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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第2部1章 ヒヨコ・ミーツ・ガールズ in 大北海大陸
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1章13話 ヒヨコ、ニクス竜王国に到着

 さて、ヒヨコたちがプラージ王国オタルを出てから16日を過ぎたころ、ルモエ経由でニクス竜王国の副首都ナヨリへと辿り着いたのだった。


「疲れた。さすがにこれだけ揺られると厳しい」

 ぐったり気味の残念お姉さんであるが、ピヨピヨとヒヨコは鳴きながら首をかしげる。

「ピヨピヨ【ヒヨコの方が走って疲れるはずなのに、どうして乗客が疲れるのか?】」

「ふっ、現代人の軟弱さを舐めるなよ」

「でも、これでやっと馬車の旅が暫く御休みなんだよね」

 そこは胸を張るところではないと思うが、さすが残念お姉さんである。だが、三つ編みお姉さんがホッとした様子なので、つらかったようだ。

 約3000キロの旅路は厳しいのは仕方がない。

 確かに、この大陸はでっかいから大変だというのはヒヨコの心の声でもある。

 まさにでっかいどうと呼んでいいだろう。


「ピヨピヨ?【アサヒカワはここから近いから、戦争にでもならない限り国境を越えて普通に行けるんじゃないかな?】」

「聞いた範囲だと戦争になりそうなんでしょう?」

「ピヨピヨ【とはいえどうなんだろう?取り敢えずヒヨコは師匠のところに顔を出して情報を聞いてみよう。師匠はこの町で300年くらい領主をやっているからな】」

「それどこのエルフ?」

 残念お姉さんは顔をしかめさせてうめく。

「ピヨピヨ、ピヨピヨ【いやいや、師匠はエルフじゃないぞ。人間の限界を突破して仙人になった人だ。ヒヨコに魔力を体に伝達する方法を教えてくれた師匠だ。名をアレン・ヴィンセント大公と言う】」

 ヒヨコは二人が馬車から降りると馬車を<異空間収納(アイテムボックス)>に仕舞って、大きな城壁に囲まれた都市の中に門番さんに「ピヨピヨ~」と声をかけて素通りする。


「え?ちょ、入場料みたいのはないの?」

「ピヨピヨ【この町は無いぞ。ヒヨコはこの町のお客さんだし、同じ種族も見たことがないから、一目でみんなヒヨコがヒヨコだとわかるのだ】」

「な、なるほど」

 二人はヒヨコについてくる。

 一応、ヒヨコは肩から掛けているフルシュドルフ親善大使ピヨちゃんというタスキも証明している。


 ここナヨリ市は副首都とは名ばかりで、竜王国の首都機能を有している。この国家における最大都市であり、国の守護神である大公がいる都市だからだ。

 竜王国と言いながらも王様が政治にかかわらないので、ヒヨコの師匠でもある大公が治めている。

 と言いたいが、この師匠も仙人な上に政治に疎いから象徴的な意味でしかない。政治は他人任せで彼らが悪い事をしてないかチェックする程度の事しかしていない。


 実際には、普通に貴族が政治を行っている。

 師匠が副首都にて王のように存在し敬われるのは、ずっと昔、この都市の長になって多くの民に学を与えたのが切っ掛けで未だに崇め奉られている。実際にそれをしたのはドラゴンなのだが、ドラゴン達と打合せしたのが師匠である。

 この国はドラゴン信仰なので、ドラゴンを奉っている竜社という教会というか神社みたいのがあるのだが、竜を奉る社子屋(やしろごや)を利用して、教育する場を学校として利用したのがきっかけだ。

 大陸における精霊信仰の多い土地では精霊を祭る社なるものが多くあり、彼は子供たちを集めて勉強を教えたそうだ。

 それが高じて50年前に大学校を設立したらしく、こんな文明の低い世界でも大学校が存在している。

 そして、その大学に交換留学という態で、ローゼンブルク帝国からはローゼンハイム公爵令息がここの付属学校へ、同じくこの国の公爵家の令息がローゼンブルク帝国の学校へ留学したのがきっかけだ。


