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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第2部1章 ヒヨコ・ミーツ・ガールズ in 大北海大陸
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1章10話 ヒヨコの喪失

 こんにちは。ヒヨコです。

 本日はウトマン伯爵領とかいう場所にやってきています。

 もちろん、今は人間の姿でいますよ?だってヒヨコだとこの大陸では魔物扱いですから。まったく酷い話だ、プンプン。


 ヒヨコたちが街に入ると、町の中央の広場には豚のような銅像が置いてある。

 この大陸は牧畜が盛んではないので、なぜこんなところに豚が!?と驚いたが、よくよく見ると豚ではないようだ。

 あの残念お姉さんを手に入れようとしていた人間の銅像のようだ。つまり、ここの領主は自分自身の銅像を町の中央に置いているらしい。

 よくもまあ、領主もこんな銅像を建てたものだとびっくりしたものだ。


 趣味が悪いとしか言えない。しかもこの銅像を守るために見張りまで立てている。憩いの場である広場が殺伐としていて人が寄ってこない。

 この大陸は酷い国、酷い都市が多いが、この都市はまさにそれを象徴するかのような姿をしていた。


 ヒヨコ的には邪神像よりもキモく見える。

 何という都市に来てしまったのだろう。とはいえ残念ながら、もう夕方なので宿をとってこの町に泊まろうと思う。オタルで旅の準備を長くし過ぎたというのが大きいだろう。

 二人の女子を載せて快適に過ごすには馬車の改造も必要だったし、衣服の購入などいろいろと入りものだった。ヒヨコ一羽だけなら着の身着のままで移動するのはちょろいのだが。


 それに、ヒヨコは夜中を走って隣町に行っても一向にかまわないが、同行者は厳しそうだ。


 残念お姉さんと三つ編みお姉さんの3人で宿へと向かう。

「そういえば、いつの間にか馬車がなくなっているんだけど、あれはどうしたの?」

「それはヒヨコが時空魔法LV2<異空間収納(アイテムボックス)>に入れただけだな」

「ファンタジーな」

 残念お姉さんはさも残念そうに言うが、ヒヨコは決してファンタジーな存在ではない。

「割と多くの人が使えたぞ?」

「そうなの?」

「ヒヨコの知る限りステちゃん、腹黒公爵さん、マスター、エルフ族の大半、………………………そう、たくさんだ」

 おや?思い出してみたが意外と少ないな。もしかして割と高度なテクニック?

 弱者であるステちゃんが使っていたから簡単だと思っていたが………そういえばステちゃんがなんか自分向きだとか何とか言っていたような………。

 一般人が時空魔法LV2<異空間収納(アイテムボックス)>を使えるケースってかなりレアなのか?


「エルフ以外使える人がほとんどいないって話じゃなくて?」

「ヒ、ヒヨコは難しいことはわからないのだ。ピヨピヨ」

 残念お姉さんのジト目を避けるようにスイッと視線を外す。

「その姿でピヨピヨいうのは無理があるけどね」

 恐るべきは残念お姉さん。ヒヨコにグサリととどめを刺しに来る。


 ヒヨコたちは宿屋で3人部屋がなかったので4人部屋を取って泊まることにする。

「ヒヨコは冒険者ギルドに行ってきて明日の朝に狩る魔物をチェックしてくるから部屋で食事したら部屋で大人しくしておくようにね」

 ヒヨコは部屋に2人を通すと回れ右をする。

「まあ、ちょっと街に出るのは怖いから大人しくはしておくわよ」

「そうだね。ピヨちゃんと一緒ならともかく、夜の出歩きは怖いし」

 二人もこの大陸の過ごし方がわかってきたようで何よりだ。


 実は、オタルに数日滞在してヒヨコが移動の準備のための買い出しをしている間、勝手に宿から出ていって街を見ていたら怪しげな男たちに路地裏に連れ込まれそうになっていた。

