女子からも人気の高く、そのせいでこのパーティが大きくなっている面もある。

「仲間?」

「いつから仲間になったんだ?ププッ」

「お勉強で成績がよくても腕っ節じゃかなわないって理解してんだろ?」

「そっちは落ち目の集団だって気づくのがいつになるかねぇ」

 げらげら笑う鬼頭のグループ。


「5体の魔王を倒す必要がある以上、7人で倒すなんて何年掛かるか分かったものじゃない。できるだけ多くの者が強くならなければならないが………まあ、君に話してもわからないだろうね」

「掛け算でつまずいていそうな顔してるしね~」

 西条の隣にいる夏目雅がそれに乗っかり嘲笑うように口にする。読者モデルもやっているような背が高く長い黒髪の美少女である。


「てめぇ、喧嘩売ってんのかよ?」

「雅、言い過ぎだ。悪かったね。無論、君たちには君たちの考えがあるんだろう?僕もそれを否定しようとは思わない。僕としてはただ多くの仲間を見捨てたくはないからこうしているんだ。少数精鋭の方が効率が良いという点は認めるよ。だがそれだけだ。この能力がどんなものか分からない以上、上下関係も簡単に切り替わる。一つ一つ足場を固めるにしても多くの者から情報を共有しなければならない」

「はっ、わかってんじゃねえか。んで、今は俺様がお前より上って事よ。やろうってんなら今ここで殺すぞ、坊ちゃんよぉ。ここじゃ、てめえの権力も金もなんも使い物がねえんだからよ」

「僕はやるつもりはないよ」

 鬼頭はイラついた様子で西条をにらむが、西条はそれを軽く受け流す。

「偉そうにしてるけど、西条。お前、レベルいくつよ?」

「?………20だけど?」

「はっ?……俺はレベル21、鬼頭君なんて23だぜ?格が違うんだよ、格が。お前らも付くんなら俺らの方が良いぜ?夏目、そんな雑魚についてないで俺らの方に来いよ。股開けば勝ち馬に乗せてやるよ」

「違いねぇ」

 荻野の言葉に五十嵐もゲラゲラ笑ってそれに乗っかる。

「岬さんの言葉を借りるなら、どんなに強くなっても顔と品位は上がらないのよ?」

 あきれた様子で夏目が蔑むように荻野を見て、荻野は顔を真っ赤にして羞恥を耐え、怒りの感情を沸々と煮えたぎらせる。

 五十嵐がバスタードソード、荻野が短剣を抜き放ち、同時に相原がロングソードを抜き、夏目は杖を構えて魔法の準備をする。

 派閥間で一触即発という状況が起こる。


 するとふらりと一人の男が白銀の刃を間に入れて止めに入るのだった


「ストップ。仲間同士で争うのは禁じられている。君たちは皆光の精霊様の加護を受けた同志だ。そうだろう?」

 細身の優男が両派閥の間に割って入る。白銀の鎧をまとった騎士だった。


「!?……誰だテメェ!?」

 五十嵐や鬼頭は目を細めて男を見る。


「……オーギュスト殿」

 彼の名を口にしたのは西条だった。

 西条派閥の女子がキャアキャアと黄色い声を上げる。金髪碧眼で若き美麗の騎士といった風体の青年に女子高生達のファンも多い。


「彼は……」

「西条殿、ここは私めが。鬼頭殿とお見受けする。私は光十字教七光剣が一人、オーギュスト・デュランと申します」

 美麗の剣士オーギュスト・デュランは剣を収めて恭しく挨拶をする。

「七光剣だ?」

 鬼頭は眉根にしわを寄せて胡散臭いものでも見るように尋ねる」


「彼は僕たちに付いて頂いた光十字教国を代表する剣士だよ。光十字教圏にいる最強の剣士7名を差し、それぞれが6つの光十字教を国教とする国の大司教猊下の護衛として付いている。光十字教国は大司教が教皇猊下なので6つの光十字教国の中でも一人しかいないため、一人常に余っているらしくて、彼は僕らの教導役兼護衛として付いているんだ」

「光の精霊様の加護を与えられている者は聖人、聖女として教会で尊き者として敬われます。皆様はいずれも聖人聖女も同然。故に不肖の身ではありますがご指導させて頂いております」


「ご指導ねぇ」

 鬼頭は楽し気にオーギュストを眺める。つまるところこの国一番の剣士だと言う事だ。

 話からすると西条もまた手ほどきをされていることがわかる。もしもこの男に自分が勝てたら?