「あ、ピヨちゃんだー」

「わー」

「どこ行ってたんだよー」

「相変わらずフラフラしやがって」


 ペチペチペチペチと少年少女たちがヒヨコに群がる。

 だからペチペチと叩くのはやめてもらいたい。

 レベルが上がってもヒヨコはやわっこいので、HPが減るではないか。


「ピヨピヨピヨピヨ【子供たち、ヒヨコは師匠に用があるから今日はあまりかまってやれんのだ。すまんが……】」


 ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ


「ピヨヨーッ!」

 いい加減に叩かれ続けられてヒヨコがパタパタと暴れると子供たちが

「やばい、ピヨちゃんが怒った」

「逃げろー」

 ワラワラと蜘蛛の子を散らすように逃げていくのだった。


 完全に遊ばれている気がするのは気のせいではないだろう。

 おのれ、ガキどもめ。大目に見てやれば調子に乗りやがって。ヒヨコは年上なんだぞ?もっと年長者を敬うべきだと思うのだが。


「人気者なんだね」

 三つ編みお姉さんはヒヨコの頭を撫でつつ感心した様子でうなる。

「ピヨヨッ!【そう、人気者なのだ。ヒヨコが大人しいのをいいことに、子供たちがとても面倒くさい感じなんだけどな!】」

 ヒヨコはトテトテと歩いて先に進み、そんなヒヨコに二人のお姉さんたちがついて来る。

「この町って他の町と比べてかなり穏やかな感じよね」

「ピヨピヨ【そりゃこの国は穏やかな竜の女王様が頂点にいるからな。国風が出るんじゃないか?】」

「へー。竜の女王様に守られているの?」

「ピヨピヨ【守られているわけではないが後ろ盾としているだけだな。だって青竜女王さんは基本的に戦わないからな。とっても優しいのだ】」


 これまで来た国の大半はこんな大都市だとやせ細った浮浪児などがちらほらみられる。

 だが、この町ではそういった子供は見られない。

 他国では路地裏の方には治安の悪さが垣間見えるやばそうな人間もちらほらみられたが、この国ではそういったものも見られない。


 大通りに出て城の方へと歩いていると、二人のお姉さんたちは目を丸くして城を見上げる。

「…って、ここのお城ってなんで日本の城なの!?」

「ピヨヨ?」

 ヒヨコは首をかしげる。

 確かにここの城は木造建築でちょっと変わった形をしているが、おかしい所があっただろうか?

 レンガではなく木で建てられていて、粘土で作られた漆塗の瓦屋根で雨風をしのげるようになっているだけだと思うが、何か違うのだろうか?


「だ、だって、これまで西洋風のお城ばっかりだったでしょ?サッポロもオタルもルモエも。どうしてこのナヨリだけ和風建築のお城なのよ!?」

 残念お姉さんはこれまで立ち寄った街の事を思い出しながら訴えつつ、 ヒヨコの首根っこをつかんでぶんぶんと振り回す。


「ピヨピヨ【ヒヨコは知らんってば。これから師匠に会うから聞いてみればいいのではないかな?ワフーだとかセイヨウフーだとか言われてもヒヨコにはさっぱりだ。そういうのはヤフーに聞きなさい】」

「そ、そうね。ヒヨコが稀に二次元ネタを使ってもヒヨコは知らないもんね」

「ピヨピヨ【ニジゲンネタというのもよく分からんぞ】」


 言葉の問題よりも文化の問題が一番かけ離れてる気もするヒヨコであった。

 ところでヤフーって何ぞや?


 お城は石垣が積まれていて、門をくぐると庭が広がる。松の木や大きな池があり、城は丘のように登るような構造になっていて、ヒヨコたちは歩いて丘を登りお城の近くへと向かう。