 丁度、馬車を買って帰ろうとしたときに慌ててヒヨコが間に入ったのだ。なんとも危なっかしい所だ。

 ヒヨコになってから人間の美醜が疎くなってきているが、残念お姉さんはこっちの世界ではかなりの美人さんの部類に入るらしい。


 彼女たちは『発展途上国の危険地域みたいだ』とぼやいていた。大都市オタルの商店街だというのに夜には危険なことが横行している辺り、帝国とは大違いなのだ。

 帝国の大都市は大通りなら女の子が夜を一人で歩いていても安全なのだがなぁ。無論、推奨はしていないが夜の祭りなら女の子一人で歩いていることはままある。

 むしろ帝国が異常なのかもしれない。


「ピヨちゃん、狩りに行くの?そういえばいつも朝も起きたらいなかったけど…」

「ヒヨコの昔からの習慣で、冒険者ギルドで近隣に住んでいる魔物をチェックし、素材を売ったり肉を食ったり売ったりして食料にしたりお金を稼いでいるんだ」

 帝国でも人権を持ってからも継続してやっていたことだ。エルフの森にいた頃は冒険者ギルドもないので自主的に狩りに出ていた。

 この大陸では稼ぎ口が少ないので割とそっちで稼いでいる。冒険者ギルドより直接肉屋に持っていったり、素材屋というこの大陸によくある魔物素材を扱う店に直接持って行っている。冒険者ギルドに持っていくと面倒だからだ。

 この大陸、頭が悪い人が多いので割と計算をごまかす人が多い。

 特に冒険者ギルドは顕著だ。冒険者(バカ)は騙しやすいのだろう。見た目が10歳くらいの子供だから、尚更に数字をごまかす傾向が強く、いちいち突っ込むのも面倒なので商人の店に行くことが多いのだ。商人は子供でも勉強している人が多いので、ごまかそうとする人は少ない。


「だから金持ちなの?」

「いや、それはそれで別の話だな。ヒヨコはここに来るにあたり貴族並みの給与をもらっているし、帝国にある預金通帳にもたくさんお金があるからな」


 さらに言えば、帝国が法改正をして以来、ヒヨコの財産は今現在でも帝都でガンガン増加中なのである。帝国にはヒヨコの財産が1億あるというのはこの地に来る約三年前の事だ。

 管理は腹黒公爵さんにお任せ状態なので、銀行の貯金残高が今はどこまで伸びているかは帝国に戻らないとわからないけど。

 まさかヒヨコ屋敷が天災で潰れて立て直すために貯金残高が0になったなんて事はないだろう。


「まあ、そういうわけで出かけるけど、先に寝てて良いよ。場合によってはさっさと狩ってから戻るから」

「わかった」

「気を付けてね?」

 三つ編みお姉さんはヒヨコを心配してくれるのでドンと胸をたたいて自信満々の姿を見せるのだった。




 そんなこんなで、ヒヨコは冒険者ギルドへとやってきていた。もう飲み会をやっているようで大人たちは大いに盛り上がっている様子だった。

 魔物討伐依頼の場所を見ながら考える。


『海沿いにサハギンの20匹ほどの群れが住み着いた。邪魔なので討伐依頼。1000クロス。依頼:遂行中2パーティ』

 この大陸はサハギンを魔物扱いしていたのか。コロニア大陸では400年前の鬼神王騒動以来、割と人類の枠が広いからなぁ。ちなみに最後の依頼:遂行中2パーティというのは手書きで、依頼を受けた人は遂行している旨を示している。1000クロスというのはもちろん褒章額だ。

 それにしても、こっちはまさかサハギンが魔物扱いとは。この依頼はパスで。


『北西部にダークグリズリーを発見。だれかやっつけて。800クロス。依頼中:』

 ……というか安いんだよなぁ。こっちの依頼って。そりゃこの大陸は50クロスで1食が食えてしまうから。まあ、討伐して肉も自分のものになるからいいんだけどさ。ほかに依頼がいないようだ。

 まあ、ダークグリズリーは強いから、討伐者がつかなくて困っている感じである。

 とはいえ、人間だとダークグリズリーは野性味が強すぎて、臭くておいしくないからパスで。


『南部に小さいダンジョンを発見。ゾンビが住み着いているみたいなので退治して。2万クロス。5パーティ依頼中』

 この大陸なら半年近くは生きていけそうな額だが、既に5パーティもダンジョン攻略に乗り出しているんじゃ邪魔以外の何物でもない。そもそもヒヨコの目的は狩りだ。ゾンビは食えたものではないのでご遠慮願いたいのでパスで。人によるとその腐りかけの味がうまいのだという人がいるけど。


『ジャイアントスパロウ1匹、ブラッドリークロウ2匹の魔物の群れが人里付近で発見。邪魔なので討伐して。500クロス。3パーティ依頼中』

 ブラッドリークロウはともかくジャイアントスパロウは美味しいからなぁ。とはいえ既に3パーティも動いているんじゃ手遅れかもしれない。

 どうしようかな~。


 ………ん?