 今、この男の首を落とし自分が七光剣とやらになり、大きい地位を手に入れれば目の前の坊ちゃんもこの腕力がものをいう世界では自分の手下になると考え、鬼頭はニヤリと口元に笑みを浮かべる。

 そして剣を抜いて切りかかろうとした瞬間、鬼頭は首に刃が突き立てられていた。


「皆様を丁重に扱えと教皇猊下並びに光の精霊様より託宣をいただいております故、あまりやんちゃをなされては困ります」

 鬼頭は剣を抜き切ることもできず余りの事に唖然としていた。


「適う訳ないだろ、アホかよ」

「さすがオーギュスト様!素敵!」

「鬼頭、調子に乗りすぎ」

「ザマァ」

 と西条派閥の面々は嘲笑う。


「クッ」

「ですが、力が有り余っているなら丁度良い。皆様に依頼が入ったのです」

「依頼?」

 西条は首をかしげる。




***




 西条、鬼頭ら他3名の代表者を集めてオーギュストによって説明される。

「無理ならば断わってもらっても結構です。まず依頼の説明をいたしましょう」

 と大北海大陸の巨大な地図を大きいテーブルの上に開く。


「現在、アサヒカワの東部にセントランド共和国の要人が乗っている馬車が北方へ移動中です」

「あん?たしかその国って魔王だかのいる国だろ?」

 鬼頭が首をひねる。


「その通りです。光十字教区であるアレクサンドロ帝国は白秋連邦の北東部で戦争を行っています。これによって白秋連邦の領土を抑え込むと同時にセントランド共和国と白秋連邦の持つ交易路を封鎖。セントランドは内陸故に塩がなく、かの国との交易が途絶えれば孤立し息の根を止めることができましょう」

「やり方がえぐいな」

「でも効率的ではあるな」

「プラージ王国もそうだから、光十字教区だけで包み込めばセントランドは終わりと言う事か」

「俺らの仕事が減っていいじゃん」

 とオーギュストの説明に鬼頭を含む他のリーダーたちもうんうんとうなずく。

「ですがセントランドはニクス竜王国に塩を求めるように使節団を投じたようです。無論、かの国とは国境を接していませんが、敵国であっても今は戦時ではないので通行が可能でしょう。その使節団が塩の交渉に向かっているようなのです」

「交渉した所で、この国を通って塩を輸送するなら止めりゃ良いんじゃないか?」

 鬼頭は首をひねって尋ねる。

「物理的に難しいですね。彼の国々は空輸という手がありますので」

「ドラゴンに運ばせるって事ですか?」

 西条は竜王がいる国だと思い出す。その言葉にオーギュストはコクリと頷くのだった。

「ええ。事によると相当量の塩を運ぶことが可能でしょう」

「白秋連邦とやりゃ良いんじゃねえの?」

「それがそうも行かないのが魔王達の弱みでもある。魔王たちにも序列がある。セントランドの魔王フリュガは白秋連邦のティグリスよりも格上とされている。白秋連邦から情けをもらうためにドラゴン自身が出向くなどやらせられないのです。対してニクス竜王国の魔王ニクスはフリュガよりも格上の魔王だ」

「格上?と、言うとフリュガよりもニクスの方が偉いと?」

「うむ。卑しくも魔王ニクスは自身がこの世界の救世主であり支配者だと宣い、魔王たちもそれを認めているといいます。ドラゴン達からはすべてのドラゴンの母、マザードラゴンとも呼ばれています」