 そして途中にあるお城の離れの位置にある小さな家屋が建っている。

 あれが、師匠の家である。


「ピヨピヨ【あっちの家が師匠のおうちだ】」

 ヒヨコは家の方を指し示す。

「城の中じゃないの?」

「ピヨピヨ、ピヨ~【師匠は政治にかかわらぬからな。基本、剣術バカなのだ】」

「ふーん」

 ヒヨコたちが歩いて家の前にやってくると、家の前には衛兵が立っていた。

「ピヨピヨ~」

 ヒヨコは構わず入ろうとすると

「お待ちください、ピヨ様」

「ピヨヨ?【おや、もしかして来客中?】」

「は、はい。竜王陛下がいらっしゃっておりまして…」

「ピヨピヨッピヨ~【おお、青竜女王さんが来てるのか?問題ないし入るぞ?こっちもちょっと面倒ごとがあるので相談したかったのだ】」

「少々お待ちを」

 衛兵の人が走って中に入っていく。

 暫くして家から出てきて「お入りください」と中を示す。


「ピヨピヨ【ここでは靴を脱いで入るんだぞ?土足禁止なんだ】」

 ヒヨコは玄関に座って雑巾で足を拭いてから家に入る。

「う、うわー、マジで日本家屋だ」

「中世ヨーロッパの世界でアレン・ヴィンセントさんの家が日本家屋ってどういう事?」

 残念お姉さんと三つ編みお姉さんは困惑気味だが慣れた様子で靴を脱いで家へと入る。


 ヒヨコたちが家の中に入ると居間には青髪のきれいなお姉さんと青い幼竜がいた。青い幼竜は体長80センチくらいの小柄な三頭身のドラゴンだ。

 つまりは青竜女王さんとグラキエス君の二人ということだ。グラキエス君は普段から成竜姿で過ごしているが、街中やこういった部屋に入る時は幼竜化していることが多い。

 人間姿だと偉い人に無駄に絡まれて面倒なことになる(というよりこの国の貴族達はグラキエス君の人間姿を知らない人が多い)し、ドラゴン姿だと威圧的なので幼竜姿で空を飛んでうろつく方が周りも敬うし無駄に絡まれないからである。




「ピヨピヨ【おお、グラキエス君】」

『ピヨちゃん。一年ぶりなのだ~』

 ヒョコリと立ち上がりグラキエス君はヒヨコに近づき、互いにハグをして再会を喜び合う。


「おお、ピヨ殿」

 奥に座る金髪碧眼の若い美男子が立ち上がりヒヨコを呼ぶ。

 彼が副首都ナヨリの名目上の領主であるアレン・ヴィンセント、ヒヨコの師匠である。


 ヒヨコは残念お姉さんと三つ編みお姉さんを連れて、向かい合って喋っていただろう青竜女王さんと師匠の方へと向かう。

「ピヨヨ?【青竜女王さんがここに来るなんて珍しいな。何かあったのか?】」

「どうやら他国がこの国に対し戦争を仕掛けようとしているらしい話を聞いて事情の確認に来たようです。密偵の情報からすると、なんでも女王陛下の首を狙っているとか」

 無口な青竜女王さんの代わりに師匠が説明してくれる。


「ピヨヨ~【何という恩知らずな。終末時から生きていたエルフさん達やイグッちゃん達が口をそろえて世界の救世主だったという青竜女王さんに歯向かうなど、悪神殺しの大勇者ピヨちゃんは許しませんよ?】」

『母ちゃんに歯向かうなんて身の程知らずなのだ』

「あははは。まあ、今を生きる人間達には知った事ではないのだろうが、どうも光十字教に大きい動きがあったそうだ。それに端を発したものなのだが……」


 ヒヨコとグラキエス君はプンプンと憤慨するが、師匠はそれを宥めて苦笑する。


『ところでそちらの女性たちは?』

 そんな三人をよそに、場の空気を読まない青竜女王さんが尋ねてくる。


「ピヨピヨピヨピヨ【おお、そうだ。師匠にお願いがあったのだ。実はオタル近くに遊びに行っていたのだが、異世界人と名乗る人間二人を拾ったのだ。彼女たちの部屋を用意できないだろうか?】」

「あ、ええと地球の日本っていう所から来た岬百合といいます」

「鈴木智子です」

 二人はぺこりとお辞儀する。

「…日本?日本って……本当に日本ですか?」

 師匠は驚いた顔で二人を見る。

『異世界人……?異世界人は初めて見たのだ。母ちゃんはどうなのだ?』

 とグラキエス君は清流女王さんに尋ねるが、相変わらずの無口なので代わりに師匠が答える。

「見たことはありますが、あまり例はありませんね。精霊たちが言語を授けたという例を聞いた事もありましたが、基本的に考えが違いすぎて軋轢を生みやすいので力があろうとなかろうとろくな人生を送ってないと思いますよ」