 んんんんん?


 聞いたようなパーティメンバーである。

 基本的にジャイアントスパロウはブラッドリークロウに狩られる側でもある。それが一緒にいるというのはかなり稀だ。

 まさか、チュン助達か?


 まずい!これでは人間たちに狩られてしまう。

 だから言ったんだ。あの子たちはまだ弱い。故にこそ人間に敵対する行動はするなと。

 元々、狩りに出かけていたヒヨコが人間に追われていたあの子達をたまたま保護したんだ。

 本来であればヒヨコの狩りの対象でもあるが、人間たちがヒヨコまで狩ろうとしたので返り討ちにしたのである。

 そしたら正義の味方なのかと勘違いして、当時ピヨピヨ言っていたチュン助がヒヨコになついてしまったのだ。しかも念話の吸収速度が速く、ヒヨコの子分を自称するようになってしまった。雑に扱えないで困っている内に、ミルマスやドスまでもが仲間になり、なついた子供を今更食料として狩ることもできず、面倒を見ていたのだ。割とつい最近の出来事だ。

 ヒヨコが人間と仲良くやっているのを見て、チュン助達も最初は我慢していたが、チュン助達よりも人間を優先していた事に我慢の限界がきて離反したのだった。


 ヒヨコ的にはどうでも良いとは思いつつも、あの子たちはまだ子供だしやっていることも悪ガキの悪戯程度の事だった。それでも、すごく悪いことをしているとびくびくしてしまう程度に子供だった。頭の中は5歳くらいのとても幼稚な子供だ。

 あの子達なら帝国で人間と仲良くやれるんじゃないかと思っていたのだが………。

 それでも人間への恨みは殊の外大きかった。


 もしもあの子たちが冒険者たちに追われていたら大変なことになる。ヒヨコはさっさと保護しようと心に決めて、魔物の生息場所をチェックしてから、外へと出ていくのだった。


 町を出るとヒヨコに戻って慌てて走ってチュン助が生息していると思しき場所へと走り出す。




***




 一方、チュン助達は人間の冒険者たちに追い立てられていた。

「追えーっ!囲んで逃がすな!」

「弓矢!放て!」

 冒険者たちは三匹の魔物に対して3人のパーティが3つ、徒党を組んで逃がさないよう取り囲むように迫っていた。

 必死に逃げるチュン助達だが、人間たちの連携により逃げ道が見当たらない。

「カアカア【あっちの森の方に強行突破しよう】」

「カアカア【駄目だよ。あっちにも人間の気配が】」

「チュンチュン【森に入っちゃえば目をくらませられるはずだ!】」

 チュン助は翼を広げてパタパタと飛び、森の方へと逃げ、ドスとミルマスもそれに続く。


 だが空を飛んで人間の頭上を逃げようとすると、斬撃が飛んで来る。

 クァと悲鳴を上げてドスが地面へと落ちていく。ドスの翼が切り裂かれ飛ぶのが困難となってしまったのだ。それでも必死に翼を広げて森の奥へと頭から落ちていく。

「よっしゃ!俺の攻撃だぜ!」

「すげぇ!何者だ、お前」

「へっ名乗るほどのものじゃねえよ。残りの二匹もさっさと狩るぞ」

 そういって得意そうに口にしつつも、冒険者たちはぞろぞろと追い立てる。


 ミルマスとチュン助も慌ててドスの方へと森の中へと降り立つ。

「チュンッ!【ドス!】」

「カァカァ……【チュン助の兄貴、申し訳ねぇ】」

 ぐったりした様子のドスは致命的な傷を負ってしまい、自分の死期を悟る。

 大量に流れる己の血がそれを物語っていた。


 森の外から6人の走ってくる足音が、森の中から3人の足音が聞こえてくる。

「チュンチュン【謝るな。俺たちは兄弟じゃねえか。くそっ、どうすれば】」

「カアカア【チュン助の兄貴、僕は気弱だけどドスのお兄ちゃんだ。ここは僕が残るから逃げてくれ】」

「チュンチュンッ!チュンチュン【逃げて何になる?お前たちを見捨ててそんなことできるわけないだろ!】」

「カァ【ピヨの兄貴なら…】」

 最も拒んでいたドスが、倒れたまま弱弱しい念話でつぶやく。

「!?」

「カァカァ【ピヨの兄貴はすごい力がある。でも人間たちにはも負けない。きっと…………。俺たちは間違ってたんだ。ピヨの兄貴はそれでも人間にかなわないことを知ってたんだ。だから……】」