「やばそうな感じだなレベルはいくつなんだ?そのドラゴン」

「人間のレベルに換算すると200以上です」


 ブッと全員が噴き出す。あまりのレベル差に絶句する。

「で、ですがご安心してください。かつての勇者が世界を支配したという魔神を討伐したときのレベルが150程度だったと聞きます。これは西条様達にもお伝えしたことですが、かつての勇者殿はレベルより多くのスキルレベルを上げる事で強くなっており、その力で魔神を殺したと言います」

「……!?」

 鬼頭達は自分たちの方が上だと誇っていたが、西条達は動じる様子がなかったのは、レベルがすべてではない事を目の前の男に聞かされていたからかと初めて知る。そして、同時に出し抜かれたとも感じる。

 ハッとして鬼頭は西条を見るが、西条は鬼頭を眼中になくただ話を真剣に聞いているだけだった。


「それはそれとして、つまり我々に東部を移動してニクス竜王国へ行こうとする馬車を止めろと言う事ですか?」

「ええ。国籍不肖であった方が好ましいので。軍を動かせば刺激しかねません。まだ我々も準備ができていないので戦いの準備ができるまでは…。山賊を装い冒険者たちに襲撃をさせようと考えています」

「その冒険者集団の中に我々を組み込ませたいと?」

「ええ」

 西条は目を細めオーギュストに尋ね、オーギュストもまた首を縦に振る。


「僕達はおそらく無理だ。人数がいた方が良いのだろうが、皆には出来ないだろう。セントランド共和国の使節団は亜人の類とはいえ人類なのだろう?」

「あそこは雑多なので亜人だけではなく人間がいるかもしれません」

「なら尚更だ。僕達のパーティの半数以上は魔物を殺す事には慣れてきているが、前回の山賊討伐でも脱落者を出している。さすがに人類を殺す事に迄は慣れていない。今回の件、僕らは不参加にさせてほしい」

「まあ、妥当だろうね。これを踏み台にしてもらいたい所だが、失敗は許されない。下手に人員を多くすれば山賊の中に妙なのがいると思われても困る。情報が洩れたら早々に共和国や竜王国が動きかねないし仕方ないね。竜王国は国内情勢があまりよくないそうだけど、共和国は一致団結しているからねぇ」

 オーギュストはそんな事を口にする。


「俺らはやっても構わないぜ?そんかし報酬だ。報酬に色を付けてもらわないと困るぜ」

 鬼頭は自分から山賊を装って使節団を襲撃する。

「勿論、その積もりだ。そろそろ君たちにも慣れてもらいたいからね。人と戦う事を。無論、今回は殺しても構わないが、出来れば捕縛したい」

「捕縛だ~?」

 むしろ殺した方が楽と言わんばかりの鬼頭の態度に周りの学友たちは引いていた。

「捕縛した方が金になる。優先順位は第一に使節団を逃さない。まずは捕縛、駄目なら殺す。それだけだよ」

「なるほど」

「あと、使節団にもしも共和国の姫がいた場合は必ず殺さずに捕縛してほしい」

「姫だ~」

「それらしい存在を目撃されているらしい。殺したら山賊だろうが関係なく戦争になる可能性がある。今はまだ戦う予定は無いんだ。他の光十字教圏国家が戦いをはじめ、光十字教国は君たちの成長を待ち、最後の最後に参戦する。」

「良いぜ。だがよ、殺さなきゃ、何しても良いんだよな」

「ああ、構わないよ。他にもA級冒険者パーティにも声をかけているからね。君たちほど有能なスキルはないけど、高いレベルを持っていてそこそこ使える連中だ」

「良いぜ。文句がないならやらせてもらう」

 鬼頭は口角を吊り上げて目の上のたん瘤である西条を押しのけてトップに立とうとたくらむのであった。

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