『ピヨちゃんはどこで拾ったのだ?』

「ピヨピヨ、ピヨピヨ【ピヨピヨ団の子供たちをどうにか保護しようと思ったら、彼女たちが絡まれていたんだ。ピヨピヨ団は逃げてしまったが、この世界の初めてさん達を放置する事もできなかったので保護することにしたのだ】」

「そういえばピヨちゃんはピヨピヨ団の子供たちを保護しに行った筈なのだ。当のピヨピヨ団はどうしたのだ?」

「ピヨ~…………【……残念ながら、ヒヨコたちとは二度と会えない場所に行ってしまったのだ】」

「それは残念なのだ。友達が増えると思っていたのだ」

 がっかりするグラキエス君。

 この国では本物の皇子様なので、友達を作るのが困難だったらしい。


「ピヨピヨピヨピヨ【オタルで聞いたのだが、どうも異世界人たちがたくさんこの世界に下りてきて光の精霊がどうも過剰な加護を与えていたらしいぞ。この二人はたまたまそこから漏れたみたいで火の精霊の加護を受けていたが、恐らく光の精霊の加護を受けている異世界人が70人以上やってきていると考えていいと思う】」

「過剰な加護とは?」

 首をひねるのは師匠だった。

「ピヨピヨピヨピヨ【いろんなスキルがLV5になっていた。恐らく精霊たちの与えられる限界なのだろう。ヒヨコの見た異世界人は魔力操作と強撃、高速移動、回避、防御、4属性魔法、剣術、即死耐性とかのスキルがLV5だったぞ。周りからは勇者と呼ばれていたな】」

「それはまた奮発してますねぇ。一つや二つならともかく、それだけのスキルを与えるとは……」

 師匠は呆れたと言わんばかりの様子にぼやく。


「その、それってすごいんですか?私は何にも恩恵が無いと言われてましたが」

 残念お姉さんが挙手して尋ねると師匠はにこりと笑って

「手広くスキルを育てるには時間がかかりますから。多くの人が一定の技術に特化している。例えば重装甲装備の戦士は防御や剣術のスキルが高くても、回避系や速度移動系は低いという感じですね。魔法もこの大陸は1属性特化した教え方をしている。魔導士というよりは火術師、水術師、治癒術師などと呼ばれていますね。それが四属性の魔法をLV5まで使えるというのはかなり破格の能力付与と言っていいでしょう」

 師匠はこの大陸のスキル事情を説明してくれる。

 ほほーん、ヒヨコも初耳だ。ピヨちゃんは万能魔法使いだったのか!?


「や、山川のくせに何という……。異世界チートをもらうとか死ねばいいのに」

 顔を引きつらせてうめくのは残念お姉さんだった。


「ピヨピヨ【とはいえ、それでイコール青竜女王さんを倒せるというのは話が別なんだよ。青竜女王さんは神に近い古竜だ。ヒヨコ以上に偉い人なんだぞ】」

「いや、ヒヨコを比較されても……」

「ピヨちゃんは比較対象にならないっていうか…」

 二人のお姉さんたち、散々、ヒヨコに世話になっているというのに全否定である。どうやらヒヨコへの敬意が足りないように感じるぞ?


 するとおもむろに師匠がヒヨコを見て尋ねて来る。

「そういえば先日、情報を聞いたのですが光十字教の誇る七光剣の一人が謎の人間にやられて、プラージ王国の大司教が再起不能になったと聞いたのですが……」


 ………


「ピヨヨ~【ヒ、ヒヨコは、ピヨピヨ団の死亡を確認し、失意のズンドコにいる中で、保護したお姉さんたちが豚貴族にさらわれたから、慌てて助けにいったのだ。その過程で小物を数人虐めただけだぞ。そんな偉そうな人は知らぬ?】」

 ヒヨコはフイッと目をそらして弁解する。

『ピヨちゃんはまたやらかしたのだ。ダメダメなのだ』

「ピヨヨッ!?」

 グラキエス君の中ではやらかし仲間という認識なのだろうか!?