 ドスは後悔を口にしながらも、静かに目を閉じる。


「チューンッ【ドスーッ】』

 チュン助は涙を流して友の死を見送るしかできなかった。

「クァアアアアアアアアアアッ!」

 最も温厚なミルマスは怒り狂い、人間の方へと飛んでいく。戦いに行ったのだ。

「チュンチュン【駄目だ!ミルマス!お前まで行ったら…】」

 チュン助は引き止めるがミルマスは森の外へと向かい見えなくなる。

 足元には死に絶えたドス。


 チュン助に悔恨の念が去来する。

 自分は間違っていたのか?

 だが、ピヨの兄貴は裏切っていたじゃないか!


 チュン助は世の不条理にうなだれる。自分たちは親兄弟を殺されて生き残った。人間たちには何もしていない。畑の木の実を過去に10個くらい頂いただけだ。

 これが自分たちに与える仕打ちなのか?

 あまりに理不尽じゃないか。


 松明を持った人間の追手がこちらの方へと走ってくる。

「チュンチュン【すまん、ドス!ミルマス!】」

 チュン助は涙を流しながら必死に逃亡する。


 助走をつけてから翼を広げてはばたく。森の木々の中に隠れようと飛び立ったのだった。

 だが光の壁が自分の飛ぶ方向を遮り、バチッとぶつかって地面に落ちてしまう。

「チュンッ!?」

 驚いた矢先に、続けてチュン助に鋭い痛みが肩に走り力が入らなくなる。

 肩に切り傷がつけられていた。斬撃が飛んできたのか!?

 空を飛ぼうとするが地面に落ちてしまい転がる。


 チュン助は目の前が暗くなっていくのに気づく。

「よっしゃ!俺があっさり全部殺してやるから、あんたらは囲んで逃げないようにしてくれ」

「しゃあねえな、くそ」

「分け前は山分けだからな」

「ああ、構わねえよ」


 人間たちの足音が近づいてくるのが聞こえる。

 ああ、俺もすぐに行くぞ。ミルマス。ドス………。




***




 ヒヨコは走っていた。森の方に松明の明かりが見える。ミルマスとドスの魔力が消えてしまった。チュン助の魔力も消えようとしている。

 急がないと!


 ヒヨコは桃色の羽毛を風に靡かせ、3羽の魔力のあった方向へと走る。

 そこには冒険者の男がミルマスの死体が袈裟切りで殺されていた。


「ピヨヨーッ!」

 ミルマス!なんてことを。

 あの子はチュン助達に流されただけでとても弱い子なのに。


「なんだ?」

「新手の鳥だ!?」

 冒険者たちはヒヨコの存在に気づき慌てて戦闘態勢をとる。

「ピヨッ!」

 秘技・ヒヨコ乱舞!


 通りすがりに3人の冒険者に1撃を入れて昏倒させる。


 すると森に入ったばかりの場所にドスが倒れていた。

「ピヨッ【ドス!】」

 もはやこと切れた死体だった。無残なもので、こちらも斬撃が肩口から入って翼から急所に向けて見事に切り裂かれていた。

 ヒヨコはドスを見てから、魔力感知を行うと、まだ辛うじて生きているチュン助のもとへと向かう。僅かな魔力が急速に小さくなっていっていた。

 森の中に入り、奥を見るとチュン助が人間の男の槍によって貫かれていた。


「ピヨヨーッ【やめろー!】」

 ヒヨコは<火の吐息(ファイアブレス)>をチュン助を切った男へと撃ち込むと、男は慌てて避ける。


 ピヨピヨとヒヨコは駆け寄ると血まみれになったチュン助がいた。

 HPを確認するがチュン助にはすでにHP欄が存在しなかった。

 それでもヒヨコは回復魔法をかけるのだが、一切反応はしなかった。


 息も絶え絶えのチュン助は最後に振り絞るように伝えてくる。

「チュンチュン【ああ……兄貴。ごめんよぉ、兄貴。俺が…間違っていたよ】」

 チュン助は大きな雀が今際の際に弱弱しく呟き、そのまま目を瞑る。

 ヒヨコは倒れているチュン助を抱き起すが、もはや手遅れだった。それはヒヨコの大魔法をもってしても無理だろう。既に 神眼でもジャイアントスパロウの死体としか見えなくなっていた。

 魔力はすでに底付きその体に合った魔力はなくなっていた。

「ピヨヨーッ【チュン助―っ!】」

 ヒヨコの翼の中ピヨピヨ団の一員だったチュン助が永遠の眠りにつき、ヒヨコの慟哭が天を衝くのだった。この日、ピヨピヨ団は滅んだのだった。


 哀れなチュン助。

 ヒヨコはチュン助達の気持ちもよくわかるが、この大陸ではただの魔物でしかないのだ。帝国に連れ帰り、従魔士の下にいればチュン助達もある程度自由を与えられる筈だった。

 ヒヨコは帝国に帰る時に、ピヨピヨ団の3羽達も連れ帰るつもりだったのだ。

 皆が楽しく暮らせる世界を見せてやろうと思っていたのに。


 人間の冒険者たちはヒヨコを見て警戒する。

 ヒヨコはチュン助を翼で抱きかかえて持ち上げる。


「ピヨッ」

 退け、人間ども。ヒヨコは弟分たちを弔わなければならない。お前たちごとき小童の相手をしている時間などないのだ。

 だが、ヒヨコの声は届かない。心が掻き乱れて念話にならなかったからだ。

 3人の人間たちは武器を持ちヒヨコを今にも襲わんとする。どこかで見たこともある男や女の魔法使いなどもいるが、そんなものは関係ない。


 ヒヨコはそこで炎を吐き、辺り一面が炎に包まれる。山火事上等だ!


「な、なんだ、この赤い大きなヒヨコは!?」

「炎を吐いたぞ!?」

「まさか、ファイアバードですか!?こんな場所では見たこともないのに」

「このままじゃ俺たちまで巻き込まれる!」

「逃げろ!」

 慌てて逃げ出す男たちに見たことのある顔の男は慌てて他の冒険者を連れて背中を向けて去っていく。

「でも討伐の証拠は!?」

 と困ったように呻く者もいるが

「命あっての物種だ!」

 冒険者たちは慌てて逃げる。森が全焼するくらい燃え盛っており、このままだと全員延焼するが目に見えていた。

 結局、冒険者たちはあっさりと去っていったのだった。


 無論、今からブレスを打てば彼らを皆殺しにすることは簡単だ。ヒヨコのブレスならば奴らどころか、街を滅ぼすことも可能なのだ。そういう能力がある。

 だが、それはやってはいけない。これはヒヨコだけが腹立っているだけで、チュン助たちはあくまでも人間の法に合わせれば討伐対象の魔物だからだ。


 ヒヨコは逃亡する彼らを追わず、倒れているチュン助とドス、ミルマスを回収する。


 ヒヨコ乱舞によって昏倒した冒険者を一緒に連れ帰る必要があるため、全員が無事に帰るためにはミルマスの死体も持って帰れないと判断したようだ。


 ヒヨコはピヨピヨと鳴きながら、チュン助、ドス、ミルマスの遺体を燃え盛る森へと運ぶ。

 <大地制御(アースコントロール)>の魔法で穴をあけて三羽の遺体を置いてから、嘴で土をかけて埋める。


 もう三羽を虐める意地悪な人間はそっちにはいないだろう。安らかに眠ってくれ。


 ヒヨコはピヨピヨと鳴きながら3羽の冥福を祈る。

 決して泣いてはいないぞ?鳴いているのだ。目から汗が流れているのは周りが熱い上に目に煙が入るから仕方ないのだ。山火事中だからな。弔っているのを邪魔されたくはないのだ。


 それだけだぞ?



 でも、悲しいのは確かだ。面倒を見るなら最後まで面倒を見るべきだったのだ。

 チュン助、ミルマス、ドス、すまぬ。ヒヨコはダメな兄貴分だった。拾った子供たちを二度と見捨てたりはしないとヒヨコは心に誓うのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 元の知り合いが出て来てコメディとか回想とかになるのかと思ってたら。 ピヨちゃん、人の縁の薄い子なのかな。悲しみがずっと付き纏う。
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