「やはりですか。まあ、プラージ王国は色々と問題ですから構いませんが……。七光剣の一人を倒したというのはちょっとしたニュースですからね」

「あの七光剣の人って強そうだったけど……そんな強い人なんですか?」

 残念お姉さんが尋ねると、師匠は首を縦に振る。

「光十字教には最強を冠する7人の剣士がいるんです。10年前、白秋連邦と小競り合いがあり、たった7人の剣士が白秋連邦の軍を追い返し、ティグリスに手傷を負わせ、撤退させたのは有名ですから。その剣士の1人を、一人の人間によって退けられるなど大ニュースですよ」

 師匠は簡潔に説明してくれる。なるほど、そんな連中の一人だったのか。

 妙に強者面をしていると思ったら。

 まあ、ヒヨコからしたら小物ですな。


「ピヨヨ~?【ティグリスって確か西の幻獣エレメンタルタイガーだったか?ヒヨコに匹敵すると聞いていたが、あんなのが7人いたところで物の数にもならんだろう。よく手傷を負わされたな。傷を負う方が大変だろう?】」

『シロに似た感じの大きな雌虎さんなのだ。ピヨちゃんは回避特化だから「手傷を負う=致命傷」だから回避できなかったら鶏肉にされちゃうのだ。大きいティグリスお姉さんは相性が悪かったと推測できるのだ』

「ピヨピヨ【そうか、相性が悪かったか】」

 納得納得。ヒヨコは大いに首を縦に振って理解を示す。

 ヒヨコ達のレベルになると相性というものが出てくる。そうでなければ大体無双するが、やはり苦手な相手がいるのだ。

 10年前の戦争でもヒヨコ達真の勇者よりも恐らくは共に戦った腹黒公爵さんたちの方がうまく戦えるだろう。腹黒公爵さん達はヒヨコや後輩君よりも経験豊富で、ヒヨコ達にとっては最も戦いたくないメンバーだった。

 だが、悪神は物理無効、即死攻撃という能力があるために腹黒公爵さんたちは悪神に対して手も足も出なかった。

 ところがぎっちょんヒヨコ達真の勇者は即死無効という能力を極めている。ヒヨコたちの一方的な攻撃に悪神が逃げたほどだ。

 このようにじゃんけんの三つ巴な関係があるように、相性というのは大事なのだ。


「ピヨヨ~【それじゃあ、暫くヒヨコはお外に出るときは人間になれないのか。肉を食う時は歯がないとうまみが半減するというのに。ヒヨコの自由はこの国にしかないらしい】」

 ションボリとするヒヨコ。


「まあ、そろそろローゼンハイム殿も寮生活から解放されるだろう。この国でゆるりとするが良い」

「ピヨピヨ【この国は山賊も少ないし割と安全だからなぁ。ヒヨコ的には荒れた場所の方が暴れやすくて嬉しいのだが】」

「友好を築く予定の国の公爵令息の留学先が荒れていたら問題だろう」

「そうだよ、安全が一番だよ」

「むしろここまでの旅路でどれだけ襲われたと思ってるの。ルモエに至るまで1日1悪というレベルで山賊に襲われてたじゃないの!」

 三つ編みお姉さんと残念お姉さんが訴える。

 そんな山賊に襲われていると思わせないほど、ヒヨコは現れて10秒で20人だろうが50人だろうが山賊を蹴散らしてただただ前へと進んでいたのに不服があるのだろうか?

 悪・即・ピヨの名のもとに葬るのだ。いや、殺してはいないが。


「この世界を見て、自分たちが生きていた日本がどれだけ優れていたのか思い知らされた程よ。山賊なんて人生でこの世界に来て初めて見たわよ」

「ピヨヨッ?【そうなのか?帝国では山賊を装った同行者に危害を加えるただの賊だったからなぁ。そういえばヒヨコも帝国の外に出るまで山賊に会った事が無いぞ!何度も山賊にあったと思っていたが、よく考えたらあれは帝国皇帝だった!】」

『あれは確かに山賊っぽい感じなのだ。むしろ山賊より山賊らしかったと思うのだ』

 うんうんと頷くグラキエス君に青竜女王さんはぺちりと息子の頭を叩く。


『人様を悪く言うのはやめなさい』

『ごめんなさいなのだ』

 自分の頭をなでながら失敗失敗とぼやくグラキエス君だった。久々に念話でしゃべった青竜女王さんの言葉は息子への教育だった。


「というと、実際に証拠もあり、異世界人がたくさんやってきているという事ですか。それにしても異世界人がたくさんやってきて、光の精霊が彼らに大量の加護を与えて軍隊を形成し、今度は勝てると意気込んでいるという事かでしょうか?」

『しばらくは北の僻地に引っ込んでいた方が良いでしょうか?』

 青竜女王さんは心配そうな顔で師匠を見る。

「別に気にすることはありません。ちょっとイレギュラーな戦力が増えたのなら、イレギュラーな私が前線に出ればいい事です。竜王陛下に不便はさせませんよ

「ピヨピヨ【おお、師匠が出るならヒヨコも出るぞ?弟子として働くぞ】」

『僕もやってやるのだ。母ちゃんを害するような悪い奴は僕がやっつけるのだ』

 ピヨピヨきゅいきゅいとヒヨコとグラキエスは暴れる気満々だった。

『戦争に善悪などないのです。ただ争い傷つけあうことは悲しい事なのです。恨み辛みは残るものです。あまりグラキエスには戦争に参加してもらいたくはないのですが』

『母ちゃんの気持ちもわかるが、僕ももう成竜なのだ。第二期ピヨドラバスターズ結成なのだ!』

「ピヨヨ、ピヨピヨピヨ~【我ら、ピヨドラバスターズ!ピヨヨヨーン!】」

 ヒヨコは荒ぶるヒヨコのポーズを取り、ヒヨコの背に乗ったグラキエス君は両手で牙を剥いたドラゴンのようなポーズをとる。


「いや、私としてはお呼びでないのですが」

「ピヨヨ~【そんな~】」

『そんな~』

 師匠に却下されてヒヨコとグラキエス君は声をそろえて肩を落とす。


「あ、あの、さ、さすがにそれはないと思いたいのですが…。私の学校の人達って戦争経験なんて全くないし…。私達は戦争を一切知らない世代ですから」

「戦えって言われて武器を渡されても人なんて切れないわよ。剣道部だった私だって剣を渡されていきなり人を斬れと言われても無理だもの」

 二人のお姉さんは挙手しておずおずと口にする。

「突然、大きな力を与えられて暴走する事はよくある事ですからね。私も子供のころは暴走しましたから。調子に乗って竜王陛下に挑み、それはもう酷い目に遭いました。身の程知らずという奴です」

 ハハハハハと笑うのは師匠であった。その話なら前にも聞いたぞ?


 自分の暮らす領地が貧しいのはこの国の王が悪いからだ。俺は強いから王を倒して国をただす、と何も知らぬままワッカナイへ単身で青竜女王さんに挑み、鼻息で吹き飛ばされて目を回したという恥ずかしい黒歴史の事だろう。

 事実は領主が私腹を肥やして税を領民から巻き上げていたからであり、この事から領主の不正が発覚し当時の国主が領主を捕縛したのは割と有名な逸話だったりする。

 情け深い竜王様と正義感あふれる若き日の大公様という事で。割と人気の絵本である。


「ピヨピヨ!【だが、ヒヨコ的には青竜女王さんに歯向かうなど許すまじ。悪・即・ピヨ。それがピヨドラバスターズがただ一つ共有した真の正義だ】」

『共有した覚えもなければ、僕はピヨピヨできないのだ』

 グラキエス君、そこは無言でうなずいてくれるところだぞ?

『無茶してはいけませんよ。悪いことも。グラキエス。貴方は私の唯一なのだから』

 青竜女王さんは優しくグラキエス君の頭をなでる。

『わかったのだ。ピヨちゃんと一緒に大陸の平和を守るのだ』


「いやグラキエス殿。そこまで壮大なことは考えておりませんから」

 師匠がきっぱりとグラキエス君の大陸の平和を守ることに対して否定する。

 そりゃそうだ。

 ヒヨコの師匠であるアレン・ヴィンセントさんはこの国の大公、青竜女王さんに次ぐ地位の人なのだから。

 ションボリするグラキエス君にヒヨコはどんまいと肩を手羽先でたたくのだった。

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